理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百八十五話 限界

 

 一方、ジョニーの飛行船から引きはがされたご一行の一人。

いや、そこに現れた助っ人の直一はと言うと――――――。

 

 

「ハハハハハッ!!! ハッハッハッハッハッ!!!!」

 

 

 笑う男のグレートピンチクラッシャーを目の前にし、その攻撃を高速で回避していた。

 

 

「んったく、なんつー出鱈目な特典(アルター)だよ。ピンチじゃなくても常にコレとか……」

 

 

 直一は笑う男の特典(アルター)に対して、かなり思うところがある。

それもそのはず、直一も特典(アルター)を貰っているからだ。

 

 本来崖っぷちのピンチにならなければ、この形態(グレートピンチクラッシャー)にはなれない。

まずピンチになって初めて、通常形態のスーパーピンチクラッシャーが呼び出せるからだ。

 

 さらに最大のピンチを迎えることで、上空で精製されたピンチバードとスーパーピンチクラッシャーが合体することで、今の強化形態であるグレートピンチクラッシャーとなるのだ。

 

 だと言うのに、そんなものお構いなしで使ってきやがる。

笑う男が選んだ二つ目の特典がそれを許している訳だが、直一はナンセンスだと思った。

名前に”ピンチ”がついてるのに、ピンチじゃなくても強化形態が使えるなんて、名前から”ピンチ”を取れよと…………。

 

 

「ハハハハハッ!!! ハハハハハハハッ!!!!!」

 

「逆転閃光カットかよ!? あーまったくよぉッ!」

 

 

 すると、笑う男が大笑いしたかと思えば、グレートピンチクラッシャーが空高く舞い上がり、背中の翼を分離させてラストチャンスソードへと変えたではないか。

 

 直一はそのモーションを知っている。その合図を知っている。

次に来る攻撃が、グレートピンチクラッシャーの最大攻撃である、逆転閃光カットであることを。

だからこそ、こちらも大技で迎え撃つ必要があることを。

 

 

「”衝撃のおぉ!! ファーストブリット”オォォォッ!!!」

 

「ハハハハハーッ!!!」

 

 

 直一はかかとのピストンの衝撃で一瞬にして超加速し、迫りくる剣へと飛び蹴りを放つ。

そして、直一の衝撃のファーストブリットと逆転閃光カットが衝突し、激しい光と爆発音が周囲に拡散する。

 

 

「チィィッ!! やっぱこの状態じゃァちっとばかし厳しいかァッ!!?」

 

 

 両者とも完全に拮抗し、互いに後方に吹き飛んだ。

この状況を打破するには、もう一段階ギアを上げる必要があると、直一はマジになる気になったようだ。

 

 

「しょうがねぇなぁ。見せてやるよ、俺の最速(はやさ)をッ!!!」

 

 

 ならばと、再びアルター能力を開放する直一。

全身が虹色の光に包まれ、周囲からアルター粒子を体へと吸収してゆく。

 

 ――――――そこには、全身に装着されたラディカル・グッド・スピードがあった。

その名も”フォトンブリッツ”。

 

 脚部に限定して自身を加速させる融合装着型の発展、強化形態。

銀色と紫色の装甲、膨らんだ両腕部、空気抵抗を減らす鋭利に尖った胸部、後ろに伸びた鋭い楕円形のヘルメット。

 

 全身に融合装着させたラディカル・グッド・スピードにより、もはや誰もが感知不可能な速度を叩きだすことが可能な姿だ。

 

 

「ハハハハハッ!! ハハハハーハハハーッ!!!!」

 

「ウオォォラァァッ!!! ”瞬殺のファイナルブリット”オォッ!!!」

 

 

 笑う男は再びグレートピンチクラッシャーを急上昇させ、逆転閃光カットを使用。

ならばと直一も、超高速で回転、その勢いのまま突撃し、逆転閃光カットを迎え撃つ。

 

 

「ハハハッ!?!?」

 

 

 今度は直一のスピードとパワーが圧倒し、グレートピンチクラッシャーはラストチャンスソードと共に崩壊。

粉々に砕け散り、虹色のアルター粒子となって消滅していく。

 

 

「…………ハハハッ! ハハハハハッ!!!!」

 

「ちぃ……、何度も何度も復活しやがる……。いくら倒してもキリがねぇ」

 

 

 だが、笑う男は一度意気消沈したと思ったら、再び再起動して笑い出したではないか。

すると、再びグレートピンチクラッシャーが生成され、直一の前に立ちはだかった。

 

 直一は何度も何度も何度も何度も再生し続けるスーパーピンチ(アルター)に、苛立ちと焦りを感じ始めていた。

こうも破壊と再生を繰り返しているだけでは、目の前の笑う男は倒れない。

 

 

「だったらぁ!! 最速でぶっちぎって! 本体もろともぶっ飛ばすだけだァッ!!!」

 

 

 で、あればどうやって倒すか。

直一はアルター部分を破壊してもキリがないのであれば、本体の意識を完全に刈り取る必要があると考えた。

 

 

「もう一度受けてみな! ――――――俺の最速(はやさ)をオォッ!!!」

 

 

 直一は答えを出したら一直線。

再び超加速を開始し、笑う男とグレートピンチクラッシャーを翻弄しながら隙を伺う。

 

 

「ハハハハハハハハッ!!!!」

 

「遅い! 遅い遅い! スローリィーッ!!!」

 

 

 笑う男は超高速で直線に加速する直一へと、デンジャーハザードを放って攻撃。

だが、その程度の攻撃など直一には当たるはずもなく、どんどんと加速して虹色に輝いていく。

 

 

「ハッハァッ!!」

 

「ハハハハッ!?!? ハハハハハハッ!!??」

 

 

 まるで当たらない。むしろもう目では追う事すらできない。

直一は笑いながらさらに加速していけば、笑う男も笑いながら困惑と焦燥で表情が曇っていた。

 

 

「砕け散りやがれエェッ!! ”瞬殺のファイナルブリット”オォォォッ!!」

 

 

 そして、直一は再び瞬殺のファイナルブリットを、グレートピンチクラッシャーへと叩き込む。

今度は逆転閃光カットにて威力を減退されることはなく、一撃でグレートピンチクラッシャーの胸部を貫き粉砕。

 

 

「ハハハハハハッ!?!?!!?」

 

 

 さらにそのままの勢いで笑う男も蹴り飛ばし、その衝撃で後方へと吹き飛び壁に衝突。

笑う男の額についていたリングが砕け、頭をがくりと下げて動かなくなったのであった。

 

 

「ふぅ…………。これでどうだ………………?」

 

 

 直一は顔を嗤う男へ向け、倒したかどうかを確認する。

 

 

「やぁーっと完全に動かなくなったか。それにしても随分とえげつないことするなぁ。ナッシュとやらは…………」

 

 

 そして、ようやく笑う男が笑わなくなったのを見て、これで戦いが終わったと安堵した。

また、笑う男があんなにおかしかったのは、あのナッシュが何かしたからだというのを察しており、それについて一言こぼすのであった。

 

 

 

…… …… ……

 

 

 別の場所で、カズヤはナッシュと対峙していた。

巨大な岩場の上で、カズヤはナッシュを睨みつけ、そのナッシュは余裕の態度でカズヤのことを嘲笑していた。

 

 

「では、あなたには私の計画の役になってもらいましょう」

 

「勝手なことぬかすなッ!」

 

 

 ナッシュは自分の計画を、野望を達成するには、どうしてもカズヤの特典(ちから)が必要だった。

そのため、目の前のカズヤへと、お前を利用すると宣言する。

 

 そんなことなど関係のないカズヤには、馬鹿げた妄言にしか聞こえない。

調子に乗ってんなよこのクソとしか思わないのだ。

 

 

 そんなナッシュの思惑など知らず、カズヤはナッシュの挑発に怒気を含んだ台詞を吐き散らした後、シェルブリット第二形態を地面を殴り、上昇した。

 

 

「うおおおおおぉぉッ!!!」

 

「ふっ」

 

 

 飛び上がったカズやは、背中のプロペラを回転させながら、その中央から虹色の粒子を噴出させ、加速してナッシュへと突撃する。

 

 ナッシュも飛び上がって右手を伸ばし、突撃してくるカズヤを迎え撃つ。

 

 その直後二人が衝突。

だが、ナッシュは余裕の表情でカズヤの攻撃を防ぎ、逆にカズヤはまったく押し切れずにいた。

 

 

「以前に比べまったくパワーを感じませんが」

 

「ウウウウゥウゥゥッ………!!」

 

「それだけ私が本気を出しているのですから、仕方ありませんねぇ」

 

 

 なんという情けない力だろうか。

ナッシュはそう言いたげな視線をカズヤに向けながら、これこそが自分の本気だと語りだす。

 

 だが、カズヤにそれを聞いている余裕はない。

まったくもってナッシュの防御を突破できず、唸り声をあげるばかりだ。

 

 

「もういいでしょう。やられてしまいなさいッ!! ”サイコキネシス”ッ!!」

 

「ぐうおおッ!!?」

 

 

 もはや目の前の男には飽きた。正直ここまで力の差があるとは思ってなかった。

そう言うとナッシュは、強力な念力でカズヤを包み込み、岩場へと思いっきり叩きつけたのだ。

 

 これぞサイコキネシス。

手などを使わずに物体を浮かす力。パワーを込めれば物体を握りつぶすこともできる、念動力だ。

 

 見えない力に握られ、縛り付けられたカズヤは、叩きつけられた衝撃で苦悶の叫びをあげる。

 

 

「この程度ですか。まあ所詮そんなものです」

 

 

 サイコキネシスで押しつぶされかけたカズヤを見下し、嘲笑うナッシュ。

 

 

「まだだアァッ!!!」

 

「何度やっても同じこと。無意味ですねぇ」

 

 

 それでも再び立ち上がり、シェルブリットを振り上げて殴りかかるカズヤだが、ナッシュはそれを無意味と笑う。

すると、ナッシュは右腕をカズヤへと掲げ、もう一度サイコキネシスを放った。

 

 

「ガアアアアアッッ!!!」

 

「私の能力(とくてん)を本気で解放すれば、こうもなりましょう」

 

 

 今度は先ほど以上に強く縛り上げ、カズヤはたまらず声を上げた。

もはやカズヤが手も足も出ない姿を見ながら、これが自分の本気だと語り、余裕の表情を崩さないナッシュ。

 

 

「舐めんじゃねえェッ!!」

 

「学習能力がない人ですねぇ。無駄だと言っているのですよぉッ!」

 

 

 それでもカズヤは、何度も何度も立ち上がり、ナッシュへの攻撃を諦めない。

ナッシュは無駄なあがきを繰り返すカズヤを馬鹿にし、再び攻撃を行う。

完全に遊んでいる状態だ。

 

 

「ガアアアッ!!? グウウオオォォォッッ!!??」

 

 

 再びサイコキネシスの強力な束縛に捕らわれたカズヤ。

今度は念動力に握りつぶされながら、何度も何度も岩場に叩きつけられ、もはや叫ぶことしかできなくなっていたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 別の場所では黒い甲冑の男と法が戦っていた。

 

 

「いくぞ! 絶影ッ!!!」

 

「…………!」

 

 

 法は真なる絶影へと命令を下し、残像を生み出す速度で牽制し、黒い甲冑の男へと攻撃する。

が、黒い甲冑の男はシールド魔法を使い、絶影の超高速攻撃を全て防御しきったのだ。

 

 

「っ!? 何と言う強靭な障壁ッ!? 絶影の攻撃を防ぐだとッ!?」

 

「――――!!」

 

 

 拳の攻撃ではあったが、絶影の攻撃を全てガードされたことに、法は動揺を隠し切れない。

そこへ黒い甲冑の男は、大剣型アームドデバイスを高速で振り回し、絶影の体に傷をつけたのだ。

 

 

「ぐっ!? 以前のヤツに比べ、動きが格段に鋭くなっている……」

 

 

 法は目の前の黒い甲冑の男が。昔戦った男と思えないほどに強いと感じた。

以前ならば防御も攻撃速度も、こんなに高くなかったからだ。

 

 

「だが、スピードならばこちらが上だッ! 絶影ッ!!!」

 

「――――――!」

 

 

 とは言え、速度だけなら絶影の方に軍配が上がる。

それを利用し、見えない速度で黒い甲冑の男へと攻める絶影。

 

 だが、甲冑の男はその速度へと徐々に対応をはじめ、速度で上回っている絶影すら、攻めあぐねる展開となっていた。

 

 

「なんだっ!? くっ!?」

 

 

 どんどん絶影のスピードについてこれるようになっていく黒い甲冑の男に、法は若干焦り始めていた。

 

 そこで黒い甲冑の男は大剣デバイスを変形させ、零式斬艦刀のような見た目へと変化させたのだ。

大剣デバイスの峰の部分がブースターとなって、そこから炎が吹きあがり、大剣の振る速度が劇的に加速したのである。

 

 

「あの巨大な剣の機能まで使いこなしている…………。もはや以前のヤツとは別人の動きだ……」

 

 

 大剣の振る速度が加速したからと言って、ただ振り回しているだけでは振り回されているのと同じだ。

しかし、目の前の黒い甲冑の男は、それをいともたやすく操り、絶影の超高速攻撃へとぶつけてきているではないか。

 

 法は目の前の男が、本当に以前とは別人だと言う印象を受けた。

前ならば振り回すだけでも精いっぱいな動きしかできなかったからだ。

 

 

「しかし、負けるわけにはいかんッ! 剛なる(けん)! ”臥龍”!! ”伏龍”!!!」

 

 

 法はこのままでは押し切られると判断し、絶影の両腕の脇にあるドリル状の武器である、剛なる拳、臥龍・伏龍を同時に発射。

まるでミサイルの如く発射された臥龍・伏龍は、すさまじい速度で黒い甲冑の男へと迫る。

 

 

「――――!!!」

 

 

 迫りくる臥龍・伏龍を見た黒い甲冑の男は、突如として姿勢を低くして構えを取る。

そこで黒い甲冑の男は、なんと臥龍・伏龍を見切ったかのように、命中する直前に回転して両方を水平に叩き斬ったのだ。

 

 

「馬鹿なッ!? 今のを見切って切り裂くとは…………ッ!?」

 

 

 切り裂かれた臥龍・伏龍は、黒い甲冑の男を横切ったのち、大爆発を起こし、その光景を見た法は臥龍・伏龍を同時に切り払いされたことに驚愕した。

高速で飛んでくるミサイル状の攻撃を、こうも容易く防ぐとは思ってなかったのだ。

 

 

「…………」

 

「うっぐうっ!? さっきよりもさらに動きが疾くなってきている……!?」

 

 

 その後、黒い甲冑の男は、瞬動を利用して絶影へと接近、そのままブースターを吹かした大剣デバイスを振り上げた。

 

 驚きで硬直していた法は咄嗟の判断が出来ず、絶影の左腕は大剣デバイスによって切断。

ダメージがフィードバックした法は、苦痛の声をもらして左腕を抑え、黒い甲冑の男の動きがさらに良くなってきていることに驚きながらも疑問に思った。

 

 

「……!」

 

「があっ!!?」

 

 

 だが、黒い甲冑の男の攻撃は、これで終わった訳ではない。

ブースターの加速と瞬動を利用し、今度は本体の法へと肉薄してきたのだ。

 

 それを見た法は即座に回避行動をとるも、時すでに遅くそのまま下から斜めに振り上げられた大剣デバイスの攻撃を受けてしまったのである。

 

 

「ぐっ…………。なんだこの異様な強さは…………」

 

 

 ――――法も覇王の指導の下、気を操る方法を学んだ。

瞬動などの技術も会得し、それを使って回避しようとしたと言うのに、間に合わなかった。

 

 はっきり言って相手の動きはもはや異常だ。

肉体の制限を無視した攻撃としか思えなかった。

 

 

「だが…………、俺は負けんッ!!!」

 

 

 それでも、それでも法は負けるわけにはいかない。

他の場所で戦っている仲間のためにも、友人たちのためにも、自分自身のためにも、負けるわけにはいかないのだ。

 

 

…… …… ……

 

 

 サイコキネシスにより、何度も岩肌に叩きつけられたカズヤは、もはやズタボロの姿で宙づりにされていた。

 

 

「グウッ…………」

 

「なんと歯ごたえのない特典(アルター)か…………。このクズが」

 

 

 最後にゴミのように投げ捨てられ、岩場に叩きつけられたカズヤは、うめき声をあげて倒れこむ。

そんなカズヤを道端のゴミを見る目で見ながら、つまらないカスだと煽るナッシュ。

 

 

「ううっ……うっ…………」

 

「そろそろあなたには飽きました。これで終わりにして差し上げましょう」

 

 

 もはやアルターも解除され、体が言う事を聞かない様子のカズヤだが、それでもまだ負けていないと、震える足でゆっくりと立ち上がる。

 

 が、ナッシュはそれすらもつまらないものとして眺め、嘲笑いながら周囲の石を何十個も操り、宙へ浮かせた。

 

 

「ふふっ」

 

「グウウオオオオオオォォァァァアアアアアァァァアッッ!!!!!」

 

 

 そして、ナッシュが右手をカズヤへと伸ばせば、宙に浮かせていた石が、一斉にカズヤへと襲い掛かった。

もはや防御などできないカズヤは、雨あられのようにぶつかってくる石を受け、痛みで大声で叫ぶしかなかった。

 

 

「調子くれてんじゃねぇェェェッ!!!」

 

「まだ懲りないのですかぁ!!」

 

「グウアッ……グッ…………」

 

 

 されど、カズヤもやられっぱなしではない。

飛んでくる石を全てアルター粒子に変え、右腕を再びアルターへと組み替え、そのまま背中のプロペラで加速し、ナッシュへと突撃。

 

 しかし、ナッシュは自分の足元の岩を砕いて宙へ浮かせ、それを突進してくるカズヤへとぶつけたのだ。

 

 

「グウウウッ!! まっ、まだだぁ!!!」

 

「本当に学習能力のない人ですねぇ」

 

「なっ!? グウオアァッ!!?」

 

 

 たまらず苦悶の声を漏らすカズヤだがそのままナッシュへと拳を向けるも、ナッシュはそれを一歩下がって回避し、大岩をカズヤへとぶつけたのだ。

 

 

「ぐっ…………、この程度でこの俺が倒れると思うなアァッ!!!」

 

 

 その一撃で後方へと吹き飛ばされ、再び倒れるカズヤ。

それでも、立ち上がる。何度でも立ち上がる。そうだ、勝つまで、絶対に勝つまで、何度でも立ち上がるのがカズヤだ。

 

 

「はぁ。本当に飽きませんねぇ。所詮は野良の転生者。この程度でしかないというのに」

 

「ふっ…………ざけんなッ!! 勝手に人を枠にはめてんじゃねぇッ!!!」

 

 

 ナッシュはカズヤをこの程度と決めつけ、弱者と煽る。

本当に弱い。いや、違う。特典を鍛え抜いた自分が強すぎるだけだと、そうナッシュは考え心の奥底から笑っているのだ。

 

 煽りに煽られるカズヤは、当然腹を立てていた。

ここまでおちょくられて、馬鹿にされて、コケにされて、見下されて、黙っていられるような男ではない。

 

 

「何度やっても全て弾き飛ばすだけです。それに貴方は特典(ちから)を制御しきれてないはず」

 

 

 とはいうが、所詮強がりと思うナッシュ。

何せ目の前のカズヤは、特典の力を完全に操っている訳ではない。

 

 特典の使い過ぎで右腕はズタボロであり、暴走もする。

こんな状態で自分に勝とうなど、おこがましいとさえ感じていたのだ。

 

 

「んなこった知るかアァッ!!!」

 

「ん……!?」

 

 

 だが、なんとカズヤは無理やり特典(アルター)の力を引き出し、左腕すらもシェルブリットに変えたのだ。

なんという意地だろうか。その光景を見たナッシュも、どうなっているんだと一瞬度肝を抜かれた。

 

 

「うおおりゃあぁッ!!!」

 

「ほおぉ」

 

「ぐうぉッ!!!」

 

 

 そのままカズヤはナッシュへと殴りかかるが、ナッシュは攻撃を回避して逆にカズヤの顔面に肘打ちをぶちこむ。

それを食らったカズヤは数歩後方へと吹き飛びながら、苦悶の声を漏らしていた。

 

 

「素晴らしい、さらに特典の力を引き出すとは。ならばその特典(ちから)も利用させてもらいます」

 

 

 いやはや、なんという能力だろうか。

これなら自分の満足する結果に、かならずやなるだろう。

そう考えたナッシュは、カズヤへと右腕を再び掲げ、強力な念動力を練り始めたのだ。

 

 

「”マインドブレイク”」

 

 

 そして、カズヤへ目掛け、その念力を解き放った。

それこそ精神破壊する超能力だったのだ。

 

 そう、この攻撃で精神を破壊し、最終的に意のままに操る気でいたのだ。

その被害者として、あの笑う男や黒い甲冑の男がいたと言う訳だった。

 

 

「グッ!? ググウウウオオォォァァアァァァァァッ!?!?!?!」

 

 

 強烈な念力を脳に直接受けたカズヤは、その激痛と精神的ダメージに頭を抱えてのたうち回りながら、たまらず叫び声をあげてだした。

 

 

「耐えない方が苦痛が少なくて済みますよぉ?」

 

「ガアアアアァァァァッ!!!」

 

 

 されどカズヤは苦痛にもがきながらも、必死で精神の破壊に耐える。

この程度で自分の精神を砕かれてなるものか、目の前の男なんかに負けるものかと。

 

 が、ナッシュはカズヤの苦しむ様を見下し愉快に笑いながら、そのままやられた方が楽になると言い出した。

こうやって何人もの人間の精神を破壊し、傀儡人形を生み出してきたのがこのナッシュと言う男だ。

 

 

「グウウオアオアァァァァァガアアァァァッッッ!!!!」

 

 

 ナッシュが言う通り、痛みはどんどん強くなっていき、常人なら気を失うほどの激痛がカズヤに襲い掛かる。

それ以外にも、自分の記憶や体験が徐々に消失していくのをカズヤは感じ始めていた。

自分が自分でなくなっていく、消えていく、そんな感覚だった。

 

 

「さっさと呑まれてしまえば苦しまずに済むと言うのに」

 

「ガアアアァァァァァッッ!!!」

 

「無駄に抵抗するなど、苦痛の時間を伸ばすだけでしかありませんよ?」

 

 

 なかなか耐えるな。無駄なことなのに。

そう言いたげな表情をして、さっさと終われと吐き捨てるナッシュ。

目の前のカズヤがこれほどまでに、自分の精神破壊に耐え続けるとは思ってもみなかったのだ。

 

 まったく、この無駄に長くでかい悲鳴を聞き続けるのも、正直飽きてきた。

むしろ耳障りで気分さえ悪くなってくる。こんな汚い悲鳴など、さっさと途絶えてくれればよいのに。

 

 ナッシュはカズヤが頭を抱えて悶え苦しむ様を、そう考えながら眺めていた。

本当につまらない。まあ、もうそろそろくたばるだろう。

 

 ―――――しかし、ナッシュの思惑は大きく外れることになる。

 

 

「グウウウゥゥゥるせぇぇぇぇぇッッッ!!!」

 

「なにっ……!?」

 

 

 なんと、なんということだ。

カズヤは強靭な精神で、ナッシュの精神攻撃をはじき返してしまったのだ。

 

 これにもナッシュは驚き、目を見開く程だった。

馬鹿な、そんなはずがない。自分の能力が負けるはずがない、そう思いながら。

 

 

「意地があんだよ……ッ こんな俺にもなアァッ!!!」

 

 

 この程度でやられるかよ、テメェをぶん殴るまでは終わるかよ。

カズヤはずっとそれだけを考えながら、この苦痛に耐え続けた。

この強靭的な意地こそが、ナッシュの精神攻撃を跳ね返した精神力の源だったのだ。

 

 

「馬鹿な……!? この私の精神支配を跳ね除けるなど…………!?」

 

 

 ナッシュはカズヤが自分のマインドブレイクを、完全に克服したのを見て、慌てふためく。

この攻撃を防いだものなど、今までだれ一人としていないからだ。

自分の能力に自信を持っていたナッシュが、初めて自分の能力で失敗したからだ。

 

 

「ならば、さらに力を強めに…………!」

 

 

 今の出力で足りないのであれば、もっと力を出すしかない。

再びカズヤへと向けて、強力な念力をナッシュは放った。

 

 

「おもしれぇッ!! 何度でもやってみやがれエェッ!!!」

 

「なにっ!? こいつの精神力は………!?」

 

 

 されど、そんなものはもう通じないとばかりに、カズヤはさらに能力を引き出し、金色に輝きだしたではないか。

なんという力、なんという精神。ナッシュは現状を理解しきれず、目の前の男に驚くだけだった。

 

 

「テメェをぶっ飛ばせるならなあァッ!!!」

 

 

 そうだ、このいけすかねぇ野郎を、喧嘩を盛大に売ってきた野郎を、一発ぶん殴りたい。絶対ぶん殴ってやる。

カズヤはずっとそれだけを考えていた。今はそれだけが望みであり、それ以外を捨てていた。

 

 

「いらねぇッ!! ――――俺は他に何もいらねぇッ!!!」

 

 

 だからいらない。何もいらない。

目の前の野郎をぶっ飛ばせるならば、能力で命を削ろうが、もはや何もいらない。

カズヤは完全に全てを捨てた。

 

 

 ――――カズヤは転生者だ。

スクライドのカズマの能力を貰った転生者だ。

 

 彼はカズマではない。カズマのような生き様に憧れただけの人間だ。

だと言うのに、自分の命すらも捨ててまで、目の前の敵を倒すために全てを賭けた。

それは常人では不可能なほどの精神力だ。

 

 カズヤと言う男は、たとえ腕が痛もうが苦しかろうが、ナッシュを絶対にぶっ潰すと決めていた。どんなに苦しくてもやりとげると。

その執念や意固地な意思、そして強靭な精神力が、特典(アルター)をさらに強化していく。

 

 そうだ、全ては目の前のナッシュをぶちのめすためだった。

 

 

 

…… …… ……

 

 

 一方、法はと言うと、黒い甲冑の男に押され危機的状況だった。

 

 

「ぐうッ………!」

 

 

 真なる絶影は両手を失い、臥龍・伏龍を失い、もはやズタボロの姿だった。

そのフィードバックを受けた法も、当然ながら肉体的にも能力的にも疲弊し、苦痛で倒れ伏せていた。

 

 

「………………あの光は………?」

 

 

 そこで法は、遠くから黄金に輝く光を見た。

法はその光を知っていた。その輝きを知っていた。

 

 そうだ、あれはカズヤだ。

カズマの能力を貰ったカズヤが、自身の能力の限界を超えはじめた輝きだ。

 

 

「……ふっ……そうか…………そうだったな………………」

 

 

 法はその輝きを目に焼き付けながら、ゆっくり立ち上がった。

カズヤがどんな人間だったかを思い出しながら、ここで終わる訳にはいかないと思いながら。

 

 

「いつだってカズヤ(やつ)は…………」

 

 

 ああ、そうだ。そうだった。

カズヤはいつだって、自分の体などお構いなしに、愚直で意固地な奴だった。

 

 あれほどの輝きを放ったのならば、体にかなりの負担をかけているはずだ。

そこまでしても、あのナッシュとか言う奴を倒す気でいるのだろう。

 

 

「それに対して俺は、この期に及んで、まだ自分可愛さに能力を制限しようと…………」

 

 

 自分はどうだ? 一度倒したはずの男に、ここまで苦戦していいようにされてやられている。

それもこれも、自分に限界を設けているからではないのか?

 

 自分の能力をさらに解放し、肉体を酷使することを恐れていないか?

このまま自分の能力を制限したまま、みじめに負けるのか?

 

 

 ――――そんなことは、絶対に認められない。

 

 

 目の前の男を、何度も仲間たちを襲ってきた男を、絶対に倒すと誓った。

傍若無人に振る舞う転生者を、悪しき転生者を断罪すると誓った。

 

 ならば、そうだ。ならば、ここで負けるわけにはいかない。

能力の反動を恐れてはならない。限界を超えることに怯んではならない。

そんなものは捨てなければならない。

 

 

「だが……ッ! もはや何もいらないッ!!」

 

 

 目の前の男を倒すために、その恐怖心を捨てなければならないのなら、それを捨てよう。

そんなものは必要ない。目の前の男を倒すためならば、全てをかなぐり捨てて立ち向かおう。

 

 ああそうだ、そうだとも。

全てを捨てて、命さえも惜しむことなく、ただただ、目の前の男を倒すことだけに集中しよう。

 

 

カズヤ(やつ)もそう思っているはずだ」

 

 

 ――――法もまた、スクライドの劉鳳の能力を貰った転生者にすぎない。

だから当然、劉鳳のような強靭な意思が存在するわけではない。

 

 それでも法は自らを捨てることを選んだ。

何故なら、肩を並べてきたカズヤが、それを選んだからだ。

カズヤこそがこの生涯のライバルだと思い、自らを常に奮い立たせてきた。

 

 そうだ、あの男(カズヤ)もそう思っているはずだ。

あの男にできて、自分にできないはずがない。あの男と並ぶ必要があるならば、当然それを選ぶ。

 

 

 そう決意した法は、自分の能力(アルター)を開放する。

今、自分の中にある感情を爆発させ、その限界に挑む。

 

 

「――――ッ!?」

 

 

 黒い甲冑の男は、無言ながらに驚いた様子を見せた。

無機質な行動しかとらなかった男が、目の前の現象に怖気を感じたからだ。

その現象とは、法が虹色の光の柱を発生させたというものだった。

 

 光の柱の中へと絶影も入り込み、法の体へと溶けるように落ちていく。

そして、絶影は液状となって法の周りを円となりて高速で回り、その体を法と合体させていく。

 

 法も肉体自体を全てアルター化、再構成しながら、その姿を変えていく。

両肩には巨大な三角形のパーツ、絶影の頭部にあったような鋭いイヤーマフ。全身青と黒のスーツ。

 

 ――――これこそが、絶影の最終形態。

自立稼働型と融合し、自身がアルター化した最強の姿。アルターの究極の形態。

 

 

「俺は貴様を倒すッ!!」

 

 

 法はこの姿となりて、黒い男へと指を向け、勝利を宣言する。

 

 

「力を! 絆を! 俺を俺としている全てを賭けてッ! ――――貴様を倒すッ!!」

 

 

 今の自分を構成する、その全てをもってして、黒い甲冑の男を絶対に倒すと宣言する。

 

 

「倒す……そうだ……貴様を」

 

「テメェを」

 

「「倒すッッ!!!」」

 

 

 そして、この場にいないはずなのに、二人が目の前の敵へと、負けぬと、倒すと言う宣言が重なった。

 

 

「「ただそれだけだッ!!!」」

 

 

 まさにそれは、二人の目の前の敵を倒すと言う決意が、共鳴したかのような現象だった。

 

 

 

 そして、カズヤの方へと戻ってみれば、ナッシュが苦悶の表情を浮かべ、焦っているではないか。

何故なら、もはやカズヤに洗脳や精神破壊が通用しないからだ。

 

 

「ぐっ……洗脳しきれない……! ならば……、”サイコキネシス”ッ!!」

 

 

 もはや洗脳できないのであれば、痛めつけて言うことを聞かすしかない。

ナッシュはそれを考え、攻撃方法を変更し、サイコキネシスをカズヤへとぶつける。

だが、サイコキネシスを受けたと言うのに、カズヤが微動だにしなかったのだ。

 

 何故なら、超能力は使用者と相手の精神に大きく依存するからだ。

相手の精神が強ければ強いほど、その効力が下がっていく。

今のカズヤの強靭な精神力によって、まるで大岩の前にいるただの人間のような状況だったのだ。

 

 さらに今、ナッシュの精神は初めて自分の能力が通用しなかったことで、大きく動揺している。

その揺さぶられて焦燥に彩られた精神では、先ほど以上の能力を発揮することができなくなっていた。

 

 それに、ナッシュは特典で”自分の力に振り回されない”と言うのを選んだ。

つまり、ナッシュ自身が限界を設定し、それを超えることをできなくしたということだ。

 

 限界を超えたカズヤを前に、限界を超えることが不可能なナッシュが押されるのは当たり前のことだったのだ。

 

 

 また、その攻撃中にカズヤの右足がアルター化させ、カズヤはさらに能力を高め、その力を増していく。

 

 

「うっ!? ええいッ! ”サイコショック”ッ!!!」

 

 

 ならば、肉体を直接破壊する念動力ならばと、カズヤへと念動衝撃波を放つも、それすらも全く通じず、ナッシュは頭が混乱してどうにかなりそうになっていたのだ。

 

 しかも、今度は左足までアルター化していくカズヤ。

これぞシェルブリットの第四形態。四肢を全てアルター化した姿だ。

 

 

「っ!? コイツ…………ッッ!?」

 

 

 アルター化した箇所が増えていくカズヤを見て、ナッシュのこれまでの余裕など消失し、逆に恐れおののいた。

何だこの力は。何だこの精神力は。まるで自分の力では歯が立たない状況に、ナッシュは精神的敗北を感じていたのだ。

 

 

「ナッシュ・ハーネスウゥゥゥッ!!!!」

 

「ぐうアッ!? 私の鍛え上げてきた特典(ちから)が…………。この男は何なんですかッ!!??」

 

 

 黄金に輝き腹立たしい目の前の男の名を叫ぶカズヤ。

ナッシュは自分の特典がまるで通じないカズヤに、もはや錯乱したかのような態度で取り乱し始めた。

 

 

「残念だったなぁッ! んなもん答えてくれるヤツぁいねぇよッ!!」

 

「うぐぐうぅぅ…………」

 

 

 この目の前のカズヤと言う存在は、一体何なんだ。どうしてそこまで能力の限界を超えられるのか。

自分で限界を設定したナッシュには、到底理解のできないことだった。

 

 だが、ここには、そのナッシュの叫びに応えてくれるものはここにはいない。

カズヤはそれを笑いながら発し、さらに能力を高めていく。

そして、向こう側の力を強引に引き出したのだ。

 

 

「さぁ喧嘩だ喧嘩ァッ!! とことんやるぞオォッ!!!」

 

「その姿は……!?」

 

 

 そこでナッシュが見たものは、限界を超えたカズヤの姿だった。

黄金に輝き能力の限界を超え、ついに全身にアルターを装着したカズヤの姿があった。

 

 真っ赤に燃えるまるで獅子の鬣のような頭部。目と口元以外はカバーがかかり見えなくなっていた。

背中には羽根やプロペラではなく、一本の長く伸びたムチ状の突起物と、短い突起物がひとつずつ。

そのボディは金とオレンジに輝く細く野性的なものへと変化。

最後に、巨大化した両腕のシェルブリット。

 

 ――――これぞシェルブリットの最終形態。

カズヤはついにこの境地へと至ったのだ。

 

 

「テメェも意地を見せてみろオォッ!!」

 

「つけあがらないでほしい!!!」

 

 

 カズヤは大股でゆっくりとナッシュへと近づいていく。

ナッシュは近づかせまいと、周囲の石を支配し、カズヤへと向けて発射。

 

 が、今のカズヤにはその程度の攻撃など通じない。

何事もないように、どんどんと、どんどんとナッシュへと歩いていくだけだ。

 

 

「ガッ!? グアッ!!?」

 

 

 ナッシュは焦って大岩を叩きつけるも、その大岩はカズヤの頭突きで粉砕。

その勢いのままカズヤはナッシュの目の前へと移動すると、右ストレート、左ストレートを顔面に叩き込み、さらには膝蹴りをどてっぱらにぶち込む。

 

 

「グッ!? ガアアッ!!!?!?!」

 

 

 さらには顔面へ肘打ちをぶち込み、とどめとばかりに頭突きを食らわせ、ナッシュをゴミのように吹き飛ばした。

 

 

 ――――――一方、法は。

 

 

「…………!!」

 

「遅いッ!!!」

 

 

 両肩の巨大な槍状の物体を両手へと装着して両手剣のように操り、軽装形態へと変化させて超高速攻撃で黒い甲冑の男を翻弄する。

 

 

「……!!! …………!!!!」

 

 

 先ほどまでスピードで勝り、圧倒的な力を見せていた黒い甲冑の男も、最終形態の法の前では逆に押され、追い込まれていた。

それでも黒い甲冑の男は、一心不乱に大剣デバイスを振るい、法とつばぜり合う。

 

 

「それがどうした!!」

 

「――――――!?」

 

 

 黒い甲冑の男は再度、峰の部分からブースターを噴射し、超加速して法のスピードに対応しようと行動する。

 

 が、それでも法の超次元的な速度には届かない。

直角にすら軌道を変えて加速する法の前では、直線的な加速だけでは追いつけないのだ。

 

 法は両手の槍を見えざる速度で振るい、黒い甲冑の男を障壁ごと切り刻んでいく。

もはや黒い甲冑の男は全身に切り傷を作り、徐々に動きが鈍くなっていった。

 

 

 

 カズヤの方へと戻れば、ナッシュは完全にカズヤに押し負け、危機的状況へと陥っていた。

 

 

「この野良転生者風情があぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

「ううおおおおおぉぉぉぉッ!!!!」

 

 

 ナッシュはありったけの能力を使い、カズヤを支配しようとする。

されど、カズヤの精神の強大さに、それはまったくかなわずに徒労に終わる。

 

 そこへカズヤが背中にあるムチ状の突起を、まるで巨獣の尻尾のように地面へとたたきつけ、一瞬にして超加速したのだ。

 

 

「ナッシュ・ハーネスウウゥゥゥゥゥッッ!!!」

 

 

 そしてそのまま右腕をナッシュへと突き出し、その顔面をとらえて振り回したのだ。

 

 

「ギイィィィヤアァァァァァアアァァァァッッ!?!?!?」

 

 

 その凶悪な拳の破壊力を顔面に受け、ナッシュは大きな悲鳴を上げながらぶっ飛ばされ、後ろにある壁に衝突する前に、虹色の穴へと飛び込んでいった。

 

 それこそ、向こう側につながる扉だった。

その扉が盛大に開き、爆発したような音とともに、横一直線に光の柱を作り出したのだ。

 

 

 

 また、法の方も、決着の時が来たところだった。

 

 

「斬り裂かれて塵となれエェッ!!!」

 

 

 法は飛び上がりながら右腕の槍を左腕の槍と合体させ、そのまま一直線に落下し、縦一文字に黒い甲冑の男を切り裂いた。

さらにはその衝撃で縦に伸びる光の柱が発生し、まばゆい光を放った。

 

 

「――――――――!!!」

 

 

 この一撃で黒い甲冑の男の甲冑は真っ二つに切り裂かれ、フルフェイスのヘルムも左右に叩き落された。

 

 

「…………やはり貴様か…………」

 

 

 そして、法はその男の顔を見て、思った通り麻帆良の女子寮前に出没していた、大剣使いだったと言葉にする。

 

 そう、真方使羽と言う転生者だ。

彼は麻帆良の魔法使いに引き渡された後、本国へと輸送されてナッシュの手に渡った。

そこでナッシュに精神を破壊され、生きたまま傀儡人形として操られ続けたのだ。

 

 

「何がどうしてこうなったかはわからないが、そのまま眠れ」

 

 

 その支配していた頭部のリングも二つに切り裂かれて地面へと音を立てて落ち、支配から抜け出した使羽。

 

 何せリミッターなんぞ無視して酷使させられたせいで、肉体もズタボロでもはや身体の方も限界を迎えていたのだ。

 

 さらにマインドブレイクによって受けた精神の損傷も治る訳ではなく、うつろな目で突っ立っているだけだった。

 

 法は哀れに思いアルターを解除し、首の後ろを叩いて気を失わせ、ゆっくりと地面へ寝かせ、その場を後にした。

 

 

 二人の戦いが終わり、光の柱は徐々に小さくなり、消えていった。

そして、法はカズヤの元へ行けば、右腕を抑えながら荒い呼吸をするカズヤが、前かがみで立っていた。

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

 流石に限界を超えた力を使ったカズヤは、その反動で全身にダメージを受け、右腕は特に痛みがひどい状態になっていたのだ。

 

 

「やったのか?」

 

「ああ。あんたは?」

 

「同じくやった」

 

「そうかい」

 

 

 法はカズヤへと、ナッシュを倒し終わったのかと聞けば終わったと返ってきて、逆に自分のことを聞かれ、終わったと話す。

 

 

「さて、急ぐか」

 

「ああ、ナッシュに分断されちまったからな。早く戻らねえと」

 

 

 ならば、ここにはもう用はない。

分断された仲間が心配だ。さっさと戻って助けに行かねば。

二人は再びアルター最終形態となって、その場から飛びだっていったのだった。 

 

 

 

…… …… ……

 

 

 向こう側の扉は閉じたが、その中に閉じ込められた男がいた。

 

 

「…………ぐっ……うぅぅっ」

 

 

 ナッシュだ。

ナッシュはカズヤにぶん殴られた痛みに苦しみ、恨みで怒りをあらわにしていた。

 

 

「ここは……?」

 

 

 だが、そこで周囲を見渡せば、虹色に輝く謎の空間が広がっているではないか。

まるで虹色に輝くトンネルのような空間、それはナッシュも見覚えがある場所だった。

 

 

「…………これが、向こう側の世界…………」

 

 

 それこそが()()()()の世界。

アルター能力の起源であり、未知の膨大なエネルギーが存在すると言われる場所だ。

 

 

「――――っ」

 

 

 ナッシュはふと、背後で強い光が発せられたのを感じ、そちらを振り向いた。

 

 

「おぉぉ…………」

 

 

 すると、その光の中心に、人影が現れたのだ。

右腕が黒く、左腕が白く、全身が黒い炎のようにゆらゆらと燃える、謎の人影だった。

 

 

「存在していましたか。”()()()()()()()()()()()()”」

 

 

 これこそ、”向こう側”に存在する、”アルター結晶体”。

アルター能力に深くかかわっている存在だが、どういう存在なのかは謎に包まれたアルターの結晶体。

 

 ナッシュはアルター能力があるならば、この”向こう側”が存在することを理解していた。

何故ならアルター能力は、”向こう側”へと無意識にアクセスすることで、その能力を発揮しているからだ。

 

 そして、”向こう側”があると言うことは、その中に当然”結晶体”がいることも、ナッシュは察していたのである。

 

 

「彼らを操り大隆起を引き起こそうと思いましたが……」

 

 

 ――――ナッシュの計画、それは本来魔法世界の表に存在する赤茶けた大地に、向こう側のエネルギーを利用して大隆起現象を起こすことだ。

その力によって火星に変革をもたらし、この大地を作り替えようとしていたのだ。

 

 そのためにはカズヤと法の両方を揃え、互いに力をぶつけ合わせる必要があった。

なので、彼らがこの魔法世界に足を踏み入れてくれたことは、このナッシュにとっては僥倖だった。

 

 そして、彼らに賞金をかけ、身動きがとりづらいようにしたりした。

あわよくば捕まり、自分のところへ来るように仕向けるよう準備もしていた。

そう、この男こそがネギご一行に賞金をかけた張本人だったのだ。

 

 だが、計画は失敗に終わった。

されど、今自分は”向こう側”におり、目の前に”結晶体”がいる。

 

 

「こうなれば、結晶体から力を奪い、私が自らの手でやればよいでしょう」

 

 

 ならば、その”結晶体”の一部を吸収して、アルター能力に目覚めればいい。

その力を利用して、火星に大隆起現象を引き起こせばよいと、ナッシュは考えほくそ笑んだ。

 

 

「では、その力をいただきましょう」

 

 

 そのためにナッシュは、結晶体へと手を伸ばした。

結晶体の左胸に存在する赤い宝玉へと手を伸ばし、そこへ触れて能力を吸収しようとしたのだ。

 

 

「――――――()()()()()……」

 

 

 が、突如として声が聞こえて来た。

ナッシュ以外声を発する存在がいないはずなのに、その声が空間に響き渡る。

 

 

「は?」

 

 

 ナッシュは意味がわからないと言う声を無意識に出した。

何故なら、今の発言は目の前にいる結晶体から出たものだったからだ。

本来意識や思考などがない結晶体が、自我を出して発言したからだ。

 

 

「アルターに頼るなアァ――――ッ!!」

 

「ほげエェェッ!?!?!」

 

 

 そこで結晶体は叫びながら、尖らせた腕を超回転させてドリルのようにすると、そのままナッシュの腹にドリルパンチを叩き込んだ。

ドリルはナッシュの体を貫通し、叫びとともにおびただしい量の血が流れ出た。

 

 

「どっ…………どうなって…………」

 

「見たところ転生者みてぇだが、残念ながら()()()()()()()()()

 

「なっ」

 

 

 意味がわからなかった。

意思のないはずの結晶体が、突然攻撃してくるなどと。

 

 そのナッシュの疑問に、()()()()()()()が呆れた声で答える。

なんということだろうか、目の前にいる結晶体もまた()()()だったのだ。

 

 ――――この結晶体の転生者、名をギャランと言う。

永遠の命と強いアルターが欲しいと言う特典を選んだら、()()()()()()()()にされてしまったのだ。

 

 ナッシュは結晶体が自分と同じ存在と言うことに、驚愕して目を見開いた。

そんな馬鹿な、ありえない。結晶体が転生者で、自分がそいつに攻撃されていたなどと……。

 

 

「あぁ…………私の命が消えていく…………。そんな…………助けてェ…………」

 

 

 そして、そのまま命を失おうなどと。

ああ、私の野望が、私の欲望が、私の命が。

ナッシュは夢半ば散ることを思い返しながら、その生涯を終えることになったのだった。

 

 

「――――死んだかぁ。ハァ――――……」

 

 

 結晶体の転生者は、ナッシュが死んだのを確認すると、ため息を吐いて疲れた顔を見せる。

久々に入ってきた()が、なんだかドブカスみたいな転生者だったからだ。

 

 その後、ナッシュの死体をアルター粒子へと分解し吸収。

こんな汚いものなど、この場所に置いておきたくないと言う訳だ。

 

 

「選んだ特典のせいとは言え、この何もない”向こう側”に引きこもらないとならないのって、しんどいなぁ…………」

 

 

 また、結晶体の転生者は、現状を嘆いていた。

自分が選んだ特典が、なんか勝手に拡大解釈されてこの姿にされてしまったからだ。

 

 さらに言えば、結晶体は基本的にこの向こう側から出ることができない。

外に出れば”アルター不足”により、まるでエベレストの山頂にいるかのような苦しさに襲われるからだ。

 

 

 彼のぼやきが何もない向こう側の空間に響くと、彼はそのまま光の中へと再び姿を消したのだった。

 

 

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