アルカディア帝国の皇帝と
「流石現代の英雄様のボディだな。そこいらの連中なんか目じゃねぇ強さだ」
ナギ・スプリングフィールドの戦闘力を操る
それ以外にも雷の投擲や、雷の暴風などの魔法で、皇帝を何度も攻めまくる。
皇帝もその強さをただただ称賛する。
マジで強い。確かに目の前の
「だが、当たらなきゃ意味がねぇ」
されど、その馬鹿火力も、当たらなければどうと言うことはない。
皇帝は
当たりそうなのに当たらない。ギリギリを見極めて回避し続けている。
「ほれほれ! そこじゃねぇぞ?」
「何故だ? 何故当てられない……?」
皇帝は笑いながら
雷の投擲を無数に撃ち放っても、少しだけ体をそらしてその隙間へと入り込んで、それを全部かわす皇帝。
この光景ははっきり言って異常だ。
「どうした? そんなもんか?」
「……」
「おいおい? 当たらねぇぞ?」
それでも雷の投擲、雷の暴風、魔力の砲撃をぶち込むが、やはり皇帝にはギリギリで届かない。
ならばやはり物理でと拳を振るうが、体をひねっただけでそれも全て避けられた。
皇帝はニヤリと笑いながら、
どこに撃ってんだ? さっきから全然命中してないぜ、と。
「なんだよ、もっと気張って来いよ」
「どうなっている……? いや、まさか……」
数発拳を連打したがそれも皇帝に首をひねって回避され、そこから雷の投擲連打してもちょっと後ろに下がっただけで、全て避けられる。
これはやはりどこかおかしいと考えた
「お前…………、
そこで
まさか、その目の力なのか、目で攻撃が全て見えているのかと。
「……
「クックックッ……さぁなぁ? どうだろうなぁ? どっちだろうなぁ?」
いや、それだけではない。
気、魔力、それ以外にも予測など、様々なものが見えているのかと、
しかし、皇帝とてそれを正直に話す訳がない。
面白おかしく笑いながら、はぐらかすようなことだけを言う。
「よーやく思い出したってか?
「まさか、それほどまでに成長させているとはな」
「お前だって似たようなもんだろう?」
そして、そんな質問をしてきたと言うことは、自分の”眼”のことを
そうだ、この皇帝は昔から、眼が特殊だった。
本来見えないものを見ることができて、その力をもって敵対者をねじ伏せてきた。
それが今、昔以上に成長していたとすれば、この出鱈目な回避力にのつじつまが合うと
皇帝も自分の眼が強くなるのは当たり前であり、成長と言う意味ではある種
「ならば……」
「おっ? 本気か? いいねぇ!」
そうであれば、他の手を使わなければならい。
皇帝に攻撃を命中させるのであれば、ただ闇雲に攻撃するだけでは意味がない。
それを察した
皇帝もようやくかと言いながら、やはりニヤリと笑っていた。
「”千の雷”」
「超広範囲なら無意味と判断したのか? 甘すぎねぇかぁ?」
周囲の地面は爆発して砕け散り、宙へと舞い上がっていく。
が、皇帝はそこでもただ、立って笑っているだけだ。
それで俺が倒せるものかと、余裕の態度を崩すことはない。
「それは……、魔法の分解か……?」
「俺は魔法世界の魔力枯渇問題に取り組む上で、魔力をどうにかする方法をずっと研究してきたんだぜ?」
すると、皇帝の周囲の魔法だけが四散し、消滅していく。
それを見ただけで
魔法の分解。
魔力と精霊を呪文で操作してできる魔法を、逆再生のようにすることで崩壊させているのだ。
何せ皇帝はいずれ来ると予想した魔法世界の魔力枯渇に対して、その魔力の源をどうするかをずっと研究してきた。
その中で魔法のメカニズムなども存在し、自在に魔力を支配できるようになっていた。
とは言え、傀儡系などの形成されたものなどは分解、解除不可能。
まあ、そんなもんぶん殴ってぶっ壊せばいいだけなので、むしろそっちの方が楽だと思っている。
「魔法、魔力のことは十分頭に入ってんだよ」
「……伊達に
「そりゃ暇なんてほとんどなかったからな! やりたいこともやるべきことも山ほどあったからよ!!」
これ程の技術を手に入れるのに、どれほどの時間をかけたのだろうか。
目の前の男もまた、同じ時を生きた存在。自分が行っていない方向の研究の成果があってもおかしくはない。
当然皇帝も時間をかけて研究してきた。
それも分身やらなにやら使ってまで、時間に押されてやり尽くした。
気休め程度に休みはしたが、2600年間、毎日毎日やることだらけで忙しかったと笑っていた。
「それに、その魔力や気の動きのなさは、一体なんだというのだ?」
「省エネだよ。最近の流行りだぜ?」
「……いや、大方見ればわかる。恐ろしいことだが、周囲と自身を同調、同期させているな?」
「わかるんなら
さらに言えば、皇帝の体に魔力と気の流動がないことを、
皇帝のこの『無』とは、つまり周囲との合一であり、周囲に四散する魔力と一体化することで、内部ではなく外部で魔力循環を行い魔力行使を遂行する戦闘技法。
これによって、周囲の魔力や気の動きを察知して読み取ることが可能でもあり、”眼”と同時に駆使することで最強の回避力を得ているのである。
だが、説明してやる義理はないので、知らぬ顔をするのが皇帝。
とは言え、とぼけた顔をして笑う皇帝の顔を見ながら
それを聞いた皇帝は、流石に同じ時を生きていないか、と感心しつつ悪態をついてニヤリと笑っていた。
「おいおい、現在最強の英雄様の体が泣いてるぜ?」
「望みどおりに泣いてやろうか?」
「それはちょっとアレだからやめろ」
とは言え、皇帝の”眼”によって、
まったくもって攻撃が当たらず、されど皇帝は積極的に攻撃してこない。
こんな千日手のような状況だと言うのに、皇帝の煽りに
皇帝も目の前の男の顔で泣かれるとこう、なんか、見てはいけないものを見たような気持になるので、拒否しておく。
「……俺のこの”眼”は強くなるにつれて、次第に視界が闇に埋もれていった」
「…………」
そんな時、突如として皇帝が、真面目な顔になって自分の”眼に”関することを発言しだした。
この眼は確かに便利だが、思ったよりは便利ではなかったと。
よく見えるようになっていくにつれて、見えなくてもよいものまで見えるようになっていった。
醜いものが見えた。悲惨なものが見えた。地獄が見えた。
それを
「それでもわずかな光だけは、消えなかった」
絶望が視界を覆っても、小さな点のような明るさは、必ず残った。
ほんのわずかな光だが、その光が見えただけで、皇帝にとっては十分だった。
「何故ならよ……、お前が築いたこの世界とこの眼さえあれば、何かが掴めるような確信が持てたからだ」
生まれつき持つ”よく見える眼”と、お前の作った魔法世界。
この二つが合わされば、その光がこの手に収まると思った。小さい光だが、それが手に入ると理解した。
「俺はずっと、その光の先を掴むために、あがいてきたんだぜ」
それこそが希望なのだと、皇帝は直感した。
手を伸ばしても、中々届かないその小さな光へと、皇帝は必死に手を伸ばし続けた。
あがいて、あがいて、あがいて、あがいて。何度も泥を見ようとも、決して星を見落とさなかった。
「それが何だと言う」
「わからねぇのか?」
「俺は希望の先をずっと見てきたってこったッ!!」
「ぐうっ!?」
だから皇帝は教えてやるのだ。それを知らぬ
その小さな光こそが、希望だと。その先にこそが、自分が求めたものがあるのだと。
自分はそれをずっと追い求め、見てきたのだと。
皇帝はそれを言い終えると、
「だからよ! 希望の先に見た、俺が掴んだ”天”を! お前に見せてやるッ!!」
「なに……?」
そこで皇帝は、今こそここに”天”を掴んだと、そう叫びながら目を閉じて右手を開いて天に掲げた。
すると、皇帝の右の手のひらに、黄金に輝く流れ星が、雫のようにして落ちてきた。
それを握りしめてつかみ取れば、皇帝の『無』であった体の中心に、輝かしき星のような光が発生したのである。
「なんだ、その力は……?」
「言ったじゃねぇか。”天”を掴んだとよ」
「天……? なんだそれは……?」
そして、皇帝が眼を開けば翠の色だった瞳が、黄金の輝きへと変わっていた。
驚愕がら
天……、
それに皇帝が”眼”以外にも別の切り札を用意しているのは薄々わかっていたが、”天”と言う謎の力などとは思ってもみなかった。
「
「…………!!」
皇帝は知らないならばと、”天”について語り始めた。
天、すなわち森羅万象、理と一体化すること。それすなわち、この世界、宇宙そのものとなる、ということだ。
この状態こそ”天を掴んだ”状態だと言い、皇帝が『無』を維持していたのは、この”天”を掴み体の中に納めるためだったのだ。
天を掴んだ状態がこの宇宙と同化と言うのであれば、それはつまり、皇帝と戦う事イコール、この宇宙を相手にすることに他ならないからだ。
「さっき言っただろ? 俺は粘着質な性格で掴んだものは離したがらない、ひじょーにめんどくさい性格だってよ」
皇帝とて無駄にこんな力を得た訳ではない。
2600年間、必死に研究と鍛錬を行いこの闘法を編み出したのは、絶対に欲しいものがあったからこそ手に入れた力だ。
その理由は先ほど述べたと、皇帝は笑いつつも真面目な顔をして話す。
「だから、お前を絶対に攫うために、お前を絶対に倒せるように鍛えてきたんだよ。当たり前だろ?」
「…………恐ろしい男よ」
「安心しろよ、別にDVなんてしねぇからよ」
そうだ、つまりだ、お前を絶対にぶっ倒してでも、かっ攫って行くために、必要な力だと皇帝は豪語しやがったのだ。
だから、この何もないタイミングを狙ってきたし、全部ひっくりかえすほどの力を皇帝は欲したのだ。
その説明には
いや待て、そこまでするか普通? 世界を破壊するとか平和にするとか支配するとか、転生者を倒すためとかそう言う事など関係なく、まさか自分のためだけに?
確かに愚かだの馬鹿だの愚直だの言ったし思ったが、まさかここまでとは予想もしていなかった。本当に直進したら突き進み続けるなこの男は。
流石の
まあ、確かに皇帝のこの力は、転生者対策でもある。
強力な特典を持つ転生者を撃破できるだけの力は必須だったからだ。
だが、それはあくまでサブであり、やはりメインは
最初は転生者を倒すために欲した力だったが、気が付けば女の手を引っ張ることに使おうとしていたのが、この皇帝だったのだ。
なんか身震いしてる
と言うか、別にさっきから戦闘してるけど、避けてばかりでぶん殴ってねえじゃん、と。
「だが、私を倒したからと言ってどうなる? その程度では私を抹消などできない。無意味なことだ」
「無意味かどうかは、今すぐわかるぜ」
とは言え、殺したとしても自分は殺せない。
それこそ意味のない行為だと
「来いよ。次は
ならば、今度こそ正面から衝突だ。
皇帝が
「──────ッ!!!」
両者とも衝突すれば、そこに巨大な爆発が発生し、周囲を砕き粉砕して爆炎の中に姿を消す。
「ぐっ!?」
「相打ち……か…………?」
そして、土煙が晴れたところにあったのは、同時に両者同士が右腕で胸部を貫いた姿だった。
皇帝も口から血を吐き苦悶の声を上げ、
「……いいや、俺の……、────勝ちだッ!」
「グッ!?」
「悪いな英雄……、お前のガキどもとの約束を壊しちまってよ」
一手早かったのは、皇帝の方だった。
そもそも皇帝が貫かれたのは、自らそれを受けて同じ痛みを感じながら、
こいつ愛が重すぎて怖いな。愛、怖いなぁ。
皇帝は手を引き抜くと、そこにはナギの心臓、つまり
そのまま心臓へと魔力を込めて爆散させながら、皇帝はナギへと謝った。
最後に息子らに残した言葉を、無下にしてしまったことに対してだ。
それを聞いた
すると、ナギの体から女性の上半身を象った、何対もの翼と腕を生やした怪異のような姿の存在が出現。
これこそが
「……俺を乗っ取る気か? だけど言ったろ。対策は万全なんだぜ?」
しかし、皇帝はそんなことは先刻承知で百も承知。
パチンと指を鳴らせば持ってきていた棺が皇帝の手元へと飛び込み、皇帝はそれを自分の前へと突き出し盾にすれば、なんと
「とりあえず、ここまでは上手く行ったか」
完全に
「んじゃ、まず先に英雄様を復活させてやらねぇとな。こいつの家族、絶対に泣くし」
次に皇帝がとりかかったことは、心臓を引き抜いてぶち殺したナギの蘇生だ。
女王様を子持ちの未亡人にするのも滅茶苦茶気が引けるし、このままだと英雄殺しになっちゃうしで悪いことしかないので、蘇生は絶対条件にしていた。
「────”不死鳥の翼”」
なので、仰向けに倒れたナギの体の横へと立ち、すぐさま完全蘇生魔法を皇帝は使用する。
12年前、栞の姉に使用した半蘇生魔法の完成版、すなわちあの時点で蘇生魔法を前もって準備していたのである。
また、無詠唱で使えるのは”天を掴んだ”状態だからだ。
この状態なら問答無用でいかなる魔法や現象すらも、無詠唱で放つことができる、ぶっ壊れ中のぶっ壊れ形態だ。
何十枚と言う黄金の羽根がナギの体に振り注がれると、貫かれた場所も失った心臓も修復され、完全に元の状態へと戻っていく。
「…………ふむ、しっかり呼吸しているな。まったく、ある程度魂魄ごと融合してたせいで、ここまで必要になっちまったぜ」
舞っていた黄金の羽根がやんだのを見た皇帝は耳をすませば、ナギの心臓が鼓動して呼吸が始まったのを確認し、魔力結界で保護しておく。
いやはや、これでまあこっちは問題ないだろうと、再び溜息を吐いて安堵。
自分が教えを請うた男が魂の専門家たるシャーマンでよかったと、改めてエージなる男に感謝していた。
「で……、こっちはうまくいったか?」
そして、ようやく本題である棺の方へと向かい指を鳴らすと、棺に巻いてあった鎖が砕け散り、棺の蓋を自動で開いた。
すると、その中から美しい女性の体が出てきたのである。
また、当然だが割と豪華なドレスがその女性に着せられており、その姿はまるで眠り姫のようであった。
「おい、起き上がれるか?」
「う…………」
皇帝がその女性へと話しかけると、女性はゆっくりと目を開いて皇帝の顔を見た。
「…………こ……、これは……?」
「どうだ? 気分の方は」
「これは…………一体……、どういうことだ……? 何を…………した……?」
「俺の2600年間の集大成だぜ? 大いに喜べよ」
女性はそのまま体を起こして自分の姿を見て、静かに驚いた。
そんな女性の様子を無視して、皇帝は気分が悪くないか、調子が悪くないかを女性へ尋ねる。
だが、女性はそんなこと以上に、意味が分からないと言う様子で困惑するばかりだった。
皇帝はそこでこれこそ俺が望んでやまなかったことだと、胸を張って豪語したのである。
「昔のお前を完全再現したんだぜ? ある意味一番大変な作業だったなぁ」
「……何を…………完全再現だと……?」
「隅々まで全部、髪の毛の先から爪先まで全てだぜ。クックックックックッ……」
「お……、お前……、お前…………」
「そのぐらい許せよ?」
そう、この女性こそ、
それを聞いた
えっ、つまり、えっ? 嘘だろお前……、と言う眼で
ただまあ、そんな風にわざとらしい言い方をしているだけだ。実際、このボディー作成自体は皇帝も真面目にやっていたのだ。
あとこの皇帝、基本的に物言いが下品だと言うことを忘れはならない。
「……いや……、問題はそこではない…………」
されど、それは些事。
確かに色んな方向では問題だが、一番の問題にはならない。
「何故だ……。何故……何故
「お前の固有能力は、引き剥がした」
「馬鹿な……!」
何故なら
全人類への無限共感能力であり、基本的に人の内なる負の感情を強制的に見せ続けさせられる能力だ。
皇帝はそれを魂から分離させたとはっきりと告げた。
やはりエージなるものから魂のことを色々教えてもらってよかった、と皇帝はここでも思うのだ。
でなければ、こんな大それたことはできなかったと思ったからだ。
魂に刻まれたこの能力のみを、魂から分離するなど不可能だからだ。
「昔……、あの時、約束しただろ?」
「それはお前が、……あの時気休めに言っただけの絵空事だ……! くだらん妄想だ……!」
「クックックッ……、だが、ようやく約束は果たされたぜ?」
皇帝はその昔、そう2600年前に、当時まだ心が折れず、諦めていなかった時の
それさえなくなれば、精神が削れて摩耗することも、苦痛に苛まれることもはなくなるだろう、と。
されど、それは皇帝が……昔、当時のライが吐いた戯言だと、
寝言をそのまま真に受けるはずもないと、ありえないことだと切り捨てていた。
が、ここでようやく、2600年越しに約束は果たされた。
共感能力は魂から消え去り、強制的に負の感情を読み取る必要がなくなった。
そう言う皇帝は悪役面で悪役みたいにくつくつ笑う。
これが諦めないと言うことだ!
皇帝はこの約束のために、2600年間ずっと研究し続けてきた。
そもそも研究することが多すぎて、本当に大変だった。その上皇帝として帝国を治めなきゃならないしで、死なない体を駆使して寝ずに頑張った日々などざらだ。
時間遅延のためにダイオラマ魔法球も使った。あるものは全て使った。
「……ありえない……、こんなことは……ありえない……」
「現実を受け入れろよ。後俺のことも受け入れろ」
「…………それは、さらに……ありえない……」
「えっ?」
それでも
何せ2600年間、呼吸するかのようにこの能力が発動していたのだ。今更消え去っても困惑の方が強いと言うものだ。
そんな
あと自分もね、と言うが、それに対してそれ以上に受け入れられないと言うではないか。
その言葉は皇帝にとってショックだったのか、目が点になって固まるほどだった。
「だが、我が固有能力が消えたとしても、世界は変わらない……! なんら変わることはないぞ……!」
「だからゆっくり変えていくんだろ?」
「それでも……、それでも全ての人類が平等になることなど不可能だ…………!」
まあ、この能力が消えたのは、百歩譲って受け入れるとしよう。
それでもずっと負の感情を見てきた
皇帝もそんなことはわかっているので、だからやっていくしかないと言うが、
「確かに、そりゃ難しい。だが、それでも前に進むのが人間ってもんだろ?」
「…………人をやめたお前がそれを言うのか」
「何言ってんだ? 2600年前に地獄から這い上がった、俺の保証付きだぜ?」
「…………」
「まっ、それでも時間はあるんだ。これからも考えていこうや」
「………………」
そもそもの話、皇帝がアルカディア帝国を建国したのは、
まあ、魔法世界ができる前の旧世界は、当然少ない数だが転生者が大暴れしてたりするので、そのあたりも絶望したはずだ。
そこまではよかったが、人と言うのは度し難いものだった。
後のその人々の行動は
それに魔法世界ができてからは、転生者がそっちになだれ込んで暴れるとか言う最悪の状況にまで発展したのだから、涙も枯れるというものだ。
逆に少し良かったと言えるのは、転生者がアホほど暴れてくれたせいか、普通の人々が少し大人しかったと言うぐらいか。
皇帝はそれを見かねて、自分で国を作って人々を治めることにした。
人々がしっかりと人として生活できる場所を与えたし、時には反発もあったが、必死に治めてきた。
そうやって皇帝は、ただ自分がやりたいことをまっすぐ突き進んできたにすぎない。
が、皇帝の言葉に
さすれば皇帝は、人間だったころのことを言い出し、今ここにいるんだと笑って言うではないか。
流石にそこまで言われると
皇帝も未来は続くんだからと説得を試み、
「だがまぁ、これで終わりって訳じゃねぇ」
「…………なに?」
されど、ここで完結ではないと皇帝が言えば、
色々考えていたところに急に手を引かれた
「こいつを終わらせねぇ限りは、まだなッ!」
すると皇帝は棺を宙高く蹴り上げれば、棺からどす黒いおぞましい泥がどろどろと噴き出し、見る見るうちに巨大化して醜悪な怪物へと姿を変えていったのである。
「これは、まさか……?」
「そうよ、2600年分、たまりにたまった亡者の残骸ってやつだ」
その漆黒の泥が形成する怪物を見た
皇帝も
ただ、能力と魂を分離しただけではない。
こういう人の負の感情は闇を生む力となる。それもきれいさっぱり洗浄し、生まれた時のような清純な魂へと戻すことも、皇帝の計画の一つであった。
もはや、再誕の儀に等しき行為だった。
と言うことは、
つまり、それが消え去ったということは、
「さぁ、本気でいくかぁッ!!」
そして、目の前の怪物はただの残骸。残りカスだ。
ならば、手加減する必要はない。皇帝は巨大化する怪物へと目掛けて飛び上がり、両手を胸の前で間隔をあけて合わせると、その魔法を解き放った。
「────”星のまばたき”」
────その魔法は光り輝く恒星の死を、瞬間的にかつ疑似的に、ミクロ単位で再現する魔法。天を掴んだ時にこそ使える皇帝の魔法の一つ。
恒星レベルのエネルギーを超新星爆発させ、その全てを滅ぼし消し去る。
それを怪物の発生源である棺がある中央へとぶちこめば、恒星の破裂でその全てを粒子レベルで吹き飛ばし、完全に消し去った。
「────終わった……な……」
漆黒の泥の怪物が消滅したのを見て、ようやくすべてが終わったと、皇帝は宇宙の星空を眺めながら一息ついた。
長かった、今までの2600年は、非常に長かった。それを走馬灯のように思い出しながら、ゆっくりと地表へと降り立つ。
「約束から、こんなにも時間がかかっちまって、悪かったな。
そして、全てを見届けて顔を伏せている
約束がここまで伸びたことを、皇帝自身が後悔していた。もっと早くやるべきだったと、それでも今ようやく果たすことができたのだと。
だからこその、贖罪でもあった。
そこで皇帝は
その名は、ヨルダ・バオト・アルコーン。
「…………」
「そうやってすぐだんまりするの、マジでやめてくんね……?」
が、名前を久々に呼んだのに、その本人からまったく反応がない。
皇帝はここでカッコつけたのに黙られたらまた気まずいだろと、地味にショックを受けていた。
まるで俺が三枚目みたいにスベってるみたいじゃん。
「……まあ、少し考える時間をやるよ。……そろそろこっちも起こさねぇとならんしな」
とは言え、いきなり現状を受け入れることなど、整理しないとならないことで頭がいっぱいだろうと皇帝はヨルダに言うと、未だに耐えれて意識が戻らないナギの方へと足を進める。
「……おーい、起きれるか」
「う……」
皇帝はナギを起こすように呼び掛ければ、ナギもそれに気がつき意識を覚醒させていく。
「……俺は…………」
「悪かったな、
「いや……、むしろ礼を言わなきゃならねぇのはこっちの方だ……」
ナギはゆっくり起き上がり、今までのことを思い返しながら、自分の手のひらを見て動かし、現状を確認。
そこへ皇帝は、息子らへの約束と一度ぶっ殺したことへの謝罪を真剣な表情ですれば、ナギは逆に助けてくれたのだからと、気にしていない様子を見せた。
「んじゃ、帰えるぞ」
「私も……か……?」
「何言ってんだ? 俺はお前を攫いに来たんだぜ? 当たり前じゃねぇか」
ナギが立ち上がり動けるのを確認した皇帝は、ならばもうここには用はないと、帰る準備を始めたのだ。
それを聞いたヨルダは、自分もなのかとおずおずと聞けば、なにを当たり前のことをと、皇帝は晴々とした笑みを見せながら、それを言うのだった。
そして、皇帝はナギとヨルダと共に転移魔法で移動。
そのままナギを横に引き連れて、今開催真っ最中の式典へと乱入。
行方不明だった英雄の帰還に、誰もが驚きと惑い、それを式典に不在だったアルカディアの皇帝が連れ帰ったことが話題となった。
皇帝の直属の部下であるギガントと龍一郎は、滅茶苦茶混乱して頭を抑えて頭痛に悩まされて、残りの部下のメトゥーナトは何やら満足した様子で爽やかな表情を仮面の下で見せていた。
久々にナギの顔を見たアリカと、2日前に殺しに来いと言い残されたネギも当然驚愕と困惑を受けた後、抱きついて涙を大いに流した。
ナギもなんだかよくわからんが、ようやく家族にただいまができて涙を見せて喜んだ。
そこへアスナも駆けつけて、共に涙し喜びを分かち合った。
カギはあまりにも理解不能な光景に数分間フリーズしたあと、とりあえずナギの顔を見に行きながら、なんか知らないが涙が溢れ出して止まらない様子だった。
また、紅き翼の仲間たちも、突然のナギの登場に度肝を抜かれつつ、まぁいいかあ! とリーダーの帰還を大層喜び祭りのように騒ぎ出す。
一番騒いでるのは当然ラカンだが。
その様子を目立たない遠くの隅から眺めているヨルダへと、皇帝はウィンクして見せ、こう言うのもたまには悪くないだろ? と言う態度を見せたのだった。