理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百二十六話 東状助

 どうなっちまった。まるでわからねぇ。

体がピクリとも動きやしねぇ。致命傷ってやつか、指一本動かねぇぜ。

 

 

「っすけ……! 状助!!」

 

 

 誰かの声が聞こえる。誰だ。

ああ、わかったぞ、アスナだ。

何を叫んでんだろう。自分の名前だ、状助という今の名前だ。

 

 

「手を出して! お願い!!!」

 

 

 手を出せ、そう叫んでる。声だけは聞こえる。

だけどよ、指すら動かないこの状態で、手は伸ばせねぇ。

申し訳ないがよ、体が動かないんじゃ不可能ってもんだ。

 

 

「もうっ、少し……!」

 

 

 しかしよ、目の前の彼女は諦めないみてぇだな。

必死に、自分の手を掴もうとしている。助けようとしてくれているのがわかる。

嬉しいねえ。

 

 

「あっ!」

 

 

 だが、ダメだったらしい。

爆風の勢いが強くなったようだ。

自分の体はそれにより、暴風の中の紙切れのように吹き飛ばされちまった。

 

 彼女からどんどん離れていくのがわかる。その彼女の表情は……、なんちゅう顔すんだよ。痛ましすぎるぜ。

そんな顔されてもよ、こっちが困るってもんだ。

こっちもつれぇっつーもんよ。

 

 

「状助ッ! 状助―――――ッ!!」

 

 

 叫ばなくとも聞こえているよ。それでも、もう声もでねぇ。

言葉を、返事を返してやれねぇ。自分の旅もここで終わりのようだぜ。

わりぃな、あばよ……。

 

 ――――なんつーか、短い人生だったなあ。

 

 

 

 

 ――――ここは?

 

 ……ああ、前世の記憶ってやつか。

走馬灯ってやつだなこりゃ。もう死ぬってことは間違いないらしい。

いやぁ、まったくもって自分は長生きできねぇ人間のようだ。

 

 この記憶は……俺、自分がまだ、状助じゃなかった時の記憶だ。

前世ってやつだ。自分がバイトで、働いている時の記憶だ。

懐かしいなあ、チクショウ。

 

 働いてたのが飲食店だったんだっけなあ。

まったく、よく他人にペコペコペコォ~~~~って頭を下げたもんだ。

 

 そんなに出世がしたかったのか? いや、そうやってないと生きていかなかっただけだろうな。

そういう仕事だったしな。

 

 まぁ、それはそれで平凡で退屈だったが、悪くない日々でもあった。

こんな感じの日常が年食うまで繰り返されるもんだって、ずっと思ってたんだがよぉ。

 

 しかし、運命ってもんは残酷っつーか、非情すぎるもんでな。

何か知らねぇが、ぽっくり死んだ。あっけなかったなあ。

あっけなさ過ぎる、とはこのことだぜ。

 

 くだらねぇ死因だった気がするよ。

誰かを助けてトラックに跳ねられたとか、そんなかっこいいもんじゃねぇ。

というか、まったく覚えてねぇ。そんぐらい突然死んだって訳なんだろう。

 

 だが、その死因は全部神とかいうヤツが悪かったらしい。

ひでぇもんだ。生き帰せって何度もせがんだっつーのによ、無理の一点張りとかよぉ、責任取る気ねぇんじゃあねぇのか?

 

 お詫びに特典あげます、転生させます、だとかよぉー、胡散臭いってもんじゃあねぇって。

別に生き帰してくれりゃ、それでいいっつーのによ。

本当に神っつーのはひでぇヤツだぜ。噂どおりだ。

 

 まぁ、そんな文句いいながらも、特典もらって転生してる自分も自分なんだが。

というか、それしか選択なかったしよ、どうしようもねぇって。

 

 

 んで転生して、ああ、これは転生後の世界の両親の顔だ。

最近会いに行ったかなぁ。前世の親は田舎で暮らしてるはずだがよ。

早死にして親不孝もんだったなあ、自分はよぉ。

 

 親孝行もできずに死ぬのかよ。

二度も。ちっと考えなさすぎたってもんだ。

いやはや、歴史は繰り返すってこういうことだな。情けねぇ話だがよぉ。

 

 5歳になった時、スタンドが使えるようになったんだったな。

あのクソったれな転生神の言うとおりだった。あと転生者が複数いるだなんだって言ってたな。

マジだったけどよ。

 

 でもよ、この世界がネギまってことだけは、教えてくれなかったなあ。

聞かなかった自分も悪いんだがよ。おかげでアイツらと同じクラスになった時、たまげちまったじゃあねぇか。

懐かしいけどよぉ。

 

 どれもこれも懐かしい映像だなあ。

人生短かったわりに、思い出はあったらしい。

こりゃマジで逝っちまうみてぇだ。

 

 覇王が言ってたが、この世界にも転生神とか言うのがいるんだったっけなぁ。

まあ、もう二度と転生はゴメンだがよ。

こーいうのは一度きりで十分ってもんだ。

 

 本当に短い人生だったぜ。転生前とあわせても40年生きてねぇや。

まさか日本人の平均寿命の半分も行かないのに二度も死ぬことになるとはよ、これも運命ってヤツなんだろうぜ。

次に生まれ変わるのはなんだろうな。虫は勘弁してもらいてぇなぁー。

 

 

 ――――ん? そこにいるのは誰だ? 覇王……なのか?

 

 懐かしいなぁ。夏休み前に会ったきりじゃあねーか。

アイツも走馬灯に入ってくるのは当たり前か。長いようで短い付き合いだが、同じ部屋で過ごしたもの同士だもんな。

 

 なんだよ、何言ってるんだ? どこへ行くのかだって?

そうだな、このまま死ぬんだろうし、きっと行き先はあの世なんだろうな。

違う? 本当に行きたい場所だと?

 

 いきなりそんなこと言われてもよぉ……、もんわからねぇっつーのよ。

でもよぉ、最後に見たアイツの顔を思い出すと、後味が悪いっつーか、気分がよくねぇよなぁ。

 

 そうだなぁ、もう一度”状助”をやりてぇなあ。

くたばった場所へ帰りてぇなぁ……。泣きそうなアイツに会って、安心させてやりてぇなあ。

 

 まだ……、死にたくはねぇなぁ……。

 

 ――――死ぬ訳には……、いかねぇよなぁー……。

 

 

…… …… ……

 

 

 パチパチと火花が散る音がした。

それは焚き火の音だ。焚き火の暖かい光が、まず目に入ってきた。

 

 

「――――う……?」

 

 

 そこで、小さく唸った男子が、それに気が付いた。

状助と呼ばれた男子だった。状助は自分が死んだはずだと思いながら、ゆっくりと体を持ち上げた。

 

 

「こっ……ここは……?」

 

 

 状助は自分の手と足があることを確認した後、周りを見渡した。

空は真っ暗だが、星が美しく輝いているのがよく見えた。

あたりは何もない荒野のようだ。

 

 周囲には生き物らしき影もなく、その焚き火の音以外は何も聞こえてこなかった。

 

 また、そこに一人の人影が見えた。

焚き火の前に座っているようだ。誰だろうか、焚き火の光でよく見えない。

 

 

「気がついたかい?」

 

「……! この声はまさか……?」

 

 

 しかし、その声を聞いた状助は、驚きの声を出した。

その声は何度も聞いたことがあるからだ。その声の主を知っていたからだ。

 

 

「覇王!?」

 

「やあ、おはよう状助」

 

 

 状助はハッとしてそちらに顔を向け、その人物の名を叫んだ。

 

 ――――覇王。赤蔵覇王。

同じクラスメイトであり、同じルームメイトでもある、あの覇王だ。

 

 覇王は普段どおりのにこやかな笑みで、状助が起きたのを眺めていた。

やっと起きたのか、そんなことを言いたそうな顔でもあった。

 

 さらに、覇王の後ろにはS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)も鎮座しており、覇王本人である証明となっていた。

 

 

「なんでオメーがここにいんだよー!」

 

「何で? それはこっちが聞きたいんだけどなあ……」

 

「むっ……。それは、だなあ……」

 

 

 状助は朦朧としていた意識をハッキリさせ、すべてを思い出した。

そうだ、自分は魔法世界のゲートでやられ、強制的に転移させられたはずだ。

 

 ならば、ここは魔法世界のどこかに違いない。

それなのに、どうして覇王がここにいるのかと。

 

 しかし、覇王はむしろ状助が魔法世界にいることに疑問を感じていた。

 

 覇王は一度、状助を魔法世界に来ないかと誘った。だが、それを断ったのも状助だ。

だと言うのに、なんでここで死にかけていたのか、本気で疑問だったのだ。

 

 それを覇王が尋ねれば、状助は唸って黙ってしまった。

そういえば覇王は魔法世界へ行くことを、自分に話してくれていたな。

それを思い出し、どう説明しようかと悩んだのである。

 

 

「ふーん? 僕の誘いは断ったのに、カギとか言うヤツの誘いには乗ったんだ。悲しいねぇ……」

 

「いやまあ、その件については悪いと思ってるけどよぉ……」

 

「冗談さ」

 

 

 覇王は状助の説明を聞き、ふて腐れたようなことを言い出した。

何せ覇王は一度状助を魔法世界に誘っている。それを断ったのも状助であり、他の人についてきたのも状助だ。

 

 状助もそのあたりのことは悪いと思っていたようだ。

とは言え、覇王は戦いの為に魔法世界へ行くと話したので、状助が断るのもやむなしであった。

覇王もそのあたりは理解しているので、先ほどの態度は冗談だと、再び笑みを見せていた。

 

 

「ところでよぉ、ここはどこなんだ?」

 

「ご存知魔法世界のエリジウム大陸、ケルベラス渓谷の近くさ」

 

「……名前ぐらいしかわからねぇー……」

 

 

 そこで状助は、ふと思った。

この場所はどこなんだろうか。魔法世界なのは確かなんだろうが、現在地はどこなのだろうかと。

 

 覇王はそれに即座に答えた。ケルベラス渓谷の近くだと。

あの魔力が消滅する魔の渓谷の近くだと。

 

 しかし、状助はそのあたりの知識は曖昧だった。

名前はわかっても、場所がわからない。地図を見れば思い出すのだろうが、名前だけではパッと頭に出てこないようだ。

 

 

「……つぅかよ、俺、どうなってたんだ?」

 

「ほぼ死んでたよ」

 

「は? 嘘だろ承太郎……?」

 

 

 また、状助は、今まで自分はどうなっていたのだろうかと思った。

それを覇王に尋ねれば、死んでいたと言い出したではないか。

 

 状助はそれに驚いた。

いや、まさか死にかけを飛び越えて、死の瀬戸際だったとは。

まさかあの夢が本当に臨死体験だったなど、思いもよらなかったらしい。

 

 

「嘘じゃないさ。僕が拾わなかったら、そのままのたれ死んでいただろうね」

 

「……グレート」

 

 

 覇王は状助の慌てぶりを見ながら、本当に死んでいたと話した。

いや、ギリギリ、本当にギリギリ生きていたが、あのままだったら間違いなく死んでいただろう。

状助は覇王が偶然見つけ治療しなければ、死んでいたことに変わりはないのだ。

 

 状助はそれを聞いて顔を青くしていた。

マジで死ぬ寸前だったなんて、しゃれにならないと。

それでも九死に一生得たことには、かなり安堵していた。

 

 

「と言うか、君、丸二日も寝たままだったんだよ? かなり酷い目にあったみたいだね」

 

「二日も!? そんなにかよ……」

 

 

 しかも、覇王は状助を治療してから、二日間も眠ったままだったと語りだした。

それほど眠ったままになるなんて、とんでもないことが状助の身におきたのだろうと察していた。

 

 また、さわやかにそう語る覇王であったが、内心怒りを感じていた。

 

 当たり前だ。

友人である状助が死にかけたのだ。

死にそうになるような目にあったのだ。それに頭にこない方がおかしい。

状助を殺そうとした相手を恨まない方がおかしいのだ。

 

 それを聞いた状助も、二日も自分が寝ていたことにも驚愕した。

寝すぎというか、魔法世界に入ってもう二日も経っていることにも驚いたのである。

 

 

「まあ、助かったぜ。ありがとよ、覇王」

 

「別に礼なんかいいよ。僕は偶然君を見つけ、治癒したにすぎないんだからね」

 

 

 なんにせよ、助けてくれた覇王への礼がまだなかった。

状助はそれを思い出し、とっさに覇王へ感謝の言葉を述べた。

命を救ってくれてありがとう、覇王は命の恩人だと。

 

 覇王は覇王で礼は不要と思っていた。

状助を発見したのも偶然だし、友人を助けるのは当然だと思っているからだ。

 

 

「さて、君はこれからどうするんだい?」

 

「俺か? そうだな……」

 

 

 二人は友情をかみ締めながら、ニヤリと笑いあった後、覇王は状助の目的を尋ねた。

状助は”原作知識”を思い出しながら、次にどうするかを決めようと、腕を組みながら考えだした。

 

 

「とりあえずよぉ、うまく思いだせねぇんだがよぉ……、グラニクスっつーとこ、の近くの小さい町へ行こうと思う」

 

「グラニクスの近く……? 多分ヘカテスかボレアになるけど、どっちだい?」

 

「た、多分だがヘカテスかもしれねぇ……」

 

「やれやれ。まあそちらに最初行ってみて、違ったら別の方に行けばいいか」

 

 

 そして、状助は考えをまとめ、まず目的地を割り出した。

しかし、やはり”原作知識”を持つ状助だが、細かい部分だけは中々思い出せない。

なので、一番印象深い地名、グラニクスを思い出し、その近くの町と言葉にした。

 

 覇王はそれを聞いて、少し困惑した。

グラニクスの近くにある町は二つぐらいある。

そのどちらかなのか割り出せないかと、状助へ話した。

 

 状助は言葉の響きだけを頼りに、適当にヘカテスが目的地かもしれないと、自信なさげに言い出した。

根拠はどこにもないが、勘がそう告げていると、そんな感じだった。

 

 そんな自信なさげに語る状助に、ため息を吐きながらやれやれという覇王。

まあ、違ったにせよ両方行けば問題ないと、覇王はそう言葉にしていた。

 

 

「ところで、そこには何かあるのかい?」

 

「ああ、重大なイベントっつーもんがな……」

 

「またそれか……」

 

 

 覇王は、そんな場所に行って何か意味があるのだろうかと考えた。

わりと魔法世界でも偏狭の地。そこへ行くと何があるのだろうかと思ったのだ。

 

 状助はそれに対し、”原作での”イベントが起こると話した。

ネギたちが最初に立ち寄る町、それがその付近なのを思い出したのだ。

 

 しかし、覇王はそう語る状助を、細目で見ていた。

原作知識でのことなんだろうか、状助らしいいつもどおりのことだな、と。

 

 

「ま、いいさ。僕も同行しよう。どうせ近くだし、その方が楽だろう?」

 

「マジかよ! ありがてぇ!」

 

「とりあえず、今日はもう暗い。動くなら日が出てからだ」

 

「おう!」

 

 

 だが、目的地があるならば、それでいいだろう。

覇王はそう考え、状助と同行することに決めた。

 

 魔法世界は危険だらけだ。

状助だけをそこへ向かわせるわけにはいかない。

また死にそうになるかもしれないと、思ったのだ。

 

 状助は覇王のその言葉に、心底喜んだ。

覇王はS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)を持っており、空を飛ぶことが可能だ。

それに乗れればどれだけ楽だろうかと考え、嬉しさが爆発していたのである。

 

 ただ、今は夜だ。夜に動くことはさらに危険だ。

覇王は動くならば夜が明けてからだと話し、ここで一夜を過ごそうと提案したのである。

 

 状助も覇王の言葉に異論はなく、とりあえず今夜はここで再び眠ることにしたのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ここは皇帝がおさめるアルカディア帝国。

その中央に存在する首都アルカドゥス、そのまた中央に建つ城の中で、複数の人物が会話をしていた。

 

 

「何!? アイツらが行方不明に!?」

 

「どういうことだよおっちゃん!」

 

 

 それは焔と数多だった。

そして、二人が話しかけていたのは、皇帝の部下である仮面の騎士であるメトゥーナトだ。

メトゥーナトが二人へ、アスナたちが行方不明になったことを伝えたのである。

 

 故に、二人は驚いていた。一体どうしてそんなことになった、そういう顔を見せていた。

 

 

「……何者かによってメガロメセンブリアのゲートが襲撃され、巻き添えにあったようだ……」

 

「何だと……!?」

 

「なんてこった……」

 

 

 メトゥーナトも沈痛な様子で、その理由を言葉にした。

アスナたちが通ってきたメガロメセンブリアのゲートが、襲撃されたと。それにより被害にあい、行方不明になってしまったと。

 

 いや、メトゥーナトはこうなるだろうと思っていた。

覚悟していたことだ。

 

 それでも今の彼の内心は、強い怒りと後悔に彩られていた。

が、それを悟られぬように、表に出さぬように冷静な態度を見せていたのである。

 

 

 焔はそれを聞き、さらに驚いていた。

こんなことになるなど、思っていなかったようだ。

同じく数多も額を抱えて嘆いていた。

 

 

「私はアスナの位置はわかる。が、逆に言えばわかるのはそれだけだ」

 

「アスナは無事なのですか!?」

 

「それはまだ確認中だ……」

 

 

 だが、メトゥーナトはアスナの位置がわかる。

アスナが身に付けている髪飾りに、発信機のような機能が備わっているからだ。

 

 その性能はすさまじく、魔法世界ならばどこにいてもわかるぐらいである。

故に、メトゥーナトはアスナの安否だけは、ある程度だが把握できていた。

 

 それを聞いた焔は、ならばアスナは無事なのかと、焦った様子で尋ねた。

しかし、メトゥーナトも確認はまだなので、それはなんともいえないとしか言いようがなかった。

 

 それでもアスナの位置は動いており、敵本拠地ではない場所なので、そういった危険な状況ではないことだけはわかっていたようだ。

 

 

「では、居場所は……?」

 

「……アスナは今、シルチス亜大陸のノアキス付近にいる」

 

「そうですか……」

 

 

 ならば、今現在わかっていること、アスナの現在位置を焔は次に尋ねた。

 

 それはメトゥーナトも把握していることであり、静かに口を開いてそれに答えた。

 

 焔はそれを聞いて、わかったという様子を見せた。

それでもやはり心配そうな顔で、俯いていたのだった。

 

 

「そういえば親父は……?」

 

「アイツならすでに新たな任務につき、動いている」

 

「どおりで……」

 

 

 そんな時、数多はふと思った。自分の父親はどうしたのだろうか。

皇帝の部下の一人である、龍一郎はどうしたのだろうか。

 

 メトゥーナトはそれにも答えた。すでに別の任務を受け、この場にはいないと。

数多も焔もそれを聞き、数日前から姿がないと思ったらそうだったのかと納得していた。

 

 

「私も任務でそろそろ動かねばならん……」

 

「アスナのことはいいのですか!?」

 

「アスナのことは大丈夫だ。私の部下が数人、すでに出向いている」

 

「それなら心配は不要と言うことですか……」

 

 

 また、メトゥーナトも皇帝から命令を受けていた。

故に、今からその任務に就かなければならないと話した。

 

 焔はそんなメトゥーナトへ、大切なアスナは放っておいていいのかと叫んだ。

 

 当然メトゥーナトとしても、よいはずがない。

本当はいち早くアスナの下へ行き、安心したい。

一緒について歩き、防衛したい。

 

 だが、皇帝からの命令こそが最優先。

皇帝の言葉こそが優先なのだ。

 

 それにメトゥーナトは、すでにアスナの方へ、信頼できる部下を送り込んでいた。

だから、自分が行かなくても問題ないと、そう自らを納得させていたのだ。

 

 焔もメトゥーナトの言葉に、納得せざるを得なかった。

それに、仮面の下から覗くメトゥーナトの目が、どことなく悲しげだったからだ。

 

 この目の前の騎士もまた、アスナをとても心配している。

それがわかってしまったからだ。

 

 

「……すまないな、そろそろ私は行く。ではな」

 

「おう! いってらっしゃい!」

 

「気をつけて……」

 

 

 そして、メトゥーナトは任務遂行の為に、二人に別れを述べ、マントをはためかせて振り返り歩き出した。

数多と焔はそれを見送りの言葉を送り、去っていくメトゥーナトをじっと見ていた。

 

 

「よっしゃ! だったら俺も、行方不明になってるやつらを探すか!」

 

「何だと!?」

 

 

 メトゥーナトが去った後、数多も行方不明者の捜索に乗り出そうと、突然興奮気味に言い出した。

それに焔は驚き、何を言っているんだという顔を見せていた。

 

 

「正気か!? 旧世界の三分の一とは言え、この広い魔法世界を探すというのか!?」

 

「当然だぜ」

 

「だが、どうやって!?」

 

 

 しかし、普通に考えれば、それはかなり難しい。

旧世界の三分の一ほどの大きさの魔法世界ではあるが、それでも広大だ。

 

 そんな場所から数十人の人間を探すなど、とてもじゃないができっこない。荒野でダイヤを探すレベルだ。

 

 それでも探すのかと焔は聞けば、数多は一言で片付けた。

その一言には、そんなことは当たり前だ。探すと決めたら探す。

そう言った意味が込められていた。

 

 だが、焔は探すにしても、どんな方法をとるのだと叫んだ。

この広い魔法世界を探すとなれば、かなりの労力が必要となるだろう。

一人で探すには、いささか厳しすぎるというものだ。

 

 

「とりあえず、街をしらみつぶしに探すんだ」

 

「それだけじゃ無理だろう……!?」

 

「でもよ、とりあえずやってみなきゃわかんねーだろ?」

 

「しっ、しかしだな……」

 

 

 数多は大きい都市あたりを一つずつ回り、探そうと考えていた。

それでも街にいない可能性だってある。数多が自分の考えを述べれば、それだけでは無理だと焔は言葉にしていた。

 

 確かにそうかもしれない。無理かもしれない。

数多だって無謀な挑戦だということぐらい理解している。

 

 ただ、何もしないよりはマシだと。

探しもしないで無理だと諦めるのは、早計すぎると、数多は強く言った。

 

 そんな数多の発言に、たじろぐ焔。

数多の言葉も確かに正しい。やらないとわからないことだってある。

 

 最初から駄目だと、無駄だと言うより、まず行動することが重要なのかもしれないと、そう思った。

 

 

「あーだこーだ言ってても、何も解決しねーだろ? とりあえず動くことが重要なんじゃねーかな? って思う訳よ」

 

「だが、無闇に動くのはむしろ愚行になりかねないぞ!?」

 

「わかってるよ。それでも動かずにはいられねぇんだ!」

 

 

 数多はさらに意見を続けた。

ここで慌てていても、何も解決はしない。

それならいっそのこと、探しに出た方が有意義なのではないかと。

 

 焔もそれに反論した。

動くことそれ自体は悪いことではないだろう。

 

 しかし、焦って行動に移り、逆に迷惑をかけたり、時間を無駄にする可能性もある。

行き違いになる場合もあるだろうし、関係ない場所を探してしまうこともあるだろう。そう焔は考えた。

 

 それも数多はわかっていた。

むしろ、そうなるかもしれないとさえ思っていた。

 

 されど数多は探したかった。

動かずに後悔するよりも、動いて後悔したかったのだ。

 

 

「と言うより、メトゥーナト様や皇帝陛下が、すでに捜索隊を設けているのではないのか?!」

 

「だろうな」

 

「だったら、ここで一報を待っていた方がよいのでは!?」

 

「確かに、焔の言うとおりかもな……」

 

 

 また、焔はさらにつっこんだ。

あの皇帝やメトゥーナトが、この情報を得て何もしない訳がない。

すでに捜索のための部隊を設け、行動に移しているかもしれないと考えた。

 

 数多もその意見には同意だった。

間違いなく、すでにそれは行われているだろう。

もしかしたら、自分の父親である龍一郎も、そのメンバーなのかもしれないと。

 

 ならば、捜しに行かず、ここで待機していた方がよいのではないのか。

情報が来るのを待った方がよいのではないのか。焔はそう数多へ進言した。

 

 その通りだ。焔の意見はまったくもって間違ってなどいない。

正しいし理にかなっている。数多もそれを認めていた。

 

 

「なら、それでいいではないか」

 

「…………でもよぉ、そうしねぇと俺が納得いかねぇんだよ」

 

「何故……!?」

 

「なぜって言われてもなぁ。そういう人間だから、としか答えられねぇ」

 

 

 それならそれで、問題はないはずだ。

焔はそう言った。ここで情報を待ち、無事を祈る。

それで充分ではないか。そう言った。

 

 それでも数多は捜しに行くと言った。

焔の意見は間違ってない、数多もそれは認めた。

正しい、そのとおりだと。

 

 しかし、捜しに行かないと自分が納得いかないと言葉にした。

ここで待っているというのは、どうにも我慢できないと。

 

 焔はそれに、どうしてそこまで、と思った。

それを口にすると、数多も困った様子でそれに答えた。

 

 自分がそうしたいから、そういう性格だから、それが数多の答えだった。

単純に、自分がそうしたいというわがままだ。

行動を起こして、自分を納得させたいだけだ。

 

 

「…………わからない。何でアイツらの為に兄さんが動くんだ? さほど接点があった訳でもないだろう!?」

 

「確かに、特に顔見知りって訳でもねぇな」

 

「だったら、何故…………?」

 

 

 そんな数多を見て、焔は悩むような仕草を見せた。

理解できない、そんな顔だった。何故そこまでするのだろうか、まったくわからないと思ったからだ。

 

 そもそも、行方不明になった人たちは、数多となんら関係のない人たちだ。

 

 それが数多の友人ならば確かにわかる。

友人ならば、いても立ってもいられなくなるだろうし、何とかしたいと思うだろう。

一応、友人と言うなら状助あたりがいるが、逆を言えばそのぐらいだ。

 

 つまり、数多と行方不明者にはほとんど接点はない。

では何故、どうしてそこまでしたがるのか。焔はそこが理解できなかった。

 

 数多も、その部分は否定しなかった。

ほとんどが友人でもなければ知り合いというほどですらない。

そう話しながら、うんうんと頷いていた。

 

 それならどうして? 焔は再びそれを尋ねた。

そこに大きな理由がないならば、どうして捜したいのかと。

行動したいのかと。

 

 

「……特に理由はねぇよ。お前のクラスメイトってだけさ。つまらねぇ理由だが、動くに値する理由でもあるってもんさ」

 

「……そう……か……」

 

 

 すると、数多はふとニヤリと笑い、それを口にした。

友人でもなければ知人でもない、個人的には赤の他人。

そんな人たちを捜して何になるのか。意味はあるのか。何か功績がほしいのか。

 

 別にそんなことは、数多には関係なかった。

そのあたりはどうでもよかった。

 

 数多が捜したい、行動したい理由。

それは”その行方不明者が妹のクラスメイトだから”。

 

 理由としては小さいかもしれない。

誰かが聞いたら、馬鹿だと言うかもしれない。

それでも数多としては、捜すに値する、行動するのには充分な理由だったのだ。

 

 焔はそれを聞いて、目を見開いて驚いた。

そして、うつむいて、ぽつりと一言こぼした。

 

 自分のクラスメイトだから探す? 正直言えばアホの言うこととしか言いようがない。

 

 所詮はクラスメイト。

後半年ほどすれば、散り散りになるかもしれない、他人でしかない人たちだ。

 

 クラスメイト全員が友人という訳でもないし、仲が良いという訳でもない。

そんな人たちの為に無関係な兄が行動したいなど、焔にはあまりに理解に欠ける意見だった。

 

 

「おし、んじゃ早速行って来るぜ!」

 

 

 うつむく焔を見て、数多は苦笑していた。

まあ、確かに自分は馬鹿かもな。そんな理由で行動しようなんて、わからないかもな、そう思いながら。

 

 そして、数多は黙ってしまった焔に手をふり、くるりと振り向き歩き出した。思い立ったら行動だ。

今から行って来ると別れを述べて。

 

 

「……待て!」

 

「お?」

 

 

 しかし、そこで焔は沈黙を解いた。

突然数多へ静止するよう呼びかけた。

 

 数多は何事かと思い、再び焔の方へと振り向いた。

 

 

「……私も……、行く……」

 

「いいのか? 結構しんどいぜ?」

 

「そんなことなど、言われなくともわかっている」

 

 

 そこで焔は、自分も一緒に行くと言った。

同じく捜すと、小さくもしっかりと言ったのだ。

 

 数多はそんな焔へ、本当に来るのかと尋ねた。

この広大な魔法世界を当てもなく捜すのだ。

正直言えば大変できついだろう。

 

 それでも焔は行くと言った。

そんなことは最初からわかっていることだ。

わかって行くと言ったのだ。

 

 

「だけど、アイツらは曲がりなりにも()()クラスメイトなんだ……。ノーてんきだが、それでもクラスメイトなんだ……」

 

「……ククッ」

 

「何で笑うんだ……!?」

 

 

 焔は思った。

行方不明になった連中は、どうでもいいヤツらだ。

ノーてんきでアホな連中だ。そのあたりが今でもあまりに気に入らない。

 

 だが、それでもクラスメイトだ。

2年半程度の付き合いだが、それでもクラスメイトなのだ。

 

 あの連中が一人でも欠けるというのは、後味が悪いというものだ。

できるならば全員で卒業したいというものだ。

 

 数多はそう言う焔を見て、少し呆けた。

そして、その後小さく、こらえるように笑った。

 

 昔の焔ならば、どうでもいいと切り捨てただろう。

ほっといても問題ないと思っただろう。

 

 しかし、目の前の焔は自分のクラスメイトだから、一緒に捜すと言った。

特に親しいという訳でもないのに、そう言った。

 

 繋がりができたから、知り合ってしまったから。

故に、ほうってはおけなくなってしまったのだと、数多は思ったのである。

だから、随分と成長した、そう思い嬉しくなり、ついつい笑ってしまったのである。

 

 いきなり笑いだした数多を見て、焔は顔を赤くしながら、笑うところではないと叫んだ。

別におかしなことを言った訳でもないというのに、笑うのは失礼だと思ったのである。

 

 

「いや、なんでもねーさ」

 

「フン……」

 

 

 いや失礼、そんな感じな顔で、数多はなんでもないと言った。

 

 そんな数多に、焔は少し照れながらふて腐れた顔を見せていた。

失礼なヤツだと思ったが、それ以上に自分の内心を察したのだと考え、恥ずかしく思っていたのである。

 

 

「よし、行くぜ!」

 

「うむ!」

 

 

 ならば、早速出発だ。数多はそう叫ぶと、焔も力強く頷いた。

そして二人は城を出て、飛行船が集う空港へと急ぐのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ここはケルベラス大樹林。

広大なジャングルが広がり、見渡す限り森が続いていた。

 

 そんな人気もない場所で、数人の男女が何やら雑談をしていた。

ネギたちである。

 

 

「1万キロ!? 遠すぎんだろ!? 意味がわかんねぇぞ!!」

 

 

 千雨は魔法世界の地図を茶々丸から渡され、それを見た。

すると、自分たちがやってきた場所から、1万キロも離れた場所に飛ばされたことを知ったのだ。

 

 どんな距離だ1万キロ。

日本が何個入る距離だ。

理解が追いつかない、そんな顔を見せて憤りを見せていた。

 

 

「しかも強敵ユニットが配置されまくった見知らぬファンタジー異世界で、散らばった仲間を集めるとか、どこのロボット軍団操作するシミュレーションゲームだっつーんだよ!!」

 

「面白いたとえだな……」

 

 

 千雨の怒りは未だ冷めることがない様子で、早口でこの現状を例えてみせた。

仲間は各地に散らばり、捜さなければならない。

 

 しかし、野生の魔物がひしめき合い、中々前にも進めない。

このクソゲー状態をどうやって突破するというのか。

千雨はかなり頭に来ていたが、それ以上に混乱もしていた。

 

 そんな例えを聞いて、よく思いつくな、と法は思った。

中々できるものではない、混乱しているのだろうが、それでもそうそうできることではないと関心もしていた。

 

 

「夏休みはあと15日しかねぇのに、2学期に間に合うのかよ!!」

 

「わかりません……」

 

 

 千雨がここまで怒る理由。それは2学期だ。

エスカレーター方式とは言え、もうすぐ中学三年の2学期である。

 

 学生としてはとてつもなく大切な時期でもあるだろう。

それに間に合わなかったらどうするのかと、かなり焦っていたのだ。

 

 故に、千雨は怒り半ばでネギへと文句の嵐を叫んでいた。

このまま2学期に間に合わなかったらどうするのかと。

責任問題になりかねないと。

 

 だが、ネギもかなりそれを重大に思っており、頭を下に向けたまま、わからないと話していた。

 

 何せネギもこんな状態にされたのははじめてだ。

ネギ自身もかなり混乱していたのである。

 

 

「……まあ、ここに来るって判断したのは私自身だし、自分のこと棚に上げて文句は言えねぇけどよ……」

 

「すみません……」

 

「さっきから何謝ってんだよ! 別に全部が全部先生のせいじゃねーだろ?」

 

 

 と、千雨はネギを責めてはいたが、目の前のうなだれるネギを見て、言い過ぎたと思った。

10歳という年齢のネギを責め立てても、何もはじまらないと思ったのだ。

 

 しかも、ここへ来ることは千雨が決めたことだ。

いや、まさかこんなことになるとは思ってなかったが、それでも自分で決めたのだから、これ以上は文句を言えないだろう。

 

 だと言うのに、ネギは何度も謝っているではないか。

なにせ、ネギはこうなってしまったことに責任を感じているのである。

まったく悪くないというのに、ネギは自分がみんなをここへ連れてきたからこうなったと、本気で思っているのだ。

 

 千雨も当然そう思っていた。

先ほどは焦りと怒りでネギを責めたが、実際はネギが悪いなんて思っていなかった。

なので謝る必要もないし、全部ネギが悪い訳じゃないと言葉にしていたのだ。

 

 

「その通りだ。ネギ先生が悪いのではなく、悪はあくまでも、あの場を襲った連中だ……!」

 

「そうそう! アイツらがだいたい、つーか全部悪い!」

 

 

 また、法も同じ気持ちであった。

こうなったのは全部、ゲートを強襲したアーチャー一味が全部悪い。

あの連中が襲ってこなければ、こうはなっていないのだから。

 

 千雨も法の意見に同調し、ネギを元気付けようとしていた。

ネギも自分らも被害者だ。全部あのアーチャー連中が悪いと。

 

 

「次にあったのならば、必ず奴らを……断罪する……!」

 

「なんでお前、私よりもすげー怒ってんだよ……」

 

「……いや、なんでもない……」

 

 

 だがそこで、法は表情を険しく変え、突如怒りを見せたのだ。

拳を強く握り締め、次にアーチャー連中に会ったのならば、自分を攻撃してきた敵の二人に会ったのならば、次こそは必ず倒すと言い出したのだ。

 

 何故、ここまで法が憤りを感じているのか。

それはあの敵たちが、自分と同じ転生者という部分にあった。

 

 自分は転生者だが、法律を犯したり他人に迷惑をかけてはいない。

そういうことはあってはならないと考えていたのだ。

 

 

 あのカズヤも喧嘩が好きだが、ただの喧嘩には”特典(アルター)”を持ち出すことはない。

カズヤはカズヤなりの考えで、自重しているのだ。

 

 それに、カズヤは基本的に受けである。

相手の売ってきた喧嘩を買うことはあっても、自ら喧嘩を売ることはない。

まあ、それが法が相手の場合は、わりと挑発的になるが。

 

 また、カズヤ自身も、喧嘩を悪いものとして見ている。

迷惑なものだと思っている。故に、売ってきた喧嘩は必ず買うが、自ら喧嘩を売って歩くような真似だけはしないのだ。

 

 それに、この世界は基本的に喧嘩には寛容だ。

確かに行き過ぎた喧嘩は制裁されるが、それを見ている野次馬は喜び、トトカルチョを始める。

 

 そういった世界だからこそ、ある程度カズヤの喧嘩が許されているのだと、法は考えていたのである。

 

 

 しかし、連中は違う。

何か目的があるのだろうが、突然自分たちを襲ってきた。

 

 さらに仲間の状助を死に至らしめようとしていた。

本気で殺してもかまわないという態度を見せたのだ。

 

 ならば連中は危険な不穏分子ということになるだろう。

それも、神から与えられた特典を使い、暴れてのさばっている。

法にはそれがとてつもなく許せないことだった。

 

 たとえ神から貰った特典であろうとも、法律を犯していいことにはならない。

他者を理由なく傷つけていいはずがない。

 

 法がもっとも許せないこと、それは選んで得た(とくてん)で他者を蹂躙しようとする”転生者(あく)”なのである。

 

 

 が、そんな法の気持ちは、千雨にはわからない。

何せ千雨は、未だに法が転生者だとか、そのあたりのことを知らないからだ。

故に、何故自分以上にキレているんだろう、と疑問に思うだけであった。

 

 すると、法は千雨の言葉にハッとし、すぐさま頭を冷やした。

そして、再び冷静な態度で、なんでもないとぽつりとこぼしたのであった。

 

 

「とりあえず、近くの町まで移動しましょう。話はそれからでも」

 

「そうですね……、それがいいと思います」

 

 

 だが、こんなところで話しててもしかたがない。

まずは街まで行くことが先決だと茶々丸が提案すると、ネギもそれに同意見のようで、茶々丸の言葉に賛成した。

 

 

「まさか、愉快なイージーモード異世界旅行が、ハード、ファンタズムモードのサバイバルゲーになるなんてよ……」

 

「マスターはある程度危惧していましたが、まさか本当に起こるなんて……」

 

「師匠のヤツはわかってたのかよ、こうなることが……」

 

 

 なんということだろうか。

魔法世界という見知らぬ土地に行くので、確かに不安はあった。

ただの旅行のようなもんだとばかり、千雨は思っていた。

 

 いや、実際は誰もがそれを考えていた。

こんなことになるなんて、思ってなかった。

千雨もそう思い、頭を抱えながらそれを言ったのである。

 

 ただ、エヴァンジェリンはこうなる可能性を予想していた。

アスナもそうだった。

 

 それを冷静に茶々丸が話すと、千雨はさらに頭を抱え、エヴァンジェリンがあの事件を予想していたことを愚痴っていた。

 

 

「確証はないようでした。ひょっとしたら、と言うレベルの話だと申されてました」

 

「ひょっとしたら、が現実(マジ)になるとか運がねぇ(ハードラック)ってレベルじゃねーな……」

 

 

 それでもエヴァンジェリンでさえ、可能性の話にすぎないと考えていたようだ。

 

 それが本当になってしまうとか、本気で運がない、というかついてないと、千雨は思ってがっくしするのであった。

そして、一同は街がある方角を目指すのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 あれから数日たった後、ようやく街が見えてきた。

崖の下の先に、街らしきものがあったのだ。

小さい偏狭の街ではあるが、はじめての人気がある場所だ。

 

 それだけではない。

ネギたちははぐれた仲間の一人である小太郎と合流していた。

 

 小太郎にも白き翼のバッジが配られていた。

なので、ネギたちは街を目指しながら小太郎を探し、そして見つけることに成功したのである。

 

 

「街だ!」

 

「300キロは流石に遠いだろ……。近くねーじゃねーか……」

 

「姉ちゃんはそこの兄ちゃんの変なもんに乗とっただけやろーが」

 

 

 ネギははじめて発見した街を見て、そこを指さした。

また、千雨は”近く”と言う言葉が嘘だったと、愚痴っぽく語っていた。

茶々丸は確かに”近くの街”と言ったが、その場所から300キロも離れていたのだ。

 

 実際は”最寄”または”一番近い場所”と言う意味であり、千雨もそのぐらいは理解していた。

 

 ただ、それでもまるで近くない。

いや、遠いと言った方がいいほどの距離の移動に、千雨は疲れていたのである。

 

 しかし、そこへ小太郎は千雨へつっこみをいれた。

何せ千雨はさほど自分で歩いておらず、法が操るアルター、絶影に乗りながらここまで来たのだ。

 

 セーフモードとして使っている人型の絶影ならば、ほとんど負担もなく動かせる。

そのため、法自身がそれを提案したのである。

 

 さらに絶影はある程度飛行することも可能だ。

なので、それに乗った方が楽だろうと法は思ったのである。

 

 

「まあ、そう言ってやるな。長谷川はこういうことに慣れていない」

 

「……まるでオメェは慣れてるみてぇな言い方じゃねぇか……」

 

「多少なりに、だがな」

 

「そうかよ……」

 

 

 法は小太郎の言葉に、千雨をかばうようなことを言った。

千雨は基本的に運動をさほどしない、部屋で過ごすことが多い。

所謂引きこもりってやつだ。

 

 そんな人が、いきなり長距離を徒歩で移動しろなど、難しいというものだ。

法はそれを知っていたので、そこまで言うのは酷だと言葉にしたのである。

 

 が、千雨はそれに反応し、それを言った法が、さもこう言うことに慣れているような口ぶりだと、ぼそっと口に出した。

法はそれに答え、多少は慣れていると言い出した。

 

 実際、法も体力を作ったりするために、山に行くことなどもしていた。

あのカズヤと張り合うために、力をつけるべく鍛錬を怠らなかった。

 

 千雨は自信ありげだというのに、謙虚に多少と言葉にする法を見て、ため息をついていた。

そういやこいつはそういうやつだった、と思い出し、そっけなく返事を返したのだった。

 

 

「よっしゃ! 久々のまともな飯と寝床や!」

 

「慌てるなっつーの!」

 

 

 そうこうしている内に、小太郎は先走り、さっさと崖を下りていった。

ネギもつられて杖を使い、そのまま下りていったのだった。

 

 千雨はさっさと先に行く子供二人に、そこまで慌てる必要はないだろと叫んでいた。

 

 

「私たちも行きましょう」

 

「そうだな……。私も服を調達したいし……」

 

「崖を降りるなら俺の絶影に乗っていくといい」

 

「ありがとよ、そうさせてもらうぜ」

 

 

 茶々丸も、とりあえず自分たちも街へ降りようと話した。

街には白き翼のバッジの反応もあるし、情報収集もしなければならない。やることは多いのだ。

 

 また、千雨も早く街へ降りたいと思っていた。

何せ今は白いローブ以外、ほとんど何も着ていないようなものだ。

はっきり言えば恥ずかしいが、ないものはないので仕方がなかった。

 

 未だに仮契約をしていない千雨は、服を呼び出したりすることができず、タコの魔物に服を溶かされたままだったのだ。

なので、早く街で新しい服を調達したいと思っていたのである。

 

 すると法は再びアルター、絶影を作り出し、これに乗って降りるといいと話した。

千雨は法の気遣いに感謝し、絶影に捕まった。

 

 そして、三人は崖を下りて行ったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ――――街に下りた一同が見たものは、とてつもなくファンタジーなものだった。

 

 はっきりいって驚くことばかりだ。

いやはや、まさかここまで幻想的なものだったとはと、魔法世界のすごさを思い知っていた。

 

 目に飛び込んできたのは、亜人だった。

狼のような顔と毛深い体を持った、人型の亜人。

数センチしかない、虫の羽のようなものを背中にはやした妖精のような亜人。

 

 どれもこれもが、ファンタジーな生き物だ。

地球にはいない、不思議な生き物だ。

 

 法もこれには驚いた。

まさしく魔法世界と言う名にふさわしい、とんでもない光景だったからだ。

 

 千雨も当然驚いたが、もはや慣れた様子でむしろ呆れた顔をしていた。

茶々丸もそう思った様子を見せ千雨の言葉に同調していたが、顔は無表情であった。

 

 さらに、道端では喧嘩が勃発しており、治安の悪さが浮き出ていた。

まるで中世、西部劇の世界だ。

 

 千雨はそんな光景を見て、大丈夫かよと思っていた。

茶々丸もこの場所が辺境故に、さほど治安維持されていないのだろうと語っていた。

 

 

 そして、とりあえず街を見て回る一同。

久々の街ということもあり、買い食いなどもしていた。

千雨もその場しのぎになればよいと、適当な服を買って着替えた。

 

 

 そんな感じで街を探索する一同であったが、何やら宙に浮くモニターらしきものが目に入ってきた。

千雨は魔法でできた街頭テレビか何かかと思い、それを眺めていると、突如ニュースが始まった。

 

 

 そこにはなんと、信じられない出来事が映し出されたではないか。

なんとネギが、メガロメセンブリアのゲートポートを襲撃した犯人として祭り上げられていたのだ。

 

 これにはネギたちも驚いた。

あのアーチャー軍団がやらかしたことの罪を、ネギたちが着せられたことになったからだ。

 

 完全に濡れ衣を着せられ、さらに多額の賞金をかけられたネギ。

国際手配犯として、手配されてしまったのだ。

 

 まずい。

誰もがそう思ったが、ここには一つ、バッジの反応があった。

そのバッジの持ち主を探すまでは、この街を出れない。

 

 なので、とりあえず一同はフードを深くかぶり、そのバッジを検索した。

だが、そこでも信じられないような。

いや、信じがたい事実にぶち当たったのだ。

 

 バッジは確かにあった。見つけられた。

しかし、バッジだけが道端に落ちており、持ち主がいなかったのだ。

 

 これはまさか。

誰もがそう思った。

持ち主なきバッジに、誰もが衝撃を受けた。

 

 ただ、いつまでもそこで、落ち込んでいる訳にも行かない。

一同はとりあえず、人影のない路地裏へと移動し、話し合いを行うことにしたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 なんということだろうか。

白き翼のバッジをたどったというのに、持ち主がいなかった。

バッジがなくなってしまえば、手がかりは消失してしまったも同然だ。

 

 ネギたちは多大な喪失感を感じながらも、どうにかしなければと考えていた。

 

 

「……最悪の展開だな」

 

 

 これはどうしようもない。

千雨はそんな感じでそれをこぼした。

まさしく千雨の言うとおり、あまりよい展開ではなかった。

 

 

「しかし、近くにいる可能性はある」

 

「……そうだな」

 

 

 ただ、落ちていたからには持ち主がいるはずだ。

それもさほど遠くには言ってないと考えられる。

 

 すなわち、まだ持ち主が近くにいる可能性が高い。

それを法が話すと、千雨もそれに同意した。

 

 

「だが、こっちはさらにまずいぜ。ネギ先生ほどの額じゃないが、他のみんなにも賞金がかかっている……」

 

「……俺にもか……」

 

「……一元もだな……。つーか師匠までかよ……」

 

 

 しかし、それ以上に千雨が気にしたのは、やはり指名手配になったことだ。

ネギには多額の賞金がかけられ、他のメンバーにもそれなりの賞金がかかっていた。

完全に賞金首、指名手配犯扱いだ。

 

 また、法などの”本来存在しない人間”にまでそれがかかっており、法はそれを口に出した。

千雨はカズヤも同じように賞金がかけられているのを見て、こっちもかと思った。

 

 が、千雨はそれよりも気になったのが、魔法の師であるエヴァンジェリンにも賞金がかけられていたことだった。

 

 しかも、他よりも額が大きいのだ。

魔法世界で有名だとか、名だたる魔法使いだったんじゃないのか、そう千雨は思い首をかしげていたのだ。

 

 とは言え、エヴァンジェリン自体は元々賞金首だった。

真祖の吸血鬼として、かなり昔から賞金がかけられていたのである。

 

 まあ、そんな賞金よりも魔法世界への献上の方が大きかったので、今は誰も狙わなくなったというだけなのである。

それに、どうせ狙っても返り討ちは必須。誰もが諦めたところもあるのだ。

 

 

「……みんな……」

 

「とりあえず落ち着けや」

 

 

 ネギはクラスメイトに賞金がかかってしまったことを、とても苦に思った。

どうしようもなかった、と言えば確かにそうなのだが、ネギにはそうは思えなかったのだ。

 

 そんな落ち込むネギへと、小太郎は叱咤を叫んだ。

 

 

「くよくよしとってもしょーがないやろ? とりあえず自分らができることからはじめんと!」

 

「だけど……」

 

 

 落ち込んでいても何も始まらない。

だったら、まず何をすればいいかを考えた方がいい。

できることを探した方が有意義だと、そう小太郎は叫んだ。

 

 それでもネギは、落ち込みっぱなしだ。

アスナや刹那などは、まだ大丈夫だと言えよう。

戦えるし、かなり強い。

 

 だが、まき絵たちはどうだろうか。

彼女たちは一般人だ。戦えるはずがない。何かあったらどうしよう。

そうネギは考え、不安になっていたのだ。

 

 

「あいつらなら大丈夫や。ネギもわかるやろ? あいつらがそう簡単にヘバる訳あるかい!」

 

「……そうだね……」

 

 

 そんなネギへと、激励するかのように小太郎は再び叫んだ。

ネギの生徒たちはわりとタフでしぶとい。

そうそう倒れるようなことはないはずだと。

 

 それを聞いたネギは、確かにそのとおりだと思った。

自分の生徒を信じないで、どうするというのかと。

 

 しかし、それよりもネギが思いつめることがあったのである。

 

 

「……心残りなのは、状助のことか……」

 

「……はい……」

 

「……あの兄ちゃんだけは、随分ヤバそうやったな」

 

 

 法はそこで、状助のことを言葉にした。

あの重傷だった状助だ。ネギも彼のことが気がかりだったようで、小さくそれに返事をした。

 

 何せ瀕死と言えるような状態だったのだ。

ネギも彼を治癒できなかったことを、助けられなかったことを悔やんでいたのである。

 

 小太郎もその名を聞いて、状助の最後の姿を思い浮かべた。

他のみんなと違い、状助は重傷のまま転移していった。

確かにあのままではかなり厳しいと、考えていた。

 

 

「――――彼が何だって?」

 

 

 そんな会話をしているところに、突如として誰かが話しかけてきた。

ネギたちはハッとしてそちらを向くと、逆光を受けながら、マントをなびかせた男性がそこに立っていた。

 

 

「あ、アンタは!?」

 

「ゲェー! 赤蔵の兄ちゃん!?」

 

 

 千雨はその男子を見て、どうしてここにと言う顔で驚いた。

さらに小太郎は驚きつつも、少し怯えた様子でその名を叫んだ。

 

 赤蔵覇王。

そこに立っていた男子は、覇王だったのだ。

 

 

「久々だね、君たち」

 

「何故、あなたがここに……!?」

 

「色々訳があってね。むしろそれはこっちの台詞さ」

 

 

 覇王はゆっくりとネギたちへと近づき、にこやかに挨拶をした。

ネギもどうして覇王がここにいるのかわからず、びっくりしながらそれを尋ねた。

 

 その問いに覇王は、自分が行っている”転生者狩り”ということを省き、色々とだけ話した。

ただ、覇王としては逆に、ネギたちがこんな辺境にいる方が驚きだというようなことを言葉にしていた。

 

 

「で、何を悩んでいたんだい?」

 

「それは状助がだな……」

 

「状助がどうしたんだい?」

 

 

 覇王は先ほどのしんみりした空気を感じ、何か悩みがあるのかと尋ねた。

 

 すると法がそれに、静かに、言いづらそうに口を開いた。

だが、法はそこで言葉を一度を止めてしまった。

 

 覇王と状助は友人なのを法は知っていた。

なので、状助の惨状をどう話してよいか、悩んだのだ。

 

 状助。

その名に覇王は反応し、彼がどうしたのかと再び聞いたのだ。

 

 

「その……、重傷を負ったまま行方不明に……」

 

「へえー、それは大変だねぇ? ――――なあ状助?」

 

「お、おう……」

 

 

 法は正直に話すしかないと考え、重い口を再び開き、はっきりとそれを述べた。

状助が瀕死となって、そのまま行方不明になってしまったと。

 

 それを聞いた覇王は、むしろいたずらに成功した子供のような笑いを見せ、その彼の名を呼ぶ。

 

 名を呼ばれた状助は、ひょっこりとそこにばつが悪そうに現われ、腰を低くしながら顔を見せたのだ。

 

 

「なっ!」

 

「あなたは!」

 

「生きとったんか!」

 

 

 誰もが状助の登場に驚いた。

あれほどの傷を負いながらも、元気そうな様子を見せていたから。

強制的に転移された状助が、何故か覇王といっしょにいたから。

どういうことだ、どうなっている。誰もがそう思っていた。

 

 

「無事だったのか!」

 

「いやー、マジでやばかったっスけどね」

 

「無事でなによりです……!」

 

 

 法は状助の登場に驚きつつも、喜びの顔を見せた。

生きていて良かったと。

 

 状助は状助で、実は死んでいました、などと言えるはずもなく、後頭部に手を置きながらも、危なかったとだけ話した。

 

 また、ネギは元気そうな状助を見て、涙ぐんで喜んでいた。

よかった、無事でよかった、と。

 

 

「さて、彼が生きていたので一つ悩みが解消された訳だね」

 

「はい……!」

 

 

 とまあ、状助がこうして元気にしているならば、彼への悩みはなくなった。

覇王はしれっとそれを言葉にし、ネギもそれに返事をしていた。

 

 

「では、次の問題について考えましょう」

 

「そうだな、とりあえず目的をはっきりさせるところから考えるか……」

 

「そうですね……」

 

 

 ならば、次の問題を解決すべく、話し合おうじゃないか。

茶々丸はそれを口に出すと、千雨も次の題について話し出した。

 

 ネギもそれに賛成し、再び問題解決への糸口を探すべく、考え始めたのだった。

 

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