紅き翼は新たな戦いの局面へと入っていった。
まず狙いは”完全なる世界”に手を貸す組織の壊滅だ。
基本的に完全なる世界に手を貸す連中は、武装マフィアや武装商人などの悪党ばかりだ。
その組織の基地などを見つけ、破壊して回ることが紅き翼の戦いだった。
また、ラカンやナギなどはこう言った戦いの方が得意だったので、ガンガン敵の隠れ家・アジトなどを破壊して回り、勢力を削っていった。
しかし、それは完全なる世界でも下っ端、表面部分でしかない存在だ。
いくら倒しても、完全なる世界にはあまり大きなダメージを与えられないのである。
何せ連中の中核に位置するのは、完全なる世界の使徒と呼ばれる”一番目”などの人形たちだからだ。
そいつらを倒さない限り、完全なる世界に大きな打撃を与えることは不可能だった。
さらに、紅き翼が本格的に動き出した時から、妙な連中に会うことが多くなった。
それは”転生者”と呼ばれる存在だった。
彼らは”完全なる世界”の仲間であったり、関係なかったり、敵であったりした。
それ以外にも紅き翼の敵だったり、協力者だったりもした謎の存在だった。
その転生者たちを見た状助ら転生者は、やはり出てきた、という顔を見せていた。
しかしながら、映像内の彼らでさえも紅き翼の障害にすらなりえず、あっけなく倒されていたようだ。
また、映像内の仲間となった転生者たちも、次々と転生者同士の戦いで消えていった。
もしくは戦いに参加せず、裏方に回るものも多かった。
しかし、イレギュラーなる存在はそれだけではなかった。
”サーヴァント”と呼ばれる存在が、この世には存在した。
いや、本来はあるはずもない存在だ。
だが、転生者の”特典”として、その存在を召喚することが可能だっただけである。
その中でも、もこもこした白き髭の老兵なる騎士風の男が、”アーチャー”と呼ばれるサーヴァントを使役していた。
その騎士はオスティアのものであったが、アリカの危機と聞いてそちらを抜け出し、紅き翼に協力したのである。
そして、そのアーチャーなる緑色の外套の男は、すさまじい隠蔽力と戦闘力を発揮した。
敵の組織を見つけ出し、見つからずして単独で壊滅する男。
アーチャーなどと名乗っているが、その実アサシンではないかと疑うほどの能力だった。
それこそ、あのロビンフッドと名乗る、緑色のアーチャーだった。
ラカンは、彼らは紅き翼に入らなかったが、間違いなく
本来ならば自分たちと同じように、紅き翼として有名であってもおかしくない、そんな仲間
のどかはその光景を見て、あの緑色のアーチャーなる人物が、自分の知るロビンであることに気が付いた。
また、彼女以外も、ロビンを見たものたちはそれに気が付いた様子だった。
ただ、そこでゴールデンなるバーサーカーは一つ疑問に思った。
このアーチャー、ロビンフッドは今の映像を見るに戦い方こそ卑劣であるが、男としては信用できる存在だ。
しかしながら、このロビンフッドを操るマスター、白き髭の老騎士はどこへ行ってしまったのか、ということだ。
ロビンに出合った時、近くにそのような人物はいなかった。
いや、”あの仲間”の誰かがマスターだと思い込んでいた。
それに、アーチャーは単独行動をスキルに持つが故に、単独で行動することも可能だ。
それでも、映像を見る限りではあのアーチャーが、ぎこちなくだが慕うマスターから離れ、勝手に行動するのはおかしいと感じたのである。
何せ、”魔力供給”こそ”転生神”の力で行われ、現界や戦闘において十全に力を発揮できるが、マスターと言う楔がなければ、自分たちサーヴァントは存在できない。
故に、マスターがいないと言うのは、ありえないことだった。
なので、マスターは一体どこで何をしているのだろうかと、バーサーカーは考えたのである。
そんな疑問を抱きながらも、次々と流れる映像に誰もが釘付けとなった。
戦い、戦い、また戦い。ハラハラドキドキの連続が、彼らを襲ったのである。
…… …… ……
こうして何度も完全なる世界と敵対しているうちに、仲間がどんどん増えていった。
協力する味方が増えていった。力を貸してくれるものたちが増えていった。
その後、映画なら3部作、単行本14巻分ほどの戦いの後、完全なる世界の本拠地を発見することに成功した。
とは言え、その三部作分は全部飛ばされ、すでに最終局面手前の映像が流れていたが。
すでに目の前には敵の本拠地が映し出され、これがラストダンジョンだ! と言わんばかりの雰囲気を出していた。
それこそが王都オスティア空中王宮最奥部”墓守り人の宮殿”である。
そして、ナギたち紅き翼もオスティアにて、遠くに浮かぶ宮殿を目視で見ていた。
あそこが敵の本拠地、もうすぐ最終決戦だと考えながら。
「不気味なぐらい静かだな……やつら」
「なめてんだろ。悪の組織なんてそんなもんだ」
決戦前だと言うのに、敵の根城は妙に静かだ。
嵐の前触れのような、津波の前の海のような、そんな静けさだった。
それをラカンはこちらのことをなめてるからだろうと、笑いながら吐き捨てていた。
「ナギ殿、連合・帝国・アリアドネー混成部隊、準備完了しました!」
「おう」
そこへ現アリアドネー総長セラスが若き姿で現れた。
20年前なので当然若く少し幼い容姿だ。
セラスはメセンブリーナ連合、ヘラス帝国、そしてアリアドネーの混成部隊が整い、いつでも戦闘可能になったことをナギへと報告した。
ナギはそれに対して、景気のいい返事を返していた。
また、この混成部隊には転生者なども参加しているようで、当然敵である完全なる世界にも転生者がいるようだった。
「あんたらが外の自動人形や召喚魔を抑えてくれりゃ、俺たちが本丸に突入できる。頼んだぜ!」
「ハッ……」
そうだ、敵は連中だけではない。連中が召喚する魔物や自動人形も、大量に存在するのだ。
それだけでもかなりの数の敵となり、紅き翼だけで衝突すれば、本拠地に侵入する前に消耗してしまうというものだ。
だが、それらを混成部隊がひきつけて戦ってくれれば、紅き翼は消耗を押さえて本拠地に乗り込むことができる。
ナギはそれをセラスへと、感謝を述べながら頼んだのである。
セラスも緊張気味な様子で、ナギの返答に頭を下げていた。
「それであの……ナギ殿……」
「ん?」
また、セラスはそれ以外にも、何かナギへ物申したそうな顔をしていた。
ナギはまだ何かあるのかと、セラスの言葉に返事した。
「ササ、サインをお願いできないでしょうか」
「おお? ああ、いいぜそんぐらい」
「そっ、尊敬していました」
セラスはなんと、ナギへとサイン色紙を取り出し、サインをねだったのだ。
と言うのも、既にナギにはファンクラブが存在するほど人気者だった。
このセラスもまた、ナギのファンだったのである。
ナギは突然のサインの要求に、一瞬だけ戸惑いながらも、そのぐらいいいかと思い、OKを出した。
そして、セラスはナギへと色紙を手渡しながら、ファンだったことをナギへと告げたのだった。
「メトゥーナト、こちらも準備が完了したぞ」
「全ては我ら皇帝陛下のため、お互い死力を尽くそう」
「全ては我らが皇帝陛下のために」
そこへもう一人、巨体の亜人が現れた。
それは皇帝の部下の一人である、ギガントであった。
ギガントは自分らの部隊を整え、いつでも出れるようにしてあると、メトゥーナトへ報告しに来た。
メトゥーナトは、この戦いを皇帝陛下のための戦いとし、全てを出し尽くすことを宣言した。
ギガントもまた、皇帝陛下のために勝利し、それを献上することを約束した。
「修行のためにこの場へと参上したが、いやはやこんなことになっちまうとはな」
そんな中、少し端の方で、この戦いに参加したと思われる男子が、一人気合を入れていた。
それこそ、若き日の龍一郎であった。
熱海数多の父にて、皇帝の部下の中で最も出番の少なさの哀れみを背負った男だ。
若き龍一郎はこの時未だ20ぐらい。
若さ溢れる血気盛んな年頃だった。
いや、今も彼は自分を若いと思っているが。
彼は魔法世界にて武者修行に励んでいたが、この度大きな戦が起こると聞きつけ、ここへ参上したのであった。
「まっ! 世界を救う戦いっつーんなら、更なる高みに行けるかもしれないぜ!」
彼の誤算はこの戦いが、魔法世界の運命を左右するほどのものになったということだった。
しかし、それこそ男ならば誰でも乗り越えたい場面だと、龍一郎は燃えていた。
この時期は真なる熱血に辿り着こうと、必死だったのである。
が、その後この世界の全てを知り、アルカディアの皇帝の部下となるなど思ってもいなかっただろう。
そんな彼も、今はただただ強さを求める男でしかなかった。
「さて、アーチャーよ。今回の戦いは、今までとは違うぞ。よりいっそう気を引き締めていかねばな」
「ダンナぁー。今更だが言わせて貰うがよ、オレみてぇなヤツに、世界をどうこうする戦いとか似合わないっつーかよ」
また、紅き翼に協力的な転生者、白き髭の老兵もその場に参上していた。
そのサーヴァントであるアーチャー、ロビンフッドもまた、同じく老兵の隣で敵本拠地を眺めていた。
老兵はアーチャーへと、今回の戦いについて忠告した。
今までの戦いとは訳が違う大規模なものになるだろう。
緩んでいる暇などない、いつも以上に気をつけなければと。
だが、ロビンはこの戦いそのもののやる気がないと言うようなことを言い出した。
世界を救う為の戦い、世界をまたにかけた戦い。
生前、小さな村を、小さな民衆を守る為に戦ってきたロビンにとって、それは大きすぎる戦いであった。
「連中に任せとけば問題ないんじゃねぇんですかね?」
「フッフ……。そう言う割りに、顔が笑っているように見えるぞ?」
故に、ロビンはそんなことなど、周囲のものに任せればよいと言葉にした。
連中だって手馴れだし、紅き翼とか言うチームもかなりヤバイ連中だ。
そいつらがいれば、問題なく終わるだろうと。
しかし、老兵はそんな風に愚痴るアーチャーの表情を見て、ふっと小さく笑った。
文句を飛ばしているというのに、アーチャーの表情はニヤリと笑っていたからだ。
まるで、楽しみで仕方がない、こう言う戦いも悪くない、そんな表情だったからだ。
「はぁー? んな訳ないっしょ? 年取りすぎて目もまともに見えなくなっちまったんじゃねぇっすか?」
「ふっ……、そう言うことにしておいてやる」
だが、ロビンはそれを否定し、ありえないと皮肉を言った。
自分がこんな大それた戦いに興味があるはずがないと、そう言うようなことを言葉にしたのだ。
それでもやはり、このような大戦で戦えることを、光栄に思っていたりもする。
とは言うものの、やはりと言うか素直になれないと言うか、ついついそんな態度を取ってしまうのもロビンであった。
老兵もそれを理解し察しているようで、あえてそれを言うことはなかった。
それならそれでよい、自分の目も確かに老いた。
笑って見えたのは幻覚だったと、そうにこやかに微笑んだのである。
「お前のスキル”破壊工作”ならば、ある程度敵の戦力をそぎ落とせるだろう」
「まあ、それなりに罠は仕掛けさせてもらいましたがね? うまくいくかはヤツら次第ですよ」
そんな微笑ましい会話の後、老兵は笑みを隠し再びキリッとした真面目な表情へと変化させた。
また、この戦いにおいて、ロビンの能力は大きな戦力になると、はっきり断言したのだ。
ロビンもそれを聞いて、すでに準備は整っていると宣言した。
ただ、それがうまく行くかどうかは、敵の行動次第でもあるとも述べていた。
――――ロビンフッドは破壊工作をランクAと言う驚異的な高さで保有している。
これは敵軍に使用すれば、最大6割近くも戦力を削ぎ落とすという恐ろしい能力だ。
実際、”Fate/Grand Order”の
一対一での戦いでは発揮しづらい能力だが、大多数の敵を相手にする場合、最大限に力が発揮されるのだ。
「やる気がないと言いながらも、既に用意しているとはな」
「別にやる気がない、なんて一言も言ってませんがねー」
「そうかそうか」
そのロビンに老兵は、再びニヤリと笑って見せた。
なんとも先ほどの台詞を言ったとは思えぬやる気ではないか。
指示せずとも、既に罠を仕掛け、敵を迎え撃つ準備を整えているとはと。
ロビンは老兵の皮肉に、皮肉で返した。
確かに先ほど自分たちが出る幕ではないと言う感じに言ったが、それはそれだ。
戦う気がないなど、言った覚えはないとロビンは言い出したのである。
「まあ何、お前の仕掛けた罠だ。うまくいくさ」
「うまくいってくれりゃ、オレも万々歳なんですけどねぇ」
老兵はさらに、ロビンの罠がうまくいかないはずがないと断言した。
このロビンの罠は最上級だ。
引っかからないものなど、そうはおるまいと。
むしろ、たかが召喚魔ごときに、卓越したロビンの罠が見抜けるはずがないとさえ思っていた。
ただ、召喚魔は数が桁違いであるだろうと、老兵は考えていた。
ロビンの罠がいかに優れていても、数に圧倒されるだろうとも予想していた。
それでも、ここにいるのは自分たちだけではない。
メセンブリーナ連合・ヘラス帝国・アリアドネー混成部隊、そしてアルカディア帝国の兵団。
彼らがともに召喚魔の討伐をするのならば、それで十二分だとも思っていた。
そんなことを言われたロビンも、そうなってくれれば最高だったと肩をすくめていた。
世の中そうそううまくいくなんてことはない、そう思っているような物言いだった。
とは言え、彼とて自分の罠に自信がない訳ではない。
むしろ、当然のように罠にはまると自負しているのだ。
「それに、……向こうにも我々のような存在がいるだろう。その時に戦えるのはアーチャー……、お前だけだ」
「まっ、そこまで言われちゃしょうがねぇ……。……やってやりますよ」
「頼りにしているぞ」
また、老人は別のことも気になっていた。
それは自分と同じような転生者の存在だ。さらに言えば、”自分のようにサーヴァントを使役する”転生者だ。
老兵は転生特典として、サーヴァントの召喚チケットを貰った。
そのチケットは金色の札であり、呼符と呼ばれるものだった。
それを使い、ランダムでサーヴァントを召喚したのである。
それにより呼び出されたサーヴァントこそ、横にいるロビンフッドだった。
彼はアーチャー・ロビンフッドを召喚したことに、なんら不満はなかった。
いや、むしろ嬉しかった。
確かに周囲のトップサーヴァントから見れば、影に埋もれるであろう能力のサーヴァント。
されど、サーヴァントはサーヴァント。
気の効く男だし、わりと面倒見がいいこのロビンを、老兵は”前世から”気に入っていたのだ。
だからこそ、どんなサーヴァントが敵に出てこようとも、アーチャーとなら戦える。
どんなサーヴァントが出てきても、アーチャーがいれば乗り越えられる。
倒せない敵はいない。そう、確信しているのだ。
それ故に、老兵はロビンへとそう言った。切り札はお前だと。
そこにはおごりも慢心もなく、純粋に心に思ったことを、そのまま出しただけの台詞だった。
ロビンも真面目にそう言葉にする老兵を見て、フッと小さく笑って見せた。
そして、ならば勝たねばこのマスターのサーヴァントとは言えまいと、言葉にはしないが強く思った。
だから、一言だけだったがはっきりと、気持ちのこもった肯定の言葉を吐き出したのだ。
そのロビンの言葉に老兵は満足したのか、小さく微笑みそう言った。
ああ、そうだ。いつだってお前に頼ってきた。今回も同じように、任せたぞ。
そんな感じの言葉だった。
「連合の正規軍の説得は間に合わん。ヘラス帝国のタカミチ君と皇女も同じだろう。決戦を遅らせることはできないか?」
「無理ですね……。私たちでやるしかないでしょう」
「既にタイムリミットだ」
そこへガトウから通信が入った。
その通信はナギ側からは映像としてガトウの顔が宙に映し出されていた。
内容はこの決戦にて、未だ両国の正規軍への説得が終わらず、参戦が困難であることを告げるものだった。
故に、決戦を遅らせられないかと言う相談でもあった。
しかし、もう既に遅い。これ以上遅らせることは不可能だ。
ならば、ここにいる自分たちと混成部隊だけで敵を倒すしかないと、アルビレオは言葉にした。
アルビレオの横で通信を見ていた詠春も、アルビレオと同じ意見だった。
「ええ、彼らはもう始めています……。”世界を無に帰す儀式”を……」
何故、もう時間がないかと言うと、敵は既に行動を起こしているからだ。
それは魔法世界を消滅させる儀式だ。
この魔法世界を消し去り、終わらせる儀式だ。
「世界の鍵、”黄昏の姫御子”は今、彼らの手にあるのです」
「ああ……!」
「……」
そして、その儀式に必要な鍵、黄昏の姫御子も既に敵に捕らえられていた。
アルビレオがそう説明すると、ナギは覚悟を決めたような笑みで、一言返事の言葉を述べた。
その心の中で、黄昏の姫御子、姫子ちゃんを絶対助けると、固く誓っていた。
また、メトゥーナトもそれを静かに聞きながら、敵の本拠地を見つめていた。
また、ナギと同じように、黄昏の姫御子を救出したいと願っていた。
「メトゥーナト」
「……! こっ、皇帝陛下……!!」
「何!? いつのまに!?」
だが、そこへ一人の男が、突如としてメトゥーナトの横へ現れた。
それはアルカディアの皇帝だった。
メトゥーナトは突然皇帝に声をかけられ、ハッとしてそちらへ向きなおし、膝をつき挨拶した。
近くにいたナギも、突然現れた皇帝に驚き、戸惑いの表情を見せていた。
「かしこまるな。それに驚くな、分身の方だ」
「ハッ……」
「今回は本人じゃねぇのか……」
そんなメトゥーナトに皇帝は、自分は分身であり本体ではないので、そこまでする必要はないと言葉にした。
それでもメトゥーナトは態度を変えず、かしずまっていた。
ナギは皇帝が本人ではないと聞いて、少しため息をついていた。
なるほど、前のように本人がじきじきにここへ来たという訳ではないのかと思いながら。
「はぁ……。まあいいさ。おめぇに新たな任務を言い渡す」
「ハッ、なにとぞ……」
良いと言ったのに未だかしこまるメトゥーナトを見た皇帝の分身は、小さくため息をついた。
そして、この騎士は元々そう言うヤツだと考え、本題を切り出した。
メトゥーナトはそれを聞き、再び頭を深々と下げた。
本当にこの騎士、真面目が生きて歩いているような存在であった。
「まずはコイツを持て」
「っ!……、これは……?」
皇帝の分身はもはやメトゥーナトの態度を気にせずに、どこからともなく取り出した黄金の杖を、メトゥーナトへ渡した。
メトゥーナトはそれをしかと受け取りながら、これは一体何なのだろうかと言葉を漏らした。
「そいつを、黄昏の姫御子と交換してこい。それだけでいい」
「はっ……。しかし、彼女のいると思われる最奥部への行き方は……」
それを渡し終えた皇帝の分身は、伝令を言い渡した。
黄金に輝くその杖と引き換えに、黄昏の姫御子を奪還せよ、というものだった。
しかし、それ以上の説明がまったくなかった。
メトゥーナトは返事はしたものの、何も説明がないことに困った。
なので最も重要そうな部分、つまり”黄昏の姫御子がいる場所”を尋ねたのである。
「……その杖が教えてくれる。後は自力で辿り着け。だが、
「かしこまりました……」
そのもっともな問いに皇帝の分身は、杖が教えてくれるとだけ説明した。
この黄金の杖には最奥部、つまり黄昏の姫御子が封じられている部屋に案内するための機能が備わっているようだ。
また、はっきりと口調を強め、この任務は必ず成功させろと念を押したのだ。
メトゥーナトは皇帝の今の言葉に、深々と頭を下げて承った。
さらに、皇帝が
ただ、この黄金の杖の案内機能というのは、飛行石がラピュタの場所を指し示す光の線が現れるのと同じで、黄昏の姫御子を補足し、一直線に光の線が発生するというものだった。
故に、メトゥーナトは”道”がわからず困り果てることになる。
そして、だからこそメトゥーナトはその光を追うようにして、剣で壁や天井を切り裂き、最奥部まで進入することになったのであった。
「んじゃ、健闘を祈ってるぜ」
「ありがたきお言葉。必ずや任務を果たします……」
皇帝の分身はメトゥーナトに任務を託すと、応援の言葉を残しその場から消え去った。
メトゥーナトはかしづいたまま、皇帝がいた場所へと、誓いの言葉を述べていた。
「よぉし野郎ども! 行くぜ!!」
ナギはメトゥーナトと皇帝の会話が終わったのを見て、ならば早速敵陣へ突っ込むぞと意気込んだ号令を上げたのだ。
そして、ついに完全なる世界との決戦の火蓋が切られたのである。
…… …… ……
紅き翼のメンバーはメセンブリーナ連合・ヘラス帝国・アリアドネー混成部隊とアルカディア帝国の部隊のおかげで、無傷で敵本拠地に突入することができた。
彼ら以外にも協力的な転生者たちなども本拠地へ侵入し、完全なる世界に手を貸す転生者と戦いを始めていた。
そんな紅き翼を待ち構えていたのは、当然幹部クラスの連中だった。
「やあ、”千の呪文の男”また会ったね。これで何度目だい?」
その筆頭として登場したのが、やはりスカした顔の”一番目”だった。
さらにその左右に、炎と水と雷と、さらに黒いフードの男が参上した。
彼らこそ完全なる世界の使徒だ。
「僕たちもこの半年で、君に随分数を減らされてしまったよ。この辺りでケリにしよう」
「おお!!」
彼ら完全なる世界も、ナギたちの活躍によって組織を大きく削がれ、かなり縮小してしまった。
そのことを恨みなどなさげな涼しい顔で、”一番目”は言葉にしていた。
また、ならばここでどちらが倒れるか、決着をつけようと宣言したのだ。
その”一番目”の言葉に、ネギも同意し叫んだ。
そうだ、ここでお前たちを倒し、世界と黄昏の姫御子どちらも救い出す、そんな意気込みを吐き出したような叫びだった。
そして、両者が衝突しあい、互い互い一対一ずつでの戦いが始まった。
しかし、そこにメトゥーナトの姿はなかった。
何故なら、すでに皇帝の命令どおり、黄昏の姫御子救出を行っていたからだ。
アルビレオは影の召喚を操る黒いローブの男と対峙し、重力魔法で対抗していた。
「アナタはフィリウス……!?」
「ふん」
ナギの魔法の師匠であるゼクトも、すでに水を操る敵と戦っていた。
この少年のような姿でありながら、口調が年寄りのようで大人びた態度を見せるゼクトだ。
敵はそのゼクトを見て驚きながら、意味深な名前を言い出したのだ。
いや、そんな馬鹿な。彼がこの場で我々と対峙しているなんて……。そんな様子であった。
だが、ゼクトは逆に敵などお構いなく、鼻を鳴らして戦っていた。
ゼクトは一体何者なのか、そんなことはどうでもよい。
今は紅き翼のメンバーであり、そのリーダーであるナギの師匠として、この場に参上しているのだから。
「雷ッ! 光ッ! 剣ッッ!!」
詠春は雷を操る敵と激闘し、神鳴流奥義を用いて戦っていた。
ラカンも炎を操る敵と、にやりと笑いながら殴り合いを行っていた。
「■■■■――――――ッ!!!!!」
「行くぞ、アーチャー……!」
「無貌の王……、――――参る」
また、紅き翼以外にも、この場で戦うものたちがいた。
それは転生者だ。紅き翼に協力的な転生者たちが、完全なる世界に協力する転生者と戦いを繰り広げていたのだ。
その中に老兵の姿もあった。
老兵はアーチャー・ロビンとともに、敵対する転生者が操るであろうバーサーカークラスのサーヴァントを目の前に、戦闘態勢へと移行していた。
目の前で叫び猛り狂うバーサーカーを見た老兵は、やはりか、と言ったような様子であった。
燃えるような赤の短い髪。そこから長く伸びた触角のような装飾。
巨大な体。それを覆う中華風の鎧。そして太くたくましい腕が掴んでいる、巨大な槍。
これぞまさしく明らかに呂布だった。
そうだ、彼らの目の前に立つサーヴァントこそ、Fate/EXTRAに登場するバーサーカー、呂布だったのだ。
バーサーカーは雄たけびを発しながら、猛烈な勢いでロビンへと特攻をしかけてきた。
そんな中、老兵は冷静な態度で、静かにロビンへと戦いの始まりを告げた。
ロビンはそこでゆっくりと弓を構えながら一言決めると、迫り来るバーサーカーへと攻撃を開始したのである。
「あああああ!!!!」
「くぅあああっ!!!」
そして、ナギはと言うと、一番目と熾烈な激戦を繰り広げていた。
ナギは巨大な雷の槍を無数に操り、一番目へと目がけ飛ばして回った。
一番目も負けずと反撃し、大地の魔法にて岩の槍を地面から突き出した。
どちらも傷を増やしながらも、その戦いを激しく苛烈にさせていった。
しかし、それも長くは持たなかった。
――――最後に勝利したのは、やはりナギであった。
「見事……。理不尽なまでの強さだ……」
「黄昏の姫御子なら、俺の仲間が今頃助け出しているだろうぜ。お前の野望もこれまでだ」
ナギの右手に首をつかまれながら、力なくぶら下がる一番目の姿があった。
室内であったが激闘にて、両者は外へと出たようだった。
一番目はもはや体を動かすこともかなわない状態でありながらも、口だけは達者だった。
この目の前の赤毛、なんたる強さだろうか。
完全なる世界の使徒として強く創られた自分よりも、ずっと上を行く存在。
そんなナギに一番目は、皮肉なく純粋にその強さを褒め称えた。
だが、ナギはそんなことなど無視し、一番目に勝利の宣言を行った。
ナギとて頬から血を流し、息も上がって荒い状態だ。
ようやく目の前の男を倒せた、と言うようなギリギリな様子であった。
それでも、これで戦いが終わりだと思っていたので、多少の余裕があったようだ。
ボスである目の前のいけ好かない男も倒した。
メトゥーナトが黄昏の姫御子を助けているだろう。
仲間たちもこちらにやってきた。
この目の前の男の仲間は全滅したのだろう。
ならば、もう戦いは終わりだと。
「フッ……フフフ……。まさか君は、未だに僕が全ての黒幕だと思っているのかい?」
「何……だと……?」
だと言うのに、一番目は笑っていた。
瀕死の状態だと言うのに、余裕の表情を見せていた。
これで終わったと思っているのか。
自分が最後の敵だと思っていたのか。そう言い出した。
ナギはその発言に、驚きの表情を見せた。
そんな馬鹿な、この男が最後のボスではないと言うのか。
嘘を言って惑わそうとしているのか。それとも助かろうと考え騙そうとしているのか。
それとも本当のことなのだろうか。
ならば、最後の敵は誰だ。一体何者なんだ。
ナギはそう考えながら、それを目の前の一番目に問い詰めようとした。
――――その時。
一筋の光線が、ナギと一番目を貫いた。
「――――!?」
「ナ……」
仲間の誰もがその光景を見て驚き、まずいと思った。
何者がやったかは知らないが、ナギが敵ごと討ちぬかれたのだ。
誰の目にも今の攻撃はかなりマズイものであると、即座に理解できるものだった。
「ナギィッ!?」
詠春は思わずナギの名を叫んだ。
まさかあのナギが無防備な状態で打ち抜かれるとは。この状況はそれほどまでに非常に危険だった。
「誰だ!?」
「!?」
また、ラカンは今の攻撃が第三者によるものだと理解できた。
そして、その気配の方向に顔を向け、一体誰が攻撃したのか見定めようとしたのである。
そこには、一つの人影があった。
一つの黒い布を全身に纏った人の姿があった。
まるで何を考えているのかわからない、顔も見えない人の影が、その場に構えることもせず、ただただたたずんでいた。
ゼクトはその姿を見た瞬間、何か恐ろしい攻撃が来ることを予想した。
「いかんッ!!」
そこでゼクトはすぐさま、最大防御の障壁を何重に張り巡らせ、防御の姿勢をとった。
マズイ、マズイぞ。このままでは全滅する。
いまだ攻撃のモーションすら取らぬ人影を前に、ゼクトはそれほどまでに焦りと恐れを感じていたのだ。
その直後、闇のような漆黒の魔法が、彼らを襲った。
まさに隕石が衝突したかのような、すさまじい衝撃と破壊。
それが、ゼクトが防御のために張った多重障壁すらも、いともたやすく砕いたのだ。
それでも、それでも紅き翼のメンバーは、倒れて動かないナギをかばうようにして、その魔法を防御した。
ゼクトとラカンが先頭に立ち、その魔法をとめんと必死で腕を伸ばしていた。
だが、彼らの努力は一瞬にして徒労に終わることになった。
何と言うことだろうか。その魔法の衝撃にて、紅き翼のメンバーはまるで羽虫のごとく吹き飛ばされ、誰もが瀕死の重傷を負わされたのだ。
「ぐっ…………、馬鹿な……」
「アレはまさか…………」
先頭で防御を行っていたラカンは、今の魔法にて両腕を失うほどのダメージを受け、立ち上がることすらかなわぬ状態となっていた。
いや、誰もが体に力が入らず、寝転がったまま動けなかった。
アルビレオも体のあちこちから血を流しながら、敵の姿を目視した。
まさか、アレはまさか。
予想どおりならば、まず自分たちが勝てる相手ではない。
そう確信しながら、黒い影のような敵を見ていた。
ラカンもその姿を見た時、
それは力の差などではない。
自分がいくら強くとも、目の前のアレにだけは絶対に勝つことはできない存在。
それをラカンは見た瞬間理解したのである。
そう。黒いフードを全身に纏ったその人物こそまさに、
この世界を生み出した、始まりの魔法使いにして造物主たるそれに生み出された、魔法世界人ラカンでは絶対に勝つことができないからだ。
…… …… ……
親玉、ボス。敵の首領。
ネギはそれを聞いて、驚いた。驚かざるを得なかった。
「まっ、待ってください!? 敵の親玉って……。アーチャーと名乗る人たちよりも上にそんなヤツがまだ!?」
「安心しな。
何せ、あのアーチャーとか言うヤツですら、かなり強い相手だった。
それ以外にも、雷を操る竜の騎士や、まだ見ぬ敵までいるというではないか。
さらに、それ以上の相手、ラスボスと呼ぶべき敵が出てきたなら、ますますこちらが不利ではないか、そう思ったからだ。
いや、それ以上に、そんな相手と自分たちが戦って、大丈夫だろうか。
自分はまだいい。それよりも、自分の生徒たちが無事であるかどうかが、気がかりとなった。
そんなネギを安心させるかのように、自信ありげに笑いながら、この敵はもういないと断言するラカン。
だがしかし、それは全部嘘だ。
この
いや、
あのナギでさえも、二度にわたって打ち砕いた相手であるが、とどめを刺すことは不可能だった。
そうだ、まだこの始まりの魔法使いは生きている。
と言うよりも、潜伏していると言った方が正しいだろう。
この敵は未だ存在している。
ラカンもそれは知っている。今は封印されていて動けない。
それも知っている。
ただ、それをあえて教えないのは、そう言う決まりだからだった。
ネギが大きくなるまで黙っている、と言う決まりがあったからだ。
…… …… ……
この空前絶後の大ピンチに、もはや紅き翼は動けなかった。
もはやこれまでか。世界は消え去ってしまうのか。終わってしまうのか。
誰もが絶望せずにはいられなかった。
「待てコラ! テメェッ!!」
しかしだ、しかし。未だ諦めを知らぬものがいた。
動き出したものがいた。立ち上がるものがいた。
まだ戦えると、気持ちを強く持つものがいた。
ラカンはそのものへと、待ったをかけた。
今のこの状況、そしてそのものが受けたダメージ。
両方をあわせても一人で立ち上がっても、立ち向かえないと考えたからだ。
「任せなジャック……!」
――――ナギであった。
ナギはゆっくりと立ち上がりながら、不敵に笑っていた。
右肩を貫かれ、そこからおびただしい量の紅き血が流れ落ちている。
それでもナギは、立ち上がった。
まだ終わっていない、終わらせまいと動き出した。
「いけませんナギ! その体では……!」
「アル、お前の残りの魔力全部で俺の傷を治せ」
だが、そんなナギをアルビレオも止めに入った。
正直言えばその傷で、あの
命を落としかねない危険な賭けだ。
しかし、ナギはアルビレオに、傷を治せと言った。
応急手当程度にしかならないだろうが、それでも戦えるほどにはなると。
「しかし、そんな無茶な治癒で……!」
「30分持てば充分だ」
「ですが!」
とは言うが、やはり無茶だろう。
重傷の傷を応急手当しただけでは、治ったとは言えない。
その程度の治療で戦うなど、やはり無謀でしかないと、アルビレオは叫んだ。
ナギもそのことは先刻承知だった。
30分程度でいいから動けさえすれば、戦えればそれでよかった。
そう覚悟を決めたナギは、先ほどの攻撃で吹き飛んだ杖をその手に呼び戻し、戦う姿勢を見せた。
そして、その覚悟を口走るナギへと、アルビレオはそれでも止めようと必死だった。
戦えるようになったとしても、あのラスボスは倒せない。一人では無理だと。
「フフ……よかろう。ワシも行くぞ、ナギ。ワシが一番傷が浅い」
「お師匠……」
すると、もう一人立ち上がるものがいた。ナギの師匠であるゼクトだ。
ゼクトは大きな傷こそなさそうであったが、それでも左手から血を流していた。
表情も余裕があるように見えて、冷や汗で濡れていた。
ナギはゼクトが立ち上がり、ともに戦ってくれることに喜んだ。
一人なら難しいかもしれないが、二人なら、師匠となら何とかなるかもしれない、そう思えたからだ。
「ゼクト! たった二人では無理です!」
「ここでやつを止められなければ世界が無に帰すのじゃ。無理でもいくしかなかろう」
とは言え、負傷した二人だけでは無謀もいいところだ。
アルビレオはそれをゼクトへ叫び、無茶はやめた方がいいと叫んだ。
しかし、ここで無視すれば敵の計画が完成してしまう。世界が消滅してしまうのだ。
無理だの無駄だの無謀だの言われようとも、ここで踏ん張ってやるしかないのだ。
だからこそ、ゼクトは不敵に笑いそう言うのだった。
「待て! ナギ! ヤツはマズイ! ヤツは別物だ! 死ぬぞ! せめて態勢を立て直してだな」
「そうです! せめてメトゥーナトが合流してからでも……!」
「バーカ、んなことしてたら間に合わねぇよ」
ただ、彼ら二人を止めようとするものは、アルビレオだけではなかった。
腕を失い瀕死のラカンも、ナギを必死に叫んで止めようとしていた。
戦うのであれば、戦えるだけの状態にする必要もあると。
アルビレオも同じく、戦うならば黄昏の姫御子の救出に向かったメトゥーナトが戻ってくるまで待てと叫んだ。
あの男が加わるならば、勝ち目が上がると。
だが、そんな悠長なことをしていたら、世界が消滅する方が先だ。
今は一刻も早く、先ほど現れた
故に、それは待てないとナギは言った。
「俺は無敵の
そして、仲間を安心させるかのように、自分は無敵だと豪語するナギ。
そうだ、勝たなきゃいけない。勝たなければ全てが終わる。
だからこそ絶対に勝つと、ナギは言い切って見せたのだ。
「ナギィッ!!!」
それでもやはり、あの
すさまじい速度でこの場を去り行くナギへと、ラカンは叫ばずに入られなかった。
「アレは……マズイもんだった。一目見てわかったぜ……」
その後ナギが去った後、応急手当程度の治療をラカンは受け、上腕に包帯を巻いていた。
しかし、その下にあるはずの腕は、吹き飛ばされて存在しなかった。
また、先ほどかららしくない弱音を吐き続けるラカン。
あの
とは言え、たった一撃、腕が吹き飛んだだけで、ラカンがこれほどまでに怯えるだろうか。
「全身の細胞が叫んでたぜ……。アレはヤバイ……、全力で逃げろってな……」
「流石最強の剣闘士ラカン……。アレのマズさを肌で感じ取りましたか……」
いや、そうではないだろう。ラカンは本能的に
故に、自分では勝てないと、ラカンは直感でわかってしまったのである。
アルビレオも、あの
そして、ラカンがそれを見ただけで理解したことに、感心もしていた。
「ぐっ……ナギ……。助けにいかねば……」
「動いてはいけません詠春! 死んでもおかしくない傷なのですよ!?」
「だが……、あいつらだけではあの化け物には……!」
そこで、先ほどの
動けないナギをかばい、その身に重傷を受けていたのだ。
だと言うのに、右手には刀をしっかり握り締めており手放さない辺り、流石と言ったところであった。
しかし、この状態で戦うなど不可能。
メンバーの中で一番ヤバイ状態なのも、詠春であった。
それをアルビレオが心配し、安静にしているよう詠春へと注意した。
それでも、ナギを助けに行く為、動かぬ体を無理に動かそうと、詠春は力を入れ立ち上がろうともがいた。
この身が砕け散ろうとも、このままナギを行かせる訳には行くまいと。
「そうだ、むやみに動くな」
「メトゥーナト……! ようやく戻ってきましたか!」
「
だが、そこへ突如として、この場にいない男の声がこだました。
それは黒いマントをなびかせた仮面の騎士、メトゥーナトだった。
アルビレオはメトゥーナトの帰還に、喜びと焦りが合わさったよな声で、その名を叫んでいた。
彼が戻ってきたのは心強い。
今自分たちが動けないならば、彼にナギを頼むしかないと。
また、メトゥーナトは皇帝から与えられた任務は完遂したと言葉にした。
その言葉通り、その背中にはしっかりと黄昏の姫御子、幼きアスナの姿があった。
「黄昏の姫御子……!」
「今は眠らせてある」
メトゥーナトの背中で安堵したように眠るアスナ。
それを見たアルビレオは、彼女の救出が成功したことをしっかりと認識した。
メトゥーナトはアスナを、あえて眠らせたと言葉にした。
そして、アスナをゆっくりと背中から下ろし装着していたマントを脱ぎ、そのマントを床に敷いてその上に彼女を静かに寝かせた。
「オイ、メト! ナギたちがヤバイ! オメェは見てないだろうが、連中の親玉が出てきやがった!」
「それの一撃で、我々はこのざまですよ…………。あなただけでもナギたちの助太刀に……」
そこにラカンが普段は見せない焦った態度で、メトゥーナトへと先ほどの状況を説明した。
アルビレオもそれだけで、自分たちが窮地に追い込まれてしまったと、苦しげに述べた。
それだけではなく、先ほど
「……いえ、ナギたちを連れ戻しに行ってください! アレは我々ですら到底……」
「……その前に、お前たちはこれを飲め」
「これは?」
だが、アルビレオは助けに行ってくれと言うのを途中でやめ、ナギを連れ戻してくれと言い出した。
アルビレオはすでに
なので、自分たちでは、ナギですら
ラカン同様、普段なら決して見せることのない必死なアルビレオの言葉を、メトゥーナトは静かに聞いていた。
メトゥーナトはアルビレオの話を聞き終えると、とりあえず懐から瓶を三本ほど取り出した。
それをこの場に残っているアルビレオたちが受け取ると、彼らはこの瓶が何なのかをメトゥーナトに尋ねたのだ。
「傷を治す薬だ、効くぞ」
「助かります。ならば、ナギを……!」
「……わかっている」
メトゥーナトが彼らに渡した瓶は、いつも常備している皇帝印の回復薬だ。
それを飲んで傷を癒せと、メトゥーナトは言ったのである。
アルビレオはそれを受け取り礼を述べた。
そして、自分たちのことはいいから、ナギを追ってくれと再びメトゥーナトへと頼んだ。
メトゥーナトはそれを静かに承り、一言だけ述べた。
ただ、あのナギが止まるかどうか、つれて戻れるかどうかはわからないとも思っていた。
「オイッ、待てよ! 今のはどういうことだアル!?」
「私の推測が正しければ……、アレを……、あの化け物を倒すことは、この世界の誰にも不可能です」
「じゃあオメェ……、ナギの野郎も……!」
しかし、そこで話を聞いていたラカンが、アルビレオに詰め寄った。
メトゥーナトから薬を渡される前、自分たちでは勝てないと言う発言に食らい付いたのである。
アルビレオはラカンの質問に対し、自分の推測を話しだした。
それを聞いたラカンは、ならばナギですら勝てないのではないかと思った。
ラカン自身もあの
故に、自分のライバルであるナギですら、勝利は不可能だと感じてしまっていたのである。
だが、その直後、このラストダンジョンである墓守りの宮殿が大きく揺れた。
まるで巨大な地震が起こったかのようであった。
さらに、あちらこちらで爆発音と衝撃が発生していた。
ラカンたちは何が起こったのかと、周囲を見回したのである。
「何だ……!?」
宮殿の周囲で召喚魔と戦っていた兵士たちが目にしたのは、すさまじい魔力を放出しながら外壁にヒギが入る宮殿の姿だった。
宮殿下部から天辺へと貫くように、光り輝く魔力が走った。
そして、宮殿の天辺を越えて、ナギが
さらにその直後、おびただしい魔力の輝きが、宮殿から空へと放出された。
ナギの全身全霊をかけた一撃が、光となって天に放たれたのだ。
この一撃にて、ナギは
その光景を仲間たちも見ていた。
絶大な魔力と根性で、
「……って……オイオイオイ、倒しちまったぜ」
「……のようですね……」
「…………」
ラカン肩の力が抜ける感覚を覚えながら、ナギの勝利を確信した。
アルビレオもまさか、まさか、という様子だったが、これで一安心でと感じていた。
ただ、メトゥーナトは少し厳しい表情で、ナギが見えなくなるまでの間、その様子を眺めていた。
「……フッ、かなわねぇな、てめぇにゃよ」
いやはや、自分が絶望した相手を倒すとは……。
ラカンは素直にナギを称えていた。賞賛していた。やってくれるぜまったく。
そう心の奥底から思い、その感想を口からもらしていた。
『ル……! 聞こえッ……か! アルッ!!』
「やあ、ナギ。全く驚かされますよあなたには……。あなたはいつも私の予想を……」
『姫子ちゃんはメトが助け出したみてぇだが、儀式がッ! 親玉も倒したが儀式が止まらねぇッ!!』
そんな時、突如としてナギからアルビレオへと、仮契約カードでの通信が入った。
アルビレオはそれを感知し、額にカードを近づけて会話を始めた。
アルビレオはナギが
しかし、ナギはむしろ焦っている様子で、今の現状をはっきりと伝えてきたのだ。
『ヤロウ、すでに儀式を完成させちまってたみたいだ! マズイぞッ!!』
「何ですって!? 儀式を!? では、このままでは……ッ!!!」
黄昏の姫御子、アスナはメトゥーナトが助けた。
敵の首領である
だと言うのに、世界を崩壊させる儀式が止まる気配がなかった。
ナギはそれをアルビレオに必死に伝えたのだ。
アルビレオはそれを聞いて、かなり仰天した様子だった。
ラスボスである
黄昏の姫御子が救出されたなら、問題ないと考えていたからだ。
と言うのも、本来儀式前に黄昏の巫女を引き剥がすことは危険な行為だ。
全ての
だが、それを防ぐ手立てがあった。
それがメトゥーナトが皇帝から渡された黄金の杖だ。
黄金の杖は黄昏の姫御子の役割を肩代わりする力があった。
それによって、最悪の事態を回避しているのである。
逆に言えば、その杖の力が黄昏の姫御子の役割をしているがために、儀式が止まらないということにもなっているのだった。
しかしながら、皇帝が無意味に、無駄にそのような機能を備え付けるはずがない。
皇帝は何か別の策があって、あえてそうしたのだろう。
メトゥーナトはあの杖がそういうものであるのなら、そう考える方が自然だと思っていた。
「オイオイオイ、何だよ!? この光球は!? ドンドンでかくなってるぞ!?」
「世界の始まりと終わりの魔法……! この力場が全地上を覆った時、世界は無に帰します」
「…………」
すると、宮殿が突如発光しはじめ、アルビレオたちを覆い始めたのだ。
ラカンもこの異変に気がつき、なんだかヤバイ状況だということを把握した。
アルビレオはこの現象が魔法世界を消滅させるものであることだと、焦りながら説明した。
この光が魔法を消滅させ、それが世界全てを包みこめば、魔法世界は消え去ってしまうと。
しかし、やはりメトゥーナトはまるで微動だにしていなかった。
彼はまったく焦りや心配、不安などを見せず、しゃがみながら自分のマントの上で安らぎ眠るアスナを気遣うだけだった。
自分の任務は完了した。
皇帝が絶対だと命じられたことは完遂した。
ならば、もう心配など不要。
メトゥーナトは皇帝を信じている。
自分がやれと言われたことが終わったのならば、後はきっと皇帝が何とかしてくれるだろう。
そう考え確信し、信頼しているからだ。
「いくら我々が最強を誇ろうと……、ナギが自らを無敵と嘯こうと、こうなってしまっては我々ができることは何も……っ」
そんなメトゥーナトなど知らず、アルビレオはもはやこれまでかと、絶望の淵に立っていた。
自分たちの力が強大であろうとも、ナギが無敵だろうとも、この現象を止める手立てはもはやなかった。
もうこれまでなのか、アルビレオやラカン、詠春すらもそう思った時、一人の女性の声が聞こえてきた。
「諦めるなアルビレオ・イマ!! この愚か者が!!」
それは戦艦の艦橋にいるアリカからの通信だった。
らしくない弱音を吐くアルビレオを、激励と叱咤をするように叫んでいた。
また、アリカはこの現象を食い止めるべく、戦艦を駆りて参上したのだ。
「アレはメガロメセンブリア国際戦略艦隊旗艦!」
そして、アリカが今乗っている戦艦こそ、メガロメセンブリアが持つ旗艦であった。
それだけではなく、その後方には数多くの艦が飛んでおり、艦隊での援護だった。
つまり、ようやくメガロメセンブリアを説得し、この戦いに参戦させることに成功したのだ。
「こちらスヴァンフヴィート艦長、リカード! 助太刀するぜ!」
さらに、アリカの後ろにはガトウともう一人、この艦の艦長であるジャン・ジャック・リカードと言う男が搭乗していた。
暑苦しく髪の一部が飛び出して尖った変な髪形の男だ。
「世界のピンチだ! 敵も味方も関係ねぇぜ!」
このリカード、世界の危機とあっては、もはや敵味方など言っている場合ではないと考えた。
何せ、世界が消えてしまえば敵も味方ももないからだ。
故に、彼はそう叫んでいた。世界を終わらせる訳には行くまいと。
「そのとおりじゃ!」
だが、さらに、別の方向からも、元気な少女の声が聞こえてきた。
それはヘラス帝国第三皇女、テオドラであった。
「おお、あれは……、北帝国軍北方艦隊!」
「おてんば姫ちゃんかい」
アルビレオたちはその方向を見れば、ヘラス帝国の艦隊が姿を現したではないか。
テオドラとタカミチも、ヘラス帝国の説得に成功し、この危機的状況に助太刀に来たのだ。
ラカンもその声を聞いて、あの時の娘だということに気が付いた。
いやはや、こんな状況だと言うのに随分と元気だことだ、そんな感じであった。
「ハハハハハッ! 皆のもの! 力を合わせてあの光球を止めるのじゃ!」
「ハハッ! 姫様!」
テオドラも敵対していたメガロメセンブリアと協力し、この場を治めるよう命じた。
その命令に従い、しかと返事をするヘラス帝国のものたちだった。
「それだけではあるまい……」
「アルカディア帝国防衛艦隊……!」
しかし、この世界にはもう一つ、大国と呼べる国があった。
それはサンダリアス皇帝が治めるアルカディア帝国だ。
アルカディア帝国もまた、ここぞとばかりに艦隊をこの場に参上させたのである。
メトゥーナトが周囲を見て、ふっ、と笑いそれを述べた。
するとアルビレオもその存在に気が付き、声に出してその名を呼んでいた。
「我らが皇帝の命により、この場を彼らに合わせ、世界を守るのだ……!」
「了解……!」
アルカディア帝国防衛艦隊、その名の通り、本来ならば国防のための大艦隊である。
この世界危機のために、国防を担う艦隊の半数をこちらによこしたのだ。
また、それを指揮するは、宮殿の外で召喚魔などを倒していた皇帝の部下、ギガントだった。
ギガントは両艦隊と連携し、何としてでも世界崩壊を阻止せよと号令をかけていた。
その部下たちも当然のごとく、命じるままに行動を起こした。
これが失敗すれば世界は消えてしまうのだ。
何としてでも食い止めたいところだ。
だが、そこに皇帝の姿がどこにもなかった。
とは言え、指揮するならば、皇帝直属の部下であるギガントでも十分だろう。
メトゥーナトやギガントにこの場を任せた皇帝が、この場にいない。
何か妙な感じだった。
それをメトゥーナトはふと疑問に思ったが、彼は皇帝を信じている身。
別の場所で皇帝にしかできない仕事を行っているだろうと考え、それ以降はこのことを考えることも無かった。
「全艦艇、光球を取り囲み押さえ込め! 魔導兵団、大規模反転封印術式展開!」
そして、アリカは宮殿から放たれる光球を抑えるべく、戦艦に乗っている魔導兵団へと号令をかけた。
「魔法世界の興廃、この一戦にあり! 各員全力を尽くせ! 後はないぞ!」
さらに、後がないと発破をかけ、絶対死守を命じた。
その姿、まさに女王そのものだった。
厳しく強い信念が、言葉が、各兵団へと伝わっていった。
「ハッ!」
戦艦の外で儀式の準備を執り行う兵団の魔法使いも、ここで失敗は許されないと大きく返事を発していた。
「よろしいのですね……? 女王陛下」
その号令を行ったアリカへと、ガトウはそれを質問していた。
いや、それは愚問なのかもしれない。そうしなければならないのは明白だからだ。
それ以外にも、ガトウはアリカを
それが意味するものは、アリカがオスティアの王となったということだ。
先王から王権を譲り受けたということだ。
王位継承がなされたということだ。
ただ、アリカの返事と表情は、この映像には映されていなかった。
その後すぐさま場面が切り替わり、映し出されることが無かったのである。
その映像とは、艦隊が宮殿を取り囲み、魔法世界を消し去る儀式を押さえつけているというものだった。
宮殿から放たれる光を、無数の巨大な魔方陣が包囲していた。
これこそ、大規模反転封印術式。
反魔法場現象を封鎖し、止めるための術式だった。
「へへ……流石は姫さん……。結局助けられちまったな」
その後、ナギが何とか生き延びながらも、アリカを称える言葉を述べていた。
もはや体は動かぬ様子で、壁に背中を預け、座り込んでいる様子だった。
最後に、こうして世界は救われた。
オスティアにて式典が執り行われ、ナギや彼が率いる紅き翼は英雄となった。
めでたしめでたし、で映像が閉められるのであった。
…… …… ……
「――――て訳だ」
”Happy END”の文字とともに新オスティアが映りこんだところで、ラカンは映像を止めて説明を終えた。
これで全部おしまい。かくして世界は平和となり、全部丸く収まった、と。
「すげぇ!」
「マジ英雄じゃんおっさんたち! 世界救ってるし!」
ハルナや和美は興奮気味に、ラカンたちを大いに褒め称えた。
後ろで見学していた少女たちも、感激の様子を見せていた。
「ハッピーエンドでよかったー」
「戦争も終わってみんな仲良ぅなって、ホンマめでたしやなぁ」
のどかも一時はどうなることかと思ったが、最後は大団円で終わったことにほっとして喜んだ。
木乃香も同じ意見だったようで、全てがまるっと丸く収まってよかったよかったと言葉にしていた。
「おお、おじ様。おてて……両手は大丈夫なんですかー!?」
「おうっ! そらもうピンピンよっ!」
さよは映像にてラカンの腕がなくなったのを見て、彼の腕を心配した。
ラカンはすでに腕は治っていることをアピールするため、そこで上着を半分脱いで腕が良く見えるようにして、ガッツポーズを決めて見せた。
「父様も見直したわぁ」
「そうですね」
また、木乃香は自分の父、詠春が映像で華々しい戦果を残していたことを見て、最初の映像の印象から随分とよくなったと言葉にした。
刹那も流石は長、と言う様子で、木乃香の意見に同意していた。
それ以外にも全盛期の詠春の技や動きが見れて勉強になった、とも思っていたりしていた。
「そうや! アスナはあの後大丈夫だったん?!」
「あの後はみんなに保護してもらったから心配ないわよ?」
「そっかー、よかったわー!」
だが、そこで木乃香がふと、アスナのことを気にかけた。
一瞬であったが眠ったアスナが映像に映ったからである。
そんな心配そうな顔をする木乃香へと、アスナは笑いかけながら答えた。
特に問題はなかった。と言うか、その後は紅き翼に保護されたので、何事もなかったと。
その答えを聞いて、木乃香は表情をぱーっと明るくして喜んで見せた。
それなら良かった。安心した、と言う様子であった。
「……アーチャーのマスターはあまり映ってなかったが、あの後どうなっちまったんだ……?」
「どうかしましたか?」
「いやっ、なんでもねぇ」
しかし、そんな周囲などとは違い、腕を組んで悩む姿を見せるゴールデンなバーサーカーがいた。
バーサーカーが気がかりにしていたのは、緑色のアーチャーロビン、そのマスターだ。
ロビンはマスターを近くにつれていなかった。
彼のマスターが今どうなっているのかを知るためにも、過去で何が起こったのかを把握しておきたかったようだ。
だが、彼らの雄姿はあまり映ってはいなかった。
そのため、あの赤いバーサーカーとの戦いの後、何が起こったのかわからずじまいであった。
そのことをバーサーカーが難しい顔で考えていると、それに気が付いた刹那が何か気が付いたのだろうかと尋ねた。
バーサーカーは刹那に対して、肩をすくめてなんでもないとだけ話すのだった。
「やはり出てきたか、転生者……」
「色々いたっすねぇ……」
「ふーむ、しかし、予想の範疇とも言えるか」
また、端っこの方で固まっていた転生者組も、映像にて現れた”転生者”のことで話し合っていた。
まあ、覇王はもはやそのあたりなど気にしておらず、映像を見終えた直後から一人空を見上げていたが。
最終決戦ではさほど映らなかった転生者だったが、割とあちらことらにいることがわかった。
それ以外にも、昔から完全なる世界に属する転生者も存在したことに、直一はやはりと言葉にしていた。
状助も深刻そうな顔をしながら、数多くの特典を貰った転生者がより取り見取りであったと感じていた。
基本似たり寄ったりな特典を貰う転生者は多いが、これだけ数がいれば貰った特典の種類も豊富になるのだろう。
とは言え、アルスはそれも予想内だと冷静に言葉にした。
転生者が大量にいるこの世界なら、あのぐらいは当然であると。
「まっ、”原作どおり”終わったっつーんなら、それで充分っすけどねぇー」
「原作どおり……、とは微妙に違うみてぇだがな」
とまあ、無事に20年前の事件も終わっているのなら、そこを心配する必要はないと、安堵しながら状助は話した。
ただ、直一は状助の言葉に訂正をくわえるようにつっこみを入れた。
原作どおり、と言うには差があると。
確かに”原作と同じく”ナギが
しかし、あのアルカディア帝国の存在、その皇帝やメトゥーナトと言う人物、アスナが早くに助けられていたこと、ウェスペルタティア王国滅亡が阻止されていたこと。
このどちらも大きなイレギュラーであると、直一もアルスも考えていた。
ならば、他にも些細であるが変化した部分があるのではないか。
そして、直一やアルス一番に謎だと思うことこそが、”原作に存在しない”アルカディア帝国と言う国だった。
いや、アルカディア帝国に訪れたことのある覇王さえも、その実態は知らない。
ライトニング・サンダリアス・アルカドゥスと言う皇帝がトップに立ち、治める国。
その程度でしか認識していない。
状助はと言うと、特に気にしたことが無かった。
と言うのも、覇王が昔言葉にした時も、あまり理解していなかった。
今回映像を見て、覇王が言っていたのはこのことか、程度にしか考えていなかった。
それでも彼らはアルカディア帝国、そしてその皇帝や部下が敵ではないことだけは理解できた。
映像にも出ていたが、基本的に世界が消え去ることを良しとせず、完全なる世界と敵対しているようだった。
むしろ、積極的に世界が消えるのを阻止しようとしているようにも見えた。
なので、その辺りの謎は今はまだ考えなくても良いか、と思うことにしたのだった。
「……にしても、一番気になったのはやっぱり、あのお姫様だよねぇ!」
「ああ! そうそうそれや!」
「お姫様気になったアルね!」
そんな男性人とは違い、女性人は別のことで盛り上がっていた。
それはお姫様、アリカのことだ。
美しい見た目と少しきつい性格。
何よりお姫様と言う存在が、彼女たちの想像を駆り立てたようだ。
「あの二人はデキてたんですかッ!?」
「ひみつー!」
そこで最も気になったこと、それはナギとアリカがどんな関係だったかだった。
と言うか、その二人がデキていたのなら、ネギはその二人の息子と言うことになる。
それに気が付いてはいないのか、はたまた気にしていないのか。
そう言うことよりも、二人の関係が一番気になったようである。
それを大勢でラカンに詰め寄れば、ラカンはとぼけた態度で秘密だと話した。
一応ネギが目の前にいるから、あまり話せないと考えたからでもある。
が、半分はおふざけであった。
「ちょっとラカンさんー!」
「いけずー!」
「昔の話じゃん!」
「ハハハ、まっ、少なくとも戦中はなんもなかったんじゃね?」
あえて秘密と言葉にしたラカンへと、少女たちは文句を飛ばした。
もうかれこれ20年前のことなんだから、黙っているなんてひどいのではないかと。
そう言われたラカンは、濁したように話し始めた。
とりあえず戦いの時はなんにも無かったかもしれない、と。
「それに、あの二人じゃ色々身分が違い過ぎるんだぜ? デキてたりなんかしたら、そりゃもう大スキャンダルよ」
「おおー! いいねぇー! 禁断の恋! その方が燃えるね!」
「ラカンはん! それって戦後は何かあったゆーことー?」
ナギとアリカでは身分が違う。
確かにその通りだ。ナギは田舎出の魔法使い。
アリカはオスティアの王女。
二人がそう言う仲になっているのが知れれば、話題になるのは間違いなしだろう。
まあ、ナギは英雄として称えられたので、そう言う方向でも話題になるだろうが。
すると、彼女たちはその言葉に大きく反応し、さらなる想像を膨らませた。
身分違いの恋、禁断の愛。何と蜜の味がしそうな響きだろうか。
彼女たちは悠々とそのことについて考えなら、ワイワイと楽しそうに語り合っていた。
「みんなそういうの好きねー……」
しかし、ここにもう一人、彼女たちが知りたい事実を知るものがいる。
アスナである。
彼女も当然ナギとアリカがどうなったのかを知っている。
知っているからこそ、ネギが二人の息子であることも理解している。
なので、少し離れた場所で、楽しそうにキャッキャと談義する彼女たちを見ながら、苦笑するのであった。
「で、ネギはどうだった?」
「あ……、ええ。聞いていたとおり、僕の父さんは”強い”人でした……」
「おうよ。アイツは色々強かったぜ。なんたって俺のライバルだかんな!!」
そして、その近くにいた、アリカとナギの息子であるネギへと、アスナは今の映像の感想を尋ねた。
ネギは映像に映っていた自分の父の雄姿に、ひたすら感激をしていた。猛烈に感動していた。
しかし、ネギが感激している部分は”原作”とは少しだけ違っていた。
”原作”ではその魔法使いとしての強さ、世界を救ったという事実に感涙していた様子であった。
だが、ある程度師匠であるギガントから話を聞いていたネギは、違う部分を見ていた。
それはやはり、心の強さだった。
あの絶望的な場面でさえ諦めることなく立ち上がり、傷つきながらも世界を救った。
周囲の仲間ですら心が折れかけていた場面でさえ、最強を名乗り戦いに挑んだ。
師匠から話を聞いたとおりの、とても強い人だった。
身体や魔法だけではなく、精神的にも強い人間。
ネギの憧れとする部分であった。
ただ、ネギは、ナギの功績がこれだけではないことを聞いている。
師匠から聞いて知っている。
この後魔法世界を旅しながら人助けに勤しみ、”
戦争で活躍したから”
ラカンもネギのその”強い人”と言う言葉に、多くの意味があることを察した。
故に、ニヤリと笑いながら、ナギは本当に強い人間だった、最高の好敵手だったと豪語するかのように語ったのだ。
「なるほどな」
「千雨さん?」
だが、そこへ話を聞いていた千雨が、何やら納得した様子で言葉をもらした。
ネギは突然の千雨の発言に、一体何がと考えて彼女の名を呼んだ。
「ったく、何がハッピーエンドだよ。いろいろガバッとはしょったろ?」
「どうだかなー?」
千雨は映像が全てではないことを察していた。
ハッピーエンドと言っているが、本当は完全無欠のグッドエンドではなく、ノーマルエンド程度だったのだろうと。
先ほどの映像に映っていないことが実際は山ほどあるのだと。
ラカンはそんな千雨に対し、すっとぼけた。
実は全部知ってるが、あえて知らぬフリをした。
とは言え、バレバレのごまかしであったが。
「どういうことですか? 千雨さん」
「悪の親玉を倒したからって、そう簡単に世界は救えないって話さ」
ネギは千雨に、それが何を意味するのかを尋ねた。
千雨はそんなネギに、世の中そうそう全てがうまく行くはずがないと述べた。
そうだ、世界はそんなに甘くない。全部が全部綺麗に治まるはずがない。
「実際に戦争が終わってもいろんな問題が残ったんだろ? それに、まだ隠し事してる感じだしな」
確かに戦争は終わった。ただ、その後問題がなかったなんてことはないはずだ。
何かしら面倒事が残ったはずだ。千雨はそう考えた。
それ以外にも、ラカンが全てを話したと言う感じでもなかった。
意図的に、何かを隠している。見せないようにしている、そう千雨は感じていた。
「だろ?」
「さあなー」
それをラカンへと千雨が振れば、やはりラカンはシラを切るだけであった。
まあ、千雨もラカンが全て話すなど思っていなかったので、予想通りの対応とは思った。
「残った問題とは、もしかして彼らのことですか……?」
「まっ、そーなるかな」
ネギは問題が残った、と言う言葉で推理し、もしや”完全なる世界”の残党がそれなのではないかと考えた。
ただ、実際は少し違う部分もあるのだが、間違ってもいない答えであった。
ラカンもそれでいい、と言う感じで答えた。しかし、本当は違うと言う感じでもあった。
こうして、ラカンの過去の語りは終わり、各々で色々と盛り上がった。
とは言え、アスナの心境は少し複雑であり、普段よりも静かな態度だった。
そして、とりあえず街へ戻ることにする一行であった。