理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百九十話 竜魔人

 

 

 少し時間を遡った墓守り人の宮殿の外層部分。

未だに激しい戦いを繰り広げているのは、竜魔人となった竜の騎士バロンと、フェイト・エヴァンジェリン・ランスロー・トリスだ。

 

 

「クッ!? なんて力だ……!?」

 

「ウオオオオオオォォォッ!!!」

 

 

 はっきり言って四人は竜魔人に歯が立たないでいた。

馬鹿みたいな魔力に、馬鹿みたいな竜闘気(ドラゴニックオーラ)に、馬鹿みたいなパワーに、馬鹿みたいな防御。

どれか一つでも強いのに、全てが馬鹿みたいに強いのだ。

 

 バロンは高速で拳を振るいあげ、フェイトへと肉薄する。

フェイトは障壁で必死に防御しながら後退するが、障壁もどんどん砕かれていく。

障壁破壊の魔法でもないのにこの威力。戦慄するのも当然だ。

 

 

「チィッ!! ”闇の吹雪×20”ッ!!!」

 

「”紋章閃”ッ!!!」

 

「────ッ!?」

 

 

 エヴァンジェリンは竜の騎士へと闇の吹雪を二十発連続で同時にぶち放つ。

闇の魔法(マギア・エレベア)である氷の女王(クリュスタリネー・バシレイア)は、自身が生み出した氷のフィールド内ではいかなる上級魔法以下の氷魔法を無詠唱かつ無制限に出すことができる。

 

 こんなぶっ壊れた魔法でさえも、目の前のバロンに対して苦戦すると言う恐ろしさ。

それだけ竜の騎士が操る竜闘気(ドラゴニックオーラ)が、いかにしてチート級であるかがよくわかる。

 

 二十の闇の吹雪を束ねた攻撃を、バロンは最大出力の紋章閃で押し返し、さらにはエヴァンジェリンの左半身をも吹き飛ばす。

 

 エヴァンジェリンの表情は当然驚愕。

魔力を大量につぎ込んだ渾身の闇の吹雪、しかも二十発分を一撃ではじき返され、あまつさえこちらの体の半分をも消し飛ばして来たのだから、そんな顔をするものやむなし。

 

 何せ紋章閃は本気を出せば山すら削り取って貫通する威力が出るのだ。

闇の吹雪で威力を減退せずに直撃していれば、頭だけにされていた可能性すらある狂った火力なのである。

 

 

「そこだッ!! ハアァァッ!!!」

 

「いただくッ!!」

 

「もらったわよッ!!」

 

 

 そこへ剣のことランスロー・フェイト・トリスが同時に攻撃を仕掛ける。

ランスローは無毀なる湖光(アロンダイト)で、フェイトは石の剣で、トリスは倒したバロンの弟子から預かった鎧の魔槍で攻撃する。

 

 また、ランスローの無毀なる湖光(アロンダイト)には竜特攻の効果があり、これでダメージを入れることが可能だ。

 

 

「無駄だッ!!」

 

「ぐうっ!?」

 

「グッ!?」

 

「キャアッ!?」

 

 

 だが、バロンは超高速で回転して両腕をフルスイングし、三人を殴り飛ばす。

ただの回転ラリアットではなく、竜闘気(ドラゴニックオーラ)を最大にして殴っているので、当然ダメージは想像以上のものとなり、三人は簡単に弾き飛ばされ地面に転がった。

 

 

「もはやこのくだらぬ戦いなど飽きたわッ!! 貴様らを全滅させ、他の連中もみな吹き飛ばしてくれるッ!!!」

 

「何をする気だ!?」

 

 

 もはや先ほどから、ただの蹂躙になっていることに嫌気がさしたバロンは、これ以上の戦いなど無意味と判断して最大の一撃で四人を打ち倒すことにした。

ゆっくり宙へと浮き上がれば静かに両腕を前へと突き出し、手のひらを半開きにして上下に合わせる。その形はまさに竜の顎。

 

 肉体を再生させたエヴァンジェリンはバロンの言葉と行動に大きく反応し、強烈な危機感に襲われる。

あの構えはマズイ。強烈な気が両腕に集まっていくのが見えたからだ。

 

 

「まっ……まさか!?」

 

「知っているのかい!?」

 

「危険です! 今すぐ回避をッ!!!」

 

「そこまでの技が来るというのか!?」

 

「ちょっ!? マズイってっ!? どっどうすれば……っ!?」

 

 

 また、その言葉と構えに同じく大きく反応を示したのは、転生者であるランスローだ。

ランスローは()()()が来ると構えたのを見ただけで理解し、仮契約の主となったフェイトや他の二人へと、回避の用意を叫ぶ。

このランスローの慌てた姿勢に、エヴァンジェリンは次の攻撃が予感通りの、かなり危険なものなのだと察した。

 

 当然同じ転生者のトリスも恐れおののいていた。

あの技が来るならば、無事でいられるかわからないからだ。

 

 

「これで終わりだッ!! ────”竜闘気砲呪文(ドルオーラ)”ッ!!!」

 

 

 ────竜闘気砲呪文(ドルオーラ)

ランスローが警戒し、トリスが慌てふためいた技。

 

 魔法力を用いて竜闘気(ドラゴニックオーラ)を圧縮して解き放つ、竜魔人形態でなければ使えない竜の騎士最大の呪文。

直撃すれば全てを吹き飛ばし、滅ぼすほどのパワーを秘めた呪文。

 

 

「いかんッ!!!」

 

「早く逃げろッ!!」

 

 

 発射直前、最初に叫んだのはランスローだ。

次に叫んだのはエヴァンジェリンだ。見ただけでも、その恐ろしさがすぐにわかってしまった。

その二人の声を聴いて、咄嗟に全員が全速力で離脱していく。

 

 四人は青白い光がバロンの両手から放たれたのを見ることなく逃走。

されど、背後から迫る圧縮されて放たれた竜闘気(ドラゴニックオーラ)の圧倒的な威圧感に戦慄する。

単純に避けただけでは大爆発に飲み込まれ、吹き飛ばされてしまうと直感で理解したからだ。

 

 竜の口のような形の両手から放たれるそれは、まさに竜の息吹(ドラゴンブレス)

 

 そしてドルオーラの青白い光は、墓守り人の宮殿の外周に着弾。

まるで核爆発が起こったかのような大爆発が発生し、周囲のすべてを滅ぼし尽くした。

 

 

「無事か……?」

 

「これが……無事に見えるの……?」

 

「フェイト殿、大丈夫でしょうか!?」

 

「ああ……かなりギリギリだったけどね…………」

 

 

 とは言え、四人は余波で吹き飛ばされ、何度も墓守り人の宮殿の石畳の床に体を打ち付け転がることになった。

 

 エヴァンジェリンは何とか態勢を立て直して周囲を見て、とりあえず全員が原形をとどめていることにほっとする。

何せこちらには一応障壁と言う防御手段がある。これによって辛うじて吹き飛ばされずに済んだのだ。

 

 ただ、自分たちが先ほどいた場所は完全に空白地帯となっており、何もかもが消え失せていたことに、ぞっとした。

直撃していれば障壁もろとも消し飛ばされていた可能性があったからだ。

 

 そんなエヴァンジェリンに無事を聞かれたトリスは、今の衝撃でかなりのダメージを受けた様子だ。

とりあえずエヴァンジェリンは簡易的な治癒魔法で三人を癒し、再び攻撃が来るのを警戒。

 

 ランスローもフェイトを心配するが、フェイトも多重障壁で防御しており、ダメージこそあったが五体満足だった。

 

 

「ほう? ギリギリのところで爆風から逃げ延びたか…………」

 

 

 目の下の四人が何とか生き延びたのを見たバロンは、感心の声を漏らす。

あのドルオーラから何とか逃げ切ったからだ。

 

 

「だが、次は果たして逃げ切れるか?」

 

 

 されど、そんなものは一発だけ回避したに過ぎない。

所詮数分間生きる時間を伸ばしただけ。次のドルオーラで命を奪うとバロンは宣言し、再び両手を前に突き出して構えを取る。

 

 バロンがこれほど余裕をもってドルオーラを放つのは、二つ目の特典が保有魔力極大だからだ。

これによって本来2発が限界のドルオーラですら、もう数発追加で放つことが可能だったのだ。

 

 

「なんという驚異的な力だ……」

 

「化け物め……」

 

「まだまだ撃ってくる気よ!?」

 

「我々を殲滅するまで、撃ち続ける気でしょうな」

 

「どうすんのよ!?」

 

 

 あの威力の技を疲弊を見せず連発しようとするバロンを見て、フェイトはその出鱈目さに戦慄し、エヴァンジェリンは小さく悪態をつく。

 

 トリスはドルオーラを連発してくることにビビって焦燥し、ランスローへと言葉を投げれば、ランスローはむしろ冷静に今の状況を分析し、静かに発言するではないか。

 

 んなこたぁわかってんだと言う様子でトリスは大声で叫び、だったら何か名案はないのかとランスローのガクガクと肩を揺らした。

 

 その間にもバロンは上空で両手を合わせた手のひらの中で、竜闘気(ドラゴニックオーラ)を集中させて圧縮していく……。

 

 

「────賭けに出る」

 

「マスター?」

 

 

 そこでエヴァンジェリンはいつも以上に真剣な表情で、最後の奥の手を使うことを決めた。

トリスはエヴァンジェリンの覚悟が決まった表情を見て、何をやる気なのだろうかと考える。

 

 

「はっきり言って今から私が使おうとしている術は、未完成のものだ。失敗したら私すらも死ぬかもしれん」

 

「勝算は?」

 

「3割……、いや2割ぐらいか……」

 

「大博打じゃない!」

 

 

 その奥の手と言うのも、まだ完成には至っていない代物だ。

エヴァンジェリンが覚悟を決めたのは、失敗したときにドルオーラによって蒸発して消滅することだ。

 

 真祖の吸血鬼とて、あの出鱈目な闘気の砲撃には耐えきれないと考えたのだ。

故に、エヴァンジェリンは自分の命(チップ)全賭け(ベット)する。勝ち得るのは勝利だけだ。

 

 賭けと言うのだから勝ち筋ぐらいあるのだろうと、フェイトはエヴァンジェリンへそれを聞くと、1割と答えが返ってきた。

 

 2割、20%の成功率。ほぼ失敗する可能性の方が大きいと言う意味だ。

それを聞いたトリスは、博打と言うか無謀すぎると大きく叫ぶ。

 

 

「…………わかりました。それに我が命を賭けましょう」

 

「……そうね。このままじゃ突破口すら見えないしね」

 

「僕もそれに賭けるよ。どの道……、今のままではこちらが全滅するだけだ」

 

 

 とは言え、エヴァンジェリンが何をするかはわからないが、それに賭けるしかなさそうなのも事実。

ランスローはエヴァンジェリンの賭けに全てを費やすと宣言し、トリスも仕方ないと言う顔でやる気を見せる。

当然フェイトもそれに賛同し、このまま戦うだけではこちらの敗北は確実と判断した。

 

 

「準備が必要だ。1分、せめて40秒稼いでほしい。頼む」

 

「中々無茶なことを言う」

 

「賭ける以前にその時点で無茶苦茶難易度高いじゃない」

 

「だが、やりましょう。全身全霊を賭して、40秒持たてみせましょう」

 

 

 エヴァンジェリンはその術には準備が必要だと話し、最低でも40秒は使うと説明。

フェイトはあの化け物(バロン)相手に40秒も持たせるのは、至難の業だと吐き、トリスも馬鹿言ってんじゃないと言う様子だった。

 

 されど、それしかない。それしかないのだからやるしかない。

ランスローも命を賭す覚悟を決め、その40秒を絶対に勝ち取ると強く言葉にしたのである。

 

 

「相談の時間は終わりだッ!! 滅びるがいいッ!! ”竜闘気砲呪文(ドルオーラ)”ッ!!!」

 

 

 四人が話し合っているうちに、バロンはドルオーラの準備を完了させ、四人を消し飛ばすために爆発的な竜闘気(ドラゴニックオーラ)を両手から解き放つ。

 

 まさに圧倒的な破壊の光はすぐさま彼らへと迫り、その命を奪おうと襲い掛かる。

 

 

「”最大防御”ッ!!」

 

 

 フェイトはすかさず両手を広げ、多重障壁で防御にかかる。

 

 

「グウゥッ!!? やはり防ぎきるのは不可能か!?」

 

「無駄なことをッ!! そのまま消え去れィッッ!!!」

 

 

 だが、障壁はどんどん破壊されていき、防御自体が厳しいと言わざるを得ない。

フェイトは頬に汗を伝わせながらもなんとか踏ん張るが、バロンはさらに障壁もろともフェイトを吹き飛ばそうと力を加える。

 

 

「その技の硬直を待っていたわよ!! 見よう見真似の”ハーケンディストール”ッ!!!」

 

「──────ッ!?」

 

 

 しかし、それを狙っていたとばかりに、すでにバロンの横へと回り込んでいたトリスが、鎧の魔槍で攻撃を仕掛ける。

トリスは何度もハルートに見せられたハーケンディストールを、真似ではあるが放ったのだ。

 

 ハーケンディストールは槍を高速で回転させ、自身をも高速で移動することで一撃の破壊力を出す技だ。

スピードさえあれば真似できると考えたトリスは、この場の思い付きでバロンへと使うことにしたのである。

 

 バロンはトリスがハーケンディストールを使ってきたことに少々驚き、ドルオーラの態勢をやめて手をクロスして防御に回った。

おかげでフェイトは障壁が全て消し飛ぶ前に、ドルオーラがやんだことで生き延びることができたのだった。

 

 

「かったァッ!? 腕に刃が少し食い込んだだけ!?」

 

「猿真似ごときでこの俺が倒せるものかッ!!」

 

「くうゥッ!?」

 

 

 防御に回ったバロンへとハーケンディストールが突き刺さるが、ちょっと刃が腕に食い込んだだけにとどまる。

魔力で強化して放ったハーケンディストールですら、ほとんどダメージにならなかったことにトリスは驚き戸惑った。

 

 とは言え竜闘気(ドラゴニックオーラ)で防御しているのだから、その威力は本来であれば結構なものになるだろう。

 

 バロンはたかが真似程度の攻撃で大ダメージを受けるはずがないと、トリスの握った鎧の魔槍を掴んでぶん投げ、さらにトリスへとパンチをぶち込む。

 

 

「こちらを忘れてもらっては困るッ!! ”縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)”ッ!!」

 

「ぬうっ!?」

 

 

 後方へ吹き飛ばされるトリスと入れ違い様に、ランスローは宝具を開放。

魔力を大量に無毀なる湖光(アロンダイト)へと流し込み、青白く輝かせてバロンへと斬りかかった。

 

 バロンはその攻撃には多少焦りを感じながらも、冷静で的確な判断で防御を行ったのである。

 

 

「甘いぞッ!!」

 

「受け止めただとッ! だが、このまま押し切るのみッ!!」

 

「ほざくなッ!!!!」

 

「なっ!? ガッ!? ぐうアッ!?!?」

 

 

 腕をクロスして防御しただけでは、腕が吹き飛びかねない威力の技だと見抜いたバロンは、竜闘気(ドラゴニックオーラ)を手のひらへと集中させて白羽取りを行ったのだ。

 

 バロンもこの黒騎士の剣である無毀なる湖光(アロンダイイト)は、先ほどから唯一ダメージを与える武器として警戒していたからこその行動だ。

 

 まさか縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)を受け止められるとは思ってなかったランスローは一瞬たじろぐが、力任せにバロンへと刃を押し付ける。

 

 が、バロンはランスローの腹を蹴って後方へと吹き飛ばせば、追撃として両腕を合わせて頭上へと掲げて、そのまま真下へとハンマーのように叩きつけ、ランスローを地面に叩き落す。

 

 

「”冥府の石柱”ッ!!」

 

「そんな魔法ごときでッ!!」

 

 

 そこにすでにバロンの頭上へと移動していたフェイトが、得意の魔法である巨大な石の柱を作り出す魔法を目下のバロンへと落下させる。

されど、バロンは紋章閃を薙ぎ払うようにしてぶっ放し、石柱を全て粉砕して見せたのだ。

 

 

「ハアアァァッ!!」

 

「くだらんッ!!」

 

「グッ!? なっ!? グアッ!!?」

 

 

 フェイトも今の魔法が通用しないことぐらいわかっていたので、石の剣を使い直接攻撃に出る。

ただの石の剣ではない。フェイトの膨大な魔力を乗せた石の剣をだ。

 

 フェイトの攻勢を見たバロンは、瞬間的にフェイトの目の前へと出現すると、右拳をフェイトの顔面に打ち出す。

咄嗟にフェイトは左手で防御するが、今度はバロンの膝蹴りが腹部に突き刺さり、そのまま後方へと吹き飛ばされてしまう。

 

 

「フェイト殿!? クッ!!」

 

「くだらんと言っているッ!!」

 

「グウッ!?」

 

 

 地面に叩きつけられていたランスローは吹き飛ばされたフェイトを見て叫び、再びバロンへと視線を向け超高速でバロンと肉薄。

しかし、バロンはランスローが攻撃してくるのを予測してすでに左拳を引いており、ランスローが目の前に来た瞬間、左拳を伸ばしてランスローの顔面にぶち当てたのだ。

 

 

「グッ!」

 

「くたばれッ!!」

 

 

 またしてもランスローはバロンの攻撃を受けて地面へと落下。

何とか着地するも、今度はバロンが着地の瞬間を狙って攻撃してきたのである。

 

 

「もう一度よ!! ”ハーケンディストール”ッ!!」

 

「無駄だと言ってるのがわからんのかあァァッ!!!」

 

「ううああぁぁッ!?」

 

 

 そこへトリスが再度ハーケンディストールを放ち、バロンへと直接攻撃するが、それを見ていたバロンから逆にトリスは回し蹴りを食らってしまい、地面を転がってしまう。

 

 

「今だッ!!」

 

「貰うッ!!」

 

 

 トリスへ回し蹴りをした瞬間を狙って、今度はフェイトとランスローがバロンへと飛び掛かる。

 

 

「奪われるのは貴様らの方だッ!!」

 

「ガッ!?」

 

「ウウウグアッッ!?」

 

 

 それを見越したバロンは、額を光らせて再び紋章閃を使い、二人へと命中させて吹き飛ばす。

 

 フェイトは障壁で防御したが、障壁は砕かれ脇腹を掠って吹き飛び、地面に転がり倒れこむ。

ランスローも無毀なる湖光(アロンダイト)に魔力を流してそれを叩き斬るように防ぐも、完全に防ぎきれずに吹き飛ばされてしまったのだ。

 

 

「このぉぉぉぉッ!!!」

 

「そんなもの効くかッ!!」

 

「あああっ!? キャアッ!?」

 

 

 二人が吹き飛ばされた直後に、トリスが爆発的な加速で勢いをつけ、足に武装している槍を使って飛び蹴りをかました。

 

 それでもバロンはギリギリでそれを回避し、自分とトリスがクロスした瞬間にトリスの脇腹を蹴り上げて跳ね上げ、さらに邪魔だと言わんばかりに腕を振り回してぶつけ、トリスを弾き飛ばす。

 

 

「ええいッ! 鬱陶しいッ!! 仲良く消え去れエェィィッ!!! ”竜闘気砲呪文(ドルオーラ)”ッッ!!!!」

 

 

 もはや今の戦いに嫌気がさしたバロンは、再び空中へと上がり、くだらないこの馬鹿馬鹿しい戦闘を今すぐ終わらせんと、両手で作った竜の顎へと竜闘気(ドラゴニックオーラ)を集中させ始めたのである。

 

 

「40秒……! マスター!!」

 

 

 だが、トリスは戦いながら秒数を数えていた。

バロンにぶん殴られて吹き飛ばされながら、ここでようやく待ち望んだ時間が来たのを数え終えると、エヴァンジェリンへと叫んだのだ。

 

 

 その瞬間、バロンの両手から爆発的な青白い光が発射され、トリスたちへと襲い掛かった。

 

 

「待ってたぞ! その技をッ!!」

 

 

 だが、準備を終えたエヴァンジェリンがその光の渦の前へと立ちはだかれば、右腕を前へと掲げながら、迫りくるドルオーラへと視線を向けて集中する。

 

 

「──────”敵弾(キルクリ)吸収陣(アブソルプティオーニス)”ッ!!!」

 

「なんだとッ!? ドルオーラを抑え込む気かッ!?」

 

 

 ドルオーラがエヴァンジェリンの飲み込もうとしたその瞬間、エヴァンジェリンの足元を中心に巨大な魔法陣が起動する。

これぞ敵の気や魔力を吸収するための術式、敵弾(キルクリ)吸収陣(アブソルプティオーニス)だ。

この魔法陣の下準備に40秒必要だったのだ。

 

 バロンが放ったドルオーラは、エヴァンジェリンの右腕の手前にも発生した魔法陣の前で停止、膨大なエネルギーをその術式にて受け止める。

 

 

「無駄なあがきをッ!! そのまま蒸発してしまえェイィィッ!!!」

 

「ウウゥゥゥッ!!!! グッ……クゥゥゥッッ!?! アアウゥァァ────ッッ!!??」

 

 

 ドルオーラが抑え込まれているのを見たバロンは、ならばさらにパワーを上げて押しつぶすだけだと、ドルオーラの出力を上げてエヴァンジェリンを消滅させんとする。

 

 エヴァンジェリンも必死にドルオーラを抑え込むも、その膨大な竜闘気(ドラゴニックオーラ)の破壊的な力の渦の前に、肉体的な損傷を受けていく。

 

 掲げた右腕はいたるところに裂傷ができ、手のひらは焼けただれ、噴き出した血しぶきは竜闘気(ドラゴニックオーラ)のエネルギーによって蒸発。

体も強烈な力の流動でねじ切れんばかりの圧力を受け、全身が今にもバラバラに砕けそうになり、全肉体が裂けて悲鳴を上げる。

 

 もはや限界。

エヴァンジェリンの吸血鬼としての肉体すらも限界を迎えようとしていた、その時────。

 

 

「────”(コンプ)……(レクシオー)”ッ!!!」

 

 

 エヴァンジェリンは竜闘気(ドラゴニックオーラ)を固定することに成功し、そのまま固定した竜闘気(ドラゴニックオーラ)右手に握りつぶして、なんと竜の力を吸収して見せたのだ。

 

 

 ────太陰道。

気の攻撃や呪文にかかわらず、敵の力を自分のものへと吸収して糧とする、闇の魔法の究極闘法。

 

 ()()のエヴァンジェリンは、完成形を思い描くも技術的障害の多さと費用対効果を考え開発を断念し、ネギが実現させた術式だ。

それを()()のエヴァンジェリンは、未完成としながらも、この土壇場で成功させたのである。

 

 闇の魔法はアルカディアの皇帝と共に開発したことで開発期間は大幅に減少し、この術を研究する時間が増加したことが、この成功の要因の一つだった。

 

 とは言ってもエヴァンジェリンも、最初は難易度の高さから一度は開発を断念しかけた。

そんな時に、皇帝から「もったいなくね?」と言われ、少しずつだが研究をずっと続けていたのが種となり、今ここで芽吹いたのだ。

 

 

 また、成功率2割とは、”未完成の術がドルオーラにも通用するのか”、”ドルオーラの力の前に肉体が持つのか”、”ドルオーラを完全に抑え込めるのか”、”ドルオーラを吸収できるのか”。

この四つの不安要素全てをクリアしなければならないことへの数字であり、最後の一つ意外のどれかが欠けていればエヴァンジェリンの命はなかっただろう。

 

 それに吸収できなかった場合、最悪そのまま反射してぶつけると言う手が使えるのだが、それを行ったら次はないと言う意味でもあった。

 

 この術を見せて警戒された場合、もう二度と同じ手を打ってこないだろうと言う確信があったからだ。

だからこそ無理をしてでも吸収し、竜の騎士の力を得る必要があったのだ。一発勝負が全てだった。

 

 

「ばっ……馬鹿な!? ありえんッ!? 不可能だッ!!?? ドルオーラの力を吸収するなどッ!?」

 

 

 エヴァンジェリンが太陰道をギリギリで成功させたのを見たバロンは、大きく驚きうろたえた。

まさか竜の騎士最強呪文であるドルオーラを、竜闘気(ドラゴニックオーラ)を吸収できるなど思ってもみなかったからだ。

 

 

「賭けは…………、────私の勝ちだなッ!!」

 

「グウオオオォォォォッッ!!??」

 

 

 つまり、エヴァンジェリンは、自分の命を賭けた勝負に勝利し、竜の力を掴んで見せたのだ。

 

 そう叫んだエヴァンジェリンは、まさに神速のスピードでバロンの懐に潜り込めば、その勢いを乗せた右拳をバロンの顔面に叩き込む。

竜闘気(ドラゴニックオーラ)で守護られているバロンの肉体とて、同じパワーで殴られればダメージも入ると言うもの。

 

 バロンはぶん殴られたダメージで叫び声をあげながら、竜の翼を使い何とかその場にとどまる。

 

 

「確かに貴様の力はおぞましいほどに強大だ。ならば、貴様の力を利用する手はないだろう?」

 

「き…………、吸血鬼風情がああアァァッ!!!」

 

 

 エヴァンジェリンはバロンの横を通り過ぎ様に、耳元で静かに囁く。

竜の騎士の力、竜闘気(ドラゴニックオーラ)、まさに化け物の力だ。

ならばこちらが勝つ方法は、この化け物の力を自らの手の中に納め、使いこなすことだ。

 

 その言葉にバロンは完全にブチギレた。

たかが、たかが吸血鬼ごときに、竜の騎士の力を奪われてこちらにダメージを与えてきたからだ。

 

 

「ハアッ!!」

 

「グウオッ!? 舐めるなッ!!」

 

「ウウオォォッ!!!」

 

 

 通り過ぎ様に囁いた後、エヴァンジェリンは強烈な蹴りをバロンの顔面にぶち込む。

 

 バロンは再び顔面に強い衝撃を受けて地面へと落下するが、両足でしっかりと着地し、落下しながら迫り来るエヴァンジェリンへの反撃として、右腕を伸ばしてパンチを出す。

 

 エヴァンジェリンもそれを見て、同じく右手で応酬。

両者の拳が衝突し、周囲の地面を砕き巨大なクレーターを形成する。

 

 

「そこだッ!!」

 

「グウウオオッ!? ガハッ!?」

 

 

 だが、今バロンの体はがら空き状態。

そこへエヴァンジェリンが左拳を叩き込めば、バロンは後方に軽く吹き飛び、血を吐いてよろめいた。

 

 

「流石の貴様も同じ力で殴られれば、ダメージを負うようだな!」

 

「ちっ……調子に乗るなッ!!!」

 

 

 竜の力、竜闘気(ドラゴニックオーラ)は絶大だ。

それに覆われたバロンに傷をつけるのは、非常に至難だった。

 

 とは言え、それと同じ力を使えば、その防御を貫通できる。

エヴァンジェリンはこの滾る竜の力に驚き、脅威なのを再確認しつつも、だからこそニヤリと笑ってバロンを煽る。

 

 今ので血を吐く程のダメージを受けたバロンだったが、この程度ではないと大きく叫ぶ。

 

 

 するとバロンは姿を消し、エヴァンジェリンへと一瞬で肉薄、エヴァンジェリンのどてっぱらへと拳を突き立てれば、エヴァンジェリンも吐血して吹っ飛ぶ。

されど、エヴァンジェリンはすぐさま空中で停止し、再びバロンと衝突。

 

 その衝突は一度ではなく、上空へと舞い上がり何度も何度もぶつかり合う。

両者の衝突による衝撃は空気を大きく揺さぶり、轟音と共に衝撃波が発生し、周囲の浮遊する岩を粉々に粉砕し尽くした。

 

 

「相手は彼女だけではないよ。”万象貫く黒杭の円環”ッ!!」

 

「その程度の攻撃でこの俺に傷が入ると思うのかァッ!!!」

 

「思ってないよ。でも、それでいい」

 

 

 ただ、相手はエヴァンジェリンだけではない。

そこへ現れたフェイトは、バロンへと黒い杭を大量に発生させる魔法を解き放つ。

 

 とは言え、バロンはこの程度の魔法で竜闘気(ドラゴニックオーラ)が貫通するとは思っていない。

それを叫べばフェイトも悔しく思いながらも、わかっていると言うではないか。

 

 

「”ハーケンディストール”ッ!!!」

 

「ぐううぅぅッ!?」

 

 

 わかっていてその魔法を放った理由、それは視界の邪魔をすることだ。

すると、その杭の合間を縫って、トリスがすっ飛んできて、再びハーケンディストールをバロンへとぶち込む。

 

 黒い杭で埋め尽くされた空間で視界が塞がれていたバロンは、防御に一手遅れてしまい、左肩にダメージを受ける。

 

 

「────”縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)”」

 

「ぐおおああおあおあおああアァァァッ!!??」

 

 

 だが、彼らの攻撃はそれで終わりではない。

今度は背後からランスローが宝具を開放し、斬りかかってきたのだ。

 

 またしてもバロンは黒い杭にて視界を奪われていたが故に回避できず、背中に斜めの大きな傷を作ってしまった。

 

 無毀なる湖光(アロンダイト)の竜特攻に加えて、砕けぬ剣にありったけの魔力を込めた斬撃に、バロンは大きなダメージを受けて苦痛の声を上げたのだ。

 

 

「ハアアアァァァァッ!!!」

 

「グウガアアァァァッ!!?」

 

 

 さらにそこへエヴァンジェリンが手の爪を揃えて剣のようにして斬りかかる。

バロンは縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)のダメージによる硬直で動けず、それを脇腹に食らい、さらに叫んだ。

 

 

「ぐっぐっ…………舐めるなあアァアアァァァアアアァァァアァァアアァッッ!!!!!!」

 

 

 大きなダメージを受けたバロンは、怒りをさらに爆発させて大声をあげながら、あるものを目指して急降下。

 

 

()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()痛恨の一撃。受けてみるがいいッッッ!!!!」

 

 

 あるものとは、竜の騎士の正当なる武器、真魔剛竜剣だ。

地面に突き刺さっていた真魔剛竜剣を高速でかすめ取り、再び上空へと舞い上がったバロンは、()()()では使ったことがないあの技を使って、連中を消し炭にすることを選んだのである。

 

 

「”ギガッッ!!! ブレイクッッ”!!!」

 

 

 ────その技こそギガブレイク。

作中、完全な状態で竜魔人から放たれたことがない、最強剣。

通常の姿でも絶大な破壊力を持つこの技が、竜魔人の時に使われた威力は想像を絶するだろう。

 

 

「ウオオオオォォォォッッ!!」

 

 

 ギガブレイクに立ち向かうは真祖の吸血鬼エヴァンジェリン。

断罪の剣を右腕から解き放ち、吸収した竜闘気(ドラゴニックオーラ)を全身にたぎらせて、落雷のように迫るバロンへと突撃していく。

 

 

 そして、両者が空中で衝突、瞬間に超巨大な破壊音と共に大爆発が発生。

空間をも揺るがすほどの衝撃が宮殿にいるフェイトたちにも襲い掛かり、誰もが腕で顔を覆って両者の状況を見極めようと凝視していた。

 

 

「ガハアァッ!?」

 

 

 だが、押し負けたのはエヴァンジェリンだった。

エヴァンジェリンは衝撃で宮殿へと吹き飛ばされ、石畳に全身を食いこませて力なく倒れこむと、今の衝撃とダメージで闇の魔法が解かれてしまっていた。

 

 さらにはそのままバロンは宮殿へと突撃し、見守っていた三人をもギガブレイクの爆発の余波に巻き込み吹き飛ばしたのだ。

なんという絶望的な状況だろうか。もはや彼らに打つ手はないのだろうか。

 

 

「我が竜闘気(ドラゴニックオーラ)を飲み込もうとも、それプラスギガブレイクの前では押し負けたようだなッ!!」

 

 

 流石に竜闘気(ドラゴニックオーラ)を吸収したエヴァンジェリンとはいえ、本家本元のパワーとギガデインの破壊力を併せ持ったバロンには、一歩及ばなかったのである。

 

 

「なんという……強さ……」

 

「ここまでしても、まだ倒せないの……? ハハ…………まさに悪夢ね……」

 

 

 ランスローは何とか立ち上がり空中のバロンへと視線を移して、その狂った戦闘能力に改めて戦慄し、トリスも地面に寝転がりながら、まだ戦うことが可能なバロンのタフさに驚き絶望する。

 

 

「もはや、貴様らには戦う力さえ残っておるまいッ! 最後にもう一度吹き飛ばしてくれるッ!!」

 

「来るか……!」

 

 

 何度見た光景だろうか。

バロンは再度、真魔剛竜剣を天へと掲げ、とどめとばかりに渾身のギガデインを纏わせて、目下の四人を睨みつけて叫ぶ。

 

 もはや何度目かはわからぬほどのギガブレイク。

フェイトもなんとか立ち上がり、その攻撃に備えて声を出す。

 

 

「”ギガブレイク”ッ!!!」

 

 

 そして、バロンは真魔剛竜剣を振り上げて、フェイト目掛けて急降下。

爆発的な速度と勢いのままに、フェイトを消し飛ばさんと迫っていく。

 

 

「いいや!  まだやれるぞッ!」

 

「なっ!? 馬鹿なッ!? 受け止めるだとッ!?」

 

 

 だが、爆速で加速してフェイトの横をかすめ、バロンへと肉薄するは黒騎士ランスロー。

無毀なる湖光(アロンダイト)へありったけの魔力を込めて、ギガブレイクを受け止めたのだ。

 

 竜魔人となった姿でのギガブレイクを受け止められたバロンは、流石に驚愕して表情をゆがませる。

今の形態でのギガデインを受け止めて生き残る以上に、剣で受け止めきったからだ。

 

 それもそのはず、ランスローは高い対魔力を保有している。

Fate/Zeroのバーサーカーの能力を貰ったうえで、さらにセイバークラスへの変更を特典に選んだからだ。

おかげでギガブレイクの雷撃の余波自体は、かなりダメージを抑えることができており、他よりもダメージが少なかったのだ。

 

 それに無毀なる湖光(アロンダイト)は、絶対に破壊されない宝具の剣。

いくらオリハルコンでできた真魔剛竜剣であろうとも、壊れない特性の剣の強度を超えることは不可能。

よって、ギガブレイクを何とか防ぐことができているのである。

 

 

「彼だけを見ている余裕があるのかい?」

 

「なんだと! グウッ!?」

 

 

 そこへフェイトがバロンの真横へと出現し、魔力で超強化した石の剣でバロンの右腕を切り裂いた。

 

 

「思った通りだ。流石のあなたでも、同等の力を得た彼女との殴り合いで、相当消耗を強いられたみたいだね」

 

「ふ……、ふざけおってエェェェッ!!!」

 

 

 フェイトはバロンがエヴァンジェリンとの死闘で疲弊してきているのではないかと分析し、それが正解だったことをダメージを受けたバロンを見て理解した。

何せ同等の力を得たエヴァンジェリンと死闘を繰り広げたのだ。消耗しないはずがない。

 

 されど、バロンは叫んで強気の態度を崩さない。

とは言え、バロンもそれに気が付いているので、表情に焦燥が隠せなくなってきていた。

 

 

「俺は……、俺は……ッ!! 俺は負けぬッッ!!! 負けるわけにはいかぬのだアァッッ!!!」

 

 

 バロンはこの先にある完全なる世界(しあわせなゆめ)のために、もう引けぬ状態だった。

もう一度前世の家族に会うためにも、絶対にここで負けたくはないと声を張り上げて気合を入れる。

 

 

「それはこっちも同じだ」

 

「ぐうっ!? これは石柱の結界かッ!?」

 

 

 しかし、フェイトもそれは同じ。

むしろフェイトはバロンとは逆に、失わないための戦いだ。

 

 アルカディアの皇帝は俺に任せろと言った。

だが、今ここで戦っているのも、また皇帝の計画の一部なのだろうとフェイトは察していた。

 

 ここで負ければ計画に支障が出るはずだ。

そうならないためにも、失わないためにも、ここで確実に目の前の怪物(バロン)を倒さなければならない。

 

 この魔法世界が消失すれば、愛する栞の姉も消えてしまうだろう。

それだけは絶対に避けなければならない。

 

 今のフェイトを突き動かして力を与えているのは、栞の姉を失いたくないと言う強い気持ちなのである。

 

 フェイトはバロンの動きを封じるために、その場で石柱を何本も周囲に生やし、強力な結界を張ってバロンとの距離を取る。

 

 

「この程度でッ!! この俺をッ!!! 止められるかあアァァッ!!!」

 

 

 とは言え、竜魔人の肉体と魔力を持つバロンには、いくらこの結界でも通じない。

全身に力を入れて渾身の竜闘気(ドラゴニックオーラ)を大放出し、周囲を全て吹き飛ばして結界を破壊して見せたのだ。

 

 

「もう一度ッ! ”縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)”」

 

「グアアアァァッ!!?」

 

 

 ────その瞬間、青白い輝きが弧をかいてバロンの体へと吸い込まれていく。

大魔力を刃の部分に集中させて斬り裂く宝具、縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)だ。

 

 それがバロンの胸と胴体へと斜めに直撃し、バロンのうめき声と共に青色の鮮血が宙を舞った。

切断面は静かな湖面のように美しい青色に輝き、その魔力の濃さが一目で伺え知れる。

 

 

「”氷槍弾雨”ッ!!」

 

「グウウウオオオォォッ!!? クソッ!!!」

 

 

 さらにエヴァンジェリンがすでに肉体を修復し、宙を舞って氷の槍を雨あられにバロン目掛けて発射。

氷の槍はバロンの肉体へと何度もぶつかり、次第にダメージを与えていく。

 

 

「行くわよ行くわよ!! ”弁財天五弦琵琶(サラスヴァティー・メルトアウト)”ッ!!!」

 

「ガッグッ!!!??」

 

 

 追加で倒れていたトリスも立ち上がり、ありったけの魔力と力を込めた宝具を開放。

超高速で回転しながらバロンを蹴り削り、最後の一撃に強烈な鋭い蹴りをぶっぱなせば、足の武装の槍がバロンの腹部に深々と刺さった。

 

 竜魔人とてこのダメージは致命的だ。

本来ならばここまでのダメージにはならないはずだが、流石のバロンも竜闘気(ドラゴニックオーラ)の消費で疲弊し、防御が薄くなっていたのだ。

 

 

「────この一撃でッ!!」

 

「ガアアアァァ──────ッ!?」

 

 

 最後にフェイトが膨大な魔力を込めた石の剣にて、バロンの胴体を斜めに切り裂く。

ランスローに斬られた傷と対にとなるように斬られた傷は、まさにXの字を描いた。

 

 ────今のフェイトの攻撃は決定的なものとなった。

 

 竜魔人とて再生能力がある訳ではない。

蓄積されたダメージはついに限界を迎えたことで、竜魔人化が解除された。

 

 そして、肉体を大きく損傷したバロンは大声を張り上げて叫び、後ろへとゆっくりと倒れていく────。

 

 

「──────」

 

 

 倒れ行く重力を感じながら、バロンは己が描いた夢を走馬灯のように、脳内へと巡らせる。

前世の忘れられぬ思い出。忙しい仕事の日々。暖かい家族との交流。充実した生活。

その全てが泡となって弾けていく、強烈な喪失感を味わっていた。

 

 

「────私は…………」

 

 

 ────ああ、だからそんなものは認めない。

 

 後方へと倒れそうになる寸前で、片足を後ろへと下げ踏ん張り、バロンは倒れることを拒んだ。

 

 

「私は……、私は…………」

 

 

 何が何でも、何をしてでも前世の家族に会う。

それが叶わぬなどありえない。認められるはずがない。

 

 そのために全てを賭けてきた。他者を踏みにじってきた。

だからこそ、だからこそ、夢の中ででもいいから、もう一度家族に会いたい。

 

 ────会わなければ。

 

 ────会わないと。

 

 ────会うしかない。

 

 それはもう、ただの妄執だった。

重ねた罪から逃げるための、ただの強迫観念でしかなかった。

 

 

「まだ立っていられると言うのか……!?」

 

「恐ろしいまでの執念だ」

 

 

 フェイトは未だ倒れずに、こちらへと足を踏みしめてくるバロンを見て恐れおののく。

竜魔人化が解けて傷だらけだと言うのに、なんという強い執念だろうか。

その執念の強さにエヴァンジェリンも驚いていた。

 

 

「もう、もうやめましょうバロン様……!」

 

「ハルート……!」

 

 

 そこへ、よろめきながらゆっくりと歩いてくる男が現れた。

バロンの弟子のハルートだ。

 

 ハルートはバロンのためにここへ現れ、これ以上の戦いの停止を呼びかける。

そんなハルートへとバロンは振り向き、その歩みを止めた。

 

 

「我々は敗北したのです……。これ以上は…………」

 

「……………」

 

 

 足を止めたバロンへとハルートは近寄り、自分たちが負けたことをはっきりと告げ、説得を始めたのだ。

全力を出し尽くしての敗北。この戦いの勝者は彼らであり、我々ではない。

敗北したことを潔く認め、もう終わりにしようとハルートは語り掛ける。

 

 そのハルートの言葉に、バロンは目をつむって考える。

そうだ、この戦いは自分たちの負けだ。圧倒的な力を見せたと言うのに、諦めず、折れずに立ち向かってきて、勝利したのは彼らだ。

 

 もはや自分には戦う力など一滴も残されていない。

これ以上戦ったとして、彼らに勝つことは不可能だ。

 

 

「私は……ただ…………もう一度………………」

 

 

 それでも、それでも負けたくはなかった。

永遠に覚めぬ夢でなくとも、一度でもいいから、もう一度家族に会いたかった。

バロンの根源は全てそこだった。ただただ悲しいほどに、前世の家族を渇望するだけの男だった。

 

 そして、バロンは一筋の涙を流すと、力なく静かに膝をついた。

ハルートはバロンを受け止め、地面へと寝かせると、同じように涙を流していた。

 

 

「……約束は守ったわよ」

 

「感謝する……」

 

 

 トリスはハルートへと、約束と言葉にする。

それはバロンを止めると言う約束だ。

 

 ハルートは約束が果たされたことに小さく感謝を告げれば、それを聞いたトリスは鎧の魔槍の武装を解除すると、達成の印としてハルートへと返す。

ハルートはトリスから返された槍を、ただ静かに眺めていた。

 

 

「行こう。もう時間がないはずだ」

 

「そうだね。周囲の様子が随分と荒れ具合から見て、儀式の完成が近い」

 

「急がないとまずいですね……」

 

 

 そして、ようやく一つの戦いが終わったことにエヴァンジェリンは安堵しつつも、状況が著しくないことを察して三人へと話しかける。

 

 フェイトも周囲の状況を見て、かなりマズイことになってきているのを感じてそれを話せば、ランスローも急ぐべきだと焦燥に駆られた表情を見せる。

 

 

「人使い荒いんだから……まったく。はぁ……」

 

「仕方ないだろう? 行くぞ」

 

「はぁい……」

 

 

 三人の横で、かなり疲れた顔をして愚痴るトリス。

超強敵の竜魔人と戦った後だと言うのに、休ませてすらくれないことに呆れを感じていた。

 

 とは言え、そんなことを言っている余裕も暇もない。

諦めろとエヴァンジェリンが言えば、観念した様子でトリスも渋々歩き出すのだった。

 

 

 

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