城、と言うのは当然ながらデカい。特に子どもからしてみれば異様にデカい。
つまりですね、あれだけ意気揚々と出ておきながら迷子になりました。そもそも、統合された記憶の中に城の内部構造なんてなかったんだから当然と言えば当然なのだが。
そんなこんなでお母さんに手を引かれて歩くこと数分。いくつか角を曲がり、階段を上って黒服を着た数人のウマ娘が護る扉の前に出た。
「お疲れ様。陛下たちはまだ中に?」
「隊長、お疲れ様です。はい、今は殿下に読み聞かせをしていますよ」
「あら、じゃあ終わるまで少し待ちましょうか」
「陛下は入ってきて構わないと」
にこやかに会話を始めるお母さんと赤髪のウマ娘をよそに、俺は自分の家系を考えていた。残念ながら五歳の幼女に、そんな小難しい話は記憶されていない。あるのは今が二千年代であることに、お母さんすげーという憧れ。そして良いとこの生まれなんだろうなと言う漠然とした認識。後は、走りたいという強くどこまでも鮮明な願い。他は遊びの事ばかりで特にない。
まぁ、王族と簡単に会える程なのだから大貴族であることは間違いない。はず。ただ、現代でも王族というものが残っている国を二つしか知らない。
「テスコ? テスコどうしたの?」
「隊長のご息女とはいえ、相手が相手ですからね緊張しているんじゃないですか?」
「あ、ううんちょっと考え事をしていたの」
脳みその中をひっくり返しているうちに話は終わったらしく、二人から心配されてしまった。
「そうなのね。また体調が悪くなったのかと思ったけど、そうじゃないのなら安心したわ」
「もう、お母さんたら心配性なんだから。大丈夫よ本当に」
さて、考えたいことは山ほどあるが、今は殿下との顔合わせが先。正直家系とか歴史的なことは考えても出てくるとは思えないしな。一段落したら調べるとしよう。
「ん、クルガーそこに居るのか?」
扉の奥から、男の声がする。叫んだわけでも、怒鳴ったわけでもないのに確かに届く声。
「はっ、ライゼンクルガー及び、ライゼンテスコ罷り越してございます」
先程までのほんわかとした空気が一瞬で消える。一緒にいたはずの母は居なくなり、そこに跪くのは私が憧れた騎士そのものだった。
「罷り越してって……相変わらずだなお前は……」
「さて、何の事でしょう」
「……はぁ、早く入ってこい。娘が待ちきれなくて今にも飛び出しそうなんだ」
「では、失礼いたします。おいで、テスコ」
お母さん陛下と妙に親しくない? とかお母さんしゅき!! とか色々感情と疑問が渋滞しているが、そんなことより、通された部屋のソファに腰を掛ける陛下の容姿に開いた口が塞がらない。よぼよぼのおじいちゃんを勝手に想像していたが、実物は二十後半ぐらいで輝くようなブロンドの髪に、鮮やかなグリーンアイを持つ超美形。
そしてその膝の上には、同い年ぐらいに見える茶髪のウマ娘ちゃんがちょこんと座っていた。
「久しいな。体調が優れないと聞いていたが、もう大丈夫なのか」
「あ、えっとお久しぶり……です? はい、大丈夫、です」
お母さんを一瞥し何かを言いたげにしていたが、深いため息をつくだけにとどめた陛下が話しかけてくる。
久しいなとか言われても記憶にないんだが?本当に会ったことあんのか?
「赤ん坊の頃に何度か見に来ただけだから、覚えてなくても大丈夫よ」
さすがお母さん。すぐに気が付いてフォローしてくれたけど、それ大丈夫? 不敬罪とかにならない?
「それもそうか。では改めて名乗るとしようか。私はアイルランド現国王、エドワードだ」
首が物理的に飛ぶんじゃないかと冷や冷やしたが、特に気にした様子もなく自己紹介してくれる辺り、器が大きいらしい。
というか今アイルランドって言ったよな? つまり、膝の上に座っているウマ娘ちゃんは、そういうことですか? そういうことですね。確かに面影がありますねはい。
「そして誠に遺憾ながら君の母親であるライゼンクルガーとは、従弟だ」
「えっ?」
さらなる爆弾投下に、さすがの俺も声が出てしまった。えっ、えっ、つまり俺も一応王家の血が流れてる……ってコト!?
「ん? なんだ話してなかったのか」
「ええ、まぁ。ライゼンの一族には不要な話ですから」
ちょっと待って。もう俺の脳みそはキャパオーバーよ!
「ねぇねぇ、おとうさま、まだぁ?」
俺の精神状態なんて知る由もない殿下が、待ちきれなくなったのか喋りだす。
「ああ、そうだな。テスコ、紹介しよう。今日から君の主となる我が愛娘。ファインモーションだ」
「ごきげんよう。キミがライゼンテスコね!ずっと会ってみたかったの。これからよろしくね私の騎士さん」
色々起きすぎて、一人で大変なことになっていたけれど。膝から飛び降りて俺の手を取り見せてくれた