理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百十三話 青い海

 ここ、成田空港にて、一人の少女が降り立った。

魔法使いのようなローブにとんがり帽子、赤いツーサイドアップの髪の少女。それはアーニャだった。

 

 

「あいつ、来る来るって全然来ないんだから」

 

 

 アーニャは成田空港から外に出るや、日本晴れの空を見てそう独り言をもらす。

 

 ”あいつ”とはネギのことである。

ネギは夏休み前に故郷に手紙を送り、夏休みには帰ると報告していた。

その手紙を見ていたアーニャは、今か今かとネギの帰りを待っていたのだ。

 

 しかし、一向に戻ってこないネギに痺れを切らせたアーニャは、自分から日本へ乗り込んできたのである。

ただ、まさかアーニャが日本へ来るなど、ネギは予想してなかったのだった……。

 

 

…… …… ……

 

 

 サマーシーズン到来!

 

 空からは燦々と降り注ぐ太陽の光が地上を照らし、それが熱気となって夏らしい暑を生み出していた。

さらに、青く澄み渡った空の遠くには入道雲が見え、真夏の空とわからせるには十分な光景だった。

 

 そんな晴れ晴れとした空の下、ある集団が浜辺へと急いでいた。

その集団はネギやアスナたちである。

 

 アスナたちは夏ということで、ここ、日ノ島と呼ばれるところへと海水浴にやってきていたのだ。

 

 

「みなさーん! 早く早く! もうすぐ海ですよ!!」

 

「随分はしゃいでるわね」

 

「あのネギ君が随分とまあ……。いや、あの年なんだからあのぐらいが普通なんだけどね」

 

 

 ネギは珍しい海を目の前にし、子供のようにとてもワクワクしながらはしゃいでいた。

そんなネギの姿を見て、笑みの表情で元気だなーと思うアスナ。

その横で、子供らしからぬネギの年相応な姿に、少し驚くハルナがいた。

 

 

「ネギはガキだからな。まったくしょうがないやつだ」

 

「カギ先生も違うベクトルで子供だと思いますが……」

 

「え? そう見える? 嘘だろ?」

 

「いえ、本当です」

 

 

 いやあ、この前もそうだったが、ネギは所詮子供よなあ。

そう考えて仕方がないやつと言葉にするのは、その兄カギ。

 

 しかし、そんなカギも所詮子供だ。

そう言うのはカギの友人であり魔法使いの従者である夕映だ。

夕映はカギのことを、ネギとは違うが子供っぽいヤツだと思っていたのである。

 

 それを聞いたカギは、何を言っているんだという顔で、そんなはずはないと言葉にした。

そんなカギに普段どおりの態度で、子供だと告げる夕映だった。

 

 

「しっかし、これ結構いいじゃん」

 

「エヴァンジェリンさんから貰った”白き翼”の証ですか」

 

「白き翼だから白い羽のアクセサリーなんて、味な感じだね!」

 

「私も可愛いと思うな」

 

 

 夕映の言葉に頭を抱えもだえるカギを他所に、ハルナは夕映の横へ来て、白く輝く小さなアクセサリーを手にとって眺めていた。

それはエヴァンジェリン手製のバッジ型のアクセサリーで、白き翼のメンバーに配ったものだ。

 

 白き翼の名を象った感じのアクセサリーに、ハルナは匠の技だと褒め称えていた。

のどかもそっと同じものを取り出し、そのアクセサリーを可愛いと評価したのだ。

 

 

「見た目こそただのアクセサリーですが、説明によると色んな機能がついているそうです」

 

「へえー、こんなちっさいのにすごいんだねー」

 

「そのあたりはエヴァンジェリンさんに尋ねた方が早いかと」

 

 

 

 だが、このアクセサリーはただ単に、白き翼のメンバーに配った訳ではない。

この白く小さな羽根の形をしたアクセサリーには、見た目以上に色々な機能が搭載されている。

 

 夕映はエヴァンジェリンから少しそれを聞いたので、そのことを二人へ話した。

 

 ハルナはこの小さなアクセサリーに、そんなものがあるとはと、さらに関心を深めた。

ただ、夕映も深くその機能について追求した訳ではないので、それを知りたければエヴァンジェリンに聞いたほうが早いと言葉にしていた。

 

 

「みなさーん! 遅いですよー!」

 

 

 そんな風にのんびりとしていたところに、ネギから足を速めて欲しいという言葉が飛び出した。

あのネギからは想像できないような言葉であり、一同は少し微笑んでその様子を眺めていた。

 

 

「まあー、ウチらもはよ行こーか」

 

「そうですね」

 

「それがいいだろう」

 

 

 まあ、ネギがそう言っているのだから急ぐとしようか。

木乃香はそう言葉にし、みんなに急ごうと催促した。刹那も木乃香の言葉に同意し、焔も同じだと頷いていた。

 

 こうして一同は海岸へと向け、その足を急がせたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 見渡す限りの海、青空、白い砂浜。そして、人、人、人。

海水浴シーズンとあって、なかなか人が多く集まっていた。

 

 そんなところへやってきた一同は、支度をして元気よく太陽の光で熱された砂浜へと飛び込んだのである。

 

 

「そういえば、ネギ坊主は日本の海は始めてでござったな?」

 

「はい。それに故郷も山の中だったので……、海自体もこの前いいんちょうさんに誘われた時とで二回目ですね」

 

 

 とても中学生とは思えぬスタイルを持つ楓は、なかなかセクシーな水着姿を太陽の下に晒していた。

そんな楓が、隣にいたハーフパンツ姿のネギへとひとつ質問した。

それはネギが日本の海に来たことがなかっただろうか、ということだ。

 

 ネギは、そんな刺激的な見た目の楓に何も思わないのか、平然とした様子でその問いに答えていた。

 

 ネギが元々住んでいた場所は山の中であり、海そのものに触れたことがなかった。

だから、ネギはそれを楓に話したのである。

 

 

「ああ、山にゃ湖しかなかったかんな。いやー、なかなか本当に久々だぜ! この日本の海の感覚はよ!!」

 

「ネギ先生は初めてなのに、カギ先生は日本の海の経験があるんですか?」

 

「クックックッ。俺は前世の記憶を持つ男……。前世では海蛇のマサって呼ばれていたぜ!」

 

「はぁ……。そうですか……」

 

 

 そこでネギと同じような水着姿のカギが、ネギの言葉に反応した。

そして、自分の住んでいたところは山しかなく、水がある場所といえば湖ぐらいだったと言葉にしていた。

 

 しかし、カギは転生者ゆえに、前世での記憶を持っていた。

この日本での海に来ること自体この世界では生まれて初めてだが、前世も日本に住む男子だったので、海ぐらい遊びに行ったことぐらいあったのである。

 

 夕映も海ということで、いつもどおりではあるが黒地で胸元にワンポイントがあるワンピース水着の姿を見せていた。

また、そんなことを話すカギに、夕映がそれを不思議に思っていた。

 

 それは、ネギは日本での海が初めてだと語ったというのに、カギは久々だと抜かしたということだ。

日本にはじめて来たはずなのに、そんなことがありうるのか、夕映はそう疑問に思い、それをカギへと聞いたのである。

 

 すると、カギは厨二臭い手のひらを顔の目の前に当てるようなポージングで、前世の記憶を持つ男だと言い出したではないか。

さらに、前世では海蛇だのマサだの呼ばれていたと豪語したのだ。

 

 夕映はまたしてもカギの病気が始まったと思い、そんな言葉など本気にせず、ただただ呆れた顔でカギの話を流すのだった。

 

 

 そして、誰もが海へと駆り出し、楽しんでいた。

アスナも木乃香たちとビーチボールを投げたりして海を満喫していた。

 

 彼女たちもこの前の島と同じスクール水着だったが、木乃香だけは違った。

木乃香は刹那とおそろいに近い、旧型のスクール水着だったのだ。

 

 何せ少しおしゃれな水着を見せる相手である覇王がいないのだ。

別にそのあたりに気を使うことをしなかったのである。

 

 しかし、そんなところに何者かが、アスナへ声をかけてきた。ただ、それはアスナがよく知る女性の声だった。

 

 

「あら、そちらはアスナさんではありません?」

 

「そう言うアンタはいいんちょ? どうしてここに……」

 

 

 なんとそこに居たのは、この前の島で来ていたものと、同じビキニの水着をまとったあやかだった。

アスナはこんなところであやかに出会ったことに驚き、一体何故、と言葉を漏らした。

 

 

「たまたまこちらもこの海で、クラスのみなさんと遊ぶ約束をしてまして……」

 

「ふーん。いいんちょならプライベートビーチとかで遊ぶイメージがあったんだけどね」

 

「私だって、誘われたのなら庶民的な場所でも遊びますわよ?」

 

「そうなんだ……」

 

 

 あやかはアスナとは別で、クラスの友人たちとこの海にやってきたと言う。

本当に単なる偶然であり、ついてきたわけではない。

 

 むしろ、アスナをつける理由がない。

単純にクラスメイトに誘われて、この海へとやって来たに過ぎないのである。

 

 アスナはあやかの説明を聞き、ふーんと口を鳴らしながら周りを見渡せば、確かに顔見知りなクラスメイトが数人ほど居るではないか。

なるほど、彼女たちに誘われてあやかもここへ来たという訳か。

アスナはそう考え、あやかの言葉を素直に信じた。

 

 ただ、そこでアスナはその説明を聞いて、あやかは別荘の島のようなプライベートビーチで遊んでいるイメージしかなかったと話したのだ。

 

 まあ、それは間違ってはいないとあやかは思ったが、友人に誘われたのならこういった場所でも遊ぶと、アスナの言葉を否定した。

アスナはそれを聞き、あ、そうなんだ、と口に出し、知らなかったと思ったのであった。

 

 

 しかし、ああしかし、奇遇にも出会ったのは彼女だけではなかった。

アスナがあやかに気を取られているところに、一人の男性と軽く接触してしまった。

だが、やはりと言うか何と言うか、その人物もアスナがよく知る人物だった。

 

 

「っと、ごめんなさい」

 

「おおう、すまねぇ……。んん?」

 

「あ、状助?」

 

 

 なんと、なんと、アスナがぶつかって謝った相手をよく見れば、見知ったリーゼントがいるではないか。

それこそまさにハーフパンツの海パン姿の状助だった。

なんという偶然だろうか。アスナは気がつけば、そっとその名を言葉にしていた。

 

 それにしてもこの状助、中々の体格だ。

高身長な上、さほど鍛えている様子はないと言うのに、がっちりとした体つきにソコソコの筋肉がついているではないか。

 

 何せジョジョの血統である東方仗助の肉体を、神から与えられているのだから当然といえよう。

ただ、そのせいで髪型がリーゼントへと勝手になってしまう呪いのようなものも存在するのだが。

 

 そんな状助もアスナへ謝罪した後、何でという顔でポカンとしていた。

突然のことだったので、状助は脳の処理が追いついてない様子だったのだ。

 

 

「なっ!? 何でオメーがここに居るんだよ!?」

 

「いや、それはこっちの台詞なんだけど……」

 

「あら、奇遇ですわね」

 

 

 状助はようやく目の前にいるのがアスナだと理解し、突然テンパりだした。

何で、何でお前がこんなところに? 意味がわからん、といった具合に取り乱していたのだ。

 

 そんな取り乱して騒ぐ状助を覚めた目で見ながら、それはこっちの台詞だとアスナは言葉にした。

あやかも状助の姿を見て、なんとも奇遇なと冷静に口に出していた。

 

 

「どういうことだこりゃ!? なんだってんだこりゃ!?」

 

「ちょっと落ち着きなさいよ……」

 

「むしろ、何を慌てているのでしょう……」

 

 

 しかし、状助の慌てようはとどまることを知らず、ずっとさっきから驚いてばかりであった。

 

 確かに驚く事柄だろうが、これほど驚く必要なんてないじゃないか。

アスナはそう思いながら、やはり呆れた顔で落ち着けと状助をなだめていた。

また、あやかはここまで慌てて荒ぶる状助を見て、一体何に対して慌てているのかと疑問を感じていたのだった。

 

 ……この状助、原作知識を持っているはずなのだが、こういう特に何も無いような状況はあまり記憶していない。

 

 と言うのも、何か大きなイベントがなければ、その場面に出会わなければ思い出せないのである。

なので、こうした事態に陥っていたのだ。

 

 

「おーい、どうしたんだ状助ぇ!」

 

「何してるんだい?」

 

「いやー、なんか知り合いが居たんでよぉ……」

 

「ああ? それがどうしたんだ?」

 

 

 そこで、状助を呼ぶ声が状助の後ろからこだました。

それはピッチリしたハーフのスイムウェアを身に着けた刃牙と、状助と同じようなハーフパンツ姿の三郎だった。

 

 二人は状助が意味がわからないぐらい慌てていたので、どうしたのだろうかとやってきたのだ。

 

 この刃牙もかなりよい体風をしていた。

何せ彼もジョジョのキャラクターであるスクアーロの能力をもらった転生者。当然そのぐらいの肉付きをしている。

さらに状助とは違い、実はある程度スポーツをこなす刃牙は、当然のごとく細マッチョなのである。

 

 しかし、そんな状助と刃牙に隠れている三郎だが、彼も悪くない体型をしていた。

この三郎は運動神経の才能を特典としてもらっている。

その能力を腐らせぬよう、三郎もある程度の運動をこなしてきた。

そのため二人には劣るものの、そこそこがっちりとした肉体を持っていたのである。

 

 そして状助は何事かという顔の二人に、知り合いに会ったと説明したが、むしろ知り合いに偶然であったからと言って、これほどまでに挙動不審な態度になるんだと、刃牙はさらに疑問を感じたのだった。

 

 ……この刃牙も原作知識を持つ転生者だ。

が、この刃牙は基本的に原作なんてどうでもいいと思っており、ほとんど記憶から抜け落ちてしまっているのだ。

実際記憶から抜け落ちているのは、状助と同じようにイベントの無い日常的な部分なのだが。

 

 

「刃牙……?」

 

「えっ、三郎さん……?」

 

「……ん? ……知り合いったぁそういうことかよ」

 

「あれ、亜子さん?」

 

 

 そんな時、あやかの後ろから刃牙を呼ぶ声が聞こえた。

さらに、三郎の名を呼ぶ声まであった。刃牙はその声の主に気がつき、知り合いという意味をはっきりと理解した。

三郎もまた、その主を見つけ、少し驚いた様子を見せたのだ。

 

 そう、お分かりだろうがその声の主たちは、アキラと亜子だったのである。

二人も当然水着であり、亜子の姿はへそが出る程度に露出を抑えたツーピースで、アキラもスイミングに適した感じのワンピースだった。

この二人もクラスメイトと一緒にこの海へとやって来ていたのだ。

 

 

「確かにアイツが居たのは驚いたがよ、仰天するこたねーだろ状助?」

 

「お、おう……」

 

「でも、偶然にせよ知り合いに会ったら驚くよ」

 

 

 まあ、確かに奇遇にも彼女たちと出会ったのは驚いた。

が、それにせよ月までぶっ飛びそうなほど仰天することないと、刃牙は状助に呆れた声を出していた。

 

 状助もやっと冷静になってきたのか、その言葉を深くかみ締め小さく返事をしたのである。

それでも確かに驚いたのは事実だと、三郎は状助をフォローしていた。

 

 

「お、そっ、そうだ、三郎!」

 

「なんだい?」

 

「オメェ彼女と遊んでこいよ」

 

「何で急に……!?」

 

 

 そこで状助は少し挙動不審な感じで、三郎の名を呼んだ。

三郎はなんだろうかと状助へと声をかければ、突如状助は亜子と遊んで来ればいいと言い出したではないか。

 

 状助はとっさに話を変える為に、三郎にそう話したのだ。

そして、その急すぎる友人のおせっかいに、三郎は少し困惑した様子を見せていた。

 

 

「何か悩んでるみてーだしよぉ。そういう時は全部忘れて遊べばいいじゃあねぇか?」

 

「……そうかな……」

 

「いやまったくだ、状助の言うとおりだぜ」

 

 

 状助は三郎がなにやら深く悩んでいることを察していた。

それが転生者であると言うことはわからなかったが、なんとなくだが苦悩しているのを知っていたのだ。

 

 だからこそ、こう言うときは何もかも忘れて、楽しい時間をすごせばいいと、状助は三郎に言い聞かせたのである。

まあ、それ故に状助は三郎をこの海に連れて行こうと思ったのだが。

 

 三郎はやはり困惑した様子を見せながら、それでいいのだろうかと悩む仕草を見せていた。

そんな三郎の背中を押しながら、状助の意見に賛同して笑う刃牙がいたのだった。

 

 

「ほれ、彼女も待ってるみてぇだしよぉ、行ってこいって!」

 

「わかったよ……。ありがとう状助君!」

 

「まっ、頑張れよ!」

 

 

 状助は亜子の方を見て、照れくさそうにしながらも期待のまなざしを向けていることに気がついた。

そんな状況なのだから、行ってやらねば男が廃ると、状助は最後の後押しを三郎にしたのだ。

 

 

「へえ、状助いいとこあるじゃん」

 

「昔からリーゼントで不良だと思ってましたが、意外に優しいようですわね」

 

「べっ別に何でもねぇぜ! つーか俺は不良じゃあねぇー!」

 

 

 いやあ、状助の癖になかなか味なことをするじゃない。

そう思ったアスナは、状助を素直に褒めていた。

あやかもリーゼント故に不良だと思っていた状助が、こんな優しい人だったなんて、と少し見直したようなことを述べたのだ。

 

 状助はそう二人に褒められたのが照れくさかったのか、照れを隠すように声を大きくして何でもないと話していた。

また、状助のリーゼントは特典のせいではずせない呪いのようなもの。

 

 この外見では不良と思われてもしかたがないが、別に不良として振舞ったことはないと、その部分を否定したのである。

 

 

「そういえば、刃牙もどうしてここに?」

 

「ん? いや、状助に誘われてな。たまにゃー体を動かすのも悪くねぇって思っただけさ」

 

「そうなんだ」

 

 

 そこでアキラも刃牙がここに居ることを、その本人に尋ねてみた。

すると刃牙は、状助に誘われてここへやってきたと答え、久々に体を動かすのいいものだと話したのだ。

アキラは刃牙の答えに納得したのか、一言そうなんだとだけ返していた。

 

 

「そういえば、泳ぎはなまってない?」

 

「多分な」

 

「よかった」

 

 

 ただ、アキラは別のことが気になったので、そちらの方も刃牙に質問してみた。

それは刃牙の泳ぎについてだった。

 

 アキラは昔、刃牙とよく市民プールなどに駆り出し、何度も遊んだことがあった。

夏になれば当然海にもやってきて、泳ぐ早さを競ったりもしたのだ。

なので、アキラは刃牙が最近体を動かしてないのでは、泳いでないのではと考え、そのことを聞いたのである。

 

 刃牙もそういえば最近泳いでないなと思ったのか、なまってはいないが確証はないと言葉にした。

 

 まあ、それでも今日、体を動かしてみて、さほどなまっていないことを確認してはあるのだが。

そして、その答えにもアキラは満足したのか、笑みを浮かべてよかったと話したのである。

 

 

「まっ、俺調べだからアキラが見たら、なまってる方かもしんねーけどよ」

 

「そう? 見てあげようか?」

 

「そいつぁ嬉しいが、今はアイツと来てっから次回だな」

 

 

 それでも刃牙は、アキラが見たらなまってる可能性はあると思い、それを言葉にした。

何せ、最近まで本当に体を動かしてなかったのだ。

当然なまっていてもしかたがないとも思ったのだ。

 

 だったら本当になまっていないか、確かめてあげようか。

そうアキラは口にして、刃牙の顔を覗き込んだ。

 

 ただ、今回は状助に誘われてここに遊びに来ていた刃牙は、その誘いは嬉しいが、状助の顔を立ててやらないと悪いと話し、その誘いを断ったのである。

 

 

「まっ、まあ、俺らは俺らで遊ぶからよぉ。じゃあな!」

 

「あ、そう?」

 

「あら、せっかくお会いしたのに……」

 

 

 そして、刃牙が状助の方を見ると、状助も自分たちで遊ぶからと話し、撤退しはじめていた。

 

 アスナはそれは仕方ないと考えながらも、まあいつものことだと思っていた。

また、あやかはせっかく会えたのだから、少しぐらい一緒に遊んでもよかったのにと思い、ほんのちょっぴりだが残念だと言う表情を見せていた。

 

 

「むしろ、一緒に遊んでもいいんじゃないかな……?」

 

「わりーなアキラ。あの状助はシャイなんでな」

 

「そうなんだ……」

 

「シャイって言うかヘタレてるだけだと思うけど……」

 

 

 そこでアキラは過ぎ去っていく状助を見た後、刃牙に一緒に遊んでもよかったのではと話した。

しかし、刃牙も状助のことを今のやり取りで理解したらしく、嬉しい誘いだが悪いと断りつつ、状助は照れ屋なんだからしょうがないと言ったのだ。

 

 アキラは今の刃牙の話に、状助というリーゼントの男子はシャイなのかと、少し変な考えを持ってしまったようだった。

 

 さらに、追い討ちをかけるかのように今の話を聞いていたアスナが、シャイではなくヘタレなだけだと、呆れた顔で訂正するかのような言葉を出していた。

 

 

「まっ、そう言うことだから俺も行くわ」

 

「うん、またね」

 

「おう!」

 

 

 とりあえずそう言うことだから、と断った後、刃牙も状助の後を追うように去っていった。

 

 アキラはならば、今度泳ぎがなまってないか見せて欲しいという意味をこめて、またねと明るい笑顔で元気よく叫び、刃牙を見送った。

刃牙もアキラの声に応えるかのように、振り向きざまに大きく返事をして、再び走って行ったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 先ほどアキラやアスナと別れた刃牙と状助。

状助が逃げるように立ち去りそれを追ってきた刃牙は、海岸から少し離れた海へとつかり、のんびりしていた。

 

 

「やっぱ海は最高だな!」

 

「そうっスかねぇ……」

 

「おいおい、乗り気じゃねぇなー」

 

「先輩がテンション高いだけっスよォ……」

 

 

 海は最高だ、そう言って輝くように笑う刃牙。

対称に先ほどアスナたちに出会ってしまい、随分テンションが下がった状助。

 

 そんな態度の状助に、こんなまぶしい太陽の下、明るく輝く海に来て、それは暗すぎだろうと刃牙は突っ込んだ。

が、状助はむしろ刃牙がテンション高いだけだと、低血圧みたいな声をもらしていた。

 

 

「しっかし、海では便利っスねぇ、そのクラッシュ」

 

「そりゃ水がある場所なら凶悪だからな、コイツは」

 

「海ほど広けりゃデカくなれるってのも、結構厄介って感じだぜ……」

 

 

 ただ、状助は刃牙の状態を見て、クラッシュのスタンドをうらやましがった。

何せ水がある場所ならば問題なく動かせ、大きさも変幻自在だ。

 

 刃牙もその辺りを強調し自慢するかのように述べ、水さえあれば結構強いと豪語して見せた。

そして、それを聞いた状助も、その厄介さは敵でなくてよかったと思っていたのだった。

 

 

「まぁ、浮きとしても最高だがな」

 

「うらやましいっスねぇ……」

 

「そりゃな。コイツに紐をくわえさせて引っ張ってもらうだけでも面白いぜ?」

 

「そいつぁ面白そうだなぁ……」

 

 

 しかし、今現在刃牙はクラッシュを発現させてはいるものの、誰かを攻撃する意図はまったくない。

むしろ、そこらへんで市販されている浮きのような扱いにし、海に浮かべて寝転んでいたのである。

そのあたりをのんびりしながら、浮きにも使えて最高だと笑って話す刃牙。

 

 状助もそんな刃牙を見て、スタンドも使いようだと思いつつも、多少なりにそのことをうらやんでいた。

 

 さらに刃牙は、クラッシュに紐で引っ張ってもらうだけでも十分楽しいと言い出し、状助も確かに面白そうだと頷いていたのだった。

まあ、実際刃牙も、状助のクレイジー・ダイヤモンドをうらやましいと思っているのだが。

 

 

「そういやぁ、もう一人のスタンド使いも呼んだんだろ? 何で来なかったんだ?」

 

「あぁ、音岩昭夫のことっスか? アイツァ海が嫌いだからなぁ……」

 

「海が嫌い? 過去におぼれたとか、そんなトラウマでもあんのか?」

 

 

 ただ、状助はもう一人別の人を、この海に誘っていた。

それを知っていた刃牙は、その人物が来ていないことに疑問を感じ、状助へと質問したのだ。

 

 そして、その誘った人物とは、あの音岩昭夫のことだった。

また、状助はその理由を、呆れた声で海が嫌いだと説明した。

 

 海が嫌いとは一体どういうことなのだろうか。

刃牙はそこを少し不思議に思い、何か過去に海などでひどい目にあったのかと、再び状助に尋ねてみた。

 

 

「違うんスよォー……。昭夫のスタンドは”レッド・ホット・チリ・ペッパー”だから海に行きたがらないんっス」

 

「あー、チリペッパーは海に入ると電気が拡散して再起不能になっちまうんだっけな……」

 

「だから海は絶対に行きたくねぇ! って意地はるんっスよぉ」

 

 

 状助はそこで、またしても呆れた感じにそのことを説明した。

昭夫のスタンドは”レッド・ホット・チリ・ペッパー”だ。レッド・ホット・チリ・ペッパーはジョジョ第四部にて、電気さえあれば無敵と思われるほどの強いスタンドだった。

 

 しかし、その末路はあっけないもので、罠により海へと落ちたレッド・ホット・チリ・ペッパーは、広い海水により電気が拡散し、体がバラバラとなり再起不能になってしまったのだ。

それを知っている昭夫は、そうなるのを恐れて海になど絶対に行かないと言って、状助の誘いを断ったである。

 

 刃牙もスタンドの特典を貰った転生者であり、そのことを聞いただけで大体のことを理解した。

なるほど、確かにそれは怖いかもしれない、刃牙はそう思った。

 

 状助もその部分はある程度理解しているので、多少は仕方ないと考えながら、昭夫が意地を張って海には来ないことを説明していた。

 

 

「つーかスタンド出さなきゃいいだけじゃねぇか?」

 

「それでも、ふとしたことでスタンド出して再起不能になりたくねぇっつーんですわ……」

 

「……まあ、相性の問題だからしょうがねぇっちゃしょうがねぇか……」

 

 

 そこでふと思った刃牙は、それだったらスタンドを出さなければ問題ないのでは、と状助に話した。

 

 確かに刃牙の言うとおりである。

スタンドを出さなければ事故など起き様が無いのだから。

 

 だが、状助もそのことを昭夫へ話し説得しようとした。

それでも昭夫は、ふとしたことや無意識にスタンドを出すかもしれないと怖がり、絶対に海には行かぬと断固として考えを変えなかったのだ。

 

 状助はそのこともため息交じりに説明し、刃牙も微妙な表情で、相性の問題もあると言葉にしながらも、やれやれといった様子を見せていたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 輝く浜辺に黒いブーメンランパンツの男が一人サングラスごしに、太陽光が反射した青色に輝く美しい海を眺めていた。

 

 体は筋肉モリモリ、ムキムキゴールドマッチョマン。

まぶしすぎる日差しを受けることで、より一層目立つゴールデンなおかっぱの髪。

当然のごとく、その男はゴールデンなバーサーカーだった。

 

 

「山育ちのオレとしちゃぁ、やっぱ海っつーのはあまり慣れねぇな」

 

 

 ゴールデン太郎のことバーサーカーは、山育ちだ。

海というものをあまり知らぬ故、塩っ辛い海に不慣れであった。

 

 それでもバーサーカーはここへやってきたのは、任務である木乃香の護衛意外にも、羽目をはずして遊びたいという気持ちがあった。

 

 

「だが、この太陽に照らされて輝く浜辺は、なかなかどうしてゴールデンだ」

 

 

 そして、この浜辺が日の光などで金色に見えなくもないことに、バーサーカーは気に入っていた。

このゴールデンが暴れるにふさわしい、ゴールデンな場所だと思っていたのである。

 

 

「お? ゴールデンの兄ちゃんも来とったんか」

 

「最初から居たぜ? まあ、霊体で来たからわからなかっただろうがな」

 

「そないなこともできるんやったな」

 

 

 そんなゴールデンに気がつき話しかけた小太郎。

この小太郎もカギやネギと同じタイプの水着だった。

と言うか、それが彼らの今の流行なのだろうか。

 

 まあ、そんなことよりも、この小太郎、バーサーカーがここに来る時はまったく見かけなかったというのに、どうしてこの場にいるのだろうかと思ったようだ。

 

 その小太郎の疑問を解消しようと、バーサーカーはとっさに説明した。

なんせバーサーカーはサーヴァント。霊体になることで、こっそりついてきたのだ。

だから実際は、出発前から既に側にいたと教えたのである。

 

 説明を聞いた小太郎は、確かにバーサーカーがそう言うことが出来たのを思い出していた。

 

 

「兄ちゃんは泳ぐんか?」

 

「海まで来たんだぜ、それも悪くねぇ」

 

「それやったらどこまで泳げるか競わへんか?!」

 

「おっ! いいねぇ! やってやろうじゃんか!」

 

 

 そこで小太郎はバーサーカーに泳ぐのかどうか尋ねた。

バーサーカーも海に来たのに泳がないというのはもったいないと、当然泳ぐと言葉にした。

 

 ならば、泳ぎで勝負しようと、小太郎はバーサーカーへ挑戦的なことを話した。

するとバーサーカーも、当たり前のように食いつき、乗り気で勝負を受けてたった。

 

 

「おっしゃ! ほな行くで!」

 

「そんなに慌てんなよ! オレも海も逃げやしねーからよ!」

 

 

 それなら早速勝負だと、意気込んで走り出す小太郎。

そんなはしゃぐ小太郎にバーサーカーは、海は目の前、自分も逃げることなんてないのだから、焦る必要はないと注意したのである。

 

 そのほほえましい光景を、少し離れた場所で眺めるものがいた。

それは楓と古菲だった。古菲も当然水着姿であり、派手目の模様が入ったホルターネックのビキニを着ていた。

 

 

「コタローはゴールデン殿に夢中でござるな」

 

「楽しそうアルなー。私もあのサングラスの兄さんとやりあってみたいアル!」

 

「古もそう思うでござるか」

 

 

 小太郎とバーサーカーのやりとりを見ながら楓は、小太郎は強くて頼もしく兄貴分のようなバーサーカーに夢中で、楽しそうだと言葉にした。

 

 いやあよきかなよきかな、あのバーサーカーはさぞ小太郎のよい師となるだろう、そう思い小さな笑みを見せながら。

 

 また、古菲はバーサーカーの実力を見て、戦ってみたい、試合してみたいと叫び、楓も考えることは同じかと、目を悠々とした態度の古菲へと首をむけ、そう言葉にしていた。

 

 

「しかし、あのゴールデン殿は女性と戦いたくないようでござるからなあ……」

 

「私も挑んだけどすぐに逃げられたアル……」

 

「拙者も同じでござった」

 

 

 ただ、バーサーカーは基本的に女性と戦おうとはしない。

なので楓と古菲はそのことを残念そうに話していた。

 

 バーサーカーと戦おうと挑んだ古菲だったが、それを見たバーサーカーはさっさと逃げてしまったようだ。

また、楓も同じ状況だったことを思い出し、自分も古菲と似たようなことになったと、少しガッカリした感じで言葉にしていた。

 

 それとバーサーカーと遊ぶ小太郎も、同じく女性を殴らない主義の少年だ。

そのことを思い出した楓は、その似た者同士の二人が仲良くつるんでることに、面白いと内心思っていたのだった。

 

 

 ……あのバーサーカーは基本的に女性を泣かせたりすることを嫌う。

それに、傷つけることも避けたがる傾向にある。

それは過去の出来事からくるものもあるのだが、とにかく女子供には優しいのがバーサーカーだ。

 

 しかし、マスターである刹那だけは稽古をつけたりしていた。

何故かと言うと、刹那がマスターだからと言うのもあるが、友人を守りたいとひたむきに頑張る刹那のことを、間近で見て理解しているからだ。

 

 それにバーサーカーは、刹那の修行の様子を直接見て、刹那がどんな攻撃をしてくるか、次にどう動くかなどを知っていたので、戦いやすいというのもあった。

 

 だが、それ以上に刹那もバーサーカーのことを理解し、無茶なことをしなかった。

あのバーサーカーは、女の子を怪我させたり泣かせたりするのがとても嫌いだった。

そのことを刹那はちゃんとわかっていたからだ。

 

 つまり、バーサーカーと刹那は非常に強い信頼関係があったからこそ、模擬戦や稽古が成り立っていたのである。

そのため、見知らぬ女性、つまり古菲と楓が勝負を挑んできた場合だと、バーサーカーには特に理由がないので戦う気が出ないということだったのだ。

 

 

「それにしても、気も使わぬというのにあの身のこなし……。やはり一度はやりあってみたいものでござるな……」

 

「気、アルかー。私も最近楓に教わって、多少使えるようになってきたアルよ」

 

「古は気がなくともなかなかの腕前でござったからな。気の技術があればもっと伸びるでござるよ」

 

「楓にそう言われると嬉しいアル! だからもっと強くなるアル!」

 

 

 しかし、それ以外にも楓は気になったことがあった。

楓は離れた場所で小太郎と泳ぎの勝負をしているバーサーカーを眺めながら、そのことをそっと言葉にしていた。

それはバーサーカーが気を使わずに、気を使っているかのようなすさまじい動きをしていることだ。

 

 と言うのもバーサーカーはサーヴァントである。

この時点での膂力は桁外れなものだ。

 

 それに天性の肉体のスキルにより、生物として完全(ゴールデン)な肉体を持っている。

そのおかげで身体能力のみで、とんでもない動きが可能という訳だった。

 

 ただ、それが楓には明らかに異常に見えた。

本来気を使わなければ、あれほどの動きを気を使わずに行うなど、普通に考えられないからだ。

 

 まあ、そりゃサーヴァントであるバーサーカーは、普通の人間と言う枠組みからはずれている。

楓がそう感じるのも当然と言えば当然なのだ。

また、だからこそ一度は戦ってみたいものだと、楓は思っていたのだった。

 

 そして、楓の隣に居た古菲が気と言う言葉に反応して言えた。

古菲は元々拳法家の実力者だったが、気を知らない一般人だった。

そのため、気をマスターすれば古菲もさらに強くなれると、楓は自信がある様子で話していた。

 

 古菲も楓にさらに自分が実力者として認められ、さらに強くなると言われたことにとても嬉しく思った。

だから、古菲は笑顔で目を輝かせながら、もっと強くなることを誓うかのように言葉にしていた。

 

 

「世界は広いでござる。拙者も修行あるのみでござる」

 

「そうアル! もっと修行するアル!」

 

 

 それに、世界は広いと空を眺めて言葉にする楓。あのバーサーカーもさることならが、学園祭の武道会で戦い敗北した相手、クーネルのことアルビレオもかなり強かった。

 

 あれほどの実力者がまだまだ居ると考えると、世界は本当に広いものだと楓は実感していたのだ。

それだから修行のしがいがあるし、強くなりたいと楓は思っていた。

 

 当然それは古菲も同じだった。

古菲もまた武道会で敗北し悔しい思いをした身である。

確かに相手が謎の力を使って攻撃してきたが、一撃も当てれずに負けるのはとても悔しかったのだ。

 

 まあ、それ以上にボコボコになった自分を労わってくれた、楓や真名への感謝の方が当時は強かったのだが。

それで古菲も、さらに修行をして強くなりたいと力をより一層入れるのだ。

 

 

「だが、今は遊びに来ているワケでござるから、修行は帰ってからにするでござるよ」

 

「なら一緒に泳ぐアル!」

 

「そうでござるな。では参ろうか」

 

 

 しかし、今は遊びに来たのであって修行しに来た訳ではない。

楓はそれを思い、古菲へと修行は帰ってから頑張ろうと告げたのだ。

 

 古菲もそれを理解し、だったら一緒に泳いで遊ぼうとはしゃいだ様子を見せていた。

 

 楓も古菲の誘いを快く乗り、ならば海へと駆り出そうかと言葉に出した。

そして、二人は海へと赴き、その楽しい時間を有意義に過ごしたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 真夏の真っ只中、強い日差しが差し込む快晴。

こんな陽気なので当然多くの人が、この海岸へと遊びに来ていた。

 

 特に人が多いのはカキ氷などを売っている屋台だ。

そんな行列から、念願のカキ氷を得て開放された焔がいた。

当然焔も海だけに、前に島に行った時と同じ白いワンピースの水着姿を見せていた。

 

 

「うむ、うまい」

 

 

 一口氷の粒の塊をほおばれば、その冷たさが口の中にいちごシロップの味と共に広がる。

そして、この夏の暑さが、またこの冷たさのスパイスとなって、さらにカキ氷のうまさを引き立てていた。

そのカキ氷のなんともいえない味に、焔は思わずうまいと口から漏らした。

 

 ただ、急いで食べるとその冷たさから頭がキーンとなってしまう。

なので、それを注意しつつ、焔はゆっくりと二口、三口とそのストローのスプーンを使って味わっていた。

人が多くて少しうっとおしいが、これだけはやめれないと思いながらも、また一口とカキ氷を口に含んでその冷たさに舌鼓を打った。

 

 

「あれ、焔ちゃん。泳がないの?」

 

「いや、先ほどまで泳いでいたが、今は休憩中だ」

 

「あ、そうなんだ」

 

 

 そこへアスナがやってきて、カキ氷を堪能する焔へと話しかけた。

こんなところでカキ氷を食べているので、どうして泳がないのかと尋ねてみた。

 

 しかし、焔もさっきまでは刹那や木乃香と遊んでいた。

そこで少し小腹がすいたので、休憩もかねてこうしてカキ氷を食べていたのだ。

そのことを説明すると、アスナも納得した声を出していた。

 

 と、その時、またしても知っている人の声をアスナは聞いた。

この声は久々に聞いたが、確かに知り合いの声だった。知り合いの男性の声だった。

 

 

「ちと調子に乗りすぎたぜ……」

 

 

 その声の主は何か反省したようなことを独り言で言いながら、とぼとぼと浜辺を歩いていた。

黒いボサッとした髪は海水に濡れ、多少垂れ下がって情けない状態となっており、多少みすぼらしく感じられた。

 

 だが、かなり鍛えられているのか、ガッチリとした筋肉を太陽の下に見せ、ただの学生とは思えぬ印象も同時に与えていた。

そして、アスナがその声の方を向けば、その人物がやはり自分の知り合いだったと確認したのである。

 

 

「あれ? あそこに居るのは数多さんじゃない?」

 

「どれ? ……本当だ。今日は約束があると言っていたんだが……」

 

 

 そう、その人物は焔の義兄の数多だった。

数多も海ゆえ当然のごとく水着であり、黒一色に炎の刺繍がひとつ入った短パン一丁の姿だった。

 

 アスナは何でかわからないが、とにかく焔へ数多がいることを教え、その方向を指さした。

焔も即座に反応し、アスナの指が示す方向をどれどれと覗いてみれば、確かに自分の義兄がのそのそと歩いているではないか。

 

 また焔は、数多がこの日に何か約束があると言っていたことを思い出し、おかしいなあと首をかしげていた。

 

 

「あのー! 数多さーん!」

 

「おぉ? 呼ばれた?」

 

 

 まあ、とりあえず声をかけてみるかと思ったアスナは、すぐさま大声で数多を呼んだ。

数多もその声に気がついたのか、誰が呼んだのだろうかと周りをキョロキョロと見渡したのである。

 

 

「おおおお? オメーら、ここで何してんだ?」

 

「それはこっちの台詞なんだが……」

 

 

 数多はどうして女の子の声で呼ばれたのかわからなかったが、アスナと焔を見てすぐに理解した。

それでもこの二人が何故ここにいるのか理解が追いつかなかったのか、とても驚いた表情をして、大きな声でそのことを叫んでいた。

 

 そんな大声を出して驚く義兄を呆れた顔で見ながら、それはこっちが言いたいともらしたのは焔だった。

 

 

「そうか? 俺は状助たちと遊びに来ただけだぜ?」

 

「ああ、約束していたのは彼らだったのか」

 

「そうだったんですか」

 

 

 焔にそう言われた数多は、まあそうなのかと思いながら、何故自分がここにいるのかを説明した。

数多はなんと状助に誘われ、この海へとやってきたのである。

 

 何せ数多は状助と知り合いであり、数年の付き合いだ。呼ばれても不思議ではない。

 

 説明を聞いた焔もアスナも、それならと思って納得していた。

焔は今日の約束の相手が状助だったことを知り、疑問が晴れたかのようなスッキリした様子を見せた。

アスナも状助と偶然出会っていたので、それなら数多がここに居てもおかしくないと思ったのである。

 

 

「まあな。しっかし奇遇だな、まさか同じ海岸で出会うとはよ!」

 

「少し驚いたぞ」

 

「私もさっき状助に会って驚きましたよ」

 

 

 いやあ、それにしても同じ場所が目的地だったとは。

数多はそのあたりを面白く思い、奇遇だなと言葉にした。

 

 それにつられて焔も驚いたと言葉にしながら、ここで再び残ったカキ氷を食べ始めた。

また、状助に出会っていたアスナは、その時のことを話していた。

 

 

「ほう、状助にも会ったのか」

 

「あっちで遊んでいたぞ? むしろ兄さんは何故彼らと離れてるのだ?」

 

「あー……」

 

 

 数多はアスナの言葉を聞いて、状助とすでに会ったことに多少驚きを感じていた。

焔も状助がアスナと話していたのを見ていたので、そのことを知っていた。

 

 ただ焔は、状助と約束したはずの数多が、彼らとは別の方向にいたことを疑問に感じ、それを質問したのである。

その素朴な焔の問いに、数多は何と説明すればいいのやら、という感じの様子を見せていた。

 

 

「ちょいと調子にのっちまってな? 泳ぎまくってたらはぐれちまったんだ」

 

「そ、そうなのか……」

 

「でも、状助はあまり気にしてる様子じゃなかったわねぇ……」

 

 

 この数多、状助とここへ来たのはいいのだが、テンションがあがりすぎて猛スピードで海を泳ぎまくったのである。

そして、気がつけば随分離れた場所に来てしまい、状助たちとはぐれてしまったのだ。

それでこんなところをのそのそと歩いていたということだった。

 

 その恥ずかしい理由を数多は焔へ、少し気恥ずかしそうに説明した。

まあ馬鹿なことをしただけだと。

 

 その理由を聞いた焔は、カキ氷を救っていたスプーンを止め、ポカンと口を開いたままという、先ほど以上の呆れた様子で一言言葉にした。

 

 ただ、それならもう少し状助たちが慌ててもいいはずだと、アスナは思った。

何せ状助たちは数多がいなくなったというのに、まったく捜そうしてもいなかった。

 

 なので、どうしてそんなにのんきにしていられたのだろうかと疑問に感じたのである。

 

 

「別に俺なんか捜さんでも戻ってくるって思ってるんだろうな。それに一応集合場所も決めてあるしな」

 

「それで状助は慌ててなかったんですね」

 

 

 そのことに数多は、自分を捜さなくても勝手に戻ってくると思われていると語った。

それに最終的に集合する時間と場所も決めてあるので、特にそうする必要はないと説明したのだ。

アスナもそれを聞いて、どおりで状助たちが慌てない訳だと思ったようだ。

 

 

「まっ、俺は状助んとこ戻るからよ。でも、何かあったら言ってきてくれてもかまわねーさ」

 

「何もないだろうが、その時は頼りにしているぞ?」

 

 

 まあ何にせよ、状助があっちの方にいるのなら戻るに越したことはない。

そう考えた数多は、とりあえず状助らの居る場所に戻ると話した。

さらに、何か問題が起きたら心置きなく相談に乗ると、先輩らしい言葉を述べていた。

 

 焔はそんな数多へ、問題なんて早々起きないと言いながらも、本当に何かあったら頼ると言いながら微笑んで見せた。

 

 

「ああ、どんどん頼ってくれ! じゃな!」

 

「またな」

 

「ええ、ではまた今度!」

 

 

 頼りにすると焔に言われた数多はそのことを嬉しく思いながら、別れの言葉と共にその場を立ち去っていった。

立ち去る数多に焔とアスナも、またの機会にと大きな声で述べていた。

 

 

「……数多さんについてかなくていいの?」

 

「兄さんは別の人と遊んでいる。それを邪魔したら悪いじゃないか」

 

 

 と、数多が見えなくなりそうになったころ、アスナが焔へ語りかけた。

数多についていかなくてもよいのかと。

 

 血のつながらない兄妹とは言え、兄妹は兄妹。

少しぐらい兄妹の時間を作ってもいいのではないかと、おせっかいだと思いつつもアスナはそれを聞いたのだ。

 

 そんなおせっかいなアスナの言葉に、焔も気にしなくても良いと思いながらしっかり答えた。

数多は状助たちと約束し、そちらと遊んでいるのだから、それに割って入るのはあまりよくないと。

むしろ、自分が行けば邪魔になるかもしれないと思い、流石についていこうとは思わなかったと話したのである。

 

 

「それに、私が行けば状助が緊張するだろうし……」

 

「ま、まぁそうよねぇ……」

 

 

 しかし、今数多は状助たちと遊んでいる。

そこへ自分が行けば、あの状助は緊張して自由に遊べなくなるだろう。

 

 焔はそう考えると、状助にも悪いだろうと思ったのだ。

そして、それを聞いたアスナも、それは確かにあると思い、仕方ないという顔をしていた。

 

 

「それにだ」

 

 

 だが、焔が数多についていかなかった理由はそれだけではない。

そのことを焔はアスナへと、一呼吸置いて静かに話し出した。

 

 

「アスナたちと約束したのだから、こちらを優先するのは当然のことではないか?」

 

「そこまで固く考えなくてもいいんだけどね」

 

 

 元々約束していたのはアスナたちだ。

そちらを優先するのは当たり前のことだと、人差し指を立て、ニヤリと笑いながら焔は言った。

 

 確かにそれは間違ってないし当然のことなのだが、別にそんなにこだわることもないのにと、アスナは嬉しそうに話していた。

 

 

「それだけじゃない。アスナたちと遊ぶのはその……、悪くは無い……」

 

「フフ、そう言ってくれると嬉しいわね」

 

 

 ただ、アスナたちを優先したのは、約束したからという理由だけではなかった。

焔はそれとは別に、単純にアスナたちと遊ぶのが楽しいと思っていたからだ。

それを焔はアスナから視線をはずし、モジモジとはにかみながら小さな声で言葉にしていた。

 

 普段の焔からは想像出来ない言葉を聞いて、アスナはクスリと笑って見せた。

また、そう言われるとアスナもくすぐったい気持ちになりながらも、嬉しいことを言ってくれると微笑んでいたのだった。

 

 

「……私はこっちに来て本当によかったと思ってる。こうして海というものにも触れられたしな」

 

「あっちには海がないものね」

 

 

 そこで焔は海の方向を振り向き、この旧世界に、麻帆良に来てよかったと、やわらかい晴れ晴れとした表情で話していた。

こっちに来たからこそ、海という場所で遊べたし、楽しいことが増えたのだと。

 

 アスナも同じく海を見ながら、確かにあっち、つまりアルカディア帝国には海で泳げる場所がないことを思い出し、それを口にしていた。

 

 

「ああ……。そして、貴様たちみたいな友人も出来た。昔の私では考えられないことだ」

 

「そうよね。昔だったらつっぱねてたでしょうね」

 

「そうだろうな……。こうした楽しいことを、純粋に楽しいとも思えなかっただろうな……」

 

 

 焔はそのアスナの言葉を肯定しながらも、それ以外に、アスナや木乃香と言った友人が出来たこともよかったと話す。

 

 昔だったらそんなことは絶対にありえなかっただろう。

きっと自分とは違う存在だとして、相容れぬものと考えて受け入れなかったはずだと。

 

 その焔の考えを読み取るように、アスナはそのことを言っていた。

焔が言うとおり、昔の彼女ならばこんな能天気な自分のクラスになじむことなどなかっただろう。

 

 そう思うと今の焔は随分と棘が取れた。

いや、とても素直で柔軟になったと言えるとアスナは思ったのである。

 

 だが、そのことを一番理解しているのは焔本人だ。

昔の自分なら、こうやって海で遊んで楽しいと感じることさえなかっただろうと、過去を見つめるように言葉にした。

また、自分は随分と変わったんだな、と思いながら、再び海からアスナへと視線を変えた。

 

 

「さて、カキ氷もなくなったし、もう一泳ぎするか。アスナもどうだ?」

 

「なら、このかたちも入れよっか」

 

「それがいいな」

 

 

 そして、さっきからつついていた、かき氷の容器が空になったのを見て、焔はまた海で泳ごうと思った。

さらについでだと思い、今隣にいるアスナも一緒に泳ごうと誘ってみたのである。

 

 アスナは焔から誘われたことを嬉しく思い、ならば木乃香たちも呼ぼうと話した。

そのことに焔はなんら不満もなく、むしろその方がいいと笑みを浮かべながら聞き入れたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 誰もが海で遊ぶ中、海の家でカキ氷を味わう少女たちと少年。

それは夕映とハルナ、そしてなんとカギであった。

 

 ハルナも当たり前のように水着姿であり、胸に英文字が書かれ、腰にベルトがついたビキニを着ていた。そんなところでふとハルナが、突然思ったことを口にした。

 

 

「ねぇ、今思ったんだけどさぁ、ゆえはカギ君のことなんとも思ってないわけ?」

 

 

 何を思ったのか、ハルナは夕映へカギに何か感じないのかと聞いたのだ。

遠くから見ても結構仲がよさそうなこの二人、何かあれば面白いかもしれないと思ったのである。

 

 

「突然何を言い出すかと思えば……」

 

「まーたハルナの悪い癖が始まったな」

 

「だって結構仲よさそうじゃん!」

 

 

 だが、夕映はハルナの言葉に、またかと言った顔でため息をついていた。

カギも同じく恋愛脳乙みたいな感じで、同じようにまたかと呆れた顔で言い出した。

ただ、ハルナはカギと夕映が結構いい仲なのを見て、そう言葉にしたと文句を言ったのである。

 

 

「友達だからに決まってるです」

 

「そーいうことだ」

 

「えー? でもパートナーなんでしょ?」

 

 

 夕映は仕方ないと思い、ハッキリと友達だから仲がよくて当然だと言葉にした。

カギは夕映の言葉に便乗して、そう言うことだと偉そうに言っていた。

 

 しかし、ハルナもなかなか折れず、友達だけど魔法使いと従者の関係でもあるではないかと、その部分を攻めてみたのだ。

ただ、このハルナも一応カギのパートナーでもあるのだが、そんなことは今はどうでもよかったのだった。

 

 

「一応従者ですが、それ以上に友達なのです」

 

「おう! 魔法使いと従者の関係なんて堅っ苦しいしな!」

 

「ほうほう」

 

 

 そう言われた夕映は、反論として従者というより友人なのだと説明した。

カギも魔法使いと従者の関係なんて堅苦しいし、友達の方が気軽でよいと少し声を大きくして述べた。

 

 そんなことを言われたハルナは、夕映の言葉はもっともだと思ったのか、腕を組んで納得した様子を見せた。

 

 

「で、カギ君はゆえのことどう思ってるの?」

 

「ブッ!!!」

 

「汚いですね……」

 

 

 ならば矛先を変えてみよう。ハルナはそう考えて、カギに質問をしたのである。

カギは口に含んだカキ氷を盛大に噴出しながら、ハルナの質問に驚いた。

そんなカギを見た夕映は、汚いなあ、と思いそれを口に出したのだった。

 

 

「いきなりなんでこっちに振るんだ!?」

 

「えー? だってゆえは友達だと思ってるかもしれないけど、カギ君は違うかもしれないじゃん?」

 

「そ、そういうもんか!?」

 

 

 何故こっちに話を振った。

カギは慌てふためきながら、ハルナへとそう言った。

 

 ハルナはそこで自分が思ったことを口にした。

と言うのも、夕映はカギを友人としか見ていないだろうが、カギはそうじゃないかもしれないと思ったと。

 

 カギはそう言われて、そういうもんかと大きく叫んだ。

まさかそんなことを思われるなど、思っても見なかったようだ。

 

 

「しっかし、今の態度を見るに脈はあるって感じ?」

 

「ちげーし! ゆえとは友達だし! いい友人だし!」

 

「必死に否定してるところが怪しいなぁー?」

 

 

 だが、ハルナは今の質問でのカギの態度で、カギが夕映に友人以上の感情を抱いているかもしれないと思った。

 

 それでもカギはそれを否定し、ただの友人だと声を荒げて叫んだのだ。

そんなに必死に否定するカギに、ハルナは怪しいと考えながら、目を細めてニヤニヤしていた。

 

 

「ハルナ、カギ先生はまだ10歳です。そういう年頃なのですよ」

 

「ふーむ。そう言われると確かに……」

 

「そんなんで納得すんなよ! 俺自身10歳だと思ったことはねぇ!」

 

 

 そんなピンチのカギに救いの手を差し伸べるものがいた。それはやはり夕映だった。

夕映はカギの態度は10歳の少年であるカギならば仕方のない反応だと、フォローになってないフォローを入れたのである。

 

 ハルナも夕映の言葉に、カギの年齢を考慮していなかったと思い、まあそのぐらいの歳ならそんな反応もありえなくもないと考えた。

 

 そりゃ10歳ぐらいと言えば、好きな女の子にいたずらしてしまうような年頃である。

好きでもない女の子を好きなんじゃないかと言われても、ムキになっちゃうよな、と思ったのだ。

 

 しかし、それが逆にカギの逆鱗に触れた。

カギはどうしてそんなことで納得できるのかと、少し怒り気味に叫んだのである。

また、転生者ゆえに自分が10歳だと思ったことはないと、さらにムキになっていたのだった。

 

 

「じゃあさー? どうなの? ん?」

 

「だーらただの友人だっつってんだろー!?」

 

「そうには見えないけどねぇ……」

 

 

 本人が10歳だと思ってないなら、そこんところどうなんだ。

ハルナはまたしても攻め込んだ。

 

 カギはやはりムキになったまま、夕映とは単なる友人でしかないと話すだけだった。

まあ、そんな態度だからこそ、そうには見えないと思ったハルナだったが。

 

 

「そ、そんなことよりも、のどかの姿が見えんがどうしたんだ?」

 

「あ、逃げた」

 

 

 そこでカギはこの話題はマズイと考え、即座に別の話に切り替えようとした。

とは言え、いつも図書館探検部の三人は常に一緒の印象をカギは受けていた。

なので、のどか一人が欠けていることに、少しばかり疑問に思ったのである。

 

 また、ハルナはそんなカギに、この話題から逃げたと思い、それが自然に口から出でていた。

しかし、これ以上イジってもちょっと可愛そうだと思ったので、別にいいかと許したようだ。

 

 

「のどかならネギ先生に猛烈アタックしているはずです」

 

「なっ!? 何だと……」

 

「今日は流石に引かないみたいで、勇気出して行ったよ。いやー青春だねぇ~」

 

 

 カギの必死なその質問に、夕映がしっかり答えてくれた。

のどかは今度こそネギと仲を深めるために、アタックしに行ったのだと。

 

 カギもそれには驚いた。

いや、確かにのどかは勇気を出せば、ネギを誘うぐらいなんてことないだろう。

それでもあの遠慮深いのどかが、今回のチャンスを逃すまいとしたことに、カギは驚かざるを得なかった。

 

 ハルナものどかの勇気には大変嬉しく思ったのか、笑いながら青春だねぇと言葉にしていた。

あれほどじらしてくれたが、今日は勝負に出たことに満足していたのである。

 

 

「じゃあなんでそんなのんびりしてんだ? お前らなら覗きに行くと思ったが」

 

「まー見に行きたいけどね」

 

「今日ののどかはすごい気迫でした。心配ですがのどかを信じているです」

 

「そ、そーか……」

 

 

 そこでカギはふと別の疑問が浮かび上がった。

それはこの二人がネギとのどかのイチャイチャタイムを、覗きに行かないことだ。

 

 普通なら後をつけてニヤニヤしたりヒヤヒヤしたりしそうなのだが、今は目の前でカキ氷を食べているじゃないか。

一体どういう風の吹き回しだろうか、カギはそう思いそのことを尋ねたのだ。

 

 するとハルナは素直に今すぐにでも見に行きたいと言葉にした。

が、あえて行かないような素振りであった。夕映ものどかを信じると言い切り、心配だけど我慢すると宣言したのだ。

 

 その二人の言葉に、カギは本当なんだろうかと疑った。

夕映はまあいいとしても、ハルナがこんなおいしいことを見逃そうはずがない。

カギはならば本当にそうなのか、ちょっと試してみることにした。

 

 

「でも、この後見に行っちゃうんでしょ?」

 

「わかっちゃう?」

 

「そりゃ当然!」

 

 

 カギは少しからかうかのように、どうせこの後ネギとのどかを覗きに行くんだろう? と話を振った。

 

 ハルナもノリノリでその話題に食いつき、バレちゃったかーっと言い出した。

やはりそうかとカギは思いながら、バレバレだっつーのと笑ったのだ。

 

 

「でも私は今回だけは行かないかなー」

 

「え?!」

 

「あらら? ゆえは見に行く気だったんだ」

 

 

 しかし、なんということだろうか。

ハルナはその後キッパリと、今回は覗きに行かないと言ったではないか。

 

 夕映はその言葉に、かなり驚いた様子でハルナを見た。

そんな夕映をハルナは面白そうに見ながら、夕映は覗きに行くつもりだったのかと思ったのである。

 

 

「信じてるって言ったのになんてヤツだ……」

 

「信じてるです! 信じてるんですが、やはり心配で……」

 

「ハッハッハッ、ゆえの友情は本当に厚くて見てて気持ちいいよ!」

 

 

 カギも夕映がさっき信じてるって言ったばかりなのに、どうしてそういうことするの……と呆れていた。

ただ、夕映はのどかを信じているが、それでも心配なのには変わりないのだ。

今頃どうしているのだろうかと考えるだけで、とても胸が張り裂けそうなのである。

 

 いやはや夕映は本当に友人想いだと、ハルナは盛大に笑って褒めていた。

確かにのどかがちゃんとやれているか、心配なのもわからなくもない。

 

 それに、信頼と心配で葛藤する夕映を見て、本当にのどかが友人として大切なのだとハルナは改めて思わされたのだ。

 

 

「まあ、邪魔にならない程度にしなよ?」

 

「でも、ハルナは何故見に行かないんです?」

 

「こういう時に引くのも友人かなって思ってねー」

 

「そうですか……」

 

 

 ハルナはネギとのどかを覗きに行くなら、言わずともだろうが、邪魔にならないようにと苦笑しながら注意した。

 

 ここで夕映を止める気がなかった。

むしろ、止めとけと言ってやめるなら、自分だってやめれると思ったのである。

 

 夕映は止める気がないハルナを見て不思議に思いながらも、どうして覗きに行かないのかと気がつけば聞いていた。

 

 ハルナは先ほどと同じように苦笑しながらも、こういう時はやめておくのも友人だと、悟ったようなことを話した。

ハルナものどかの決意を見た後だったので、とりあえず邪魔しないであげようという気になったのだ。

 

 そのハルナの答えに夕映は、自分はなんて浅ましいのだろうと思った。

あの普段はテンション高くてこういった面白イベントに首を突っ込んでくるハルナでさえ、のどかを信じてあえて身を引いている。

 

 なのに自分は信じると言ったのに、覗きに行く気だった。

そんな自分が恥ずかしくて許せない、夕映はそう考えながら、苦渋の決断をしたのである。

 

 

「なら、私も我慢します」

 

「ほおー、よく言った!」

 

「すばらしい!」

 

 

 それなら自分もハルナに習って、覗きに行くのをやめよう。

夕映はそう考えて、我慢することを宣言した。

 

 ハルナはそう宣言する夕映を見て、とてもいい笑顔でよく言ったと叫んで拍手を送った。

カギもまた同じように、夕映を褒め称えたのである。

 

 

「ほ、褒められるようなことじゃないと思うんですが……」

 

「まーねー。でも、ゆえも成長してくれて私は嬉しいよー」

 

「まったくだぜ」

 

 

 二人に褒められた夕映は、照れながらも別に褒められるようなことではなく、むしろ当然のことなのではないかと述べていた。

 

 ハルナもそりゃそうだと言いつつも、夕映がちょっとは成長したと思ってニヤリと笑って見せたのだ。

カギも当然夕映の決意にしびれるものを感じ、笑いながらまったくだと言っていた。

 

 

「まっ、俺は見に行くがね」

 

「カギ先生はまったく成長してません……」

 

「グアァァ! 言うな! いや! 俺だって成長してるぜ!?」

 

「どこがですか……」

 

 

 しかし、ここでカギはまたもや空気の読めぬことを言い出した。

なんということか、このカギは一人でネギとのどかの様子を覗きに行くと言い出したのである。

 

 いや、今の流れでそれはあり得ないでしょう。

夕映はそう思いながら、カギはまったく成長しないときつい言葉を言い放ったのだ。

 

 今の夕映の言葉がカギには相当ショックだったらしく、胸を押さえながら苦しむ様子を見せていた。

さらに、自分はこれでも成長していると豪語したのである。

 

 どの口がそれを言うのだろうか。

夕映は今の発言をしておいて、どこがどう成長したのかと、疑問の声を上げていた。

 

 

「いや、確かにカギ君は成長、と言うか変わったよ」

 

「わかるかハルナ!」

 

 

 だが、そこで夕映の言葉に異を唱えるものが居た。

それはハルナだった。

 

 ハルナはカギが確かに成長した、いや、人が変わったと話したのだ。

そのハルナの援護にカギは、おお、わかってくれるかといった顔で、よくぞ言ってくれたと笑っていた。

 

 

「最初に学校に来た頃なんてさぁ、顔見ただけでスケベ丸出しでさぁ~、ませたガキだと思ったよ?」

 

「え!? マジで?!」

 

「はい、それはもうバレバレでした……」

 

 

 そんな援護だったと思ったハルナの言葉も、次の言葉で一変した。

なんとハルナはカギが目の前に居るにも関わらず、カギが最初に麻帆良へ来た時は、本当にどうしようもないヤツだと思ったと言い出したのだ。

 

 なんか顔を見ればすごいスケベな感じだし、どこを見てるのかも丸わかり。

なんというませたガキなんだろう、隣に居たネギがとても知的で紳士に見えるほどだったと、いまさらながらに語りだしたのである。

 

 カギはそのハルナの話しに、ウソだろ!? と驚いた。

まさかあの時の自分がそんな変な顔だったとは、思ってなかったようだ。

 

 そんなカギに夕映が追い討ちをかけるが、夕映もハルナと同じことを当時思ったので、あの顔を見れば誰でもわかるとハッキリ答えたのだ。

 

 

「おおおぉぉぉぉぉ……」

 

 

 まさかそんなことになっていたとは、カギはその話を聞いて無性に自分が恥ずかしくなった。

 

 確かにあの時はエロいことを考えたりハーレムゲッツなど思ったりしていたが、それが表に出ていたなどと、考えたくないことだった。

その過去の情けない自分を知り、いたたまれない気分になったカギは、顔を両手で覆いながら呪詛のような声を出していた。

 

 

「でもさ、今はちょっと違うなあ。雰囲気もやわらかくなった感じだし」

 

「近づきやすくなったです」

 

「そ、そうか……。そう言ってくれるか……」

 

 

 突然変な声を出し始めたカギを見て、クスッと苦笑しながらも、ハルナはそっとフォローをした。

 

 あの時は確かに変なヤツだと思ったが、今は少し違ってきていると。

雰囲気も随分変わり棘が無くなったし、スケベな顔もさほど見られなくなった。

だからこそ、カギが変わったと話したのだと、説明するように述べたのだ。

 

 また、夕映もそれだから近づきやすくなったと、カギを慰めるように話した。

むしろ、最初の頃のままのカギだったら、絶対に従者として仮契約なんてしなかっただろうと。

 

 多少なりに雰囲気が変わり、ほんの少しだが人が良くなったカギだからこそ、夕映は仮契約をしたのだ。

 

 そんな二人のありがたいお言葉に、カギは気がつけば涙ぐんでいた。

こんなダメで情けない自分の友達になってくれてありがとう。

そう思ったら、無性に泣きたくなったのである。

 

 

「カギ君ってさぁ、もしかして泣き虫?」

 

「何かとよく泣いてるです」

 

「うっせー! 涙もろいだけだわい!」

 

 

 カギが涙ぐんで目をこすっているのを見たハルナは、カギは実は泣き虫なのではないかと口にした。

夕映もカギがよく涙を流しているのを見ていたので、よく泣く人だと話したのだ。

 

 そんな風に言われたカギは、少女たちの前で涙を見せた照れ隠しに、大きく涙もろいだけだと叫んだ。

そりゃ確かに自称であるが、大の男が女の子の前で泣くなど、恥ずかしくてみっともないと思うのは当然だろう。

 

 

「そうには見えないけどねぇー」

 

「でも、涙もろいのは悪いことじゃないですから」

 

「ゆえ、お前だけが俺の味方だ……」

 

「突然手を握って涙ぐまれても困るですよ……」

 

 

 ハルナは涙もろいだけと聞いたが、本当なのだろうかと思いそうには見えないと言葉にした。

あの愉快でスケベなカギが涙もろいとか、ちょっと信じられなかったのである。

まあ、単純に泣き虫なんじゃないかな、と思ったのだ。

 

 だが、夕映は涙もろいと聞いて、それ自体悪いことではないと言った。

涙もろいというのは、つまり感激しやすいということだ。素直に他人の言葉に感動しているのなら、悪いことなはずがないと、夕映は思ったのだ。

 

 夕映にそう言われたカギは、さらに感涙していた。

そうやって女の子に励まされた機会などなかったカギにとって、夕映の言葉はまさしく天使のささやきと同じだったのだ。

そして、感極まったカギは夕映の手を握り、お前は最高だと言い出したのである。

 

 夕映は涙と鼻水で顔を濡らすカギに、やっぱり涙もろいんだなと思いつつも、いきなり手を握られて泣かれても困るとも思っていた。

むしろ何でこんな状況になってしまったのかと、夕映も少し混乱していたのだった。

 

 

「うーん、本当にこの二人友達、つーかパートナーってだけなのかねぇ……」

 

 

 涙を流しながら夕映の手を握るカギ。

そんなカぎに手を握られ、どうしたらよいかあたふたする夕映。

この二人を見ていたら、本当に友達というだけなのだろうか、魔法使いの主従関係だけなのだろうかと考えるハルナだった。

 

 まあ、それでも自然に手を握る行為が出来るぐらいには仲がよいということだけは、しっかりと理解出来たのであった。

 

 

 

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