一方、宮殿の外壁の一部分で、未だに戦いを繰り広げるものの姿があった。
「相当腕を上げたようだな!」
「そういうことだッ!!」
それは数多とコールドだ。
数多とコールドは実力が拮抗しており、戦闘が随分と長引いていたのだ。
コールドは数多の実力が、拳闘大会の時よりも数段上がっていることに喜び、それを当然と豪語するのは数多だ。
「その炎を纏っての武装、素晴らしいものだ」
「当然だぜ! 親父をぶん殴るために編み出したからな!」
「そうだったな」
また、数多は拳闘大会で習得した技術、炎渦爆装を用いて戦っており、コールドはそれにも喜び楽しいと感じていた。
そう、強敵とのせめぎ合いこそが至福であり、これ以上にない時間なのだと。
されど、数多としてはコールドは強敵に一人にすぎず、通過点でしかない。
目標はあくまで父親である龍一郎。目の前のコールドはそのための障害の一つにすぎないのだ。
「ならば全部凍らせてくれるッ!! ”パーマフロスト”!!」
「ぐおおおおっ!?」
もはや先ほどからずっと膠着状態が続いている。
であれば、それを打破するための大きな一手が必要だとコールドは感じ、最大の凍結攻撃を解き放つ。
周囲をくまなく氷漬けにし、宮殿の一角は完全凍結状態にしてしまった。
これがコールドの奥の手、周囲半径200mを凍結させ、自分の有利なフィールドに作り替える技、パーマフロストだ。
突如としてコールドの足元から高速で結露していく地面に驚き、たまらず数多は飛び上がり回避。
そこで着地してみれば、足を叩きつけてもびくともしない、強固な氷が石畳いっぱいに広がっていたのだ。
「凍えろ! すくめ! 燃え盛る炎を消火されながら、凍結しろ!」
「誰が凍るかってんだよッ!!」
この凍結した範囲は、コールドによって完全に掌握された。
自由自在に凍った床を支配し、氷柱も霜柱も自由自在にはやしたり飛ばせる。
当然足で触れていれば、どんどん足元から凍っていくことになる。
されど、数多は凍らない。
心を燃焼させ、負けん気で足元から炎を出し、凍結するのを阻止していた。
「テメェにこんな広域に凍結地獄を生み出す技あがるように、俺にだって広域に灼熱の地獄を作る技はあるんだぜ!」
「ほう? 面白い!! やって見せろ!!」
「言われなくとも――――なぁ!!」
それに数多にも似たような技を、すでに開発していた。
親父を倒すためには小手先の技では不可能だが、自分の能力を上昇させる技は必要だと判断して生み出した技だ。
コールドは数多が自信満々にそれを話してきたので、むしろワクワクした様子でその技を出させた。
このパーマフロストと同等の技を数多が使うなら、どんな技となって出すのか気になったと言う訳だ。
が、コールドが阻止してこようが何しようが、すでに出す予定だった。
そこで数多は右腕に巨大な炎の弾を生み出せば、それを上空へと飛ばしたのだ。
「燃え盛れ太陽のように!! ”炎天灼陽”!!」
「なにっ!? 太陽のように輝く炎を上空にッ!?」
炎の弾は上空で爆ぜて、二つ目の太陽のようにまばゆい輝きを放ちだした。
するとどうだろうか。周囲の氷が溶けだし、蒸発していくではないか。
これが数多の考案した新技、ブレイジングノヴァだ。
炎の弾が上空で爆発し続け、選択した物体に対して強烈な熱量を与える灼熱の技。
逆に自分に対しては、燃やす炎の活性化などの効果を得られ、自らも強化できる一石二鳥の技だった。
コールドは上空に打ちあがった炎が、まさに太陽のごとき光を放っていることに、驚きを隠せないでいた。
だが、もっと驚くことはここではない。
「――――ッ!? この俺が汗をかいているだと…………?」
なんと、ずっと涼しい顔で戦ってきたコールドが、額から汗を流していたのだ。
これにはコールドも驚愕する現象だった。
灼熱の熱線を受け続けてはいるものの、こちらとて誠の冷血にて、常に低温を保ってきた。
だと言うのに汗をかくなど、それすらも貫通して熱を感じていることになる。
動いても戦っても汗をかくことがなかったコールドには、この一筋の雫こそ、最も驚くべきことだった。
「状況はこれで五分五分になったなぁ!」
「そうだな。つまりこれからは…………」
床は凍ってはいるが多少溶け始めており、思った通りの効果は期待できないだろう。
逆に上空の灼熱も、床の氷の超低温で思ったよりも熱を伝えられていない。
つまるところ、これにて両者のフィールドの状況は、振出しに戻ったようなものだ。
ならば、やることは最初の時と変わらない。
「ただの根競べだなぁッ!!!」 「ただの力比べだなッ!!!」
持久と力、どちらが上かで勝負が決まるということだ。
先にへばってくたばるか、力で押し負けるか、勝負の分かれ目はこれだけだ。
「ウオオオッ!!」
「ハアアァァァッ!!!」
ならば、必殺技をぶつけてどちらが先に倒れるかの勝負だ。
「これでエェェッ!!」
「受けてみよオォォッ!!!」
二人は同時にそれを考え、同時に瞬動で加速する。
「”激熱血! 鳳凰飛翼拳”ッッ!!!」
「”プルート・グラキエス"ッ!」
最大の炎を拳に宿し、それを火の鳥の形としてさらに加速して直進する数多。
同じく獣の牙のような鋭さの氷柱を脚にまといて加速し、直進していくコールド。
――――瞬間、赤と白の爆発。
燃える炎と凍る氷の衝突。
両者の必殺技がぶつかり、大規模な衝撃が周囲を大きく揺らす。
空気すらも振動し、ビリビリと音を立てて衝撃の強さを物語る。
そして、爆発で発生した煙が映す人影は一人。
そこに立っていた勝者は――――。
「…………俺の、――――勝ちだぜ」
数多だった。
数多が最後まで立っていた。
右腕などを凍らせながらも、そこにしっかりと立っていた。
数多は仰向けに倒れたコールドへと、自らの勝利を宣言する。
「……お前の……勝ちだ……」
コールドはその数多の勝利を、苦し気に言い渡す。
と言っても、もはや身体は動かない様子で、口がようやく動いたと言う感じであった。
「…………楽しかったぞ、お前との死闘」
「俺もだ」
コールドは敗北の苦みを味わいながらも、この戦いに満足して笑っていた。
自分が見つけた好敵手、最初は自分より弱かった相手が、強くなって自分を下した。
己のために強さを手に入れた訳ではないにせよ、それこそ至高の喜びであった。
そのコールドの言葉に、数多もニヤリと笑って同意見だと言葉にする。
この男に負けなければ、今の自分は存在していないと思っていたからだ。
完膚なきまでに打ちのめされ、敗北したからこそ、自分の弱さを実感できたからだ。
「……先に行け」
「ああ、あばよ」
コールドはもはや自分に用はないはずだと考え、倒れながら数多へと進めと言う。
数多も言葉はもう不要と考え、別れの言葉を一言だけ述べ、その場から走り去った。
「…………フッ、完敗だ……」
数多が走り去り足音が聞こえなくなったあたりで、コールドはふと小さく笑っていた。
今の戦いの充実感、幸福感を思い出しながら、ひたすらにこの戦いに満足していたのだった。
…… …… ……
一方、墓守り人の宮殿、その底を抜けた大地の上では、ポヨと高畑が空中で殴り合っていた。
「グウッ!? このおっさんやたら強いポヨ!」
「それはどうもありがとう!」
「皮肉ポヨか!」
高畑は無音拳でボコスカと圧制するがごとく、ポヨへと超高速で拳を振るう。
それを防ぎ、回避しながらも、ポヨも反撃として魔力ビームや背後の黒い異形の腕を高畑へと振るう。
ポヨポヨ言ってるせいで緊張感が若干減るが、ポヨはガチでガチの真面目モードだ。
だと言うのに、目の前の高畑が全く持って倒せない焦りを感じていた。
高畑はポヨにクソ強い腹が立つと言われりゃ、苦笑してお礼を返す始末。
それがまた腹が立つと、ポヨはさらに攻撃の頻度を加速させていく。
「こうもこっちの攻撃を全部撃ち落とされるなんて、正直自信無くすポヨネ」
「ははっ、こっちだって結構ギリギリなんだよ?」
「どの口が言うポヨ!」
されどポヨの攻撃は、全て涼しい顔した高畑の無音拳によって、防がれて叩き落される。
はっきり言って魔族の中でもラスボスぐらい偉いポヨには、結構悪夢めいた光景だ。
そんな愚痴を飛ばしまくるポヨに、高畑も苦笑いしながら実は自分も結構危ないと言い出すではないか。
実際、高畑はポヨ相手に本気の本気が出せないでいる。
何せ目の前の魔族の少女は、元教え子であるザジの姉らしいからだ。
顔もそっくりだし、しゃべらなければわからないぐらいだ。
そんな少女をガチのガチでぶん殴るなんてできるはずもなく、仲間を信じて時間稼ぎをしているのが現状だ。
まほら武道会でアスナに対して結構ガチでぶん殴ってたが、あれはまあ旧知の仲というのもあるので別なのだ。
ポヨはそんな高畑に対し、マジふざけんなよ、その余裕ぶった顔で言う事か、とさらにさらに怒りのボルテージをアゲアゲし、されど冷静に高畑をぶっ倒すための攻撃を繰り広げる。
「とりあえず、まだまだ僕に付き合ってもらうよ」
「どこまで続くか見ものポヨね!」
ただまあ、この状況、どちらも膠着状態で、どっちもまったく倒れる気配がない。
高畑はこの戦いがまだまだ終わらないことを察しながら冗談を語れば、ポヨはさっさとこの戦いを終わらせたくて仕方がない様子を見せるのだった。
…… …… ……
墓守り人の宮殿の中層部の外層、その空中でも、今だに終わらぬ戦いを繰り広げる者たちがいた。
ビリーと名乗った男と、その男から相棒と呼ばれた真名だ。
「昔よりもかなり腕を上げたじゃないか。相棒」
「そちらもな」
ビリーは超高速で虚空瞬動を用いて空中を舞うようにして動き、真名を翻弄し、真名はそれを追うようにライフルを構え、
この戦いに笑いながらビリーは真名を褒めたたえる。
昔、一緒につるんでいた時よりも、ずっとずっと強くなっていることを。
だが、真名もまたそれを感じていた。
目の前のビリーが、以前のビリーとは比べ物にならないほどに、動きも攻撃も冴えわたっていると。
「懐かしいな。こうやって俺たちは研鑽を重ねてきた」
「そうだな。あの人と共に、こうやっていた時は楽しかった」
「今だって楽しそうじゃないか」
「かもね」
両者とも追い、追われ、追われ、追う。
入れ違いにドッグファイトを繰り広げながら、ビリーは回顧を語りだす。
そうだ、この感覚は懐かしいものだ。
目の前の
何もなかった自分が、何かを得た気がした。
そして、真名も懐かしさを感じていた。
立派な魔法使いの主と共に、歩んできたこの感覚。
悲しいことも多くあったが、充実した日々だった。
そう語る真名へと、過去形ではなかろうと指摘するビリー。
真名はビリーの指摘にあえてはぐらかす言い方をしながらも、口元は楽しそうに笑っていた。
「だが、その時間ももうじき終わる」
「ああ、終わらせよう」
それでもこの戦いはいずれ終わる。終わらせなければならない。
であれば、それはもうすぐ終わるだろう。
ビリーも真名も、それは薄々感じていた。
どちらも全力を出し続けており、それは永遠に続く訳ではないからだ。
「だったら、これでどうだ?」
「ッ!」
そんな語り合いの最中だと言うのに、両者は激しく衝突していく。
だが、ビリーはそこで賭けに出たような行動に出た。真名のライフルから放たれる
真名はビリーの賭けのような行動に驚き、一瞬動きが止まってしまった。
コンマ数秒もない時間だったが、この硬直は致命的だった。
その一瞬を狙い、ビリーは上段蹴りを放ち、真名のライフルを二つにへし折り吹き飛ばしたのだ。
「頼みの綱のライフルを失ってしまったな。どうする相棒?」
「確かにメインウェポンを失ったのは、大きな痛手だ。戦場ならなおさらな」
ライフルを失った真名は驚愕するも、一瞬で冷静になりビリーから即座に後退して距離を取る。
後退してしてやられたと言う顔を見せる真名へと、ビリーは真名が次に何を出すかを楽しみに待っているかのように話しかけた。
追撃せずに何やら待っているビリーへと、いやはや今のは大失敗だと苦笑する。
そこでならばと、両手を懐に入れると、別の武器を取り出したのだ。
「だが、私にはまだこれがある」
「そうだ、それでいい! むしろそれを望んでいた!」
「やれやれ……。ここに来て昔の仲間の知りたくもない性癖を知ってしまったな」
それは使い慣れた二丁拳銃だった。
真名は拳銃での近距離戦闘も当然得意であり、当然拳銃の腕にも自信がある。
故に、拳銃を握りしめながら、ビリーを見てニヤリと笑う。
また、ビリーはむしろその二丁拳銃とやり合ってみたかったと、急に興奮した様子で言い出したではないか。
真名は興奮するビリーに若干引きつりつつ、ならばとくと味わってもらおうと、先ほどまでは戦術で開けていたビリーとの射程距離を一気に縮めたのだ。
「さあ来いよ相棒! 撃ってこい!」
「そうだな。ここで決めよう!」
――――瞬間、真名の二丁拳銃を握った拳と、気で強化されたビリーの拳が交差する。
この近距離戦闘であれば、もう決着は時間の問題だ。
ビリーはそう真名へと叫べば、真名も考えることは同じかと思い、全身全霊を賭して何度も衝突を繰り返すのだった。
…… …… ……
同じように墓守り人の宮殿の外周で衝突する二人がいた。
刹那と月詠だ。
「楽しおすなぁセンパイ?」
「楽しいのはお前だけだ!」
月詠は本当に、本当に一刻一刻を楽しそうにしながら、刹那とつばぜり合う。
逆に刹那はさっさとこの戦いを終わらせて、ネギたちへ合流したいと、月詠を強く睨みつける。
また、刹那はすでに武器を木乃香との仮契約で得たアーティファクト、建御雷へと変更し、月詠の操る妖刀ひなと対抗していた。
「そうやろか? 案外楽しんでくださってるんやないですか?」
「断じてない!」
されど、月詠は刹那もこの戦いに興じているのではないかと、笑いながら言い出した。
刹那は一言で否定し、神鳴流奥義を月詠へとぶつける。
「まあ、ウチはこの至高のひと時さえ味わえれば、もはや何もいりまへんのやけど」
「クッ!!」
月詠も刹那の奥義に奥義で対応、白き雷と黒き雷が衝突し、膨大な爆発が発生。
そこへすかさず刹那の懐へ入り、妖刀を横なぎに振り払う月詠。
だが、月詠の攻撃をすでに読んでいた刹那は、建御雷でそれを受け止め、瞬時に後退。
このやり取りの最中、月詠はずっと笑っていた。
楽しい、嬉しい、気持ちいい。刹那との決戦こそ、最高の美味だと。
刹那はと言うと、後退しつつ建御雷を構え、この状況をどう切り抜けるかを思考していた。
はっきり言って、目の前の月詠は強い。妖刀ひなの魔の力でブーストされた剣技は、
しかも気を妖刀に吸われるせいか、思ったよりも戦いづらい。
黒い闇の奥義も強力無比で、力も疾さも技範囲も桁違いだ。
しかも闇を纏わせて小太刀も妖刀化して強化されている。
これを打破するには、どうすればいい。
自分は神鳴流奥義の弐の太刀を使えない。
使えれば状況が違っただろうが、ないものねだりだ。
と、目の前の月詠を睨んで見てみる。
すごい真っ黒い妖気を放出する妖刀ひな。黒い妖刀ひな。黒いひな。
…………どっかで聞いたな。どこだったか。
そこで刹那は思い出した。
覇王の
覇王ならあの妖刀もうまく使いこなせるのか。
使うならどうやって使うのだろうか。シャーマン的に使うのだろうか。むしろ剣士的にだろうか。
ちょっと興味が出てきたぞ。
刹那は思った以上に頭を使ってたのか、なんか変な方向に飛んでしまっていた。
黒いひなだから黒雛なのはそうだが、やってる場合ではなかろうに。
「考え事ですか? ウチだけを見て、もっと喜ばせてくださいな」
「――――ッ!!」
なんかずっと悩みながら睨みつけてくる刹那に、しびれを切らせた月詠が爆発的な闇を纏っての奥義を使い斬りかかる。
斬りかかられてようやく我に返った刹那は、すぐさま防御し、後ろへと下がり衝撃を最小限に抑えた。
「しかしホンマにお強いですわぁ。この”ひな”でさえ、センパイを圧倒するにはいたりまへんし……」
「確かに恐ろしい剣だ。だが、その程度など、……なんてことはないッ!」
隙を見ての超火力奥義ぶっぱだったのに、完全に防がれた上に衝撃すらも殺された。
月詠はそれはもう最高に興奮した。ヤバイぐらいイっちまいそうなほど興奮した。
今の奥義ならば勝負はつかずとも、刹那に大きなダメージを入れられるはずだった。
なのにこうも簡単に奥義をいなされては、たまらない。たまらないにも二種類、嬉しい方の後者だ。
しかも妖刀の力を借りてるのに、何故か押し切れない。
まるで落ちる木の葉を殴りつけてるかのような、手ごたえのなさ。
いやはや、本当に強い。この妖刀パクってきてよかった。そう笑顔で思う月詠だった。
そして、不意打ちを無傷でいなした刹那と言えば、ようやく我に返って強気の台詞を豪語する。
確かに厄介極まりない存在だ。闇と魔、その力でブーストされた奥義は、化け物のように強い。
――――されど、
覇王の剣には流派はないのに、流麗で鋭い剣技が放てる。
普通の刀ではない長刀を軽々操り、燕返しなる超絶奥義が使える。
おかげで間合いの取り方と間合いへの侵入のし方を覚えた。
同じく化け物みたいな怪力で、全てを粉砕する
気を使わず、怪力で鉞を振るい、いかなる相手をも寄せ付けない強さを持っている。
おかげで馬鹿力の相手を正面からするなと学んだ。
この二人と打ち合った時に比べたら、妖刀の強さもその程度、と感じてしまう。
何せパワーならバーサーカーの方が上だ。剣の出るスピードなら覇王の方が上だ。
他にもアスナだって強いし、なんなら武道会で一度負けてる。
護衛対象のこのちゃんだって、覇王と修行して守護いる? と思うぐらいには強かった。
護衛対象なので手合わせしたことないけど。
だからなんてことない。
負ける気がしない。そう、何故かまったく負ける気がしない。
厄介で強い相手だが、どうしてなのか負ける気がしないのだ。
はっきり言おう。
刹那は感覚が完全に麻痺してしまっていたのだ。
「なら、その言葉が嘘やのうて、事実だと言うところを見せていただきましょか」
「見せてやるともッ!!」
刹那の超強気の言葉に、く~これこれ! と滅茶苦茶嬉しそうにニタリと微笑みながら、もっと喜ばして快感与えてと月詠は言う。
だったら見せつけてやるだけだ。
自分の今までの成果の結晶を。積み重ねてきた自分のすべてを、目の前の月詠にぶつけてやるだけだ。
――――その直後、再び白と黒が爆ぜて吹き飛ぶ。
爆発的な破壊音が響き渡り、外周の壁面を粉砕し、芥子粒にして吹き飛ばした。
この戦い、決着の
…… …… ……
同じころ、大量の召喚魔を艦隊率いる旗艦の上で相手取る男がいた。
「クソ! なんて数だ!」
ガトウだ。
ガトウは指揮と戦闘を両方こなしていた。
はっきり言って労働しすぎだ。
しかも目の前には、空を埋め尽くさんばかりの召喚魔。
これを無音拳で大量にぶちのめして抹消していく作業と、艦隊などの指揮を両方行っているのだから、すごいと言うよりかわいそうだ。
とは言え、倒して倒してもワラワラ湧いてくる召喚魔。
ワラワラと湧いてくる通信と指令の確認。なんて数だ! はどっちの意味か、多分両方の意味だ。
「この艦隊でも先に進めぬとは……!!」
とは言っても、艦隊も当然砲撃で迎撃してくれている。
準備をしっかりしてここまで来たのだから、当然艦隊だってやる気十分だ。
なのに敵の数が多すぎて、中々前に進めないのが現状だ。
この現状を憂いつつ、ガトウの補佐を頑張る眼鏡の男クルト総督。
「リミットまでもう40分ほどしかない…………。このままではマズイぞ……!」
魔法世界消滅の儀式完了まで、もう時間がない。
これでは20年前よりも悲惨なことになりかねないと、クルトは焦り頬に一筋の汗を流す。
「どうにかしなければならねぇが…………」
ガトウも無音拳で召喚魔を吹き飛ばしながら、先の見えぬ状況に危機感を抱いていた。
先ほどからずっと同じ状況のままで、まったくもって好転しないからだ。
――――しかし、突如として目の前の召喚魔が、後方からの攻撃で吹き飛んだのだ。
「――――なんだ!? 何が起こった!?」
突然の目の前の光景に、ガトウは驚き困惑した。
と、その時、背後から何者かが飛行する生物により、近寄ってきたのである。
「助太刀に来ましたよ」
「君たちは…………?」
ガトウの左側に一人の少女と、その肩の上には茶色い兎のような生き物、それと少女が駆っている赤き竜が現れた。
助けに来たと言う少女に、ガトウは誰なのだろうかと思い問う。
「我らはポケモンの里のもの。この世界の危機と聞いて参上した」
「確か不思議な生き物と共に生きる人々だったか……?」
「はい、そうです」
また、右側にも黒いコートを着た船長のような帽子をかぶった髭の男性が、ガトウの問いに答えた。
この黒いコートを着た髭の男性こそ、ポケモンの里の長だ。
背後を見れば、数多くの空を飛ぶ生き物にまたがる人々の姿もあった。
彼らは魔法世界が消滅するこの現象に対して危機感を覚え、助太刀に来たのだ。
ガトウはポケモンの里と聞いて、妙な生き物のことを思い出した。
昔は魔法世界に存在しなかったと言う資料を見たことがあるが、実物はあまり見たことはない。
そんな謎の生物と自然保護を目的とした集団だと言う話を聞いたことぐらい。
目の前の男性を乗せて飛んでいるのがそうなのだろうかと考えながら話すと、男性はガトウの問いにYESと答える。
「騎乗しているそれも、ですか?」
「そうです。我々の相棒です」
「では、我々はあなたらの艦隊の守護を行います」
「是非お願いします!」
ならば、やはり目の前で空を飛んでいる、青き竜こそ噂の生物なのかと聞けば、男性はそれにもYESと答える。
男性にとっては大事な相棒でありパートナーのポケモン。
体が青く赤い翼を持つドラゴンのポケモン、ボーマンダだ。
そして男性は自分たちの要件を話せば、すぐさま仲間に指示を出し、彼らは一斉に行動を始めたのだ。
ガトウも彼らの申し出は本当にありがたいものだった。
これで何とか希望が見えてきたと思い、小さく頭を下げていた。
「彼らは!?」
「ポケモンの里と言う場所から助太刀に来たらしい」
「む…………、噂には聞いていたが…………」
そこへクルトもポケモンの里の人々に気が付き、話をしていたと思われるガトウへとそれを聞くと、すぐ答えが返ってきた。
ただ、クルトはポケモンの里のとなど、噂程度にしか聞いたことがなかった。
何せメガロメセンブリア元老院議員であり、新オスティアの総督なのだ。普段から当然忙しい。
なので、どこかで聞いたことのあると思考しつつ、人差し指で眼鏡を持ち上げていた。
「おお……! 彼らが助けに来てくれたおかげで、召喚魔の減りが増大したぞ!」
「これなら間に合う可能性が出てきたか……!?」
そして、ガトウがオスティアのある光の渦の方を見れば、召喚魔がどんどん減ってきているではないか。
と言うのも、ポケモンの里の住人は全員転生者だ。さらに他の所から来た転生者も合流し、殲滅してくれているのである。
クルトも召喚魔の殲滅速度に驚きつつも、タイムリミット残り僅かだが墓守り人の宮殿へつけるかもしれないと喜ぶ。
「もしかしてカズヤもここで戦っているのかしら?」
また、ガトウの左側にいた少女も、召喚魔を相手にしようと前へと移動。
その少女はミドリであり肩の上のはイーブイのブイで、乗っているのはリザードンのリザだった。
ミドリは光の渦の中でカズヤが戦っているのではないかと考えた。
夜中にひっそりといなくなり、メガロメセンブリアへと歩いて行ったと思われる男子。
メガロメセンブリアへ行く途中にアレがあるのだから、いるかもしれないと思ったのだ。
「まあ、どうせ顔を合わせたくないだろうし、一々会いに行くってこともしないけど」
とは言っても、探す気なんてさらさらない。
あんな別れ方をしたんだから、カズヤも気まずいだろうと考え、特に会おうと言う気はなかった。
「みんな久々の
そう思考しながら召喚魔の群れの手前へと来れば、里の仲間が暴れ散らかしているではないか。
里の住人は転生者でほとんどがポケモントレーナーだ。トレーナーの性なのか、戦いに飢えていたようだ。
何せ基本的に捨てられたポケモンの保護など、戦いとは無縁の生活を送っている。
仲間内でバトルするのだって、メンツが変わらなければ飽きてくると言うものだ。
なのでここぞと言うこの時に暴れまくって発散しようとしているのだろうと、ミドリは思ったが、仲間の暴れっぷりにちょっと引いていた。
「じゃ、私も頑張らないとね? リザ、ブイ?」
「グオオォォッ!!」
「ブイ!」
まあ、仲間が暴れてるのをただ傍観している訳にもいかない。
そもそも自分も目の前の召喚魔を蹴散らして、光の渦の中を目指しているのだ。戦わないなんてありえない。
ならば行くぞとリザとブイへと笑いかければ、二匹とも威勢のいい返事を返してきたではないか。
「そして、ツー?」
『うむ』
そして、もう一匹。彼女の切り札的存在。それこそミュウツーのツーだ。
ツーは超能力で空を飛び、リザの横にぴったりとくっ付いてきていた。
ツーはカズヤが来た時は買い出しに行った大人に貸しており、超能力で荷物運びを手伝わせていたのでいなかったのだ。
そのツーへとミドリが話しかけると、中々渋い声のテレパシーで返事を返してきた。
ツーはカズヤがいた時に起こった騒動の時にいなかったことを、悔やんでいたのである。
ならば、今こそ挽回のチャンスだと考え、ミドリの指示のもと召喚魔を潰して回るのだった。
…… …… ……
そして、ここは首都メガロメセンブリア。
穏やかな波のメガロ湾、そこに浮かぶ破壊されたゲートポートを、静かに眺める一組の親子がいた。
転生者アルスの妻となったドネットと、その娘のアネットだ。
「あの人が言うには、そろそろこの世界が崩壊し始めると言っていたけど……」
今はまだ、メガロメセンブリアでは何も起こっていない。
されど、アルスが新オスティアへ旅立つ前に、色々とドネットに話をしていた。
何やら20年前に暗躍した組織の行動が活発化し、この魔法世界を滅ぼそうとしていると。
ゲートポート襲撃もその計画の一端であり、今後世界が崩壊し始めるかもしれないと。
ただ、アルスの話は
現在のメガロメセンブリアは未だ静かであり、人々も安心して生活を送っている。
とは言え、そんな話を聞いたドネットの胸の内は、当然だが穏やかではない。
10年前に、アルスと裕奈の母である夕子がチームを組んで、20年前の事件と関連性のある仕事したのを、アルスから直接聞いていたからだ。
10年前の任務の後、無事に二人が戻ってきた時は本当に安堵して涙が出たほどだったのを、今でもドネットは覚えていた。
なので、今回の話を聞いて、アルスが無事に帰ってくることを、何度も祈っていたのである。
「……どうなっちゃうの?」
「どうもしないわ。だってパパがなんとかしてくれるって約束したもの」
「うん! そうだね!」
娘のアネットも母親がすぐれない顔をしているのを見て、不安になってしまった。
何か起こるのだろうか、そう不安になったアネットは、母親のドネットへと心配そうに聞けば、ドネットはしゃがんで顔を合わせ、笑顔を見せて何も起こらないと話すではないか。
何せ、あのアルスがきっと頑張っているはずだからだ。
幾度となく死線を潜り抜け、幾多の任務をこなしてきたアルスなら、なんとかしてくれるはずだ。
だって出発前に、アルスが約束してくれたから。
だからドネットは、アネットを安心させるようにそう言ったのだ。
アネットも母の笑顔が見れたからか、ニコリと笑って元気を出した。
何かあってもパパであるアルスが何とかしてくれると、母親が言ってくれたからだ、
「そうよね? あなた……」
信じて待つ。それしかできないのはもどかしい。
それでも、アルスが約束を破ったことはない。面倒くさがりな癖に、約束だけは破らない男だった。
そんな男が約束して旅立ったのだ。
きっと何とかしてくれると、ドネットは娘を抱きかかえなから、アルスを信じてひたすら待つのだ。