理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百二十二話 御伽の国への一歩

 アルス率いるネギチームは、魔法世界への入り口であるゲートを目指して歩いていた。

実際はカギが編成したチームで、カギチームと呼ぶのがふさわしいのだが、今この場にその本人はいない。

 

 

「霧が晴れてきた……」

 

「ようやくお待ちかねってやつだ」

 

 

 彼らはゲートへ向かって歩き、ようやく霧が晴れる場所まで辿り着いた。

そここそが、ゲートのある場所であった。

 

 アルスはここが終点だと言葉にし、誰もがようやくゲートへ辿り着いたことを理解した。

 

 霧が晴れたことにより、朝の日差しが差し込むようになり、その場所はとても幻想的な場所に映った。

 

 また、彼らの目の前に登場した物体、それは何本もの岩の柱だった。

それはストーンヘンジと呼ばれる構造物だったのである。

 

 そして、目の前にあるストーンヘンジなる構造物こそが、ゲートそのものなのだ。

 

 

「わあ……」

 

 

 誰もがその美しい光景に目を奪われていた。

このような光景はめったにお目にかかれない。とても神秘的で、まるでおとぎ話の世界のようであった。

 

 

「んー! ちかれたー!」

 

「スゴーイ!」

 

 

 霧の中を歩いてきたので、少し疲れを感じたハルナは、体を伸ばしてリラックスし、木乃香はゲートの光景に目を光らせ、感激してた様子を見せてていた。

 

 

「こりゃ確かにすげぇ……」

 

「ストーンヘンジというやつか」

 

「ストーンヘンジ? 大砲じゃねーのか?」

 

 

 状助もその光景には驚かざるを得なかった。

当然状助とてストーンヘンジなんて生で見たことがなかったので、心を震えさせるには十分な光景だった。

 

 また、法もその建造物になるほど、という声を出しており、カズヤはストーンヘンジという単語に、戦闘機のゲームに登場するような大砲ではないのかとボケたことを言葉にしていた。

 

 

「ほー、意外とたくさん人がいてはるなー」

 

「これでも少ない方だ」

 

 

 そこで、ふと見るとゲートの外周付近に人だまりができているではないか。

木乃香はそれを見て、自分たち以外にも結構人が来ているんだな、と考え、それが自然と口に出ていた。

その言葉にアルスは、あれでも多くはないと話した。

 

 

「魔法世界へ行くゲートは世界に数箇所しかない上に、扉が開くのは一週間に一度ぐらいだ。ヒデェ時は一月に一度ぐらいになる」

 

「へー」

 

 

 魔法世界へ渡るためのゲートは、ここ含めてさほど多くはない。

アスナが過去に通った場所も、数少ないゲートの一つでしかないのだ。

 

 さらに言えば、ゲートが開くタイミングが一週間に一度ぐらいしかない。

しかも、それがいい方であり、最悪は月に一回ということだってありうるのである。

 

 アルスはそれを説明すると、木乃香はふむふむ、という顔で理解した様子を見せていた。

 

 

「一週間に一度かー。そりゃ交流ないも同然ねー」

 

「確かに鎖国って訳だ」

 

 

 一週間に一度しか通過できない。

それじゃ確かに交流なんてあるはずもない。

そう苦笑してメモを取るのは和美だった。

同じくそれなら確かに事前の説明での鎖国と言うのも頷けると、千雨がこぼしていた。

 

 

「けど、楽しみやなー! まほーの国!」

 

「とは言うがよ、京都も十分魔法の国だと思うがな」

 

「え? マジなんか!?」

 

「おう、大マジよ!」

 

 

 だが、そんなことなどお構いなしと言う態度を見せるのは小太郎だ。

魔法世界はどんなもんなのか、どんなことがあるのか、どんなすごいヤツがいるのか。小太郎の頭にはそれしかなかった。

 

 が、魔法の国と聞いて反応したのは、このゴールデンなるバーサーカー。

なんとバーサーカーは、小太郎の生まれの地、京都も魔法の国だと言うではないか。

小太郎は大いに驚き、バーサーカーは笑って当然だと断言したのだ。

 

 

 そもそも、京都は昔から魑魅魍魎がさまよう魔境。

それを退治したりする陰陽師や対魔師などが存在した。

 

 今でもそれは残っており、それを管理するのが関西呪術協会なのである。

何せ未だに妖怪変化が住まう山もあるのだ。

近くに妖精が住んでいる、と言うのと差がないだろう。

 

 まあ、実際一般人がそう言った術を操る訳ではないので厳密に言えば違うのだが。

それでも昔の京都を知るバーサーカーは、それを考えれば十分京都はメルヘンやファンタジーな魔法の国ではないかと思ったのである。

 

 

「しかし、まだ扉は開かぬでござるか?」

 

「ふむ、まだ1時間以上あるな」

 

 

 また、ゲートに着いたのはいいが、いつそれが開かれるのかわからない楓は、それをアルスへ聞いた。

アルスは自分の腕時計をチラっと見て、扉が開くにはまだまだ時間があると話した。

 

 

「兄さん来るかなあ……」

 

「一応残してきた妻に頼んでおいてあるが……」

 

「本当ですか! なんかすいません……」

 

 

 ネギはその時間を聞いて、その間にカギが来ればいいな、と言葉にしていた。

アルスもカギがここへ来れるように、ドネットに頼んできたと述ベた。

 

 それにネギは少し明るい様子を見せた後、申し訳ない気持ちを感じ頭を下げたのである。

 

 

「なに、気にするこたねえ。全部起きなかったお前の兄貴が悪いんだからな」

 

「……まあ、そうですね……」

 

 

 とは言え、悪いのは起きてこなかったカギ本人。

ここに来ることができなくても、迷惑をかけてここへ来ても、どっちにしろカギの責任になるのだ。

それをアルスは少し呆れながらに苦笑して言い、ネギもそれに同意していた。

 

 

「時間がまだあるなら、ここら辺で朝ごはんでも……」

 

「飯アルか?」

 

「はよ食わんとなくなるで?」

 

「ちょっとコタロ!! そのサンドイッチ私のでしょ!?」

 

 

 ゲートが開くにはまだ時間がある。

そして、朝早く出てきたので朝食がまだだった。ならば、ここで朝食を済ましてもよいだろうと、アスナは考え話そうとした。

街で朝食をとることは出来なかったが、いつでも食べれるようにとお弁当として用意してきたのだ。

 

 が、すでに古菲と小太郎がシートを広げ、お弁当をつまんでいるではないか。その素早い動きに、流石のアスナも呆れていた。

 

 また、小太郎が食べていたのはなんとアーニャのものだった。

アーニャはそれに文句を言いながら、小太郎の方へと駆けて行ったのである。

 

 

 そんな和気藹々とするネギたちを、少し離れた場所から見ているものがいた。彼らと同じように白いローブで身を隠し、表情すら見ることができない。男か女かもわからぬその人物の視線は、確かにネギたちを捉えていた。

 

 

「……」

 

 

 静かに、そして気が付かれぬよう気配を消し、ただただネギたちを見ているこの人物。

アーチャーと名乗った転生者に見えるかもしれないが、それは彼ではなかった。

何せアーチャーはバーサーカーなどと一戦を交えている。

気配でバレてしまう可能性があった。

 

 故に、その彼らがまったく知らない人物が、ネギたちを監視していたのである。

そう、この謎の人物もまた、アーチャーの仲間ということになるだろう。

 

 だが、今は監視のみに集中しており、特に何かをしようと言う感じでもなかった。

まるで、何かを待っているような、その時に備えているような、そんな雰囲気でもあった。

 

 

 

…… …… ……

 

 

 ゲートが開く間、誰もが暇をもてあましていた。

そんな時、夕映は暇を潰すためか、自分の知識を静かに語りだした。

 

 

「かつてケルトの民は、このような石柱(メンヒル)の立ち並ぶ丘の地底や湖の底や海の彼方に……」

 

 

 夕映が語りだしたのは、目の前にあるゲート、ストーンヘンジのような建造物についてだった。

さらに、異界などの起源についても語りだしていた。

 

 

「で……、我々が今から向かう”魔法世界”ですが、そのような意味での”異界”に最も近く、またその起源も……」

 

 

 いやはや、非常に長いうんちくだ。夕映は未だに話したりない様子であり、このままでは何時間と語ったままになるだろう。

 

 

「ゆえゆえー、聞いてないよ?」

 

「何ですと!?」

 

「ほら早く! 時間だってよ!」

 

 

 が、そんな長いうんちくを聞くような連中ではない。

それをのどかに言われると、夕映はショックだったのか大声を出して驚いた。

 

 びっくりするくらい誰ものってこなかった、とはこのことだろう。悲しいことだ。

また、ゲートが開く時間が近くなったので、ハルナが二人に呼びかけていた。

 

 

「兄さん……」

 

「そういえばカギ先生、来なかったわね……」

 

 

 ネギも時間となったのでゲートのサークル内へと歩みだした。

しかし、肝心のカギは一向に姿を現さない。

 

 ギリギリ間に合うのだろうか、むしろ今も寝ているのだろうか。

ネギにはそんな不安がよぎっていた。

 

 アスナもネギを見て、カギが来なかったことを思い出した。

確かに久々の自分のベッドで寝るというのは、なんとも言えない気持ちよさなのかもしれない。

 

 それでも約束どおり目を覚ますのが道理。

間に合わなくともそれはカギの自業自得だ。仕方ないとも思っていた。

 

 

「全員、この第一サークルの中に集まれ。もうすぐゲートが開く時間だ」

 

「オー!」

 

 

 とりあえず時間となったので、アルスは周囲の子たちに号令をかけた。

それに誰もが元気よく返事をし、悠々とサークル内へと集まっていった。

 

 

「うーむ……」

 

 

 だが、アルスは本当に魔法世界へ、彼女たちを連れて行って大丈夫だろうかと悩んだ。

止められない流れだとしても、自分がここまで連れてきたにせよ、本当にこれでいいのだろうかと苦慮したのだ。

 

 これが”原作どおり”の流れであっても、かなり危険なことになると言うのはアルスが最も理解していることだ。

こちらには一応強力な助っ人がいるとは言え、安心などできるはずがない。

 

 それに、自分たちのような転生者が、敵になる場合も考えていた。

いや、確実に敵になるだろう、そこまで考えていた。

すれば、どんな転生者が待ち構えているかわからない。

 

 特典は鍛えなければあまり役に立たない。

鍛錬が足りない転生者のみなら、さほど苦労はしないだろう。

 

 が、そんな甘いことはないはずだ。

アーチャーという男も、鍛え抜かれたというほどでもないが、ある程度鍛えている様子だった。

 

 それだけではない。

敵となる転生者の数も未知数だ。

大多数に攻撃されれば、こちらもただではすまない。

とても厳しい戦いになるだろう。

 

 

 このゲートはそのあたりの空港よりも警備もチェックも厳重だ。

そのような輩がいれば、すぐにわかるはずである。

 

 それでも、自分のような転生者ならば、入り込める可能性もある。

ならば、すでにここに、そのような転生者がいるのではないか。

 

 そう考えたアルスは、すっと周りを見渡した。

が、はっきり言って誰もが白いローブを纏った状態だ。

その程度では、転生者を特定することなど不可能だ。

 

 それに、自分がまぎれるとするならば、きっと気配を消して見つからないようにするだろう。

アルスはそう考え、大事にならないよう祈るしかなかった。

 

 

 しかし、やはりアルスの祈りは届かないようだ。

”原作どおり”こっそりと付いてきた他の3-Aの少女たちが数人が、すでにネギたちを遠くから眺めていた。

やはり、と言うか、何故か、と言うか、桜子が持つ未知数(EXランク)の幸運が、ここまで導いたのである。

 

 さらに、なんとあのまき絵、サークル内へと入っていくではないか。

あやかは当然のこと、流石の美砂も止めようと叫ぶが、そんなことなどお構いなしに進むまき絵。

どうやら裕奈がどうしてここにいるのか、問いただしたいようだ。

 

 また、裕奈と仲の良い亜子やアキラも、その後ろへとついていってしまった。

さらに、あの夏美もこっそりとその後をついていったのだ。

 

 このままではまずいと考え同じく止めに入った三郎は、そのまま引っ張られる形でサークルの中へと侵入していた。

あやかも三郎と同じことを考えたのか、まき絵たちを連れ戻すためにサークルの中へと入っていってしまった。

 

 

「むっ……、時間だ」

 

 

 だが、そこでついにゲートが開く時間となった。

アルスはそれを察し、ぽつりと言葉を溢した。

 

 すると、なんという光景だろうか。

突如としてサークル内の地面が一瞬で輝きだし、まるで蛍光灯の上に立っているような状況になったのだ。

 

 

「すごい! 地面が光った!」

 

「おー、ワクワクしてきた!」

 

「これが次元跳躍大型転移魔法ですか」

 

「ついに魔法世界デビューかー!」

 

 

 ハルナはその状況に驚き興奮し、和美も同じく期待を胸にして喜んでいた。

それとは対照的に冷静にこの状況を分析するのは、当然この夕映だ。

 

 また、ハルナや和美と同じようにはしゃぐのは、裕奈であった。

裕奈は生まれも育ちも麻帆良であり、魔法世界へ行ったことが一度もなかった。

 

 魔法使いの本国は確かに魔法世界にあるが、特に行く理由も必要もなかったからだ。

故に、同じ魔法生徒の美空と違って、魔法世界へ行ったことがなかったのである。

 

 

 しかし、この発光現象で、慌てふためくものたちがいた。まき絵たちだ。

彼女たちはすでにサークル内に入ってしまっており、この状況に慌てふためいていた。

 

 これはまずい、何かヤバイ。そう思ったがすでに遅い。

どうしようか、どうしようか、慌てる少女3人。

 

 それをなんとか必死で何とかしようとする三郎とあやか。もはやどうしようもない状況だった。

 

 

「とうとう兄さんは来なかった……」

 

「まあ、もう一度開くように頼んでは見るさ……」

 

「すいません。兄さんの為に……」

 

「気にすんな。開くかはわからんしな」

 

 

 そして、カギがついに間に合わなかったことに落胆するネギがいた。

本当ならば、魔法世界への一歩を踏み出したことを喜ぶ場面なのだが、肝心のカギがいないことを心苦しく思っていたのだ。

 

 そこでアルスは、カギのためにもう一度ゲートを開くように頼んでみるとネギへ話した。

ネギはそんなことをしてもらってもいいのだろうか、と思いながらも、お願いしますと丁寧に頭を下げた。

 

 ただ、アルスもそれができるかはわからないと、苦笑しながら言葉にしていた。

まあ、アルスはカギの父親であるナギの名前を出せば、ゲートを開いてくれるかもしれないとは思っていたのだが。

 

 

「来た来たー!」

 

 

 光はどんどん強くなり、サークルの上空には巨大な魔方陣が構築され始めた。

ハルナたちはもうすぐ転移だと喜びの声をあげながら、その上空を眺めていた。

 

 

「……」

 

 

 ただ、アルスや状助は非常に難しい顔をしていた。

このまま何もなければよいが、そう考えながら、その光に呑み込まれてたのだった。

 

 それ以外にも、脱出を試みようとサークルの外へと走るまき絵たちの姿もあった。

しかし、それは果たされず中断されることになってしまった。

そう、彼女たちもこの光に飲まれ、消えていったからだ。

 

 ……こうして、ゲートの転移は無事に終わり、魔法世界へと足を進めたのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 光が収まると、周りの景色は一変していた。

芝生が生い茂げる草原だった地面は、硬い石作りの床へと変貌。

 

 綺麗な朝の日差しがまぶしい青空が見えていたはずが、どこかの建物の中なのか屋根や壁などで見えなくなっていた。

 

 

「あれ?」

 

 

 ハルナは移動の際に発生した発光と、衝撃に備えて目を瞑っていた。

が、恐る恐る目を開けば、既に移動が完了しているではないか。

 

 

「もう着いたんですか?」

 

「ああ、着いたぞ」

 

 

 移動したことを体感できなかったハルナは、もう着いたのかとアルスへ尋ねると、アルスは平然とした態度で、着いたと答えた。

何せ転移は一瞬で済むので、体で何かを感じたり移動したという実感がわかなかったのだ。

 

 

「ココどこなん?」

 

「ゲートポート、空港みたいな場所さ」

 

 

 また、木乃香は転移してきた今いる場所がどこなのかと考えた。

それを同じくアルスへ聞けば、空港みたいな場所であるゲートポートだと返ってきた。

そう、ここは魔法世界と全ての旧世界のゲートをつなぐ場所なのだ。

 

 

「……異常はないか?」

 

「今のところは特にはねぇっス」

 

「考えすぎであることを願うぜ……」

 

「俺もそう思うよ……」

 

 

 そこでアルスは状助の近くへ移動し、小声で話しかけた。

今のところは何もないか、問題は発生してないか、敵の姿はないか確認しあったのだ。

 

 状助もそのあたりを警戒しているのか、キョロキョロ周りを見ながら問題ないと話した。

アルスはこのまま何事もなく終わればいいとため息混じりで言葉にし、状助もそれに同意しながらうなだれていた。

 

 

「いや、いいね! 転送は!」

 

「ホント楽ー! 現実でも実用化しないかな」

 

「いやはや、なかなか摩訶不思議なものですな……」

 

 

 転移とはなんと便利なものだろうか。

一瞬の内に他の場所から移動できてしまう。気が付いたら移動している。

ハルナはこれは便利だと笑いながら語っていた。

 

 和美も同じ気持ちだったようで、これが麻帆良などでも使えればいいのに、と言葉にしていた。

そして、その横でマタムネも、摩訶不思議な存在だというのに摩訶不思議なものだと、静かに述べていたのだった。

 

 

「あそこを上がれば入国手続き前に街を眺められるぞ」

 

「ホンマ!?」

 

「おぉ!」

 

 

 また、外に出るためには入国手続きが必要だ。

それには多少時間がかかる。

 

 なので、その間に外が見れる場所で、魔法世界を堪能するのも悪くはないだろうと、アルスはその場所を彼女たちに教えてあげた。

 

 すると案の定、それに飛びついてきた。

彼女たちはかなりの元気をもてあましているようだ。

 

 さらに、魔法世界の首都というものにも非常に興味を示していた。

そんな彼女たちが、そのまま待っている訳もなく、黙っている訳もない。

 

 

「行ってきまーす!」

 

「お先ー!」

 

「待て待てー!」

 

「ちょっと待ってこのか」

 

 

 木乃香やハルナ、それに裕奈は、当たり前のように我先にとその展望台へと走り出した。

まるで骨を投げ、それを追う犬のような素早い動きだ。

 

 それに続いて夕映やのどかもそちらの方へと走り出した。

だが、アスナはそこで走り出した木乃香へと、待ったをかけた。

 

 

「近衛名義で席の予約してたんだから入国手続きを手伝ってほしいんだけど」

 

「そやったな!」

 

 

 このゲートの乗り入れに、近衛名義で予約していた。

なので、入国手続きも当然木乃香がいなければならない。

アスナはそれを木乃香へ話すと、木乃香も笑ってそうだったと言葉にした。

 

 

「んじゃ、ネギ先生もまずは杖などの受け取りを」

 

「ハイッ」

 

 

 アルスも入国手続きと同じように、杖や仮契約カードなどの受け取りをするようネギへと言った。

ネギもそれに元気よく返事し、そちらの方へと歩いていった。

 

 

「で、これからどうするでござるかな?」

 

「何でもネギの父親の昔の仲間が迎えに来るっちゅー話やで」

 

「ほうほう」

 

 

 そして、楓は今後の予定についてを考えた。

小太郎はそれに、ネギの父親であるナギの仲間が、ここまで迎えに来る予定だと話した。

 

 それなら問題ないだろうと、楓は思ったようである。

近くで聞いていた古菲も、なるほどなるほどと頷いていた。

 

 迎えに来るナギの仲間、それはあのガトウだ。

ガトウは色々訳があってメガロメセンブリアから離れることをしなかった。

なので、一番近くにいる彼が、ネギたちを出迎える予定になっていたのだ。

 

 

 一方、展望台へと走ったハルナ、裕奈、夕映、のどかの4人は、その場所へと着く寸前であった。

 

 もうすぐだ、もうすぐだ。

どんな世界が外に広がっているのか期待しながら、彼女たちはよりいっそう足を速めるのだった。

 

 

「ここを上がった先が展望テラスだって!」

 

「うっふっふー! 魔法の国の首都かー!」

 

「どんな風景が待ってるですかね」

 

「ワクワクするねぇ!」

 

 

 階段を上がりきった場所が展望台となっている。

のどかはそれを話すと、ハルナは魔法の首都がどういうものなのかに興味を示すようなことを口走った。

 

 夕映も同じ気持ちのようで、はやく外を眺めたいと考えていた。

裕奈も当然期待を膨らまし、はじめて見る魔法世界の街並みに興奮を隠せないでいた。

その4人は急ぐ気持ちを抑えながら、必死に足を動かし階段を駆け上がって行ったのだった。

 

 

「到着!」

 

 

 そして、ようやくそこに辿り着いた彼女たちの目の先には、とても言葉で言い表せないような光景が待っていた。

 

 まさに桃源郷はここにあった、と言うには少し大げさだろうか。

だが、それほどまでに、4人を感動させるには十分な景色だった。

 

 

「おおー!」

 

「すっすごい…!」

 

 

 そこには、まるでファンタジー、というような、普通は見ることができない街並みが眼下に広がっていた。

 

 空を飛ぶ鯨や魚介類。まるで中国の山奥のように、聳え立つ巨大な岩の柱。

その上に建造されたファンタジックな建物。

その下に立ち並ぶ円筒状のビル郡。全てが旧世界にはなかった、すさまじい光景であった。

 

 

「いい! いいね! 流石ファンタジー!」

 

「来てよかった!!」

 

 

 ハルナたちはその光景に、驚き、興奮し、喜びと達成感を感じていた。

 

 すごい、すごすぎる。

まさにファンタジーな街並みは、彼女たちをいっそう元気にさせるには十分であった。

 

 来てよかった。来た甲斐があった。

彼女たちは大いにはしゃぎ、その景色をマジマジと眺めるのだった。

 

 

「なんだ、現実とかわんねーな」

 

「何言ってんの! あれを見てよあれを!」

 

 

 しかし、それに異を唱えるものが、突如後ろから現れた。それは千雨だ。

千雨もそのテラスへとやってきて、外の街並みを見たのである。

が、その意見は淡白なもので、まるでつまらなそうな表情をしていたのだった。

 

 そんな千雨に、そんなことはないと叫ぶハルナ。

あの光景が現実(リアル)と同じなんて、普通に考えればおかしいと、もっとよく見てくれとハルナは言った。

 

 

「鯨が空飛んでるじゃんか!」

 

「現実+空飛ぶ鯨だろ……」

 

「もー! 何でそんなに冷めてるのかなー!」

 

 

 鯨が空を飛んでいる。これのどこが現実的なのか。

ハルナはそれを必死で訴えた。

 

 が、千雨はそれも否定する。ただの飛行機みたいなものが、鯨の形をして飛んでいるだけだと。

そんな千雨にハルナもたじたじで、冷めすぎだと嘆いていた。

 

 

「確かに、少しひねくれすぎだと思うぞ」

 

「なっ! いつの間に!」

 

 

 すると、さらに後ろから男子の声が聞こえてきた。それはあの法の声だった。

その横にはカズヤもおり、外の景色に興味を示していた。

 

 さらに法は千雨の乱暴な意見に、少しばかりひねくれているとたしなめた。

そう言われた千雨は、突如後ろに現れた法に驚くのが精一杯だったようだ。

 

 

「なんだかんだと言っておきながらも、ここに来るということは、多少なりに興味があった証拠だろう」

 

「んな訳あるか!」

 

「本当にそうか?」

 

「……まあ、少しぐれーはあったかもな……」

 

 

 また、法は千雨もなんだかんだと言いつつも、魔法世界に興味があったのではないかと語った。

でなければ、労力を使ってここまで外を眺めには来ないだろうと思ったからだ。

 

 千雨はそれを必死で否定した。

そんなことはない。ありえないと。

 

 だが、法にさらに追求されると、千雨はそっぽを向いて、少しぐらいは興味があったのかもしれないと、法の言葉を肯定した。

 

 まあ、興味がまったくなければ階段を上ってまで、外を見ようなど思わないだろう。

ほんの少しでも興味があったから、こうしてこの場所に立っているのだから。

 

 

「なーんだ! 千雨ちゃんもこーゆーのに興味あった訳だ!」

 

「確かに興味はあったさ。だけど見た瞬間失ったよ」

 

「何で!?」

 

 

 ハルナは千雨が魔法世界に興味があったことを知り、悠々とそれを叫んだ。

 

 しかし、千雨はやはりひねくれもものだ。

見た瞬間に興味をなくしたと皮肉な笑いを見せながら言い出した。

 

 そんな千雨の暴言に、ハルナは嘘だろ……? という様子で驚き、いつもよりも大きな声で何故かと叫んだ。

 

 

「どうせ、ここも現実と同じでメンドーな世界が広がってるだけだぜ、どの道くだらねー」

 

「何でそういうこと言うの!」

 

 

 千雨は魔法世界にも現実と同じようなルールがあり、同じような悩みがあるんだろうと悟ったようなことを考えた。

ならば、そこに違いなんかありはしないと持論を言い出した。

 

 それにハルナは、違うのだ! と言いたそうな顔をして見せた。

そうかもしれないけど、もっと夢を見てもいいじゃないか、ハルナはそう思ったのだ。

 

 

「とは言うが、顔は薄ら笑みを浮かべているように見えるがな」

 

「ぬっ……うっせーな……」

 

 

 とは言う千雨も、うっすらと笑っているのだ。

法はそれを鋭く指摘すると、千雨はテレながら、やさぐれたような声を出すことしかできなかった。

 

 

「まっ、どうでもいいけどよ。さっさと外出てぇなぁ」

 

「慌てるな、今手続きしてもらっているところだ」

 

「んなもんあんのか。長谷川の言うとおりメンドーな世界ってのも間違っちゃいねーな」

 

 

 そんなことなどどうでもよさそうにするカズヤは、こんな場所で外を眺めるよりも、さっさと外に出たいと考えた。

だが、外に出るには入国手続きが必要だ。

それが終わらない限り、外に出ることはできないのである。

 

 それを法から説明を受けたカズヤは、なんと現実的なことかとつまらなそうに吐き出した。

そんなもんがあるなら、確かに千雨の言うとおり、魔法の国とやらもファンタジーもクソもない、現実と変わらないのだろうと思ったのである。

 

 

 また、魔法世界(ここ)へと久々にやってきたことに、懐かしみを覚えるものがいた。エヴァンジェリンである。

エヴァンジェリンとその従者である茶々丸も、しっかりとこの場所へと降り立っていた。

 

 ただ、チャチャゼロは殺人人形という扱いなので、とりあえず杖や仮契約カードと一緒にしまわれてしまっていたのだ。

その時はとても汚い罵倒を吐きに吐いていたのだが、高い酒を飲ませるという約束をして、おとなしくしてもらったのであった。

 

 最近は日本に定住してしまっており、あまり戻る機会がなかった魔法世界。

それに戻ると言えば基本的に、あの皇帝が治めるアルカディア帝国だ。

魔法世界そのものは、エヴァンジェリンも久々なのである。

 

 

「久しぶりの魔法世界……か……」

 

「エヴァちゃん?」

 

 

 久々の魔法世界の空気に、エヴァンジェリンは昔のことをふと思い出しながら、小さく一言こぼした。

アスナはそんなエヴァンジェリンへと、どうしたのだろうかと思い声をかけていた。

 

 

「いや、なんでもないさ」

 

「ふーん?」

 

 

 だが、エヴァンジェリンはしれっとした態度で、なんでもないと言葉にした。

感傷に浸っているなど、ガラではないと思ったからだ。

 

 アスナはそんなエヴァンジェリンを、いつもよりも変な感じだと思った。

まあ、それでも本人がそう言うのなら言及するのもヤブだと思い、とりあえず入国手続きを済ますことにしたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 入国手絵続きを終え、後は武器の携帯の許可を取るのみを残すだけとなったネギ。

流石父親が有名なだけあり、ネギに握手を求める職員の姿もあった。

 

 

「おーい、ネギ先生」

 

「え? なっ、何でしょうか!?」

 

 

 そんな時、アルスが急いでネギの下へとやってきた。

とは言え、顔には多少余裕があり、本気で急いできたという感じではなかった。

 

 ネギは突然呼ばれたことに困惑し、何かしたのだろうかと思ったようだ。

もしかしたらカギが来たのかもしれない、そういう期待もほんの少しだがあった。

 

 

「なんつーか、ゲートに密航者って言うか……、お前さんの生徒が来ちまってる」

 

「え!?」

 

 

 アルスはネギへ、どうして呼んだかを頭をポリポリとかきながら、悩んだ様子で説明した。

先ほどの転移にて、ゲートへ密航者が現れたと。

それはネギの生徒であると。

 

 そう言うアルスはまるで、ちょっとした子供のイタズラを見かけてしまった大人のような、そんな態度だった。

 

 しかし、彼は知っていた、このアルスはこうなることを予想していた。

そして、アルスの内心は外見のように穏やかではなかった。

 

 はっきり言ってマズイ事態になってきた、そう思っていた。

いや、多分こうなるんじゃないか、アルスはそう考えていた。

が、こうなってほしくはなかったと、本気でそれを願っていた。

 

 また、ネギはそれに驚き、本当かどうかを確かめるべくそこへと即座に足を運んだ。

本当ならば何とかしなければならないし、人違いならばそれで安堵するだけだ。

 

 

「あっ!」

 

「ネギくーん!」

 

「コレ一体どうなってるのー!?」

 

「あっ、ネギ先生……!」

 

 

 ネギや、ネギの近くにいた刹那やアスナがそこへ行けば、なんと本当にネギの生徒が数名の警備兵に囲まれているではないか。

そこにいたのはまき絵、亜子、アキラ、さらにはあやかまでいたのだった。それにオマケのように、三郎がちょこんと座っていた。

 

 しかし、そこには彼女たちについてきていたはずの夏美の姿がなかった。

なんと夏美はここへ転移した後すぐに、詳しく知ってそうな人にこの場所を聞くために、走ってどこかへ行ってしまったのだ。

なので、それ以外の子たちがここで拘束されていたという訳だった。

 

 そして、まき絵と亜子は涙目になりながら、いったいどうしたらよいかわからないという様子だった。

アキラやあやかも何がなんだかわからないという感じではあったが、とりあえず取り乱してはいなかった。

 

 ネギが近くまで来てそれに気がつき声を出せば、まき絵と亜子はそれにすがるような声を出していた。

あやかはネギが姿を見せたことで、安堵した様子をみせていた。

 

 アキラは依然キョトンとした顔のままネギを見ており、三郎はむしろ状助を探すために周りを見渡していたのだった。

 

 

「まっ、まき絵さん!?」

 

「なっ! それと三郎もかよ!」

 

「え……? いいんちょ……? なっ、何で……?」

 

 

 ネギはまき絵たちがここにいることに、盛大に驚いた。

普通は入って来れないゲートへ、侵入し、あまつさえゲートポートまで転移してきてしまっていたからだ。

 

 さらにそこへ状助が現れ、三郎の顔を見て驚いた。

嘘だろ承太郎と言いたげな、そんな顔で驚いた。

 

 それ以外にもアスナまで驚いた。

特にあやかがいることに、取り乱しそうになるほどに驚愕した。

 

 

「あっ、状助君」

 

「あっ、じゃあねーつぅのよぉーッ! 忠告しておいたじゃあねーかッ!」

 

「……ごめんよ……。止めたんだけど、止められなくて、成り行きで……」

 

 

 三郎は状助の登場を待ちかねていたかのように、その名を呼んだ。

状助はそんな三郎に、忠告しておいたのに何やってんだこの野郎ッ! と叫んだ。

大いに叫んだ。本気で叫んだ。

 

 そりゃそうだ。

こうならないために、三郎に忠告をいれ、あまつさえ彼の近くにいる彼女たちを止めるように言っておいたのだから。

 

 三郎はそう声を荒げる状助へ、申し訳なさそうに謝った。

いや、そのとおり、言われていたのになんという体たらくか。

 

 止めようと思ったし、実際止めようと頑張った。

が、その結果がこれではなんと情けないことか。

三郎は自分がなんとも情けない男だと、悔いた様子を見せていた。

 

 

「何でいいんちょまでも、ここにいるのよ……!」

 

「それは……、みなさんについていったら、何故かこうなってしまいましたわ……」

 

「……ハァ……、まあ、こうなるなんて予想してなかったのが悪かったわ……」

 

 

 アスナもあやかへと、どうしてここにいるのかと叫びたくなるのをこらえながらも、冷静な態度を装うように発言していた。

 

 あやかはアスナの言葉に、何か言いたそうにしながらも、それを喉の奥へと押し込ませ、適当ないい訳を話した。

まさか本人の前で、アスナのことが気になったから、などと言える筈がないのである。

 

 アスナは目の前のあやかが縮こまり、ここへ来てしまったことを悪いと思っているのを見て、怒りを拡散しつつ小さくため息をついた。

そして、こうなることを予想しなかった自分も悪かったと、反省しながら言葉にしていた。

 

 アスナもあやかがイギリスに来ることは知っていたし、そのぐらいは了承していた。

だが、一般人のあやかたちが、厳重なゲートへの道のりをかいくぐり、ゲートを通過してしまうなど、考え付かなかったのである。

 

 故に、危険な場所へ行くからついて来るな、と強く言い聞かせることもなかった。

それにより、こうなってしまったとアスナは考え、自分が浅慮だったと悔やんでいた。

 

 いや、本来ならありえないことだ。

が、それをありえさせてしまったのは、あの桜子の幸運だった。

自分のクラスメイトがこれほどまで、殊勝な人間の集まりだったとはと、いまさらながらアスナは思い知っていたのだった。

 

 

「オイオイオイ、グレートすぎるぜこの状況はよぉー……」

 

「うーむ、さてどうしたことやら……」

 

 

 状助は、この状況に焦りを感じていた。

ほとんど原作どおりであるこの状況に、非常に危機感を覚えたのだ。

 

 アルスもさて、どうしたものかと考えた。

彼女たちを旧世界へ返すのはまあ難しいことではない。

ただ、その後の処置などを思慮しながら、腕を組んで悩んでいたのだ。

 

 また、木乃香や楓たちもこの場所へ戻ってきて、困惑するまき絵たちを少し離れたところから見ていた。

木乃香たちも同じように、どうして彼女たちがここにいるのかわからず、混乱しそうになっていたのだった。

 

 しかし、その時、なんとも言えないすさまじい重圧(プレッシャー)が、彼らを襲った。

 

 

「――――!」

 

「……おい……」

 

 

 アルスはそれにすぐさま気が付いた。

なんだこの、鋭い殺気は。

 

 騒ぎで何かあったのかと顔を出したエヴァンジェリンも、当然それを察知していた。

ただ事ではない、この圧倒的な威圧感(プレッシャー)を。

 

 

「何だ……? この重苦しい空気は……」

 

「……チッ……」

 

 

 アルスは冷や汗をかきはじめ、何かマズイことが起こると予感した。

何者だろうか、敵か、転生者か。誰かがこちらを狙っている。

そうとしか考えられない、そんな空気を感じていた。

 

 エヴァンジェリンも、面倒なことになりそうだと考え、自然と舌打ちをしていた。

いや、そうなることを予想してついてきていたエヴァンジェリンだ。

が、それでもスムーズにことが進むことを願っていたのは事実だ。

戦うことなど、面倒がない方がよいと思うのは当たり前だからだ。

 

 

「……警備兵、外部へ連絡を」

 

「それはどういう……?」

 

「急げ! 何が起こるかわからんぞ!」

 

 

 アルスはすぐさま近くで待機していた警備兵へと指示を出した。

しかし、その指示は防衛ではなく、外部との連絡だった。

 

 何故ならここの警備兵では、()()()()()()()()()()()には歯が立たないからだ。

さらに言えば、戦闘になった場合、この場所と外部が遮断され、連絡が取れなくなることを、アルスはあらかじめ知っていたからだ。

 

 ここにはナギの仲間が、ネギを迎えに来る手はずになっていた。

その人物は、既に外にいるかもしれない。

 

 だが、外部と遮断されてしまえば、その人物が応援に来ることはないだろう。

故に、まずは外への連絡の確保こそ最優先だと、アルスは考えたのだ。

 

 そんなアルスの心境がわからない警備兵は、一体何事なのかと困惑していた。

アルスは戸惑う警備兵へ、大声で叫び急いで連絡するよう呼びかけた。

 

 

「おいおい、何焦ってんっスか!? 冗談きついっスよぉ~……」

 

「冗談だったら笑い話で終わるだけだ。いや、その方がいっそいい……」

 

 

 状助は、アルスの態度を見て、同じく嫌な汗をかきながらも、ギャグだよな? と聞いて現実逃避らしき行動をとっていた。

状助とて、この状況がまずいことを理解している。

が、そうなって欲しくないという願望が、彼をそうさせていたのだ。

 

 アルスは焦りを堪える状助へと、それならよかったと語った。

アルスも状助と同じように、平和に終わればよしと思っていたからだ。

面倒なことになった、面倒なことは嫌いだというのに、そう愚痴を思いつつも、これからヤバイことになるぞ、と改めて焦りを感じていた。

 

 

「茶々丸……、貴様も自分のクラスメイトを守れ。私はそう守ってはいられそうにないぞ……」

 

「……マスター?」

 

「わかったな?」

 

「……了解しました」

 

 

 さらにエヴァンジェリンも、茶々丸へと命令を下した。

自分のクラスメイトを守れと。そして、自分は守りに徹することはできないだろうと、ぽつりと語った。

 

 この緊張感、何か強大な力を持ったナニカがいるに違いない。

エヴァンジェリンはそう睨んだからだ。

 

 ただ、茶々丸は未だ実質的な実戦経験がない。

確かにネットワーク上での戦いや模擬戦は行ったが、こういったことは一度もなかった。

なので、この緊迫した空気を読み取れず、エヴァンジェリンの指示を一瞬理解できずにいた。

 

 エヴァンジェリンは苦虫をかんだような表情で、もう一度茶々丸へ言った。

今は何も聞かず命令に従え、そう言う雰囲気を出しながら。

 

 茶々丸は突然臨戦態勢となり、鋭い表情となったエヴァンジェリンを見て、理解せずともそうしなければならないことを理解した。

 

 何かが危ない。

危険が迫っている。

それだけは間違いなく理解していた。

 

 

「お前ら! 戦えるものは戦えない子たちを守れ!」

 

「え? 一体何が……」

 

 

 アルスも、アスナやネギへと指示を出す。

戦えるものは戦え、戦えないものは固まれと。

しかし、ネギもこの状況に戸惑い、何がどうしたのかわかっていなかった。

 

 そも、ここのネギは大きな実戦経験がほとんどない。

本気で戦ったのは悪魔と転生者のマルク、そして、同じく転生者のビフォアの時だけだ。

 

 そのせいか、この刃のように鋭い空気も、多少なりと感じてはいても、それが危険なものなのかを判断できずにいたのだ。

 

 それに、ここでのネギは()()()()()()()()()()()()()()

 

 原作ならば京都にてフェイトと交戦し、その力を垣間見て、この場所でその存在を察知することができた。

 

 が、ここのネギはそれができない。

それが一番ネギの感覚に大きく左右していたのである。

……最も、ここにフェイトがいるはずもないのだが。

 

 

「刹那さんも何か感じたみたいね……」

 

「ええ……」

 

「この感じは……、まさか野郎か!?」

 

 

 ただ、アスナや刹那はこの尋常ではない空気を認識し、すでに臨戦態勢となっていた。

だが、武器はここにはなく魔法の箱に封印されてしまったままだ。

この封印箱はどんな魔法も攻撃でも、開錠ができない特殊なものだ。

 

 

「ネギ先生……、その箱を渡して」

 

「え? はっ、はい!」

 

 

 しかし、アスナは自分の魔法無効化(ちから)ならば、それを開錠できるかもしれないと考えた。

だから、ネギからそれを渡してもらい、受け取ったのである。

 

 

「緊急事態だから、許してね……!」

 

 

 アスナは封印箱に力をこめると、なんと開いたではないか。

通常ならばありえないことだが、アスナはどんな魔法も無効化できる。

なので、そのありえないことすらもやってのけたのである。

 

 そして、それを見て驚き慌てる警備兵などを無視し、武器や仮契約カードを回収し各々の使い手へと渡したのだ。

 

 

「ありがとうございます」

 

「お礼は後、今は……」

 

 

 アスナのすぐ近くにいた刹那は、愛刀を受け取りながら礼を述べた。

だが、アスナはそんな礼よりも、攻撃の可能性に備え集中しようと言葉にした。

 

 刹那もそれを言葉でなく視線で理解し、コクリと頷くと再び集中力を高め、警戒をはじめた。

 

 木乃香にも当然、覇王から貰った青銅製の扇子を受け取っていた。

しかし、シャーマンとしての修行はしていたが、こういった状況にはまったく慣れておらず、とりあえず危険が迫っていることだけ察した程度であった。

 

 ネギも杖を受け取ると、どうしたんだろうか、という顔をしつつも、何か危ないことが起こるのだろうか、と頭をめぐらせた。

ならばやるべきことは一つだ、生徒を守る。

そう考えたネギは、即座に意識を切り替え、警戒を開始した。

 

 同じく、巨大な風魔手裏剣を渡された楓は、刹那と同じようにこの威圧感を察していた。

何か来る。そう理解した楓は、その武器を受け取ると、すぐさま臨戦態勢へ映ったのだった。

 

 エヴァンジェリンやアルスにも当然触媒が存在する。

どちらも杖代わりの指輪があり、アスナはそれを二人に投げると、どちらもしっかりキャッチし、指にはめた。

 

 それとは別にエヴァンジェリンには、もう一つ奇妙な杖があった。

”デバイス”と呼ばれる杖だ。普段はカード状になっているそれを受け取ると、すぐさま展開し、即座に使えるようにしたのである。

 

 それだけではない。

あのチャチャゼロも、やっと開放されたという様子で飛び出したのだ。

 

 

「アー狭カッタゼー」

 

「御苦労チャチャゼロ」

 

「ヒデーコトスルゼ御主人」

 

 

 チャチャゼロはエヴァンジェリンへと文句を垂れながら、狭い箱から出て来れたことを喜んだ。

ようやくついたのか、随分長い間しまわれていた気がする。

そう思いながら、シャバの空気を感じていた。

 

 そんなチャチャゼロへ、エヴァンジェリンは労いの言葉をかけた。

チャチャゼロはそれに対しても、鬼か悪魔かと愚痴っていた。

いや、エヴァンジェリンは吸血鬼、鬼なのかもしれないが。

 

 

「とりあえず話は後だ」

 

「オイオイ、出テ来テスグ仕事カヨ……」

 

「悪いとは思うがな。後で存分に酒を飲ませてやる」

 

 

 が、この緊迫した状況で、のんびりと再開を愉しむ暇もない。

エヴァンジェリンは即座にチャチャゼロへと”凍る世界”を内包し、術具融合を生み出した。

 

 魔力が溢れる感じを受けたチャチャゼロは、早速仕事か、休ませろという態度を見せた。

そんなチャチャゼロへエヴァンジェリンは、褒美をくれてやるから今は黙って言うことを聞けと、静かに述べた。

 

 

「ナライイカ。箱ノ中ヘ詰メ込ンダ分モ忘レルナヨ?」

 

「わかってるさ」

 

 

 まあ、そこまで言うのであれば文句はない。

それと箱にしまわれていた分もお忘れなく。チャチャゼロは多少やる気を出した様子で、それを言い放った。

 

 エヴァンジェリンもニヤリと笑いつつ了承の一言でそれを片付け、臨戦態勢を整えた。

何が出るか、狼か、蛇か、熊か、あるいは竜か。

まだ見ぬ敵へ、警戒心を強めていたのだった。

 

 

 しかし、夕映やのどか、ハルナや裕奈の分の杖は、本人たちがまだ展望台から戻って来ていないのでどうしようもなかった。

だから、とりあえずその分の仮契約カードや杖は、その場においておくことにした。

 

 

 また、刹那の近くにいたバーサーカーも、この状況を把握していた。

なので、すぐさま刹那の横で霊体化を解き、周囲を警戒しはじめたのである。

 

 さらに、ある人物の気配を察知し、ソイツが現れたのではないかと予想していたのだ。

野郎、とバーサーカーが呼んだ相手、それは転生者のアーチャーだ。

 

 バーサーカーはアーチャーと、何度も交戦していた。

故に、人間でありながらサーヴァントの素質を持つアーチャーの、独特の気配を知っていた。

だからこそ、アーチャーの気配を察知し、そのアーチャーの姿を探しだしたのだった。

 

 

「え!? 何!? 何!?」

 

「いったい何が起こるんですの!?」

 

 

 しかし、まき絵やあやかたちは、この状況にまったくついてこれていない。

そも一般人の彼女たちが、この空気や状況を理解できるはずがないのだ。

 

 そんな彼女たちを囲うように、アスナと刹那と古菲、それに茶々丸が立ちはだかっていた。

 

 

 すると、どこからともなく声が聞こえた。

それは男の声だった。男は冷静に状況を分析し、”原作”と差異が少ないことを把握した。

 

 

「ふむ、”原作通り”ではないが、概ね似たような状況のようだな……」

 

 

 そう、その男こそ、アーチャーだ。

このアーチャー、なんということか、ゲートポートにて待ち伏せをしていたのだ。

 

 そう、最後の事件を起こすため。原作どおりことを進めるため。

この場所で虎視眈々と待っていたのだ。

 

 

「ならば、最初の一手を放つとしよう」

 

 

 すると、アーチャーは大きく飛び上がり、その姿を彼らの前に晒した。

そして、弓と一本の剣を投影すると、その剣を矢にするように構えだしたのだ。

 

 

「これはあの時の!? マズイぞ!!!」

 

 

 バーサーカーはあの武器が危険なものだと理解していた。

あの剣は投げて爆発させることができる。いや、あのアーチャーだからこそできる技だ。

 

 また、あの剣自体、すさまじい力を持っている。

何とかしなければ、そう思った直後、別の攻撃が彼らを襲った。

 

 それはすさまじい雷撃の嵐。雷系の魔法だ。

まさに一瞬の隙を突く形で、その雷電の暴威が襲い掛かってきたのだ。

なんということだろうか。

敵はアーチャー一人だけではなかったのである。

 

 

「ガッ!」

 

「何……!?」

 

「くっ……!!」

 

 

 かろうじてそれをアスナや刹那はそれを防いだが、無防備だった警備兵たちはそれを受けて倒れ伏せてしまった。

 

 死んではいないがもはや虫の息。

立ち上がることさえできない状態にまでされてしまっていた。

さらに、それに彼らが気を取られたがために、アーチャーの凶行を許してしまったのだ。

 

 

「我が錬鉄は崩れ歪む……」

 

 

 その剣は突如として細くなり、まるで矢のような形となった。

そのままゆっくりと弦を引き、アーチャーはその矢を放った。

 

 

「しまった……!」

 

 

 矢の向かった先。それはやはりネギのいる場所だった。

誰もが気が付いた時には遅かった。ネギはアーチャーの矢を右肩に受け、それが右肩を貫通していたのだ。

 

 おびただしい血が噴出すも、ネギは一瞬のことで何が起こったのか理解できなかった。

そして、気が付いた時には、ネギはその冷たい床に前のめりに倒れこんでしまった後だった。

 

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