理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百八十一話 500年前の因縁

 

 墓守り人の宮殿の一角、竜と戦車が降り立った場所。

飛行船乗りのジョニーは、墜落していった飛行船(あいぼう)に別れを告げるように、空を見上げていた。

 

 そんな寂しそうな背中を見せるジョニーへと、まき絵がそっと話しかけた。

 

 

「ごめんなさい! 巻き込んじゃったばっかりに大切な船を…………」

 

「あー…………、いや、そっちが気にすることはねぇさ」

 

 

 まき絵が話したかったこと、それは大事な飛行船を失わせてしまったことに対しての謝罪であった。

 

 が、ジョニーは頭をポリポリかきながら、まき絵を気遣うような言葉を返す。

 

 

「巻き込まれたっつーより、俺自ら巻き込まれに入ったもんだしな」

 

「でも…………」

 

 

 何故なら、ジョニーが自分で首を突っ込んだ案件であり、彼女たちに非は一切ないと思っているからだ。

されど、そう言われても、まき絵の心は晴れる訳ではない。

 

 

「俺が自分で乗った船なんだ。船が沈んだのも俺の責任って訳さ」

 

 

 そう、乗り掛かった船に乗って、自分の船を失ったのは自分が選んだこと。

誰かが悪いという訳ではない、とジョニーは優しい笑みを見せながら話した。

 

 とはいえ、誰が悪いかと言えば、襲ってきたナッシュであり、飛行船を破壊したナッシュの側近なのだが。

 

 

「それによ、世界が滅ぶとかどうこうって話みてえじゃねえか? 船があっても世界がなくなっちまったんじゃ意味がねえしな!」

 

「う……うん……」

 

 

 また、飛行船が無事であれ、世界がなくなるんじゃ意味がない、とジョニーはさらに続ける。

 

 深くは知らないしわからないが、彼女たちの仲間の言動にそんな感じのものを耳にした。

なら、彼女たちの役に立ったのであれば、それでいいじゃないか、とさわやかに話すジョニー。

 

 だが、まき絵は納得できないと言う様子を見せながらも、これ以上何かを言うのも悪いと感じ、肯定する返事を返すのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 アキレウスとそのマスターは、ふと自分たちが何者なのかを話していなかったことに気が付いた。

 

 

「そういやさー、自己紹介がまだだったっけな?」

 

 

 マスターの男はそれを言い出すと、彼女たちはそういえばそうだったと言う顔を見せた。

 

 

「俺はヴィガ・ササジマってんだ、よろしく!」

 

 

 アキレウスのマスターは、ヴィガ・ササジマと名乗り歯を見せて笑っていた。

 

 名の通り生粋の旧世界側の魔法世界人であり、元々は連合の首都メガロメセンブリアに住んでいた転生者。

5歳の時に金色の呼符を用いてライダー・アキレウスを召還したのである。

 

 

「んでもって、こいつは俺の相棒(サーヴァント)。ライダー・アキレウスだ」

 

「よろしく頼む!」

 

 

 また、ずっと一緒に戦ってきた、自慢の相棒も彼女たちへと紹介する。

彼はアキレウス。その名の通りギリシャ神話最速の英雄。トロイア戦争で活躍したアキレウス。

 

 その名を聞けば当然誰もがピンとくるだろう。何せ人体の一部の名称にも使われるほどの名だ。

アキレウスの名を聞いて、まさか、と思ったものたちは目を見開いた。

 

 彼女たちはバーサーカーの坂田金時やアーチャーのロビンフッドと顔を合わせている。

こういう紹介のされ方をされれば、もしや、と思うのも当然だろう。

 

 

 訝しむ彼女たちの視線にくぎ付けにされたアキレウスは、紹介さたのだからと彼女たちを見ながらニヤリと笑い、手に持つ槍を床に立たせれば、カツンと言う音が空気を支配する。

 

 その行動を見れば、明らかに自分たちとは次元の違う人物だということが窺い知れる、と彼女たちは直感する。

 

 そんな中、ライダーは軽快な挨拶を述べる。

されど、その軽快な挨拶には、歴戦の英雄としての重みがあった。

 

 普段は近所の兄ちゃんみたいな態度であるが、中身はしっかりと英雄としての矜持を持つ男だ。

どっかの青いランサーに似た感じだが、彼ほどドライではなく身内とした人たちに甘くなりすぎるのが弱点である。

 

 

「さて……、これからどうする?」

 

「そうだなあ…………」

 

 

 そんなライダーだが、すでにこの後のことについて考えていた。

彼女たちを助けたのはいいが、さて、この先どうしたことやら、と。

 

 ササジマと名乗ったマスターも、うーんと腕を組んで悩んでいた。

ここは敵地のど真ん中、逃げも隠れも難しい非常に危険な状況だ。

 

 

「ここから脱出……、するにはちょいと数が多いか?」

 

 

 ササジマは不安そうにする彼女たちを見て、脱出で移動するのは難しいと判断した。

何せ敵の本拠地であり敵が周囲に多くいるような状況だ。彼女たちを連れて移動するのはリスクが大きい。

 

 

「あっ、あの……っ それなら私のアーティファクトで何とかなる…………かも」

 

「お?」

 

 

 しかし、そこで異を唱えるのは夏美であった。

夏美は小太郎と仮契約した時に得たアーティファクトがあったからだ。

 

 夏美の声にササジマは、何かあるのか、と思った。

彼は原作知識を持っている転生者だが、夏美のアーティファクトが何なのかはうっすら程度にしか覚えてない。

 

 そんなササジマとライダーへと、夏美は自分のアーティファクトの効果を教えた。

 

 

「なるほどなあ、気配を完全に消すアーティファクトってわけかー」

 

「それも、一人だけじゃなくて手をつなぐなどすれば、間接的であっても全員に効果が出る……と」

 

 

 姿や気配を消すアーティファクト、孤独の黒子。

使用者だけでなく、繋がった人、物、その全ての存在感を消滅させる。

その効果は造物主の使徒であるフェイトすらも、気が付かないほどの優れたものだ。

 

 ササジマは夏美の説明に、そんなのあったなあ、と心の中で感想を言いつつ、それは使えると考えた。

ライダーも一人ではなく複数の人間に効果があるということに、そりゃすげぇ、と思ったようだ。

 

 

「なら、その竜の子に乗って全員寄り添えば、みんな消えることができるんだな」

 

「多分、ですけど…………」

 

 

 と言うことは、竜化した環に全員乗せた状態で移動すれば、消えたまま移動できると、ササジマは自分の考えを述べる。

 

 ササジマの説明に夏美は、自信はないけどできるのではないか、と言う感じで答えていた。

 

 

「それなら、マスターと俺が暴れて囮になって、その隙をつかせて脱出させるか?」

 

「それがいいかもしれんね」

 

 

 そういうことなら、とライダーは自分たちが囮になって、さらに逃走率を稼げくことを提案。

ササジマもうんうんと首を縦に振りながら、ライダーの意見に肯定的な態度を見せる。

 

 

「…………少しよろしいでしょうか?」

 

「ん?」

 

 

 が、さらにそこへもう一人、あやかがササジマへと声をかけてきた。

あやかの声にササジマは、はて? と顔をそちらへと向けた。

 

 

「私たちの友人は世界を救うための鍵(グレートグランドマスターキー)と言うものを探しているはずなのです」

 

 

 あやかはアスナたちの目的を、ササジマたちへと説明した。

そう、必ず必要になるキーアイテム、文字通り鍵である造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)、そのグレートグランドマスターキーの奪取だ。

 

 アスナたちはそれを今、必死で敵と戦いながら探しているはずだと、ササジマへと告げた。

 

 

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「…………ほう?」

 

 

 また、あやかもネギと仮契約をしており、彼女もまたアーティファクトを所有していた。

それはアポがなくてもどんな人物にも面会できるという効果のアーティファクトだ。

面会したい考えれば、会えるのだ。総理大臣だろうがアメリカの大統領だろうがローマ法王であろうが、誰にでもだ。

 

 つまり、グレートグランドマスターキーを持っている人物に面会したいと思えば、会うことが可能になるのだ。

 

 ササジマはそれを聞いて、涼しげな顔をしながらも、マジかよ、と内心驚愕しながら思っていた。

マジかよ、の意味は二つ。一つは単純にこの時期にあやかがアーティファクトを保有しているということ。

もう一つは、そんなヤベー能力のアーティファクトをあやかが持っていたことだ。

 

 このアーティファクトの能力はしれっと出てきた程度なので、ササジマも忘れていたのである。

 

 

「夏美さんのアーティファクトと、私のアーティファクトを合わせれば、見つからずにその”鍵”の持ち主へ行きつくことができると思うのです。…………保有している人がいれば、ですが…………」

 

「なるほど」

 

 

 そう、夏美の気配を消すアーティファクトと、あやかの面会のアーティファクトを合わせれば、姿を見せずしてグレートグランドマスターキーの保有者までたどり着けるということなのだ。

 

 ただ、それはグレートグランドマスターキーを誰かが保有しているという条件が必要。

どこかに誰の手も届かない場所に保管されているのなら、不可能だとあやかも小さく最後につぶやく。

 

 それを聞いたライダーも、腕を組みながら感心していた。

明らかに戦いなれてなさそうな少女たちだというのに、中々どうして考えるじゃないか、と。

 

 

「……ただ、たとえ私たちが会えても、どうにかできるかは……わかりません。ですから…………」

 

 

 されど、自分たちだけでそれを遂行したとしても、グレートグランドマスターキーを保有する相手に立ち向かえるかは別だ。

 

 何故なら敵の数は多いと言われたばかりだ。守っている人物がいたとしても、一人とは限らない。

大多数で守っていたら、現在戦闘できる人たちだけだと、危険だと考えたからだ。

 

 

「…………協力して欲しいのです」

 

 

 それに、今しがたまったくもって歯が立たない相手と戦闘したばかり。

故に、自分たちだけの戦力では無謀な試みだと理解しているあやかは、先ほどの力を見せた彼らに協力を頼みたいのだ。

だからこそ、敬意をもって頼むために、あやかは彼らに頭を下げた。

 

 

「厚かましいのは重々承知です。ですが――――」

 

 

 そして、さらに深々と頭を下げるあやか。

彼らには自分たちの行動など関係がないのを理解している。それでも、今戦っている友人たちのためにも、頭を下げているのだ。

 

 ここまで来たのだから、来てしまったのだから、自分も何かをせねば、そう考えたのだ。

 

 

「君が頭を下げる必要はないぜ」

 

「っ!」

 

 

 そんなあやかへと、ササジマは気にした様子など見せずに、軽快に答える。

あやかはササジマの言葉に、はっと頭を上げて彼らの顔を見た。

 

 

「俺らも君らの友人と同じように、魔法世界の崩壊を止めに来たんだ。頼まれるまでもねぇ……、そうだよな? ライダー」

 

「そうだな。この世界が滅ぶってんなら、四の五の言ってはいられねえ」

 

 

 ササジマは最初から、この魔法世界崩壊を阻止するために、ここへ来た。

だから、別にあやかが頭を下げる必要もないし、頼む必要もない。自分たちがやりたいから来たからだ。

 

 そう語りながらササジマはライダーへと話を振れば、ライダーもこの世界が滅びるのであれば、阻止に動くのは当然だと答える。

そして、彼は次の言葉に声を張り上げる。

 

 

「任せておきな! いかなる難題・困難さえも、たとえ神々が立ちはだかろうとも…………、――――我が全身全霊を以って、障害となるその全てを蹴散らしてみせようッ!」

 

 

 ――――それは英雄としての宣言だった。

この世界が滅びるのであれば、英雄として戦うのは道理。

 

 滅ぼすものが人であれ悪魔であれ神であれ、いかなる難敵をも全て蹴散らす、そう宣言したのだ。

英雄アキレウスとして持っている誇り、自信、信念、その全てが発した声に含まれていた。

 

 誰もがライダーのその輝く英雄然とした雄姿に目を奪われた。

これこそがギリシャ神話にて最速の英雄、アキレウスの姿だった。

 

 その彼の宣言は心強さと気高さを持ち、彼女たちの不安を一掃する。

 

 

「俺も忘れちゃ困るぜ?」

 

 

 そんなライダーの横で、自分もいるぞと声を上げるマスターのササジマ。

彼もまた、強靭な肉体を転生特典に選び、鍛え、戦い抜いてきた猛者だ。

 確かにライダーには及ばない、いや及んだら怖いのだが、それでもマスターとして、一人の戦士としての意地があるのだ。

 

 

「あっ……ありがとうございます!!」

 

「その礼は全部終わるでとっておきな」

 

 

 頼もしいライダーの言葉に、思わず感極まりもう一度頭を下げて感謝を述べるあやか。

されどライダーはその感謝は今ではないと、ニヤリと笑って豪語するのであった。

 

 

 だが、懸念はそれだけではない。

彼らを引き込めたのはよかったが、それだけでは駄目なのだ。

あやかはそれを考え、仲間の方へと体を向け、話しかけた。

 

 

「とは言え…………、この作戦は私が、今考えたことです…………。みなさんを危険にさらすことにもなります」

 

 

 それは今ここにいる仲間を全員、危険な場所へと踏み込ませるということだ。

ここよりも敵陣の中心へと移動しなければならないのだから、当然そうなる。

 

 

「みなさんが無理と言うのであれば、彼らの言う通り、この場から脱出をしたいと思います」

 

 

 故に、一人だけの考えで全員を巻き込むわけにはいかない。

全員が納得してくれなければ、この計画はなかったことにして、速やかに危険地帯であるこの場所から脱出すると、あやかは宣言した。

 

 

「…………どうでしょうか?」

 

 

 あやかの問いかけに、仲間は無言で考えるそぶりを見せた。

そこで最初に、静かに口を開いたのは千雨であった。

 

 

「まー…………、はっきり言えば無茶苦茶怖い」

 

 

 千雨は自分の意見を、率直に言葉にした。

今も怖いが敵陣へと突入していくのであれば、さらに恐ろしいと語る。

 

 そもそも千雨はこういった危険なことに首を突っ込むのは好まない。

平凡で何もない生活を愛する千雨は、危険を目の前にしてそれに入っていくような人間ではない。

だからこそ、安全だったはずの避難所として、ジョニーの船に乗ったはずだったのだ。

 

 

「ここに来ちまったのは事故、と言うより敵の策略っぽいし、さっきもそれで襲われた訳だし」

 

 

 が、それも虚しく敵にこの場所へと強制的に移動させられ、気が付けば危機のど真ん中だ。

しかも先ほどはかなりヤバイ敵がジョニーの船を叩き落し、自分たちも危なかった。

 

 

「ここは敵地のど真ん中で、いつどこで何が起こるかわからねえし…………、突然敵が襲ってくるかもしれねぇ」

 

 

 さらに、敵地と言うこともあり、これからどうなるかさえわからない、先が見えない不安ばかりだ。

そんな状況だというのに、それ以上に危険な掛けを持ち掛けるあやかの作戦には、当然恐怖を覚えるものだ。

 

 

「…………だけど、こっちには村上のアーティファクトがある。完全に気配を消して忍び込める」

 

 

 安全第一で危険に首を突っ込まない千雨は、以前ならば全力でそんな作戦を止めようとしただろう。

気配が完全に消える、存在感が消滅するアーティファクトがあっても、以前ならば絶対に止めた。

 

 だが、それは以前の千雨だ。

この世界に来て色々ぶっ飛んだ状況に置かれた千雨は、精神的にタフになったのかもしれない。

 

 確かに危険な掛けだが、敵が自分たちを認識できなければ、安全に行動できる。

それは別の場所で戦っている仲間にはないアドバンテージだ。

 

 

「それがあれば安全に動けるだろうし、心強い助っ人も加わった。ネギ先生らが捜してる鍵を入手できる可能性があるなら、それに賭けてみるのもいいかもなって」

 

 

 今、ネギやその仲間たちは、魔法世界を救うための鍵、造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)のグランドマスターキーを血眼になって探しているはずだ。

それの手がかりがつかめるのであれば、こちらとしてはかなり有利になる。

 

 さらに、カズヤと法が抜けた穴は大きいが、それを補う以上の味方ができた。

その味方は手を貸すことに、全力を出すと宣言してくれた。故に、あやかの作戦も悪くない、と千雨は思い言葉にしたのである。

 

 それに、カズヤと法なら今は敵と戦っているはずだ。

確かに二人が心配ではあるが、アイツらなら勝てるはずだと信用している。

戦いが終わればほっといても勝手にするだろうし、こちらが勝手に動いても大丈夫だろう、と判断した。

 

 

「……! いや! これはあくまで私個人の意見であって、強制するとかそういうのじゃなくてだな!!」

 

 

 自分の意見を言い終えたその直後、集中する仲間の視線に気が付き、ワタワタと慌てながら言い訳のようなことを口走りだす千雨。

今のは自分の意見でしかなく、説得するとかそういう意味はないと騒ぎ出したのだ。

よほど全員から注目を受けたことに動揺したようである。

 

 

「わっ……私も、うまくやれるかはわからないけど…………、やってみてもいいと思う」

 

 

 そんな千雨の言葉を聞いた夏美も、感化されたのかあやかの作戦をやってみようと言い出した。

自分のアーティファクトが役に立つのならば、仲間の役に、何より今戦っているであろう小太郎の役に立てるのであれば、自信はないけどやろうと思った。

 

 

「私も委員長の意見に賛成するよ」

 

「ウチも!」

 

「本当はあんまり危ないことはしてほしくないけど…………、個人的には俺もOKだよ」

 

 

 夏美につられてアキラが賛成を唱えれば、亜子や三郎も同意を宣言した。

 

 

「私だって問題ないわ!」

 

「みなさんがそうおっしゃるのであれば、小生はただ付いていくのみ」

 

「私も同感です」

 

 

 それに続いて元気よく声を上げたのはアーニャだ。

アーニャは彼女たちを守護するためにここにいるのだ。

敵と戦うことになろうとも、気にすることはない。

 

 マタムネも当然同じであり、何があっても仲間を守護するだけだ。

さらに茶々丸もいかなる状況であれ、エヴァンジェリンから任された仲間を守護するという任務を遂行するだけと言葉にする。

 

 

「まっ、ここまで来ちゃった訳だし、とことんやるのは嫌いじゃないね」

 

 

 和美も敵の策略とは言え、敵地のど真ん中に来てしまったのであれば、やってやるしかないと笑う。

 

 

「私もいいとは思うけど、ジョニーさんは……?」

 

「俺も問題ないさ。何をどうするかは詳しくわからねぇけど、世界のためだろ? 最後までこの船に乗っかっていくだけさ!」

 

「ありがとう!」

 

 

 まき絵も大丈夫だと言うが、気になったのはジョニーのことだった。

ジョニーは巻き込まれた感じでここにいて、先ほど大切な飛行船を失った。

 

 魔法世界人の彼が一番危険なのではないかと思いジョニーに尋ねれば、最後まで付き合うと宣言したではないか。

まき絵はそんなジョニーへと、元気よく礼を言って笑顔になった。

 

 

「魔法使いとして、この状況は見過ごせませんし、私も賛成します」

 

「えっ!? 本気で!? 行く気っスか!?」

 

 

 当然、魔法使いである高音も、この作戦に異議はない。

このままでは魔法世界が滅ぶのであれば、それを阻止しなければならないと思うからだ。

 

 が、ビビりの美空は正直嘘であってほしいと驚く。

 

 

「確かに、危険でしょうけれども、この状況下で二手に分かれることは不可能ですし」

 

「そうですね。見つからないとは言いますけど、お姉様の言う通り、何かあった時のために固まっていた方がいいと思います」

 

 

 高音はこの作戦を危険だと理解しているが、この状況で作戦を決行する方と避難する方に分かれることはできない。

何せ夏美のアーティファクトは一つしかないのだ。

 

 また、高音の言葉に従者の愛依も、夏美のアーティファクトを頼りにしなければならないのを現状としていると判断。

生命線がその孤独の黒子であり、脱出するにしても必須だと考えた。

 

 

「はー…………、しょうがない…………、私も腹をくくるかー……」

 

 

 そんな二人の話を聞いた美空も、半ば諦めムードな様子で先に進む覚悟を決めるしかないと、気合を入れなおすことにした。

 

 

「私たちも問題ないにゃ」

 

「フェイト様や剣さんだけに任せてるのは、やはり性に合いませんからね」

 

「…………そうですね。かなり危険だと思いますが、やる価値はあると思います」

 

 

 そして、フェイトの従者である暦と栞の二人も、その作戦を当たり前のように受け入れた。

今、この宮殿のどこかで戦っているフェイトや剣のことランスロ―のためにも、何かをしたいと思っていたからだ。

 

 その後ろでドラゴンの姿の環も、首を縦に揺らして肯定する様子を見せていた。

 

 

 彼女たちは”原作”だと、平和な場所で何事もなく生きてきた3-Aの生徒たちを敵視していた。

それは自分たちが悲惨な目に遭った過去があるのが原因だった。

 

 はっきり言うと”こっち”の彼女たちも原作ほどの敵意はないにせよ、3-Aの生徒たちと行動を共にするのは、フェイトの言いつけだから程度の認識であり、それ以上の意識はなかった。

 

 とは言え、なんだかんだ近くで見て、守るために行動した。

別に仲間と言う程の絆はまだないが、多少なりと思うところはあったらしい。

 

 

 栞の姉も危険を承知で、この作戦は必要だと判断したようだ。

正直なところ無茶をしてほしくないと思っている栞の姉だが、フェイトが頑張っているであれば、自分も頑張らないと、と思ったのだ。

 

 

「……みなさん、……ありがとうございます」

 

 

 仲間全員の同意を得られたあやかは、感激のあまり涙をにじませて深々とお辞儀をして礼を述べた。

そんなあやかを見守るように、仲間はただ微笑んでいた。

 

 全員が同じ目的を得て動く。

これでチームとして大切な結束力を得たのである。

 

 

「説得は終わったみたいだな」

 

「はい」

 

 

 話が終わったのを見て、ニヤリと笑いながらササジマがあやかへと声をかけた。

あやかもほっとして返事をしたのち、次の行動のために気合を入れなおす。

 

 

 こうして、彼らは先ほどの作戦を開始し、行動に移るのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 …………少し時間をさかのぼり、宮殿内の薄暗い広間。

 

 

「馬鹿な……倒したと思ったが……」

 

 

 そこでは覇王が驚きの眼で目の前の状況を見ていた。

 

 

「ウウオオオォォオオオォォォォッッ!!!!」

 

 

 それは、なんと先ほど倒した斧を持った巨大な男が、再び立ち上がってきたのだ。

今しがた燕返しを直撃させ、倒したと思っていたのだが。

 

 なんということだろうか、これほどまでにダメージを与えても、男は叫び声と共に両足で大地を踏みしめたのである。

 

 

「ぐっ!? しかもこの能力(とくてん)…………、いや……まさか…………? そんなことが…………?」

 

 

 また、覇王は先ほど敵の特典を見た。

特典の内容を理解し、この状況があまりよくないことも理解した。

だが、それ以上に、敵の正体に何か引っかかりを覚え、少しづつそれを察し始めていたのである。

 

 

「ウオオオオォォォォオオオォォッッッ!!!!!!!」

 

「なっ!? ぐうっ!!??」

 

 

 そして、男は立ち上がって叫んだと思った瞬間、一瞬にして覇王に肉薄し、腕とともに落とされた斧を左腕で握り、横なぎに振りまわしてきたではないか。

 

 覇王も即座に”神殺し”で防御するが、そこで強烈な重圧を感じたのだ。

それこそ、とてつもなく強い重力だった。だが、それ以外にも強烈な虚脱感を感じたのである。

 

 

「ガァッ!?」

 

 

 覇王は重力と虚脱感で生まれた隙をつかれ、おもいっきり振り下ろした斧の衝撃で吹き飛ばされ、壁に衝突して苦悶の声を漏らした。

 

 

「ハァ……ハァ……。生命エネルギーを奪われ続けるって、結構キツいもんだね…………」

 

 

 今の一撃は強烈だった。

防御した神殺しが真っ二つにへし折れており、その衝撃は覇王の予想を上回るものであった。

 

 しかし、覇王はO.S(オーバーソウル)が破壊された以外の別のことで焦りを感じていた。

それは先ほどからずっと、この男と対峙してから、覇王の生命エネルギーを吸われ続けているということだ。

 

 覇王とて人間であり生物である以上、生命エネルギーを失えば当然体が弱まる。

いくら大量の巫力と魔力があれど、生命エネルギーがなくなってしまえば、関係なく死に至るのだ。

 

 さらに、目の前の男は切り落とされた腕をつかむと、そこから腕が吸収され、落とされた部分の腕が一瞬で再生したのである。

腕だけではない。先ほどの攻撃で与えた傷すらも、再生されていくではないか。

 

 それを見た覇王は、やはり、と思った。

この男の特典、その正体は――――。

 

 

「…………その姿、その斧、やはり()()()の男…………」

 

 

 覇王は目の前の男の武器、そしてその姿から、ずっと脳内にこびりついていた既視感の正体に気が付いた。

男の攻撃に感じたその既視感の正体、それに覇王は思い当たる存在がいたいのだ。

 

 …………500年前、覇王が前世で最後に戦い敗北して死んだ、その時に戦闘した相手。

そう……、目の前の斧を握りしめる大男の正体とは、5()0()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「そして、その特典は…………、"ヴィクターⅠ"か………!」

 

「…………」

 

 

 大男の全身を覆っていた真っ黒いローブが剥がれ、その全貌を覇王はようやく捉えることができた。

その姿は、鍛え上げられ筋肉質な肉体を持ち、全身がまるで血のように赤く、薄緑色の長髪をなびかせたものだった。

 

 また、その男の特典が”武装錬金に登場するヴィクターⅠの能力”だったのである。

さらに、この肌の色ということは、さらに強大な力を得た”ヴィクター化の第三段階”にまで、能力が変貌しているということだ。

 

 

 そして、そう語る覇王を、男は黙って睨みつけていた。

500年前…………最後に葬り去った黒い長髪の男のことを思い出しながら。目の前の少年が、その男の転生した姿なのを察しながら。

 

 

「500年前、呪い殺したはずだったんだけど。いや、さっきも倒したはずだったんだけどさ」

 

 

 あの時覇王は敗北して一度死んだが、死に際に呪いを男へと与え、同士討ちに持ち込んだはずだった。

だというのに男は死なず、いや、たぶん一度死んだのだろうが、再び蘇ったのだろうと覇王は推測のである。

 

 

「”ヴィクターⅠ”……、それほどまでに不死身だったとは…………」

 

 

 ヴィクターⅠ、真の名はヴィクター・パワード。武装錬金に登場する人物であり、作品のラスボス。

覇王が持つ特典元である麻倉ハオと同じく、物語上で倒されなかったラスボスの一人だ。

 

 黒い核鉄を埋め込まれたことにより、ヴィクターⅠとして覚醒。

腕を斬られても再生することが可能で、強力なエネルギードレインを呼吸するように無差別に行う。

さらに生身で宇宙へと出ることが可能という、人間・生命体として逸脱した存在であり、不死身と言っても過言ではない。

 

 男もまた、同じ能力を有しており、呪いで死に心臓が止まったと言うのに、再び生き返った。

何故なら、彼の特典でおまけとして与えられた黒い核鉄が、心臓の代わりになったからだ。

 

 さらに、周囲のあらゆる生物、動物から微生物までその全てから、生命エネルギーを奪いつくした。

だからこそ、一度死んだ男は、生き返ることができたのである。

 

 

「…………もう一度、死ぬがいい」

 

「しゃべったと思えばそれかい? 酷い奴だな」

 

 

 男は覇王の言葉に何かを感じた様子も見せず、淡々と、静かに死ねと言い放つ。

そんな男に覇王は、冗談のような言葉を返しながら、さてどうするかと考え始める。

 

 はっきり言うとこの状況はあまりよろしくない。

男の能力で生命エネルギーを吸われ続ける現状、不利なのは否めない。

 

 

「まあいい、お前がどんな理由で僕を狙うかは知らないが…………、邪魔をするなら今、この場で滅びてもらう」

 

「それはこちらの台詞だ。再びあの世に送ってやろう」

 

「おかげであの世ならもう見飽きた」

 

 

 覇王は目の前の男が自分を狙う理由を知りたかったが、今の状況でそれを聞くのはこちらが不利になっていくだけだ。

何せ、今もずっとエネルギードレインを受けており、どんどん自分の中にある生命エネルギーは減り続けているのだから。

 

 故に、速攻しかないと、覇王は再び神殺しをO.S(オーバーソウル)し直し、構えを取る。

 

 目の前の男も覇王の挑発に挑発で返しながら、大戦斧の武装錬金・フェイタルアトラクションを強く握りしめた。

 

 

 …………そんな緊迫した空気の中、覇王は1000年ほど修行した場所であるあの世など、もう飽き飽きだと吐き捨てながら、自分が狙われる理由をある程度脳内で並べていた。

 

 500年前でさえ、この世界の神の言いつけ通りに、危険な転生者を狩り続けるだけの人生だった。

いや、狩った転生者の友人であるならば、まあ恨まれても仕方ないとは思うが。

 

 されど、そんな様子ではなく、500年前も突如として襲い掛かってきたのが目の前の男だ。

故に、覇王は自分を狙う理由がわからないし、思い当たる節がまったくなかった。

 

 

 が、そんなことを気にして戦えるほど甘い相手ではない。

前世では敗北したが、今世でも敗北するわけにはいかない。

大切なものが増えたからだ。

 

 だからこそ、覇王は今考える必要のない、どうでもいい情報を排除し、目の前の男だけに全神経を集中させる。

 

 

 …………また、大男が転生者を襲う理由、それは500年前、覇王と衝突する以前にあった。

 

 

 ――――彼の名はヴィクトール・ハルワルド。

武装錬金に登場するヴィクター・パワードの能力をもらった転生者。

また、エネルギードレインが無差別であることを考慮し、完全な自身の能力操作を二つ目の特典に選んだ。

 

 ヴィクトールは”原作”が始まる500年も前に、地球側の魔法世界人として生まれ、都会から離れてひっそりと暮らしていた。

 

 彼は”原作”に興味がなく、このまま平和に過ごせればよいと考えていた。

このような強い特典を選んだのは他に転生者が多くいると神から聞いたからであり、本人は戦おうという気はあまりなかった。

 

 とは言え、鍛えなければ能力を使いこなせないとも転生させた神から聞いていたので、自衛のために鍛えることには余念がなかった。

 

 

 かれこれそのような穏やかな生活を続けていた彼は、妻を持つようになった。

小さい街での小さな出会いであった。

 

 その出会いから彼は娘を持った。ありがたいことであった。

されど、その幸せはずっと続くわけでもなかった。

 

 

 それは唐突に発生した。

巨大な魔力と魔力の塊が衝突しあい、オリンポス山が噴火したのではないかと思われるほどの、巨大な爆発が起こった。

大規模な爆発であり、半径20㎞を焼き尽くし、滅ぼした。

 

 

 ヴィクトールはその時、用があってその場にいなかったが、爆発がきのこ雲になって登っていくのを見て、すぐさま戻った。

そこで見たのは、何もなくなった我が家の跡地であった。

 

 妻と娘、そして家、全てを一瞬で失った彼は、絶望に嘆き苦しんだ。

その後に襲ってきたのは、とてつもないドス黒く燃える怒りだった。

もはや怒りだ。怒りしかない。

 

 そして、それを行った転生者の二人に、心身全てを飲み込む程の怒りをぶつけた時に、頭髪が薄緑に発光し、全身が褐色に染まったのである。

それこそが特典”ヴィクターⅠ”のヴィクター化が覚醒した瞬間であった。

 

 爆発を起こした転生者二人は、ただ決闘をしていただけであったが、自分たちの戦闘で起こる被害を考えていなかった。

そんな二人へとヴィクトールは、強烈なエネルギードレインを行い身動きを封じ、大戦斧の武装錬金”フェイタルアトラクション”を使い叩き潰した。

 

 文字通りの叩き潰しであり、フェイタルアトラクションの特性、重力操作によって重力を数百倍に重くし、そのまま彼らに斧を叩き落したのである。

二人を叩き潰して葬ったヴィクトールであったが、何も戻ってこない虚しさだけが胸を埋め尽くした。

 

 その後、ヴィクトールは他の転生者さえも危機感なく暴れている姿を見て、この世界にはびこる転生者(ゴミ)をすべて一掃することに決めたのだった。

 

 

 

 また、その理由があるからこそ、あえて完全なる世界に所属している。

”完全なる世界”と言う組織とはすなわち、”完全なる世界”という幸福な夢に移行するのが目標の組織だ。

 

 ”完全なる世界”と言う自分の望む優しい夢へと囚われ、二度と目を覚まさない。

それはすなわち、”死”と同じだと理解し、”完全なる世界”に所属する転生者を一掃できると考えての行動だった。

 

 そう、最終的に覚めぬ夢に入り込み、肉体は朽ち果てる。

それは現実的には死であり、憎き転生者を大量に殲滅できる方法だ。

 

 つまり、この組織の目標が完遂すれば、所属している転生者は自動的に死ぬ。

だから目の前の男はこの組織に協力し、率先して()()()()()()を促しているのである。

 

 

 だが、500年も前に生まれたヴィクトールが、再びこの時代に現れたのにも理由がある。

500年前に覇王に呪い殺され蘇生したはいいが、呪いのダメージはやはり大きかった。

 

 そのダメージを長期にわたって回復する必要があった。

故に、誰も近寄れない魔境の洞窟の奥にて、自らを封印するかのように400年ほどの間長い眠りにつき、呪いのダメージを回復することにした。

そして、転生者が多く現れると言われた”原作前”の時代に目を覚まし、再び活動を始めたのである。

 

 

「消えろッ!!」

 

 

 ヴィクトールは自分の家族を失った絶望、悲しみ、怒りを思い出し、その全てを覇王へとぶつけるかのようにフェイタルアトラクションを正面から叩き落す。

 

 

「ぐうう……。重力は”自然の力”……ッ! 防ぎきれないのは、やっぱりしんどいなぁ!」

 

「……っ!」

 

 

 覇王は上から振り下ろされるフェイタルアトラクションを、神殺しで簡単に受け止める。

しかしだ、物理的な攻撃を受け止めても、武装錬金であるフェイタルアトラクションの特性は防ぎきれない。

 

 その特性は強力な重力の指向性操作。

これは自然の力であり、O.S(オーバーソウル)の防御では完全に防ぐことができない。

しかも、フェイタルアトラクションの能力であれば、小型のブラックホールを作り出すことすら可能なほどの重力操作が可能だ。

 

 この能力で武装錬金中で上位に位置する、巨大ロボのような全身甲冑の武装錬金・バスターバロンをも一撃で破壊している。

 

 その恐ろしく強力な重力の一撃が、覇王の全身に襲い掛かってきているのだ。

覇王ほどの存在ですら、少しの弱音も吐きたくなるというものだ。

 

 

 だが、やられっぱなしの覇王ではない。

気で肉体を強化してフェイタルアトラクションをいなし、そのまま回転した勢いでヴィクトールの胴体を切り裂いた。

 

 ヴィクトールもまさかこうも容易く返されるとは思っておらず、驚きの表情のまま覇王から距離を取った。

 

 

「ちょっとやそっとじゃすぐ再生か。僕の生命力を奪って再生してる訳だから、本当に最悪だ」

 

 

 だが、ヴィクトールの傷はすぐさま回復していく。

覇王はそれが自分から奪っている生命エネルギーで行われていることに気が付き、腹立たしいと毒つく。

 

 覇王が500年前、ヴィクトールに敗れた理由の大半が、このエネルギードレインにある。

 

 500年前も今と同じく、覇王はヴィクトールから不意打ちを受けた。

その時も同じようにエネルギードレインを受け続け、生命エネルギーを吸われつくした。

さらに、強力な重力の攻撃もあり、500年前の覇王は敗北したのであった。

 

 ヴィクトールは二つ目の特典に、”自身の能力の完全操作”を貰っている。

この効果によりエネルギードレインの標的を覇王のみに絞り、効率よくエネルギードレインを行ったのだ。

今もそれを受け続けている覇王は、実はかなり危機的状況なのである。

 

 

「だったら、もう奥の手を使わざるを得ないか」

 

 

 ならば、さらにもう一つ、相手を確実に滅ぼす力が必要だ。

もはや時間はかけられない。まだまだ隠していた奥の手を、覇王は使うことを選んだ。

 

 

O.S(オーバーソウル)! S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)! リョウメンスクナッ!」

 

 

 覇王は黒雛と神殺しを解き、再びS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)とリョウメンスクナの両方を呼んだ。

それはこれから行う奥の手に必要なことだ。

 

 

「複霊甲縛式O.S(オーバーソウル)

 

 

 そして、覇王は一言、そのO.S(オーバーソウル)の技法名を述べた。

 

 それは名の通り複数の持霊を用いて、同時に両方を融合するようにO.S(オーバーソウル)し、さらに甲縛式の技術で武装する技能。

複霊甲縛式O.S(オーバーソウル)であり、W.O.S(ダブルオーバーソウル)とも呼ばれる技術。

 

 覇王がここぞという時のために、開発しておいたO.S(オーバーソウル)

覇王の持霊たるS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)とリョウメンスクナの二体を融合し、愛刀へとO.S(オーバーソウル)することで完成する新たなO.S(オーバーソウル)だ。

 

 

「”黒雛二型”」

 

 

 ――――両肩にはリョウメンスクナの顔を象った、灰がかった白い大型の髑髏。

そこから全身を覆うほどの大きなマントのような漆黒の鎧。ボディの中心には黒雛と同じくS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)の顔。

 

 両肩から伸びる、黒雛の時よりも小型化した折り畳み式のアーム。

右腕の先端には神殺しを、さらに機械のような形状にした白色の巨大な日本刀。

 

 背中には当然、黒い巨大な二本の蝋燭(キャノン)

その下には同じような形をした黒い二本の推進装置(スラスター)が、まるで蝋燭(キャノン)とXの字になるかのように配置されていた。

 

 これこそが黒雛二型。

覇王の奥の手。覇王の本気。覇王の決意のO.S(かたち)だ。

 

 

「オオオオォォォォォッッッ!!!」

 

「重力、本当に厄介だ……」

 

 

 だが、その脅威を見せつけられても、ヴィクトールは止まらない。

大声で叫びながら、一瞬にして覇王へと再び肉薄し、フェイタルアトラクションを覇王へと叩きつける。

 

 覇王は再びそれを刀で受け止めるも、強烈な重力の渦に捕らわれてしまう。

されど、されど!

 

 

「――――けどね……!」

 

「っ!!??」

 

 

 覇王はびくともしない。

先ほどは苦しめらた強烈な重力も、黒雛二型には通じない。

 

 これにはヴィクトールも驚いた。

馬鹿な、と言う顔を見せたヴィクトールは、ならばと、さらに力を加えながら重力を増幅させる。

 

 

「こっちだってそのぐらい、なんてことないぐらいに補強した」

 

「――――ッ!!?」

 

 

 だが、覇王はそれでも砕けない。

O.S(オーバーソウル)は強化した。

 

 肉体だって先ほど以上に気で強化し、強靭にした。

生命エネルギーを奪われ続けた現状では苦しいが、重力に対抗するには必要だった。

 

 先ほど言ったはずだ。これが奥の手であると。

そう強気で訴えれば、ヴィクトールは目を見開いてたじろいだ。

 

 その隙に覇王は、刀を横なぎに振るってヴィクトールの胴体を切り裂く。

ヴィクトールは血しぶきを出しながら、後方へと下がるしかなかった。

 

 

「正直生命力をごっそり抜かれちゃったからね。時間はかけないさ」

 

 

 正直言って、覇王は思った以上に崖っぷちに追いやられている。

肉体的な損傷自体はほとんどないし、あっても巫力で治療ができる。

 

 しかし、生命エネルギーだけはどうにもならない。

これを増幅したり外部から取り込む術を、覇王が持っていないからだ。

 

 故に、これ以上の消費は避けなければならない。

よって、超短期決戦するべく、覇王は全身全霊をもってヴィクトールへと持てる全てをぶつける。

 

 

「見よう見真似だが”神鳴流奥義・雷鳴剣”ッ!!」

 

「ウウオオォォッ!!??」

 

 

 雷鳴剣とは、神鳴流奥義の一つである。

名の通り雷を纏った剣で敵を切り裂く技と言う単純明快な技である。

 

 刹那などの神鳴流奥義の使い手などを見てきた覇王は、猿真似程度ではあるが神鳴流奥義の通常奥義ならば扱えるようになっていた。

とは言え、普段使う必要がないため、あまり見せることもない上に、奥義が使えることは木乃香も刹那も知らないだが。

 

 この奥義によって雷属性のダメージを与えられたヴィクトールは、雷属性が持つ麻痺効果のせいで一瞬だけ動きが鈍った。

覇王はこうなることを予想して、この奥義を選んでヴィクトールへと命中させたのだ。

 

 

「――――秘剣、”燕返し”」

 

「ッ!!!!」

 

 

 隙が生まれて一瞬だが無防備となったヴィクトールへと、畳みかけるように覇王は構え、その技を即座に繰り出す。

何度も使ってきたその技を、燕返しを。

 

 見事なタイミングで放たれた技に、ヴィクトールは回避することができず、右腕と左肩と左わき腹を同時に切り裂かれた。

二度目だと言うのに避けきれぬ技の直撃に、再びヴィクトールは苦悶の表情を見せながら、血しぶきをまき散らす。

 

 

「”鬼火”」

 

 

 さらに、とどめとばかりに幾度も強敵を葬ってきた、その技も追撃に使う。

ご存じ鬼火だ。

 

 覇王がその名を口に出せば、背中の二本の蝋燭が下がりヴィクトールへと標準を定め、けたたましい炎の塊が放たれた。

 

 

「ゴオオオォォォォォッッッ!!!!」

 

 

 もはや火山が噴火したかのような爆発を受けながら、ヴィクトールは喉がつぶれるのではないかと言うほどの声で絶叫した。

たとえ第三段階までヴィクター化が進んだヴィクターⅠの肉体であっても、この猛烈な炎の爆発には耐えられない。

 

 

「グッ…………無念…………だ………………」

 

 

 大きく肉体を損傷し、もはや動けない程になったヴィクトールは、悔しさを吐き出すと、そのまま前のめりに倒れた。

だが、ヴィクトールは気を失って倒れても、それだけでは終わらない。

 

 

「倒れても自動でエネルギードレインを行うのか……。どおりで死なない訳だ…………」

 

 

 ヴィクトールは意識がないというのに、エネルギードレインを自動で行っていたのだ。

覇王もそれにすぐに気が付き、厄介な存在だと愚痴をこぼす。

 

 また、なるほど、この能力のおかげで500年前に呪い殺したというのに生き延びたのか、と覇王は納得もした。

意識がなくともエネルギーを回収できるのだから、そりゃそう簡単には死ぬわけがない、と。

 

 とは言え、ヴィクトールは「近くに敵対者しかいない時」のみ発動するように能力を制限しており、無関係な人が巻き込まれないようにはしている。

ただ、人間以外には適用してないので、微生物や野生動物は別である。

 

 

「ならば、”牢獄”へ突っ込んでしまうか」

 

 

 そこで、バァンと陽を封印した魔法球とは別に、予備として用意していた牢獄用魔法球へとヴィクトールをしまい込む。

これでようやくエネルギードレインが解除され、安全できるようになった。

 

 ただ、いつものように「”特典”をS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)に食わせないのは、そちらの方が手間だからだ。

 

 今O.S(オーバーソウル)している黒雛二型を解除し、再びS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)O.S(オーバーソウル)して食わせる必要がある。

O.S(オーバーソウル)自体は瞬間的に終わるが、生命力をだいぶ奪われたこの状況で、しかも敵地の内部で一瞬でも隙をさらすことはしたくない。

 

 

「しかし…………、ふぅぅぅ……、こっちもかなりの痛手を負わされた……」

 

 

 だが、その直後、覇王は膝をついて深呼吸を行った。

流石に長い間エネルギードレインを受けていたのが、今になって強烈な疲労として出てきたようだ。

 

 

「…………さて、これからどうするか……」

 

 

 かなり生命エネルギーを吸われ、思った以上に疲労が蓄積されていたのを自覚した覇王。

この後、何度戦闘を行えるだろうか、と一瞬頭に過ったが、らしくない、と頭を振ってその考えを捨て去った。

 

 それに、ここで長々と休むわけにはいかない。

予想ではそろそろ上の方で仲間たちが戦闘してるはずだ。

 

 そこには弟子である木乃香もいるだろう。

弟子が戦っているというのに、師匠が休むなどもってのほかだ。

 

 だから、覇王は再び立ち上がり、黒雛二型で飛び上がり、上部を目指して動き出したのだった。

 

 

 

 

 

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