アーチャーと呼ばれた転生者は、ネギを嵌めるためにその彼と交渉を行っていた。
ネギにこの世界と仲間とどちらを取るか選ばせようと、言葉巧みに説得しようとするアーチャーだったが、ここでアスナが待ったをかけたのだ。
「何故なら……、ネギは
「……え……?」
アスナは、アーチャーのネギと魔法世界は無関係であると言う言葉を聞いて、反論を口にした。
そうだ、ネギはこのオスティア、いや、ウェスペルタティア王国の王子なのだと、アスナは主張したのだ。
ネギはその言葉に、一瞬言葉を失った。
また、一体どういうことなんだと、固まってしまった。
刹那も同じように、ネギがこの国の王子であると言うことに驚きを隠せない様子だった。
「ふむ、なるほど。君がそこまで知っているとは……」
「どっ、どういう……。いえ、まさか……」
だが、アーチャーはそれでも冷静だった。
むしろ、アスナがそこまでのことを覚えていたことは、誤算だったとしか考えてない様子だった。
ネギはアスナの言葉とアーチャーの態度に、それが事実なのかとうろたえた。
そして、ふと一つのことを思い出した。
「まさか、母さんが……!?」
「そうよ。あなたの母こそ、このウェスペルタティア王国の女王だったのよ」
ネギがそこで思い出したこと、それは自分の母親のことだった。
原作のネギは父親であるナギばかりにとらわれ、母親のことを気にかけたことがない様子だった。
それにネギの母親であるアリカは、災厄の魔女として名を出すことすらはばかられる存在だったのも大きかった。
だが、ここでのネギはこっそりとだが、母親について師であるギガントから教えてもらっていた。
とは言え、魔法世界の国の女王だったとかそう言うことではなく、あくまで人柄などではあったが。
故に、ネギはもしかして自分の母親が、この世界に大きく関わっているのではないかと考えた。
すると、アスナはネギのその言葉を肯定し、そのネギの母親であるアリカの正体をはっきりと口にしたのだ。
「だから、ここがどうなろうと関係ないなんて通用しない! ネギはこの国と、この世界と大きく関係しているのだから!」
「まさか、ネギ先生にもそんな秘密が……」
そう、ネギの母親であるアリカがこの国の女王だったのなら、ネギがこの世界と関係ないということはありえない。
切っても切り離すことのできない繋がりが、すでに存在しているのだから。
アスナはそれを大声で、アーチャーへと主張した。
また、刹那はネギの新たな秘密を知り、冷静な態度で驚いていた。
ネギの正体がそれほど大きなものだったなど、まったくもって予想できないものだったからだ。
「……そうだな、ならば訂正しよう。見知らぬ故郷など捨て、自分の住む世界に帰りたまえ」
「何だって……!?」
だが、アーチャーはそれでも物静かな態度だった。
関係がない訳ではないのはわかった。それでも所詮それはそれだ。
ネギにもある程度この世界につながりがあったとは言え、来たこともないような故郷など、やはりどうでもいいもののはずだろうとアーチャーは言ったのだ。
ネギはアーチャーのその言い草に、かなり驚いていた。
それでもここを捨てろと、忘れろとアーチャーが言い出したからだ。
「何、どうせ君はあちらの世界こそが故郷なはずだ。こちらのことなど知らないだろう? 今しがた彼女の話で、ようやく知ったのではないのかね?」
「うっ……」
「図星のようだな」
そんなネギへと、アーチャーはさらにまくし立てた。
繋がりがあるにせよ、所詮は今はじめて知ったことだ。
一番記憶に残っている故郷とは、ウェールズの田舎ではないかとアーチャーは言葉巧みに話した。
ネギもそれは否定しなかった。
否定できなかった。その通りだからだ。間違ってないからだ。
そうだ、ここへ来たのは初めてであるし、自分の母親がこの世界で女王だったのも初耳だった。
しかし、それを聞いても、知っていても無関係に等しいと言われれば、少し違うのではないかと思うのも人間だ。
知らなかったからといって、捨てていいようなものではないと思うのも当然だ。
ただ、やはり知らなかったのは間違いではないので、ネギは言葉を詰まらせた。
アーチャーはそんなネギを見て、思ったとおりだとほくそ笑んだ。
「ならばいいではないか。君の故郷はウェールズだ。君の親がどうであれ、君がどんな生まれにせよ、君には君の世界があるはずだ」
「ッ!」
それならそれで、ここを気にする理由などないのではないか。
ネギの本当の故郷はウェールズであり、ここではない。
親がどんなものだろうと、ここはさほど関係ないだろう。
ここではない、自分だけの世界があるはずだろうと、アーチャーはフッと笑って言ってのけた。
ネギもそれに関しても否定はしなかった。
何か言いたそうな顔で、驚くだけだった。
だが、何か棘があるような、知った風な口を利かれたような、そんな感じは受けていた。
「君は君の住む世界で、彼女たちと幸せに暮らせばいい。英雄の息子が英雄になる必要はないのだからね」
「……そうですね」
アーチャーはさらに言葉を続けた。
自分の幸せがある場所へ帰るべきだと。
英雄になる必要はない、自分の選んだ道を進めばよいと、調子のいいことを言ってのけた。
ネギもそれを静かに聞き、悩んだ末に答えを出した。
アーチャーの言っていることはもっともであるし、自分もそう思い考えてきたことだったからだ。
「ネギ……!?」
「ネギ先生!?」
そこで、そのネギの発言を聞いたアスナと刹那は、かなり驚愕した様子を見せた。
まさかネギがアーチャーの言葉に丸め込まれてしまったのかと。
このままでいいのだろうかと、二人は考えながらネギに何か言おうと口を開きかけていた。
「ふっ、ならば口に出していただこうか。『僕は今後一切あなたに手出ししないし関わらない』とね」
そして、アーチャーはしてやったりと言う笑みを見せながら、最後にそれをネギ本人に約束させようと言葉を吐いた。
そうだ、それでいい。
そのままその言葉を述べてもらおう。そうすれば、こちらの勝利だ。
そう思いながら、すでに勝利を確信していた。
「――――いえ、それにはおよびません」
「……何?」
だが、ネギはそこでアーチャーの言葉を断った。
先ほどの自分の発言は、そう言う意味ではないとネギは言ったのだ。
先ほどのネギの言葉は、確かにネギが思ったことをそのまま述べたものだった。
されど、元々ネギは英雄にも父親のようにもなる気などなかった。
つまり、先ほどの答えは、ただ自分が最初からそう考えていた、と言うだけに過ぎなかったのだ。
アーチャーはネギが断ると言ったのを聞き、先ほどの余裕の表情を崩した。
どういうことだ、先ほどの言葉はそう言う意味ではなかったのか。
そう考え、少し混乱した様子を見せたのだ。
「何故なら、この取引はすでに破綻してるからです」
「それはどういうことだね……?」
するとネギは、静かに断った理由を話し始めた。
この交渉は最初からおかしかった。明らかに詐欺めいていたと。
そのネギの物言いに、アーチャーは冷静な態度を取り繕いつつ、その意味を尋ねた。
「あなたは最初に言いました。あれは事故だったと」
「確かに、そう言ったが?」
ネギはアーチャーが説明を求めているのを聞き、ゆっくりそれを話し出した。
まず、ネギはゲートでの事件が故意ではなく事故だったということを口にした。
アーチャーはそれに対し、間違いなくそれを発言したと認めた。
しかし、その認めたことこそが、ネギの狙いであった。
「そして、それについて悪いことをしたと言いました」
「ああそうだ。だが、それについてはもう済んだことだろう?」
「いいえ、それは違います」
さらにネギは、その事故をアーチャー側が自らを悪とし、申し訳なかったと思ったことを口にした。
アーチャーはそれについてもそう言ったと認めた。
だが、ネチネチとそこを責めても意味がないだろうと、今はその話をしていたのではないと言い出した。
ネギはそのアーチャーの、もう済んだことと言う言葉を否定した。
それは間違いだ。済んだなどと言っているが、実際はそうではないと。
「そう思ったのならば、僕たちが無事に帰還することを望んでいるのならば、何故今更こんな取引を持ち掛けたんですか?」
「!……、それは……、だな……」
ネギは疑問に思った。
あのゲートのことが事故であれ、自分たちが悪いと思ったのならば、こんな交渉など不要なはずだと。
自分たちの帰還を望んでいて、なおかつ罪を認めのであれば、取引など持ちかけるはずがないと。
その問いかけに、アーチャーは渋い顔を見せながら、言葉を詰まらせた。
しまった、そう思ったような表情をアーチャーは見せながら、言い訳を必死に頭の中でめぐらせていた。
こうなるはずではなかったと、自分のミスを悔やんでいた。
「最初からおかしかったんですよ。自分たちが悪いと思っているなら、無事に戻ってほしいなら、はじめから積極的にサポートしてくれたんじゃないですか?」
「それは……」
そうだ、最初からこの交渉は破綻していた。
アーチャー側が自らの罪を認め謝罪するのであれば、無償で助けてくれてもよかったはずだ。
何か救済処置を取ってくれてもよかったはずだ。
それを何故今更ここで、アスナを引き換えに助けると言い出したのか。
そうでなくとも、自分たちを無視しろなどと言い出したのか。
それは明らかに不自然なことだ。
アーチャーはそのネギの言葉に、どう答えていいかわからない様子だった。
自分たちが悪いことを認めてしまったのがあだになったと、そう後悔していた。
「つまり、あなたは最初から自分たちが悪いなんて思ってない。だからあの時のことはまだ
「……くっ……、小僧貴様……!」
つまり、アーチャー側があのゲートの出来事を、一片たりとも悪かったなんて思ってないのだ。
悪いと思っていたのならば、こんなくだらない余興はしないはずだからだ。
取引するならもっと別のことを持ちかけるはずだからだ。
そうだ、故にあの時のことはまだ”済んだこと”ではない。継続中なのだ。戦いは続いていたのだ。
言葉巧みに誘導しようと目論んでいたのなら、なおさらだ。ネギはそれをアーチャーへと、堂々と宣告した。
するとアーチャーは、苦虫を噛んだような表情で、捨て台詞を吐き出した。
よくもまあペラペラと、そこまで言えたものだと。
子供の癖に生意気なやつだと。
「交渉……、決裂ですね……!」
「……よもやそこまでとは……、精神的にも強くなっているというのか……!?」
ネギはアーチャーの態度を見て、交渉が決裂したことを悟った。
それを言うとアーチャーは、忌々しそうな目でネギを見ながら、計算外だと言葉にしていた。
「ならば、仕方がない……」
「来る……!」
「私の取引にYESと言えないのならば、君の心変わりを誘発するまでだ」
するとアーチャーは席からゆっくりと立ち上がり、戦う姿勢を見せた。
そして、右手に隠し持っていた”
そう、アーチャーの目的は”
だが、これは単なる”原作再現”でしかない。
本来ならばこの役はフェイトが行うものだった。
しかし、フェイトはこの場にいない。すでに”完全なる世界”から抜けてしまっている。
なので、アーチャーが代わりにそれを行っただけにすぎないのだ。
それでもアーチャーが苛立つのは、原作ではそこで言葉に屈したはずのネギが、強い意思でそれを跳ね除けたからだ。
自分の思い通りに事が運ばなかったからだ。
「なっ! 跳んだ!?」
「我が錬鉄は崩れ歪む……」
「あれはまずい!」
刹那は一瞬にして天高く跳び上がったアーチャーを見て驚いた。
同じくアスナも、アーチャーのすばやい行動に驚いた。
そして、アーチャーは上空にて弓を作り出し、さらに特製の矢も作り出した。
それこそゲートで見せた螺旋の剣。
真作であれば山をも削り取ると言われる、伝説の剣だ。
ネギはそれを見て、あの攻撃は危険だと警戒した。
一度ゲートであの爆発を見ていたネギは、アレが地面に着弾すれば、この街に大きな被害が出ることを理解したからだ。
「”
アーチャーはそこで投影した宝具の真名を開放した。
すると、すさまじい魔力の渦が、その
「むっ!?」
「はああぁ!」
だが、その
いや、”壁”と言うよりも”盾”だった。白く細い板状の光が、何重にも重なり円を描いていた。
これこそがネギの開発した、大切な人を守るための杖を媒介にして編み出した”術具融合”。
ネギがもっとも得意な属性である、光属性の魔法と風属性の魔法を融合させた白き光の”盾”。その白く輝く細い板一つ一つが、光属性の魔法そのものだ。
その表面には強風が吹き荒れており、いかなる攻撃をも跳ね除け、または受け流すというすさまじい術具融合だった。
それでも”盾”は何層にも分かれる光の板により、それを防ぎきっていた。
「何だあれは……? ”盾”だと言うのか……!?」
「僕は……、守る……! 守ってみせます! 仲間も、父さんが守った世界も、母さんの国も!」
「くっ、やるな……!」
アーチャーは、ネギが作り出した光の円を見て、まさか”盾”なのではないかと感じ、驚いた。
さらに言えば
今のアーチャーの攻撃は牽制であり、街にも大きく被害がでぬよう配慮し、全力ではなかった。
それでも
そして、ネギはこの”盾”で、自分の持ってるもの全てを守ると、誓い宣言したのだ。
そんなネギにアーチャーは、多少悔しそうな顔を見せた。
こうしている内に、アーチャーの
”盾”こそ破壊されたものの、ネギはアーチャーの
「はあああぁッ!!」
「ネギ!」
ネギはアーチャーを倒すまいと、その場から空高く跳び上がった。
こうなってしまってはもはや戦わざるを得ない。
それに、再び矢を放たれるのは面倒だと考え、ネギはあえてアーチャーに戦いをしかけに出たのだ。
それを心配そうな声で叫ぶアスナがいた。
ネギは魔法使いとして天才ではあるが、戦いの天才ではない。
なので、ネギがここでムキになってアーチャーと戦い、逆に返り討ちにされないかを心配したのだ。
「来るか……! ”トレース・オン”! はぁ!」
アーチャーは高速で近づいてくるネギを見て、迎え撃つことにした。
そこでアーチャーは両手に夫婦剣を投影し、そのままネギを切り下のである。
「……! デコイだと!?」
「こっちです! ”開放! 雷の投擲”!」
「ぐっ! 接近してくると睨んだが違ったか……!」
だが、それは風の精霊で作り出された偽者だった。
アーチャーが切り裂いたそれは、たちまち風となって消え去ったのである。
それを見たアーチャーはハッとし、くるりと周囲を伺った。
すると、なんとアーチャーの真上から、ネギの声とともに魔法が飛んできた。
ネギは矢と盾が爆発した時、すでにデコイと入れ替わっていたということだった。
そして、アーチャーに気づかれないように、そこへと飛んできていたのだ。
また、ネギは杖に遅延魔法として備えておいた、複数の”雷の投擲”をアーチャーへ向けて放ったのだ。
アーチャーはそれを見て、少し焦りを感じていた。
ネギが接近戦を挑んでくるばかりだと、アーチャーは思っていたからだ。
「”開放! 雷の斧”!!」
「あたらん!」
「そこっ! ”魔法の射手・雷の29矢!”」
「無詠唱だと!?」
さらに遅延魔法として溜めておいた”雷の斧”をアーチャーへ向けてネギは放った。
しかし、アーチャーとてその程度の攻撃など、簡単に回避できる。
その場で虚空瞬動を用いて、アーチャーはすばやくネギの魔法を回避した。
だが、さらにネギはそこへ畳み掛けるように、無詠唱で雷属性の魔法の射手を29発放ったのだ。
それにはアーチャーも驚いた。
無詠唱の魔法に驚いたのではない、自分を囲むように配置された魔法の矢が、逃がさぬように飛び交ってきたからだ。
「ちぃ! これほどとは! ならば!」
「双剣!」
「そこだ! ”
アーチャーはその魔法の矢を全て避けきり、すかさず夫婦剣をネギへと投げた。
ネギはその飛び交う夫婦剣を見てさっと回避したが、アーチャーはその動きをすでに読んでいた。
なんと、その夫婦剣は回転しながら方向を変え、ネギの後ろへと戻ってきたのだ。
ネギはその戻ってくる夫婦剣に気が付き、再び回避を行おうとした。
そこでアーチャーはその夫婦剣を爆破したのだ。
これぞ
英霊が持つ宝具を破壊することで、すさまじい威力の爆発を起こす最終奥義だ。
「流石の少年も無事では……、なっ!」
「”最果ての光壁”……!」
今の爆発はネギをしっかりと巻き込んだ。
アーチャーは本気でネギを消し去るという気はないものの、ここで再起不能になってもらうとも思ったのだ。
そして、今の攻撃ならばネギとてただではすまないと考え、その爆発した煙を眺めていた。
しかし、ネギは無傷だった。問題なく健在だった。
そう、ネギが先ほど作り出した光の盾の術具融合”最果ての光壁”で、今の爆発をしのいだのだ。
「くっ! ”盾”か!」
「それだけじゃない! これはただの”盾”だけじゃない!」
ここで終わったと思ったアーチャーは、今の攻撃を防がれたことに驚いた。
また、先ほど見せた”盾”の存在を失念していたことに、舌打ちをしたのである。
だが、ネギはその”盾”は盾だけではないと叫んだ。
すると、盾を形成している光の板が折りたたまれ、形状が変化したではないか。
「――――何!? 槍にだと!?」
「”開放! 雷の投擲”!!」
そのネギが持つ”盾”の形状、それはまさに白く光る”槍”だった。
盾として機能していた何層にも重なっていた光の板は、複雑に絡み合い錘状となりて槍の形を形成したのだ。
さらに、取り巻いていた暴風は槍の周囲を纏う竜巻となり、その突きの威力を上昇させていた。
アーチャーは盾が槍に変貌したことに、驚き戸惑った。
まさか、盾を変形させて武器にするなどと、考えても見なかったようだ。
そんな戸惑うアーチャーへと、ネギはさらに追撃を行った。
”最果ての光壁”に封じていた雷の投擲をここで開放し、アーチャー目がけ飛ばしたのだ。
「まだまだ! ”魔法の射手・光の101矢”!」
「背後にだと……!? しまっ!」
「受けろ! ”最果ての光壁”!!」
さらにネギは雷の投擲以外だけでなく、再度魔法の矢を無詠唱で発動させた。
それはまるでアーチャーを取り囲むように、101本の光属性の魔法の矢が出現したのだ。
アーチャーは自分が包囲されたことに驚き、焦った。
このままではまずい。何とかしなければ、そう思考し始めていた。
ネギはそんなアーチャーへ考える間も与えんと、”最果ての光壁”と”雷の投擲”と”魔法の矢”での同時攻撃を行ったのだ。
「――――”
「盾……! 防がれた……!」
「……盾を持っているのは君だけではないということだ」
しかし、そのネギの渾身の攻撃は、全てアーチャーに防がれた。
剣を右手に握り、ネギの操る”最果ての光壁”を防ぎ、それ以外の魔法を左手に展開した”
”
射撃や投擲などの遠距離攻撃に対応した強靭な”盾”だ。
これによって雷の投擲と魔法の射手は完封されてしまったのである。
また、右手に握っている剣はいつもの夫婦剣ではなく、西洋の剣だった。
その剣の名は
ローランが使っていたとされ、絶対に壊れないとされる剣だ。
壊れないという特性を利用し、アーチャーはこの剣を盾代わりにしたのである。
そして、ネギはその”盾”を見て驚き、今の攻撃を完全にしのがれたことを理解した。
そこへアーチャーはネギへと不適な笑みで、自分も”盾”を所有していると得意げに述べたのだ。
「ふむ……。しかし、これは少し分が悪いようだな」
「待て!」
アーチャーはネギから距離をとり、ふと周囲を伺った。
はっきり言ってネギが
否、闇の魔法ではない新たな力、術具融合がこれほど厄介だということを、アーチャーはここでようやく理解したのだ。
さらに、下には刹那とアスナがいる。もう一人の
それを考えたアーチャーは、
ネギは退却するアーチャーを見て、すかさず追ってしまった。
今の戦いで多少自信がつき熱くなってしまったネギは、アーチャーを捕らえることにこだわってしまったのだ。
「ネギ!」
「アスナさん!」
アスナはアーチャーを追ったネギを見て、たまらず跳び出した。
確かに今のネギを見るに、かなり強くなっていた。
それでもやはり、あのアーチャーに一人で勝てるはずがないと思ったからだ。
刹那はそんなアスナの名を叫んだ。
別に引き止めようと言う訳ではない。
行くならば自分も一緒に行こうと、言おうとしただけだった。
「センパイの相手はウチですえ」
「――――なっ!」
「お久しぶりですなー。センパイ」
「貴様は……月詠!」
だが、そんな刹那の前に現れたのは、刹那が知るもっとも危険な人物だった。
そう、それこそ京都の修学旅行にて、刹那と一度斬り合った月詠だったのだ。
刹那は月詠の姿を見てかなり驚いた。
いや、確かにバーサーカーから報告を受けていた。
誰かに雇われて
ただ、その雇い主があのアーチャーだったことを初めて知って驚いたのだ。
月詠は驚く刹那の顔を見ながら、にこやかに笑っていた。
こうやって対面したかった、待っていたと言わんばかりだ。
すると刹那は驚きを抑え、すぐさま刀に手をかけ戦闘態勢を整えた。
あの月詠が何故ここにいるかはわからないが、敵であることだけははっきりしていたからだ。
「ようやく、ようやくこの待ちわびた
「何故このような……!」
「別にそないなこと、簡単で単純なことやないですか。ウチはセンパイとヤれるんなら、どこまでもイきますえ」
月詠は本当に嬉しそうに刹那をまじまじと眺めながら、待ちわびたと言葉にしていた。
まるでいとしの恋人に会ったかのような、そんな表情だった。
刹那はそんな月詠を警戒しつつ、今思う疑問を尋ねた。
しかし、月詠はその疑問など知らぬと言う感じで切り捨て、むしろ刹那がいる場所ならば現れると言うではないか。
「それに、数週間もお預けくろうてて、ウチもう我慢できひん……」
「……そうか。なら早々に終わらせるまでだ」
「うふふふふ、早々終わらせるなんていけずやわぁー。センパイとのひと時をずっと待っておったっちゅーのに」
そして、月詠は刹那を見つめながら、紅潮した顔で優しく抜いてあった刀を舐めずった。
月詠はアーチャーから今の今まで戦うことを止められていたのだ。なので、もはや我慢の限界だったのである。
刹那はそんな月詠へと、だったら早く戦おうと述べた。
はっきり言ってこの状況、目の前の月詠と遊んでいる暇など刹那にも無いからだ。
それを聞いた月詠も気味の悪い笑い声を出しながら、むしろ早く終わるなどもったいないと言い出した。
何せ月詠は刹那と戦いたい一心だ。
その戦っている時間こそ至福の時なのだ。
それがすぐに終わってしまうなど望んではいないのだ。
「ほなヤりましょかセンパイ? ウチを満足させてくれはってな?」
「……行くぞ!」
「うふふふ、ふふふふふ!!」
そこで月詠もすっと笑顔のまま戦闘態勢をとり、刹那をじっと見つめていた。
刹那はもはや月詠に言葉は不要と感じ、一言言い終えるとすかさず攻撃へと転じた。
刹那は瞬動にて一瞬の内に月詠の懐へ入り込み、刀を振り下ろした。
月詠はその攻撃を受け止めながら、まるで好きな相手とデートをしているように喜びながら、笑っていたのだった。
…… …… ……
ネギたちが戦っていたところから少し離れた場所にて、アルスもアーチャー一味の一人と戦っていた。
その相手とはゲートでの事故から因縁のある、青いローブの少女だ。
「いいわ! いいわ! もっと苦しみなさい! もっと悲鳴をあげなさい!」
「はっ! 生憎とそんな趣味はねぇんでな!」
青いローブの少女は、まるで踊るように軽やかな動きで、アルスを攻め立てていた。
多少興奮気味な様子の少女は、アルスへと攻撃しながら喜びを感じていた。もっと苦しめと嘲笑っていた。
しかし、アルスとて負けてはいない。その攻撃をしっかりと見極め、回避していた。
自分はマゾヒストではないのだ、そんなもんゴメンこうむると苦笑すながら戦っていた。
「ふん! なら私がそうしてあげるわ!」
「そりゃどうも。だけどな、俺だって負けてらんねぇのさ!」
そんな生意気なアルスの程度に、青いローブの少女は少し不機嫌そうな顔を見せた。
そして、すぐさま元のサディスティックな笑みを見せ、アルスへとさらに苛烈な攻撃を行い始めたのだ。
それでもアルスはその攻撃に確実に対応して見せた。
また、この程度のことでは負けないと、意気込んで見せたのである。
「あの時随分と痛めつけてあげたというのに、まだ抵抗する気力があるのね」
「そう思うか? 実はちょいと違うんだぜ?」
「はぁ?」
すると青いローブの少女は、ゲートの時のことを話し出した。
あの時にかなりダメージを与えてやったはずだ。勝てないと教えたはずだ。
なのに未だ抵抗の意思を見せていることに、むしろ感心の念を抱いていたのだ。
だが、アルスは当然そうは感じていなかった。
確かに目の前の青いローブの少女は強い、強かった。
強かったが勝てないというほどとは、一片たりとも感じてはいなかった。
だから、アルスはそう言った。挑発するようにニヤリと笑いながらそう言った。
お前が考えているようなことはないと、お前の考えは間違っていると、そう言った。
そんなアルスの強気の態度に、青いローブの少女は疑問の声を漏らした。
違うというのは何が違うのだろうか。意味がわからないという顔を見せたのだった。
「確かにお前の蹴り、キツかったぜ。だがまあ、致命傷は全部防いだ。この意味がわかるか?」
「さぁ?」
とは言え、アルスは間違いなくゲートでの攻撃のすさまじさを記憶していた。
アレは確かに強かった。かなりヤバかった。
されど、その攻撃を受けながらも、決して決定打だけは受けてなかった。
アルスはそれを青いローブの少女へと、自信ありげに話し問いかけた。
そのアルスの物言いに、少女は何を言ってるのかわからないという顔を見せた。
されど、その顔は疑問を感じたという顔ではなく、アルスを小馬鹿にしたような顔だった。
「お前の動きは見切ったってことだよ!」
「見切る? この私を? つまらない冗談ね!」
「冗談に聞こえるんならこっちとしちゃラッキーだね!」
そんな青いローブの少女へと、アルスは悠々とそれを語った。
あの時の攻撃は激しかったが、それを見切ることができたと。
故に、ダメージを最小限にとどめることが可能だったと。
だが、それを聞いた青いローブの少女は、それこそおかしな話だと嘲笑した。
自分の能力は最高に高められている。
それを見切るなんてありえない。
彼女はそれほどまでに、自分の
アルスはそれを聞いて、むしろその方がいいとさえ言った。
見切られていないと思うのならば、それでよし。自分を舐めてくれていた方が、隙を突きやすいと思ったのだ。
「受けろ! ”雷の投擲”!!」
「あたらないわよ?」
「本命はこっちさ! ”雷の投擲”!!」
「だから無意味な……、っ!」
そこでアルスはすかさず無詠唱で、”雷の投擲”を放った。
しかし、当然それは青いローブの少女にはあたらない。まったくもってあたらない。
そこへさらにアルスは同じく無詠唱で、再び”雷の投擲”を少女に向けて放つ。それも当然少女にはあたらない。
軽くそこで回避した。
が、少女が回避した瞬間、別の何かが彼女の頭上を掠めたのだ。
それによりローブのフードで隠れていた少女の顔が、陽の下にさらけ出された。
薄い紫色をした長い髪とあどけない少女の顔が、日差しに照らされはっきりと映った。
「術具融合、――――”スターランサー”!」
また、アルスの右手には新たな武器が握られていた。
それは”雷の投擲”を数本束ねた形状の穂先を持つ雷の槍。
まさにガトリングランス。その名はスターランサー。
それもまた”術具融合”を使った武装であった。
――――アルスはゲートでの敗北を悔しく思い、この術具融合を開発した。
アルスの特典の一つは無詠唱。そして、もう一つは魔力コントロールだ。
その二つ目の特典を用いれば、即座に簡単に術具融合を編むことが可能だったのだ。
「っ! やるわね……!」
青いローブの少女は、今の一撃に驚いた。
自分にダメージを与えることこそかなわなかったものの、フードを破壊し素顔をさらけ出させて見せたからだ。
また、今のは油断だったと、少女は反省した。
そして、ここではじめて余裕の表情が崩れ、悔しそうな顔を見せたのだ。
「切り札ってのは、最後まで取っておくもんだぜ」
「……あらそう? ……でもそれが切り札なら、あなたはここで最後を迎えるってことね!!」
アルスはそんな彼女へと、ニヤリと笑って、握り締めた武器を見せびらかすように振り回した。
これこそが隠し玉。奥の手というやつだと。
しかし、青いローブの少女は、再び余裕の笑みを見せ始めた。
それが切り札だというのなら、アルスにもう後がないということだからだ。
ならば、未だ切り札を見せていない自分の方が、まだまだ圧倒的に有利だ悟ったのだ。
そして、青いローブの少女は、アルスへの攻撃に移行した。
切り札がそれでそれ以上がないのなら、やはりお前はここで終わりだと、そう面白そうに笑いながら。
アルスもそれは無いという顔で、その少女の攻撃を受ける姿勢をとっていた。
こうして再び二人の激戦は、第二ラウンドへと移るのだった。
…… …… ……
そのころ、隔離された結界の中、二人の男が衝突していた。
「ふん!!」
「はあぁ!!」
片方は銀色のコートの男、ブラボーと名乗る男。
もう一人は褐色の肌を持つ筋肉ムキムキの男、ジャック・ラカンだった。
二人は同時に拳を突き出し、その拳を衝突させていた。
その衝撃はすさまじく、周囲の建造物や地面のタイルを砕き割るほどであった。
「おおう? なんだその銀色の服は? 手ごたえが変だぞ?」
「だろうな。それこそ我が最強の鎧」
「アーティファクトか何かか? すげーなソレ!」
そこでラカンは奇妙な感覚を覚えた。殴った感触がおかしいのだ。
見た目はただの服のようだが、その強度はまるで分厚い鉄の塊を殴っているかのようだったからだ。
それもそのはず、このブラボーと自ら名乗った男の
シルバースキンはいかなる攻撃をも跳ね除ける最強の防御。
まさに鋼の鎧、否、鉄壁の城壁にも勝るものだ。
それを自慢げに、されど控えめな態度でブラボーと名乗る男は言った。
対してラカンは単純に、その防御力に感心していた。すばらしいものだと。
「俺様の右パンチを受けて無傷だったヤツは久々だぜ!」
「それは光栄な話だ」
ラカンは本当にその防御に感服していた。
自分のパンチで無傷だったやつは、片手の指で数えるほどしかいないからだ。
それに対してブラボーも、当然と言う態度であるが光栄だと言葉にした。
だが、所詮それは転生神から貰った特典。自分の力ではない。
故に、自信はあったが、さほど嬉くはなさそうであった。
「だが、俺はこの防御だけに頼っている訳ではないぞ……!」
「やるねぇ。なかなかの気の使い手みてぇだな」
とは言え、その防御だけが全てではないと、ブラボーは拳に力を入れて宣言した。
そうだ、この鍛え抜かれた肉体こそが、最大の武器だ。最強の矛なのだと。
ラカンもそれは理解していた。
ラカンとの殴り合いについてこれるというのなら、防御だけではないのは明白だからだ。
「いいぜ! こういうわかりやすい殴り合いは大好物だ! 俺も久々に本気を出すしかねぇな!!」
「そうだ、もっと俺に強さを見せ付けろ。そして、俺にそれを超えさせろ!」
「はっ! だがそう簡単にはいかねぇぜ!?」
しかし、ラカンはだからこそ歓喜した。こう言う強いヤツが出てくることは願ったりかなったりだ。
しかも単純に殴り合いでケリを付けたがる相手など、好物に他ならない。
故に、ニヤリと笑いながら、ラカンは本気を出す気になった。
目の前の男がかなりの実力者だからだ。防御を抜いても、かなりの猛者だからだ。
それを聞いたブラボーと名乗る男も、冷静な態度を見せながら喜びの声をあげていた。
ラカンが本気を出すということは、つまり自分を強者と認めたということだ。
敵対するに値すると思われたからだ。
そして、その本気のラカンを越えたい願うのが、このブラボーと名乗る男だった。
ラカンも男のその態度がとても気に入ったようだった。
だからこそ、ブラボーと名乗る男へと、喜びながらもその壁は厚いと大きく宣言したのだ。
「ぬうん!! ”流星! ブラボー脚”!!」
「オラァ! ”螺旋掌”!!」
その後両者とも、渾身の力で必殺技を解き放った。
ブラボーと名乗る男は地面を砕きながら飛び上がり、落下の力を使い蹴りを放った。
ラカンはその男を迎え撃つように、手のひらを突き出したのだ。
直後、両者の脚と掌が衝突し、爆発的な衝撃波が周囲を襲った。
結界の中故に外は無事であるが、今の攻撃だけで周囲はす戦場の後のようにボロボロとなってしまったのだ。
美しい景観は失われ、瓦礫の山となっていたのである。
「うっへー! あっちはすげぇことになってやがるぜ!」
「陽ー!」
「うお! こっちもヤベーことになってるけどな……!」
そのすさまじい戦いを、少し離れた場所で他人事のように見るものがいた。転生者の陽だ。
陽は無関心な様子で、仲間であるブラボーが戦っているのを、チラっと見て驚いていたのだ。
そこへ木乃香はすかさず
陽はハッとしてその攻撃を何とか
いや、陽の
片や木乃香の
故に、陽はすばやくそのままバックステップをし、
「あんちくしょう! このかぁ! もうちょい手加減してくんね!? マジきちーんだけどさ!?」
「なして陽はあんなやつらの仲間になってしもうたん!?」
「だから言ったじゃん!」
だからこそか、陽は木乃香の攻撃が強烈さに、かなり苦戦していた。
はっきり言ってしまえば、陽は”
それでも何とか戦えるのは、陽がある程度完全なる世界の仲間に、戦闘訓練を受けたからだ。
しかし、木乃香とてだらだらと魔法世界ですごしてきた訳ではない。
木乃香には目標があった。
師匠であり好きな男の子である覇王と並ぶ強さを手に入れることだ。
その目標のために、当然修行してきた。技術を磨いてきたのだ。
陽はそんな木乃香の実力に驚きながらも、ふざけた態度でヘラヘラとそれを言葉にしていた。
木乃香は強い、かなり強い。これはかなり分が悪い。
馬鹿な陽でさえ、今の状況をある程度理解したようだ。
されど木乃香は陽の言葉に耳を傾けず、己が全力を陽にぶつけた。
また、そこでゲートでも質問したことを、もう一度陽へと問い詰めたのだ。
だが、それが陽の逆鱗に触れた。
陽は突如としてすごい剣幕で怒り出し、大声で叫びだしたのだ。
「お前がオレの女にならねぇで、兄貴にくっついたからに決まってんだろ!!」
「そないなことで!」
「お前にゃそんなもんだろうが、オレには重大なんだよぉ!!」
何故、そんな質問など愚問だ。
陽はそう叫びながら、怒りと欲望をその口から吐き出した。
陽は木乃香が自分の女にならず、兄である覇王の女になったことに悔しく思っていた。
それがまったく許せなかった。
ただ、陽のそれは愛や恋ではなく、欲望だ。
はっきり言ってしまえば、陽は特別木乃香が好きだとかそう言う訳ではない。
ある程度特別視はしているのだが、惚れているのではない。
ただただ、木乃香を側にはべらせたいだけだ。
彼女が自分の
単純に好き勝手したいだけなのだ。
また、木乃香はそのことだけで、敵になったのかと怒り叫んだ。
それに対して陽も、その程度とはなんだと逆切れして怒りをぶちまけたのだった。
「せやかて! 陽は何も言ーてくれへんかったやん!」
「アピールしてたつもりだがよぉ!!」
「言ーてくれへんとわからへんよ!」
そこで木乃香は、陽が自分を好いてるということを、一度も言ってくれなかったと叫んだ。
一度でもそれを言ってくれなかった。
教えてくれなかった。気がつけなかったと。
しかし、陽は態度でそれを示したと言い出した。
それでわかってくれなかったと、文句を言ったのだ。
そこで木乃香はそれじゃわからないと話した。
一言でも言ってくれれば、少しは意識が変わったかもしれないと大きな声で口にした。
「言ったところで兄貴を選んだだろうが!! ふざけんなよ!!」
「そないな態度やったら当たり前やん!!」
だが、それはありえないと陽は思い、憤怒なる声を喉の奥底から大きく出した。
たとえ自分が告白したとしても、木乃香は覇王を取っただろう。
それは間違いないと、陽は思っていたのだ。最初から諦めていたのだ。
そんな陽へと、木乃香も普段見せないような怒った態度で、陽へと叫んだ。
陽の態度はあまりよいものではない。
ただ我がままを言うだけの子供だ。
そのような相手に誰が惚れるだろうか。好きになってくれるだろうか。
そのことを木乃香は、陽へと打ち明けたのだ。
「オレの女になれ! オレの! オレの! オレのオオオオオ!!!」
「絶対嫌や!」
「なれえええぇぇぇぇぇ!!!!」
陽はもはや破れかぶれだった。完全に我を失っていた。
木乃香に無理やり、俺の女になれと叫んだ。
俺のものになれと叫んだ。
木乃香は当然それにNOだと言葉にし、突き放す。
当たり前だ。
たとえ覇王と言う好きな男子がいなかったとしても、こんな態度の陽に惚れることはありえないからだ。
それに今は覇王が好きだ。大好きだ。
今更陽に振り向くなど、絶対にありえないことなのだ。
それを聞いた陽は、もはやこの世のものとは思えないような声で叫んでいた。
喉がはちきれんばかりの、すさまじい絶叫だった。
そして、二人も自分の意思のために、ひたすら衝突するのだった。
陽は木乃香を自分のものにするために、木乃香は覇王との約束のために戦うのであった。
…… …… ……
誰もが戦っている時、街の状況がおかしいと感じたものがいた。数多と焔だ。
二人は闘技場でのんびりすごしていが、何やら街が騒がしいことに気が付いた。
そこでそちらへ向かってみれば、遠くで雷が降っているではないか。
天候は晴れ。雷が落ちるような状況ではない。
これはただ事ではないと感じた二人は、そこへ駆けつけようと急いで街の中を移動していた。
「何やら騒がしいと思ったらドンパチやらかしてやがる!」
「兄さん!」
「ああ、わかってる!」
周囲を伺えば、何やら戦いがはじまっていた。
数多はそれに気が付き、仲間の下へと急いでいた。
と言うのも、戦っているのは赤い外套の男や竜の騎士や、銀のコートの男たちだけではない。
牽制のためか、完全なる世界に属する転生者たちが、アーチャーの行動で一斉に街中で動き出したようだった。
故に、メトゥーナトの部下やギガントが率いる警備隊も行動をはじめ、その転生者と衝突しだしたのである。
また、焔はこの状況で一番気がかりなことがあった。
それはアスナだ。アスナの正体を知る焔は、真っ先に狙われるのはアスナであることを考え、それを数多へ進言しようとした。
だが、数多もそれを理解しており、その一言だけでわかっていると答えたのである。
「――――っ! 焔!」
「なっ? 何だ?!」
しかし、急いでいたところで数多が突如停止し、何かに気が付き焔の名を叫んだ。
焔は突然のことに驚きながら、何かあったのかを数多へ尋ねた。
「……先に行け」
「急に何を……」
数多は街角の影をひたすらに睨みながら、焔へと自分を残して行くことを命じた。
数多のいきなりの言葉に、焔はただ困惑するばかりであった。
「ほう、気づいたのか、この俺に」
「はっ! あったりめーよ! テメェのその薄ら寒い空気がビンビン伝わってくるぜ」
「そうか、漏れていたか……」
すると、なんと数多が睨んでいた場所から、一人の男性が現れた。
それこそ学園祭で数多が戦い敗北した、コールドなる男だった。
コールドは数多が自分に気が付いたことに感心しながら、ニヤリと笑っていた。
よくぞ気が付いた。気が付いてくれることを心待ちにしていた、そんな様子であった。
そこで数多は涼しげな態度のコールドへと、気が付かないほうがおかしいと笑いながら語った。
コールドの氷のように冷たい気配と、その冷凍能力の冷気が漂っていたことを指摘したのだ。
コールドはそれを聞いて、再び笑いながら失策だったと言い出した。
否、実際は全てわざとだ。わざと数多に自分が気が付くように仕向けていたのだ。
「兄さん、そいつは……?」
「俺の”遊び相手”さ……!」
「なっ!? まさか……!」
焔はいきなり出てきた男性と数多が親しそうに、されど敵対する様子を見て、知っている人物なのかと疑問を尋ねた。
数多はそれに対して、遊び相手とだけ答えた。
それを聞いた焔は、思い出したことがあった。
学園祭の時、数多が保健室へと担ぎ込まれたことがあった。
あの時に”遊んでいた”と答えたことがあった。
もしや、その”遊び相手”とはその時の”遊び”の相手であり、目の前の男と戦い負傷したのではないかと考えまさかと驚いたのだ。
そして、その考えは真実だった。
「いいから行け! ぐずぐずしてられねぇだろ!」
「わっ、わかった。兄さんも気をつけて」
「保障はできねぇな!」
数多はあたふたする焔へ、早く先へ行けと叫んだ。
この状況、何があってもおかしくない。
それに仲間たちが心配だからだ。
焔もそれをわかっていたので肯定の返事をしたのち、無事を祈る言葉を残しこの場を立ち去った。
だが、数多は無事だけは保障できないと、最後に言い残したのだった。
「ふふふ、いつ見ても美しい兄妹愛じゃないか」
「ぬかせ。さぁ来いよ。俺はテメェにリベンジしたくてしょうがなかったんだ」
コールドは余裕の態度で小さく笑いながら、過ぎ去る焔を無視して数多を見ていた。
コールドの目的は目の前の数多と戦うこと、ただそれだけ。
焔の行く手を遮る必要をまったく感じていないのである。
また、学園祭の時にも見たが、この二人の兄妹はとても仲が良いではないか。
そうコールドは感じたことを、小さく言葉にしていた。
数多はそんなコールドへと、そんなこといいに来た訳ではなかろうと思った。
それに数多は学園祭での敗北を悔しく思っていた。
目の前の男にもう一度挑み、今度は勝ちたいと願っていた。
故に、コールドが現れたことで、体が疼いて仕方が無いと嬉しそうに言葉にしたのである。
「ふふふふははははは! そうだ、それでいい! ならば得と味わうがいい。我が極寒を!」
「そりゃこっちの台詞だ! 俺の熱血でテメェを焦がすぜ!」
コールドも数多のその言葉に、歓喜し大きく笑い出した。
それでこそ自分が見定めた男。戦うに値すると評価した男。
強くなり自分を楽しませてくれる男だと。
ならば、こちらも最大の持て成しをするだけだ。
コールドはそう考え、静かに戦いの構えをとった。
数多もコールドのその言葉に、むしろそれを言うべきは自分であると叫んだ。
そして、数多も目の前の男を倒し越えるために、戦う姿勢を見せたのであった。
…… …… ……
また、数多たちとは別で、何か危機を感じて街中を駆けるものがいた。
金髪の長い髪を揺らしながら疾走するもの、それはあのエヴァンジェリンだった。
「騒がしいと思ったが、いやまさかヤツらか……?」
街がなんだか騒がしい。
あちこちで戦いが始まりだしている。
それを察したエヴァンジェリンは、街に出て状況を確認しようと行動したのだ。
「こんな街中まで攻めてくるとは……。とにかくアスナが心配だ……」
エヴァンジェリンは敵が大々的に、街の中で攻撃してきたことに多少驚きを感じていた。
また、それ以上にアスナの安否を心配した。
何せ連中がもっとも欲しているのは、アスナである。
故に、エヴァンジェリンはアスナの下へと急ぐのであった。
「――――!?」
だが、突如として異変が起きた。
エヴァンジェリンは前へと進んでいたはずなのに、突如として”一秒の差もなく数メートルも後退”していたのだ。
「なんだ……? 前へ進んだはずなのに、何故後ろに下がった……!?」
このような現象は普通ならばありえない。
エヴァンジェリンはそこですでに、おかしいと感じていた。不気味さを味わっていた。
罠だろうか、攻撃されたのだろうか。
何かがおかしい。そう思い始めていた。
「――――! なんだ……、この感覚は……!」
しかし、気にしている暇などない。
エヴァンジェリンは再び前へと移動した。
だが、そこでやはり後方へと下がった。
これは一体なんだというのか。
エヴァンジェリンですら、一瞬困惑を隠せなかった。
「フッフッフッ……、会いたかった……会いたかったぞ……。エヴァンジェリン……」
「なっ!? そんな馬鹿な……!? ありえない……、そんな……そんな……!」
すると、戸惑いながら立ち尽くすエヴァンジェリンの前に、一人の男が現れた。
しかも、魔力や気配を感じさせず、突然目の前に現れたのだ。
一体何をしたというのだろうか。
そして、その男はエヴァンジェリンを愛らしいものを見る目をしながら、そっと話しかけたのだ。
またエヴァンジェリンは、まるで生き返った死人を見るような表情で驚いていた。
その驚きは目の前の男が突然現れたことなどではない。
その男がこの場にいるということに驚いていたのだ。
あのエヴァンジェリンが驚愕するほどに、目の前の男が自分の目に映っていることが信じられなかったのだ。
…… …… ……
のどか、ハルナ、千雨の三人は竜の騎士の男、バロンに追われていた。
そして、最大の攻撃を仕掛けられたその時、ゴールデンなバーサーカーに助けられた。
「ゴールデンさん!」
「大丈夫かよお前ら! だがまぁ、オレが来たからにはもう安心だ」
のどかは自分たちの前に立ち、バロンに立ちはだかるバーサーカーを呼びかけた。
バーサーカーは首と目を後ろへ向け、ニヤリと笑って三人の無事を確認した。
その後すぐに、未だ睨みつけながら無言でたたずむバロンへと目を移し、その男を警戒した。
「ああ、それともう一人、助っ人が来てるぜ!」
「姉ちゃんたち!」
「コタローか!」
また、バーサーカーは自分以外にももう一人、助けに来たものがいると言った。
すると、千雨たちのすぐ側へと、影を使って小太郎が転移してきたのだ。
小太郎も千雨たちのことが心配だったのか、安否を気にするように声を上げていた。
千雨はそんな小太郎の登場に、喜びの声を出していた。
「っ! まさか! させんぞ!」
「気がつくのがちょいとばかし遅かったようだな!」
バロンは小太郎の登場で、その意図を察した。
あの影の転移を使い、彼女たちを逃がすつもりだと。
故に、このままではマズイと考えたバロンは、とっさに攻撃を行った。
しかし、バーサーカーがそれをさせぬとばかりに、
バーサーカーの狙いはこのまま彼女たちを安全圏へと逃がすこと。
それの邪魔だけはさせられないというものだ。
こうしている内に、小太郎は千雨たちとともに影の中へと消えていった。
つまり、既にこの場から去り、遠くへ逃げたということだ。
「……貴様……」
「おいおい、そう睨まれても困るぜ! むしろそっちが仕掛けてきたんじゃねぇか!」
バロンは彼女たちを逃がしたことを悔しく思いながら、それを邪魔したバーサーカーを鋭く睨みつけた。
自分の課せられた任務を失敗したことに、バロンは怒りを覚えたのである。
だが、バーサーカーはバロンの殺意を受け流し、むしろそちらが先に攻撃してきたのが悪いと言った。
どんなことがあろうとも、彼女たちを本気で攻撃したのは敵であるバロン。
彼女たちを守って何が悪いのかと。
「……いいだろう……。お前との決着、ここでつけさせてもらうぞ……」
「いいぜぇ! ここでしっかりケリつけようぜ!!」
バロンは一度バーサーカーから距離をとり、どうするかを考え始めた。
そして、先ほどの怒りを抑え冷静さを取り戻し、ならば目の前の男を倒すことにすると決めた。
どの道、目の前の男は巨大な壁となるだろう。ゲートでの借りもある。
ここで勝負をつけておく必要があると考えたのだ。
バーサーカーもそのバロンの言葉に好意的だった。
そうだ、ゲートでは決着がつかなかったが、ここで白黒はっきり決めよう。
バーサーカーはそう笑いながら述べ、再戦を喜びながら再びバロンとの戦闘を開始するのであった。
…… …… ……
小太郎は千雨、ハルナ、のどかをつれ、影の転移を行った。
そして、安全だと思われる場所へと移動した。
「大丈夫やったか姉ちゃんたち!」
「ああ……、助かった……」
「まあ、なんとか……」
「ふぅー、生きた心地がしなかったー……」
小太郎は転移後、再度彼女たちに怪我はないかと確認した。
千雨はそれに疲れ顔で問題ないと言った。
ハルナも特に異常はないと言葉にし、のどかも一生で一番怖い目にあったのではないかと言葉にしていた。
「大丈夫か!」
「流! お前も来たのか?!」
「ああ、状助のヤツが何かを感じたみたいだからな……」
すると、そこへ法も駆けつけてきた。
その表情はかなり心配した様子で、随分と焦ったものであった。
千雨は法が来たことに多少驚き、助けに来てくれたことに感謝した。
そして、法は千雨のその問いに、静かに答えた。
と言うのも、あの状助が今回の事件のことを思い出し、法たちに話したのだ。
状助は法とは違い”原作知識”を持つ転生者。
この事態を思い出し、慌てて騒ぎ出したのである。
「これからどうする?」
「とりあえず、赤い人の心も……」
「まだやんのか!」
ハルナはこの状況、次にどう動くかを相談した。
それに対してのどかは、なんとアーチャーの記憶も読むと言い出したのだ。
千雨はそれに対して猛反対の態度で大声を出した。
あれほど危険な目にあったのだから、おとなしくしていた方がいい。
でなければこのメンバーでネギと合流するべきだと考えていたのだ。
「――――っ! 姉ちゃん!」
「何!?」
だが、小太郎はそこで何かに気が付き、千雨を突き飛ばした。
千雨は一体何がなんだかわからず、そのまま吹き飛んだのである。
「グッ!!?」
「コタロー!?」
「コタロー君!?」
すると、なんと小太郎が何者かに殴り飛ばされ吹き飛んだではないか。
誰もが吹き飛ぶ小太郎を見て、驚き叫んだ。
また、小太郎はそのまま建物の壁に衝突し、前のめりに倒れこんだ後、ぐったりとしたのだった。
「なっ! 何!?」
「こいつは……! お前は……、いや、貴様は!!」
「…………」
ハルナは突然現れた新たな敵に、驚くことしかできなかった。
そして、法は目の前に現れた敵を見て、拳を強く握り締めながら、鋭く睨みつけ始めた。
そう、そこに現れた敵こそ、漆黒の甲冑の騎士だった。
ゲートにて法を攻撃してきた、あの敵だったのだ。
その男は黙ったまま、睨みつける法を眺めていた。
感情も無く、ただただ見ていた。
「……っ! 絶影!!」
「流!」
「お前たちは下がれ!」
法はこのままではまずいと考え、とっさにアルターを作り出した。
また、すぐさまそのアルターを本気の状態へと持って行き、敵の動きに注意したのだ。
さらにアルターを彼女たちの盾になるよう立たせ、守るように行動させた。
千雨はその法の行動を見て、彼の名を叫んだ。
法はそれを聞いて、千雨たちへとそのまま下がれと命じたのである。
「ハハハハハハハハハッ!!!」
「何!? グッガッ!!?!?」
だが、敵はなんと一人だけではなかった。
いや、ゲートでももう一人、漆黒の騎士と行動していた敵がいたではないか。
それこそ、アルター・スーパーピンチを操る、笑い男だった。
その男はなんということか、法の真上にスーパーピンチを構築し、踏みつけるように攻撃したのだ。
法はその攻撃を回避して見せたが、次の瞬間、今度は蹴りあげるようにその脚が動いた。
流石の法もその攻撃は回避できず、直撃を受けて吹き飛んだのだった。
「流!!」
「このロボは!?」
「あの時の!!?」
「くっ、こいつもあの時の……!」
千雨は法が攻撃されたのを見て、たまらず叫んだ。
また、のどかやハルナは目の前に現れたロボを見て、ゲートで襲ってきた連中であることを思い出していた。
法は今の攻撃が直撃であったが、気を習得していたおかげで、何とか防御を行いダメージを抑えることに成功した。
ただ、それでもやはりダメージが大きかったのか、ゆっくりと立ち上がりながら、目の前の敵について分析していたのだった。
「ハハハハハハハハハハッ!!!!」
「ぐうぅ……! 剛なる左拳……!!」
法はなんとか立ち上がり、スーパーピンチの肩の上で大笑いしながら見下す敵を睨んだ。
そして、そのスーパーピンチ目がけて、攻撃を行おうと絶影に命じようとしたのだ。
「……!」
しかし、敵は一人だけではない。当然漆黒の甲冑の男も、法を狙い攻撃を仕掛けたのだ。
「くっ!! 二人がかりか!?」
「……!!」
流石の法もこの状況には焦りを感じた。
何せ目の前の巨大なスーパーピンチ以外にも、漆黒の甲冑の男を相手にしなければならないからだ。
気を習得した法だが、完全にそれを使いこなせてはいない。
それ以外にもアルターを同時に操りながら、それを行う訓練もまだまだ途中だ。
故に、敵の同時攻撃にどう対処するか悩んだのである。
「ようやってくれよったなぁ! 今の不意打ちは効いたで!」
「小太郎!」
だが、漆黒の騎士の行動は小太郎によって阻止された。
漆黒の騎士によって吹き飛ばされた小太郎が、復活して仕返しとばかりにその男に攻撃したのだ。
また、法は小太郎が復活してくれたことを喜び、その名を叫んだ。
「そっちを頼めるか……?」
「任せとき!」
そして、これでようやく2対2で戦えると考えた法は、小太郎に漆黒の騎士の相手をしてもらおうと考えた。
ただ、先ほどの攻撃のダメージがないか確認するとともに、それで問題ないかを尋ねた。
それに対して小太郎は、漆黒の騎士を睨みながら、平気そうな顔で快くOKを出した。
むしろ、ここでへばっていたら男が廃る。そんな様子であった。
「よし! 行くぞ!」
「おう!」
法はスーパーピンチの男を、小太郎は漆黒の騎士の男をそれぞれ相手にすることに決定した。
ならば、後は戦うだけだ。
法は戦闘の合図を叫ぶと小太郎もそれに呼応し、二人はそれぞれの相手へと攻撃を開始した。
三人の少女たちも今後の行動を考えながら、彼らを見守るばかりであった。こうして、彼らの戦いが幕を開けたのだった。