理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百五十五話 総督府

 ネギたちは夕映と夜に総督府で合流することを話して別れた後、隠れ家としているハルナの飛行艇へと戻ってきた。そこでクルトのことについて、ラカンやアスナを交えて話し合っていたのである。

 

 また、カギもネギについてきていた。

夕映の護衛はどうした、と言う感じだが、それよりもクルトのことが気がかりで仕方が無かったのである。それに夜に再び会うことにしているので、まあ()()大丈夫だろ、程度に考えていたのだった。

 

 

「一体何考えてんだろうなあ、あの胡散臭い眼鏡は」

 

「うーん。僕としては悪い人には見えなかったけど……」

 

「いやいや、どう見ても胡散臭さ全開でまったく信用できねぇだろ!?」

 

 

 カギはクルトをまったくもって信用していない。

何故ならカギのクルトの印象は、最後までよくわからないやつだったからだ。なので何を企んでいるのかわからないが、何かよからぬことを考えていると思っているのだ。

 

 しかし、ネギはカギとは違い、多少なりと信用できるかもしれないと思っていた。

ネギはクルトと会うのが初めてであり、最初の印象は悪くないものだったからだ。

 

 されど、カギはネギへとあれは信用できないと叫んだ。

()()もあえて悪役をやっていた感じではあったが、やはりカギの中では印象がよくないのだ。

 

 

「そういえばあの人は、昔()()()の仲間だったんですよね?」

 

「ああ、そうだぜ」

 

 

 まあ、カギのことは置いておくとして、ネギはあのクルトが自分の父親の仲間だったことをラカンから聞かされていた。

それをもう一度確かめる感じで、ラカンへと尋ねた。

 

 ラカンもそれに素直に答え、腕を組みながらその通りと言った。

 

 

「タカミチと同じく、ガトウのヤツが引取った孤児でな」

 

「タカミチさんと同じですか」

 

 

 また、ラカンはクルトの詳細を話し始めた。

あの男は元々はガトウという男が引取り手であり、タカミチと同期でもあると。

 

 ネギもその話に、なるほど、と言う感じで聞き入っていた。

 

 

「それ以外にも詠春の剣の弟子みたいなもんで、神鳴流だったかの剣技も使える」

 

「つまり、中々の使い手でもある、ということですか……」

 

「まっ、今はどうだか知らんがな」

 

 

 さらに、あのクルトは近衛詠春から剣術を学んでいると、ラカンは言った。

神鳴流剣術の使い手である、ということだ。

 

 この話を聞いたネギは、クルトが決して弱くないことを悟った。

刹那の強さを間近で見ていたネギは、その神鳴流剣術のすさまじさを知っているからだ。それに、紅き翼の一人であり木乃香の父親たる詠春が、手ずから教えているのであれば、なおさらだ。

 

 とは言え、今のクルトの実力はラカンも知らない。

多分強いんじゃない? 程度にしか認識していないのだ。

 

 ただ、”原作”でもクルトは神鳴流奥義の位の高い弐の太刀を使えた。それを考えれば、魔法障壁で防御するネギとは相性が悪いと言うものだ。まあ、それは戦いとなれば、の話ではあるが。

 

 

「戦いが終わった後、アイツは政界へと足を踏み込んだ」

 

 

 何せ、クルトは20年前の戦いが終わった後、元老院議員となるべく政へと手を伸ばした。

そして、それなりの後ろ盾をもらい、元老院議員となった。

 

 

「その後のことは俺もまったくわからんし、何を考えてるのか見当もつかん」

 

「そうですか……」

 

 

 故に、ラカンも今クルトが何をしているのかまったくわからなかった。

と言うのも、ラカンも隠居生活していたので、そう言う情報を仕入れていないのもあったが。

 

 ネギはラカンに知らないと言われ、それ以上は何も聞けなかった。

確かにある程度の情報はもらったが、現状の情報は全くなかったのである。

 

 

「そうだ。アスナさんもクルトさんという人を知ってるんですよね?」

 

「知ってるけど、本当に少しだけよ」

 

 

 そこでネギは、ハッとした様子で、今度はアスナへと尋ねてみた。

アスナも紅き翼と何度か行動を共にしている。それを知っていたネギは、アスナが何か知ってるかもしれない、と思ったのだ。

 

 が、当然アスナも詳しく知っている訳がない。

だからネギのご期待には添えない、と言う様子でそう言うだけだった。

 

 

「あまり話た事がなかったし、少年時代の顔を覚えてるぐらいでしかないわ」

 

「おいおい! んじゃ誰も今のアイツを知らないってことじゃねぇか!」

 

 

 昔のことでさえ、あんな顔してた、程度にしか覚えてないのに、今のことなどわかる訳がない、とアスナはしれっと言葉にした。

 

 するとカギは誰もクルトの現状を知らないことに、大きく叫んで文句を言った。

昔の仲間だったっつーのに、誰も知らないってどういうことだよ! と言う感じだった。

 

 

「そんなこと言われても、十数年も会ってないんだから、知りようがないじゃない」

 

「そういうこった」

 

「ま、まあそうかもしれんがー……」

 

 

 そうは言うが、何十年と会っていない過去の仲間のことまで、わかる人間はいない。

アスナはそう言うと、ラカンも便乗してそう言葉にしたのである。

 

 カギもその言葉に納得したのか、うーん、と頭を悩ませていた。

”原作”のクルトもよくわからんかったが、()()でもまったくわからんことに、カギは嘆いた。

 

 

「あいつのことならガトウに聞くのが一番だが、今どこにいるのやら」

 

「そういやゲートにいたな。その後のことは知らんが」

 

 

 ただ、よく知っているだろう人物は存在した。

それはガトウだ。ガトウは”原作”とは違い死なずに生きている。クルトの親のような人間であり、政治にも理解のあるガトウであれば、何かわかるかもしれない、とラカンは思い言葉にした。

 

 ガトウの名前を聞いて、カギはふとここへ来た時のことを思い出した。

確かに自分が魔法世界に入った時、ゲートでタカミチを待っていた。まあ、その後の足取りは詳しく聞いていないので当然わからんのだが。

 

 

「ガトウさん、元気そうだった?」

 

「ああ、多分な」

 

「それはよかった」

 

 

 カギがガトウに会ったのを聞いたアスナは、そのガトウが元気だったのかをカギに尋ねた。

何年も会っていないが、何度も世話になったので気になるのである。

 

 それを聞かれたカギも、ふとその時のことを思い出し、特に問題なさそうだと考え元気なんじゃね? と返した。

 

 アスナはそれを聞いて満足したのか、微笑みを見せたのだった。

 

 

「とりあえず、この舞踏会に参加して話してみないことには何もわかりませんね」

 

「だなー。なーんかあっちの手にハマってる感じでヤなんだがなあ……」

 

 

 しかしながら、クルトのことはわからずじまいであった。

まあ、あっちもこちらに用事がある感じなので、舞踏会に行けばある程度知れるだろう、ということだけはわかった。

 

 ネギはそう考えて、舞踏会に参加するしかないと提案した。

カギもあっちの思う壺みたいなのは癇に障ると言う態度で、仕方ないと諦めて参加を同意するのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 すでにあたりは暗くなり、太陽も沈んだ時間となった。

空は闇に包まれながらも、星星が煌き照らされており、()()()()()()()も美しく輝いていた。

 

 そして、場所は総督府。まるで宮殿のような建造物が立派に建っており、そこで舞踏会が行われるようだ。また、大イベントと言うこともあり、無数の花火が天に舞い上がり、爆ぜては消えを何度も繰り返していた。

 

 

 そこへネギやその生徒、仲間たちもやってきており、誰もがきらびやかな衣装へと装いを変え、舞踏会と言う未体験に心を躍らせていた。

 

 

「アスナさん、とてもお似合いですわよ?」

 

「そ、そう? 変じゃない?」

 

「全然問題ありませんわ」

 

 

 当然そこにはアスナとあやかの姿もあり、あやかはアスナのドレス姿を褒めていた。

そう言われながらも、髪をストレートに下ろし、普段は着ないような肩が丸々と出たドレスに身を包んだアスナは、多少ぎこちない様子を見せていたのだ。

 

 なのでアスナは着慣れぬドレスに戸惑いを感じながら、その言葉が本当かどうか確かめるかのように聞き返した。

あやかはそんなアスナへと、自信を持てと言わんばかりに自分の先ほどの言葉を肯定して見せた。

 

 

「それにしても、いいんちょは随分着慣れてる感じね」

 

「私は家で何度かそう言う体験をしておりますから」

 

「……ブルジョアねぇ」

 

 

 そう言うあやかをアスナが見れば、様になっているとしか言いようがないと言葉にした。

同じように肩を露出し、胸元も随分と見せたドレスを、あやかは自然体で着ているではないか。それを見たアスナは、あやかがドレスなどを普段から着こなしていると感じ、流石は財閥の娘だと思っていた。

 

 それを当然と言うあやか。

財閥の娘たるもの、この程度のことは当たり前なのである。故に何度もこう言った社交場を体験しており、動きや素振りなども見事に美しく振舞われており、完璧と言うほかなかった。

 

 そんなあやかへと、お嬢様は違うものだと言うしかなかった。

されども、このような身のこなしを自然と振舞えるというのは、それなりに訓練したからであろう、とも思っていた。わりと自由にやっているあやかでさえ、財閥のお嬢様として恥ずかしくない振る舞いを教え込まれたのだろうと。

 

 

「あら、あなただってお姫様なのでしょう?」

 

「名ばかりな、ね」

 

 

 アスナの今の発言に、あやかはくすりと笑ってそう返した。

話に聞けばアスナも、この国のお姫様と言うではないか。ならば、むしろ財閥の娘よりも立場は上なんじゃないか、と冗談めいた考えをしたのである。

 

 そうは言うが、とアスナも言葉を漏らした。

お姫様と言うのは血筋のみで、扱いとしてはむしろ()であった。アスナはそう言った経緯から、他人がそう言おうが自分は姫だと思ったことは一度足りとてなかったのである。

 

 

「俺よぉ……、ここからすげぇ嫌な予感がするんだよなぁ……」

 

「状助っていつもそんなことばかり言ってない?」

 

「えっ? 嘘だろ承太郎……?」

 

「本当よー」

 

 

 そんな二人のやり取りを横で聞いていた男子が、そこで突如口を開いた。

それは状助であった。状助は二人に一緒に行動しようと誘われたが故に、断りきれずにこの場にいるのだ。

 

 そして、状助のその発言は、やはり()()を思ってこのことだった。

確かここではクル……誰だったか覚えてないが、ネギと戦いになるはずだと、思い出していた。それ以上に、この後襲い掛かってくる、完全なる世界が放つ無数の敵たちとの戦いを考えると、胃が痛くなっていく思いだったのだ。

 

 なんか先のことを想像して顔を青くしている状助へと、アスナはふとつっこむようにそれを言った。

なんというかこの状助、背丈の割りに随分と弱音ばかり吐いている。

 

 しかし、いざとなると勇気を出すのか、強大な敵にも果敢に挑んでいく強さも持っているではないか。

そのため、アスナは状助が言う、嫌な予感がする、なんて口癖じみた台詞にしか思っていないのである。

 

 それを聞いた状助は、いつもの口癖でアスナへ聞き返した。

アスナはそれについては嘘ではないと、自信がある様子で答えたのだった。

 

 

「そんなことよりも、気にすることがあるんじゃないの?」

 

「気にすることかぁ……。覇王のやつはうまくやってんのかなぁ」

 

 

 と言うか、何を考えて不安になっているのかわからないが、それ以上に何かあるだろう。

アスナは答えを言うことはせずに、ヒントめいた言葉を状助へと投げた。

 

 が、状助はまるでわからないかのような態度で、それ以外に気にしている部分を語り始めた。

それは覇王である。覇王も当然この総督府へと来ている。そして当然木乃香の傍にいる。それを考えて、覇王はしっかり彼女をエスコートできてるだろうか、とふと思ったのである。

 

 

「痛っ!? なっ、何すんだコラァ!!!」

 

「そうじゃないでしょ! そうじゃ!!」

 

「じゃあよぉ! どういうことだっつーんだ!」

 

 

 だがしかし、それがアスナの逆鱗に触れた。

突如としてアスナは、肘打ちを状助の脇腹に突き刺したのだ。

 

 一瞬うめき声を上げた状助は、いきなりのことで気を動転しながら、アスナへと盛大に文句を叫んだ。

と言うか、結構痛かった。鋭い肘打ちだった。なので、少し頭に来たらしい。

 

 されど、状助以上に不機嫌な態度を見せるのはアスナの方だった。

気にすることとは、覇王たちのことではない。そうではないと、怒りと同時に荒げた声をあげていた。とは言え、んなこと言われても、と言う感じに状助も文句に文句を返していた。

 

 

「東さん、わざとらしい態度はよくありませんわよ? アスナさんの言ったこと、気がついてらっしゃるんでしょう?」

 

「うぐっ!?」

 

 

 そこへあやかが割って入り、状助へと静かにそれを指摘した。

その声はまるでなだめるかのように、そして説得するかのような優しい声色であった。

 

 状助はあやかへそう言われると、まさにぐうの音も出ないと言う顔で、思い切り引き下がった。

あやかの今の言葉は状助の図星であり、アスナの言葉の意味など、すでに理解していたのである。

 

 

「……い、いやぁ、随分と綺麗じゃあねぇかよぉ……。見違えたっつーかよぉ……」

 

「そうそう、それが聞きたかった」

 

 

 すると状助は深呼吸した後にアスナへと振り向き、非常に照れくさそうにしながら、アスナの今の姿を称賛した。

なんというか、ちょいと着飾るだけで随分と違うものだと。雰囲気も随分と違うものだと。

 

 それを聞けたアスナは、満足したのかうんうんと頭を縦に2、3度振りながら、嬉しそうに笑っていた。

また、最初からそう言ってくれれば早かったのに、とはあえて言わなかった。状助が褒めてくれたのだから、それでいいと思ったのだ。

 

 

「おめぇよぉー! 聞きたかったってどういうことだよ!?」

 

「それは当然、男子の状助に言われる方が、……嬉しいに決まってるからじゃない」

 

「お……おう……」

 

 

 が、今のアスナの言葉に、状助はさらに文句を叫んだ。

何せ、今の状助の発言は、恥ずかしい思いをして出した言葉だった。それをただそれだけで受け答えされては、何と言うか割に合わないと思ったのだ。

 

 と言うか、本来ならアスナの方だって、照れるべきじゃないのか。

何でしれっとした態度でそんなことが言えるの。状助はそう考えたのか、ちょっと頭に来たのである。

 

 そう怒り出した状助へと、アスナは自分の意見をはっきりと、ほんの少しだけ頬を赤くしつつ述べた。

同じ女性であるあやかにそう言ってもらうのと、男子の状助からそう言われるのでは別であると。

 

 アスナから素直に嬉しい、と言われた状助は、怒りが一瞬で分散したようだ。

逆に今のアスナの様子に、ほんの少しドキリとしたのか、一歩後ろへ下がり小さな声で相槌を打っていた。

 

 そんな二人の様子を、何やら満足げな様子であやかが眺めていたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 アスナたちの近くで、ネギもスーツへと着替えてこの場にやってきていた。

()()とは違い大人の姿ではないが、子供ながら様になっていた。

 

 

「あの、ネギ先生! このドレス、似合ってますか?」

 

「はい、とても綺麗で似合ってますよ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 そこへドレス姿となったのどかが、ネギのところへやってきた。

そして、自分の今の姿に対する質問を、はにかんだ表情を見せながら投げかけた。

 

 ネギはそれに対して、素直な意見で褒めていた。

ありふれた答えであったが、率直なものであった。

 

 のどかもネギに褒められたのが嬉しかった。

飾りっけのない味気ない言葉であったが、それで充分だった。なので、少し赤かった表情をさらに赤くしながらも、満面の笑みで礼を述べたのだった。

 

 

 そんな二人をひっそりと遠くから眺める少女が一人いた。

それは夕映であった。夕映もクルト本人から舞踏会へ誘われたので、ここへとやってきたのである。

 

 

「のどか、ちゃんとやれてますね」

 

 

 また、ネギへと接近するのどかを見て、満足げな表情を見せる夕映。

こう言う時こそ仲を進展させる絶好のチャンス。それを逃さず頑張っているのどかに、夕映は安心した様子だった。

 

 

「みてーだな」

 

 

 だが、そこに突如として後ろから、少年の声が聞こえてきたではないか。

 

 

「!? か……カギ先生!?」

 

「よう」

 

 

 夕映はその声に驚き、とっさに後ろを向けば、そこには普段と変わらぬ姿のカギがいた。

カギの姿を見た夕映は、慌てながらに彼の名を口から漏らした。

 

 そんな夕映の姿を眺めながら、平然とした態度で一言小さく挨拶を交わすカギ。

と言うか、ちょっと驚きすぎじゃね? とは内心思っていたりもするのだが。

 

 

「……またこそこそ覗いてんのか?」

 

「い、いえ……まあ……」

 

「やっぱ気になっちゃうかー」

 

「はい……」

 

 

 カギは遠くにネギとのどかの姿を見ると、ははーんと思い夕映の行動を察した。

で、それを夕映へ聞くと、夕映も少し戸惑った様子で、それを肯定する言葉を発したではないか。

 

 いやー、随分気にかけてるねー、とカギは思いながらも、やっぱり? と夕映へと言葉を投げた。

夕映もそう言われて観念した様子で、一言だけ返事をして小さく頷いたのだった。

 

 

「あれ、カギ先生はスーツじゃないんですか?」

 

「あーいうの、なんだかかたっくるしくてなぁー……」

 

「はぁ……」

 

 

 そこで夕映はふと、カギの姿をまじまじと見た。

それでカギがネギのように着飾っていないことに気がついたのだ。あのクルトと言う人に会った後、姿をくらませていたのだから、準備する時間はあったはずだと夕映は思った。

 

 なので、夕映がそのことについてカギに聞けば、面倒臭いという感じで肩をぐりぐり回しながら答えたではないか。

まるでおっさんみたいな仕草をするカギに、夕映は気の抜けた返事を吐き出したのだった。

 

 

「そっちこそ、ドレスじゃないじゃん」

 

「私たちは一応()()()()()()()()()としての参加なので……」

 

「あ、そう」

 

 

 されど、夕映もいつものアリアドネーの 制服姿。ドレスに着替えてはいない。

カギが今度はそれをつっこむと、夕映はいい訳じみた言葉を言い出した。まあ、リーダーをしているエイミィが、そう言う方向での参加を決めたので、制服のままと言う理由があるのだが。

 

 カギはその夕映の答えに、ま、いいか、と言う感じで返事を返した。

 

 

「んじゃ、他の子たちは?」

 

「先に中へと入ってます」

 

 

 ならば、他のエイミィたちはどこにいるのか、とカギは考えそれを夕映へと尋ねた。

その質問に夕映は、すでに先に行っていると言葉にした。

 

 夕映はのどかの様子を見に行きたくて、彼女たちとは別行動を取ったのである。

 

 

「追わなくてもいいのか?」

 

「時間には合流すると言ってあるです」

 

「ふーん」

 

 

 先に行ってるならはぐれないか? と考えたカギは、夕映へとそう言った。

しかし、夕映も馬鹿ではない。合流する場所と時間をあらかじめ決めていたのだ。

 

 なので、夕映はそれを言うと、カギはだよな、という顔で返事をするだけであった。

 

 

「ま、とりあえず俺たちも中に入ろうぜ」

 

「はいです」

 

 

 とりあえず、カギはこんなところで立ち話していてもしょうがないと考えた。

故に、自分たちは建物の中へ移動しようと夕映を誘った。夕映もカギの言葉に従い、二人で建物の中へと入っていったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 舞踏会にはネギの仲間全員が参加していた。当然木乃香も来ている。

そして、当然ながら美しいドレスを身に纏い、しっかりと着飾っている。

 

 その木乃香は当然のごとく覇王にべったりくっつき、離れようとはしなかった。

覇王もやれやれ、と言う顔をしながらも、特に気にした様子は見せなかった。

 

 しかし、覇王はいつもどおりのマント姿で、そこは木乃香につっこまれていたのだが。

されど、覇王はそんなことを気にする男ではないので、どうでもよいと流していた。

 

 また、木乃香の近くには当然刹那の姿もあった。

ただ、二人の邪魔はしたくはないので、遠くで見守る形を取っていた。

 

 

「おう、刹那。待たせたな!」

 

「バーサーカーさん……え?」

 

 

 そんな刹那のところへと、スッと現れた大柄な男。

ゴールデンな髪をいつもよりも崩し、普段の服装ではなく黒いスーツをきちっと着こなしたバーサーカーがそこのいたのだ。ほとんどが黒一色のスーツだが、ところどころに金色の装飾が施され、バーサーカーらしいものであった。

 

 いつもとは違うバーサーカーに、刹那は少し戸惑った様子を見せた。

普段の白シャツに黒いパンツではなく、よく見せている豪快な筋肉の二の腕が隠れていたからだ。

 

 

「ハハッ! ちょいとマジにキメちまったから、誰だかわからなかったか?」

 

「い、いえ、別にそう言う訳じゃありませんが」

 

 

 すると、バーサーカーは髪を掻き分ける仕草をしつつ、ニヤリと笑ってそう言った。

いやはや、ちょいと本気でめかしこんだので、刹那も見違えちまったのか、と。

 

 とは言え、刹那はそうではないと言った。

確かに見違えたと言えばそうかもしれないが、その部分に驚いていた訳ではなかった。

 

 

「少し髪型を変えただけで、随分と雰囲気が変わるものだと思いまして」

 

「あー、そう言うことか」

 

 

 刹那が少し驚いたのは、バーサーカーの髪型が変わっていたからだ。

それで雰囲気が普段と違っていたことに、若干戸惑ったのである。

 

 バーサーカーもそれを言われれば、納得した様子で腕を組んでいた。

確かに普段はただのおかっぱで、味気ない感じをさせていたんだろうなと。

 

 

「そのスーツも中々似合ってますよ」

 

「ありがとよ!」

 

 

 また、刹那はバーサーカーが着込んでいるスーツにも着目し、随分様になっていると褒めた。

褒められたバーサーカーはニカっと笑い、当然のごとく素直に感謝の言葉を述べた。

 

 

「しっかしよぉ、刹那もその格好(スーツ)はねぇんじゃねぇか?」

 

「そ、そうですか……?」

 

「あったぼうよ」

 

 

 が、バーサーカーは刹那の格好を見ると、いやおかしいだろ、と少し渋い顔で言葉にした。

それは刹那が当然のごとく男性のようにスーツを着ていたからだ。

 

 されど、刹那はそれがおかしいと認識していないのか、むしろ聞き返してきたのだ。

バーサーカーは当然、おかしいと言う意思表示を再度見せた。

 

 

「刹那だって女の子だろ? こう言う時ぐれぇビューティルフに着飾るべきじゃねぇか?」

 

「ですが、それではこのちゃんの護衛として……」

 

「そりゃ考えすぎっつーかよぉ……。もう少しリラックスしてもいいと思うんだがよ」

 

 

 こんな晴れ舞台だと言うのに、女性である刹那が男装まがいな見た目をするのはよろしくない。

もっとこう言う場所に相応しい、他の子と同じようなドレスを身に纏うべきだ。バーサーカーはそう思い、それを刹那へと言葉にした。

 

 刹那とてそれは多少理解していたようではあるが、それ以上に優先されるべきは木乃香の護衛だと認識していた。

なので、それをバーサーカーへと説明すると、バーサーカーはちょっと呆れた様子で、気にしすぎだと言うのだった。

 

 

「でもまぁ、別にその格好も悪くはねぇな。むしろイケてるぜ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 とは言ったものの、バーサーカーは刹那のスーツ姿も結構いい感じに纏まっていると褒めだした。

華やかさはまったくないが、されどその出で立ちも美しくはある、と感じたのだ。

 

 バーサーカーに褒められた刹那は、若干顔を赤くしつつ、ペコリと頭を下げて礼を述べていた。

確かにドレスではないにせよ、それなりに装いは整えた。それを褒められれば、当然嬉しく感じるものだ。

 

 

「んで、肝心のお嬢ちゃんは?」

 

「あちらですね」

 

 

 そこでバーサーカーは、ふと刹那が護衛だと言うことを思い出し、その護衛の対象のことを尋ねた。

刹那はその問いに、そっと手をそちらに向け、バーサーカーへと教えたのだ。

 

 

「なーんだ、覇王と一緒じゃねぇか」

 

 

 すると、覇王の腕にしがみついて離れない木乃香の姿が、バーサーカーの目に飛び込んできたではないか。

 

 

「だったら護衛なんていらなかったかもな」

 

「そうですけど、これも私の務めですので」

 

「マジで真面目すぎるぜ……、うちの大将はよ……」

 

 

 その光景を見たバーサーカーは、覇王と一緒ならば、別に護衛いらなくね? と思ったのである。

そりゃあの覇王の近くにいるのだから、危険なんてあってないようなものだからだ。

 

 しかし、刹那は真面目な性格故に、それでも護衛として全うすると宣言した。

そんな刹那に、いややっぱ気にしすぎだ、とバーサーカーは困った顔をしながらも、それでこそだと思うのだった。

 

 

「ですが、この前のようなことが起こらないとも限りませんから」

 

「まっ、確かに何があるかわからねぇな……」

 

 

 何故刹那がここまで真面目なのかと言えば、これまでの戦いのことを考えてのことだった。

敵は強大、かつ未知数で複数いる以上、想定外な展開を考えておかなければならない。

 

 それを刹那は真剣な表情で言えば、バーサーカーも真面目な表情を見せてそう述べた。

確かにそうだ。刹那の言うとおりだ。覇王がどれだけ強くとも、敵の強さと数を考えれば、備えておくのは当然だ。

 

 そして、バーサーカーもよりいっそう気を引き締めながら、刹那と移動をするのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 舞踏会開始前、まだネギたちが外にいる頃。

エヴァンジェリンは既に内部へ入り込み、あたりを見渡しながら警戒を行っていた。

 

 

「随分とまあ、人が多い」

 

「そうですね」

 

 

 エヴァンジェリンは人の多さに、この中で敵がまぎれていたら中々わからないだろう、と考えていた。

また、彼女の横には従者である茶々丸の姿もあった。

 

 

「今のところは問題なさそうだな」

 

「はい。私のレーダーにも特に何も映ってはおりません」

 

 

 ただ、現状では怪しい感じの人影は見当たらなかった。

それに多少安堵しながら、エヴァンジェリンはそのことを茶々丸へと言葉にした。

 

 茶々丸も当然、自分に内蔵されたレーダーにて、怪しい人物を探知しようと検索していた。

されど、そのようなものはなく、今は何もないと判断したようである。

 

 

「そして、ここへ招待したのは、かの紅き翼の元仲間と言うじゃないか」

 

 

 しかし、そこで突如として、独り言のようなことをエヴァンジェリンが言い出した。

それはここへネギたちを招いた男が、紅き翼だった人物ということだ。

 

 

「なあ? 高畑・T・タカミチ?」

 

「……」

 

 

 さらに、そこでエヴァンジェリンが口にした名前は、なんとその男の同期であるタカミチだったのだ。

だが、エヴァンジェリンの視線には、褐色黒髪で短い二本の角が生えた、黒いサングラスをした怪しい感じの亜人の姿だった。その亜人もまた、エヴァンジェリンの方を、サングラス越しで見ていたのである。

 

 

「いやあ、流石にエヴァンジェリン殿にはわかりますか」

 

「当然だろう?」

 

 

 すると、その亜人からは、何とも丁寧な台詞が跳び出したではないか。

そして、その言葉はエヴァンジェリンの言葉を肯定する趣旨のものであった。

 

 エヴァンジェリンはそれを聞いて、ニヤリと笑ってそう答えた。

例え変装していようが、ある程度は気配でわかる、というものだ。

 

 

 また、タカミチと一緒に来ていた真名の姿はこの場になく、彼女は周囲の見回りに出ていた。

 

 それ以外にも、何故彼が変装しているのかと言えば、単純にクルトと仲があまり良くないからだ。そのままの姿で来れば、追い返されるかもしれないとガトウに言われ、変装して来たのである。それでもって、そのガトウ本人も今はこの場に姿はなかった。

 

 

「お久しぶりです、高畑先生」

 

「ああ、久しぶり」

 

 

 そこへ茶々丸もタカミチへと頭を下げながら、久々の再会の挨拶を述べた。

タカミチも変装したまま、茶々丸へと小さく頭を下げて挨拶を交わした。

 

 

「しかし、貴様が何故ここに?」

 

()()()から連絡がありましてね……。ギリギリで……なんとかゲートをくぐることができました」

 

 

 ただ、どうしてタカミチがこの場所にいるのか、エヴァンジェリンは疑問に感じた。

何せタカミチは旧世界(あっち)にいるはずだと、思ったからだ。

 

 タカミチはそれに対して、師であるガトウから連絡が来て、ゲートが閉じる前にこれたと苦笑しながら説明した。

 

 

「それだけではなく、何故()()にいるのかもだ」

 

「ラカンさんにネギ君たちの護衛として雇われましてね」

 

「なるほどな」

 

 

 しかし、エヴァンジェリンの疑問はそれだけではない。

どういう理由でこの舞踏会に変装してまで足を踏み入れたのか、ということだ。

 

 それを聞けばタカミチは、ラカンにネギたちの護衛のための傭兵として雇われたと言ったのである。

ラカンの感としてはクルトが何か問題を起こすとは考えられなかったが、念には念をということだった。そして、ガトウも同じように頼まれているのだが、今この場に姿はないようだ。

 

 まあ、ネギたちの居場所も知れ、護衛もできるのならば雇われなくともやったとタカミチは思った。

それでも、もう一人の付添い人、真名が傭兵として雇っている扱いなので、一応そう言うことにしたのだ。

 

 その答えにエヴァンジェリンは確かに、と頷き納得した様子を見せていた。

されど、こちらに来ていたのなら、今まで一体何をしていたんだろうかと言う、新たな疑問がエヴァンジェリンの頭に芽生えた。が、それはあえて聞くことは無かった。

 

 

「で、そいつの動き、どう思う?」

 

「どうって言われましてもね。僕も彼とは久々で、はっきり言ってわかりかねます」

 

「まあ、そんなものか」

 

 

 エヴァンジェリンは二人の挨拶が終わったのを見て、タカミチへと質問を投げた。

それはクルトという男のことだ。

 

 されど、タカミチもそれを聞かれても、少し困ったという感じで答えていた。

何せ、タカミチもクルトと会うのは本当に久々だ。何年も会っていないので、何をしようとしているかも見当つかないと言う様子だった。

 

 とは言え、エヴァンジェリンもその答えを予想していたようで、それ以上は聞かなかった。

 

 

「しかし、彼がネギ君たちをどうしようとしているのかは、気になるところですね」

 

「ふむ、あの二人を手なずけようと考えてるのか、それとも……」

 

 

 ただ、タカミチもクルトが何を考えているのか気になっているようで、それをエヴァンジェリンへと話した。

エヴァンジェリンも何故今更ネギやカギに接近したのか、多少疑問を感じていたようであった。

 

 が、そこへ別の第三者が、思考するエヴァンジェリンへと声をかけてきた。

 

 

「ねぇ、何で私も出されてるのよ」

 

「なんだ? 外に出たかったんじゃないのか?」

 

「出たかったわよ」

 

 

 それは転生者であり、今はエヴァンジェリンの従者となった、メイド姿のトリスだ。

トリスは何故自分が外に出されて、付き人のようなことをしているのかを、エヴァンジェリンへと尋ねたのだ。

 

 しかし、エヴァンジェリンは逆にそれを質問で返した。

それを聞いたトリスは、多少起こった様子でその通りと言葉にしていた。

 

 

「じゃあ、何が不服なんだ?」

 

「また面倒そうな場所に呼び出されたってことよ」

 

「なるほど」

 

 

 外に出れたんだからよかったのでは? とエヴァンジェリンは思ったことを口に出すと、トリスはため息を混ぜながらそのことについて文句を言うように吐き出した。

 

 エヴァンジェリンはそれを聞いて、納得した様子を見せていた。確かに、面倒ごとになりそうだから、外に出したのは間違いないのだが。

 

 

「おや、その子は?」

 

「私の従者だ」

 

「トリスよ。適当に呼んでちょうだい」

 

「どうも、僕は高畑・T・タカミチです。よろしく」

 

 

 すると、タカミチが不思議そうな顔で、トリスのことをエヴァンジェリンへ尋ねた。

エヴァンジェリンはそれを気にすることなく説明すると、トリスも自ら名乗り自己紹介を述べた。

タカミチもそれに続いて小さく頭を下げて、自己紹介を行った。まあ、変装したままなのだが。

 

 

「ああ、あなたが? ああ、変装ね……。ふーん」

 

「……?」

 

 

 それを聞いたトリスは、あれ? と言う顔を一瞬見せた。

何せタカミチは変装しているので、トリスは自分が知っているタカミチとは違うことに若干戸惑ったのである。

 

 が、それが変装だと理解すると、こいつが昔漫画で見たあのタカミチか、と納得した顔を見せていた。

何故そんな顔をされたのかわからないタカミチは、それに対して疑問を感じるのであった。

 

 

「……と言うか、まだ外に出さないとか言ってたのはどうなのよ」

 

「そう言ったな。あれは嘘だ」

 

「はあー!?」

 

 

 それはそれとして、話をはぐらかされたトリスは、今度はエヴァンジェリンがこの前言っていたことはなんだったのかとプリプリした態度で質問を飛ばした。エヴァンジェリンが、トリスを自分の別荘から出さないと言っていたことについてた。

 

 だが、エヴァンジェリンはしれっとした態度で嘘だとか言い出したではないか。

それを聞いたトリスは、何を言っているんだと言うような、呆れを超えた感じの声で盛大に叫んだのである。

 

 

「冗談だよ」

 

「冗談って、じゃあ本当はどういうことなの?」

 

「私も何か嫌な予感がしてね。何かあった時のための保険として、貴様を出したんだ」

 

 

 しかし、それはエヴァンジェリンのジョークであった。

すかさずエヴァンジェリンが冗談だと言うと、トリスはならば何の為にと更にまくし立てるように聞いたのだ。

 

 それに対してエヴァンジェリンは、少し真剣な表情で、嫌な予感がしたから、と答えた。

何か、何かわからないが胸騒ぎがする、そう感じたのである。

 

 

「つまり、何かありそうだから戦力として呼び出した、ってこと?」

 

「そういうことだ」

 

 

 トリスはその答えに、さらにどういった意味でかを再び聞いた。

エヴァンジェリンはその問いに、YESと素直に答えた。つまり、この前言っていた、何かあったら呼ぶ、と言う状況だと言うことだった。

 

 

「はぁー……。まあっ、何もないことを願うばかりね」

 

「そうだな。何もなければいいがな……」

 

 

 うわ、面倒なことになってきた、と思ったトリスは、大きくため息を吐いて疲れた顔を見せてた。

されど、まだ何かが起こると決まった訳ではない。それを願おうと、半ば諦めた様子でそれを言葉にしていた。

 

 いや、実際”原作”のことを考えれば、この先面倒なことが起こらないというのはありえないので、現実逃避に近いものであった。

 

 完全に土気色のような気分をかもし出すトリスの言葉に、エヴァンジェリンも同意していた。

このまま何事もないのが一番よいのは間違いないからだ。されど、それはありえないとも、エヴァンジェリンは確信していた。だからこそ、トリスをあえて表に出したのだから。

 

 

「ああ、そうだ。アーチャーとか言うヤツに出くわしたら」

 

「逃げろ、でしょ? わかってるわ、そのぐらい」

 

 

 また、エヴァンジェリンはアーチャーのことを念頭に入れていた。

アーチャーとか言うあの男は破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)なるもので、契約破棄ができるらしい。それを注意する為に、そのことをトリスへと忠告した。

 

 が、それをトリスは全部言わせず中断させ、言われずともだと言い放った。

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)のことは自分も詳しく知っているし、何度も言われていたからだ。

 

 

「助かる。頼んだぞ」

 

「嫌よ、なんて言える訳ないじゃない……、はぁー……」

 

 

 であれば、頼もしいものだと思ったエヴァンジェリンは、真剣な眼差しでそれをトリスへと言葉として送った。そんなエヴァンジェリンを見て、何度もため息を吐き出しながら、断れる訳がないと、湿っぽい愚痴をこぼすのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 この舞踏会へとやってきたのは、クルトに誘われたネギたちだけではなかった。

白髪の少年、フェイトもまた、この場へと参上していた。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 白い髪を夜空の風になびかせながら、舞踏会の会場へと歩くフェイト。

その姿は普段の少年の姿ではあるものの、多少首元を崩したスーツ姿は、中々様になっていた。

 

 そんな彼は小さく息を吐きながら、この場へ来ることになった経緯を思い出していた。

 

 

「皇帝からの願いでここへ来たはいいが、さて……」

 

 

 と言うのも、フェイトがここへ来たのは、あのアルカディアの皇帝からの頼みであった。

故に、裏ルートではなくしっかりと正規のルートで、舞踏会へと足を踏み入れていたのだ。

 

 また、この先に何があるのか、とフェイトは考えをめぐらせていた。

あの皇帝が無意味なことを頼む訳がない。何か、良からぬことが起こるのか、あるいは。そう思いながら、この先のことを危惧していた。

 

 

「みんな、どうしたんだい?」

 

 

 そこでふと、フェイトは気がついたことがあった。

ここへ一緒に来たはずの従者たちが、何故か距離を取っておろおろとしていたのだ。それが気になり、顔と体を後ろに向け、背後にいる従者の環と暦へと声をかけたのであった。

 

 

「いっいえ!」

 

「なんでもアリマセン……」

 

「そう?」

 

 

 暦と環は、今のフェイトの姿を見てドギマギしていた。

普段と同じ少年の姿。だと言うのに、スーツに着替えただけでこの違いだ。首もとのネクタイを少しだけずらし、着崩しているのも普段は見られない姿で、より際立たせる部分でもあった。

 

 さらに夜の星や二つの月明かりが、彼を照らし出して、よりいっそう輝かせているではないか。

そんなフェイトの姿を見れば、誰もが一瞬は見ほれるというものだ。

 

 しかしながら、そんなことを言えるはずもない従者たちは、顔を赤く染めながら問題ないとあわてながら言うだけだった。また、二人も当然ながら舞踏会と言うこともあり、しっかりとドレスに着替え、身だしなみを整えていた。

 

 フェイトはそんな従者たちに、はて、どうしたんだろうか、と思うだけで、それ以上は何も言わなかった。

 

 

「本当に私もご一緒してよろしいんでしょうか……?」

 

「さっきも説明したけど問題ないよ。皇帝もそう言っていたしね」

 

「そうですか」

 

 

 されど、その横で落ち着きながらフェイトへと話しかける、栞の姉の姿があった。

当然栞の姉も美しいドレスに身を包み、田舎の娘とは思えぬ輝きを放っていた。

 

 その栞の姉がフェイトへ言ったことは、皇帝の頼みに自分が付き添ってもいいものか、と言うものだった。

そのことを気にする栞の姉に、フェイトは気にする必要はないと話した。

 

 

 と言うのも、この質問はここへ来る前に、一度行われていたものだった。フェイトが栞の姉も一緒に来るよう頼んだ際に、それを聞かれたのである。

 

 それに、フェイトは皇帝からこの話を持ちかけられた時に、すでに彼女を連れて行っても大丈夫かと聞いていた。

そこで皇帝がOKを出されたので、ならば問題ないだろうと同行してもらうと考えたのだ。

 

 

 栞の姉はフェイトからそう言われたので、とりあえず納得した様子を見せていた。

 

 

「しかしながら、ここは人が多い。はぐれぬようになされた方がよろしいでしょう」

 

「えっ、ええ……。そうですね」

 

 

 転生者でありフェイトの従者となったランスロー、今は剣と名を与えられているが、彼もこの場に相応しい、渋い黒色のスーツの姿であった。普段は兜に隠れて見えぬ紫色の長めの髪と、美しく整いながらも若干陰気臭い感じがする顔を、夜中の空気に直接触れさせていた。

 

 栞も他の従者たちと同じくドレスであり、姉と同じく田舎娘とは到底見えない眩しさを見せていた。ただ、色々と姉ほどではないので、美しさより可愛さが目立つ感じであった。

 

 

 そのランスローは舞踏会へ向かう人が多いのを考え、栞へと注意を促していた。

栞は小さく相槌を打ちながら、普段は見せぬランスローの顔を、まじまじと眺めたのだ。

 

 

「……? 私の顔に、何かついておりますか?」

 

「ちっ、違いますよ!?」

 

 

 ランスローは栞が自分の顔を凝視しているのを察し、疑問を感じてそれを尋ねた。

それを聞いた栞は、ハッとした様子を見せた後、少し慌ててそうではないと否定していた。

 

 

「ただ、あまり剣さんのお顔は見ないものですので……」

 

「ああ、普段は兜で隠れてますので、ものめずらしいと言う訳ですな」

 

 

 栞は単純に、剣……ランスローが普段見せぬ顔を見せているので、珍しいと感じてその顔を眺めていたのだ。

ランスローは栞の言葉が珍獣を見るようなものだと感じ、小さく笑いながら確かにそうかもしれないと思っていた。

 

 

「ま、まあそれもですけど……」

 

「ははっ」

 

 

 そのことは否定できないと、歯切れの悪い感じに言う栞。

それ以外にも、ランスローが意外と顔がよかったので、気になった、というのもあったりする。まあ、ある種のギャップからくるものだ。

 

 素直で正直な栞の意見に、少し大きく笑って見せたランスロー。

いやはや、そんなに自分は顔を見せたことがなかったのかと、彼は自分を少し見つめなおしていた。

 

 

「さて、我が主に遅れぬよう行きましょう」

 

「は、はい!」

 

 

 そんな会話をしていると、フェイトたちは少し先に進んでいるではないか。

遅れてはならぬ、とランスローが言うと、栞も元気な返事をし、二人でフェイトたちを追うのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 もう少しで会場と言うところまで歩いてきたネギたち。

そこへメガネの少女、千雨がひょっこり現れ、ネギへと近寄っていった。ちなみに千雨も()()ではロリにはならず、普段どおりの見た目でドレス姿となっていた。

 

 また、千雨と一緒にカズヤと法もやってきていた。法はしっかりとスーツ姿となっており、どこに出ても恥ずかしくない状態だった。

 

 しかし、カズヤは本気で行く気がない様子で、かったるそうな態度を見せていた。それは見た目にも当然表れており、普段どおりの格好のままであった。

 

 そんな彼らは先ほどまで千雨と一緒にいたので、近くで会話をしているようであった。

 

 

「なあ先生」

 

「どうしました?」

 

「東じゃねぇが、私もなんだか嫌な予感がするんだよ」

 

「大丈夫だと思いますけど」

 

 

 千雨はネギへと話しかけると、ネギは何かあったのかな、と尋ねた。

そこですぐに千雨は本題を切り出し、今の自分の心境を語った。

 

 ネギはそれをクルトという男に会うことへの不安だと考え、多分問題ないと言葉にした。

 

 

「ああ、元老院議員に会うって方は大丈夫だと思う」

 

「じゃあ、何に嫌な予感がするんですか?」

 

 

 されど、千雨もそのことについては特に不安を感じてはいなかった。

話に聞けば強引ではあったが、紳士的な対応でこの舞踏会へと招待したみたいではないか。確かに何かの罠とかそう言うこともあるかもしれないが、今すぐ何かをしでかしそうな感じではないと考えた。

 

 そして、千雨にそう言われたネギは、では何が不安なのかを次に聞いた。

 

 

「その後、だな」

 

「後?」

 

 

 千雨が不安になっているのは、クルトという男に会った後のことだった。

ネギはそれを言われ、どういうことだろうか、と更に質問をした。

 

 

「私たちを襲った連中、未だ姿を見せないってのが不気味でな……」

 

「……確かにそうですね……」

 

 

 この後の不安とは、”完全なる世界”のことであった。

あの攻撃以降、一度も姿を見せない連中が、何を企んでいるのかわからないことが恐ろしく感じられた。何か、この後に攻撃を再び仕掛けてくるんじゃないか、という漠然とした不安が千雨にあったのだ。

 

 それを聞いたネギも、そのことは頭の片隅にいれていた。

アーチャーと言う男が引き連れる敵は、強大であり危険な存在なのを理解しているからだ。再び攻撃されるのであれば、今度こそ被害がでるかもしれないと、ネギも常々思っていたことだ。

 

 

「まあ、んなこと気にしててもしょうがねぇぜ」

 

「そりゃおっさんクラスならそうだろうが……」

 

 

 すると、そこへ筋肉で張り裂けそうなスーツ姿のラカンがスッと現れ、不安なんて意味がないと笑っていた。

と言うか、ラカンも当然クルトの知り合いなので、ネギについてきていたのだ。

 

 先ほどはのどかとネギが話していたので、あえて空気を読んで離れた場所にいた。

だが、のどかは今、ハルナのところで談笑しているようなので、ネギのところへやってきたのだ。

 

 そう言いつつ笑うラカンへ、千雨はつっこみをいれた。

ラカン程の実力者なら、当然笑って済ませられるんだろう、と思ったのである。

 

 

「おう、ぼーず」

 

「はっ、はい!?」

 

 

 すると、ラカンはふいにネギを呼ぶと、ネギは不思議に思いながらそちらを向いた。

 

 

「っ!?」

 

 

 だが、そこでラカンは突如として、すさまじいパンチをネギへと放ったではないか。

ネギはそれに反応し、とっさに強力な対物理障壁を何重にも張り巡らせた。

 

 その防御のおかげで、ネギは無傷だった。

されど、突然のことで表情は驚愕で固まっており、一体どうしたと言う様子であった。

 

 

「らっ、ラカンさん!? いきなり何を……!?」

 

「何やってんだおっさん!?」

 

「なあに、ちょいと試しただけよ」

 

「どうして急にそんなことを!?」

 

 

 今のラカンの行動は、理解しがたいものだった。

急に攻撃してくるとか意味がわからない、と言う感じでネギはラカンへと、どんな意図なのか聞いていた。

 

 横にいた千雨すらも、ラカンの突然の奇行に驚きながら、怒気を含んだ叫びでつっこみを入れた。

 

 しかし、ラカンはどこ吹く風と言う様子で、悪びれずにそれを言った。

ネギはその行動が突然すぎて、なんで今になって? と言う感じに叫んでいた。

 

 

「そりゃ、試しっつったらテストに決まってんじゃん?」

 

「何のテストですか!?」

 

 

 ラカンは今の行動を、テストだとはっきり言った。

が、ネギはその意味がわからずに、大きく叫んで問い詰めた。

 

 

「おめーのテストだよ。おめーの」

 

「僕の……?」

 

「おうよ」

 

 

 すると、ラカンは静かな様子で、それを言葉に出した。

今しがたのラカンの攻撃は、ネギへの最初で最後の試練であった。

 

 それを聞いたネギは、先ほどとは打って変わって静かになり、キョトンとした顔を見せた。

そんな少し間が抜けた様子のネギへと、ラカンはその問いの答えを腕を組んで肯定していた。

 

 

「今の攻撃、不意打ちだってのに、しっかりと防御しきれてただろう?」

 

「あっ、確かに」

 

 

 何故突然ラカンはネギへ攻撃したのか。

それはネギの成長具合を確かめるためのものだった。また、ラカンの本気の攻撃を、不意打ちだと言うのにネギは、しっかりと障壁でガードしきったのだ。

 

 ネギはラカンへそれを指摘されると、ハッとした様子を見せていた。

 

 

「つまり、一応合格ってやつだ」

 

「合格、ですか?」

 

 

 そして、それができたというのであれば、当然ラカンの答えは()()だった。

その合格の二文字を聞いたネギは、突然のことに少し戸惑った様子を見せていた。

 

 

「俺の攻撃を無意識に防げるやつなんざ、世界探しても5人といねぇぜ?」

 

 

 ラカンはネギをマジマジと見てニヤリと笑いながら、そのことを言葉にした。

何せ、自分の全力パンチをネギは無意識に防御しきったのだ。この数ヶ月でこれほど成長したネギに対して、ラカンは大したヤツだと思ったのである。

 

 

「ちなみにコタローにも同じことをしてきた」

 

「えっ!?」

 

「無茶苦茶だな……」

 

 

 さらに、ラカンは同じことを少し離れた場所にいるコタローにも行っていた。

それを聞いたネギは驚きの顔を見せ、千雨も何やってんだと言う呆れた顔を見せていた。

 

 

「アイツも合格だ。しっかり俺の攻撃を避けやがった」

 

「そうですか」

 

 

 しかし、小太郎もしっかり不意打ちをかわしきったと、ラカンが言うではないか。

つまり、小太郎もまた、ラカンの試練を突破したのだ。

 

 ネギはその朗報に、小さく笑っていた。

防御ではなく回避ができるなんて、流石コタローくんだ。そう思いながら、小太郎の成長を心から喜んでいた。

 

 

「だったら、もう心配いらねぇな」

 

 

 ラカンはこれで問題はなくなったな、と言い出した。

ネギと小太郎の面倒を見る、と言う依頼は、ほぼ達成されたと考えたのである。

 

 

「自信を持ちな、()()。お前の今の防御なら、どんなヤツにも引けをとらねぇ」

 

「ありがとうございます! ラカンさん!」

 

 

 そして、ラカンはネギへと激励の言葉を送って見せた。

自分の攻撃を防ぎきったお前なら、どんなヤツにも負けはしないと、しっかりと名前を呼んで言ったのだ。

 

 ネギもラカンの激励に大きな喜びを感じながら、今まで面倒を見てくれたことや今の言葉に、感謝の言葉を送り返したのだ。

 

 

「……!」

 

 

 だが、そこでラカンは一瞬、会場である建物の端にある、一つの塔の天辺を見た。

表情も今までの笑顔ではなく、少し硬い表情であった。

 

 されど、それは誰も気がつかないほどの一瞬であった。

その後何事もないかのように、ラカンはにやりと笑ってネギへ顔を向けていた。

 

 

「んじゃ、ちょいと行って来るぜ」

 

「えっ!? どこへ!?」

 

「便所だ便所!」

 

「今からですか!?」

 

「緊張感がねぇな……」

 

 

 また、ラカンはそこで突然どこかへ行くとか言い出した。

ネギはもうすぐ舞踏会の会場へ入ると言うのに、どこへ行くのかと驚いた顔でそれを聞いた。

 

 ラカンはそれに対して恥ずかしげもなくトイレだと言うではないか。

いや、もうすぐ舞踏会が始まると言うのに、何をのんきなことを言ってるんだ言う感じで、ネギはそうつっこんだ。

また、千雨もそれを聞きながら、このおっさんはぶれないな、とまたしても心底呆れた顔を見せていたのだった。

 

 

「また後でな!」

 

「あ、はい!!」

 

 

 そして、ラカンは手をあげてネギへと別れを言うと、ネギも元気よく返事を返したではないか。

ネギはその後、会場となる建物の方へと仲間と共に歩き出し、ラカンは別の方向へと移動し、夜の闇に消えていった。

 

 

…… …… ……

 

 

 されど、ラカンの行き先はトイレなどではなかった。

先ほど見ていた、離れの塔の屋上こそが、ラカンの目的地だったのだ。

 

 

「さてと、そこにいるんだろう? 出てきな」

 

 

 ラカンは誰も居ないはずのその場所で、誰かを呼ぶようにして声を出した。

 

 

「……久しぶりだな」

 

「この前に戦ったヤツか」

 

 

 すると、塔の屋上の中央にある柱の影から、一人の男が現れた。

夜の暗闇を背に、周囲の明かりを受けて銀色のジャケットが照らされ輝いていた。されど、陰になっている部分は吸い込まれるかのような闇に染まっており、表情もまったく見えないでいた。

 

 それこそ銀色のジャケットの男、ブラボーと名乗るものであった。

その男の姿を見たラカンは、あの時に戦った変な感触がするジャケットの男だとすぐにわかった。

 

 

「随分と遠くから挑発してくれんじゃねえか」

 

「貴殿だけを呼び出すためだ。その誘いに乗ってくれたことに感謝する」

 

「なあに、俺もテメェらに用事があったんでな」

 

 

 ラカンがここへ来たのは、このブラボーと名乗る男が、遠くから殺気を放ちラカンを挑発していたからだった。

器用にラカンのみをおびき出すことに成功したブラボーも、ラカンがここへ一人で来たことに礼を述べるではないか。

それを聞いたラカンは、別にそれだけでここへ来た訳ではないと言い出した。

 

 

「何の用事だ?」

 

「あんな決着じゃ、俺としても名残惜しかったんでなぁ!」

 

「ふっ……、そういうことか」

 

 

 それは一体なんなのだ、とラカンへとブラボーが尋ねると、その理由をラカンは静かに語り始めた。

あの時、ネギたちを優先して戦いが中途半端になってしまったことが、ラカンにとって心残りとなっていた。故に、もう一度戦ってしっかりとした決着をつけたいと考えていたのである。

 

 ブラボーもそれを聞いて、納得した様子を見せていた。

あの時、完全に負けていたのは自分の方であった。それでもまだ諦めてはいなかった。もう一度戦えるなら、今度こそ勝ってみせると誓っていたのだ。

 

 

「で、片方は前のヤツとは別だな」

 

「ど、どうも……」

 

 

 しかし、前とは違う部分があった。

ラカンはそれに気がつき、そのことを言葉にしていた。

 

 その違いとは、ブラボーに付き添っている人物が前の少年、陽とは別人だったのである。

しかも、とは違いかわいらしい少女となっており、おどけた様子でラカンへと挨拶をしていた。

 

 この少女こそ、ブラボーが前に結界を張るのに使ったデバイスなる杖の持ち主だった。

ブラボーが保護した転生者の少女なのである。

 

 

「随分とかわいらしい子になってるじゃねぇか。前のヤツはどうした?」

 

「それは言えんが、ヤツはここには不要と言うことだ」

 

「なるほどなぁ」

 

 

 ラカンはその少女をまじまじと見て、前の生意気がガキとは打って変わってかわいらしい少女になっているのを歓迎するような声を出していた。

また、この前の生意気なガキの方はどこへやったのかと、疑問をブラボーへとぶつけてみた。

 

 されど、ブラボーはその答えは言わなかった。

それでも、あの陽はここではもう用済みであるとはっきりと告げたのである。それを聞いたラカンは腕を組んで納得した顔を見せていた。

 

 

「それに、この子は戦わん。戦うのは俺だけだ」

 

「ほう、前と同じく一対一って訳か」

 

 

 そして、ブラボーは少女を戦わせる気がないことをラカンへと宣言した。

その言葉でラカンは、ブラボーが前と同じで一対一の戦いを所望しているということに気がついたのだ。

 

 

「頼む」

 

「は、はい!」

 

 

 と、そこでブラボーは、少女へと一言声をかけると、少女は小さく返事をした後、デバイスと呼ばれる杖を使って結界を張り巡らせた。

 

 

「ほう? これもあん時と同じ結界(やつ)か」

 

「この前は俺が張ったがためにあの程度だったが、今回はこの子がやっているので前のようにはいかんぞ」

 

 

 ラカンは結界が張られていくのを見て、前と同じ状況だと言うことに気がついた。

また、ブラボーは今回の結界は前とは違い、簡単には破られないとはっきり豪語してみせた。

 

 結界が完全に張り終わったのを見たブラボーは、少女へと目を向けて一回だけ小さく頷いた。

すると、少女も小さく頷くと、ラカンとブラボーから避難するように離れた場所へと移動していった。

 

 

「だが、ルールは前と同じ、だろ?」

 

「ああ、そうだ」

 

 

 そこへラカンが、ルールに変わりは無いのだろうと、ニヤリと笑ってブラボーへと質問した。

何せ、まるで避難させるかのように少女を遠くへ移動させたと言うことは、二人で戦おうと言う訳ではなさそうだと感じたからだ。

 

 ブラボーも視線をラカンへと戻し、それを一言で肯定した。

その表情はジャケットで隠れて見えないが、裏では戦いが楽しみだと言う感じで、小さく笑っていたのだった。

 

 

「だったらさっさとおっぱじめようぜ!」

 

「行くぞ! 今度こそ、貴様を倒して見せよう!!」

 

 

 ならばと、ラカンはすさまじい気を体から発し、すぐさま本気モードで戦闘態勢へと入った。

 

 ブラボーもすでに構えを取っており、気で周囲が輝きに満ちていた。

この前は完膚なきまでにやられたが、今回はそうはいかない。今回こそ勝利を掴んでみせると、戦いのゴングを鳴らすかのように、勝利宣言を発するのだった。

 

 そして、両者は衝突し、激しい戦いを繰り広げるのであった。

 

 


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