理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百六十九話 この世界を守るために

 作戦会議の最中、周囲の警戒のために魔法球の外の、飛空艇の甲板のデッキで外を眺めるエヴァンジェリンがいた。

全員が魔法球に入ってしまっては、危険を察知できないので、分担作業としたのである。

ただ、その表情は険しく、何かを深く考えているようであった。

 

 

「あらマスター、どうしたのそんな顔して」

 

「……なんでもないよ」

 

 

 それを気にしたのか、同じく外に出ていたトリスが声をかけてきた。

が、エヴァンジェリンはそれに対して、気にするなとすっぱり切り捨ててきた。

 

 

「大きな戦いの前で、ちょっとセンチになっちゃったのかしら?」

 

「そんなタマだと思ってるのか?」

 

「まさか」

 

 

 そこへトリスは皮肉っぽくいことを言ってきた。

エヴァンジェリンはそれを逆手に皮肉で返せば、やれやれと言う態度をトリスは見せたのだ。

 

 

「あの竜の騎士をどうやって倒すか、考えていたところだ」

 

「アレね……」

 

 

 ここで語らなかったが、エヴァンジェリンが考えていることとは、つまり兄であるディオのことだ。

突然出てきて兄貴面をする、600年前に生き別れになった、実の兄ディオ。

彼が本心で自分に会いに来て仲を戻そうとしているのか、未だにわからずにいたのだ。

 

 されど、それ以外にも考えることはあった。

それこそ先ほど戦い、完膚なきまでに叩き潰してきた存在、竜の騎士。

あの男をどうやって倒せばいいのか、と強く悩んでもいたのである。

 

 竜の騎士、その名を聞いたトリスも、頭が痛いと言う表情を見せた。

トリスは転生者であり、()()()()()()()()()を知っている。

だが、あれほどの化け物だったとはと、戦ってようやく思い知らされたというのが現状だった。

 

 

「まあ、もうなるようにしかならないってことね」

 

「それでは困るがな」

 

 

 もはやどうやって倒せばいいのかわからない竜の騎士。

トリスは当たって砕けろの精神で、破れかぶれな意見を出すだけであった。

 

 エヴァンジェリンはそんなトリスに、それじゃダメだと言う。

当たり前ではあるが、当たって砕ける程度ではあの男を倒すことはできない。

 

 

「アレと当たる際に、もう少し仲間がいれば……」

 

「そうね……。二人だけじゃどうしようもなかったし……」

 

 

 ただ、あれを倒すのであれば、自分たち以外の戦力が必要だ。

エヴァンジェリンはそう考えていた。足りないのなら他で補うしかないのである。

 

 トリスもそれには同意であった。

自分とエヴァンジェリンの二人がかりでさえ、傷一つ付けられない存在。

であれば、さらに戦力を増やして袋叩きにしないと無理だと悟った部分もあったのだ。

 

 

「それよりも……、この状況はかなり危険だ」

 

「一つの世界が滅びる手前ですもの」

 

 

 しかし、今はそれ以上に危険が迫っている。

竜の騎士のこともそうだが、この目の前で起こっている光景、それすなわち世界が滅びを意味しているからだ。

 

 当然トリスはそれを()()()()()

なので、このままではまずいとも思っている。

 

 

「この世界が滅びるだけならよいが、被害はさらに増えるだろう」

 

「……確かにそうね」

 

 

 さらに言えば、そうなった時の被害はこの世界が滅ぶだけではとどまらないと、エヴァンジェリンは考察していた。

この世界の生き残りが、旧世界を侵略する可能性、それすらも予想していたのだ。

 

 トリスも()()()()()()()()()()

”原作”で語られた最悪の結末。地獄のような未来。

それは起こってはならない、起こしてはならないとも、トリスも強く感じている。

 

 まあ、トリスがそう思うようになったのはエヴァンジェリンの従者になった後のことだ。

仮にも敵であった完全なる世界の一員だった彼女は、最近まで全てがどうでもいいと感じていたのだ。

 

 

「……こんな状況だと言うのに、アイツはどこで何をしているんだ……?」

 

「アイツ……?」

 

 

 そう、このままでは世界が滅ぶ。

滅ぼさせんと自分たちは抗っているが、どうなるかはわからない。

こんな一大事な状況で、あの男は何をやっているか。エヴァンジェリンはそれも考えていた。

 

 あの男、すなわちアルカディア帝国の皇帝。

この危機的状況を何とかしようと、やってきたのではないのか。

未だに姿すら見せないとは、何を考えてどこにいる?

 

 いや、すでに近くで何かやっている?

何か大きな準備でも行っているのか?

皇帝の現状を考えれば、きりがないほどに疑問がわいてきた。

 

 しかし、トリスはエヴァンジェリンと皇帝の仲も知らないし、そもそも皇帝自体を知らない。

なのでエヴァンジェリンがこぼす『アイツ』というのがわからなかった。

 

 

「こっちの話だよ」

 

「はあ……?」

 

 

 そんなトリスの疑問は、どうでもいいとばかりにエヴァンジェリンははぐらかした。

話したところで意味がないし、別に話す必要もないからだ。

 

 完全に蚊帳の外のトリスは、疑問ともやもやが残ったせいで、少し困った顔を見せるのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 カギも同じく飛空艇の内部にて、周囲の警戒にあたっていた。

そのカギの肩にはカモミールもおり、訝しんだ顔で腕を組んでいた。

 

 

「思ったんだが」

 

「急にどうしたカモ」

 

「いや、今思ったんだが」

 

 

 そして、そんなカモミールがふと、今の心境を語りだした。

カギはカモミールの突然の発言に、何がどうしたと思ったようだ。

 

 

「なんで俺っちもこっちに来ちゃったんだろうなって……」

 

「俺を見るなり飛びついてきたのそっちじゃん……」

 

「いやまあそうなんだけど……、やっちゃったなーって……」

 

 

 カモミールが言いたいこと、それは危険な場所(こっち)へ何故来てしまったのか、ということだった。

普通に考えれば安全な場所で待機となった、別の飛行船に乗ればよかったのではないか、と今更ながら冷静に考えたのである。

 

 しかし、カギの顔を見てこっちについてきてしまったのはカモミール本人だ。

されど、それすらも後悔し始めていると、カモミールは落胆した表情で言い始めたのだ。

 

 

「なんか言い方ひどくねぇ? まるで俺が信用できないみたいじゃん」

 

「いやまあ、兄貴はちょっと信用に欠けるって言うか……」

 

「お前もそんなこと言うのかよチクショウ!! わかってんだよ……!」

 

 

 それは友人のカギを信じてないような発言だ。

カギはショックだ……、という様子でそれを言えば、むしろその通りだとカモミールから返ってきた。

 

 その発言にもショックであったが、言われて仕方のないことはカギ本人も理解していた。

正直こういう場面で信用されるような実績がないのは、わかっているからだ。

 

 

「まあいいさ。一緒にいる間はぜってぇあぶねぇ目には合わせねぇ。約束してやんよ」

 

「マジっスか!?」

 

 

 ただ、それでも友人を危険な目には遭わせないと、カギはこの場で強気で誓いを立てはじめた。

カモミールもいつにもなく真面目なカギに、期待を寄せ始めていたのだが。

 

 

「そりゃもうタイタニックに乗った気分でいてくれ!!」

 

「えっ、それって沈むやつじゃ……」

 

 

 カギのこの発言で、カモミールの期待は泡のように消え去った。

タイタニック号、大型豪華客船だが最後に沈むやつ。つまり沈む船に乗った気で任せろと言うのだ。

 

 いや、それはマジでヤバイ。

カモミールはそりゃねーよ、という様子でつっこみを入れだした。

 

 

「まっまあ信じてくれ! 大丈夫大丈夫!」

 

「やっぱ不安しかねぇよ兄貴……」

 

 

 あっ、やべ、間違えた、ちげーわ。カギはそう思ったがもう遅い。言ってしまったことは早々には覆らない。

とは言え今のは言葉のあやというか例えだ。絶対に守るというのは間違ってないと、慌てながらにカギは訂正を始めた。

 

 だが、カモミールは今のカギの態度で、もうすでに不安しかなかった。

これから先本当にこの調子で大丈夫なのかと、心配になるばかりであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 飛空艇の内部、さらにそこに設置された魔法球内部にて、作戦会議は続けられていた。

 

 

「しかし、本番は敵の本拠地に突入して、敵を倒してからだな」

 

「……ああ、敵を倒すのは儀式を止めるための手段の一つでしかない」

 

「だが、なぜあの儀式が発動してんだ?」

 

 

 直一は、この作戦は敵の本拠地である墓守り人の宮殿へと侵入し、敵を倒すだけではないと話す。

いや、むしろ侵入して敵を倒した後の方が、問題としては大きいのだ。

 

 何故なら、自分たちの目的は敵の撃破ではなく、今発動し始めている”()()()()()()()()()”の阻止だからだ。

アルスも直一の言葉に、その通りだと言葉にする。

 

 そこでラカンは、さっきから思っていた疑問を口に出した。

それはあの儀式が、()()()()()()()()()()()()()、というものだった。

 

 何せ、あの儀式に必要なパーツである、黄昏の姫御子であるアスナは、未だにここにいる。

彼女は偽物ではなく本物であり、敵の手に渡ってはいない。

だというのに、儀式が動いている。それがわからないのだ。

 

 

「私の予想だけど、たぶん私の代わりが存在してると思うの」

 

 

 そこにアスナが顔を出し、自分の意見を語り始めた。

あの儀式が発動している原因、それこそ自分の代わりが存在するのではないか、という仮説だった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 あの儀式の発動には、絶対に自分が必要だとアスナは語る。

魔法の無力化。その力が絶対に必要なのだと。

 

 

「でも、()()()使()()()()()()()()()()。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()なのよ」

 

「確かに、そう言われりゃそうだ」

 

「やはり、そう考えた方が辻褄が合うか……」

 

 

 だが、自分は未だここにいると、アスナは語る。

であれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、アスナは言う。

 

 その説明を聞いた直一やアルスも、それ以外に理由が考えられないと思った。

また、その仮説ならば現在の状況も理解できると、納得した様子を見せていた。

 

 

「そこんとこどうなんだ、自称アーチャー」

 

「……そうだな。()()()()()()()()

 

「やっぱり……」

 

 

 ならば、それを知ってそうな奴に聞くのが一番だ。

アルスは即座に、後ろで腕を組んで立ち尽くしている赤いアーチャーもどきに質問を飛ばした。

 

 そこで返ってきた答えは、YESだった。

されど、仮説が正しかったと言うのに、そのアスナの表情は暗い。

 

 何故なら、自分の仮説が正しかったことに、喜び以上に悲しみを覚えたからだ。

自分のように誰かが、こんなことに利用されていると言う悲劇が、また繰り返されていることだからだ。

 

 

「だから私は、まずその代わりになった人を助けたいっ!」

 

「そうだな……、絶対にそうしよう!」

 

 

 そう、故に、だから、アスナはそこで高らかと宣言する。

その利用されている誰かを助け出したいと。いや、絶対に助けるべきだと。助けると。

 

 アルスもそれには同意だ。否、この場の全員が同意であった。

こんなくだらんことのために、利用されて不幸になるものがいてたまるか。

誰もがそう思い、一丸となっていた。

 

 

「だけど、それで儀式が止まるのか?」

 

「20年前、メトがお前さんを助けた時も、ナギは儀式を止められなかったはずだぜ?」

 

 

 が、しかし、問題は別にある。

仮にその儀式の鍵となっている人を助けたとして、はたして儀式が止まるか、という疑問がわいたのだ。

直一がそれを言うと、ラカンは20年前の経験から、それはないと言葉にした。

 

 儀式に利用された人を救出したところで、この儀式が止まるという保証はなかったのである。

 

 

「……最悪、それは私が何とかする」

 

「アスナさん?」

 

 

 それに対してアスナは、決意したかのような表情で、それは自分が止めると言い出した。

ネギはその普段以上に険しい顔を見せるアスナを見て、ついつい名前を呼んでしまうほどだった。

 

 

「私なら何とかできる力がある。儀式を止めるぐらいはできるわ」

 

「本当ですか!?」

 

「本当の本当よ」

 

 

 アスナは理解していた。自分にはあの儀式を中断し、操作できる力があることを。

その力を利用して、この魔法世界を復元するほどのことも可能だということを。

 

 ネギはそのアスナの言葉に、希望を見出したような顔でそれが本当にできるか質問すれば、アスナは自信満々にできると返す。

 

 

「……だが、それにはずいぶんと代償を払うことになるんじゃないか? アスナ」

 

「えっ……!?」

 

 

 しかし、そこへ割って入るように、エヴァンジェリンがその場に現れ、話を持っていく。

その儀式を止め、修復するにはアスナ自身、大きな代償が伴うことを、エヴァンジェリンはすでに察していたのだ。

 

 ネギは、その代償という言葉にピクリと反応し、再びアスナの顔を見た。

そこで見たアスナの顔は、翳りと苦渋さが見え隠れしていた。

 

 

「……最悪私がやるってだけよ。それ以外の方法もあるはず……!」

 

「そんなものが都合よくあるのか?」

 

「それは……」

 

 

 とは言え、それこそ最終手段。

それ以外に何か手があれば、そっちをやればよいと、楽観的な意見をアスナは出す。

 

 されど、エヴァンジェリンにそれを鋭くつっこまれてしまう。

いや、アスナとて最初から理解していることだ。この方法が一番世界を救うことが可能な方法であることを。

 

 

「いや、あの男なら何か用意していてもおかしくはないが、どこで何をやっているんだか……」

 

「……?」

 

 

 だが、そこでエンヴァンジェリンは、自分の発言を思い返して独り言を言い出した。

それはあのアルカディアの皇帝のことだ。あの男がこの期に及んで何もしないはずがない。

どこかで虎視眈々と、何かをするチャンスを狙っているはずであると。

 

 ただ、未だに影も形もないあの皇帝に、エヴァンジェリンもしびれを切らせていた。

正直今ここに出てきたらぶんなぐってやろうと思うぐらいには、あの男が顔を出さないことに焦りを感じてはいたのである。

 

 そんな小言でブツブツと文句を言いだしたエヴァンジェリンに、アスナは急にどうした、という顔を見せた。

まあ、そういう時期もあるんだろう、と考えてあえて何も言わなかったが。

 

 

「でも、世界は消させない! だったらやるしかない……!」

 

「覚悟があるんだな?」

 

「うん……!」

 

 

 それよりも、ここで一番重要なのは、この魔法世界を消滅させないことだ。

そのためならば代償だろうが何だろうが関係ないと、アスナは大きく宣言して見せた。

 

 エヴァンジェリンはそのアスナの言葉を聞いて、本当にやるんだな、と覚悟を聞く。

アスナもエヴァンジェリンの問いに、力強く頷いてその覚悟の強さを見せたのだった。

 

 

「わかった。これ以上何も言わん。協力もおしまん。好きにやれ」

 

「ありがとう! エヴァちゃん!」

 

「だからお前はなぁ……」

 

 

 そこまでの覚悟があるのならば、もう言うことはない。

本人がそれをよしとし、やると言うのであれば、これ以上他人が口をはさむことではない。

エヴァンジェリンはそう言いながらも、であれば、最大の力で助力すると言葉にした。

 

 そのエヴァンジェリンの気遣いに、アスナはつい感激して抱きつき、ちゃん付で呼んでしまったのである。

もはや完全に癖となっていて抜けないようだが、エヴァンジェリンはそれだけは不服なのだ。

が、もはや諦めているのか、ため息をついて不機嫌そうな顔を見せるだけであった。

 

 

「いいのかよ、マジで」

 

「マジよ」

 

「マジかよグレート」

 

 

 それを聞いていた状助が、ふとアスナへ声をかけてきた。

状助は”原作知識”がある転生者であり、その()()()()()()を知っている。

だからこそ、もう一度それでいいのか、聞いてしまったのだ。

 

 されど、アスナの決意は固く。

状助の真似するかのように、本気と書いてマジと言うではないか。

 

 状助もそれにはもはや言う言葉もなく、いつものお決まりのセリフを言うのが精いっぱいだった。

 

 

「あの! 代償を払うってどういうことなんですか!?」

 

「色々()()()()()()()()()()()ってことよ」

 

「それってどういう……!?」

 

 

 と、そこでネギもアスナに、代償について戸惑いながら質問をしてきた。

しかし、アスナはそれをはぐらかすようなことを言うだけで、具体的にどうなるのかまでは言わなかった。

 

 いや、実際アスナが言った答えは、間違ってはいない。

100年、その長い時間封じ込められ、世界の糧にされるのだから。

 

 されど、ネギにその言葉の意味は伝わらない。

だからネギはわからないという顔で、具体的にどうなるかをもう一度質問する。

 

 

「そんなことより……、あの儀式を止めるためには、やらなきゃいけないことが多いのよ」

 

「……彼らが持っていた杖、その大本である最後の鍵(グレートグランドマスターキー)、ですね……?」

 

「そう、それが必要になるわ」

 

 

 アスナはその代償のことなどを、そんなこと、と切り捨てて、再び本題へと話を戻す。

ネギも今の問いをアスナが答えなかったのを流し、それに必要な別の鍵のことを言葉にした。

 

 それこそ造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)、その全ての原典たる最後の鍵。

無数にあるマスターキー、その上にある七つのグランドマスターキー、さらにその上にある、頂点に立つ一本。

 

 この一本で魔法世界の全てを支配できると言っても過言ではない、魔法の鍵。

これがなければ儀式を止め、安全に処理することは不可能だ。

 

 そして、これはのどかのアーティファクトの読心術により、デュナミスから得られた情報だ。

これをのどかが説明した時、誰もが彼女を褒めたたえ喜んだほどに、重要かつ貴重な情報だったのだ。

 

 

「敵を倒してそれを奪って儀式を止める。完璧な作戦っスねぇー、難易度馬鹿高いって点に目をつぶればよぉ~……」

 

「だけど、やるしかない」

 

 

 とは言え、これを簡単にやってのけるのは至難の業だ。

状助はこの非常に難しいミッションに対して、完璧な作戦と皮肉った。

 

 が、アルスはそれでもやらなければならないと強く言葉にする。

 

 

「そうだ。やるしかねぇ」

 

「やらねぇとこの世界がパーになっちまうしな!」

 

 

 続けて直一もやらなきゃいけねぇと言い、ラカンもできなきゃ世界は終わると笑った。

 

 

「ラカンさんは笑い事ではないのでは……?」

 

「はっ! 世界がどうなるかなんてわかんねぇんだ。気にしたってしょうがねぇだろ?」

 

「そ、そんなものなんでしょうか……」

 

 

 いや、笑いごとではないだろう。

ネギはそうつっこむも、こうなったら笑うしかねぇとラカンは言うではないか。

 

 ラカンにとって世界がどうなろうが自分がどうなろうが、なるようにしかならんと思っている。

ただ、何とかしようと必死に戦うことに変わりはないと、それ以上に思っているだけなのだ。

 

 とは言え、そんなラカンの心境などネギにはわからないので、ただただ困惑するしかなかったのである。

 

 

「とにかく、下層から侵入し、敵を迎撃し、儀式の鍵となっている人を助け、グレートグランドマスターキーをゲットする。それが作戦でいいな?」

 

「おう!」

 

 

 だが、ここでようやく作戦がまとまった。

やることは多いが、これ以外最善はない。誰もがその作戦に納得し、あとはやるだけだと意気込んだ。

 

 

「もう一度大切なことだから言うがよぉ、マジなんだな?」

 

「そうよ、グレートなマジよ」

 

「……そうかよ……」

 

 

 そんな時に、状助は再びアスナへと、さっきの話の続きを始めた。

本当に、本当に自分が犠牲になってでも、儀式をなんとかするんだな? 状助は再度確かめるようにそれを聞いたのだ。

 

 しかし、アスナの答えに変わりはない。

されど、その表情は硬くはなく普段通りの柔らかな顔で、冗談交じりに答えていた。

 

 それを見た状助は、そんな顔でそう答えられたら、もう何も言えねぇよと思った。

なんだろうなこの気持ち、なんだかわからないがモヤモヤしている。状助はそう思うが、それを言葉にできなかった。

 

 

「……何よ?」

 

「いや、お前がそれでいいんなら気にしねぇよ……」

 

「そ……」

 

 

 何か言いたそうな、少し辛そうな顔を見せる状助に、アスナは何かあるなら言えば? と言うような声をかける。

が、状助はそれでもあえて言うことはないとし、だったら自分も気にしないと言った。

 

 とは言え、気にしないというような表情ではなく、やはり多少曇っているように見えた。

アスナはそれを気づかない振りをしながら、あえていつも通りの素っ気ない返事で返すのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ーーーーここはウェスペルタティア王国、その空中宮殿。

市街から少し離れた場所に浮かぶ、円盤状の建造物が複数集まり、魔法陣のように形成された建造物。

 

 麻帆良を結ぶゲートがあり、20年前に閉鎖された場所でもある。

少し先にはラスボスのダンジョン、墓守り人の宮殿が直視できる場所に浮いた。

 

 その宮殿の中央に立ちながら、空を眺める男が一人。

それこそ今まで姿を見せていなかった、あのアルカディアの皇帝、ライトニングであった。

 

 

「さぁて、お待ちかねの時間が迫ってきたぜ」

 

 

 皇帝は空を眺めながら、魔力(ひかり)の収束具合を確かめながら、一人つぶやく。

彼はこの状況が来るのを、あたかも待っていたかのような発言をしていた。

 

 

「この調子じゃ、()()()はあと数時間後だろう」

 

 

 そして、この魔力が完全に集まるまで、もう少しかかると予想した。

皇帝の狙いは、どうやらその瞬間であるかのようであった。

 

 

「ギガント」

 

「ハッ」

 

 

 と、そこで皇帝が部下の名前を呼べば、背後から頭を下げて膝をつくギガントがすでに。

今すぐにでも命令をくださいと言わんばかりに、返事を返していた。

 

 

「お前は先に行って陰ながらにサポートだ。任せるぜ」

 

「承知いたしました」

 

 

 皇帝はギガントに、次の行動を命ずる。

それは今まさに敵陣へと突入するであろう、()()へのサポートだった。

 

 その命令を快く承諾したギガントは、地面へと溶けるかのように消えていったのである。

 

 

「……もうすぐだな」

 

 

 ギガントが見送った皇帝は、次に墓守り人の宮殿へと目を移す。

その顔は何とも言えない哀愁が漂っていた。

 

 また、何かを待ちわびるようなことを、独り言のようにこぼす。

それは普段は絶対に見せない、長い時間、それこそ本当に長い時間、この瞬間を待っていたかのような、そんな表情と声色であった。

 

 

「さて、あっちはもう終わったころだろうな」

 

 

 墓守り人の宮殿を数秒間眺めた後、皇帝はさらに市街の外側の空を見た。

そこにはオスティアの艦隊とアルカディア帝国の艦隊が浮かんでおり、皇帝はそれを見ていたのだ。

 

 その艦隊こそ、皇帝の命じた作業の一つ。

それももうすぐ終わるだろうと予測し、皇帝はゆっくりと逆の歩行に歩き出したのだった。

 

 

 そして、そのオスティアの艦隊の旗艦の内部にて、皇帝の部下が二人。

その二人の男、仮面の男と赤いハチマキの男。メトゥーナトと龍一郎だ。

 

 さらにはその目の前に、一人の老人の姿があり。

20年前、死ぬ運命から救われた男、マクギル議員であった。

 

 

「無事、全てのオスティアの民の避難は完了いたしました」

 

「よくやってくました……。代理ですが代表として感謝をいたします」

 

 

 メトゥーナトと龍一郎は皇帝の命令により、オスティアの市民の非難を行っていた。

それが今、ようやく完了したのを、現在オスティアの代表であるマクギル議員へと報告していた。

 

 マクギル議員は、()()()()()()()()()()()の代わりに代表を務め、この都市を守ってきた。

故に、彼らの功績を非常に喜び称え、両手で握手を交わして感謝と感激を伝えたのである。

 

 

「そっちも聞こえているだろう?」

 

『ああ、聞こえているぞ。助かる』

 

「何、わたしは皇帝の命令通り動いただけにすぎん」

 

 

 また、この会話はガトウとクルトが乗る艦にもつながっており、メトゥーナトはそちらにも報告を述べる。

ガトウはオスティアの市民の無事を聞いてホッと胸をなでおろしながら、同じく礼を言葉にした。

 

 されどメトゥーナトは皇帝の命令故、感謝は不要と言うではないか。

なんという義理堅さ。皇帝の命令なくとも、必要とあらばするであろう事柄でさえ、そう言い切ってしまうのがこの男だ。

 

 

「しっかし、こういうのは疲れるぜ。俺は基本戦うの専門だからよ」

 

「所詮脳筋か」

 

「お? テメェが言える立場か? あ?」

 

 

 そんなメトゥーナトを横に、右肩に左手を置いて右腕を回す龍一郎。

彼は基本的に戦闘が任務なので、こういった避難行動の誘導などは戦闘以上に疲労を感じたのである。

 

 が、それを聞いたメトゥーナトは、なんともこんな場所でさえ挑発しだすではないか。

いや、皇帝の部下と名乗るのであれば、この程度のこともこなさねばならんのは当然なのではある。

 

 とは言え、言い方が悪いというか、なんともすぐに喧嘩しそうになるのがこの二人。

龍一郎もその挑発に乗っかるように、挑発仕返しだしたのである。

 

 

「……いや、しかしまあ、俺たちだけじゃねぇけどな」

 

「ご協力感謝します。ありがとうございました」

 

 

 だが、場は弁えているのもこの二人。

こんな場所で戦闘しだすほど馬鹿ではない。

 

 龍一郎は自分だけが頑張っていた訳ではないと、反対側へと視線を送る。

メトゥーナトもそちらに振り返り、そこに集っていた数十人の人・亜人たちに感謝を述べ頭を下げたのである。

 

 

「感謝なんてとんでもない! 傭兵として与えられた任務をこなしただけだよ!」

 

「そうですぜ」

 

 

 それこそ”原作”ならば奴隷となり、奴隷長となっていた熊の亜人、クママ奴隷長だった。

()()()()オスティアが地面に落下していないので、奴隷にはならずにずっと傭兵の剣士をこなしてきたようである。

故に、見た目は奴隷のメイドではなく、たくましい鎧を装備した戦士の姿だった。

 

 また、その横にはあのトサカたちもおり、トサカも照れながらにクママの言葉に同意していた。

 

 

 メトゥーナトは自分たちやその部下、オスティアの兵士たち以外にも、彼女ら傭兵を雇って行動させたのだ。

このオスティアの市民を素早く、手際よく、騒動を起こさずに艦隊に避難できるように。

 

 

「それにずっと住んでる場所だし、せめてこういう時にこそ協力しねぇとよ」

 

「そういうことだねぇ」

 

 

 彼らはこのオスティアを拠点に、ずっと傭兵として生活してきた。

20年前に滅びなかったが、元々彼らが持つ、心の奥底から国を大事に想う気持ちは変わらってはいない。

 

 だからこそ、自分の故郷を守護るという気持ちに、素直に行動しただけだとトサカは言ってのけた。

クママも同じく、いや、ここに集まったオスティアの傭兵たちも、その思いで避難の誘導を行った。

そのおかげで、こうしてオスティアの市民全員を、艦隊へと迅速に避難させることに成功したのだ。

 

 

「では、あなた方はこの艦にて避難していただきます」

 

「ありがたいねぇ」

 

「助かりますぜ……」

 

 

 そして、メトゥーナトは彼ら傭兵も、この戦艦に乗ったまま避難するよう話す。

クママはそれについて非常に喜び、トサカも自分たちの安全が確保されたことに安堵していた。

 

 

「よし、我々は早々に次の任務へ移行しよう」

 

「いっそがしいったらありゃしねぇな」

 

 

 こうして無事に任務を終えた二人は、次に指示に従い行動を開始。

足踏みを揃えながら艦の甲板へと歩き出し、外に出て飛び去って行ったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 一方、単独行動を決めたディオはというと。

 

 

「おっ、ディオのやつが帰ってきたみてぇだな」

 

「あいついつもフラフラしてばっかでクソじゃんか」

 

「まっ、俺たちも人のこと言えねぇけどなグヘヘ」

 

 

 すでに影の転移で墓守り人の宮殿へと帰ってきていた。

しかし、その表情には影がかかり、不穏な空気を身にまとっていた。

 

 そんなディオに()()()()()()()()()()を投げる転生者たち。

彼らは所詮は木っ端の連中ではあるが、一応完全なる世界のものたちだ。

 

 

「グワーッ!?」

 

「ギニャアァァーッ!!?」

 

「ギャースッ!!?!」

 

 

 転生者連中は小馬鹿にした態度でディオ近づけば、急にディオの姿が消えたのだ。

するとどうだ。一人の転生者が突如として吹き飛び、壁にめり込んで悲鳴を上げているではないか。

 

 否、一人ではない。

すでに、そうすでに、ディオの目の前にいた3人の転生者が、殴られ蹴られ、吹き飛ばされて床に転がっていたのだ。

 

 

「悪いがお前たちはもう、……この私の敵だ」

 

「あばあば……」

 

「う、裏切りやがったっ!!!」

 

 

 ディオにとって完全なる世界は、利用するだけ利用して捨てるだけの組織でしかない。

目的である妹、エヴァンジェリンにはもう出会い、何度も会話した。

だからもう、ここにいる必要はない。

 

 そして、彼らの行動は自分たちの静寂を脅かすこと間違いなし。

だからディオは、彼らを裏切り、敵対することを選んだのである。

 

 転生者たちは急に殴り飛ばされ、困惑と混乱で頭がどうかしそうであった。

だが、ディオが裏切ったということだけは、明確に理解できた。

 

 

「裏切った? 何を言っている? 私は最初からお前たちの味方ではない」

 

「ふっ……ふっざけんなぁぁぁ!!!」

 

 

 されど、ディオには裏切ったという気持ちは一欠けらも存在しない。

何故なら、最初からディオはこいつらの仲間と思ったことなど、一度もないからだ。

 

 それを言われた転生者の一人は、激昂してディオへと襲い掛かった。

 

 

「ふん」

 

「グギャーッ!?」

 

 

 されど、悲しいかな、その程度の力ではディオに触れることさえかなわない。

ディオは姿を消せば、逆に襲い掛かった方が再び吹き飛び、床に転がる始末だった。

 

 

「命までは取らんでやる。が、再起不能になりたいものからかかってくるがいい。このディオに向かってッ!」

 

「調子こいてんじゃねえぞこらぁ!!」

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

 

 そんなディオであるが、彼らを殺そうとまではしない。

こんな奴らを殺しても、虚しいだけだからだ。故に、動けなくなるまでボコボコにぶちのめすことを選んだ。

 

 それは挑発でもあった。

転生者たちはディオへの怒りをメラメラと燃やし、今度は三人同時にディオへと襲い掛かったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 一方、単独行動をすると決めた覇王と言うと、すでにウェスペルタティアを取り囲む超巨大多重積層魔法障壁を抜け、オスティアをも越えて墓守り人の宮殿が目視できるところを、黒雛を纏って飛行していた。

 

 また、捕らえた陽とバァンは皇帝から貰い持ち歩いていた、牢獄用の魔法球内へと閉じ込めたのである。

 

 

「あれが敵の本拠地か……!」

 

 

 敵の本拠地、墓守り人の宮殿。

それがもうすでに眼下まで迫ってきていた。

そこでさて、どうするかと覇王は考える。

 

 このまま突入して内部を荒らし、敵を減らしてしまってもいいだろうと思った。

されど、あの竜の騎士が出てくれば、たちまち激戦になるのは明らかだ。

 

 それ以外にも、竜の騎士と同等の転生者が複数いる可能性を考慮。

であれば、このまま無策に突入するのは、自分とて非常に危険だと考察した。

 

 

「だが、ここで手をこまねいている時間も余裕もない……、どうする……?」

 

 

 とは言え、状況はどんどん切迫してきている。

魔力はどんどん集まってきており、時期に世界が消滅するのは目に見えている。

 

 覇王はこの状況下で、自分がどう行動するのが最適なのか、頭を巡らせた。

もうこのまま墓守り人の宮殿ごと、吹き飛ばしてしまおうか、そう考えた瞬間!

 

 

「――――!? グッ!!?」

 

 

 とてつもない物理的な攻撃が覇王を襲ったのだ。

 

 

「お前は……!? 一体どこから……!?」

 

 

 全身真っ黒のローブで身を隠し、腕には何やら戦斧らしき武器が握られていた。

それは覇王の黒雛のアームでガードされているが、とてつもない力によって、押されている状況だった。

 

 姿はローブで隠れているが、体つきは見て取れた。

大柄な男性のようで、よく見れば筋肉がついた逞しい四肢がちらりと目に入る。

だが、そんな悠長に構えいてる余裕など存在しない。

 

 

「――――――――ッッッ!!!!」

 

「ッ! こいつ!!」

 

 

 ガァンッ!! 金属がはじける音が鳴り響く。

敵が武器で覇王を弾き飛ばした音だ。今の衝撃で覇王は一瞬で落下し、地表スレスレまで叩き落された。

 

 

「くっ!?」

 

 

 すると、敵の姿はすでに上空にはなく、覇王は周囲を即座に検索した。

だが、敵はすでに覇王の背後へと迫ってきており、握った武器を横なぎに振るったのである。

 

 

「――――ッッ!!!」

 

「パワーはすさまじいが、それじゃ僕は傷つけられないぞ!」

 

 

 ドゴォン!! と言う大地が砕ける音がした。

背後からの攻撃に気が付いた覇王が、敵の攻撃を黒雛のアームで再びガードしたからだ。

その衝撃によって、覇王の真下の大地が砕け割れ、岩石が飛び散ったのである。

 

 しかし、覇王の余裕とアドバンテージは崩れてはいない。

何せ覇王が身にまとう鎧、黒雛はO.S(オーバーソウル)で作り出されたものだ。

 

 O.S(オーバーソウル)はただの物理的な攻撃では、破壊することは不可能。

気や魔力、そして同じ力であるO.S(オーバーソウル)でなければ打ち破れないからだ。

 

 

「お前が何者かは知らないが、敵対するならここで滅んでもらうぞ」

 

「……!」

 

 

 覇王は急に襲ってきた敵へと話しかければ、即座に黒雛の爪を敵へと突き出す。

敵はそれに反応し、地面を砕いて空に浮かんでいる墓守り人の宮殿へと戻っていく。

 

 

「逃がす訳にはいかないな!」

 

 

 だが、覇王は敵を逃がす気は一つもない。

迎撃装置が覇王を狙い、とてつもない数の巨大な杭ような弾丸が嵐のように降り注ぐ中、覇王はそんなものなど意にも介さず、敵が逃げ込んだ宮殿内へと素早く移動し侵入していった。

 

 

「……」

 

「隠れる気はないのか? ここで決着をつけるって訳か?」

 

 

 そして少し奥まで進んだ場所に、少し開けた部屋があった。

大き目のドーム状の部屋で、中央に円形の魔法陣がある以外何もない部屋だった。

その中心に敵は立っており、まさにこの場所で勝負をしようという感じだったのだ。

 

 覇王は罠の可能性を考慮して慎重に移動しながらも、敵の行動はここでのタイマンなのだろうか、と思った。

ただ、敵は無言で何も言わず、ただ武器を握ったまま棒立ちをしているだけであった。

 

 

「いいさ。罠だろうが何だろうが……、っ!」

 

「――――ッッ!!!」

 

 

 覇王はこれが罠であれ、目の前の敵を倒さなければ先に進めぬと悟った。

ならば、ここでさっさと決着をつけ、先に進もうと考えた矢先、敵が瞬間移動したのではないかという速度で目の前まで肉薄してきたのだ!

 

 

「ッッ!!!!」

 

「甘いぞ! そんな物理攻撃では……、なっ!?」

 

 

 敵の攻撃するスピードは、もはや一瞬だった。

気が付けば振り上げていた腕が、すでに振り下ろされており、咄嗟に防御の構えをとった黒雛のアームに直撃していた。

 

 だが、ただの物理攻撃では黒雛に傷すらつけられない。

破壊するのであれば同じ力であるO.S(オーバーソウル)か、気や魔力を帯びた攻撃でなくてはならない。

覇王はそれを相手に言おうとした直後、なんと黒雛が捻じれてひび割、砕け始めたのだ。

 

 

「……なるほど。そういうことか」

 

「……」

 

 

 覇王は砕かれた黒雛の腕を見ても冷静に対処し、瞬時に後退。

そこで敵を凝視して”相手の特典”を見て、すべてを察した様子だった。

 

 

「しかし、……それは厄介だ。すでに、僕はお前の手中と言うわけか……」

 

「……」

 

 

 されど、覇王は急に膝をつき、急に苦しそうな顔を見せるではないか。

そして覇王は、すべてを理解したかのような発言を、相手へと投げかける。

 

 その言葉にも敵は反応せず、ゆっくりと覇王へと近づきながら、武器を振り上げ始めた。

 

 

「っ! 長期戦はさせないぞ……! O.S(オーバーソウル)! リョウメンスクナ!」

 

「――――ッッ!!!」

 

 

 敵は直後、覇王の目の前へと現れ、武器を振り下ろした。

覇王は多少不利な状況となったのを理解し、さらに戦力を投入。

 

 それはO.S(オーバーソウル)神殺し。

巨大な刀型に作り出された甲縛式O.S(オーバーソウル)だ。

それを一瞬にして作り出し黒雛の腕に装着すれば、瞬く間に振り上げた。

 

 すると、敵が振り下ろした腕は上腕から分断され、覇王の真横に腕とともに敵の武器が突き刺さる。

敵は腕を切られた痛みからか、声にもならない絶叫をこの部屋に響き渡らせた。

 

 

「これで終わりにする! 秘剣……”燕返し”!!」

 

「――――ッ! ……ッッ!!」

 

 

 そして、覇王はとどめを宣告すれば、即座に構えて技を解き放った。

それこそ燕返し。三つの斬撃が狂いもなく同時に敵へと吸い込まれ、突き刺さる。

三つの斬撃を直撃し、左肩、右脇、左足を深々と叩き切られた敵は、声すらも出せずにズズゥンと言う重く鈍い音とともにその場に倒れこんだのであった。

 

 


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