理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

201 / 201
日常編 その④
二百一話 日常への帰還


 

 墓守り人の宮殿での決戦は幕を閉じた。

そこにいた完全なる世界に手を貸した転生者は全員捉えられ、更生可能な転生者はアルカディア帝国で仕事をしていくことになった。

 

 されど、雇われ傭兵のジョン・Gだけは、何とか逃げおおせて姿を消しており、捕まえることができなかった。

それと転生者ではないが、完全なる世界に協力していた月詠と、真名の相棒だった男、ビリーもまた姿を消していた。

 

 他の危険な転生者は記憶を消されるか、特典を失うと言う罰を受け、罪を重ねた者は当然ケルベラス無限監獄に収容された。

思いのほか転生者の数が多くて大変だったが、どうにかその処理が終わり安寧を手に入れることができた。

 

 また、メガロメセンブリア元老院議員だったナッシュは、行方不明扱いとされ捜索はされたものの、発見できずにその後死亡扱いとされたと言う。

 

 で、肝心の裏切り者自称アーチャーのこと赤井弓雄は……、麻帆良出禁になって入ることができなかった。

麻帆良で覗きやらなにやら不審な行動が目立ちまくったせいである。

自業自得であり世の中そううまくはいかないと言うことだ。合掌。

 

 ちなみに、船を失ったジョニーにはちゃんと新型マンタ飛行船が贈呈されたのでご安心を。

 

 

 それ以外だと、魔法世界に密航した子たちが、事故と言うこともあり学園長からの軽いお叱りの後のお話で、魔法関連のことを一切口外しないなら記憶は消さないと言われ、快く承諾して友人同士喜びあった。

 

 ────こうして、ようやく平穏が訪れた。

 

 

…… …… ……

 

 

「ギイイイィィヤアアァァァァァァァッッ!!!!」

 

 

 朝早くから、地獄からの悲鳴のようなおぞましい声が、一つの部屋から木霊した。

 

 

「なんであんなクソ激闘の結末が、こんなヒデェ惨状なんだよ……!!」

 

 

 アルス・ホールド。男子中等部教師の転生者。

完全なる世界との決戦で必死に戦って生き残り、麻帆良に戻ってきたのだが。

 

 

「おぉ、神よ! 神は寝ておられるのですか!?」

 

 

 何やら今、非常に辛い状況に立たされているようだ。

メガロのエージェントでも有名なこの男が、宮殿でも活躍して見せたこの男が、一体どんな状態になったら、こんな声が出せるのだろうか。

 

 

「人の心とかないのか!? 人のすることか!? これが!!!」

 

 

 怒り、悲しみ、嘆き、また怒り。

感情をグルグルと変化させながら、頭を抱えて教職員宿舎の自室でのたうち回る。

 

 

「なっ、なんで()()なんだ!!!? どうしてなんだッ!!!?」

 

 

 一体何が起こったのだろうか。

いや、すでに起こりかけている、と言う様子で叫び続けるアルス。

 

 

「誰か! 誰か教えてくれよ!! ()()()()()()()()()()()()ッ!!??」

 

 

 アルスが怒りと嘆きと悲しみを覚えることこそ、夏休みが終わって学園が再スタートしたからだ。

そう、夏休み明けの朝、アルスは地獄のような責め苦を受けたような声を出していた理由が、それだったのだ。

 

 

「お……、俺の家族と過ごす憩いの時間は…………、どこに行っちまったんだ……!?」

 

 

 何故なら、単身赴任中故にせっかく夏休みの間、家族サービスしまくりたかったのに、完全なる世界の攻撃に巻き込まれてこのありさま。

 

 その後数日間は魔法世界で家族と過ごせたとは言え、予定よりも遥かに短い期間だったため、こんな風に失意体前屈の姿勢で絶望していたのである。

 

 

「ありえねぇ……、ありえねぇ……」

 

 

 こんなことが……、こんなことが許されていいのか……!? アルスは一番この世を恨んだ瞬間だった。

 

 

「ち……チクショウ……。チクショウゥゥゥゥッ!!!!」

 

 

 故に、大声で叫んで絶望を吐き散らかすしかできなかった。

それでも時間は待ってくれない。涙を飲んで始業式へと出る準備を渋々行いながら、がっくりと肩を落として通勤するのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 そこは初等部の教室。

女性の先生に引き連れられて、初めて学校へと入った少女が一人。

 

 

「みなさん! 今日から一緒にお勉強することになった()()()()ちゃんですよ! 仲良くしてあげてくださいね!」

 

「アマネです! みんなよろしくね! お友達になってくれると嬉しいな!」

 

 

 それは転生者で完全魔法無効化能力を持つ、アスナの身代わりとして儀式に利用された少女だった。

彼女は身寄りのない孤児のような存在であり、その処遇をどうするかを話し合った末に麻帆良学園へと連れて行き、入学させたのだ。

 

 

 

 

 

 

 麻帆良へと戻る前、魔法世界の新オスティアで、アマネの処遇が話し合われた。

そこでとりあえずはアルカディア帝国預かりでよいと言うことになり、その後見人を決めることとなった。

 

 

「なるほど、マスターの後見人か」

 

「わたしが嫌であれば、別の者に任せるが」

 

「いや、それはオレが決めることではない」

 

 

 その後見人の役として手を挙げたのが、あのメトゥーナトだった。

メトゥーナトはすでに魔法無効化を持つアスナの後見人であり、同じ魔法無効化を持つ彼女も担当しようと思ったのである。

つまり、一か所にまとめておいた方が護衛しやすい、ということだ。

 

 アマネが特典で召喚したカルナ(ランサー)も、その話し合いに顔を出していた。

メトゥーナトはあくまで自分がそうすると言っただけで、他がいいならそちらへ変わると話せば、ランサーはマスターに決めてもらうと言葉にした。

 

 

「私はおじさんでいいよ!」

 

「そんなに簡単に決めてしまって、いいのかい?」

 

「大丈夫! カルナの目つきが悪くなってないから!」

 

 

 アマネとしては、特に不満はなく、むしろありがたいとさえ思っていた。

が、人生を左右しかねない大きな選択なので、メトゥーナトはちゃんと再確認すれば、ランサーが気にしてなさそうだから、と理由を答えた。

 

 

「マスター。言っておくが、オレに人を見る目はないぞ」

 

「でも、悪い人はすごい目で見てたし……、大丈夫だよ!」

 

「そうか……、マスターがそういうのであれば……」

 

 

 しかし、ランサーは自分は見る目がないと言う。

何故なら、ランサーにとって人とは、みな同じに見えるからだ。

全ての人が尊いものであり、誰かと比べると言うのは自分には重しに思っている。

 

 だが、ランサーはそれとは裏腹に、貧者の見識にて嘘を見抜く力を持つ。

それにマスターにとって危険そうな相手には、一応警戒はするので、アマネはそれを見てランサーを信用しているのだ。

 

 なのでアマネがそう言えば、ランサーも納得した様子だった。

 

 

「では、これからよろしく」

 

「よろしくね」

 

「うん! よろしくね!」

 

 

 なら、決まりだとメトゥーナトが改めて歓迎の言葉を言うと、傍にいたアスナも続く。

アマネもニコニコしながら、同じ言葉を使ってそれを受け入れる。

 

 

「ならば、君は今日から”銀河天音”になる」

 

「ぎんが? みょうじ?」

 

「うん、そうだよ」

 

 

 であれば、アマネも麻帆良で生活してもらうことになる。

メトゥーナトは今後も麻帆良で活動するからだ。まあ、アスナが学園で学生しているので、基本的に離れることはないということでもある。

 

 なので、アマネには麻帆良で生活するための名前を、そこで与えられた。

銀河とはメトゥーナトが麻帆良で活動するために付けた偽名の苗字であり、アマネの部分は漢字で当てはめた形だ。

 

 アマネには今まで苗字がなかったので、今世初の苗字に首を傾げており、メトゥーナトは優しく答えてあげていた。

 

 

「じゃあつまり、アマネちゃんは、私の妹に……!?」

 

「まあ、確かにそういうことになるな」

 

「……お姉ちゃん?」

 

 

 と言うことは、とアスナはふと思ったことを口にした。

それは同じ苗字を持つのだから、アマネが自分の妹と言う扱いになると言う事だった。

 

 メトゥーナトはそれを肯定し、アマネはアスナをじっと見て、姉、と言うものをうっすら感じた様子だった。

 

 

「お姉ちゃん!」

 

「よしよし!」

 

 

 するとアマネは、そのまま笑顔でアスナへと抱き着いてきた。

そのアマネの人懐っこさに絆されたアスナは、そのまま受け止め頭をなでて微笑む。

 

 

「……子供が苦手だったのではなかったか?」

 

「そりゃ今でもナマイキなガキんちょは苦手よ? でも、こんなかわいい子を嫌いになれるわけないじゃない!」

 

「そ……そうか……」

 

 

 その光景を見ていたメトゥーナトは、アスナが小学校へ入った時、ガキがどうのこうのと文句タラタラ愚痴ダラダラだったのを思い出してそれを言うと、アマネちゃんは別だとアスナは言い出した。

 

 アスナはクソ生意気なガキが苦手と言うか嫌いなだけ、特にあの時のいいんちょとかいいんちょとかいいんちょとか、と地味に思っていたりする。

自分も似たようなものだったのを、大きく棚に上げているのである。

きっとあやかが聞けば、鼻で笑うことだろう。

 

 メトゥーナトはまあいいか、悪いことじゃないし、と、とりあえず適当な返事を返しておいた。

 

 

「なるほど、ではオレも弟か兄になる……のか?」

 

「えっ!?」

 

 

 そこでランサーが突如、なら自分もと言い出した。

アマネがここの家の妹になるのであれば、烏滸がましくもアマネの兄として接してきた自分は、そのどちらかになるのではないか、と。

 

 アスナはランサーの突然の発言に驚き、びっくりした声を自然と出していた。

 

 

「そうかも! カルナは私のお兄さんだもん!」

 

「えっ!?」

 

 

 アマネもランサーは兄だしそうなるね、と元気よく便乗。

それにもアスナは驚きの声を出して、ニコニコするアマネを眺めていた。

 

 

「まぁ……、そうしたいのであれば……」

 

「ま、まあ、それなら弟と言うより、お兄さんじゃないですか……? 流石に……」

 

「そうか……、やはり()か……、兄……か……」

 

 

 その発言にメトゥーナトも、ランサーがそうしたいのなら、できるけど、と言う。

アスナもランサーの兄か弟、と言う発言に、できれば兄で、と言えば、ランサーは兄、特に年長の兄の部分がひっかかったのか、急に悩むしぐさを見せ出す。

 

 そもそもランサー、カルナは元々長男キャラだ。

だが兄として、長男として碌な思い出がねぇ……、と言う兄弟間での殺し合いの末に、弟でライバルだったアルジュナに撃たれているので、それをちょっと気にしたのである。

 

 まあ、本題はそこじゃなく、そう言った経緯があるので、兄としてうまくコミニュケーションを取れるか、不安になったと言う訳である。

 

 

「…………」

 

 

 するとランサーはシン、と無言になってしまい、誰も言葉を発さなくなってしまった。

 

 

「ダメだよカルナ、ふんいき悪くしちゃ」

 

「すまない。元来、このように暗い性格なものでな……」

 

 

 見かねたアマネがランサーへと軽く叱咤すれば、ランサーも小さく謝る。

自分、こんな性格なんで、と。

 

 

「……まあ、君の方も仕事などを与えられる予定だ」

 

「承知した。そちらの気づかいに感謝する」

 

「なに、当然のことだ」

 

 

 ランサーが兄になるかは別で、ランサーにも麻帆良での仕事がすでに割り振られており、メトゥーナトがそれを言うとランサーも軽く頭を下げた。

そんな謙虚なランサーに、メトゥーナトも小さく頷く。

 

 

 そして、アマネとランサーは、世話になった村の人たちに今までの分の感謝と別れの挨拶を告げ、彼らと共に麻帆良へと歩みを進めたのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ここは男子中等部の3-A組の教室内。

そこではいつもの三人が、元の世界に帰ってきたことを実感していた。

 

 

「やっと戻ってこれたぜぇ……」

 

「思ったよりは大変だったね」

 

「本当に夢みたいだったね」

 

 

 状助はマジで疲れたと言う様子で机につっぷし、覇王は予想を超えた転生者の数のことを話し、三郎も椅子の上で苦笑した様子を見せていた。

 

 

「もう二度とあんなことしたくねぇぜ……」

 

「ははっ、でも随分と頑張ってたじゃないか?」

 

「そりゃよぉ……、やらなきゃヤベェからよぉ」

 

 

 もうやだ、あんな場所行きたくねぇ……、と状助が言えば、覇王はニコニコしながらようやったと褒め出した。

が、状助も覚悟があって魔法世界へ足を踏み入れた訳だし、必死に何とかしなきゃと行動した結果だ。

 

 ちなみに、覇王が閉じ込めていた二人は戦いの後に解放された。

バアンはそのまま魔界へと帰り、陽は京都に直送されて今は説教されまくったあと反省のために監禁されているそうな。

 

 だが、別で閉じ込めていたヴィクトールはかなり危険視され、アルカディア帝国にて厳重に管理されてしまった。

ただ、本人はもう完全にやる気を失っており、もう以前のように暴れることはない様子なので、特典を抜かずに閉じ込めるに止まっている。

 

 

「三郎だってよぉ、よくやってたんじゃあねぇのかぁ?」

 

「俺? 俺なんて全然だよ。だってほとんど何もしてなかったし」

 

「まあ、なんかヤベー連中だらけだったもんなぁ……」

 

 

 それに自分だけじゃなく、三郎も頑張っただろう、と状助は三郎へ告げるが、三郎は別に戦ってないし……、と後ろめたそうに話した。

とは言え、敵対者が全体的に強かったり転生者だらけだったので、無理して戦う方が危ないと状助は思っていたのである。

 

 

「それでもあの状況を切り抜けてきたんだから、少しは胸を張ってもいいんじゃないかい?」

 

「そうかなあ……」

 

「俺も最後お荷物持ちだったしよぉ……」

 

 

 それでも世界の危機に直面し、その場にいたのに無事だったのだから、もう少し自信もっていいよと覇王は言う。

されど、三郎はやっぱり戦ってないからそれはないな、と言い、状助も最後の最期は最後の鍵持って歩いてたぐらいしか記憶になかった。

 

 

「……実を言うと、僕も最後の方、本当は結構ヤバかったんだよね」

 

「マジかよグレート!?」

 

「あんなに暴れ散らかしてたのに!?」

 

 

 そこで覇王は、あの戦いの最後あたりの胸の内を、二人へ話し出した。

あの時、結構しんどくてマジでキツかったと。

 

 状助も三郎もそれを聞いて、ギャグか冗談だと思いながら驚いた。

だってあの時の覇王、存分に暴れ回ってたし。敵は全部殲滅する勢いで飛び回ってたし。

 

 

「ほら、武装錬金でエネルギードレインってあるだろ? あれをモロに食らっちゃってね」

 

「マジかよ……。よくぶっ倒れなかったなぁ……」

 

「なんでそれ受けて、あんなに元気に飛び回ってたか不思議なんだけど……」

 

 

 確かにそうなんだけど、と覇王は思ったが、そのヤバかった理由を二人へ説明する。

それは転生者ヴィクトールが使用したエネルギードレインで、生命エネルギーをかなり吸われたことだ。

 

 そのせいで体力がめっちゃ持ってかれてしまい、割と戦ってるのがギリギリだったと、覇王は疲れた顔をして語る。

 

 状助も三郎も、それを聞いたら逆の意味で嘘だろ、となった。

エネルギードレイン食らったら、普通の人なんてすぐぶっ倒れるし、戦闘能力持ってる人でさえ動けなくなるぐらいの影響が出るはずだからだ。

 

 なのに、最後までずっと戦場でバトってる覇王を見ていたので、なんで動けたの? と二人は疑問に思ったのだった。

 

 

「いやあ、弟子にカッコ悪い姿見せたくなかったしさ」

 

「男の意地ってやつかい? その気持ちはわかるなあ」

 

「俺なんてしょっちゅう情けねえ姿しか見せてないけどなぁ」

 

 

 何故、と聞かれれば、理由は簡単。

木乃香にダサい姿は見せたくなかったから、と覇王はあっけらかんと言う。

自分の弟子で大好きな女の子の前でヘバった姿なんて、見せたくなかったのだと。

 

 その言葉に三郎は、腕を組んで頷き同意。

三郎も彼女である亜子の前では、なんだかんだ言って強がったりしたことがあるからだ。

 

 が、状助は別にそういうのはなく、そんな時だって常にいつも通りだと笑っていた。

 

 

「状助だって、やる時はやってるじゃないか。いいと思うよ?」

 

「そ、そうかぁ?」

 

 

 そんな状助へと、覇王はそれだけじゃないだろとはっきり言葉にする。

拳闘大会決勝戦だって自分の約束守ったし、死にそうになっても戦えるのが状助だ。

状助が情けないなんて言ったら、人類全員情けないだろと、覇王は思ったのである。

 

 覇王からそう言われた状助は、少し照れ臭そうに笑っていた。

 

 

「いやぁ、でもよぉ。こうやってグダグダだべってられるのはよぉ、最高だよなぁ……」

 

「そうだねぇ……」

 

 

 まあ、そんな過ぎたことなどよりも、この今の快適な状態が良いと、状助は体の力を抜いて楽にする。

三郎も日常に戻ってきたことを実感し、空を眺めていた。

 

 そして、ジョゼフが入ってきて授業が始まり、いつも通りの生活へと戻っていったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 誰もが麻帆良へ帰る前の、魔法世界でのこと。

そこでディオはエヴァンジェリンと、二人で対談を行っていた。

 

 

「さて、どうするのだ、キティよ? 答えを聞かせてくれ」

 

 

 あの時、新オスティアで再会した時に話したことへの答えを、ディオはエヴァンジェリンへ聞きに来たのだ。

 

 

「私は…………、私は兄様には……ついて行かない……!」

 

「ほう?」

 

 

 エヴァンジェリンの答えは、ディオとは行けないということだった。

それを聞いたディオは、腕を組んでエヴァンジェリンの次の言葉を待つ。

 

 

「……なんだかんだ言って、今の生活が結構気に入っている。とりあえずは、麻帆良に戻ろうと思う」

 

「なるほど」

 

 

 と言うのも、エヴァンジェリンは麻帆良での生活が思った以上に快適だったので、そこにもう少し滞在する気だった。人形従者にしている茶々丸も学校通ってるし、という理由もあるが。

それに今更兄であるディオと故郷へ帰っても、別に何もないし感慨深いものもない。だから断ることにしたのだ。

 

 ディオは理由を聞いて、小さく頷くだけであった。

特に説得することも、強制しようとする様子もなかった。

 

 

「止めないのか……? 無理やり連れて行かないのか……?」

 

「何故? キティがそうしたいというのであれば、それがよかろう」

 

 

 エヴァンジェリンは最初、ディオが無理にでも連れて行くのかと思ったようだったが、そうじゃなかったことに少し戸惑った。

それを話せばディオは、エヴァンジェリンがそう決めたのであれば、それに従うと話すだけだった。

 

 

「私は……、俺はお前が寂しくないか心配だったのだ……。だが、そうでないのであれば、俺は不要だ」

 

「兄様……」

 

 

 そもそも、ディオがエヴァンジェリンを探していた理由は、孤独に震えているのではないかと思ったからだ。

別にそうでないのならば、兄とて一緒にいる必要はないと言葉にする。

 

 また、ディオはエヴァンジェリンを探していた時、何故麻帆良へ一度も行かなかったのか。

実はそうではない。本来()()でエヴァンジェリンが、一番最初に中学校へ編入すると言う時期に、一度ディオは麻帆良を訪れていた。

されど、その時にエヴァンジェリンの姿がなかったので、シナリオにズレが生じたと思い、二度と足を踏み入れなかったのだ。

 

 そう、()()()エヴァンジェリンが麻帆良を訪れたのは、()()()()()()()()2()()()()3()()()()()()()だった。

そのせいでディオは、エヴァンジェリンの居場所がわからなくなってしまったのである。

 

 ディオの優しい瞳を見て、エヴァンジェリンはディオを懐かしい声で、懐かしい呼び方で呼ぶ。

やはり、兄は昔のままだ。昔のように優しくて、自分に甘い兄だ。

 

 

「…………すまなかった。キティよ」

 

「それは、何の謝罪だ……?」

 

「……いや、忘れてくれ。今のお前には、この謝罪は侮辱になる」

 

「……兄様が何を思って謝罪したかは知らないが、その謝罪は胸にしまっておこう」

 

 

 すると、ディオが突然、エヴァンジェリンへと謝りだした。

この謝罪の意味、それは自分が不甲斐なかったせいで、吸血鬼にしてしまったこと、孤独の時に傍にいられなかったことなどを込めたものだ。

 

 ただ、エヴァンジェリンにはその理由などわからないし、謝罪されるようなことが思い当たらなかった。

なのでそれを聞くと、ディオはこれはなかったことにと取消し、少し曇った表情を見せた。

 

 エヴァンジェリンは今の謝罪にどんな意味が込められているのかはわからなかったが、自分のことに対してだと言うのは理解できた。

なので、あえてその謝罪を受け止め、答えは言わないことにした。

 

 

「優しいな……」

 

「私は、いつだって優しかっただろう……?」

 

「フフッ、そうだったな……」

 

 

 そんなエヴァンジェリンへとディオは微笑んで褒めれば、エヴァンジェリンは昔の自分だってそうだったと、年ごろの少女のように怒ってみせた。

 

 ディオはエヴァンジェリンの仕草に懐かしさを覚え、小さく笑いながらエヴァンジェリンの頭を撫でた。

本来ならば600年前のあの日、何もなければこのようにできていたのに、と思いながら。

 

 

「…………! 兄様……! 私を子ども扱いするな!」

 

「それはすまなかった。だが、どんなに時が経とうとも、お前は俺の妹に変わりはない」

 

「……それなら、私だって……兄様は永遠に私の兄様だ」

 

「嬉しいことを言う」

 

 

 数秒間頭を大人しくなでられ、昔を懐かしんでいたエヴァンジェリンだったが、ハッとしてディオの手を掴んで頭から離す。

でも、撫でられたこと自体は、とても暖かくて嬉しかった。

 

 子供のような理由でまた怒っているエヴァンジェリンに、子供というより妹として扱ったのだとディオが言えば、エヴァンジェリンもそれはお互い様だと微笑んで言葉にした。

 

 ディオはエヴァンジェリンが、この自分をちゃんと兄として認めてくれていることに、大きな喜びを感じていた。

エヴァンジェリンは聡明だ。きっと自分が()()()だと言うことを、察しているはずだ。

それでも兄として認めてくれることに、ディオは心から嬉しく思った。

 

 

「俺もアルカディアで面倒を見てもらうことになった。何かあれば連絡をくれるといい」

 

「そうか……、わかった。でも、別に何もなくとも、定期的に連絡する」

 

 

 そして、ディオはその後アルカディア帝国へと赴き、そこで活動することになった。

だから何かあったら頼ってくれと言えば、エヴァンジェリンはそうでなくとも連絡すると言ってきた。

 

 

 あの日、家族は全員死に絶えたと、エヴァンジェリンは思っていた。

されど、兄は同じ吸血鬼となって、目の前に現れた。確かにそれで一度悲しんだが、それでもたった二人残った家族だ。

兄妹としてのつながりがあるのであれば、それを絶やす必要はないと、エヴァンジェリンは思ったのだ。

 

 

「フッ……、ありがとう。では()()()

 

「ああ、()()。兄様……」

 

 

 こうして兄妹の対談は無事に終わった。

ディオは次もまた会うだろうと、別れの挨拶を述べてゆっくりと立ち去れば、エヴァンジェリンも同じ言葉で、兄の背中を見届けたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 そして、麻帆良学園の女子中等部3-Aの教室内。

そこには新たな顔の女子が一人、ネギとカギの横に連れられて入ってきた。

 

 

「みなさーん! 新しい友達が急きょ編入してきましたよ! 仲良くしてあげてください!」

 

「知ってる奴もいるかもしれんが……」

 

 

 ネギとカギが部屋のドア開けて入ってくれば、新入生が来たと言うではないか。

カギは持ってきた机と椅子を床に置きつつ、その新入生のことを知ってる人もいると、ぽつりとこぼす。

何せ自分も顔は見た、程度に知っているからだ。

 

 また、()()()ネギは原作とは違い、別に忙しくないので教師を普通にしている。

何せネギが考えた魔法世界問題の代替案で解決した訳ではないので、そのため自ら進んで宇宙開発やらをする必要がなくなったからだ。

 

 いや、宇宙開発なら別の方向で話が進んでいる。

宇宙開発、火星の開発の重要性を理解しているナギがすでに復活しているので、知人に話を通したりし始めたからだ。

 

 さらにスピードワゴン財団がそれを取りまとめてくれるようになり、そこから他の財団などに話が行き渡り始め、協力する組織が増えてきているのである。

頼もしいなスピードワゴン財団。

 

 

 それで地味に忙しくしているナギとアリカとは、ちゃんと連絡を取り合っているネギら兄弟。おかげでネギが特に元気だ。

ただ、カギはぶっちゃけあまり変わらない。驚いたがそれ以上はないからだ。

 

 

 まあ、それとは関係なく、そこへ現れた少し小柄なやや紫がかった青い髪の長髪の少女。

 

 

「あっ、あの人は……!」

 

「確かあの人って……」

 

 

 ふと、その顔を覚えている人たちは、その姿を見て少し驚いた。

裕奈は総督府で会話しているのでしっかり記憶しており、宮殿内で同じチームで少しだけ一緒に活動したアスナも、ちょっとだけ顔は覚えていた。

 

 

「紹介に上がったトリス・メルリよ。よろしく」

 

 

 それこそエヴァンジェリンの従者となった、元完全なる世界のメンバーの転生者。

麻帆良女子中等部の夏用制服を纏ったトリスだったのである。

 

 何故こうなってしまったかと言うと────。

 

 

 

 

 

 

 麻帆良へ帰る前、魔法世界での出来事。

エヴァンジェリンがディオと対談し、ディオを見送った後の話だ。

 

 

「はぁ? なんで私が今更学生しなきゃならないのよ!? おかしいんじゃないの!?」

 

「貴様は私の従者だぞ。一緒に麻帆良へ来てもらうついでだ」

 

「別にもう行く必要ないじゃない!?」

 

「思いのほかあの場所が気に入ってな。貴様にもついてこいと言う訳だ」

 

「そんなことで!?」

 

 

 エヴァンジェリンは麻帆良へ帰るので、従者であるトリスも連れて帰ることにしていた。

そこで思ったのは、トリスの年齢を考えるとまだ学生ではないか、ということだった。

 

 その年齢で学校も行かずにふらつくのは、ちょっとマズくないか? と考えた。

自分の家でメイドでもさせとけばいいと思ったが、人形従者の茶々丸ですら学校に行っていると言う事実がある訳で。

こいつも学校行かせた方がよくないか? と思ったのである。

 

 が、トリスはいきなり学校行けと言われても、馬鹿言うなと困惑しかない。

それに魔法世界の問題は解決したのだから、別に麻帆良に行く必要もないのではと疑問に思った。

 

 されど、エヴァンジェリンが麻帆良を気に入ったと言う理由で戻ることにしたと話せば、さらに文句を飛ばすトリス。

 

 

「……と言うか、あのクソ皇帝を数発ぶん殴ってスッキリしたしな」

 

「はぁ?」

 

 

 と言うのも、エヴァンジェリンは一度アルカディア帝国に戻ろうかと思ったりもしたが、皇帝を思う存分ぶん殴れたので、気持ちが晴れやかだった。

なので、別にその必要もないなと思い、麻帆良へ行くことを決断したのである。

 

 それを小言でエヴァンジェリンがつぶやいても、トリスには理解不能なため、首をかしげるだけだった。

 

 

「なんで学生やることにつながるのよそれが!!」

 

「貴様だってそのぐらいの年齢だろう? 普通に生活するなら学生になるのが当たり前なんじゃないのか?」

 

「うぐう……!!」

 

 

 ただ、やはり学生をやることに納得のいかないトリスは、たかが麻帆良へ行くだけで学生をする理由はないと叫ぶ。

が、エヴァンジェリンはそもそもの話、年齢を考えたら学生するべきではないのか、とはっきり告げれば、ガチ正論食らったトリスは流石にぐうの音も出ない様子で黙ってしまう。

 

 

「そういうことだ。別に辞めたいのならそれでいいが?」

 

「別に辞めたいなんて言ってないじゃない! わかったわよ! 学生してやるわよ!!」

 

「コイツ超チョロイナ……」

 

 

 なら、従者やめて出ていく? とエヴァンジェリンが言えば、トリスは別にそうじゃないと叫び、そこまで言うなら学生でもなんでもやってやると言い出した。

そんなトリスを見ていたチャチャゼロは、呆れ果てて憐れんだ様子を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ということで、渋々、本当に渋々だが学生をやることになったトリスは、女子中等部3-Aに転入してきた。

 

 また、エヴァンジェリンはめんどくさい手続きもろもろなどは、麻帆良に未だ在籍しているメトゥーナトや、学園長に任せた。

一応頼んだので、偉そうにやれと言った訳ではないようだが。

 

 

「はぁ……、今更学生だなんて、乗り気じゃないんだけど……」

 

「そう言うなって。二度目の人生悔いのないよう勉強しろよ」

 

 

 で、未だに渋々なのをぶつぶつと愚痴りまくるトリス。

見かねたカギは転生者仲間として、二度目なんだから勉強しようぜ、と話しかける。

 

 

「チビなガキにそう言われるの、かなり癪なんだけど……」

 

「おまっ!? 一応教師だぞ!!」

 

「一応って認識なの? ……大丈夫?」

 

「まあ、うん、なんとか……まあ……」

 

「あっ、そ、そう……」

 

 

 が、トリスとしては見た目子供のカギにそれを言われるのが腹立たしかったようで、さらにそれに対して文句を飛ばす。

カギは怒ると言うより、これでも今の自分は教師やってんだから、そういう物言いはよせ、と注意。

 

 しかし、一応と言う単語にトリスが反応し、それでいいのかと聞くと、カギは自信なさげにキョドりだした。

それを見たトリスは、その態度に察して、えっ、大丈夫なの本当に? と心配になってきた。

 

 

「ほら! 兄さんばかり話してないで!」

 

「うっ! す、すまん……」

 

 

 そこへネギが出てきて、ずっとトリスと会話してるカギを叱りだした。

自己紹介中なんだから、もっと他の生徒たちにも話をさせなきゃダメじゃないか、と。

カギも弟に叱られて、ペコリと頭を下げて反省する態度を見せて謝る。

 

 

「……先が思いやられるわね」

 

 

 子供先生二人の様子を見たトリスは、この先やっていけるかどうか、かなり不安になってきたのだった。

 

 




原作での山場の戦いは終わりましたが、まだ続きます。
あと体育祭でやることがほとんどないですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。