理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百七十四話 突入

 

 とりあえず一難去った一行。

誰もが意識をしっかりと取り戻し、立ち上がって話し合っていた。

 

 

「さあて、作戦通り進めていくかね」

 

「そうっスね」

 

 

 アルスは事前に話してあったとおりに行動しようと、すでに重い腰を上げて周囲を見回す。

状助もその話に意見はなく、そのまま行動に移すだけだと言う様子だ。

 

 

「第一班は飛空艇の守備を」

 

「自信なんかねえがよぉ……。何とかするしかねぇよなあ!」

 

 

 その作戦の一つは、三つに班を分けて行動することである。

飛空艇の防衛を務める第一班、陽動を行う第二班、計画の要となる第三班の三つだ。

 

 そして、第一班として飛空艇の防衛を任されたのは、状助だ。

アルスがそれを言い渡すと、状助は自信なさげな態度ではあるが、しっかりと言葉を受け止め承った。

 

 当然それ以外にも、焔、裕奈、ブリジット、のどか、夕映、そして飛空艇の所有者のハルナが残ることになった。

 

 

「俺たち第二班はかく乱と陽動を」

 

「まかせときな! 暴れるのは得意だからよ!」

 

「それに、あのランサーが釣れればお釣りがくるってもんですわな」

 

 

 第二班は数多くいるであろう転生者どもを、二手に分かれさせるための陽動を担当する。

()()()()人質もなく救出作戦もないので、大きく暴れて陽動することになった。

 

 そのメンバーがアルスを筆頭とした、カギ、楓、バーサーカー、ロビン、ナビス、数多だ。

 

 バーサーカーはアルスの言葉に、あふれる自信を表情に出してニカッと笑いながら、はっきりと承諾。

ロビンも敵対しているサーヴァント、ランサーがこちらに来てくれれば最高だと、小さく言葉に漏らしていた。

 

 

「えっ!? 俺はあっちじゃねぇの!?」

 

「んったりめぇだろ。あっちにゃ”原作”最高戦力のバーゲンセールだぞ」

 

「まっ、まぁいいけどよ……」

 

 

 しかし、陽動に含まれていたカギは、自分は第三班に行くとばかりに思っていたという顔を見せた。

そんなカギへとアルスは、あっちはあっちで戦力過多だしお前はこっちだ、と言ったのである。

カギもしゃーないとした様子で、半ば諦めた顔をしながらも、アルスの言葉に従ったのだった。

 

 

「んで、第三班は造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)の奪取と、儀式の生贄の保護って訳だ」

 

「任せてください」

 

 

 そして最後に、一番の大役を務める第三班。

ネギ、小太郎、アスナ、ラカン、エヴァンジェリン、フェイト、刹那、木乃香、さよ、古菲、そして、トリスとランスロー()

 

 このメンバーこそ一番数が多く戦力が集中しているのは、やはり造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)のグランドマスターキー奪取。

さらには儀式の生贄となっている人物の保護があるからだ。

 

 この二つは非常に高い難易度のミッションとなることが予想され、大きなリスクもあることからこの数のメンバーとなった。

 

 それをアルスから説明されたネギは、ハキハキとした声で承った。

 

 

「この宮殿の内部のことは、僕が一番よく知っている。案内しよう」

 

「頼んだぜ!」

 

 

 そして、選ばれたフェイトは元々は完全なる世界のもの。

この墓守り人の宮殿にも当然詳しい。なので、この場所の案内は任せてくれと、自ら名乗り出た。

ラカンはそんなフェイトを頼もしく思い、背中を軽くたたいて任せたと言い放つ。

 

 

「でもよお、相手も”()()()()()()”だろ? 陽動に引っかかってくれるんッスかねぇ」

 

「どっちが本命かはやつらもわからんだろう」

 

 

 だが、そこで状助は、この陽動作戦に相手が引っかかってくるかが疑問であった。

何故なら相手も同じ転生者だからだ。”原作”を考えれば中央突破してくるだろうメンバーこそが、本命だと考えるのが当然だからだ。

 

 とは言え、それは”原作”を考えてのこと。

そんなことなど関係ない状態の今、”原作”を基準に考えても意味がない。

故にアルスは、敵も疑心暗鬼になって混乱するだろうと言葉にする。

 

 

「”原作メンバー”で固めた方が、むしろおとりだと考える可能性もある」

 

「まあ、そうかもしれねぇっスけど……」

 

 

 それを後押しするのが本命を”原作メンバー”で固めたことだ。

基本的に転生者は、転生者の方が原作キャラより上だと考えていることが多い。

 

 何せ強力な特典を二つも持っているのだ。

その二つが強力であればほど、当然原作キャラより実力は上になる。

 

 だからこそ、原作メンバーで固めた方を、おとりだと考えるものも出てくるかもしれない。

そう語るアルスの言葉に、状助は確かに一理ある、と思いながらも、うまくいくかどうか訝しむ。

 

 

「それに、何かあればこっちが動けばいいだけだ」

 

「臨機応変にってことッスね」

 

 

 ただ、単純に二手に分かれて行動する訳ではない。

こちらは陽動として動くが、本命が動けなくなるのならばこちらが動くことも考慮にある、とアルスは話す。

 

 状助はなるほど、と思い、握った右拳を左の手のひらの上でたたく。

つまるところ、陽動と本命としているが、どちらがどちらにもなれるという作戦なのだ。

 

 

「自称アーチャー、お前もそこに残れ」

 

「ほう? 私なんかを信用していいのかね?」

 

「半々だがな」

 

 

 と、そこでアルスは先ほどのメンバーで名前を呼ばなかった、転生者の赤井弓雄のこと自称アーチャーへと声をかけた。

それはアーチャーにこの飛空艇へ残ることを命令するものだ。

 

 アーチャーはその命令に、自分なんかを目の届かない場所に置いて大丈夫なのか? と言い出した。

何せアーチャーは、ついさっき完全なる世界から裏切った男。そんな自分なんぞを信用なんかできるのか? という意味も含まれていた。

 

 とは言え、アルスとてアーチャーの信用度は半分程度。

まだ何とか信用できるかもしれない、と言うぐらい信用している。

 

 

「お前はこの場所を知っているだろうから連れて行こうとも考えたが、どうにも防衛が手薄になる」

 

「ふむ……。確かに不安にもなるか」

 

 

 本来ならばアーチャーも連れて行って、この宮殿内を案内させるのが楽だとアルスも考える。

しかし、今あげたメンバーのことも考えれば、飛空艇守護の強化は必要だ。

故に、アルスはアーチャーを飛空艇の防衛に回すことに決めたのだ。

 

 アーチャーも飛空艇の方を見て、何やら考える動作をして納得した顔を見せた。

防衛としては確かに心もとないメンバーだ。決して弱い訳でもないが、強敵が来たら危ない、そんな感じだ。

 

 

「……いいだろう。君の言う通り、この場を守備してみせよう」

 

「ある程度だが信用しはじめてんだ。裏切ってくれるなよ?」

 

「信頼に応えられるよう、努力に務めよう」

 

 

 ならば自分の役目としては、それが最適だとアーチャーも判断した。

アルスはその役目を承ったアーチャーに、この信用を無下にしないでくれよと言葉にする。

その言葉にアーチャーは、ふっと笑って任せてくれと堂々と宣言したのであった。

 

 

「しっかし、なあぁーんで俺がリーダー面して指揮ってんだろうなあ……。面倒なのに……」

 

「いやまあ、わりとそのポジションお似合いっスよ」

 

「よしてくれよ……」

 

 

 と、そこでメンバーの分担を終えたアルスは、ふと自分が何故か仕切っていることに疑問を感じたのである。

自分以外の誰かがこの役目を背負ってくれよ、と言うかなんで自然と自分が仕切っているんだと。

 

 そんなアルスへと状助は、なかなか様になっていたと褒めるような言葉をかける。

されど、アルスは自分がそんな大役なんて似合わんと、それ以上の面倒すぎると考えてげんなりした顔で、状助の言葉に冗談じゃないと思うのだった。

 

 

「よし、行くぞ!」

 

「おっしゃぁ!」

 

「はい!」

 

 

 しかし、アルスは一瞬で意識を切り替え、敵の本拠地への侵攻を合図を出す。

それにつられてラカンとネギも気合を入れた声を出せば、突入班全員、敵地の奥へと突入していったのだ。

 

 

「って、いきなり大歓迎だな! あんなに大量のお出迎えがやってきてくれたぜ!」

 

「この場は陽動任務の俺たちに任せな!」

 

「任せたよ兄さん!」

 

 

 巨大な廊下を景気よく飛ばしていると、すぐさま目の前に巨大な召喚魔の群れが現れた。

その数は廊下を埋め尽くすほどであり、かなりの数が迫ってきていた。

 

 アルスは大量の召喚魔を見て、さっそく出てきやがったと吐き捨てる。

また、その横のカギはネギへと、本命の体力温存のために自分たちが撃破すると宣言。

ネギもカギの頼もしいお言葉に甘えることにし、攻撃を頼んだのである。

 

 

「とりあえず景気よく”雷の矢! 101”!!!」

 

 

 そこでアルスは先手として、雷属性の魔法の射手を101発ぶっぱなす。

だが、その魔法は敵が持つ造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)の力により阻まれたのだ。

 

 

「ちぃ……、やっぱりもってきやがったか! 造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)!!」

 

「だがなあ! これは防げねえだろうが! ”王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)”!!!」

 

 

 アルスはこれを最初から読んでおり、確認のために今の魔法を放ったのだ。

その予想は的中であり、嫌な予想が的中したことに悪態をつきそうになる。

 

 ただ、ならばとカギが自分の背の空間から、大量の武器を呼び寄せる。

これこそカギが特典として貰った王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)とその中身だ。

 

 もはや何十という数の宝具、究極の武器が同時に発射され、召喚魔を瞬く間に殲滅していく。

その破壊力は絶大の一言。流石かの英雄王が持つとされていただけあり、ありとあらゆる召喚魔を一瞬にして駆逐していったのだ。

 

 

「とんでもない力だね、あれは」

 

「……ええ」

 

 

 カギの力を見たフェイトは、あの武器に内包されてる魔力などを察して怪物的だと言葉を漏らす。

ネギも何度か見たカギのその力に、とてつもなさと頼もしさを感じつつも、同時に疑問も浮かべていた。

 

 その疑問とは先ほども出てきた黄金の鎧の男のことだ。

あの男もまた、カギと同じこの力(ゲート・オブ・バビロン)を持っていた。

 

 それはカギとあの男が特典として選んだものが()()()()()()()()()()からだが、ネギにはそれがわからない。

なので、その疑問が晴れずに、モヤモヤした感覚を感じて表情を渋らせていたのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 一方、完全なる世界のものたちは、外見が整われた大広間にて、侵入者をモニター越しで監視していた。

 

 

「侵入者、召喚魔を撃破して進行中」

 

 

 とある完全なる世界の一員、このものもまた転生者だ。

そのものがカギたちの攻勢で一気に殲滅される召喚魔を見て、報告として言葉に挙げていく。

 

 

「召喚魔……ほぼ全滅……。侵入者、止まりません」

 

 

 そして、あれほどいた召喚魔を根こそぎ滅ぼされ、もはや言葉にしにくそうに述べていく。

また、召喚魔が蹴散らされたが故に、さらに侵入者の動きは加速的になっていく。

 

 ただ、誰もがあの程度で止められるなど考えてはおらず、ほとんどのものが気にしていない様子であった。

 

 

「ついに来たか」

 

「ふむ……」

 

 

 完全なる世界の幹部デュナミスは、ついにやってきたかと言葉を漏らす。

その心は対峙の時が近いと言う感じで、ある種待ちかねた様子であった。

 

 その近くで、右手を顎に乗せてその様子を見ながら考え込む、黄金の鎧を着たあの男がいた。

 

 

「!? 侵入者、二組に分かれて行動を開始!」

 

「ほう、どちらかがおとりと言う訳か」

 

 

 そこで報告者はカギたちとネギたちが二手に分かれたのを、大声で言葉に出す。

つまり、陽動と本体に分かれたということだ。

 

 黄金の男はどちらが本命なのか、と考えながらそんなことを口に出す。

また、隠れず二手に分かれたことを見て、やはり”原作通り”にはいかんかと考えていた。

 

 

「準備の方は進んでいるのか?」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

「そうかそうか!」

 

 

 すると黄金の男は、他の完全なる世界の一員、それも当然転生者に現在の状況を確認する。

その一員は今のところは支障はなく問題ないと述べれば、黄金の男は愉快に相槌を打って笑い出した。

 

 

「何か言いたそうではないか、デュナミスとやらよ」

 

「……貴様らのような者の力を頼らざるを得ないのが我らの現状ではある」

 

 

 そんなところで黄金の男は、ふと神妙な雰囲気のデュナミスへと顔を向けて意見があるなら言えと言い出した。

 

 デュナミスもそう言われたのならばと、率直な意見を語り始めた。

 

 

「だが、頼りにしている。何としてでも奴らの動きを止めよ」

 

「はっ、誰に命じておる。この(オレ)に任せておけばよい」

 

 

 はっきり言えばデュナミスは、こんな得体のしれない連中の協力がなければならない状況に嘆いていた。

本来ならば自分たちのだけの戦力で何とかしたいと、常々考えていた。

 

 されど、現実は非情そのもの。

故に、彼らのようなものの力を借りてでも、何としても計画を成功させたいと言葉にする。

 

 黄金の男はその言葉を良く思ったのか、命令するなと言いつつも、ニヤリと笑いながら任せておけと豪語したのである。

 

 

(オレ)は二手に分かれた片方をつぶす。そちらは任せたぞ」

 

「言われなくとも……」

 

 

 ならば早速、と言う様子で黄金の男は動き出す。

その横にいた竜の騎士へ、中央突破してくる連中の相手を任せ、自ら出陣とばかりに歩き出した。

 

 

「ウチはセンパイがおる方へ行かせてもらいます」

 

「許す。好きにせよ」

 

 

 また、月詠は当然刹那がいる方へと向かうと述べ、黄金の男はそれを気にせず許可したのである。

そして、彼らは自らの目標へと移動し始めたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ネギたち本命部隊は、とてつもない長さの螺旋階段を越えて、その頂上へとやってきた。

ここはまだ明るく、円形の床が浮遊する少し開けた部屋であった。

 

 

「ここが螺旋階段の天辺……」

 

「あの扉の先が墓所だよ。その奥を通り抜ければ上層部に出れるけど……」

 

 

 ネギは周囲を見渡して警戒。

また、フェイトはその先にある巨大な扉へと指をさし、目的地を示す。

が、まるでその先には巨大な壁があるかのように、言葉を区切る。

 

 

「感じるわね……」

 

「ああ……、恐ろしいまでの力だ……」

 

「この先に彼らが待ち構えていると考えて間違いないですね……」

 

 

 何故なら、その扉の先から強力な重圧(プレッシャー)を感じたからだ。

トリスもそれを感じ取り言葉に出せば、エヴァンジェリンも頬に一筋の汗を流して緊張を見せていた。

ネギもそれを感じ、最大の障害が扉の奥で待っていることを察したのである。

 

 

「だが、行くっきゃねぇだろ?」

 

「行きましょう、戦いを終わらせるために」

 

 

 されど、こんなところで臆している余裕も暇もない。

ラカンは声を出してやるしかないと発破をかける。

アスナもそれに乗り、声をかけて気合を入れなおした。

 

 そして、彼らは巨大な扉をゆっくりと開いて、その部屋へと侵入して行く。

ギギギと言う音を立てて扉が開かれれば、そこは先ほどの部屋とは違い薄暗い闇が支配していた。

 

 その中央の、やはり浮遊する円形の床の上に、数人の人影が姿を現す。

 

 

「ようこそ、次世代(アラ・アルバ)の子ら、そして、旧世代(アラ・ルブラ)の生き残りよ」

 

 

 それこそ幹部デュナミスと、それに賛同する転生者の竜の騎士、そして雇われの月詠だ。

デュナミスはネギたちを見て、ゆっくりと言葉をかけはじめた。

新世代と旧世代、両方の好敵手へと。

 

 

…… …… ……

 

 

 変わって本命部隊から分かれた陽動部隊。

宮殿の外側の外周へと出て、集まってきた転生者とドンパチをすでに始めていた。

 

 

「おうおう! 釣られて集まってきたじゃんかよ!」

 

「これが俗にいう大漁ってヤツですかね。まるで釣り師(アングラー)になった気分ですわ」

 

 

 ゴールデンなバーサーカーは敵がどんどん集まってきたことに、計画通りと大声で笑う。

ロビンもこんな簡単に釣られてきた敵に、ここまでうまくいくとはとニヤリとら割って見せていた。

 

 

「敵の数は多い、しかしさほど強くない様子でござる」

 

「所詮は寄せ集めの連中ってワケか」

 

 

 それらをどんどん蹴散らす陽動部隊。

楓はそれらを蹴散らしながら、集まってきた敵の練度がさほどではないことに気が付いた。

アルスも敵の強さが微妙なのを実感し、こいつらがただの数合わせ程度なのだと察した。

 

 

「……だが、そうも言っていられねぇみてぇだなッ!」

 

 

 されど、当然敵はこの雑魚な転生者だけではない。

バーサーカーは咄嗟に宝具、黄金喰い(ゴールデンイーター)を背に回せば、そこに強烈な衝撃が発生したのである。

 

 

「この前の仕返しという訳ではなかったが、オレの不意打ちをこうも容易く受け止めるとはな」

 

「出てきやがったな、ランサー!」

 

 

 その衝撃の先には巨大な槍と、黒い体と鈍い黄金の鎧をまとった細身の男が現れた。

それこそ総督府で戦った強敵、ランサーの姿だったのだ。

 

 ランサーは今の不意打ちを受け止められたことに、多少驚きを感じていた。

完全な不意打ちであった。完ぺきだったはずなのだ。

 

 また、これはバーサーカーが自分に最初に行った行動なのだが、ランサーは意趣返しのつもりではないと述べる。

されどそれを気にせず、ランサーが現れたことだけを叫ぶ男がバーサーカーだった。

 

 

「ロビン、彼の援護を」

 

「言われなくともわかってますよ!」

 

 

 あのランサーは強敵だ。それを知っている現在のロビンのマスター、ナビスは即座にロビンへと指示を出す。

ロビンもすでにその脅威の強さをその身で味わっているので、すでに行動を開始していた。

 

 

「んでもって、テメェもようやくお出ましってわけか!」

 

「そのとおりだ。待ち望んでいたぞ! この瞬間(とき)をっ!!」

 

 

 さらに、数多の前にもう一人、男が現れた。

それこそコールド。数多の好敵手(ライバル)となる謎の男。

 

 数多はそれを待ちかねていたかのように、ニヤリと笑いそれを叫べば、コールドも同じ気持ちだと言葉にして不敵に笑っていた。

 

 そして、両者とも勢いよく衝突。

数多は右拳を、コールドは右足を互いにぶつけ合い、その衝撃で両者は間合いを取ると即座に走り出して隙をうかがい始める。

 

 

「だったら俺も加勢し、うお!?」

 

 

 ならばと、少し無粋であるが敵を減らそうと考えたアルスは、数多の助けに入ろうとしたが、その時である。

数本の光輝く槍と剣が、突如として空から降ってきてアルスを襲ったのだ。

 

 

「避けたのか雑種。雑種にしては上手に踊れていたぞ」

 

「テメェはあん時の!?」

 

 

 アルスは咄嗟に回避して見せれば、その先から黄金の鎧の男が姿を現したではないか。

黄金の男はヘラヘラとしながら、アルスが今の攻撃を避けたことに関心を漏らしていた。

 

 アルスはその姿を見て、先ほど嫌がらせのように召喚魔をまき散らしていった男だと理解した。

 

 

「早々に消えてもらうぞ雑種ども!」

 

「ゲェー!? こいつの特典(ほうぐ)はまさか!」

 

「そう、そのまさかよ!」

 

 

 だが、そうのん気している余裕も暇もない。

何故ならば黄金の男は自分の背後に、何十という数の武器、宝具を王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の空間から覗かせていたからだ。

 

 それを見たカギは、その特典を察して仰天しはじめた。

何せカギはこの黄金の男が王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を使うところを見るのは初めてだった。

それに自分が貰った特典と同じものを持っている相手ということにも、驚く理由があったのだ。

 

 とは言え、一度カギはヴィマーナを目撃している。

故に、驚きはあれどやっぱり、と言う部分も大きく存在しているのだ。

 

 また、黄金の男はと言えば、驚くカギを見て笑いながら、言う必要はないだろうとばかりにそう言い放つ。

 

 

「貴様には特別に、この(オレ)と戯れることを許してやろう」

 

「調子こいてんじゃねぇぞこの野郎!!」

 

 

 さらに、黄金の男は偉そうな上から目線でアルスとカギを挑発する。

カギは流石にイラっと来たのか、ナメんなこのクソと大きく叫んだ。

 

 

「威勢だけでなんとかなると思うなよ?」

 

「うおお!? 宝具の雨かよ!?」

 

「うげげー!!??」

 

「っ!」

 

 

 しかし、黄金の男は涼しい顔でせせら笑い、背後に準備していた武器を、しこたま射出したのである。

 

 アルスもこれはやばいとばかりに、その武器の回避に専念。

当然カギもヤベェ! と叫びながら慌てて回避、当然楓も高速移動して回避してみせていた。

 

 

「くっ! しまった! 野郎が宝具をばらまいたのは俺たちを分断させるためか!?」

 

「完全に四組に分断されてしまったでござるな……!」

 

 

 しかも黄金の男は、ただ闇雲に武器を射出した訳ではない。

バーサーカーたち、数多、カギ、アルスと楓と言う形に分断するために、武器を大量にぶっ放したのだ。

 

 アルスはそれに気づくも時すでに遅し。

完全に黄金の男の手のひらで転がされてしまった後だった。

 

 これであの黄金の男の思惑通りに分断されたことを、楓もしてやられたと苦虫を噛んだ様子で語る。

 

 

「どうせここが、君たちの終着点となる」

 

「っ!? くっ!!」

 

 

 だが、脅威はそれだけにとどまらない。

突然、声が聞こえたかと思えば一筋の閃光がアルスを襲う。

アルスは障壁にてそれを何とか防御したが、衝撃で床を数回転がる羽目になった。

 

 

「目覚めてるとは聞いたが、まさか本当とはなあ……!」

 

 

 されどアルスはすぐさま床に両手をつけ、そのまま宙返りして体勢を立て直す。

そして、今しがた攻撃された方向を見れば、フェイトにそっくりな人物がそこに立っていたのである。

 

 

「……かのものが、もしや話に聞いていた……」

 

「ああ、フェイトの兄弟だとよ」

 

「やはりそうでござるか……」

 

 

 それこそ(クゥィントゥム)。風のアーウェルンクス。

すでに雷化しており、体は雷のごとく発光し、その周囲にスパークが走っていた。

 

 楓はその姿を見て、ここへ来る前に作戦会議にてフェイトと(ランスロー)が話していたことを思い出した。

その楓の言葉にアルスが付け加えるようにして、再度説明を述べる。

 

 すれば楓もこの状況がかなり危険なことを理解し、頬に一筋の汗を流したのである。

 

 

「さて、邪魔するものはご退場願おう」

 

「やるしかねえか!」

 

「行くでござる!」

 

 

 当のクゥィントゥムは涼しい顔で目の前のアルスたちを排除しようと動き出す。

アルスもこの切羽詰まったヤバイ状況を何とかせねばと、立ちふさがる強敵へと攻撃を仕掛けた。

それに同調するように楓も攻撃へ移り、両者は激しく衝突しあうのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 一方、完全なる世界の幹部、デュナミスと対峙したネギたち。

どちらも今は動かずに、にらみ合いを続けていた。

 

 

「どうだねテルティウム。久々に戻ってきた気分は」

 

「特に何か思うことなどないよ」

 

「ふっ……、それもそうか」

 

 

 デュナミスは久々に顔を見たかつての仲間、そして今は裏切り者のフェイトへと声をかける。

そのデュナミスの問いにフェイトは、すました顔で答える。

 

 そう、この場所はかつて自分が完全なる世界にいた時に拠点としていた場所。

この人気のないような何もない宮殿こそ、自分の帰る場所だった。

 

 だが、今はもう違う。

この場所は帰る場所ではなく、侵入する場所となった。

今、自分が帰る場所は()()()()()。この何もない石造りの宮殿などではないと、フェイトは思った。

 

 もはや何年も帰ってこなかったフェイトを見て、デュナミスも納得した顔を仮面の下で見せていた。

あらば、やはり裏切り者として処分するしかないと、改めて決意したのである。

 

 

「んじゃ、一気にぶっ飛ばすか!!」

 

「ぬんっ!」

 

 

 なんか旧知の仲が会話し終えたのを察したラカンは、ならば先手必勝とばかりに即座にデュナミスへ急接近。

ぶっ飛ばすか、と言い終えた時にはすでに、デュナミスの目の前へ来て右拳を振り上げていたのである。

 

 そのとてつもない速度に、瞬時に対応してみせるのが幹部デュナミス。

背後に用意しておいた造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)を用いて、闇の影の槍を大量に出現させ、目の前のラカンへと攻撃。

 

 されど、その程度の攻撃などラカンには通用しない。

ラカンは振り上げた拳をそのまま突き出し、強烈な気の衝撃波を生み出す。

するとその闇の槍は吹き飛ばされ、デュナミスも用意していた多重障壁をすべて砕かれ、後退せずにはいられなくなった。

 

 

「やっぱそれ頼りってか? 別に卑怯とか言わねえがな!」

 

「所詮貴様も人形。造物主には抗えぬ」

 

 

 とは言え、造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)の力は絶大だ。

後退したがデュナミスには傷一つ存在しない。本来ならばこの一撃で、大抵のものならば吹き飛ばされて倒される。

 

 それを完全とはいかなかったが、ほぼ無効化する能力(ちから)

ラカンが()()()()()()()故に、この力には抗えない。

 

 なのだが、後退を余儀なくされるほどの力を見せたラカンも、やはりとんでもない存在であると言えるだろう。

 

 造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)を見たラカンは、やっぱり使ってきたかとこぼした。

 

 流石のラカンも何度か見て説明も受けた、その造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)の力を理解している。

故に、自分特効のその力を使うのは当然だろうとラカンも考えていたので、それについてとやかく言う気はないようだ。

 

 だが、思うことはそれだけ。

その力に怯えるとか忌諱するとかではなく、()()()()()()()

明らかに何かあるような様子だ。

 

 その意図をデュナミスは読み取れなかったのか、この造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)がある限りラカンに勝ち目はないと豪語する。

実際、なんの対策もなければその通りだから当然なのだ。そう、()()()()()()()()()

 

 

「このまま”完全なる世界”へ送ってくれる」

 

「そううまくいくと思わねぇ方がいいぜッ!」

 

 

 故に、デュナミスはラカン相手にすら自分の敗北はないと確信し、強気の台詞を吐く。

されど、ラカンも同じく強い自信に満ち溢れた台詞を、デュナミスへと拳に乗せて返すのだった。

 

 

「では、俺も行くとしよう!」

 

「来たか……! ならば、”氷の女王(クリュスタネー・バシネイア)”!!」

 

 

 開戦と同時に竜の騎士も待っていたとばかりに動きだす。

竜の騎士はすさまじい速度でエヴァンジェリンに狙いを定めて急接近。

 

 エヴァンジェリンもこちらに突撃してくる竜の騎士を見て、即座に戦闘準備。

即座に詠唱を終え、闇の魔法を用いて自身を強化し、竜の騎士を迎え撃つ。

 

 

「ふっ!」

 

「危ないマスター!」

 

 

 だが、そこへ音速を超えた横やりがエヴァンジェリンを襲った。

その攻撃は槍での鋭い強烈な突き。

 

 それを感知したトリスは、その攻撃を右足の剣にていなすことでエヴァンジェリンへの命中を回避させた。

 

 

「何者よアンタ!?」

 

「竜の騎士バロンが一番弟子。ハルート見参」

 

「なんですって!?」

 

 

 そして、攻撃が来た方をトリスが向けば、一人の鎧の男が立っていた。

その男は青白い肌に軽装タイプの銀色に光る鎧を身にまとい、装飾などない武骨な長槍を握りしめていた。

 

 また、その男の鋭い眼光はまさに猛禽類のようではあるものの、冷静なのか冷淡なのかわからない目でトリスを睨んでいた。

 

 そこでトリスが急に目の前に現れた男に疑問を持ち、それを声に出せば、男はそれに静かに答えた。

 

 男は威風堂々とした態度で自分の名前をはっきり述べる。

さらに、自らハルートと名乗ったこの男は、竜の騎士の弟子であった。

当然転生者であり、その外見的特徴を知るものが見れば、その特典もすぐに理解できるであろう。

 

 そう、彼は竜の騎士バランが部下として、もう一人の息子として接していた陸戦騎・ラーハルトの能力を貰った転生者だったのだ。

 

 それを察したトリスは、盛大に驚き焦りを感じた。

自分の考えが正解だとすれば、この目の前の男もまたとてつもない実力者であることは間違いないからだ。

それに竜の騎士とこの男を両方相手にするのは、非常に厳しいからだ。

 

 

「貴様の相手はこのオレがしようか」

 

「このっ!」

 

「遅いッ!」

 

 

 ハルートと名乗った男は、敵戦力を減らすべくトリスの相手をすることにした。

その瞬間、ハルートの姿がぶれたと思えば、もうすでにトリスの目の前で槍を振るっていたではないか。

 

 トリスはそれを右足で蹴り上げることで防御。

その槍に足を引っかけたまま、今度は左足でハルートへと蹴りを見舞う。

 

 されど、再びハルートの姿がぶれ、見えなくなったではないか。

トリスは咄嗟に猫足立ちのポーズを決めると、横から槍を突き出して突撃してくるハルートの姿があったのだ。

 

 

「ッ!? マスターっ!!」

 

「チッ! まさかやつにも部下がいたとは!」

 

 

 その槍の一撃をトリスは再び防御したが、強烈な勢いは止められずにそのまま連れ去られてしまう。

最後にトリスはエヴァンジェリンへと大声で呼びかけるが、その声はすぐさま遠ざかって行ったのであった。

 

 それを見ていたエヴァンジェリン、否、見ていることしかできなかったが正しい。

今の戦闘は超高速で行われたものであり、数秒しか経ってないからだ。

 

 そのエヴァンジェリンは竜の騎士が部下を持っていたことに驚いていた。

計算外という他ない。何度も衝突した時は、部下を連れていなかった。

基本的に一人で行動し戦いを仕掛けてくるとばかり思っていた。

予想外の展開に、苦虫をかじった顔を見せるエヴァンジェリンだった。

 

 

「貴様は俺が相手をしてくれる」

 

「……!」

 

 

 そして、その竜の騎士本人は、すでにエヴァンジェリンの目の前で剣を背中から引き抜き、構えているではないか。

 

これはまずい展開だ、敵の流れに乗せられてしまっている。

エヴァンジェリンはそう考えながら、次の一手をどうするか悩んでいた。

 

 だが、悩んでいる暇など存在しない。

竜の騎士は即座に床を力強く蹴り、エヴァンジェリンへと肉薄するのだ。

 

 

「僕を忘れないでほしいね」

 

「フェイトッ!!」

 

 

 しかし、しかしだ。

この場にはエヴァンジェリンしかいない訳ではない。

こちらにも強力な仲間がいる。それこそフェイトだ。

一番最初に出会い戦闘した時から、やり返したいと考えていたフェイト。

 

 その彼はエヴァンジェリンへと攻撃を仕掛けた竜の騎士へと、即座に石の剣を作り出し攻撃を仕掛けた。

 

 今、竜の騎士はエヴァンジェリンを切り伏せまいと両腕に剣を握りしめて振り上げている状態。

かなりの隙がある状態となってしまっていた。だからこそ、その隙を突くようにフェイトが攻撃を行ったのである。

 

 

「そして、この私もな!」

 

「竜殺しの剣ッ! 貴様ら三人かッ!!」

 

 

 竜の騎士は咄嗟にそれをエヴァンジェリンへと振り下ろそうとした剣で防ぎ数歩背後へ下がる。

その直後、さらなる攻撃が竜の騎士を背後から襲った。

 

 体を回転させて回避させた竜の騎士は、光り輝く剣を握りしめた黒い全身鎧の男を発見。

それこそフェイトの従者となった転生者ランスロー。

そして今はフェイトから剣と名を与えられた男だ。

 

 竜の騎士はその三人に囲まれたのを目を動かして確認し、自分の相手がその三人であることを理解。

ならば本気を見せるしかあるまいと、額の紋章を輝かせて剣を握る拳にさらに力を入れるのであった。

 

 

「センパイ、ようやくお会いできましたわ」

 

「月詠か……!」

 

 

 そこで現れたのは彼らだけではない。

完全なる世界に雇われた魔剣士、月詠だ。

月詠は刹那との戦いをずっと所望しており、再び戦えると言うことに体を震わせて全身で喜びを表現していた。

 

 しかし、刹那は何度も戦ったこの相手にきつい視線を送るだけ。

とは言え、前回での戦いにて月詠の実力のほどを理解した刹那は、改めて厳しい戦いになると予想し、表情を渋く濁らせる。

 

 

「せっちゃん!」

 

「こいつの相手は私が……!」

 

 

 そして、ついに二人は動き出し、剣と剣が衝突し、金属音を高鳴らせる。

その音速を超えたつばぜり合いに、金属音とは別に木乃香の声が木霊する。

それは刹那を案じてのものであった。

 

 されど、刹那は月詠を自分のみで相手すると宣言。

自信がある、という感じではないが、この相手は自分が相手をせねばならない、と言う強い使命感で動いていた。

 

 

「うれしどすなぁ……。センパイがウチの相手として名乗り出てくれはるなんて……!」

 

「何度目だろうが、何度でも倒すのみ!」

 

 

 その言葉に感銘を受ける月詠は、嬉しさを体現するかのように、さらに剣を振るう速度を上げていく。

何せ狂おしいほどに求めてやまぬこの戦、その相手からも同じように求められたのだ。

悦びがあふれ出しても仕方ないことだった。

 

 が、刹那はそんな気持ちで戦っている訳ではない。

何度も相手をしたこの月詠、今回で決着をつけようと決意しただけのこと。

それ以上に戦いを長引かせる気もなく、倒して次に進むべきだと月詠の剣撃をはじき返し隙を窺う。

 

 

「では、あなた方は私が相手をいたしましょう」

 

「っ! 誰アルか!?」

 

(セクストゥム) 水のアーウェルンクスを拝命」

 

 

 その戦いの横で、突如として出現する新たなる敵。

フェイトと同じような涼しい顔と、素気のない服を着た女性が一人、古菲と木乃香の前に立ちはだかる。

 

 古菲は突然現れた敵に対して反射的に何者かと質問を出せば、そのものは自らを造物主の使途、アーウェルンクスシリーズだと言い放った。

 

 

「話に聞いてはったフェイトはんのご兄妹!?」

 

「このままあなた方を完全なる世界へと送ってあげましょう」

 

 

 木乃香はその言葉で、フェイトが自ら語った自分の兄弟だと思われる敵のことを思い出した。

また、セクストゥムは余裕の態度で表情を変えず、淡々と相手になると言う様子だ。

 

 

「さよ!」

 

「はい!」

 

 

 で、あれば戦わざるを得ない。

木乃香はさよを呼べば、さよもドロンとその場に現れ、即座にO.S(オーバーソウル)を完了させる。

 

 

「せやったら、ウチが相手や!」

 

「……! この力は……!」

 

 

 すでに臨戦態勢が終わった木乃香は、すぐさまO.S(オーバーソウル)白烏の翼を腕へと移動し、セクストゥムへと切りかかった。

セクストゥムはその力に若干驚きを感じながら、後方へと下がってその攻撃を回避。

 

 

「アイヤー! 私もいるアルよ!」

 

「っ! なかなかやれると言う訳ですね」

 

 

 されど、相手は木乃香だけではない。

そこへ古菲の強烈な功夫がセクストゥムへと突き刺さる。

 

 とは言え、やはり造物主の使途。この程度ではびくともしない。強靭な障壁によって、古菲の攻撃は防がれていた。

しかし、セクストゥムは相手がそれなりに手練れであると判断し、全力で相手をすることにしたのであった。

 

 

「やつら、グランドマスターキーを持っていない……、となると……」

 

「考えている暇などあるのかッ!」

 

「チィ! 鬱陶しい!」

 

 

 その最中、エヴァンジェリンはふと疑問を感じていた。

この場に現れた敵の連中が、誰もグランドマスターキーを持っていないということだ。

では誰が一体それを持っているのか。それはわからないが、ここにいる連中ではないことだけは理解できた。

 

 だが、これ以上深く思考することが、今のエヴァンジェリンにはできない。

何故なら、強敵である竜の騎士との戦いの真っ最中だからだ。この強敵が思考を阻んでくるからだ。

 

 竜の騎士はエヴァンジェリンの微妙な隙をついて、剣を横なぎに振りかぶる。

エヴァンジェリンもその攻撃を察して氷の爪で防ぐも、その強烈な一撃に苦悶の表情を覗かせる。

 

 

「グッ!?」

 

「そう簡単にはいかんぞ」

 

「ぬぅ……!」

 

 

 そこへ助太刀とばかりにランスローが、横から剣を振り下ろす。

ランスローの使う剣こそ宝具の無毀なる湖光(アロンダイト)であり、竜に追加ダメージを負わせる特攻の武器。

 

 竜の騎士はすかさず回避するも軽く左腕をかすったのか、小さくうめき声をあげる。

本来ならば竜闘気(ドラゴニックオーラ)に守られこの程度で傷がつかぬはずが、小さく出血をしているではないか。

 

 やはり特攻が効いているのは大きく、ランスローは攻めるのみと言う様子で、竜の騎士へとさらに肉薄する。

また、竜の騎士はと言うと、無毀なる湖光(アロンダイト)の力に怯み、黒騎士との戦い方をどうするかを考え始めていた。

 

 

「ネギ少年! ここは私らに任せて上層部へ急げ!」

 

「えっ!? ……しかし!」

 

 

 ランスローの助太刀に余裕ができたエヴァンジェリンは、ネギたちを先に行かせることにした。

この場にグランドマスターキーがないのであれば、ここで全員が戦っていては時間の無駄だと判断したのだ。

 

 しかし、戦いが始まり全員が激しい戦闘を繰り広げる中で、ネギは自分たちだけ先行してよいものか、と判断を鈍らせる。

 

 

「この場にグランドマスターキーがない! ということはつまり、別の誰かが握っているはずだ!」

 

「でも、この先にそれがあるとは限りません!?」

 

 

 だが、それでは間に合わないとエヴァンジェリンはさらに言葉を追加する。

ここにグランドマスターキーがないのならば、その先にいる誰かが持っていてもおかしくはない。

それを倒して手に入れることが最も重要だと、大声で説明した。

 

 とは言え、先にいる誰かがそれを持っているという確証も存在しない。

どこか厳密な場所に隠している可能性も存在すると、ネギは反論を述べていた。

 

 

「こいつらがここに現れたのならば、この先にある可能性が高い! 行け!」

 

「……はい!」

 

 

 確かにその可能性もなくはないだろう。

それでもこの幹部クラスの連中がこの場で自分たちを相手にするのだから、この先の誰かが持っている可能性の方が高いとエヴァンジェリンは判断。

 

 そもそもグランドマスターキーは世界を終わらせる儀式でも使うのであれば、隠しておくことは不可能。

ならば、先に行けば絶対にあると考えたエヴァンジェリンは、ネギへ行けと叫んで命令する。

 

 

 ネギも今みんなが戦闘している時、自由に動けるのは自分たちだけだと判断。

エヴァンジェリンの言葉を信用し、先に進むことを決意した。

 

 

「ええんか!? 助太刀せんでも!?」

 

「みんな強いから大丈夫! それに急がないと!」

 

「そうね、行きましょう!」

 

 

 小太郎は現在の戦闘に加わって敵を倒す方がいいのではないか、と言葉にするが、ネギは仲間を信じて先に行くと宣言。

杖へとすでにまたがり、移動の準備を終わらせていた。

 

 その言葉に小太郎も納得し、ならばとアスナも杖へと同乗。

彼らはそのまま宮殿の上層部へと移動を始めたのである。

 

 

「逃がすものか……っ!? グオオッ!?」

 

「そりゃこっちのセリフだっての! 余所見してっと芥子粒になっちまうぜ?」

 

「ジャック・ラカンッ!!!」

 

 

 それを見たデュナミスは阻止せんと本気モードで動き出す。

いや、ラカンとの戦闘中、もはや引くことはできんと考え、すでに戦闘形態(バトルモード)の強靭な姿へと変えていた。

 

 だがしかし、ラカンの強烈な拳が顔面へと直撃。

炸裂した拳の衝撃で数メートルも吹き飛び、壁にめり込んでしまったのである。

 

 何せデュナミスの相手はあのラカンだ。一瞬の隙が命取りになるのは明白。

それをラカンは余裕の態度で明言すれば、今度はデュナミスもラカンのみを視線に捉え、まずは強敵を倒すことに専念するのだった。

 

 


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