理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百九十二話 二人

 

 墓守り人の宮殿の大祭壇から少し離れた場所の上空。

ハルナが駆る飛行船が強烈な旋風に飲まれながらも、飛ばされないように必死に飛んでいた。

 

 

「ヤバイ! ヤバイよ! ヤバイよ! ヤバイって!! めちゃくちゃ船体が安定しなくなってきてる!!」

 

「魔力乱流がさらに激しくなってきています」

 

「わかってるってー!!」

 

 

 強烈な魔力の嵐によって普通に飛行することが困難になりつつある状況で、ハルナは必死に飛行船の操舵を握る。

そこへ茶々丸が騒ぐハルナへ今の状況を話せば、操縦の感覚で全部理解してると叫びまくる。

 

 とは言え、状助のクレイジー・ダイヤモンドの能力のおかげで船体は万全。

おかげで滅茶苦茶風に煽られて飛びづらいが、飛べないこともないと言う状況だ。

 

 

「ちょっ!? あぶなっ!!」

 

「うわっ!」

 

「あぶっ!?」

 

 

 と、そこへ巨大な岩が正面から飛んできたではないか。

ハルナは咄嗟に舵を取って回避行動するも、だいぶ船体を傾けての回避だったが故に、甲板にいた仲間たちが飛行船からはじかれると思い大いに焦った。

 

 

「────あ」

 

 

 が、一人だけ踏ん張り切れず吹っ飛ばされたものがいた。

状助だ。状助はクレイジー・ダイヤモンドの能力を船に使っていたので、少しぼけっとしていたのである。

 

 

「あっ」

 

「東さん!?」

 

 

 のどかと夕映は吹っ飛んだ状助を、まるでスローモーションの動画でも見ているかのような顔で眺めていた。

気が付いた時には、状助が吹っ飛んでいたんだからしょうがない。

 

 

「うおおおおぉぉぉぉっ!? マズいッ!? 落ちるッ!?」

 

 

 状助も大いに焦りながら、手すりに何とかクレイジー・ダイヤモンドの腕を使って捕まることができた。

が、強風で煽られているせいか中々体を持ち上げられず、必死に捕まっているのがやっとの状況だ。

 

 

「今助けに……、わわあっ!?」

 

 

 裕奈がそれを見てすぐに動いて助けに行こうとしたその時、再び船体が大きく揺れた。

 

 

「あっ!? やべぇ!? うおおああぁぁぁッ!?」

 

「東さん!!? 東さーんっ!!?」

 

 

 その揺れでクレイジー・ダイヤモンドの手が手すりから離れてしまい、風に流されて状助が飛んでってしまったのだ。

裕奈はそれを見て超焦って叫ぶがもう時すでに遅し。すでに遠くへ飛んで行ってしまった後だった。

 

 

 

 状助が吹っ飛ばされた先、そこは墓守り人の宮殿の上層部、上層大祭壇の近くだった。

 

 

「……? この声……?」

 

 

 吹っ飛ばされて叫ぶ状助の声を耳にしたのは、現在待機組と合流して移動中のアスナだった。

 

 

「って、状助!? なんであんなところに!?」

 

「アスナさん?」

 

「先に行ってて! 状助を助けてくるから!」

 

「えっ!? アスナさん!?」

 

 

 その状助の声をたどってキョロキョロと周囲を見渡せば、なんと空中で飛ばされている状助の姿があるではないか。

アスナは幻覚なのかどうか疑うレベルの光景に驚き、助けなければと行動する。

 

 とは言え、夏美のアーティファクトを使い竜化した環の上で移動しているので、状助には彼女たちの姿を見ることはできない。

なので状助はもうだめだぁ……、と言う心境なのである。

 

 ネギはアスナが驚いたのを見て、どうしたのかと聞こうとすれば、アスナはネギへと言づけて状助を助けに行ってしまったのである。

 

 

「状助!」

 

「うおおっ!? ってアスナかよ!?」

 

「手を出して! 手をッ!!」

 

「おっ、おう!」

 

 

 吹っ飛ばされる状助へと近づくアスナは、必死に手を伸ばす。

状助も突然現れたアスナに驚きつつ、手をと言われて同じく頑張ってアスナの手へと手を伸ばした。

 

 

「────届いた……!」

 

 

 そして、その手がようやく届く。

アスナはゲートポートで自分の手が状助の手に届かなかったことを思い出し、やっとつかめたと喜んだ。

 

 

「────えっ?」

 

「なっ、なんだ!? どうなってんだッ!? こいつはよぉーッ!?」

 

 

 されど、喜んだのもつかの間。

その瞬間に突如として周囲が灰色がかり、妙な雰囲気に一変したのだ。

 

 突然の周囲の変化にアスナも状助も驚き、何かマズイことになったことを察する。

 

 

「何が起こったの……?」

 

「まさか……? まさかかぁ……!?」

 

 

 とりあえず二人はとりあえず宮殿の外周へと着地すると、周囲を見渡して警戒。

アスナは何が何だかわからないと言う様子を見せるが、状助はこの光景を()()で知っていたため、少し察して驚いていた。

 

 

「あいつがミスったからなぁ」

 

「俺たちがお前を抑える役をする羽目になっちまったぜ」

 

 

 すると、そこへ機械仕掛けの杖を持った男と、筋肉質の男が現れた。

彼らも当然完全なる世界の一員となった転生者だ。

 

 と言うのも、D・4・Cの男がアスナを隔離する役目を担っていたのだが、やられてしまったので予備の彼らが出てきたのである。

 

 

「だっ、誰!?」

 

「テメェらが何かしたって訳かよぉ!?」

 

 

 突如として現れた男二人に、アスナはさらに警戒心を強め、状助もこの状況こそ彼らの術だと判断して叫ぶ。

 

 

「どっちも教えるわけねーだろ? 敵なんだぜぇ俺たちはよ?」

 

「そういうこった!」

 

 

 杖を持つ男はアスナと状助の問いに、答える義理はないとばっさり切り捨て、筋肉質の男も同意して頷いていた。

そりゃまあ敵なんだから、わざわざ自己紹介なんかしないし、能力を教えるようなことはしない。

無明ぐらい律義ならばやるかもしれんが。

 

 

「……ここは一体どうなってるの?」

 

「こいつってまさか、あの結界ってやつか?!」

 

「そう、そのとおり!」

 

「結界に閉じ込めりゃ、外に影響しねぇからな」

 

「チクショー! やられたぜッ!!」

 

 

 さらにアスナはこの状況について言葉にすれば、状助は自分の知っていることを叫ぶ。

この結界は別の作品に出てくる例の結界なのではないか、ということだ。

 

 杖の男はそれをYESと答えて笑い、この状況に持ち込むことこそが目的だと筋肉質の男は言い放った。

何せ杖の男が持つ杖こそデバイスと呼ばれる物であり、こいつが結界を張った張本人だからだ。

 

 状助は敵の術中にはまってしまったことを悔しそうにし、どうすりゃいいんだと悩みだす。

 

 

「まさか、あの巨大な怪物と私を戦わせないため……?」

 

「それもあるがな」

 

「お前の魔法無効化とアーティファクト、魔法に対してベラボーにチートだからよ。抑えておきてぇんだよこっちも」

 

 

 また、アスナは突如として出現した巨大な怪物のことを考え、自分を封じたいのではないかと察した。

 

 そして、それは半分正解だ。

魔法で作り出されたり召喚されたものは、アスナの完全魔法無効化能力と、ハマノツルギによって消滅させられる。

セプテムムが作り出した魔素の怪物でさえも、アスナと戦えば一瞬で消滅してしまう。世の中は無情だ。

 

 ぶっちゃけ魔法主体での戦闘において、これほど驚異的な存在はいない訳で。

だからこそ、それを含めてアスナを隔離しなければならないと、彼らは言葉にするのだ。

 

 

「そういうこと……。でも、この結界も魔法なら、私のハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)で破壊できるはずよ! 来れ(アデアット)!」

 

「その隙は与えねえ!」

 

「────疾い!」

 

 

 ただ、この結界も魔法で作り出されていると言うのならば、破壊できるとアスナは考えてハマノツルギを呼び出す。

当然敵もそれを理解している様子で、そうはさせんと筋肉質の男が動き出した。

 

 もはや、ピストルから放たれる弾丸なんか目ではないほどの疾さで動く筋肉質の男に、アスナも少し驚いた。

されど、それだけならば問題ないとハマノツルギを構えるが、なんと筋肉質の男はアスナの真横を素通りして背後へ飛んで行ったのである。

 

 

「えっ?」

 

 

 その男の行動に、アスナは理解できないと言う顔で驚き、ポカンとしていた。

 

 

「なっ? 何をしたの?」

 

「そりゃ、これを見ればわかるだろ?」

 

「へ?」

 

 

 すぐさま背後へと移動した男の方へと振り向けば、男はあるものを握りしめ、それを見せつけてきたのだ。

 

 

「あっ!? ちょっ!!?」

 

「ふふふ……。どうだ? この俺の無音・脱がし術のテクは!」

 

「ふっ……ふざけないで! このヘンタイッ!!!」

 

 

 それはなんと、今アスナが着ていたドレスだった。

アスナはハッとして自分の姿を見れば、ブーツ以外全部剥がされて恥ずかしい姿にされていたのである。

 

 この筋肉質の男は魔法を使わず脱がす術を特典として貰い、極めに極めて極め尽くした極上の変態野郎だ。

 

 無音・脱がし術とは、あの千の刃のジャック・ラカンが使用した、服を神速で脱がす技である。

履いているパンツでさえも見えざる速度で脱がすと言う、ドスケベだがとんでもない神業だ。

ただのスケベではないぞ。ド級のスケベ、ドスケベだ。

 

 無論、魔法ではないので当然アスナにも通用する。

誰にでも通用するからこの技を得た訳だ。

 

 トリスが言う、どうしようもない連中の一人であり、最低なやつってことだ。

 

 自分の脱がし術を自慢してサムズアップする男に、アスナは顔をリンゴのように真っ赤にしながら怒り心頭となっていた。

もはや恥ずかしくて赤くなってるのか、怒って赤くなっているのかわからないほどだ。

 

 

「おー! やるのか? その格好で?」

 

「決まってるでしょ!!」

 

 

 筋肉質の男は恥ずかしい格好になったアスナが、戦意を失わずにハマノツルギを構えてるのを見て煽りだす。

そんなことを言われたアスナも当然恥ずかしい訳だが、それ以上に目の前の男を絶対に許さないと言う気持ちの方が強かった。

 

 

「ふーん? 別にいいけどよぉ? あいつはほっといていいのかぁ?」

 

「あいつ……?」

 

 

 が、そこで男は()()()と言葉にして、親指を立ててそっちの方を指す。

それを聞いたアスナは、その指す方向を見れば、滅茶苦茶にうろたえている状助が目に入ってきたのだ。

 

 

「なっ!? うおおおぉぉぉっ!?」

 

 

「────あっ」

 

 

 状助は手で顔を覆いながら、何やら喚き散らしてのたうち回っているではないか。

なんというか、いつも通りのリアクションである。

 

 アスナは敵に気を取られすぎていて、状助のことを失念していた。

 

 

「いっ、キャッ!? やだっ!!?」

 

 

 そして、状助の姿を認識した途端、急に怒り以上に羞恥心の方が勝ってしまい、咄嗟に体を手で隠して耳まで真っ赤に染めたのである。

 

 

「俺らなんてどうでもいい有象無象みてぇだが、あっちはそうじゃねぇってかぁ?」

 

 

 筋肉質の男は俺たちはどうでもよくても、味方に見られるのは恥ずかしいんだな、とケラケラと笑っていた。

 

 

「みっ、見ないで状助!!」

 

「見てねぇ! 俺はなーんも見てねぇぞ!!」

 

 

 アスナは恥ずかしい気持ちで頭がいっぱいになり、どうにかなりそうになってしまい、状助へと咄嗟に出てしまった言葉を大きく叫ぶ。

そりゃ幼馴染とも呼べるほどの男子に裸を見られるのは、当然恥ずかしいに決まっている。

 

 敵の連中なんかに見られたとて、ボコボコにぶん殴って記憶を飛ばしてやるとか、どうせ二度と会わないと考え、そこまで問題にすることはない。

 

 されど、顔なじみで何度も顔を合わせる男の子に見られるのは話は別だ。

なんというか、そりゃ気まずいと言うレベルじゃない。顔を合わすたびに思い出したり、恥ずかしくなったりしちゃうかもしれないからだ。

 

 とは言え、状助はアスナが脱がされた瞬間から目を瞑って顔を手で覆っており、まったく見ていないと言うチキンっぷりを発揮していたが。

 

 

「目ぇ瞑ったらなんも俺の攻撃が見えねぇだろうがボゲ!!」

 

「グアッ?!」

 

「状助!?」

 

 

 だが、今は敵の前だ。

敵の前で目を瞑るなど、相手に大きな隙を晒すマヌケな行為に他ならない。

杖の男は目を瞑った状助へと、赤色の魔法弾、ディバインシューターを複数ぶち込めば、当然状助は目を瞑っているので見えるわけもなく、魔法弾を食らって吹き飛び地面に転がった。

 

 その状助の姿を見たアスナは、たまらず名前を叫ぶ。

自分が言ってしまった言葉のせいで、状助が攻撃を受けてしまったと思ったからだ。

 

 

「お前はこっちだ!!」

 

「あっ!? いやっ!?」

 

 

 状助に気を取られて大きく隙を晒すアスナへと、筋肉質の男が肉薄して殴りかかる。

男の攻撃に気が付いたアスナは、恥ずかしがりながらも必死に攻撃を回避しつつ後方へと逃げる。

 

 

「────ッ! 去れ(アベアット)……」

 

 

 裸で恥ずかしいならば服を着ればよい。

アスナはとりあえずハマノツルギを仮契約カードへと戻し、衣装変更する前の総督府で着ていたドレスへと戻す。

 

 

「なるほど? アーティファクト解除で元の服が戻ってくるって訳か? しかし甘い甘い!!」

 

「なっ!? あっ!!?」

 

 

 されど、男は再びアスナの横を通り過ぎれば、そのままアスナは再び脱がされてドレスを奪われてしまう。

瞬間的に二度も脱がされたアスナは驚き戸惑い恥じらいながらも、仮契約カードを再び取り出す。

 

 ただ、男は脱がした服にはあまり興味がないようで、その場に適当に放り投げてながら、アスナの方を見て笑っていた。

 

 

「こっ、この!! 来れ(アデアット)ッ!!」

 

「んでもってアーティファクト召喚での衣装チェンジか! だが────」

 

 

 そして、アスナは呪文を唱えてハマノツルギを呼び出し、同時に仮契約カードのおまけ機能である衣装の変更を使って、学園祭のお助けユニットの時に着ていた鎧風のドレスへと着替えて、男を迎え撃つ。

 

 筋肉質の男もアスナの行動は理にかなっていると思い称賛するが、男にとってもその行動は些細なものでしかない。

 

 

「~~~~~~ッッッ!!」

 

「────無意味だ」

 

 

 再び神速の手つきで通り抜けざまにアスナの服を脱がす筋肉質の男。

きれいさっぱり服の部分だけを脱がされたアスナは、再び顔を赤く染めてうろたえる。

 

 

「やだっ!? こんなっ!?」

 

「俺たちゃテメェらを倒しに来たんじゃねぇ。抑えに来たんだって言っただろ? ここから逃がさなきゃ別にいいんだよ!」

 

 

 またしても脱がされて体を両手で隠し、羞恥心に苦しむアスナ。

一人だけならここまで恥ずかしくないが、やはり状助が近くにいる影響が大きい。

 

 また、筋肉質の男はアスナを倒す気はなく、時間稼ぎのためにこうしている。

この結界の内部に閉じ込めてあれば、アスナとて外の状況に手出しできないからだ。

 

 

「やっ、野郎ッ!! グアッ!?」

 

「ほらほらどうしたどうしたぁ!? テメェのスタンドは視界があるタイプかぁ? どっちでもいいけどよー! 見ようとしなきゃ意味がねぇからなぁ!!」

 

 

 状助は何とか対抗しようとクレイジー・ダイヤモンドの拳でラッシュするが、見当違いの攻撃をするだけで終わってしまう。

そりゃ目を瞑ったままでは攻撃など当てれるはずがない。

 

 杖の男はスタンド使いならスタンドの目で見えないのかと煽りまくる。

見えるスタンドと見えないスタンドが存在するので、どっちなんだと。

ただ、見る意思がなければどちらも同じだと笑っていた。

 

 

「グッ!? こっ、この野郎ーッ!!」

 

「そっちじゃねぇよバーカ!」

 

「アグァッ!?」

 

 

 それでも攻撃しないよりはマシだと考え、攻撃が飛んできた場所へとクレイジー・ダイヤモンドの拳を伸ばす。

 

 が、当然杖の男は理解そうしてくるのを理解しているので、ディバインシューターを誘導して関係ない方向からぶつけているのだ。

 

 

「テメェのスタンドは射程が2メートルしかねぇのも知ってんだよ。その射程に入らなきゃ怖くねぇんだよ!」

 

「チッ、チクショウ!」

 

 

 それに杖の男は当然ながら敵対する転生者の情報を貰っていた。

目の前で自分の魔法を回避することすらできない哀れなリーゼントの能力が、クレイジー・ダイヤモンドということをだ。

 

 なので当然射程距離2メートル内に入ることはなく、宙に浮いたままデバイスから、魔力弾をぶち込み続けるだけだ。

 

 状助は完全に弄ばれ、かなりピンチだ。

目を開ければ防御も回避もできるはずだが、それをしないからである。

 

 

「状助!」

 

「オラオラァ! お前の相手はこっちだってんだよ!」

 

「う~~~~っ」

 

 

 アスナはボコボコにされていく状助を心配してたまらず声を張り上げる。

だが、アスナも筋肉質の男に狙われて、状助の助けに行くことはできない。

このもどかしい状況にアスナは耐えきれず、普段出さないような子供っぽい声で唸っていた。

 

 

「状助! 目を開けて戦って!」

 

「でっ、でもよぉ!」

 

「いいから! 私のことはいいから! 自分のこと優先して!!」

 

 

 もはや恥ずかしいだのを言ってる場合じゃないと、アスナは悩んだ末に状助へ目を開けるように叫ぶ。

されど、さっき見るなと言われた状助は、ためらいを感じてしまう。本当にそれでいいのか、かなり迷った。

 

 そんな状助へと、アスナは気にしないでと大声を出す。

実際、このままでは状助の方が危ういのだから、四の五の言ってはいられないのだ。

 

 

「本当に? 本当にそれでいいのかぁーん? 本気で言ってんのかぁ? 恥ずかしくねぇのかぁ?」

 

「うっ、うう……ぅ……」

 

「ほらほらっ!! そんなんじゃご自慢のアーティファクトが泣いてるぜぇ?」

 

「うぅぅ……」

 

 

 そこへ筋肉質の男が再びアスナを煽りに煽る。

アスナの羞恥心を増やすために、行動を阻害するためにそういうことを言っているのだ。

また、先ほどからアスナの動きが鈍くなっており、それについても馬鹿にするように笑う。

 

 そう煽られまくるアスナは、再び強く悩んで、恥ずかしそうに唸る。

ただ、アスナは未だ服を着ていない恥ずかしい状態だ。

それでも何とか戦おうと頑張っているのだから、すごい方なのだが。

 

 

去れ(アベアット)! 来れ(アデアット)!!」

 

「無駄だってんだよ!! 同じことを何度もすんなアホタレ!!」

 

「このっ!!」

 

 

 再度アスナはアーティファクト召喚で別の衣装へと着替える。

今度はいつもの中等部の冬服だ。

 

 脱がしづらそうな衣装ならばと考えたが、男にはそれも無関係だとばかりに襲い掛かる。

そこへアスナはハマノツルギをしっかり握り、反撃の姿勢を見せた。

 

 

「ぐうお!? 脱がし術中にカウンター仕掛けてくるとは、マジにクソつえぇなこいつ……」

 

「うう……っ」

 

「まぁ、脱がすのは完璧だがな!」

 

 

 筋肉質の男の行った通り、衣装の違いに差がなかった。

またしてもあっけなく服をはぎ取られ、制服を脱がされてしまったアスナは、情けなさから小さく唸る。

 

 されど、やられっぱなしではなく、脱がされる直前に反撃をしっかり行っており、男へとダメージを与えることには成功していたのだ。

 

 

「っ!! 去れ(アベアット)! 来れ(アデアット)!」

 

「何度やっても無駄なんだよぉ!!」

 

 

 うまく反撃が決まったのを見たアスナは、もう一度衣装チェンジで服を着替える。

まほら武道会で着ていたメイド服だ。

 

 男はアスナが何度も着替えていることに、諦めが悪いと叫びながらまたしても脱がしに出た。

 

 

「チィィ!? 確実にカウンター決めてきやがる……」

 

「うっ……」

 

 

 当然アスナはまたまた服を脱がされ、恥ずかしそうな声を出す。

とは言え、再び反撃を行い、確実に男へダメージを与えていた。男もそこだけは脅威だと考え、どするかと頭をひねり始める。

 

 

「しっかしまぁ、ひん剥かれた姿は最高だなぁ!」

 

「こ……、このヘンタイ……!」

 

「おーおー! まだやる気かぁ?」

 

 

 筋肉質の男はアスナが戦いにくくなるよう、じろじろとその肢体を眺め始める。

さらに恥ずかしがらせて、動きをどんどん悪くさせようと言う魂胆だ。

 

 ただ、アスナはむしろ怒りの方が上昇したようで、ハマノツルギを握りしめて男へと肉薄し、そのまま横に振り払う。

それを後ろへ下がって回避した筋肉質の男は、そんな恥ずかしい格好でさえ戦うのかと、何度も煽り続けるのだ。

 

 

「やっ野郎ッ!! ドラァッ!!!」

 

「だから闇雲に攻撃したって意味ねぇんだよ!!」

 

「ガアッ!?」

 

 

 一方状助はと言うと、未だに目を瞑ったまま戦っており、まったく攻撃を当てれずにただの的化していた。

杖の男も半分呆れながらも、よく動く的だとほくそ笑みながら魔法弾をぶつけまくる。

 

 

「状助! もういいから!」

 

「それでいいのかよ!?」

 

「い……いいから……!」

 

 

 もはやアスナも状助の状況に目も当てられず、目を開けてと大声を出す。

が、状助はやはりためらいが抜けず、それを聞き返せば、アスナはさっきより声を小さくしてどもってしまったのだ。

 

 

「声が小さくなっちまってるぜぇ? 本当にいいのかぁ?」

 

「うっ……うぅぅ~~~~……」

 

「ほらほらっ! ほらほらっ! ちゃんと戦わねぇと俺たちを倒せないぜぇ?」

 

「ぅぅぅぅ~~…………」

 

 

 それを聞いていた筋肉質の男は、その部分を煽りまくる。

アスナは状助には見られたくないと言う羞恥心から、やはり踏ん切りがつかないでいる様子で、小さくかわいく唸って悔しそうにしていた。

 

 男は追撃として今度は戦闘面の方向でも煽り散らかす。

先ほどから動きが鈍くなっているアスナへと、もっとしっかり戦えと笑っていた。

もはやアスナは煽られたせいで、不甲斐なさを感じて俯いてしまった。

 

 

「隙だらけだぜぇ? ほらっ!」

 

「やっ、やめてっ!?」

 

「いでぇっ!?」

 

 

 その隙をついて筋肉質の男はアスナへと接近し、腕を伸ばす。

男の行動に邪な気配を感じたアスナは、咄嗟に後ろに下がってハマノツルギで男をぶん殴れば、男の腕にぶつかり男は痛がった。

 

 

「くーっ……! 去れ(アベアット)……(アデア)ッ……」

 

「隙ありぃ!」

 

「あっ!? いやっ!!?」

 

 

 そして、もう一度アスナは衣装変更しようとハマノツルギを仮契約カードに戻した瞬間、筋肉質の男が襲い掛かってきたのだ。

男も何度も何度も衣装変更しては脱がしを繰り返していることに、飽き飽きしていた。

それに脱がすたびにカウンターで反撃され続けると、こっちも危険だと判断したのである。

 

 しかし、男の攻撃はパンチではなく、体に触ろうとするセクハラタッチ攻撃だった。

アスナはこんな奴なんかに指一本触られたくないので、悲鳴を上げながら後ろに下がって必死に回避した。

 

 

「ほれほれっ! 自分から武器をなくすなんてアホだなぁ!」

 

「うぅぅ……! この……!」

 

「素手でやんのか? だけどなぁ! ほらよ!」

 

「っ!? きゃあっ!? やだっ!!」

 

 

 筋肉質の男は自ら武器を手放したアスナをさらに煽る。

されどハマノツルギなどなくとも、アスナは素手で男へと挑む。

咸卦法で強化された肉体は、それだけで超絶的な力を発揮するからだ。

 

 が、筋肉質の男は通常の打撃攻撃をやめ、セクハラ攻撃へと転じ、隙があればアスナの体を触ろうと手を伸ばす。

そっちの方が精神的に追い詰められると思ったからだが、本音はスケベなことがしたいだけだ。

 

 それを察知したアスナは、体をよじって男の腕を回避する。

正直手つきが滅茶苦茶キモくて、見ただけで嫌悪しか感じなかった。本当に最低な野朗である。

 

 

「アスナ!? グッウグッ!?」

 

「他人気にしてる余裕あんのか?」

 

「クソッ!!」

 

 

 アスナが普段出さないようなかわいらしい悲鳴を聞いた状助は、無事を確かめるかのように名前を呼ぶ。

そこへ魔法弾が飛んできて、状助をさらに追い詰めていく。

 

 杖の男は打たれるだけに立っている悲しきサンドバッグが、未だそんな余裕があるのかと考え、攻撃をどんどん加速させていく。

この状況を打破する手立てがない状助は、ただただ魔法弾のダメージを耐えるのみだ。

 

 

「こ……この……っ!」

 

「へへっ、全部見えちまってるぜぇ?」

 

「~~~~~~っ!!」

 

「ひゃははっ! 平気じゃなかったのかよぉ? ひゃははっ!」

 

 

 セクハラみたいなムーブをしてきた筋肉質の男へと、アスナは怒りで睨みつけながら拳を振るう。

されど、そのせいで大事なところが隠せてないことを男が指摘すれば、アスナはハッとしてしゃがみこんで体を丸め、顔から湯気が出るんじゃないかってぐらい真っ赤にした。

 

 そんなアスナを大爆笑して見下げる男。

いやはや、先ほどまでの元気はどこへやら、これじゃただの裸のJCでしかないなと。

 

 

「アスナ! ちっ、チクショウ! どうすりゃいいんだ!? ぐあッ!?」

 

「状助……!!」

 

 

 その横で状助は何とかこの状況を打破しようと考えるも、その間に魔法弾をぶち込まれて苦痛に声を上げる。

ズタボロになっていく状助をアスナは見て、今の自分に強烈な情けなさを感じ始めていた。

 

 

「どうしたどうしたぁ? さっきの威勢はどこいっちゃったぁ? もう何もできねぇのかぁ?」

 

 

 しゃがんで丸くなったままになったアスナへと、筋肉質の男は容赦なく煽りまくる。

 

 

「このままじゃ……状助が……みんなが…………。でも……、一体どうすればいいのよ…………」

 

 

 もはやアスナは怒り、恥ずかしさ、悔しさ、情けなさなどの色んな感情がぐちゃぐちゃに混ざり、何がどうすればいいのかさえ分からなくなってきてしまい、小さく震えていた。

 

 

 ────この敵二人が状助もここへ閉じ込めたのは、実は彼らも想定外だった。

結界を張る直前に状助とアスナが手をつないだことで、一緒に引き込んでしまった。これはミスだった。

 

 ただ、逆にそれでよかったと敵二人は思った。

おかげでアスナが超絶的に弱体化し、動けなくなってくれたからだ。

 

 

 しかし、状助を飛行船から引き剥がしたのは、彼らの策略の一つだった。

 

 何せアスナは姿を消して移動していた。当然彼らはアスナが見つけられず、困り果てたことだろう。

ならば、誘き寄せればよいと考え、大祭壇付近の空を飛行している、仲間がいるらしき飛行船のバランスを崩すことにした。

当然飛行船の前に巨大な岩が飛んできたのは、偶然ではなく彼らが意図的にやったことだ。

 

 そして、気流の乱れで船体が揺れたかのように魔法で衝撃を与えて、一番落ちそうな状助を叩き落とし、見事にアスナが釣れたと言う訳だ。

 

 それに飛行船を爆破しなかったのは、アスナだけを誘き寄せたかったからだ。

派手にやりすぎると、他の仲間もついてくる可能性があると、考えての行動だった。

 

 そんでもって、こんな博打みたいな策略が成功したのだから、連中はわりと運が良かったと言える。

 

 

 しかし────。

 

 

「────あ」

 

 

 アスナはしゃがみこみ、もう頭の中がぐちゃぐちゃで、みっともなくて、情けなくて泣き出しそうな気持だった。

だが、そんな時にふと顔を上げて見れば、そこにはメトゥーナトから預かった剣が鞘に収まって落ちていた。

筋肉質の男に最初脱がされた時に服と共に奪われ、そこに投げ捨てられたものだ。

 

 

 そこでアスナはメトゥーナトのことを、さらにはメトゥーナトが剣の稽古の際に言っていた言葉を思い出した。

 

 ────”危機の時こそ冷静であれ”

 

 それを思い出したアスナは、今の混乱した状態じゃマズイと考え、冷静になる方法を取らなければと、パンパンと顔を二度ほど叩き、気合を入れなおす。

 

 

「……スゥ──、フゥ…………」

 

 

 さらにアスナは自分の感情をリセットすべく、深呼吸を行った。

ここで混乱しちゃだめだ。メトゥーナト(パパ)の教えの通り、今、冷静でなければさらに危機的状況に陥ってしまう。

 

 それに外で戦っているはずの仲間たちのためにも、早くここを脱出しなきゃいけないのだから。

そう思い、敵の術中にはまりそうになった自分を奮い立たせ、冷静さを取り戻そうと行動したのだ。

 

 すると、少し思考が戻ってきた。

なんでこんなに苦戦しているのかも、ここまで恥ずかしい理由も、大体わかってきた。

 

 

 何故こんなに苦戦するのかは敵が脱がしてくるせいで、それで状助が横にいるから、いつも以上に恥ずかしく感じてしまっている。

でも、考えてみれば、状助は律義にずっと目を瞑ってくれている。開けてと言ってもまだ閉じたままだ。

 

 なら、ここまで恥ずかしがる必要はないはず。

でも、このままでは状助が危ない。どうすればいいかを、アスナは次に考え始める。

 

 

「スゥ──、フゥ……」

 

 

 そして、アスナはゆっくりと立ち上がって、もう一度深呼吸をする。

するとだんだんと冷静に物事を見れるようになってきた。

 

 状助を助けるためには、まず自分が脱がされないのが前提条件だ。

じゃないと目を開けてくれないし、自分だって見られるのはいやだ。

じゃあ、目の前のこいつをすぐに倒せる? それはちょっと難しそう。

 

 それに状助が相手をしている敵は、魔法主体だ。

それなら、やりようはなくはない。だったら、自分がすべきことは────。

 

 

「おいおい! 隠さなくてもいいのかぁ? 丸見えだぜぇ?」

 

「………………」

 

 

 筋肉質の男は立ち上がり静かになったアスナへと、ジロジロ見ながらさらに挑発する。

されど、今度は先ほどのような反応が返ってくることはなく、むしろ嵐の前の静けさのように無言だった。

 

 

「…………」

 

「まだやんのか? 何度やっても同じだって!!」

 

 

 すると、アスナは仮契約カードを右の手のひらに添えて前に突き出す。

筋肉質の男は繰り返し脱がすだけだと、余裕の表情で笑う。

 

 

「……来れ(アデアット)

 

「だから無駄だってんだよ!」

 

 

 アスナはそこで再びハマノツルギを呼び出し黒いドレス姿へなるが、当然筋肉質の男はそれを脱がしに、超スピードで襲いかかってきた。

 

 

「…………!」

 

「なにっ!? 同じ速度で後ろに!?」

 

 

 しかし、何度も同じことを繰り返してきたのは、男だけではない。

アスナは脱がされないために、敵が肉薄する速度でバックステップをして後方へと逃げたのだ。

 

 

「────状助!」

 

 

 さらにアスナは、後方に下がりながら状助の名を叫び、状助が反応して目を開いてこっちを見たのを確認すると、そのままハマノツルギを状助へと投げ渡す。

 

 

「……こいつは! ドラァ!!」

 

「なにぃ!?」

 

 

 状助も先ほどのアーティファクト召喚の呪文を聞いていたので、今はアスナが脱がされていないのを察知しており、呼ばれた時に目を見開いた。

なので、そのまま投げ渡されたハマノツルギを、クレイジー・ダイヤモンドの腕でキャッチ。

 

 それを見ていた杖の男は焦った。

何故なら魔法が効く相手に、魔法が無効化される武器が手渡ってしまったからだ。

さらに、状助がハマノツルギを振り回して、自分の魔法を全て消してしまったからだ。

 

 

「ドラァッ!!!」

 

「ぐげっ!?」

 

 

 さらに、アスナの意図を理解した状助は、そのまま筋肉質の男が伸ばした腕へと、クレイジー・ダイヤモンドの拳を上から叩き込んで地面にめり込ませた。

 

 なんという超絶的なスピードだろうか。

状助は覇王から気の使い方を学んだ。スタンドは波紋を流すことが可能であり、その要領で気を流してパワーを上げてぶん殴ったのだ。

 

 

「いってぇ! だが、気の防御がありゃダメージなんて…………、ってなんだこりゃぁ!?」

 

「どうした!?」

 

 

 ただ、筋肉質の男は気で防御しており、大したダメージにはなってないと腕を見ると、そこには驚愕の光景が映ったのである。

杖の男も筋肉質の男の驚く声に、何かあったのかと顔を向けた。

 

 

「腕が!? やべぇ腕がっ!? 地面と融合してッ!?」

 

「テメェよぉ……、随分とやりたい放題してくれたじゃあねぇかよなぁ……?」

 

 

 その恐るべき光景とは、なんと腕と地面が融合し、完全に固まってしまっていたのだ。

クレイジー・ダイヤモンドのなおす能力の応用で、他者と物質を混ぜ合わせる能力だ。

 

 状助は普段温厚かつビビりであり、クレイジー・ダイヤモンドの能力も何かをなおすか戻すぐらいにしか使わない。

 

 だが、それは普段の状助だ。

アスナをだいぶ酷い目に遭わせた、このクソ野朗に手加減など不要。

こう言う風にキレた状助は、そんなことなど関係なくえげつない能力の使い方をする、怒らせてはいけない奴筆頭だったのだ。

 

 

「絶対に許さない……!」

 

「ひぎゃっ!? うげっ!? があぁっ!?」

 

 

 そこへアスナが最初に脱がされた時に奪われた、預かりし剣を握りしめて筋肉質の男の前に立てば、鞘に収まった状況で男へと何度も振り下ろす。

 

 また、アスナとしては状助がハマノツルギで魔法を防御しつつ、筋肉質の男を殴って隙を作ってくれるだけでよかったのだが、なんかわからないが男の腕が地面と混ざって身動きが取れなくなったのを見て、まあいいか、と思っていたりする。

腕が融合してるとか全く気にしてないのは、脱がされた恨みと怒りがあるからだ。

 

 

「ドララララララララララララララッ!! ドラァッ!!!」

 

「あああがあがああがあぁ!?」

 

 

 そこに状助も加わり、二人で筋肉質の男をリンチ。

もはや腕がいくつあるのかわからない程の、超高速のラッシュをと、アスナの打撲攻撃の連打で、男は悲鳴をあげて苦しみまくり、痛みで気を失い動かなくなった。

 

 

「あひぃーッ!?」

 

 

 そして、二人は残った杖の男の方を向いて睨めば、男は恐怖の声を出してガタガタと震え出した。

仲間が袋叩きにされると言う恐ろしすぎる光景と、二人の射殺すような視線に、焦燥と絶望が男を襲ったのだ。

 

 

「あっ!? やっ、やべっ!? 俺一人!?」

 

「ぶっ飛ばしてやるからよぉ!!」

 

「くっ!? ”ディバインバスター”!!」

 

 

 また杖の男は、もはや自分一人しか残っていないのを理解し、自分が最悪の窮地に立たされていることを悟ってさらに絶望。

さっきまで全然楽勝ムードで有利だったと言うのに、気がつけば逆転されていたのだから仕方なし。

 

 杖の男は焦りながら、とりあえずなんか攻撃せねばと、砲撃魔法を状助へとぶっ放す。

 

 

「ドラァ!」

 

「う……うあぁ……」

 

 

 しかし、状助にはすでにハマノツルギを握っており、それで砲撃魔法を防げば、魔法無効化で消失したのである。

 

 それを見た杖の男はさらに絶望した。

あっ、これもう無理だと。地面で気絶してる筋肉質の男と、同じ末路を辿るのだと。

 

 

「……あんたも許さないから」

 

「ぐえっ!? シールドがっ!?」

 

 

 茫然自失している杖の男へと、アスナは鞘に収めたままの剣で思いっきりぶん殴る。

アスナも自分のせいでもあるが、状助を随分と痛めつけたことに対して、結構怒っているのだ。

当然アスナの魔法無効化能力によって障壁は瞬時に砕かれ、杖の男はそのまま剣で殴られて地面へと落下。

 

 

「ドラァッ!!」

 

「ぎゃあーっ!?」

 

 

 杖の男が落ちてきたところを、状助がすかさずクレイジー・ダイヤモンドでぶん殴る。

顔面にその拳を受けた杖の男は、悲鳴を上げて地面に叩きつけられて倒れこんだ。

 

 

「クソオォォォッ!!! バインドッ!!」

 

「!」

 

 

 このままではマズイと考えた杖の男は、咄嗟に状助を魔法で縛り上げる。

縄のような輪で両腕を体ごと拘束された状助は、驚いた様子を見せて立ち止まった。

 

 

「こっちを忘れないでほしいわね……!」

 

「グギャーッ!?」

 

 

 だが、そこへアスナが杖の男の隙をついて、剣の鞘で男の顔面を強打。

痛すぎて泣きそうな顔になった男は、再び横にぶっ飛ばされる。

 

 

「ドラララララララァァッ!! ドラァッ!!」

 

「いっ、いてぇー! いてぇよぉー! ゆっ、許してくれー!」

 

 

 さらにそこへ状助がハマノツルギでバインドをぶった切って、クレイジー・ダイヤモンドの無数の拳を杖の男にぶち込む。

 

 全身に大量の拳が突き刺さり、杖の男はもう痛すぎて助けを乞うようなことを言い始めた。

 

 

「許さないって言ったはずよ……!」

 

「許すわけねぇだろボケッ!!」

 

 

 だが、許される訳がない。

アスナはこいつらのせいで乙女としての尊厳を踏みにじられたことへの怒りがあり、状助はさっきまでボコボコにしてきた恨みがある。

許されるはずもない。

 

 

「ああ────ッ!?!?」

 

 

 そして、二人によって杖の男はボコボコにされまくり、ズタボロのボロ雑巾にされた後そこいらの地面に投げ捨てられて、ぴくりとも動かなくなったのだった。

 

 

「ふぅー、何とか倒せたぜぇ」

 

「結界をどうにかしないと……!」

 

 

 なんとか敵を一掃し、状助の怒りも随分と落ち着いた様子だ。

ただ、このままでは結界に取り残された状態なので、この結界をぶっ壊す必要があるとアスナは思った。

 

 

「こいつから杖奪っても使い方がわからねぇ……。どうすりゃいいんだ!?」

 

「結界も魔法なんでしょ? だったらこれを」

 

 

 状助は杖の男からデバイスを奪って何とかしようとしたが、使い方がわからず悩むばかりだ。

そこへアスナは状助からハマノツルギを返してもらうと、地面に突き立てて己の魔法無効化能力を全開にし始めた。

 

 

「────ハアァァーッ!!」

 

 

 するとハマノツルギとアスナから強烈な光が発生し、結界へとヒビを入れていく。

そして、最後のひと踏ん張りとアスナが叫べば、ガラスが砕け散るかのようにして結界が崩壊したのだ。

 

 

「なんつーすげぇパワーだ。結界を吹き飛ばしたってのかよ。グレート」

 

「ふぅ……。何とかなってよかった」

 

 

 状助はアスナの魔法無効化能力に、あらためて度肝を抜かれていた。

結界すらも破壊するその力に、圧倒され放題だった。

 

 結界を砕いたアスナも、周囲を見渡して結界が消えたのを確認すると、小さく息を吐いて安堵の様子を見せた。

 

 

「よっしゃ! んじゃみんなんところへ合流しようぜ!」

 

 

 ならばすぐにでも仲間のもとへと移動しようと、状助はあれほど痛めつけられたと言うのに、元気に声を出していた。

 

 

「……状助」

 

「ん? どうしたぁ?」

 

 

 だが、アスナはそこで顔を伏せたまま、少し小さな声で状助を呼んだ。

なんだか様子が変だと感じた状助は、アスナを心配して声をかける。

 

 

「ごめん……、あと、ありがと」

 

「えっ? いやぁ……、俺は別に…………」

 

 

 するとそこで、アスナは状助へと近づき、少し陰りがある表情で謝ったあと、晴れやかな笑顔となって礼を述べた。

 

 謝ったのは、テンパって見ないでと言ったせいで、敵の攻撃を受け続けることになったことに対してで、感謝の方は状助が脱がしてくる敵の動きを止めてくれたおかげで、こうやって倒せたと思ったからだ。

 

 あと、裸にされたのを見ないでくれたことも、ちょっとだけ含まれていた。

 

 とは言え、状助はむしろ足を引っ張ってただけだと思ったので、特に礼を言われる筋合いはないと思った。

でも、アスナの笑みを見て、それをあえて言わないで、照れを隠すように顔をそむけて頬をポリポリとかき、その感謝を受け取ったのだった。

 

 

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