理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百九十八話 アルカディア帝国の皇帝(デウス・エクス・マキナ)

 

 メトゥーナト・ギャラクティカと言う仮面の騎士は、皇帝の部下の中で最も古い。

仮面の下の素顔こそ若く見えるが、一番ロートルなのがこの男だ。

それでもその剣に衰えはなく、むしろさらに冴えている。

 

 

「”光の剣”」

 

 

 山をも斬り裂く光の剣に、アーティファクト・宇宙割つ刃の特性を乗せて、転生者の”特典のみ”を斬り裂いていく。

 

 

「お前たちに、皇帝陛下の邪魔はさせん」

 

 

 普段は穏やかな波のような静けさを感じさせる仮面の騎士。

されど、いざ戦場へと出れば、まさに嵐のように荒々しく、暴虐の化身と化す。

 

 周囲は無惨に斬り刻まれ、特典を失った転生者は、ただ蹂躙されてそこら中に転がり捨てられていく。

全てを、目に見える敵全てを、ただ斬る。それだけの行動に、強大な力が加わればこうもなろう。

これが皇帝がして、脳筋戦法騎士と呼ぶ由来だ。

 

 仮面の騎士が思うことは一つ。

皇帝の邪魔をするものの、一切の排除。

ただそれだけのために、目の前の敵を斬り続ける。

 

 

「なっ、なんだよこいつ!? 誰だよッ!!」

 

「くそっ! くたばれーっ!」

 

 

 転生者にとって、この光景と状況は悪夢そのもの。

爆速で動く仮面の男と、見えない速度で振られる黄金の剣。

さらには不可視なる一振りで、巨大な真空波のような剣圧が複数も出現し、それが遠距離攻撃となって襲い掛かかってくる。

それに斬られれば、たちまち特典を失ってしまうのだから、彼らにとってこの上ない悪夢であろう。

 

 だが、転生者とてやられっぱなしのままではいない。

当然怒りに任せて反撃に出るものも、いるわけだが。

 

 

「遅い」

 

 

 ────一閃。

 

 

「ぎえー!?」

 

「アギャーッ!?」

 

 

 仮面の男が前で剣を構えていたら、気が付けばもうすでに通り過ぎて、斬り裂かれている。

転生者どもはマヌケな悲鳴を上げて、そのまま倒れていくだけだった。

 

 

「”破岩旋風剣”」

 

「うおおあぁぁあぁぁ!?」

 

「ギイィアアァァッ!?」

 

 

 さらにメトゥーナトが剣を振るうと巨大な竜巻が発生し、多くの転生者を飲み込んで再起不能にしていく。

叫び苦しみ気を失っていく転生者。哀れとしか言いようがない。

 

 

 ────メトゥーナトは握りしめた黄金の剣、宇宙割つ刃を振りながら、過去を想う。

今まで失ってきたものを。守れなかった者たちのことを。

 

 

 メトゥーナトは二度、故郷を失っている。一度目は母星を、二度目は流れ着いた小さな王国を。

 

 実はメトゥーナトはこの星の人間でも、地球の人間でもない。

もっと遠くの宇宙からやってきた異星人だ。母星が滅びの時を迎え、流れ着いた先が地球、そして魔法世界だった。

 

 その後魔法世界を旅して、その端っこにあった小さな王国に身を寄せた。

異邦人だと言うのに歓迎してくれた小さな王国とその国王に感謝し、恩に報いるために剣を振るったことがあった。

 

 しかし、その王国も今はない。滅びてしまったからだ。

滅びた後、最後の生き残りとなったメトゥーナトは、滅びた王国で墓守を続けた。

そこへ現れたアルカディアの皇帝のライトニングが、メトゥーナトを拾い上げたのだ。

 

 アスナがメトゥーナトの目に見た哀愁や悲壮感は、そこから来ている。

仲間を失うのを恐れていると感じたのも、そのせいだ。

 

 失い続けた人生を歩んできた。その時に手元に残ったものは、もはや存在しない。

それでも皇帝が拾い上げられ、二度と失わぬよう誓って剣を振るう仮面の騎士こそ、今のメトゥーナトなのだ。

 

 皇帝の剣、メトゥーナトは、今手にあるもののために、剣を振る。

 

 

「サーヴァントの人影か」

 

 

 そこへ新たな敵が登場。デュミナスが召喚した影のサーヴァントだ。

メトゥーナトは警戒しながら、その集団へと突入していく。

 

 

「”光の剣・貫穿”」

 

 

 影のサーヴァントの集団へと、メトゥーナトは突き型の光の剣を放てば、貫通して複数の影のサーヴァントを貫いて破壊していく。

 

 

「”光の剣”」

 

 

 さらに横なぎに振るった光の剣をも放ち、広範囲に渡って数多くの影のサーヴァントの胴体を両断していった。

 

 

「さて、そろそろ皇帝陛下が動くはずだが……」

 

 

 ある程度敵の数を減らしたところで、皇帝の作戦が開始されると感じ、そちらの方へと飛んで行ったのだった。

 

 

 同じようにして戦う皇帝の部下の一人、ギガント。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 転生者の攻撃を全て障壁で防ぎ、カウンターのように至近距離から大魔法を放ち、魔力で超強化した腕をぶつけて彼らを蹴散らしていく。

 

 これもまた蹂躙。

転生者は大魔法で吹き飛ばされ、巨大な腕で殴られて吹き飛ばされ、地面からの岩の槍を受けて吹き飛ばされ、徐々に戦っている転生者の数を減らしていった。

 

 

 ────転生者、その言葉と存在は、ギガントの人生にとって大きな意味を持つ。

元々この亜人の男は、()()()()()()()()()()だったからであり、その転生者に捨てられ、命が尽きそうになった時に、皇帝に拾われた。

 

 もうかなり昔のことであり、その転生者はこの世にはいないと思っている。

それにこの姿になったのも、皇帝のおかげだ。故に皇帝には感謝しているし、命を賭けることも辞さない。

 

 そして、捨てられた者たちや、弱い者たちを助けて導くことに人生を捧げている原点こそ、そこにある。

捨てられたからこそ、一度助けたものは見捨てない。皇帝に助けられたからこそ、誰かを助けるのは当然だと行動する。

 

 しかし、目の前の転生者は、別の存在。

もう少し大人しくしてくれていれば、力を持つ者として、それに見合うだけの行動さえしてくれればよいのに。

それをせず、己の力を過信して、力を振るい続ける。それをギガントは愚かしいと思っている。

 

 だから、容赦はしない。

力あるものが力なきものを、虐げていい理由はない。

その力を有効に活用する気がない者たちを、決して許しはしない。

 

 皇帝の頭脳は、庇護すべきものたちのために、魔法を放つ。

 

 

「ほう、影のサーヴァントか」

 

 

 ギガントの前に現れたのは、デュミナスの支配する影のサーヴァント。

未知なる相手に、ギガントも少し興味を持つ。

 

 影のサーヴァントは当然呑気などせず、集団でギガントを襲うが、ギガントの障壁にて阻まれた。

これが本物のサーヴァントであれば話は別だが、所詮は似せているだけの影でしかない存在に、ギガントの障壁を砕くことはできない。

 

 そのまま大魔法で次々と影のサーヴァントを葬っていくギガント。

先ほどの転生者同様に、焼かれ、砕かれ、凍らされ、貫かれ、どんどんその数を減らしていく。

 

 

「なるほど。よくできておる」 

 

 

 また、ギガントは影のサーヴァントを眺めながら、魔法としてはいいものだと称賛する。

つまるところ、この程度の相手など観察対象でしかなく、相手にすらしていないということだ。

 

 

「だが、そろそろか」

 

 

 そして、皇帝の動き出す時間を見て、そちらへと足を向けるのであった。

 

 

 もう一人、皇帝の部下である龍一郎が、拳を握りしめて転生者と肉薄する。

三人の皇帝の部下で最も新しく、最も若く、最も務めていた時期が短い男だ。

 

 

「おらよぉ!」

 

「グギャーッ!?」

 

 

 接近してただひたすらぶん殴る。

炎を纏った拳は障壁すらも燃やし尽くし、そのまま敵に吸い込まれていく。

魔法も全て炎に焼かれ、炎の魔法ですらも燃焼させて消し炭すらも残さない。

 

 

「おせぇ! おせぇ! 遅すぎるぜぇ!」

 

 

 龍一郎にとって、転生者の動きはまさにスローモーション。

特典を鍛えていないか、中途半端な鍛え方した転生者など、取るに足らない相手でしかない。

 

 

「なんだこのおっさん!!?」

 

「ぶっ殺してやるぁッ!!」

 

 

 転生者にとって、目の前の男は謎の存在だ。

この男が転生者なのか、そうじゃないのか、どちらでも関係なく、この存在自体が理解不能なのだ。

 

 ”原作”にいない相手、しかも完全なる世界に属する転生者にとって超強敵。

これだけで転生者の連中には、脅威にしか映らない。

 

 

「威勢がいいのは嫌いじゃねぇなぁ! オラオラァッ!!」

 

「グゲゲ……!?」

 

 

 されど転生者たちは威勢よく龍一郎に襲い掛かるが、カウンターを決められて簡単に倒されていく。

襲ってくるなら動く必要はない。相手の動きに合わせて、ただただ拳を振るえばいい。

そんなことができるのがこの龍一郎と言う男だ。

 

 

「マジで骨がねぇなぁ……。もっと根性みせろってんだよなぁ若人どもよ」

 

 

 なんというか、つまらない。張り合いがない。

自分の息子の方が100倍強いと、少し親馬鹿なことを思う龍一郎は、ふと昔を思い出した。

 

 

 ────龍一郎が皇帝の部下になったのは、20年前の大戦が終わった後のことだ。

 

 強くなることだけを夢見て魔法世界へと入り、修行してきた若き日々。

ただひたすら我武者羅だった。強い相手を見つけて戦う、それが喜びだった。

20年前の大戦も、興味本位で戦いに臨んだ。世界の滅亡を股に掛けるなど思ってもみなかった。

 

 そんな時、皇帝に声をかけられて部下になった。

とは言え、単純に「はいなります」と部下になった訳ではない。

 

 

 皇帝の部下になった理由は、当時恋仲だった人のためだ。その女性こそが数多の母親だった。

体があまり強い方ではなかったその人のために、環境の整ったアルカディア帝国の、最も環境のいい場所に住まうことを条件に、部下になったのだ。

 

 その後、その女性と結婚して数多が産まれ、人としての幸福を得た。

されど、悲しいことに数多を生んだ数年後、その女性は亡くなってしまった。

もともと体が強くなかったせいだったのか、ちょっとした風邪が悪化してしまったのが原因だった。

その時の龍一郎の悲しみは、計り知れないものだっただろう。

 

 

 そんなある日、息子の数多とそのことで揉めた後に、急に数多が強くなりたいと言い出した。でっけぇ男になりてぇ、と。

なんだかそれが、無性に嬉しかった。残った息子には普通に生きてほしいと思っていたのに、喜びを感じていた。

 

 その時から龍一郎の数多への認識が、庇護するべき存在から対等な存在へと変わった。

強くなりたいと言うなら、強くしてやる。肉体も精神も、とびっきりでぶっちぎりの男にしてやる。

そして、自分の跡を継いでもらう。

 

 だから龍一郎は数多の修行に妥協はしなかったし、息子だからと言って容赦もしなかった。

男が言った言葉に二言はない。強くなるなら徹底的にしごきにしごく、それだけだった。

 

 

 それに大切なものはもう一人増えた。

自分のせいで手遅れになり、滅んだ町の生き残りだった少女、焔だ。

 

 あの子も随分とトゲが抜け落ちた。

普通の少女らしくなってきた。これからの人生を、きっと謳歌できるだろう。

 

 

 父親として、二人の子の幸せを願う。

今ここで拳を振るっているのは、皇帝のためだけではない。

二人の子の輝かしい未来のためにも、ここで戦っているのが龍一郎と言う男だった。

 

 皇帝の拳は、我が子らのために、拳を振るう。

 

 

「おっ? 真っ黒黒なサーヴァントか? 面白ぇ!」

 

 

 そこへデュナミスが召喚した影のサーヴァントが現れる。

大量に襲い掛かる影のサーヴァントを見てニヤリと笑った龍一郎は、拳を構えて爆発的な炎を纏う。

 

 

「”真熱血・剛龍天昇拳”ッ!!」

 

 

 そして、次の瞬間、龍一郎は影のサーヴァントへと奥義を放った。

龍が天に昇るがごとく、炎の龍となりて広範囲の敵を焼き尽くす。

 

 所詮は影のサーヴァント。一瞬にして燃えカスすら残らず消し飛び、焼き尽くされた。

火の粉が舞い散り、周囲を赤く染め上げ、そこに残っていたのは龍一郎ただ一人。

 

 

「思ったよりは強くねぇなぁ。マジで残念だ」

 

 

 龍一郎も、サーヴァントと言う存在は昔から知っていた。

あのぐらい強いのかと期待していたのだが、そうでなかったことにがっかりだ。

もっと強ければ、楽しめただろうに、と。

 

 

「しかしまぁ、もうそろそろ時間か?」

 

 

 まあ、そうがっかりしてる時間は、もうない。

何せ皇帝陛下が動き出す時間だからだ。龍一郎はそれを察して、皇帝のいる方へと地面を蹴って移動していった。

 

 

…… …… ……

 

 

 紅き翼の面々や麻帆良の学園長も、覇王や木乃香や刹那も、あと自称アーチャーも、影のサーヴァントやら転生者やら、または造物主の使徒と対峙。

周囲で爆発音が聞こえるほどの大規模な戦闘を繰り広げ、戦いは熾烈なものとなっていた。

 

 当然アキレウス(ライダー)も音を置き去りにした速度で、転生者どもをバッタバッタとちぎりまっくり。

ナビスとロビン(アーチャー)も呂布型の影のサーヴァントと、決着が付きそうになっていた。

 

 カルナ(ランサー)もデュナミスと対峙しており、デュナミス操る影のサーヴァントを槍で叩き斬りながら、デュナミスを追い詰めていった。

 

 また、坂田金時(バーサーカー)はランサーの幼きマスターや状助らをを守護しつつ、待機組や疲労困憊で戦えなくなった仲間たちと合流。

そこの仲間たちを守護しつつ、周囲の敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げの快進撃を見せていた。

 

 

 そこで一撃で終わらせてやると豪語したエヴァンジェリンは、詠唱を唱え始めており、すでに発動キーは唱え終わり、魔法呪文へと差し掛かる。

 

 

「契約に従い我に応えよ、闇と氷雪と永遠の女王、咲きわたる氷の白薔薇、眠れる永劫庭園!」

 

 

 誰もが聞いたことのない、見知らぬ呪文。

一体何の詠唱なのかと疑問に思う造物主の使徒たちは、ハッとして行動を起こす。

 

 

「あれはイカン!」

 

「あれはマズイ! 奴を止めろ!!」

 

 

 デュナミスはこの詠唱の呪文を聞いて、かなり危険なことを察知した。

セクンドゥムもこれはよろしくないものだと理解し、同じ造物主の使徒へと阻止を命じる。

 

 

「クッ! ”極大消滅呪文(メドローア)”ッ!!」

 

 

 当然、造物主の使徒でアーウェルンクスシリーズに生まれた転生者のセプテムムも、その魔法の恐ろしさを知っており、エヴァンジェリンへとメドローアを向ける。

 

 

「”魔氷の鏡盾”ッ!!」

 

「な・にっ!?」

 

 

 しかし、そこにディオが現れて、氷の障壁に阻まれ、その障壁にてメドローアが反射されたのだ。

セプテムムは慌てふためいた。反射がないからバンバン使っていたメドローアを、反射されてしまったからだ。

 

 

「何度も何度も見せられてはたまらん。ならば魔法反射の魔法を用意するのが一番と言う訳だ」

 

「馬鹿な!? こんな短期間で……ッ!? アアァァァッ!?」

 

「伊達に600年は生きていない、と言ったはずだ」

 

 

 ディオはメドローアばかり使ってくるセプテムムに、心底うんざりしていた。

しかもメドローアと言っても本当のメドローアではないのだから、腹立たしく思うのも無理はない。

 

 なので即席ではあるものの、魔法反射を付与した氷系の魔法をこの場で開発して使ったのである。

元々闇の魔法の応用であり、相手の魔法を受けて掴まず、そのまま放り投げる方法を利用した障壁呪文だ。

 

 セプテムムは焦りのせいでうっかりしてしまったのか、もう一度メドローアを放たなかった。

メドローアはメドローアで相殺できる魔法。それで自分の身を守ればよかったのに、テンパりすぎてやらかしたのだ。

 

 そのまま体の半分を自分の放ったメドローアに飲み込まれ、再起不能(リタイヤ)となったのだった。

そんなマヌケなセプテムムへと、ディオは冷静に先ほど言った言葉を、もう一度吐き捨てておいた。

 

 

「来たれ永久の闇、永遠の氷河!」

 

「させるか!」

 

「オイオイ、逃がすと思ってんのか?」

 

「ジャック・ラカン……!!!!」

 

 

 そうこうしているうちに、エヴァンジェリンの詠唱は進んでいく。

造物主の使徒、アーウェルンクスシリーズどもが、その阻止に走るが、ラカンによって阻まれる。

 

 

「クソヤローども! さっきの倍返しだアァァァッ!! 最後の渾身の”神滅超轟雷”ッ!!!」

 

「なっ!? ぐうおおぉ!?」

 

「ぐうっ!?」

 

 

 さらにはギリギリ元気になったカギが、さっきの仕返しとして巨大な槍の魔法をぶっぱ。

流石に突然出てきたノーマークな相手の魔法は回避できず、造物主の使徒どもはその魔法の餌食となった。

 

 

「氷れる雷もて魂なき人形を囚えよ、妙なる静謐、白薔薇咲き乱れる永遠の牢獄!」

 

 

 そして、エヴァンジェリンの詠唱はいよいよ終わりを迎えれば、その氷と雷の複合魔法が解き放たれた。

 

 

「”終わりなく白き九天(アベラントス・レウコス・ウラノス)”!!」

 

 

 氷の竜巻が発生し、そのままの形で氷の塊となれば、雷撃が周囲を走り、通った道を凍らせていく。

 

 雷速で動きうねる雷の蔓は造物主の使徒や影のサーヴァントを無限に追いかけ、障壁もろとも氷の彫刻へと変えていく。

さらに意識があるまま周囲ごと凍結させ続け、物理的に二度と外に出ることは叶わない。

 

 造物主の使徒どもはその蔓に捕まり、どんどん氷の塊へと変貌していき、残ったセクンドゥムも逃げ回り命乞いをするも、最終的に冷凍刑に処されたのだった。

 

 

()()()()の性能で安心できるな。本当によくできてる。感心させられるぞ!」

 

「ひえー、マジでヤベーなこの魔法! 黒い奴らも全部凍っちまってやがるぜ!!」

 

 

 とは言え、()()()エヴァンジェリンは、造物主の使徒たる敵と戦ったことがない。

何せ修学旅行編でフェイトと一度相まみえていないからだ。なのでこの魔法を開発する理由がなかったりする。

ただ、転生者がいるので情報は手に入る訳で、その情報を元に開発しておいたと言う訳だ。

 

 故に、この魔法が話に聞いた通り機能して、よかったよかったと笑うエヴァンジェリン。

そんでもって”原作”とやらの自分も流石だな、と自画自賛していたりしていた。

 

 そこへこちらにやってきたラカンが、影のサーヴァントすら凍り付いているのを見て、この魔法のすごさに度肝を抜かれつつ笑っていた。

 

 

「あちらも全部終わったようですね」

 

「もう大体戦意喪失してくれたようだな。まったく、ありがたいことだ」

 

 

 また、転生者どもの戦いも、すでに終わりを迎えていた。

メトゥーナトにやられた転生者は特典を失い戦闘不能に、他の連中も戦いに敗れて気を失ったり動けなくなったりしていた。

それ以外にも、もう戦いを放棄して白旗を上げた転生者もおり、こちらも完全に鎮静化したのであった。

 

 高畑もそれを確認すると、ガトウもようやく終わったと、歳食って疲れた肩を回して笑っていた。

 

 

「だが、残ってんだろ? 最後の一人が」

 

「あぁ…………」

 

 

 されど、エヴァンジェリンの魔法は造物主の使徒どもを凍らせる魔法。

そうでないものは当然除外される。

 

 その除外された存在が、まだ一人残っている。

それを気が付けば傍に来ていたラカンがエヴァンジェリンへと、言えば、静かに肯定の言葉が小さく帰ってきた。

 

 

「見事な呪文だ……。────我が娘よ」

 

「…………!!」

 

 

 そして、黒いフードとローブが渦巻く存在が、ぞっとするような気配を出して現れた。

それこそが魔法世界を作り出した始まりの魔法使いであり、エヴァンジェリンを吸血鬼にした張本人であり、ネギやアスナの祖先でもある造物主(ライフメイカー)だ。

 

 造物主(ライフメイカー)はゆったりとした言葉で、エヴァンジェリンを褒めたたえる。

されど、ラカンとエヴァンジェリンは動けない。謎の力で強烈な金縛りを受け、動けなくなってしまったのだ。

 

 

 紅き翼と学園長、自称アーチャーと覇王、さらには四騎のサーヴァントも造物主(ライフメイカー)へと攻撃しよう動こうとしたその時────。

 

 

「よくぞ最後の鍵(グレートグランドマスターキー)を手に入れてくれた! 感謝するぜ!!」

 

 

 そこに現れたのは、アルカディアの皇帝、ライトニング。

さらには横にアスナとネギがおり、背後には三人の部下が控えていた。

 

 皇帝は特に何かを気にすることもなく、威圧することもなく飄々とした様子で、左手に黄金の杖を持ち、右肩に最後の鍵(グランドマスターキー)を担いでゆったりと行進する。

また、最後の鍵(グレートグランドマスターキー)を連中から奪ったことを、いたく感激した様子で褒めたたえ、ありがとうと笑っていたのだ。

 

 誰もがそこで足を止めて、皇帝を見た。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 すると、造物主(ライフメイカー)も何故か皇帝の方をじっと見れば、皇帝もそちらへと顔を向け、フードで隠れて見えない造物主(ライフメイカー)と視線が合い、何かを思うような表情へと変えて造物主(ライフメイカー)を眺めていた。

 

 まるで一瞬、二人の時間だけが止まったかのようだった。

 

 

「ああ! 苦労したぞ!! ここにいる全員がな!!! 今更のこのこ出てきて何かっさらっていってるんだ!? このドアホッ!! うすのろっ!! マヌケ! クソバカっ!!!」

 

「あー、縛られてんのか? いやいや、そりゃ残念だったな!!」

 

「後で見ていろよ……!!」

 

「後でな」

 

 

 そこへエヴァンジェリンは体が動かないことを恨めしく思いながら、皇帝()()へと今までの文句を全部吐き出すかのように叫ぶ。

さっき会ったのが分身だったからこそ言わなかった文句を、本人にぶつけたのだ。

本当に今まで何してたんだこいつ!! と言う気持ちがかなーり強い。

 

 まあ、皇帝自らが動かずにいたのは、自分が動いて()()()()()()()警戒されたくなかったからだ。

故に、裏でこっそり色々と準備することだけに集中していた。

だから、部下三人にもサポートか雑魚処理ぐらいしかやらせてない。

油断を誘うための行動だった。

 

 そんなエヴァンジェリンを見た皇帝は、エヴァンジェリンが金縛りで動けないのを察して、殴られなくてよかったと笑う。

が、別に今すぐじゃなくても後でぶん殴るとエヴァンジェリンは思っており、皇帝も今はその時じゃないと、再び造物主(ライフメイカー)へと視線を移した。

 

 

 すると造物主(ライフメイカー)は、少しずつ白い光の粒となって消滅し始めた。

 

 造物主(ライフメイカー)はこの状況は不利だと判断し、今は退くことを選んだ。

流石に紅き翼やら四騎のサーヴァントやら覇王やら、さらには皇帝とその部下三人、それだけでなく末裔のネギとウィークポイントのアスナまで勢揃いなのだ。

そりゃ誰が見ても退くわって状況だ。

 

 そこで徐々に消えていく造物主(ライフメイカー)のフードがゆっくりと開き、その驚くべき顔を見せたのである。

誰もがそれを見て、言葉が出なかった。

 

 

「ネギ……、んでもってカギもだ。俺を殺しに来い。それでようやくすべてが終わる。……待ってるぜ」

 

「と……」

 

「えっ? 俺も!?」

 

 

 その顔こそ、10年前に行方不明になった、ネギとカギの父、ナギ・スプリングフィールドだった。

 

 ナギは息子らへと最後のメッセージを微笑みながら残し、そのまま光となって消え去った。

ネギは声を出そうとしたが出ず、カギは自分も指定されたことに、かなり困惑した様子だった。

 

 

「……そう言う事だったのか」

 

「……」

 

 

 エヴァンジェリンもその光景を見て、ようやく全てを理解した。

10年前、何が起こったのか、どうしてナギが消え去ったのかを、その姿を見て察したのだ。

 

 アスナも光になり消えた造物主(ナギ)を見て、思うところがある様子で、静かに黙っていた。

 

 

「…………」

 

 

 皇帝は造物主(ライフメイカー)が消えていくのを、哀愁の表情で眺め終わると、足元に巨大な魔法陣を展開し、詠唱を始める。

 

 

「天駆ける光を超え、闇を斬り裂き走るは命の力、空を裂き、宙を貫き、今ここに道を示さん」

 

 

 詠唱に呼応して黄金の杖が光り出す。

それに続いて宮殿最奥部の杖と、祭壇内部に置いてきたもう一つの杖が共鳴。

皇帝の足元の魔法陣が、さらに何重にも重なり、見事なアートを描くと、そこに強烈な魔力の渦が発生。

 

 

「我らが偉大なる神々の王、その象徴たる神の雷よ、その力を賜りし四つの王笏よ、遍く引き裂く力、重なる力、渦巻く力、唸る力、縛る力、その万象と理を命の力と変え、天に呼応し、地に呼応し、戦神司る赤き地にて創造されし、夢幻なる楽園の地へと再び安寧を齎すべく、常闇を抜け、示した道走りて遠き旅の終点へと来たれよ」

 

 

 さらに長い詠唱を終えると、最後に三つの黄金の杖と最後の鍵(グレートグランドマスターキー)が共鳴しだす。

皇帝の足元には小さな魔法陣と、その中央に鍵穴が出現する。

 

 その鍵穴に皇帝は、静かに最後の鍵(グレートグランドマスターキー)を突き刺し、ゆっくりと鍵を閉めるように回した。

 

 

「これで! 完了だ!」

 

 

 最後の鍵(グレートグランドマスターキー)が回し終わると、ガチャン、という音と共に、宮殿真下にさらに巨大な魔法陣が出現。

そこから膨大な魔力が膨れ上がり、魔法世界を覆いだす。

 

 

「これは…………ゲートか!? 一体何を起こした……!?」

 

 

 エヴァンジェリンは皇帝の施した術がわからず、驚いた様子を見せる。

明らかにどこかと繋がっているのがわかったのだが、何故魔力がここまで溢れるのかがわからなかったのだ。

 

 

「これで、数年足らずで消え去る予定は、未定になったぜ。ざまぁみろ」

 

 

 皇帝は術が完成したのを見届けると、今は消え去った造物主(ライフメイカー)へと向けて言葉を発しながら、天へと視線を移してニヤリと笑った。

 

 

「それで、一体何をした?」

 

 

 誰もが何が起こったかわからないと言う雰囲気の中、ようやく動けるようになったエヴァンジェリンが皇帝の傍へ寄って問い詰める。マジで何やったんだよと。

 

 

「……魔法世界の魔力が枯渇するってんなら、他所からもってくりゃいいってのをしただけだ」

 

「だが、魔力は生命から生み出されるもの。故に()()()()()()()()()()んじゃないのか?」

 

 

 皇帝は特に何かを気にした様子もなく、普通に答えた。

魔力不足なら、他から魔力を充填すればよくね? と。

 

 されど、魔力とは生命が生み出すエネルギー。

地球でしか魔力源がないのに、どこからそんなもん持ってきたんだ、とエヴァンジェリンが言葉にする。

 

 

「ああ、()()()()()()()

 

「は?」

 

「魔力と精霊で物理現象を引き起こせるってんなら、逆に物理現象を魔力に変えることぐらいできるんじゃねぇか、と思ってよ」

 

 

 地球でしか作り出せない魔力と言うエネルギー。

されど、この魔力は精霊と合わさることで、炎や水や氷、雷や岩、さらには重力にもなる。

であれば、逆のことも可能なんじゃないの? と言うことをやったと、皇帝はさらっと言った、

 

 エヴァンジェリンはその答えに固まり、言葉が出ない様子だった。

 

 

「だから、木星と四つの衛星を依り代にして、魔力変換装置を配置してきたって訳だ」

 

「は?」

 

 

 で、次に皇帝はなんか壮大な話を話し始めた。

木星とガリレオ衛星、それを触媒に魔力変換する術式を組み込んで、周囲に発生する潮汐力や重力、木星内の大気で起こる様々なエネルギーを、魔力にしたと。

 

 エヴァンジェリンはそれにも声が出ず、固まったままだ。

 

 

「んで、ゲートでバイパス作って、直接ここに変換された魔力が流れるように繋げたってこった」

 

「は?」

 

 

 それで次にやることは、その変換した魔力を火星に引っ張ってくることだ。

なので木星圏と宮殿下の地表を結ぶゲートを作り出し、そこを魔力の流れ道にしたと皇帝は話した。

 

 エヴァンジェリンは理解が追い付かない様子で、まだ固まったままだ。

 

 

「まっ、全部まとめてやるには、魔力だまりが欲しかったからよ。造物主(あいつ)の計画を利用させてもらったのさ」

 

「は?」

 

 

 で、その術の起動に魔力が欲しかったので、ここにたんまり溜まった魔力を利用することにした、と皇帝は言う。

一度向こうへと繋がるゲートを作り出して魔力を送り、魔力変換の術式を起動。その後魔力をこっちに渡すためのゲートを開き、固定するのが最後の儀式だった。

 

 エヴァンジェリンは情報量の多さに、頭がパンクしそうになっていた。

 

 

「ちなみに、魔力がここに溜まることによる崩壊は、事前に防いでるから安心しろ」

 

「は? は?」

 

 

 その時、宮殿付近に魔力がたまるせいで発生する、魔力消失現象の被害は何とかしたと言い出した。

各地にわかりづらいアンテナ立てて、全部の魔力がここに溜まるのを防ぎ、こっそり魔力を他に流していたのである。

 

 エヴァンジェリンはこいつ何なんだ、と思い始めた。

 

 

「これで当分は問題ないはずだぜ? その間に色々やってかなきゃならねぇがな」

 

「は? は? は?」

 

 

 で、おかげ様で魔力の枯渇による、魔法世界消失の危機は今すぐ起こることはなくなった。

とは言え、そのままずっと木星圏のエネルギーに任せっぱなしにもできないので、それをどうにかするのが次の課題だと腕を組む皇帝。

 

 エヴァンジェリンは何も聞いてないんだが、と口を開けたまま固まっていた。

 

 

「どうした? 壮大すぎて感激しちまったか?」

 

「こっ」

 

「こ?」

 

 

 何も言ってこないエヴァンジェリンに、皇帝はどや顔していた。どや? どや?

が、エヴァンジェリンは俯いてプルプル震え始めたではないか。

 

 で、何かしゃべりだしたエヴァンジェリンに、皇帝が何を言いたいのかと眺めていたが。

 

 

「この! 大馬鹿野郎ッ!!」

 

「グエッ!!?」

 

 

 堪忍袋の緒が切れたエヴァンジェリンは、そのまま皇帝の顔面をぶん殴ったのだ。

いきなりぶん殴られた皇帝は叫びながら吹っ飛んでいく。

 

 

「なーんでそう言うこと全然話さなかった!? なぜ全部私に黙ってたんだ!? 相談はせずとも少しぐらい情報よこしてもよかっただろうがっ!! この! クサレ!! 脳みそがッ!!!」

 

「がはぁ!? 痛い! いてぇ! いてぇって!!」

 

 

 さらにエヴァンジェリンはずっとため込んでいた文句を吐き出しながら、皇帝を足蹴にしまくる。

蹴りまくられている皇帝は、流石に痛いのか悲鳴を上げてのたうち回っていたのだった。

 

 

「しまらんな……」

 

「我らが陛下らしいと言えはらしい」

 

「まあ、悪くねぇ、こんな終わり方もよ」

 

 

 皇帝の部下三人は、その光景に呆れ半分とほっこりした気分を味わっていた。

他の仲間たちも、それぞれその光景を見て、戦いが終わったことを実感し始めた様子だ。

 

 

「よかったじゃあねぇかよ。おめぇもよ」

 

「……うん」

 

 

 状助はアスナのところへやってきて、アスナが自らを捧げて代償を払わずに済んだことを喜び、微笑んで話した。

 

 アスナも静かに頷いて、小さく笑って見せた。

ただ、まだ全部終わってないことを察して、大きく喜ぶことはできなかった。

 

 

「父さん……」

 

 

 その近くでネギは魔力が晴れた青空を見上げながら、ナギの最期の言葉を思い出して、感傷に浸っていた。

カギもそんなネギには声をかけられずに、横でおろおろしていたりするのだが。

 

 

 こうして、墓守り人の宮殿での完全なる世界との戦いは終わり、魔法世界は滅びの危機から脱した。

誰もが戦いが終わったことを喜び、麻帆良に帰れることを喜び、または緊張が切れてどっと疲れが出たり、疲れていたものたちは倒れこんで安堵したりしていたのだった。

 

 

 

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