理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百八十二話 竜の咆哮

 

 場所を変えて、ここは墓守り人の宮殿、その外壁部分。

竜の騎士・バロンとフェイト、ランスロー、エヴァンジェリンが未だに大規模な戦闘を繰り広げ、最初に戦闘していた区域から移動し、外壁の外へと出たようだ。

 

 

「流石に中々にタフだな」

 

「大きな一撃こそ与えられてはいないが、それなりにダメージは蓄積されているはずだが……」

 

 

 エヴァンジェリンは苦々しい顔で、バロンのタフネスさに改めて慄く。

同じくランスローも、先ほどから竜特攻である無毀なる湖光(アロンダイト)でチマチマダメージを与えているというのに、未だに無傷のように振る舞う竜の騎士に舌を巻いていた。

 

 

「貴様らごときには負けはせん」

 

「いやはや、こちらは三人だと言うのに、攻めあぐねいている…………。予想以上だ」

 

 

 バロンは額の紋章をさらに輝かせ、三人をにらみつけて剣を構えながら、負けぬと豪語する。

フェイトはそんなバロンに、自分が考えていた以上に強敵だったと、改めてバロンの強さをその身で実感していた。

 

 

「ふん! たとえ竜の力に対抗する手段があろうとも、一つしかなければそんなものだ」

 

 

 確かにランスローが特典で得た無毀なる湖光(アロンダイト)は竜特攻を持ち、追加ダメージを負わせる。

これによって竜の騎士の最強の守りである、竜闘気(ドラゴニックオーラ)を貫通して傷を負わせることができた。

 

 されど、所詮はそれだけだ。

大ダメージとなるであろう宝具の真名開放さえ無防備な状況で受けなければ、ダメージを最小にして問題なく戦闘続行できるのだ。

 

 また、竜闘気(ドラゴニックオーラ)を貫通するだけの攻撃を、彼らはそれしか持っていない。

何せこの力は、同じ力である竜闘気(ドラゴニックオーラ)を使って、ようやく貫通することができるほどの防御なのだ。

彼らにそれを突破しろというのは、難しいというものだ。

 

 

「もうすぐ目的は果たされる。目障りだ………、今度こそ完全に抹消してやろう」

 

「来るかッ!」

 

 

 もうすぐ、もう目の前まで計画完了が近づいてきている。

ここで邪魔をされて全てを無駄にする訳にはいかない。バロンはそう考え、目の前の三人を抹消すべく、真魔剛竜剣を天に掲げた。

 

 その何度も見たモーションに、エヴァンジェリンはすぐさま反応した。

何度もその身に受けた、あの絶大な雷を纏った一撃を。吸血鬼でなければ即死していたとまで思った、あの技が来ると。

 

 

「受けるがいいッ!! ギガ…………」

 

 

 そして、天に掲げた真真剛竜剣へとギガデインが落雷し、バロンは高く飛び上がり、三人目掛けて急速落下を始めたのだ。

 

 

「甘いわね!」

 

「何っ!? グッ!?」

 

 

 だが、突如現れ、そこでそれ以上の速度で落下し、鋭い脚で蹴りを流星のごとく放ってきた少女が一人。

完全に不意打ちであったせいでバロンは、その蹴りを顔面に受け、吹っ飛ばされたのである。

 

 それによって今の技は不発に終わり、竜の騎士はすかさず受け身をとって体勢を立て直した。

 

 

「戻ってきたのか」

 

「なんとか……ね…………」

 

 

 近くへと着地した少女を見て、エヴァンジェリンはほっとしたような顔を見せながら声をかけた。

そう、その少女こそ、魔槍の鎧を身に纏ったトリスだったのだ。

 

 バロン相手に素晴らしい蹴りをぶちこんでやったトリスだったが、先ほどの戦闘の疲労とダメージが残っており、少し苦しそうに返事を返した。

 

 

「…………その魔槍の鎧、ハルートから奪ってきたか」

 

「違うわね。()()()()()()()()()

 

「なに……?」

 

 

 バロンもトリスの姿を見て、魔槍の鎧を奪って戻ってきたと考え、それを言い放った。

だが、帰ってきた言葉は、バロンが想像していたものではなかった。

 

 トリスは言った。奪ったのではなく、譲られたのだと。

これは持ち主であるハルートが、想いとともに託したもの。敬愛する竜の騎士バロンを止めるために。

 

 今の返ってきた答えにバロンは、思わず聞き直してしまった。

何故なら、自分の弟子であり息子のように思っていたハルートが、まさか敵に塩を送ってやるなど思ってもみなかったからだ。

 

 

「ハルート…………、私を裏切ったのか…………?」

 

「いいえ、彼は最後まであなたの味方だったわ」

 

 

 バロンはハルートが裏切ったと思ったのか、ショックを受けた様子を見せ、少し狼狽えた様子を見せた。

が、トリスはハルートが裏切りなどしていないと、はっきりと答えてやった。

 

 

「この魔槍を私に託したのは、他でもなくあなたのためよ」

 

 

 これこそ裏切りではない。忠義のための行為だからだ。

バロンの行動を阻止することこそが、バロンを救うと信じて、一筋の光として託した望みなのだから。

 

 

「あなたの話も教えてくれたわ。そして、あなたを止めてくれと頼まれたのよ、彼に」

 

「…………」

 

 

 ハルートは語ってくれた。バロンの生前を。心境を。

故に、なおさら止めなければならないと。そう頼まれたのだと、トリスはバロンへと語りかける。

 

 バロンもトリスの言葉を静かに黙って聞いていた。

 

 

「あなた、前世には養っていた家族がいたのよね」

 

 

 そこでトリスは、バロンの生前のことを話し出した。

バロンには生前に家族がいたこと。愛する家族だったということを。

 

 

「その愛する家族から引き離されて、引き離した神を恨んだ」

 

 

 されど、死ぬことにより家族から引きはがされた。

それもただの死ではなく、神と呼ばれる存在の失敗によっての死であった。

だからこそ、その神を恨み、力を得た。

 

 

「でも、その神に復讐することは叶わず、故に…………、夢の中(完全なる世界)で家族の再会を望んだ」

 

 

 だが、転生させた神はこの世界にはいない。

いないものに復讐などできない。その絶望の中でバロンが見た微かな希望こそが、完全なる世界だったのである。

 

 

「だけどね、この魔槍の持ち主は、()()()()()()()()()()()()()()()()()と、話していたわ。このまま進んで終着点へと到達しても、世界を滅ぼした罪悪感に苛まれ、後悔に苦しむだろうと…………」

 

 

 が、ハルートはバロンがそのまま進むことこそが不幸なことだと理解していた。

そのことをトリスはバロンへと、言い聞かせるように語る。

 

 

「だから、この魔槍を託された。あなたを止めてほしいと言う、彼の願いのために」

 

「…………」

 

 

 それを理解していたからこそ、ハルートはトリスへと魔槍の鎧を託し、バロンを止めてくれと頼んだのだ。

その彼の一途な願いと想いを装備し、ここに駆け付けたのが自分だと、バロンへとトリスは宣言した。

 

 バロンもトリスの言葉に黙って耳を傾け、ハルートが裏切っていなかったことを理解したようであった。

 

 

「なるほど…………、彼は愛するものを失った、というのか……」

 

 

 そこで、その話を聞いていたフェイトは、目の前の強敵が大切な人を失ったことに、ショックを受けた様子だった。

実際は失ったのは愛する家族の方になるのだが、バロンもまた失ったようなものだろう。

 

 また、ランスローも、バロンの過去にある程度察した様子で、悲痛な表情を見せていた。

唯一エヴァンジェリンだけは、気にしていない風な態度を崩さなかった。

 

 

「…………ハルートめ、ずいぶんとしゃべったようだな」

 

「最初は言わないと言ってたけどね」

 

 

 そんな凍てつく空気の中、バロンはおしゃべりな奴だ、とこぼす。

口が堅く人の内情をベラベラとしゃべるようなやつではなかったはずだが、と思いながら。

 

 が、トリスもハルートは最初こそ言うわけないだろ、と言う態度だったとバロンへ言ってやる。

ハルートの忠誠は本物であり、バロンを思うが故の行為でしかないのだと。

 

 

「………………ハルートがお前に聞かせたように、私は愛する家族から引き離された」

 

 

 バロンは先ほどのハルートが語った自分ことを、間違いないと認めた。

 

 

「その絶望は、今も心を焼き尽くし、未だに燃え盛っているッ!!」

 

 

 故に、未だにその苦しみから逃れることなどできず、地獄の業火にこの身を焼き尽くすほどの絶望を抱いていると叫ぶ。

 

 

「愛していたものたちに、二度と会えぬ苦しみをッ! それも不手際と言う理不尽な理由でッ!!」

 

 

 そうだ。何がミスだ。失敗だ。

失敗だというのであれば、そのまま生き返してくれればいいものを、それを不可能と断じて強制的に転生させたのは、神だ。

 

 失敗、神の失敗だというくだらないことで、愛する家族から引きはがされたこの絶望は、計り知れるものではない。

バロンは怒りに身を震わせ、感情のままに叫び続ける。

 

 

「だから私は願ったのだッ!! どのような形であれ、再び家族と会うのだとッ!! そのために私は、どんなことをしてでも、それを叶えると誓ったのだッ!!!」

 

 

 この理不尽な苦しみから解放されるために、完全なる世界という夢であっても、家族に再会できるのであれば、それを選ぶと誓った。

もはや手段など問わぬ。絶望が消えるのであれば、なんでもいいのだ。

 

 

「この絶望は、お前たちには…………、わかるまいッ!!!」

 

 

 そして、これほどまでの苦痛、絶望、失望。

これを埋めるための行動を邪魔する貴様らには、この感情はわからないのだろうと、バロンは怒りのまま叫び続ける。

 

 

「…………確かに、僕にはあなたの絶望の全てはわからない」

 

 

 そんな感情を爆発させて叫ぶバロンへと、最初に言葉を発したのはフェイトだった。

フェイトはバロンが言う絶望は、バロンにしかわからないのだろうと言う。

 

 

「だけど、愛するものに二度と会えないという絶望感、喪失感、――――それだけは何となくわかる」

 

 

 されど、彼にも愛する人ができた。いとおしい存在だ。

その彼女は一度、この世界から消えそうになった。その時に感じた絶望と喪失感は、本物だった。

それを理解しているフェイトは、彼のそういう気持ちが、なんとなくわかったのである。

 

 

「ふん、その絶望が貴様だけのものだというのは、傲慢極まりない話だ。私とて、味わった地獄だ。…………もう600年も前になるがな」

 

 

 しかし、エヴァンジェリンは同情などしない。

何せ自分も600年前に家族を失ったからだ。一人孤独に100年ほど生きてきたが故に、バロンの話は身勝手だと感じたのである。

 

 

「それに、理不尽な理由だと? そんなもの、そこら中に転がっているものなんじゃないのか?」

 

 

 神の失敗で死んだ? それは確かに理不尽だ。

されど世の中そんな理不尽、探せばいくらでもあるだろう。

本当につまらないことで命を失う機会など、いくらでもあるのだから。

 

 

「確かに…………、当事者にしかわからない苦しみはあるだろうが…………、その苦しみを抱えているのは貴様だけではない」

 

 

 とは言え、愛するものと引き裂かれた気持ちは、本人にしかわからないだろうと、エヴァンジェリンも慮る。

されど、最後に言いたいこと、それはその苦痛が自分のものだけだと思うのは、傲慢な勘違いだということだ。

 

 それを盾に好き勝手していい理由にはならない。

その行為がさらなる悲劇を生むだけなのだから。悲劇の連鎖を繰り返すことになるのだから。

 

 

「私だって、好きでここに来た訳じゃないんだけどね」

 

 

 また、トリスもちょこっと口に出す。

トリスとて死にたかった訳でもないし、転生したかった訳でもない。

前世の世界で暮らしていたことに不満はなかったのに、ミスで転生させられたのはトリスもなのだ。

 

 

「口では何とでも言えるッ」

 

 

 が、そんなことは信じないという態度を頑なに崩さないバロン。

言うだけなら簡単だ、と吐き捨てる。

 

 

「…………その絶望、この私にはわかるはずがない」

 

 

 そんな時、口を開いたのはフェイトの従者となり剣の名を与えられた、ランスローだった。

 

 ランスローは転生自体に何か思うこともなかったし、最初は自分がこの世界を救う気の救世主気取りの頭の軽い転生者だったことも理解している。

故に、バロンの悲痛な心の中などわからないと発言する。

 

 

「されど、ハルートと呼ばれたものが語った、貴殿のことはわからなくもない」

 

 

 ただ、わかる部分もあると言った。

それはハルートというバロンの弟子の、バロンの心のやさしさを指す言葉だった。

 

 この世界の住人を犠牲にして得た幸福に、罪悪感を覚えるだろう。

その言葉がランスローに引っかかったのだ。

 

 

「貴殿は新オスティアで、この世界の住人を手にかけることに躊躇したのではないのか?」

 

 

 ランスローは新オスティアでバロンと対峙した時の、バロンの様子を覚えていた。

あの時、覇王と名乗る少年の鬼火を受け、かなり危機的状況に追い込まれていたバロン。

 

 

「でなければ、あの時、周囲を見渡して撤退する必要はなかったはずだ」

 

「………………」

 

 

 そのあと、完全なる世界のものの撤退の合図を見たバロンは、撤退していった。

だが、その合図の前に、周囲を見渡すような行動を取っていた。

 

 あれはきっと、自分の本気を出した時に、辺りがどうなるのかを考えていたのではないか?

本気で暴れたらこの街を破壊しつくすのではないか? それを恐れたのではないか? と、ランスローは考えたのだ。

 

 ランスローの推察を、バロンはただ静かに睨みつけながら聞いていた。

それが本当に図星であるかのように、何も言わずに額の紋章を輝かせたまま、黙っていた。

 

 

「そんな貴殿が、この世界を犠牲にして得た(せかい)に、何も思わないはずがない」

 

 

 行動に優しさが、気遣いがあった。

誰かを犠牲にしたり、被害を出さないような行動をしていた。

本気を出せば、勝てるかもしれなかったのに。

 

 そのような行動をするバロンが、果たして魔法世界を犠牲にしてでも得た夢で、幸せになれるだろうか。

罪悪感を抱えながら、終わらぬ夢を見続けるのではないか。

ランスロ―はそう言ったのだ。

 

 

「そうなのでしょう!?」

 

 

 そして、確認するかのような言葉を、ランスロ―はバロンへと放つ。

そうであってほしいと、そうでなければおかしいと、そう言う意味を込めながら。

 

 だが、その言葉がバロンの表情を、いっそう険しくさせたのだ。

 

 

「――――――()()()?」

 

 

 バロンは強烈な重圧を乗せた、絶対零度のように凍えるような言葉を発した。

強烈な殺気だ。その眼光は今にも嚙み殺すと言わんばかりの、怒りがこもったものだった。

 

 誰もがその言葉を聞いて、一瞬震えあがり冷や汗を流した。

なんだこの恐ろしさは。背筋が凍てつき、足が硬直して動けない。

 

 

()()()、――――()()()()()()()()()()?」

 

「……できれば、そうして欲しいと、私は望む…………」

 

 

 バロンは、何が言いたい? と言わんばかりに、動けぬランスロ―へと問いを出す。

お前は自分に対して、戦うのをやめろと言うのかと。

 

 ランスロ―はフルフェイスの兜の下で、緊張と哀れみが入り混じった表情をしながら、それこそが願いだと言葉にする。

 

 

「フフフフッ………、フッハッハッハッハッハッ!! ハッハッハッハッハッハッハッ!!!」

 

 

 が、ランスロ―の余迷い事を聞きいた瞬間、バランは盛大に笑いだした。

先ほどの冷酷な殺気を出していたかと思えば、今度は天に響くほどの笑い声をあげ出したのだ。

 

 

「もう遅いッ!! 私はもはや全てを捨てでも、永遠に眠り目覚めぬ夢へと向かうことを決意したのだッ!!!」

 

 

 そして、バロンは笑い終えると憤怒の表情で、怒りに任せて叫んだ。

もう遅いと。そんなことは理解している。理解していてやっているのだから、引き返すことなどできぬと。

 

 

「今更ッ!!! …………今更やめられるものかッ!!!!」

 

 

 そうだ、今更なのだ。

長く、ずっと完全なる世界のために行動してきた。

邪魔者を排除するために戦い続けた。もう今更、止まることなどできんのだ。止まれぬところまで来てしまったのだ。

 

 だから、そうだから、ここで本気を出すことを、バロンは決意した。

決意させてしまったのだ。

 

 

「ッ!? あれは竜の牙(ドラゴンファング)!?」

 

「本気でやるつもり!?」

 

 

 バロンは握っていた真魔剛竜剣を地面へと突き刺すと、片目につけていた装飾をはずし、握りしめた。

 

 竜の牙(ドラゴンファング)

竜の騎士が常に左目に着けている方眼鏡のような装飾。

また、それはこれから起こる、()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()

 

 それを見たランスローが驚くように叫べば、同じく転生者でありバロンの特典元を知っているトリスも、焦りの声を上げていた。

バロンが本気となったことで、これから恐ろしいことが起こるというのを理解したからだ。

 

 

「手から流れる血が、赤から青に…………!?」

 

 

 バロンが竜の牙(ドラゴンファング)を強く握りしめ、握りしめた拳から血が流れだした。

さらに、その血の色が、人間の赤色から、どんどん青色へと変化していったのである。

 

 それを見て驚いたのはフェイトだった。

まさか、人間が血の色を変化させるなど思ってもみなかったからだ。

 

 しかし、バロンは人間ではない。

竜の騎士は神が作り出した調停者。

人・魔族・竜、その三つの要素を取り込んだ、人の形をした怪物でしかないのだから。

 

 

 さらに、変化はそれだけではない。

流れる血が赤から青に変わった後、竜の牙(ドラゴンファング)を左腕と共に掲げれば、雷がバロンの全身を貫き、その肉体が劇的に変貌し始めたのだ。

 

 

「ヤツの姿が……変わるだと!?」

 

 

 強烈な雷と紋章の光を発しながら、バロンの肉体が次々に組み変わっていくのを見たエヴァンジェリンは、たまらず戦慄の声を出した。

 

 髪は大きく逆立ち、竜の紋章も角を象った部分が肥大化し、その力がさらに強大となったのを表すかのように、額を覆うほどまで伸びてく。

 

 装備していた鎧を内側から砕き、体は竜のような真っ赤な鋼鉄の肌へと変わり胸には竜の牙のようなものが生え、両腕はドラゴンの首を思わせる形となり、拳の甲には角が二本生え竜の頭部のような形状へと変り果てる。

 

 メキメキ、ゴキゴキと音を立て、竜が咆哮するような叫び声をあげながら、どんどん肉体が組み変わっていく姿は、恐怖でしかないだろう。

背中には大きな竜の翼が生え、もはや人の姿とは言えぬ凶悪なものへと変化していたのである。

 

 

「この姿こそが竜と魔族と人の力を併せ持った、(ドラゴン)の騎士の最強戦闘形態(マックスバトルフォーム)、――――――竜魔人と呼ばれる姿だ」

 

 

 そう、この姿こそが竜の騎士の最強戦闘形態(マックスバトルフォーム)である、竜魔人。

敵を殲滅するまで破壊の限りを尽くし、敵であれば女子供、未熟者や怪我人だろうが関係なく滅ぼすだけの、魔獣の姿。

故に、新オスティアでこの形態になることを躊躇った。

 

 されど、ここではそんな不安など不要。

ここは敵と味方しか存在しないこの墓守り人の宮殿内であり、目の前の敵を全滅させ、勝利するだけなのだから。

もはや手加減の必要もなく、全力を出せる場所なのだから。

 

 

「この姿になってしまった()は、先ほど以上に苛烈で残虐だぞ」

 

 

 バロンは内に秘める怒りの中で、静かに冷徹に、殺意を乗せて言葉を放つ。

もはやこの姿となったのならば、手加減など不可能。先ほどなど比べ物にならない程に狂暴だと、静かに忠告する。

 

 

「なっ……なんだっ!? この怖気はッ!?」

 

「これが…………、噂に聞く竜魔人…………ッ!!」

 

 

 恐ろしい威圧感、ただならぬ殺気。

睨まれただけで心臓を握られ凍らされるような、恐怖の感覚。

エヴァンジェリンは600年も生きてきた中で、これほどまでに恐ろしいと感じたことはなかった。

 

 おぞましい、もはやこの世に存在していい生命体ではない。

こんな化け物を生み出した転生の神とやらを、エヴァンジェリンは激しく呪い恨んだ。

 

 

 また、ランスロ―も恐怖と戦慄を受けて、背中に冷たいものを感じていた。

漫画では知っていた。そういうものだと理解していた。

 

 だが、だが、いざ目の前にその力を持つ存在が立っているのとは、まったく違うものだった。

 

 漫画の中で、ヒュンケルもクロコダインも絶望し勝てないと言わしめた、その力の差をランスロ―は目の当たりにして理解してしまった。

重厚な存在感と破壊的な殺意に当てられ、ランスロ―は竜魔人と小さくつぶやくことしかできなかった。

 

 

 同じくフェイトもトリスも戦慄し、冷や汗を流して恐れおののいていた。

圧倒的な力の前に、言葉も発することができない。

 

 

「だが…………、それも仕方のないことだろう。……何せ俺を本気にさせた――――」

 

 

 誰もが動けない中、燃え滾る憤怒が含まれた、震える上がりそうなほどの強烈な殺気がこもった声で、バロンが言葉を発しはじめた。

 

 

「――――貴様らが悪いのだからなアァッッ!!!!」

 

 

 そして、バロンが空気を切り裂いたかと錯覚したかのような、心の奥底からの叫びを怒号のように言い放てば、次の瞬間、バロンは最初に潰す敵を定め、その場から姿を消したのである。

 

 

「ぐっ!? ぐあっ!?」

 

「エヴァンジェリン殿!?」

 

 

 すると、気が付けばエヴァンジェリンの目の前にバロンが現れ、抜き手でエヴァンジェリンの体を貫いていたのだ。

 

 貫かれた後に勢いよく振り回され、その勢いで吹き飛ばされ、地面に転がり叫ぶエヴァンジェリン。

ランスローは彼女の方へと向いて声を上げれば、今度はランスロ―へとバロンの脅威が迫った。

 

 

「ぬううおおッ!!!」

 

「グガッ!!??」

 

 

 瞬時にランスローの懐へと入り込んだバロンは、拳を突き上げてランスローの胴体へと強烈な拳を叩き込んだ。

その衝撃は背中へ貫通し、ランスロ―も吹き飛ばされて石畳に横たわったのだ。

 

 一瞬、その一瞬で二人の強者があっけなく、簡単に床に転がされてしまっていた。

この事実にフェイトもトリスも、驚くしかなかった。

 

 だが、驚いているだけではバロンは倒せない。

すぐさま二人はバロンへと攻撃を開始し、再び戦いの宴が始まったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 

 一方、下では木乃香と古菲が、セクストゥムとの戦いに苦戦を強いられていた。

 

 

「うぅ……、流石に強い……」

 

「中々決め手を入れられないアル……」

 

 

 ――――強い。木乃香と古菲はそう思った。

造物主の使徒、それは強く作り出された存在。

曼荼羅のような障壁、膨大な魔力、強力な魔法、どれもが一級品なのだ。

 

 二人はセクストゥムの頑強な障壁に阻まれて、大きな攻撃を当てれずにいたのだ。

 

 

 また、近くで戦闘しているラカンも未だにデュナミスと戦闘している。

デュナミスは筋肉質な体の四本腕の大幹部戦闘形態(バトルモード)となっており、両者とも見えない速度での殴り合いを繰り広げていた。

 

 これではラカンもこちらへ加勢するのは不可能と木乃香と古菲は考え、二人で目の前のセクストゥムをなんとかしなければならぬ状況なのを理解した。

 

 

「その程度で倒せるなどと思わないでいただきたい」

 

 

 造物主の使徒と言う自信がセクストゥムにも存在する。

基本的に最高レベルの能力を与えられた造物主の使徒は、傲慢であり慢心を持っている。

されど、それを持つほどに高い能力を与えられているのも事実だ。

 

 

「負けへん!!」 「負けないアル!!!」

 

「何度やっても無駄なことです」

 

 

 そして、二人はそんな相手と戦っているのだ。

それでも折れずに、再びセクストゥムへと攻撃の態勢を見せる。

 

 そんな二人にセクストゥムは、淡々とした声で無駄だと一蹴する。

 

 

「くっ!?」

 

「ぐっ!!?」

 

 

 無駄だと言うだけでは意味がない。

無駄だと言うことをその体に叩き込んで、直接その体に教えてやろうと、セクストゥムは攻撃を再度開始した。

 

 セクストゥムは圧縮した水の弾丸の魔法を大量に作り出し、二人を迎え撃つ。

二人は何とかそれを何とか避けながら、セクストゥムへと接近していく。

 

 

「まだまだ……やあー!!」

 

「ハアァーッ!!!」

 

 

 木乃香も古菲も叫びながら、水の弾丸の弾幕を搔い潜り、セクストゥムに迫る。

だが、それでもまだ距離はある。セクストゥムはさらなる手を使う。

 

 

「ならば、これはどうでしょう?」

 

 

 すると、セクストゥムは突如として巨大な四角い水疱を生み出し、古菲を包み込んだのだ。

 

 

「!?」

 

「こおれ」

 

 

 さらに、ふぅーっとセクストゥムが息を吹けば、水疱は凍り付き氷の檻と化し、古菲を閉じ込めてしまったのである。

 

 

「くーちゃん!?」

 

「あなたもすぐさま完全なる世界(あちら)へと送ってあげます」

 

「っ!」

 

 

 木乃香は古菲を心配したまらず叫ぶが、他人を心配している暇などない。

セクストゥムが大量の氷柱を作り出し、木乃香に襲わせたからだ。

マズイと思った木乃香は何とか回避し、セクストゥムへと肉薄する。

 

 

「そうはいかへん! はあぁーっ!!」

 

「やりますね、しかし!」

 

 

 木乃香は自分のO.S(オーバーソウル)、白烏のアームにある翼を折り畳み、刀のようにしてセクストゥムへと振り切った。

されど、セクストゥムは自分の優勢を疑わず、その攻撃を防御したのだ。

 

 

「――――障壁……!!」

 

「この程度では我が障壁は抜けませんよ」

 

 

 木乃香の攻撃は強靭な障壁によって阻まれた。

曼荼羅のような出鱈目な障壁だ。これを破壊できない限り、造物主の使徒へはダメージを与えることができない。

 

 故に、セクストゥムは自分の有利が揺るがないことを確信していた。

この程度であれば、造物主の使徒が操る障壁を貫通できないことを理解してたからだ。

 

 

「せやったら! こうやぁーっ!!」

 

 

 だが、木乃香はならばと、再び勢いよく翼の刀を振り下ろす。

すると障壁を切り裂き、破壊して見せたのだ。

 

 障壁が固いのであれば、それ以上の固さの武器でぶった切って破壊できるはず。

シンプルだが最も難易度の高い破壊方法であり、本来であれば障壁破壊の魔法呪文を使って無理やり突破するのが正攻法だ。

 

 しかし、木乃香はそれをやってのけた。

何故なら仮想敵が覇王であり、覇王の甲縛式O.S(オーバーソウル)黒雛を破壊することを想定した攻撃だからだ。

 

 

「なっ!? 馬鹿な……!?」

 

 

 流石のセクストゥムも障壁を切り裂かれたことに驚き、自信も一緒に切り裂かれた。

造物主の使徒として最高の能力を貰っているはずの自分が、たかが人間にこうもしてやられるなど、思ってもみなかったからだ。

 

 

「くーへ!」

 

「ゴホっ……助かったアル!」

 

 

 木乃香はセクストゥムへ白兵戦をしかけながら、こっそりと前鬼・後鬼をO.S(オーバーソウル)し、古菲を閉じ込めている氷の塊を殴って砕いた。

 

 古菲は咳を吐きながら、氷の中で吸えなかった息を吸い込んで木乃香へと感謝を述べれば、再び立ち上がり戦闘態勢へと移った。

 

 

「伏兵まで用意していたとは……」

 

 

 セクストゥムは木乃香が古菲を助けたのを見て、他にも手があったことに関心した。

流石は造物主の使徒を相手取ろうと攻め込んでくるだけはある、と。

 

 

「しかし、この程度で私は倒せませんよ」

 

「くっ!!?」

 

 

 しかしだ、それだけだ。

障壁を破壊しても、仲間を助けても、こちらの有利は未だ健在。

そう余裕を見せたセクストゥムは、翼の刃で近接戦を行う木乃香から距離を取り、大量の氷の刃を生み出して解き放った。

 

 流石に数で圧倒された木乃香は、刀にしていた翼を開いて防御の姿勢を取りながら、後ろへと下がる。

 

 

「まだまだ!」

 

「うっああぁ……!?」

 

 

 セクストゥムは攻撃の手を緩めることなく、さらに大量の氷の刃を木乃香目掛けて叩きつける。

 

 木乃香は防御だけでは足りぬとばかりに、叫びながら回避行動を行うが、数が多すぎてよけきれない。

被弾した箇所は損傷し、どんどんダメージが蓄積されていく。

 

 ――――木乃香のO.S(オーバーソウル)白烏は防御を重視したO.S(オーバーソウル)だ。

されど、セクストゥムの魔法の練度は当然高い。何度も受け続けるのは非常に厳しい。

 

 

「ハァーッ!」

 

「甘いですよ」

 

「うっ!?」

 

 

 木乃香の危機に助太刀するかのように、蹴りを放つ古菲であったが、再生した障壁に防がれ攻撃が届かない。

 

 隙を晒した古菲へとセクストゥムは、蹴りで伸びた足を掴んで後方へとぶん投げたのである。

 

 古菲は投げられた先で受け身を取って着地し、再びセクストゥムへと距離を詰めようと飛び出す。

それを見た木乃香は、古菲と挟み撃ちの形でセクストゥムへと攻撃を行った。

 

 

「このーっ!」

 

「ハアァーッ!!」

 

「そんな攻撃……」

 

 

 二人は同時にセクストゥムへと攻撃することで、障壁破壊を木乃香が行い、直接打撃を古菲に任せる戦法を取った。

されど、二人に囲まれていると言うのに、セクストゥムは未だ余裕だ。

 

 何故なら、別に防御だけが全てではないからだ。

先ほど魔法で発生させた水滴を使い、水の転移魔法(ゲート)による転移を行い、二人の攻撃を回避したのだ。

 

 

「なっ!? しまっ!?」

 

「あかんっ!? ううっ!!?」

 

 

 そして、二人がちょうど重なった瞬間を狙い、圧縮された強烈な水の渦を二人へと叩き込んだのである。

 

 木乃香が辛うじて白烏の翼を使い古菲を庇いつつ防御し、ダメージだけは免れた。

されど、攻撃がそれで終わりなはずがないく、セクストゥムは次の魔法を二人へと放つ。

 

 

「さらに!」

 

「ううっ!?」

 

「ぐっ!?」

 

 

 今度はまるで荒れ狂う河のごとき水流の砲撃をセクストゥムは生み出し、二人へと打ち出し命中させた。

水の勢いと圧力を受けた二人はダメージと共に後方へと吹き飛ばされ、石畳に転がってしまう。

 

 

「態勢の立て直しは許しません。終わりにします」

 

 

 セクストゥムはさらに追い打ちをかけるように、次なる魔法を詠唱し始める。

 

 

「”こおるせかい”」

 

「っ!!」

 

「コノカっ!?」

 

 

 それはこおるせかい。

氷系の魔法でも上位の魔法であり、広範囲を完全凍結させる魔法だ。

 

 木乃香はこおるせかいが来るのを察し、咄嗟に古菲を庇って突き飛ばした。

古菲は木乃香に庇われたのを理解し、そちらの方を見て叫べば、氷山のような氷塊の中央に封じ込められた木乃香の姿があった。

 

 

「終わりですね」

 

「コノカ――――――――っ!?」

 

 

 セクストゥムは凍り付いた木乃香を見て、これでほぼ勝敗は決したと言う態度を見せた。

 

 古菲は完全に凍り付いて動かない木乃香へと、ただただ大声で叫ぶしかなかった。

 

 だがしかし、これで終わるはずがない。

終われない。終わりたくない。終わらせたくない理由が、木乃香にはあった。

 

 

「………………まだや!」

 

 

 木乃香の闘志は未だに、凍り付いた体の中で燃え盛っていた。

ここで諦めたら覇王に認めてもらえない。覇王と並び立つために修行したのに、それでは意味がない。

 

 だからこそ、諦めない。

ここで諦めるわけにはいかない。戦える。まだ全然戦える。

この程度で、この程度じゃ終われない。

 

 

「――――まだや!!」

 

「………なっ!?」

 

 

 木乃香は再び決心した表情を見せれば、O.S(オーバーソウル)を力強く操り、叫びながらこおるせかいの氷塊を砕いて高く舞い上がったのだ。

 

 セクストゥムはまさかの事態に、驚愕の表情を浮かべていた。

こおるせかいに閉じ込められて、無事なものが存在するはずがないと思っていたからだ。

 

 いや、普通なら無事ではない。されど、木乃香は甲縛式O.S(オーバーソウル)を身にまとっていた。

 

 こおるせかいに閉じ込められても無事だったのは、ひとえに甲縛式O.S(オーバーソウル)の防御のおかげだ。

O.S(オーバーソウル)が破壊されなければ、体に直に冷気や魔法が触れることはない。

 

 それに白烏が防御に重点を置いたO.S(オーバーソウル)だったのも功をなしたようだ。

よって、木乃香本人への直接的なダメージはなかったのだ。

 

 

「とおぉーっ!!」

 

「っ!!」

 

「そこっ!!」

 

「なっ!!?」

 

 

 木乃香はセクストゥムへと急速落下し、翼を再び刀と変えて飛び込んだ。

セクストゥムは咄嗟に回避してみせるも、木乃香は音もなく着地すれば舞うように回転し、セクストゥムの障壁を切り裂いたのだ。

 

 

「こっちも忘れないでほしいアルヨ!!」

 

「しまっ!? ぐうっ!!?」

 

 

 その隙をついた古菲はチャンスとばかりに、セクストゥムへと体を直接叩き込んだ。鉄山靠である。

この攻撃が直撃したセクストゥムは大きな衝撃を受けて怯んだ。

 

 

「”白翼演舞”っ! ――――これで!」

 

「ぐっ!?」

 

 

 そこへ木乃香が刀を翼へと戻し、二つの翼で斬り削るようにセクストゥムへと攻撃する。

まさに軽やかな舞踊のような動きで何度も切り刻まれるセクストゥムは、たまらずうめき声をあげて後退するしかなかった。

 

 

「やってくれますね……! しかし……っ! ”氷槍弾雨”!!」

 

「っ!? あっ!? あううぅぅっ!?」

 

「ううっ!?」

 

 

 されど、この程度では造物主の使徒たるセクストゥムを完全に倒すことはできない。

距離を取った瞬間に、大きな氷の槍を大量に作り出して発射する魔法、氷槍弾雨を二人へと放った。

 

 木乃香は無防備な古菲の盾となり、O.S(オーバーソウル)で防御するも、幾度となく攻撃を受けていたため、ズタズタに破壊されてしまったのである。

 

 流石に防御を得意とした白烏も、激しい攻撃に何度も晒されれば破壊されるのも当然だ。

その勢いで古菲もダメージを負い、後ろへと吹き飛ばされることになってしまった。

 

 

「これで終わりではありませんよッ!! ”こおる大地”」

 

「キャアアッ!!?」

 

「なっうああぁぁッ!?」

 

 

 そこへ畳みかけるようにしてセクストゥムが放った魔法は、地面から巨大な氷の柱を突き出させるこおる大地だ。

 

 O.S(オーバーソウル)が解けた木乃香と古菲へと、尖った氷柱が襲い掛かり、何とか回避を試したものの完全には避けきれず二人は負傷。

衝撃を受けてそのまま地面を何度も転がりながら、倒れこんでしまったのである。

 

 

「…………この造物主の使徒たる私とここまで戦えるとは……、正直驚きました」

 

 

 セクストゥムは傷つき倒れた二人を見下しながらも、非常に関心していた。

造物主から強大な力を与えられた使徒である自分と、これほどまでに戦えることは予想外であった。

 

 所詮は旧世界の小娘二人、そう侮っていたのは事実だ。

特に平和な場所で暮らしてきたであろうお嬢様どもが、造物主の使徒に食らいつけているのが不思議でならないのである。

 

 

「ですが、これで本当に終わりです」

 

 

 しかし、今度こそこれで終わりだ。

そう言いながら損傷した自分の肉体を魔法で再生させ、魔法の呪文を唱えようとした。

 

 

「――――っ!? まだやるというのですか!?」

 

「当然アル!!」

 

「こんなんで終わらへんっ!」

 

 

 だが、その時セクストゥムは、驚くような光景を目の当たりにした。

負傷して動けそうになさそうだった二人が、再びゆっくりと立ち上がってきたのだ。

その目には未だ闘志を滾らせ、セクストゥムの方をしっかりと見て、戦闘態勢を取ったのだ。

 

 

「みんな戦ってるアル! 私も負けられないアルヨ!!」

 

「そうや! みんなのためにも……、――――負けられへんッ!!」

 

 

 すごい全身が痛いし苦しい状況だ。

相手は体の傷を回復させているではないか。

 

 されど、それがどうした。

回復したと言うのなら、また攻撃すればいいことだ。

古菲はそうやって強い闘志を燃やし、拳を再び握りしめて構えを取る。

 

 木乃香は心配そうな目をしたさよに笑いかけながら、再びO.S(オーバーソウル)白烏を作り出し、古菲の横に並んで巫力を使った治療を施す。

そう、相手が回復したならば、こちらも同じことをすればいいだけのことだ。

 

 古菲は木乃香が治癒してくれたことに気が付き、ニッと笑って小さく頷き、再びセクストゥムへと目標を定める。

 

 相手がどのぐらい消耗しているかはわからないが、こちらはまだ余力はある。

回復できるもの同士の戦いでは千日手のような戦いになるだろうが、最後に立っているのは自分たちだと、二人は奮い立たせる。

 

 何故なら、仲間だって戦っているからだ。

自分たちだけが戦っているわけじゃない。この魔法世界のために、みんなが戦っているのだ。

みんなのためにも、世界のためにも、ここで負けることはできない。

 

 

 ――――だから、二人は再び立ち上がる。

何度も何度もやられて倒れても、まだ負けてないと言う気概を見せて、何度だって立ち上がるのだ。

 

 

 だが、そこに見知った声が響き渡る。

 

 

「よくぞ吠えたッ!」

 

「この声は……はお!?」

 

 

 その声の主は木乃香のシャーマンとしての師匠である覇王だった。

黒雛二型を武装した覇王が石畳の床を粉砕し、木乃香たちの前を飛び上がってきたのである。

 

 木乃香はその声に反応し、彼の名前を呼ぶ。

覇王はその声に返事を返すことはしなかったが、軽く木乃香の方を目で見てニヤリと笑って見せたのだ。

 

 

「――――秘剣……”燕返し”っ!!!」

 

 

 そして、瞬く間もなく一瞬の疾さでセクストゥムの目の前へと肉薄した覇王は、即座に得意の奥義を繰り出した。

三つの斬撃が須臾の狂いもなく、セクストゥムへと吸い込まれるかのように叩き込まれた。

 

 

「なっ!? ぐうあっ!?」

 

 

 セクストゥムは燕返しによって、首が胴体から泣き別れし、体は胸を斜め垂直に分断され、右腕が肩から切り落とされたのである。

覇王が登場してからわずかな時間の出来事であった。

 

 

「くっ…………、星を総べる者…………」

 

 

 石畳に何度かはずんだのちに転がる、叩き落されたセクストゥムの首や胴体。

セクストゥムは白い体液をまき散らしながら、憎々し気に覇王を睨み、恨み言のようにその二つ名をつぶやいたのちに、肉体の機能を停止させてピクリとも動かなくなった。

 

 何故なら、核をも一緒に切り裂いて破壊されてしまったからだ。

造物主の使徒の核は人の心臓と似たような場所に存在し、そこを完全に破壊されれば再生すら不可能となるのだ。

 

 

「その名前嫌いなんだけどね。…………まあ、もう聞こえてないか」

 

 

 覇王は忌み嫌っているその二つ名に文句を言った後、セクストゥムが機能停止したことを理解して皮肉を最後に述べるのだった。

 

 

 

 

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