怪物を倒し終わり、フェイトは心配していた栞の姉のところへと駆けつけた。
「大丈夫だったかい?」
「えっ、えぇ……」
「……? 何か?」
「えっ!? いえ!?」
フェイトは早速栞の姉へと声をかければ、栞の姉は何かぎこちない態度を見せるではないか。
その理由がわからないフェイトはそれを聞けば、栞の姉は言いづらそうに言葉を発した。
「さっき、フェイトさんを見かけたんですけど、その……、抱擁したら消えてしまって……」
「…………? さっき? 僕はギリギリまで別の場所で戦っていたけど……」
栞の姉がぎこちなかった理由が、さっき会った『フェイト』のせいだった。
抱き着いたら消えてしまったことが、未だによくわかっていないのだ。
そう言われたフェイトだが、その時はまだ竜の騎士と戦っていたので、それはありえないと話す。
「そうなんですか……? 不思議なことがあるものですね」
「ふむ……」
ありえないと聞いた栞の姉は、やはりよくわからない様子を見せる。
当然フェイトも、栞の姉がわからないことなどわかりようがないので、少し考えたがどの道それが何だったのか、わからなかった。
「でも、君に抱擁されたと言う、僕とやらが羨ましいね」
「えっ!?」
だが、一つだけフェイトが思ったことがある。
それは抱き着かれたと言うその自分が、許せないと言うことだ。妬ましいと感じた。
最近特にそういったことなんてご無沙汰だったフェイトにとって、そんな魅力的なことをされた自分とやらが、本気で羨ましかったのだ。
そんなフェイトの直球の言葉を聞いた栞の姉は、驚いて顔を赤く染めた。
「冗談だよ」
「ほっ、本当に冗談なんですか!?」
「半分ぐらいは、ね」
「半分!?」
ただ、直球すぎたと思ったフェイトは、表情を変えずに冗談だと言い始めた。
今の言葉が明らかに冗談に聞こえなかった栞の姉がそれを聞けば、今度は半分ぐらいと返ってきたではないか。
つまり、全部でなくとも半分は羨ましいと思われたわけで。
栞の姉はやはり顔を赤くして、戸惑う様子を見せるのだった。
…… …… ……
儀式を調整していた転生者らしき男も、すでに彼らにボコられており、気絶して倒れ伏せていた。
「ここは……?」
「上層大祭壇と呼ばれる場所、その最奥です」
「随分とまぁ、大層な場所じゃねぇか」
周囲は静寂そのものであり、先ほど近くで激しい戦いがあったとは思えないほどだった。
ロビンがこの場所の詳細を聞けば、ナビスは”原作知識”を思い出して、その名を述べた。
バーサーカーも周囲を見渡し、思った感想を口に出す。
流石はラストダンジョンの最後の部屋。凝った作りをしているな、と。
「あの祭壇の中心にいるのが……、オレのマスターだ」
「なっ!?」
「まさか!?」
中央を走る長い橋の先に何重にも重なった輪があり、これこそが儀式を執り行うために生贄を安置する祭壇。
その真ん中に浮いている赤茶の長髪の少女の姿があった。
彼女こそが黄昏の姫御子、アスナの身代わりの存在。
────そして、ランサーのマスター。
その事実を知ったロビンもナビスも、驚きの声を出した。
まさか人質にされているはずのランサーのマスターが、完全魔法無効化能力者だったのだから。
ただ、バーサーカーはそんなことなど気にせず、渋い顔をしながら意識のない少女をじっと眺めていた。
「うおっ、なんつーすげぇ英霊祭りだよ……」
「おっ? 状助と大将のダチにプロフェッサーゴールデンじゃんかよ? 何かあったのか?」
「私の代わりにされた子を助けに来たのよ」
「そのプロフェッサーゴールデンとやらはやめろ」
そこへ状助とアスナとエヴァンジェリンが現れると、バーサーカーはそれに気が付き話しかけた。
ネギたちも少し近くに来ており、遠目から小さく姿が見える位置にまでやってきていた。
サーヴァントが三騎も揃ったところを見た状助は、驚きの顔を見せる。
バーサーカーとロビンは確かにいたが、知らぬ間にランサーらしきサーヴァントが追加されていたからだ。
流石に三騎も揃うと、壮大なものに映ったのである。
アスナはバーサーカーから聞かれたことを素直に答え、エヴァンジェリンはバーサーカーから言われた変なあだ名にイラっと来て、二度と使うなと釘を刺す。
「つまり、お前たちもオレのマスターを救出しに来たという訳か」
「へ? マスター?」
「なるほど、この男のマスターが、アスナの身代わりとなった存在、ということだな?」
「そうなるようだ」
そのアスナの答えに反応したのはランサーだ。
アスナが自分の身代わり、魔法無効化能力者を助けに来たということは、つまり、あの中央で生贄になっているランサーのマスターを助けに来たということだからだ。
ランサーの言葉に一瞬何のことかわからなかったアスナの横で、エヴァンジェリンが説明をすると、ランサーはそれを肯定。
「しっかし、アーチャーとか言う野郎が言うには、人質にしたかっただけだったはずだが?」
「あの男の意見はそうだった。だが、組織と言うものは複数の意思が混合して構成された集合体だ。別の誰かが利用することを選んだのだろう」
「まっ、今すぐ助けに行く訳だしよ。早い所やっちまおうぜ!」
ただ、ロビンはアーチャーが人質として扱っているはずだと思い、それを口に出せば、ランサーは別にアーチャーがやった訳ではないと言葉にする。
ランサーは他者の嘘を見抜くスキルがあり、アーチャーはあの時嘘を言っていなかったのを知っている。
と言うことは、完全なる世界の別の誰かが、自分のマスターを目の前の赤オレンジ髪のツインテールの少女の代わりに使ったのだと判断したのだ。
まあ、そんなことはもうどうでもいいじゃねえか、とバーサーカーが話し出した。
どうせ今からすぐに助け出す訳だし、過去のことなんて気にする必要はなくなると。
「…………いや、どうやらそう易々とは行かないようだ」
「────っ!? これって!?」
「まさか……?」
「マジかよ……グレート……」
しかし、ランサーはふとマスターの方に、新たな気配を感じてそれを見れば、何やら人影が現れたではないか。
すると、少し離れた場所ですでに強い光が地面から発されており、何かが起こっていることが嫌でも分かった。
アスナは一体どうしたのかとそっちを見れば、ナビスと状助は”原作知識”を当てはめて、最後の戦いが始まったのだと察したのであった。
…… …… ……
ほんの少しだけ前の時間。
ネギたちが大祭壇へと足を踏み入れた直後のこと。
アスナたちは先に端の方へと移動していたが、ネギたちはまだ入ってきたばかりだった。
また、離れ離れになると危険だと考え、一応全員がここへとやってきており、無論ハルナと飛行船も近くの空を飛行していた。
「あの……」
「おや? どうしたんだい?」
「いえ、先ほどは援護をありがとうございました」
「別に、気にする必要はない。必要だからやっただけだ」
ネギがおもむろにフェイトへと声をかけると、怪物退治の時に手伝ってくれたことへの感謝を伝えた。
あの時の援護があったからこそ、何とかなったと思ったからだ。
ただ、フェイトは脅威を取り除いたに過ぎないので、特に気にする必要はないと話す。
「ですが、こちらは助かりました」
「……そういうのであれば、受け取っておこう」
そうは言うけど、助かったのは事実。
なのでこの礼を受け取ってほしいとネギが言うと、そういうのならとフェイトも素直に従った。
「……その手は?」
「握手です。感謝の気持ちとしての」
「…………そうかい? まあ、それなら……」
すると、ネギはそっと右手を出せば、その手の意味がわからなかったフェイトが問う。
ネギは、この手は感謝のしるしと語り握手を求めれば、フェイトもそのぐらいならば、と右手を出してその手を取った。
が、その時──────。
「────ッ!?」
────突如として、魔力の閃光が襲い掛かり、二人の体を貫いた。
「なっ!?」
「えっ!?」
誰もがその光景を見て、驚愕の表情をしながら困惑の声を漏らす。
「ネギ先生っ!!」
「フェイトさんっ!?」
飛行船の上で、のどかもそれを見ておりたまらずネギを呼び、同じく少し離れた場所にいた栞の姉も、フェイトを呼び叫ぶ。
当然ここにいる人たちはその凄惨な光景を見ており、誰もが驚き戸惑った。
無論ネギが大好きなあやかも、当然悲鳴を上げてぶっ倒れそうになっていたりもする。
「こっ……これはまさか……っ!?」
「そん……な……」
ネギとフェイトはそのまま前のめりに倒れこみ、動けなくなってしまった。
そこで見たのは、大祭壇中央の地面に溢れんばかりに充満する魔力と────。
「
黒いフードとマントを纏った、一人の人物。
それこそがこの世界を生み出したとされ、始まりの魔法使いと称された存在。
────
「何とか間に合ったようだな」
そして、白く輝く魔力溢れる床から、ぬるっと生えてくるように登場したのが、造物主の使徒の一人であり大幹部、デュナミス。
「麻帆良学園中枢への直接経路の確保。器の肉親の血肉を得ることは叶わなかったが……、器の肉親の魂が祭壇上に
デュナミスは麻帆良の奥深くに封じられた
それが今成就され、
また、経路の確保と器の肉親の魂以外にも、肉親の血肉が必要だったのだが、ここにはネギだけではなくカギがいる。
カギの魂もまた
「私の敗北は、何とかつながったと言う訳だな。嬉しいことだ」
「貴様はッ!」
そして、復活したのはデュナミスだけではない。
転生者でありアーウェルンクスシリーズの七番目を得た、セプテムムも当然ここへ現れる。
セプテムムは集団リンチされまくったが、その甲斐があったとほくそ笑む。
その姿を見たディオが、大きく反応を見せていた。
しかし、それだけではない。
過去の造物主の使徒らも、フェイト以外の破壊された全てのアーウェルンクスシリーズも、この場に出現したのである。
「うおーいッ!? マジかよ! こうなっちゃうのかよっ!? 冗談だろぉ!?」
「あっ、兄貴!?」
「そう簡単にはいかねぇってことだな。世の中ってのはよ」
カギはこの地獄めいた光景を見て、飛び上がって焦りまくった。
だいぶ上手く行ってたのに、なんか急に復活!
そんな驚きまくって挙動不審な動きをするカギに、カモミールも驚く。
また、横にいたアルスも、上手く行きすぎてたしこうなるんじゃないかと思ったと、冷や汗を流しながら言い出した。
「オイオイ、懐かしのシリーズがズラりと並んでんじゃねーかよ」
ラカンもまた、その光景を見てちょっと驚いた。
なんか昔ぶん殴った連中まで湧いてきたからだ。なんでこんな再生怪人やってんだこいつら。
「どうするよマスター?」
「他にも敵が潜んでる可能性がある。後ろの子たちを守護らないとマズイ」
「確かに、その方がよさそうな雰囲気だ」
その少し離れた場所で、戦闘能力がない子たちの前へと出て、槍を構える
はっきり言ってライダーの速度であれば、連中をフルボッコするぐらいできそうだと考えられる。
が、予測不可能な事態を考慮して、隣で同じく拳を構えたマスターである転生者のササジマは、あえて彼女たちを守護することを選んだ。
何せ彼女たちの計画に乗ったら怪物とバトる羽目になって、彼女たちを危険な目に遭わせてしまったからだ。
ライダーもマスターであるササジマの意見に同意する。
敵があれだけならば問題ないが、他に”転生者”がいる可能性も考慮しなければならないからだ。
空から見ていただけでも、敵は未だに結構な数が残っている様子だった。
その連中がこっちへなだれこんでくることも考え、ライダーはあえて守護に徹する。
彼らの後ろですでに固まり、何がどうなっているのかと驚く待機組の子たちと、飛行船乗りのジョニー。
そこには古菲と楓やアーニャ、高音とその従者の愛衣もおり、すでに防御を固めた姿勢を見せる中、美空だけは頭を抱えて焦っていた。
そこにはフェイトの従者三人もおり、フェイトの安否を気にしながらも、守りの態勢に入っていた。
ただ、特に栞は姉もフェイトの近くにいたので、そっちも心配で気が気ではない様子だ。
「出来損ないは治らないまま、ずっと出来損ないだった訳だな。テルティウム」
「
「魔法世界全土の魔力が、この祭壇上に充満する今、
そんな時、復活を果たしたセクンドゥムが倒れ伏せるフェイトへと馬鹿にしたように話しかける。
フェイトは12年前消滅させたセクンドゥムが、この場に現れたのを見て疑問を抱くが、その疑問にセクンドゥムが答えてくれた。
今、この場所は魔法世界のすべての魔力が集結している。
そこへさらに
「おいネギ! 大丈夫かよ!? いや大丈夫じゃねぇよな!? お兄ちゃんに任せとけ!」
「にっ、兄さん……」
「なんだ? あのガキは?」
そこへフェイトの隣で倒れているネギのもとへ、カギが心配して飛んできた。
元々踏み台めいた転生者のカギだったが、今は一応ネギを弟として見ており、めっちゃ心配になったのだ。
んで、普段から弟に迷惑ばかりかけているのに、何故かここで急に兄貴面しだすカギ。
それでもカギが兄貴面して心配してくれていることに、ネギは地味に嬉しかったりするのだった。
突然飛んできたネギに似たカギを見た造物主の使徒の一人は、変な奴がやってきたと思った。
「俺こそが
そんな風に言われたカギは、親指を自分へと向けて高らかに宣言し、親指を真下に向けて挑発する。
自分こそがナギの遺志を継ぐものだ。お前らをぶっ潰す存在だと。
「ってグエーッ!?」
「ちょっ!? 兄さん!?」
が、敵はそんなの見てるほど暇してくれてはおらず、雷系の魔法でぶっ飛ばされるカギ。
気の抜けた悲鳴を上げてぶっ飛ばされたカギに、今少し見直して株が上がったのに、その株が下落して呆れてしまった。
まあ、それよりも大魔法直撃して吹っ飛ばされカギのことを、大丈夫かとは心配してもいるが。
「無駄に威勢がいいマヌケ面で思い出したが、なるほど奴の息子だったか。多少元気なようだが、この戦力差、この状況でよく吠える」
雷系魔法を放ったのはセクンドゥム。
今のカギの態度で、あのアホ面で威勢がバカみたいによかったナギを思い出した。
実際はナギに楽々ボコボコにされているので、半分恨みがましく下に見ているのだが。
「ギャーッ! ウギャーッ!」
さらに他の造物主の使徒からも魔法を放たれ、魔力の使いすぎで防御もできずにボカスカそれを受けるカギ。
とは言え、なんかバカみたいな悲鳴ばかり上げて吹っ飛ばされており、かなり元気に見えると言う謎の現象が発生していた。
「カギ先生!?」
ただ、大魔法を直撃しまくってるカギの姿は、結構痛々しいものがある。
仲間たちも当然その光景に驚き戸惑い叫び、飛行船の上でそれを見ていた夕映もたまらず声を張り上げた。
「フハハハッ! 何が『正当後継者』だ! 英雄の息子とはいえ、たかが子供! 所詮はその程度と言うものだ!」
造物主の使徒どもの魔法に大苦戦しているカギを見て、セクンドゥムは見下して嘲笑う。
「超いてぇ! このファッキンヤローどもがよー! よくもやりやがったな!」
「なっ、なんだこの変なガキは!? 気持ちが悪いな!?」
が、結構見た目ボロボロになっているのに、まだまだ元気な様子を見せるカギは、頭に来たと言う様子で
心が強ぇ兄なのか。
見た目はボロボロなのに元気に煽り返してくるカギに、造物主の使徒もちょっと引き気味だ。
「っておい!? 袋叩きかよ俺一人相手に!?」
「当たり前だろう? 頭が悪いのか?」
「ざけんなコッラーッ!! スぞコッラァッ!!」
「威勢だけは本当にいいガキだな。だが、くたばりな!」
「グエーッ!?」
まあ、そんなことはどうでもよいと、造物主の使徒どもは数人でカギを囲って魔法を連発してきやがった。
カギは
リンチしてきた造物主の使徒にカギはマジふざけんなよ……と言えば、造物主の使徒も敵なんだからするだろ、と言うではないか。
クソみたいな煽りに対して当然カギはブチキレ。が、流石に造物主の使徒複数相手はカギにも荷が重く、さらにボコボコにされていく。
「待てッ!
「だったら仲良くオダブツになっちまいな!」
「おいネギ! 馬鹿無理すんな!? ギョエーッ!?」
「グウァァァッ!?」
そこへ集団リンチ中失礼だがこっちにもいるぞ、と軽い治癒魔法でなんとか動けるようになったネギが叫ぶと、カギがそっちに吹っ飛んできて転がり、そこへ複数の大魔法が飛んできた。
さっきのダメージがまだ完全に抜けないネギに、動くなとカギが言った瞬間に、大魔法を受けてしまい、ネギも防御が遅れて直撃。
二人とも吹っ飛んで地面に転がされてしまったのだった。
「カギ先生!!?」
「ねっ、ネギ先生!?」
カギもネギも造物主の使徒どもの魔法でぶっ飛んだのを見ていた夕映とのどかは、もはや見ていられないと言う様子で声を張り上げる。
「クソ! 魔力さえもうちょい残ってりゃ、援護するんだが……!」
「私だって、もうスッカラカンで動くのがやっとよ!?」
「私は行きます。フェイト殿をお救いせねばッ!」
「あっ!? ちょっとあなた!?」
アルスもこの状況をどうにかしたいと思ったが、魔力がもう残ってなくて何もできなかった。
魔力がないのに戦いに行っても、肉壁にしかならないし、それじゃたあの足手まといだ。
その隣でへばっているトリスも、竜の騎士と巨大怪物との戦闘で魔力を使い果たし、ほとんど動けない様子だった。
しかし、同じぐらい疲弊しているはずのランスローは、フェイトを助けんと走り出す。
そんな無謀な行為をトリスは止めようとしたが、すでに走り去った後であった。
「ハァ……ゼェ……、まだ戦う力は残ってんのか……?」
「流石に力を使いすぎた……。これ以上は厳しいだろう……。だが、やると言うなら付き合うぞ」
「言うねぇ……!」
「お前らもういい! 無理すんな!!」
「そうだ! これ以上は無理をするな!」
カズヤもあの怪物で力を使い果たし、アルターを解除して座り込み、右腕を抑えて苦しそうにしていた。
隣で法も力尽きたかのように座っており、両者とも完全に能力を使い切ってしまった様子だった。
されど、カズヤは法にまだやれるかと聞けば、法はカズヤがやるならやると言い始めた。
それを聞いた千雨は当然止めに入り、未だアルターが解除されていない直一も、同じくやめるように言い放つ。
また、この状況で最も危ない場所、それは飛行船だ。
未だにアーチャーは戻らず、防衛が手薄だからだ。
「っ! 兄さん!?」
「なんかヤベーことになってきてんな」
「焔のお兄さん!」
「こっちの守備が手薄に見えたからな。こっちを守ることにしたぜ」
そこへ数多が現れ、下の状況のことを話せば、突然乗り込んできた義兄の姿に焔は驚いた。
また、数多は下のような防御がないのを飛行船の甲板を見て察し、ここを守護すると宣言した。
「それよりもネギ先生たちが!」
「わかってる。だけどこっちもだいぶアブネーだろ? 下はまだ人がいるが、こっちにゃあんまりいねぇしよ」
「……そうですね。下は別の人に任せましょう」
しかし、今は自分たちよりもネギたちの方が危険だと、のどかは声を上げる。
当然数多はそれを理解しているが、下にはまだ仲間がいるので、まずはこの場所を守護する必要があると力説。
夕映もカギのことが気がかりだが、ここを吹き飛ばされる訳にもいかないのもわかっているので、数多の言葉に甘えることにしたのだった。
「吸血鬼のスタンド使い、お前だけは私が消す」
「よかろう、やってみろ。もう一度できるものならなッ!!」
他にも倒された後にすぐ復活したセプテムムが、ディオへと粘着を始める。
セプテムムは自由意志が砕かれない特典を持ち、
なので恨みだけでディオへと戦いへ挑み、ディオもならばもう一度潰すと能力と魔法を駆使し始める。
「はお!」
「わかってるさ」
そして、当然ここには覇王もおり、この状況をどうするべきかと考えていた。
木乃香がそんな覇王へと声をかければ、覇王もネギとカギを助けたいと言うのを察し、そうしようかと動こうとしたが。
「…………いや、敵はあそこにいる連中だけじゃないようだ」
「っ!?」
「ふぅん。完全なる世界の
ちらりと覇王が来た道の方を見れば、複数の人の影がこちらに集まってきているのが見えた。
その覇王の言葉に木乃香も反応してそちらを見れば、新たな敵のような連中がこの場に歩いてきていたのだ。
覇王はそいつらがまだ隠れていた転生者だと、一瞬で理解した。
何せ覇王は一目見ただけで”相手が転生者かどうか”と”転生者の特典”を見る特典を、この世界の転生神から与えられているからだ。
「この瞬間が最も最も最も最も最も最も最もッ! 最も危機的状況になるからなぁ!」
「今この時まで待っていた連中もいるってことだ!」
「面倒な……」
さらに、他の場所からも転生者がやっていて、この瞬間を待っていたと笑い出した。
何故なら、
しかも、隠れて残っていた転生者は、強力な特典を持つ者ばかり。
覇王はそれを見て渋い顔を見せる。
とは言え、相手が強いとかではない。
覇王なら余裕で勝てる程度の連中だ。
ただ、数が結構多かったのだ。
「はお! ウチも一緒にやる!」
「彼らのことはいいのかい?」
「ラカンはんが向かってった! だからあっちはきっと大丈夫や!」
「そうかい。ありがとう。じゃあ、やろうか!」
「はいな!」
そんな時、横の木乃香が自分も戦うと宣言したのだ。
先ほどはネギとカギを心配していたのに、そっちへ向かわなくてもいいのかと覇王が聞くと、木乃香はラカンが動いてそっちに向かったのが見えたから、ネギたちは助かると話した。
それに木乃香は、これなら敵がなだれ込んでくるのを阻止した方がいいと判断して、覇王と共に戦うことを選んだのだ。
木乃香の言葉を聞いた覇王は彼女の顔を見れば、決意溢れる表情をして笑っていた。
そんな彼女の表情に癒された覇王は、やる気を出させてくれた木乃香へと礼をし、ならば手加減せず全滅させる意気込みを見せる。
それに先に戦うと宣言した木乃香へと、一緒に戦おうと微笑んで言うと、木乃香もさらにやる気を出して強気の返事を返して微笑み返す。
そして、二人は襲いかかる完全なる世界の一員どもを、蹴散らしに出るのだった。
「ガキどもなんかをいじめて遊んでんなよ! 次はこの俺様が相手になるぜぇ! 悪の幹部ども!」
「ジャック・ラカン!」
「おっさん!」
「ラカンさん!」
ネギとカギをボコして調子こいてる造物主の使徒どもに、ラカンが挑発して戦いを仕掛ける。
造物主の使徒はラカンがバグみたいに強いのを知っているので、多少警戒しながらそちらへとターゲットを変えた。
カギもネギもラカンが助けに来たことに、ありがたく感じて名を叫ぶ。
「和美さんがた、小生の後ろへ」
「うん……」
「夏美姉ちゃん! 俺から離れんといて!」
「わっ、わかったよコタローくん!」
また、待機組の子たちはすでに一塊になっており、その手前でマタムネが鬼殺しを握りしめて構えていた。
同じように小太郎もこちらへやってきて、夏美へと注意しながら新たに増えた敵にも警戒。
古菲と楓もアーニャも、高音も愛衣も、さらには暦も環も栞もここにおり、美空すらもやけになって、すでに襲い掛かってきた転生者と戦闘を繰り広げていた。
しかし、やはり栞は姉の方も気になるので、そちらをたまにチラ見していたりする。
「亜子さん、手を握ってほしい」
「えっ!? う、うん」
「……ありがとう」
戦闘能力を持たない転生者である三郎は、せめて彼女だけは自分の手で守りたいと、亜子に手を握ってくれるように話せば、亜子は驚きながらもそっと三郎の手を握る。
三郎は手を握ってくれたことに感謝し、何かあったらすぐに行動を起こせるよう、周囲を警戒するのだった。
「アスナさんたちは…………」
そして、その中にはあやかもおり、あやかはネギ以外にも、アスナと状助の安否を気遣っていた。
現状が非常に混乱した状況であり、先ほどもかなり滅茶苦茶な状況だったのを見ていたからだ。
「確かにいっぱいいたけどよ、まだこんなに残ってたのかよ」
「彼女たちの守護を選んで正解だったな」
「まあな。んで、ここからが正念場だぜ、ライダー」
「闘争とはそういうものだ」
また、ササジマも転生者どもがまだまだ湧いてくることに、半分呆れた様子を見せた。
こんだけ隠れているとか、なんとまあ予想通りすぎて、本当にどうしようもないな、と。
ライダーもこの新たな増援の数を見て、待機組の子たちの守護に回ってよかったと感じた。
思ったよりも敵の増援が多く、彼女たちの守護をしてなければ、どうなっていたかわからなかったからだ。
そして、ササジマはこのあたりからこそがクライマックスだと、ニヤリと笑ってライダーへと告げれば、ライダーもこれが戦いの決戦だと笑っていたのだ。
「さぁて、アンタらにも俺との縁が結ばれたって訳だ。なら、殴り合おうじゃないか? なぁ!」
で、あれば、ただただ全力で戦い、少女たちを守るのみ。
敵が迫りくるのであればお互い敵同士として、死力を尽くして戦うだけだ。
ライダーは気迫あふれる態度で敵へと叫べば、なんとその場から突如として姿を消したではないか。
「えっ!? あれってアキレ……」
「はあぁ────!? 冗談きつ……」
「えっ!? 嘘だ……」
「なっ、なにが起き……」
敵の転生者はライダーの姿を見て正体を理解すると、一瞬で戦意を喪失。
いや、喪失する前に、すでにライダーの餌食になっていた。
何せ人類最速と自称するほどの神速で動けるのがライダーだ。
その韋駄天は伊達ではない。特に何か工夫することなく、瞬間的に最大速度へと突入し、目に入った敵を全て蹴散らす。
もはやただの蹂躙だ。無理ゲー! 無理ゲーだね!
その場所とは離れたフェイトが倒れた場所へ場面を移すと、セクンドゥムが未だにフェイトを嘲笑いながらしゃべっていた。
「ジャック・ラカンが未だに消えていないのは想定外だが、まあいい。先に欠陥品の始末からしてしまおうか」
「グッ」
セクンドゥムも、まさか
フェイトは何とか必死に立ち上がるが、もはやそれ以上は動けないと言う様子だった。
それに今のフェイトには、大呪文を防ぐ障壁など張る魔力も残っていない。
何せ連戦続きであり、特に竜の騎士との戦いでの消耗が激しかったからだ。
その後怪物との戦闘でだいぶ無理をし、
もはや”完全なる世界”へと消えずに、この場に残っていることの方が、奇跡と言ってもよいほどの状態だった。
「ん?」
だが、そんなフェイトの前へと駆けつけ、両手を広げて立ちはだかる女性の姿があった。
セクンドゥムはそれを見て、不愉快と言う様子で表情をゆがませる。
「フェイトさんには手を出させません……!」
その女性こそ、栞の姉だ。
もはや満身創痍のフェイトの前に立ち、彼を庇ってセクンドゥムへと立ち向かう。
「クッハッハッハッ! なんという愚かしさだ! 女に盾になってもらうとは、随分と堕ちたものだなぁテルティウムよ!」
セクンドゥムは不愉快な表情からすぐさま愉快な表情へと変え、見下したように大きく笑う。
いやはや、出来損ないだと思ったが、まさか女にまで庇われるほどに出来損ないだったとは。
これを笑わずして何を笑えばよいのかと。
「ク……、ダメだ。僕のことなど構う必要はない……!」
「……いいえ、構います!」
栞の姉の背を見たフェイトは、何とか二の足で地面を踏みしめてしっかりと立ち上がり、彼女を逃がそうとする。
それでも栞の姉はフェイトの言葉にNOと言う。このままではフェイトが死んでしまうと思ったからだ。
「だって、あの時の答えを、まだ聞いてませんから……!」
それに、まだ告白の答えを、フェイトから聞いていないから。
絶対に答えてくれるって、フェイトが約束してくれたから。
「それに、あなたと一緒なら、何があっても怖くないもの」
「────!」
それだけじゃない。
フェイトが隣にいるのなら、怖いものなんて何もないから。
たとえそれが目の前の造物主の使徒だろうと、世界を滅ぼす相手であろうと、恐怖なんて感じない。
そうはっきりと栞の姉はフェイトへ言うと、後ろを振り向いていつものように笑顔を見せた。
フェイトは彼女の笑顔を見て、その言葉を聞いて、強い感情を抱いていた。
ああ、この感情こそが愛と呼べるものなのだと。
やはり、自分は彼女を愛しているのだと。
「はっ! だったら二人まとめて送ってくれる! 百年でも千年でもそうやって乳繰り合っているがいい!!」
そこまで言うのであれば、続きは”完全なる世界”ですればよい。
永遠に続く楽園で、好きなだけそうしていろと、セクンドゥムは詠唱を唱え始める。
その後ろにいたクゥァルトゥムや雷属性の使徒も同じ詠唱を始め、それが完了すると大呪文が二人へと降り注ぐ。
「”千の雷×3”ッ!!」
それこそ、雷系最大魔法、
一つでも巨大な岩礁の半分を溶解させるほどの威力がある爆発的な雷が、三つ束ねてフェイトと栞の姉へと襲いかかった。
それでも栞の姉は、フェイトへと微笑んでいた。
この危機的状況ですら、フェイトを安心させようと。
フェイトはそんな栞の姉だけでも助けようと、必死に体を動かして庇おうとする。
魔力はもうないのに、必死に障壁を張ろうと手を伸ばす。
奇跡が起きない限り、三つの千の雷に撃たれて二人とも吹き飛ばされると言うのに、それでも大切な人のために何かしたかった。
でもそれは、彼女も同じだった。
だから、庇おうとフェイトへと抱きつく。
フェイトもせめて離れないようにと、彼女を強く抱きしめて、神に祈りを捧げる。
この人だけは、助かってほしいと。
だが、迫り来る三つの千の雷がフェイトと栞の姉の頭上で、突如として四散し、崩壊して消え去ったのだ。
「なっ!? 馬鹿な!?」
それを見たセクンドゥムはたまらず驚愕の声を漏らし、表情を困惑一色に染め上げた。
「これは一体!?」
また、フェイトもこの現象に驚き、何が起こったのかわからないと言う様子だった。
「よぉ! 見ないうちに随分とまあ、いい男に磨きがかかったじゃねぇか。そこの彼女もたまらず惚れ直しちまうだろうぜ?」
「あ……あなたは……!」
すると、気がつけば横から、よく聞いた声が聞こえてきた。
その声も、まるでフェイトを久々に会った友人のように、語りかけるような穏やかなものだった。
すぐさまフェイトが栞の姉を抱きかかえたまま声の方を向けば、橙色の髪をオールバックにし、赤茶のコートに身を包んだ、何度も見た強面の男がそこに立っていたのだった。