理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百八十三話 戦闘狂

 

 

 

 カギは墓守り人の宮殿をウロチョロしながら、ネギの居場所を探っていた。

 

 

「無事だったか!」

 

「おっ! おっちゃんと楓か!」

 

 

 そんな時にカギの前に現れたのは、アルスと楓の二人だった。

 

 アルスはカギの状態を心配し大きな声をかければ、カギは第一村人発見と言う様子で走って近寄ってきたのである。

 

 

「こっちは何とか金ぴかモドキヤローをぶちのめせたが、そっちはどうだ?」

 

「こっちもなんとか雷の造物主の使徒を撃破したところだ」

 

「えっ? あれ倒せたん!?」

 

 

 カギは黄金の男を倒した報告をすれば、アルスもクゥィントゥムを倒したとカギへと教えた。

それを聞いたカギは、あの造物主の使徒最速のアーウェルンクスをアルスたちが倒したことに、驚きの声を上げたのだ。

 

 まあ、カギが驚くのも仕方のないことだ。

クゥィントゥムは肉体を雷化することが可能であり、上位の雷魔法を使いこなし、体術もできる強敵だからだ。

 

 雷化すれば移動速度も雷速となり、そのスピードで蹴る殴るや、高位魔法を飛ばしてくるのだから、それを倒したと言うのはかなりの偉業と言えよう。

 

 

「中々に強敵でござったが、アルス殿のおかげで勝利できたでござるよ」

 

「俺だけのおかげじゃねえって言ってんだがなあ…………」

 

「すげー!! やるじゃん!!」

 

 

 楓もあの戦いを振り返れば、勝てたのが奇跡だと感じるほどであった。

そして、一番肝心なのはアルスが作戦を立てて導いてくれたからこそ、勝てたと楓は思っていたのだ。

 

 が、アルスは自分の力だけじゃ不可能だったと思っているし、そんな大そうな存在じゃないと静かにこぼす。

 

 そんな二人に対してカギは、心の奥から称賛して喜んでいた。

あの強敵である造物主の使徒を倒すなど、MVPレベルの快挙だからだ。

 

 

「んで、他のは?」

 

「わからん。無事だと思うが…………」

 

「まだどっかで戦ってるんだろうぜ。ほっときゃ会えるさ」

 

 

 カギは二人と会ったのはよかったと思ったが、他に自分たちと行動していた奴らはどうしたんだと、アルスに尋ねた。

 

 が、アルスも当然わからない。

完全に分断されてから、誰がどんな状況なのかまったく把握できていなかった。

とは言え、他にはぐれたのは数多やバーサーカーたちだ。きっと無事だろうとアルスは答える。

 

 その言葉に、カギは未だどこかで戦っているのだろうと信じることにした。

確かめようがないのだから、不安になるようなことを考える必要はない。

連中は強い。強いから大丈夫だ。そうカギは思うしかなかった。

 

 

「俺たちは上部へ上がり、最後の鍵(グレートグランドマスターキー)を探すが、そっちはどうする?」

 

「ネギの方をサポートしに行きてえと思ってたところさ」

 

 

 そして、アルスたちは次の目的をカギへと話し、カギの次の行動を訪ねた。

カギは今自分がやろうとしていたこと、つまり弟たるネギの助力をする予定だとアルスたちへ話した。

 

 

「でもよぉ兄貴ィ……、兄貴は方向音痴なんだから二人について行った方が絶対にいいぜ」

 

「いや! いける! 大丈夫だって!!」

 

 

 だが、そこで待ったをかける存在が、カギの肩の上にひょっこり現れた。

それこそカモミールだった。

 

 実はカモミールはずっとカギとともに行動していたのだが、出番がなくて空気だった。

黄金の男との戦いでは、ちょっと離れた場所で超ビビって震えながら、その戦いを見ていたりしていたようだ。

 

 いやー本当なら飛行船に残ろうと思っていたカモミールであったが、カギに引っ付いてきてしまったために、こんなとこまでくる羽目になってしまった。

 

 そんなカモミールは、カギの方向音痴っぷりは呪いの領域だと考え、探し回っての移動はやめとけと助言を出す。

 

 されど、カギは問題ないと自信たっぷりに豪語するではないか。

何も学んでないのか? 単なる自信過剰なのか? カギは過去、何度も迷ったと言うのに、まるで反省していないのである。

 

 

「そう言って何度失敗したと思ってんだ!!」

 

「――――うっ!? チ……チクショウ…………、返す言葉もないぜ……」

 

 

 なんか腹が立つドヤ顔をキメてるカギへと、カモミールは残酷な現実を突きつけてやった。

もう何度も何度も迷子になって泣いてんだぞこの大ボケ! ちったー学習しろや! と。

 

 カギも何度も道に迷ったことは覚えていたので、反論できずに頭をうなだれて凹んだ様子を見せた。

 

 

「つー訳で……カモの言う通りにいたします……」

 

「カギ坊主が来るのであれば頼もしい限りでござる」

 

「よせやい! それほどでもあるかもしれんが、まだまだだぜ!」

 

 

 頭をガックシと下げながらアルスたちについていくことにしたカギ。

そんなカギを見ながらも、頼もしいとニヤリと笑う楓であったが、カギは微妙に自信がありそうななさそうな、中途半端な態度を見せていた。

 

 

「よっしゃ! 張り切って行こうぜ!」

 

「何とかしねぇとな」

 

「うむ」

 

 

 で、もって、カギが急に元気になりだしたと思ったら、仕切りだして前を走りだす。

だが、誰もそんなことを気にせずに、この状況を打破しないとならんと、アルスも楓も気を引き締めるのだった。

 

 

 

 カギたちは上へ上へと飛び上がる。

途中の転生者どもを蹴散らしながら、上へ上へと。

 

 この先に正解があるかのように、何かに引き寄せられるかのように、上へ上へ。

ここまで戦った転生者は、はっきり言って雑魚で木っ端だった。危険を感じるような相手ではなかった。

 

 なのでカギは余裕をこいて加速していく。

カギの加速についていくように、アルスも楓も加速する。

 

 墓守り人の宮殿、その上部へと到達したその先に、何者かが一人立っていた。

漆黒の、まるで夜の空のような黒色のローブのような外套に全身を包み顔すらも隠した、長身の人物だった。

 

 

「誰かいるぞ」

 

「敵だろ? ぶっ放してどいてもらうぜ!」

 

「おいちょっと待て!」

 

 

 アルスがその人物に気が付けば、カギは今までの経験でそこに立っている人物を即座に敵認定した。

ならば先手必勝と言わんばかりに、カギは王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を開放する。

 

 ただ、アルスは早計だと考えたのか、カギに止まるように声をかける。

敵だったとしても能力は不明、今まで倒した転生者が雑魚だっただけで、目の前の人物は強いかもしれない、そう思ったのだ。

 

 ――――そして、そのアルスの読みは的中することになる。

 

 

「ほう、転生特典(ゲート・オブ・バビロン)、か」

 

 

 カギが展開した王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を見て、感心したような声を出すその人物。

すると、その直後にその人物が目の前から――――消えたのだ。

 

 

「――――――!?」

 

「ガッ…………ガフッ?!? ――――くっっそッ!?」

 

「カギ坊主!? ――――いつの間に!?」

 

 

 消えたと思った瞬間、カギが後方へと吹き飛ばされ、地面に何度もバウンドして転がっていたのだ。

しかも、その人物はすでに最初にいた場所まで戻っており、アルスには何が起こったのかが全くわからなかった。

 

 カギは苦悶のうめき声をあげながら、咄嗟に受け身を取って態勢を立て直す。

とは言え、一瞬にして起こったことに理解が追い付かず、額に嫌な汗をかいてその人物の方を睨んでいた。

 

 楓も吹き飛んだカギの方を見て、今の瞬き程の時間でカギが吹き飛ばされたことに驚き、再び人物の方へと目を向ける。

なんだこれは。時間が止まったのか? そう思うほどに楓は困惑し、嫌な汗を額に流す。

 

 

「この先が、お前たちが目指しているであろう、最後の鍵(グレートグランドマスターキー)を、持つ者がいる場所。そして、この私も、それらを守護している、と言う訳だ」

 

「なんだと!?」

 

 

 黒い外套の人物は、済ました顔でアルスらの目的である最後の鍵(グレートグランドマスターキー)がこの先にあることを語りだした。

そして、それを守護しているものの一人であることも、教えだしたのである。

 

 アルスはそれを聞いて、自然と声が出た。

また、目の前の人物がそのことを語ったと言うことは、つまり自分たちに勝てる自信があるということなのだと、アルスは察したのである。

 

 

「やりやがったな! このヤロー!!!」

 

「魔力の強化、そのタフな気概、面白いな」

 

 

 そこでカギは先ほど吹き飛ばされた恨みを叫び、目の前の敵へと突撃する。

黒い外套の人物はカギの状態を見ながら、小さく笑いながら迎え撃つ構えを取っていた。

 

 

「いい力だ、随分修行したと見える。素晴らしい、ことだ」

 

「なめてんじゃねえぞこのクソヤロー!!!」

 

 

 カギは魔力を乗せた拳を使い、すさまじいラッシュを敵にたたきつける。

されど、黒い外套の人物も同じ速度でラッシュし、それを相殺して見せたのだ。

 

 うむうむ、よいよい、カギの実力をそんな風に評価しながら、カギの猛攻を防ぐ姿に、カギはさらに怒りを感じて拳を加速させていく。

 

 

「舐めてなどいない。むしろ、高く評価している」

 

「ふざけんなクソがッ!!!」

 

 

 カギの怒りに、むしろ純粋に褒めているのだと語る黒い外套の人物。

それこそが見下してるってんだと、カギはさらに怒りをためて、特大の魔力の乗せた拳をその人物へと叩き込む。

 

 が、その人物は同じぐらいの魔力の自分の拳に乗せて殴り返し、カギの渾身の攻撃を相殺。

その衝撃で後方へと下がり、一度戦闘態勢を解いてカギたちへと向きなおす。

 

 カギもアルスと楓の方へと下がり、敵の実力をかみしめていた。

強い、なんという強さだ。今の拳のぶつけ合いだけで、目の前の黒い奴が今まで戦ってきた転生者の誰よりも強いことを理解した。

 

 

「自己紹介を、しておこう。私の名は朔夜(さくや) 無明(なしあき)。見ての通り、完全なる世界の、一員だ」

 

「ご丁寧にどうも…………と言えばいいのか……?」

 

 

 カギが敵の強さに慄いている最中、黒い外套の人物は胸に手を当てて、腰を折って自己紹介を始めたではないか。

黒い外套の人物は朔夜 無明と自ら名乗った。

 

 どういった意味で名乗ったのかは不明であり、その行為にアルスたちは困惑し、アルスはどう対応すればいいのか迷った様子を見せた。

 

 

「戦う相手に、自己紹介するのが、私の習慣であり、流儀だ。他者に同じ対応は、求めていない」

 

「んなこたァどうでもいいッ!! ぶっ潰してやるッ!!!」

 

 

 アルスの言葉に黒い外套の人物――――無明と名乗った男は、自己紹介は自分が勝手にやっていることであって、別に返す必要はないと述べる。

そこへカギが再び怒りに身を任せ、叫びながら突撃してきたのだ。

 

 

「ならば、第二ラウンドと、――――行こうか」

 

「何!? グゲッ!!??」

 

 

 無明は即座にカギの行動に対応し、再び拳を交える。

しかし、以前よりもスピードを上げた無明は、カギのパンチを軽く首をひねってかわすと、カギのどてっ腹に強烈な拳をカウンターで叩き込んだのである。

 

 たまらずカギは逆流する胃液を飲み込み、咄嗟に後方へと下がった。

 

 

「遅いぞ? ほら」

 

「ガアアアアッ!!???」

 

 

 ――――が、後ろに下がったカギを逃がすまいと、無明は超スピードで打撃の連打をカギへとたたきつけた。

連続のパンチ、キックの嵐のような猛攻に、カギは絶叫を周囲に鳴り響かせる。

 

 

「あっ、兄貴ィィー!?」

 

「カギ坊主!?」

 

 

 カモミールはすでに離れた場所に移動しており、カギのボコボコにやられる姿を見てたまらず声を上げていた。

楓もカギがあっけなくズタボロに殴られ放題されている姿を見て、これはマズイと焦りの声を出す。

 

 

「ガハッ……クッ…………!!!」

 

「ほう、倒れんか。根性もあるようで、大変よろしい」

 

 

 最後に強烈な踵落としを受けたカギは、苦悶の声を出しながら地面へと落下したが、しっかりと受け身を取り着地してみせたのである。

 

 そのカギの対応に無明は関心していた。

普通であれば倒れていてもおかしくない攻撃を耐え、膝すらつかないその姿勢、誉れ高いと。

 

 

「お前は一体、何故こんなことをする!?」

 

()()()()()? 目の前の少年を、叩きのめしたこと、か? それとも、完全なる世界に、力を貸していること、か?」

 

「後者だ」

 

 

 そこへ差し込むかのように、アルスが無明へと質問をする。

ただ、その問いに無明はどういう意味なのかを聞き返す。それだけではよくわからない質問だったからだ。

アルスは無明の返しの問いに、二つの回答の内後ろの方の意味だと素直に答える。

 

 

「――――――()()()()()()

 

「何もないだと!?」

 

 

 そして、無明はその問いの答えに、何もないと答えた。

その表情も本当に何も感じてない様子であり、まさに無であった。

 

 何もない、その答えにアルスは納得できない様子で、強い言葉使いで聞き返す。

何もないってことはないだろう、何か理由があるはずだと。

 

 

「私は、神から才能(とくてん)を貰い、鍛えに鍛えた。強くなるために、誰よりも強く、そう思いながら、ずっと研鑽を重ねてきた」

 

 

 叫ぶアルスへと無明は、自分がここにいる理由を語りだした。

そう、ずっと無明は修行に明け暮れ、貰った特典(さいのう)を伸ばし続けてきた。

5歳で特典が開花したその時から、ずっとずっと、ずーっとだ。

 

 

「そして、強くなったのだから、試したいと思うのは、当然の心理…………、そう思わないか?」

 

 

 そうやって鍛え続けて、研鑽に研鑽を重ね続け、強くなったのだから、今自分が持つ能力がどれほどなのか、見たくなるのが人間の心理だろう。

そう静かに淡々と語る無明。

 

 

「鍛え抜いた力を、確認したい。どこまで通用するか、見てみたい。自分が、どれほど強くなったのかを、実感したい。――――()()()()()()()()

 

「なっ!? そんなことで世界を滅ぼすことに、力を貸していると言うのでござるか!?」

 

()()()()()? 他人には、そう思うかもしれんが、私には、重要なことだ」

 

 

 そうだ。答えは単純、シンプルなこと。

自分はただ単に、強くなった今の自分がどれだけ強くなったのか、どれほどの相手までなら通用するのか、知りたくなっただけなのだ。

 

 そう、それだけ。

それを言えば楓が反応し、怒りを含んだ言葉を放つ。

そんな理由だけで、この魔法世界を無にするのかと。馬鹿げていると。

 

 されど、無明は飄々とした様子だ。

確かに馬鹿げてると言われてしまえばそうだが、個人的にはそれで充分。

誰にもその価値観を押し付けるわけじゃなく、だからこそ押し付けられはしない。

 

 

「お前だって、修行した力を、試したくなることが、あるだろう? それだよ」

 

「しかし、他者に迷惑をかけてまですることではござらん!!」

 

 

 また、鍛えた技術や能力は見せたくなるものだ。

そうじゃないのかと無明は楓へ問いかける。

 

 楓も修行で得た力を使いたくなる、試したくなる時はある。

それでも何かを犠牲にしてまで、誰かの迷惑をかけてまですることじゃないと、はっきり否定する。

 

 

「別に、――――私は、この世界が、救われようが滅びようが、()()()()()()()

 

 

 無明は楓の否定を聞いて、それでもこの世界がどうなったって知らないと話す。

それこそ、別にこの完全なる世界の計画さえ、成功しようが失敗しようがどうでもよいことなのだと。

 

 

「私は、この計画の、邪魔をするであろう強者と、戦えればそれでいいだけなのだから、な」

 

「馬鹿なっ! その計画が完遂すれば、お前も死ぬかもしれないんだぞっ!?」

 

 

 そうだ、自分の狙いは強敵との戦いだ。

こんな魔法世界を消し去る計画や完全なる世界に、なんの執着もない。

自分の狙いは強者との死闘そのものなのだからな。

 

 完全なる世界の計画を利用して強者と戦うことこそが、自分の本来の目的なのだ。

そのために、この墓守り人の宮殿を決戦の舞台とし、こんな宮殿に呼び寄せられた強者と戦うだけだ。

 

 

 そんなことを言い放つ無明へと、アルスは叫ぶ。そうなればお前も死ぬぞと。

 

 完全なる世界の計画が成功すればこの魔法世界は消失し、火星の赤茶けた大地にその身のまま放り出されることになる。

そうなれば、たとえ魔法が使えようとも、酸素も紫外線を防ぐオゾン層もない火星で、生き延びるのは困難だ。

 

 

「その時は、その時だ。それに”完全なる世界”へと行き、閉じた世界で戦い続けるのも、また一興…………」

 

戦闘狂(バトルジャンキー)ってやつかよ…………、厄介な人種だぜこいつは…………」

 

 

 そうなったらそうなった時に考えればよい。無明はそう語る。

また、完全なる世界の一員ならば、”完全なる世界”と言う夢の世界へと行けると聞く。

であれば、その幸福な夢の中で、永遠に強者と戦い続けるのも悪くない、と無明は思っていたのである。

 

 

 無明の言葉にアルスは、頭を抱えて最悪だな、と吐き捨てる。

こういう奴(バトルジャンキー)ほど、相手にしたくない存在などいない。

 

 強い敵との戦いへの執着で、強者に対して粘着してくる厄介さ。

戦いに生き戦いに死ぬのは勝手だが、迷惑かけてまでそれをやるから質が悪い存在なのだ。

 

 

「では、再び、行くとする」

 

「来るぞ!!」

 

 

 そんなつまらない問答は終わったとばかりに、無明は無手の構えを取って再び攻撃を開始する。

アルスも無明の攻撃態勢を察して、二人に叫んで攻撃を警戒した。

 

 

「グアッ!!?? み……っ見えねぇ!?」

 

「遅い、遅いぞ」

 

 

 が、叫んだ直後、アルスはすでに腹を殴られ吹き飛ばされていた。

アルスは気が付いた時には吹き飛ばされており、予備動作もなく攻撃が終わっていることに驚くしかなかった。

 

 無明はアルスの行動を遅いと言い、さらに攻撃を追加するために行動する。

 

 

「調子こいてんじゃねえぞコラァッ!!」

 

「ほう、さっきよりは、疾いな」

 

 

 もう一度アルスの顔面へ拳を伸ばした無明だったが、横から割って入ってきたカギが殴り返してきたのだ。

咄嗟に無明はガードしたが、カギはさらに攻撃を加速させ、ラッシュを叩き込む。

 

 無明はカギの攻撃をかわしながらも、カギの動きが先ほどよりもよくなっていることに喜びを感じた。

そうそう、そうじゃなければつまらない、そんな風に。

 

 

「だが、その程度では、意味がない」

 

「ガアッ!?!? なんだよコイツ!?」

 

 

 されど、スピードアップしたカギをあざ笑うように、無明はさらにスピードを上げて攻撃してきた。

もはや目では追うことが不可能な速度で、何度も拳や蹴りが飛び交う。

 

 カギすらも回避できずにされるがままの状態で、無明の攻撃を受け続けることしかできなかった。

 

 

「――――”スターランサー”!! 対竜種用結界! ”フェイタルバインドフィールド”!!」

 

「楓忍法! ”天魔覆滅・縛鎖地網陣”!!」

 

 

 カギの危機にアルスは、スターランサーを無明の周囲へと飛ばし、すかさず対竜種用結界を作り出す。

アルスの結界に合わせて楓も、風魔手裏剣を大量に飛ばし、さらに爆符が大量についた鎖を無明の周囲へと配置し、それを炸裂させたのだ。

 

 

「やるじゃないか。それで、いいんだ」

 

「――――なっ――――にぃッ!?」

 

「アルス殿!?」

 

 

 ――――しかし、無明はそれらの攻撃を見透かしたかのように超スピードで回避し、アルスの目の前へと迫ってきていたのだ。

 

 それにはアルスも驚き、無意識に声が漏れた。

今までの敵とは桁違いの強さ、スピード。これ程の相手は出会ったことがなかったと。

 

 楓もアルスが危険なことを察し、大声で名を叫んでいた。

だが、完全に無明の間合いに入った状態では、無情にも今から行動しても間に合わない。

 

 

「ナメんじゃねえってんだよ! このヤロー!! ――――――術式解放!! ”雷風螺旋撃(らいふうらせんげき)”ッ!!!」

 

「!」

 

 

 その時、今度はカギがアルスの危機に瞬時に反応し、怒りのままに叫びながら無明の真横へと肉薄、即座に必殺技をたたきつける。

無明は一瞬の不意を突かれたが、カギの攻撃を最小限の動作でかわすが――――。

 

 

「”爆熱陽剣(ばくねつようけん)”――――解放!! ”日炎陽光斬(ひえんようこうざん)”!!!」

 

「大技二連撃! 大した、奴だ」

 

 

 さらにカギはもう片方の腕に握っていた宝具の剣からも、魔法を開放して無明へと攻撃したのだ。

迫りくるカギの技に無明は、驚いた様子を見せながらも、それすら余裕の態度で回避して見せたのである。

 

 

「すまん、助かった」

 

「何も助かってねーよ! 俺の必殺技を容易く全部かわしやがった!! ちょこまかとすばしっこいヤローだぜ!!!」

 

 

 アルスはカギに助けられたことを素直に感謝するが、カギは今の程度で助かったなんて認識は生ぬるいと叫ぶ。

 

 何せカギが今放った二重攻撃は、あの無明とか言う野郎をぶっ潰すために、渾身の力と技と速度で放った必殺技だったのだ。

 

 なのにあんなにいともたやすく、あっけなく回避されるのだから、本当に腹立たしくも恐ろしい相手だと、カギも理解したのである。

 

 

「いい技だ。そのような、素晴らしい技を見せられたのであれば、こちらも出さねば、無作法と言うもの」

 

 

 されど、無明はカギの渾身の攻撃を目の当たりにして、いたく感激した様子を見せ、喜びながら奮い立っていた。

故に、自分も今出せる最高の技を見せねば無礼だと言い放ち、そっと胸につけていた十字架の装飾をはずし、そこに魔法を融合させ始めた。

 

 

「魔力の剣!?」

 

「お前たちが使っている術具融合(ソレ)は、魔法世界(こちら)では有名なものだ。当然、私も使える」

 

師匠(マスター)ーッ! ふざけんなよ!! 大々的にアピールしてんじゃねぇッ!!!」

 

 

 ――――無明が使ったのは術具融合。

術具融合はエヴァンジェリンがO.S(オーバーソウル)を元に考案した魔法であり、アリアドネーなどで幅広く教えられているし、教本にも記載されている。

つまり、魔法世界にいれば誰でも知ることが可能な魔法だ。

 

 無明は胸元に着けていた十字架の装飾をはずすと、それに1001発分にもなる光属性の魔法の射手を束ね圧縮して付与し、魔力剣としてその技術で作り出したのだ。

 

 魔法の射手は攻撃魔法の基本中の基本であり、上位の魔法に大きく劣るが無詠唱で出すことが比較的楽な魔法だ。

千の雷や奈落の業火に比べたら地味で圧倒的に弱く見えるが、それを強い魔力を内包させ大量に発射することで、大規模な破壊攻撃が可能となる。

 

 そんな魔法の射手を1001発分、全てを束ねて圧縮させれば、破壊力と貫通力を一手にまとめ上げて大幅に増幅することが可能。

 

 つまり、1001の矢を束ねれば大魔法に匹敵かそれ以上の瞬間火力が出せるということだ。

それを束ねて圧縮したこの剣は、その威力が、いや、それ以上の威力が内包されていると言うことでもあるのだ。

 

 

 その姿は十字架の上部の先端から伸びる、月光のような眩い輝きを放つ、刃渡り70cmほどの長さで細く鋭い刀身と言う、エストックに近い非常にシンプルな形であった。

また、十字の下部は柄となりて、両手で握りやすくなっていた。

 

 

 カギはエヴァンジェリンが敵にまで技術を流出させていたことに、腹を立てた様子で地団駄を踏んでいた。

とは言え、術具融合は教科書に乗せた技術。それをたまたま敵が使ってきただけなので、何とも言えないのである。

 

 

「――――丑刻天月(ちゅうこくてんげつ)…………と、名付け呼んでいる」

 

 

 そして、その術具融合に無明が自ら与えた名を告げれば、ゆっくりと構えを取り出したのだ。

 

 

「!! マズい! よけろッ!!!」

 

 

 無明がスッと丑刻天月を構えたのを見たアルスは、何か盛大に嫌な予感を感じ、咄嗟に全員を庇うように飛び出してよけろと叫んだ。

この予感は今まで培ってきた経験からの勘だ。とてつもない何かが来ると、ビリビリと肌で感じたのだ。

 

 

「”散月(さんげつ)”」

 

 

 その技の名を無明が小さくつぶやいた次の瞬間、アルスたちがいた場所の地面が、弧を描くように切り裂かれたのだ。

しかも一つだけではない。恐ろしいことに、無数の斬撃の跡が一瞬にしてできていたのである。

 

 

「なんだとぉッ!?」

 

「ぬっ!?」

 

 

 アルスのおかげで、すでに回避行動に移っていたカギと楓は、驚きながらも何とか今のは回避できたようだった。

が、アルスはさらにもう一つ、恐るべき事実を理解してしまったのである。

 

 

「射程が伸びた……!?」

 

 

 今の無数の斬撃、目で追えぬスピードで発生していた。それはアルス以外も理解できていた。

いや、意味不明な速度での無数の斬撃と言う現象は、理解できぬ技ではあるが。

 

 ただ、アルスだけはもう一つ、わかったことがあった。

何故なら、回避したと思った技を、何故か左肩に受けてしまっていたからだ。

 

 そして、アルスが理解したこと、それは無明の斬撃の射程が伸びたことだ。

その斬撃の射程が伸びることで、不規則な斬撃の形となってアルスが避けそびれたのである。

 

 

「そう、魔力で形成したのであれば、自由自在に、形状を変化できる、というものだ」

 

「確かに、理屈としてはそうだが…………」

 

「…………見切りづらい攻撃でござるな」

 

 

 アルスの言葉に、無明は素直にそのカラクリを語った。別に知られようと意味がないからだ。

とは言え、楽だと言うほど簡単なことではない。剣が伸びると言うものを想像しなければならないからだ。

 

 だが、それを無明は柄の部分から刀身が増えると言う想像で、それを解決していた。

つまり、柄から剣の刃が生えてくると言うイメージで、刀身を伸ばしているのだ。

 

 アルスも理屈は理解できるが、それを容易く行っている無明に戦慄した。

また楓も、刀身が伸び縮みすると言うことを考え、攻撃の軌道がわかりづらくかわしづらいと評価していた。

 

 

「そんぐれぇなんてことねぇ!!!」

 

 

 しかし、カギはその程度で止まることはない。

なんてことないと叫んだカギは、再び無明へと攻撃を仕掛ける。

 

 

「”雷神斧槍(らいじんふそう)”!! ――――解放!! ”神殺轟雷(じんさいごうらい)”!!!」

 

「”縛鎖爆炎陣”!!」

 

「”スターランサー”!!」

 

 

 神殺轟雷は雷神斧槍から解き放たれた、巨大な雷の砲撃だ。 

槍のような貫通力を持ちながら、相手を無限に追尾し続ける雷のレーザー、それこそが神殺轟雷。

 

 さらにカギの攻撃に乗じて、楓とアルスも無明へと必殺技を同時にぶち込む。

大量の爆符を括り付けた鎖で無明を囲い、その隙間からスターランサーを突っ込ませたのだ。

 

 

「”舞月(まいげつ)”」

 

 

 が、無明はよろりとおどけるような足さばきで動き、丑刻天月を振り下ろしたかと思えば、その直後に無明を囲うかのような複数の斬撃が発生。

その斬撃がカギたちの攻撃をはじき返し、防御して見せたのだ。

 

 

「なっ!? 馬鹿な!? 俺たちの技を一撃でッ!?」

 

 

 アルスはたった一発の技で自分たちの技を防がれたことに、驚き戸惑った。

三人の同時攻撃が一撃で防がれたのだ。動揺もするだろう。

 

 

「これで終わりじゃねえんだよ!! さらに解放!! ”雷風螺旋撃”!!!」

 

「!」

 

 

 しかし、カギは叫びながらさらに技を解き放つ。

すでに左手に握られた天雷螺旋剣を突き出し、込められていた魔法を開放し、雷を纏った竜巻を無明へと向けたのだ。

 

 無明は連続で放たれた技に少し驚いた様子を見せながらも、体をひねって飛び上がり、それを回避して見せた。

 

 

「合わせるでござる! ”天魔覆滅・縛鎖地網陣”!!」

 

「応ッ!! ”日炎陽光斬”!!!」

 

 

 そこへ楓がカギへと掛け声をし、さらなる技を繰り出した。

複数の風魔手裏剣を無明を目掛け投げれば、特別性の爆符を括り付けた鎖で、風魔手裏剣を巻き込みつつ無明を包囲したのだ。

 

 無明は迫りくる風魔手裏剣を丑刻天月ではじき返した時にはすでに、爆符と鎖によって包囲された状態になっていた。

さらにさらに、そこへカギが爆熱陽剣を開放し、灼熱と爆発が混ざった斬撃の技を無明へと放ったのだ。

 

 日炎陽光斬が天魔覆滅・縛鎖地網陣との相互作用が発生し、地響きが起こるほどの大規模な爆発が無明を襲ったのである。

 

 

「どうだ!!」

 

 

 カギは技が命中したのを見て、ざまあみろと言うしたり顔で爆心地の中央を見た。

だが、そこで見たのは信じられぬものであった。

 

 

「――――流石だ」

 

 

 なんということだろうか。

無明は着ていた外套こそ全部ちぎれ飛んでいたが、それ以外は全くの無傷の姿で、今の技を褒め称えているではないか。

それも馬鹿にした様子でもなく、心からの称賛のようであった。

 

 

「ぐげえっ!?」

 

「ぐっ!!?」

 

 

 さらに、それだけではない。

今の攻撃を受けながらも、すでに、無明はすでに反撃していたのだ。

カギも楓も目視で見ることが叶わなかった超神速の斬撃を受け、うめき声をあげた。

 

 

「しかし……、外套を裂いたぐらいでは、女子供でも死なん」

 

「なっ……なん……だと……!? こっちはカウンター食らって痛えってのに、向こう無傷ってどういうことだよっ!?」

 

「どうなっている!?」

 

 

 カギも楓も今の技には手ごたえがあったと思っただけに、ただただ驚愕と戦慄を感じざるを得なかった。

理解ができない。今の規模の爆発で無傷など、さらには反撃してくるなど。

誰もがどんな手を使ったのだと思考し、恐れおののく。

 

 そして、外套がなくなったことで、無明の素顔があらわになった。

年齢は20代手前のようであり、短い黒髪に黒目をした好青年だった。

 

 

「ッ! まさかこいつ」

 

「何かに気が付いたのでござるか!?」

 

 

 その無明の姿を目にしたアルスは、無明の強靭な防御の正体に気が付いたのか、はっとした様子を見せた。

楓はアルスの様子に、何かわかったのかと叫んで尋ねる。

 

 

「多分だが、周囲に対魔法・対物理障壁を重ね、服の下に術具融合で鎧を作ってたんだ。でなきゃあ、あんなバカみたいな防御力ありえない」

 

 

 アルスは無明の馬鹿みたいな防御力の正体を推察して予想を立てた。

その内容とは、強力な障壁を張り巡らせながら、さらに剣である丑刻天月以外の術具融合を、鎧として装備していると言うことだ。

 

 それは正解であり、無明の術具融合は丑刻天月だけではなかったのだ。

なんとアルスの予想通り、無明は障壁を何重にも重ねながら、さらに体に直接術具融合の鎧を装備していたのである。

 

 術具融合は魔装兵具や術式兵装と似たようなものだが、肉体ではなく触媒に魔法を装填することで、想像力次第では無限に形を変えられ、さらには作り出すだけで防御力を大きく向上させるなどの違いがある。

 

 そう、無明は術具融合を二つ装備し、片方を防御に寄せていることで鉄壁の防御を得ているのだ。

強靭な魔法障壁を圧縮した鎖を一つ一つ編み上げ、鎖帷子のような形にした防御型の術具融合を。

 

 また、内部に着込んだ鎖帷子のような鎧の術具融合の名は”昼刻透月(ちゅうこくとうげつ)”と言う。

 

 

「正解。素晴らしき、観察眼だ」

 

「褒められたって嬉しくねえぜ……」

 

 

 それに気が付いたアルスはその内容を言葉にすれば、無明はExactly(そのとおりでございます)と答えたではないか。

とは言え、推測が的中したからと言って有利になるような状況ではなく、無明に称えられても皮肉にしか聞こえないアルスだった。

 

 

「アルス殿、つまり…………」

 

「ああ、……チャンスをくれ」

 

 

 楓は無明の強固な防御を理解し、さっきの造物主の使徒との戦いを思い出してアルスの方を見た。

アルスも楓の考えを察し、無明の隙を作ってくれるように頼む。

 

 

「何二人だけで勝手にわかりあってんだよ!?」

 

「簡単に言うと、とりあえず相手に隙を作るでござるよ」

 

「…………しゃーねえなあ!!」

 

 

 ただ、カギはアルスと楓の戦いを知らないので蚊帳の外。

そのことに怒ったのか、アルスたちに文句を言う。

 

 そんなカギに楓は静かに作戦を話す。

単純なことだ、無明が無防備になる瞬間を作る、それだけだ。

それだけだがかなり難しいことではあるのだが。

 

 が、カギは楓の簡単な説明である程度理解を示し、気合を入れなおして無明の方を睨みつけた。

 

 

「だぁーったらッ!! ありったけをッ!! くれてやらアァッ!!! ”王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)”ッ!!!」

 

「芸のない。乱れ撃ちなど、――――無意味! ”散月”」

 

 

 ならば、とカギは王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を最大開放して宝具を連射しまくる。

されど、そのような攻撃など無明には通じるはずもなく、複数の斬撃を一瞬で放つ奥義、散月によってすべて防がれた。

 

 

「っ! 風魔手裏剣!」

 

「それだけではござらんよ!」

 

「影分身……!」

 

 

 ――――その時、無明へと複数の風魔手裏剣が襲い掛かった。

無明は丑刻天月にてそれをはじき返したが、今度は影分身で三体に増えた楓が飛び込んできたのだ。

 

 

「”三重・縛鎖爆炎陣”!!」

 

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)ッ!! オラよ!!!」

 

 

 楓は分身二体を利用して爆符を大量に取り付けた鎖を三つも駆使し、投げた風魔手裏剣を起点に無明の周囲を取り囲むように配置する。

そこへカギが突撃し、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を取り出して投擲。

 

 

「! 魔法の一時的消失狙いか!」

 

「んでもって! ”天雷螺旋剣(てんらいらせんけん)”!! うりゃあッ!!」

 

 

 無明はその紅色の槍を見て、すぐさまカギの狙いを理解した。

魔術、ここでは魔法となるが、魔力の流れなどを阻害して無効化する穂先を持つ魔槍にて、自分の術具融合を解くと言う算段を。

 

 カギだってそんなの見りゃわかると理解している訳で、さらに攻撃を追加する。

 

 

「”狂月(きょうげつ)”」

 

「グアッ!!?」

 

「ぐっ!?」

 

 

 二人の攻撃が同時に炸裂する瞬間に、無明は別の技を繰り出した。

無明の周囲に複数の斬撃をランダムで発生させる必殺技、その狂ったような刃の嵐にちなんで狂月と名付けた。

さらに、魔力の刃が伸縮を繰り返すことで、間合いが常に一定ではなく、見切るのが非常に困難な技だ。

 

 恐ろしいことに、爆発と雷の槍をその技の斬撃と衝撃波で防ぎ、逆に技を放った二人へと攻撃してダメージを与えてきたのである。

どちらも渾身の技であったのにも関わらず、こうも簡単に防がれたことに驚きつつも、それでもカギも楓も攻撃の手を緩めない。

 

 

「クソがぁぁッ!!! 調子にのってんなよオォッ!! もう一度破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)!!!」

 

「我が防御を貫くには、それが一番と、考えたか」

 

「テメェのご自慢の剣ごと消し去ってやるぜ!」

 

 

 カギは無明の狂月にてダメージを受けながらも、再び破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を取り出し左腕に握りしめ、無明へと突撃。

無明もカギの考えなど手に取るようにわかると言う様子で、カギの動きを注視する。

 

 そんな無明へとカギも怒りをぶつけるかのように破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を無明へと突き立てた。

 

 

「”反月(はんげつ)”」

 

「グガッ!?!?!」

 

「カギ坊主!?」

 

 

 されど、無明はカギの動きに合わせて、カウンターの技を放つ。

相手の動きに応じて防御・回避を行いつつ、神速で刃を振るう必殺の技、反月。

先ほど楓とカギの猛攻を掻い潜り反撃して見せた技の正体だ。

 

 突き立てた槍が無明の顔の横を通り過ぎた瞬間、カギの胴体に強烈な衝撃が走り、カギは軽く吹き飛びうめき声をあげる。

そんなカギを見た楓は、たまらずカギの名を呼びながら無明の方へと飛び出す。

 

 

「”震月(しんげつ)”」

 

「があッッ!!?? いくつ技があんだよクソッ!!!!」

 

「なっ!? うっ!!?」

 

 

 しかし、無明はさらに技を繰り出し、カギに追い打ちをかける。

超高速で丑刻天月を伸縮させながら神速にて振り下ろすことで、複数の斬撃の中に見えざる真空波の刃が発生し、それが不可視で不定形の斬撃となって二重に襲いかかってくる技、震月。

 

 その超振動レベルの刃の伸縮によって、空気がゆがみ揺れているように見えることから、その名をつけたらしい。

 

 カギも楓も複数の「可視」の斬撃は回避したが、「不可視」の斬撃は回避できずにダメージを受けて吹き飛ばされる。

すさまじい斬撃の嵐にカギは血しぶきをあげながら、無明の尽きぬ技の数に苛立ちを感じて叫ぶ。

楓も見えざる刃を受け、苦悶の声を上げて後方へと飛ばされていた。

 

 

「嘘だろ…………。悪夢でも見てんのか……? 兄貴たちがこんな苦戦するなんて…………」

 

 

 戦いが始まってからずっと陰に隠れつつ観戦していたカモミールは、カギのずっと押し負けている姿に恐怖していた。

カギはエヴァンジェリンが師として鍛えてきた。修行を怠けていたことなどない。強さも上位に及ぶとカモミールも理解していた。

 

 そんなカギがボコボコにやられている。

それだけでなく忍者の楓すらも手も足も出ていない。

これが悪夢でなくなんだというのか。

 

 

「”曼月(まんげつ)”」

 

「げっ!! ナメてんなッ!!! ”雷風螺旋撃”ッッ!!!」

 

「むっ、真上に放った大渦で、我が曼月を相殺した、か」

 

 

 カギたちが怯んでいるところに、無明は畳みかけるかのように技を使う。

無明を中心に円形の斬撃を放ち、周囲を切り裂く技、曼月。

 

 だが、カギとて何度も無明の技を受けてきた。

対策ぐらいある程度思いつくというもの。咄嗟に天雷螺旋剣を頭上へと掲げ、雷風螺旋撃を解き放つ。

その強烈な渦状の衝撃波が、無明の放った曼月をかき消し相殺したのである。

 

 無明はそんなカギの行動に感心し、ふっと小さく笑っていた。

攻撃を防がれたと言うのにまだまだ余裕を見せる無明。それが余裕なのか慢心なのかは本人にしかわからない。

 

 

「隙がなかなかできねぇ…………。こんな転生者(ヤツ)がいるとは…………」

 

 

 アルスは無明の底知れぬ強さに、戦慄と驚愕を覚えていた。

なんて強さだ。しかも二人を相手にしているのに、こちらに隙をまったく見せない。

転生者とは基本的に慢心があるはずだが、これほどまでに隙を晒さない転生者に出会ったのはアルスも初めて出会ったのである。

 

 

「クソッ!! だったら何だってんだ! やるしかねぇ! やるぞッ! ”雷神斧槍”!!」

 

「そうでござるな」

 

 

 目の前の無明とか言う野郎は確かにクソ強い。

今まで出会った転生者の中でも最強だと思う。それはカギも同じ気持ちだ。

 

 されど、それがどうしたと言うものだ。

相手が強かろうが何だろうが、今目の前の危機を倒さなければ、先に進めぬのだ。

 

 そう、やるしかない。

目の前の無明をぶち破って先に進むしか、道はないのだとカギは叫び、再び雷神斧槍を作り出し構え、無明へと突撃する。

 

 楓もカギに同調し、カギとコンビネーションを組むように忍術を操り始める。

 

 

「楓忍法――――」

 

「”神殺轟雷”!!」

 

 

 カギがすかさず術具融合で生み出した雷の槍を握りしめて前に出て、楓が後ろに控えて渾身の気を練り上げる。

 

 

「”狂月”」

 

 

 が、無明はカギが接近してくるのを見越して、すでに構えて技を解き放った。

その瞬間、狂ったように不規則な斬撃の嵐がカギへと襲い掛かる。

 

 

「いっってええぇぇぇッ!! だが押し通すッッ!!!」

 

「……ほう?」

 

 

 しかし、なんということだろうか。

カギはその無数の斬撃をあえて回避せず、術具融合の防御力と対物障壁で防ぎつつ、無明へとさらに迫ったのだ。

 

 流石にその斬撃全てのダメージを抑えることは叶わず、多少のダメージを受けてはいたが、それでもカギは回避より突撃を選んだのである。

 

 無明もカギのその蛮勇めいた行為に対して、感心した様子を見せた。

なるほど、肉を切らせて骨を断つか。苦し紛れに見える行為だが、その目は確実にこちらを貫くと言う強い意志を宿している。

 

 その気迫と意気込みやよし。ならばそのまま迫って来い。されど、こちらの防御は万全だ。

無明はニヤリと笑いながら、そんなことを考えていた。

 

 

「かってえぇぇぇ!? だが!! 破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)ッ!!」

 

「――――っ!」

 

 

 当然、無明の防御は強固。障壁は破壊できたが、内に装備している術具融合の鎧は貫けない。

であれば、それすらも消し去るだけだと、カギは男の真下から王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を開き破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を飛ばしたのだ。

 

 そう、このために破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を、一度王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)へとしまっていたのだ。

 

 無明はそれを見て咄嗟に体を後ろにそらして回避して見せたが、その態勢はほんの一瞬だが隙となった。

 

 

「――――”朧十字”」

 

 

 それを狙っていた楓が影分身で自分を16体に増やし、強く練られた気を用いた強烈な斬撃を、影分身と共に同時に全て叩き込もうと無明へ迫る。

されど、この程度の隙を狙っただけで、倒せるような簡単な相手ではない。

 

 

「なるほど。いい攻撃だ。しかし――――」

 

 

 無明は即座に態勢を整えて構えると、すぐさま技を解き放つ。

 

 

「”皇月(おうげつ)”」

 

「グッガアアアアアッッ!!?!?」

 

「ぐううぅぅぅっっ?!?」

 

 

 無明は大振りに下から上へ丑刻天月をすさまじい速度で振り上げれば、なんとカギと楓を囲むように地面と左右からすさまじい数の斬撃が発生したではないか。

 

 二人とも三方向からくる斬撃を回避することは叶わず、その身に受けて吹き飛ばされ、楓の影分身も全て消失させられていた。

 

 

「素晴らしい、作戦だったが、惜しかった、な」

 

 

 とは言え、今の判断はよかったと、敵ながら称賛の言葉を贈る無明。

そして、その視線は前で戦っていた二人ではなく、後方で構えて待機していたアルスへと向けられた。

 

 

「っ! ぐおっ!?!」

 

「お前が、コソコソ何かやってるのは、知っていた。しかし、もう終わりだ」

 

「はっ! そうかよ」

 

 

 そして、無明は次に後方で動かずに戦局を見極めているアルスを見ると、瞬く間にアルスの前へと肉薄し、そのまま丑刻天月を振り下ろす。

 

 アルスは一瞬の出来事すぎて回避が遅れ、左肩に斬撃を受けて後方に吹き飛ばされた。

 

 そんなアルスへと丑刻天月を突き付けながら、終わりを宣言する無明。

アルスは観念したような表情を見せながら、小さく笑って無明を見上げていた。

 

 

「では、さようなら、だ」

 

「ああ、()()()()()()

 

 

 そのアルスへととどめを刺そうと、無明は丑刻天月を構えてアルスへと別れの言葉を継げる。

 

 が、アルスは皮肉を込めて無明へと別れの挨拶を言い放ったのだ。

アルスは別に何もしてなかった訳ではない。準備はすでに完了していたのだ。

 

 

「っ!! これはっ!?」

 

 

 すると、無明は脇腹に痛みを感じた。

なんと、そこには一本の短剣が、障壁や昼刻透月を貫通し、脇腹に突き刺さっているのを無明は驚きの眼で見たのである。

 

 

「”スタースティンガー”。どんな強固な障壁だろうが貫いて粉砕する俺の”術具融合”だ」

 

「ぬうッ!?」

 

 

 アルスは無明の脇腹に突き刺した短剣の効力を、自慢げに説明する。

見ての通り障壁も術具融合の防御も、全て砕いて貫くアルスが生み出した術具融合だと。

 

 無明はその説明を聞いて、咄嗟に自分が危機的状況であることを察した。

今、無明の防御は全て剝がされて丸裸同然だ。そこへさらなる攻撃を受ければ、流石にタダではすまないからだ。

 

 

「今でござる!」

 

「おっしゃァッ!! 畳みかけるぜッ!!!」

 

 

 そこへチャンスを待っていたとばかりに、楓とカギが無明へ目掛けて攻撃を仕掛ける。

そう、これこそ全てアルスの狙い通りの状況だ。無明の最強の防御を破壊して無防備な状況にすることこそ、アルスの狙いだったのだ。

 

 

「かなり無茶をすることになるが………。 ――――楓忍法! ”朧十字・二連”ッ!!」

 

「ぶっちぎれ! ”雷神斧槍”! ――――最大解放!! ”神滅大轟雷(じんめつだいごうらい)”!!!」

 

 

 楓は一発では足りぬと考え、16体の影分身で放つ朧十字を、倍の32体に無理やり増やして二連撃へとアレンジして放ったのだ。

 

 自分と同じぐらいの存在感を出す影分身を生み出すのは、相当な気を用いる。

楓自信に相当な負荷がかかっているのは当然だが、ここまでやらねば目の前の相手は倒せぬと賭けに出たのだ。

 

 カギもありったけの魔力を込めた雷神斧槍を巨大化させ、神滅大轟雷を解き放って無明へと投擲した。

 

 

「”スタースティンガー”! ”スターランサー”! 全部持ってきなッ!!」

 

 

 さらに、アルスもありったけの魔力を使い、複数のスタースティンガーとスターランサーを生み出して無明へと放つ。

もはや四方八方から攻撃された状態の無明に、逃げ場はないように思われた。

 

 だが――――――――。

 

 

「――――――”赤月(しゃくげつ)”」

 

 

 ――――――一瞬、無明の周囲の世界が赤く染まった。

まるで真っ赤な月が夜空を照らすかのように。

 

 無明は攻撃を回避不能と判断し、その奥義を解き放った。ただそれだけだった。

奥義が解放された瞬間、周囲から音が消失して静寂が生まれた。

 

 

「――――えっ?」

 

 

 その静寂を破って声を出したのは、カモミールだった。

何を見せられているのかわからないと言う顔で、ただただ戦慄し、驚愕していた。

 

 

「お……おい…………、何だよ今の…………、何が起こったんだよ………………」

 

 

 また、戦いを見ていたカモミールだったが、何が起こったのかまるでわからなかった。

ただ一つ理解できたことは、無明が何かの技を繰り出したこと、それと――――――。

 

 

「兄貴イィィィィィィ――――――――ッ!!!!」

 

 

 ――――カギが吹き飛ばされて壁にめり込み、動かなくなっていることだった。

 

 それだけではない。

アルスも楓も、同じように吹き飛ばされ、地面にひれ伏したままピクリとも動かなくなっていたのであった。

 

 

 カモミールはもはや理解が追い付かず、カギを呼び叫ぶことしかできなかったのであった…………。

 

 

 

 

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