理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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二百二話 友人

 

 

 麻帆良学園女子中等部の女子学生寮の一室。

 

 

「…………なんだか、おかしい」

 

 

 やっと帰ってきた我が家とも呼べる寮の部屋で、久々に自分のHPを更新してチヤホヤされまくっていた千雨。

最高の快適空間に囲まれて満足感高いはずなのに、何か物足りなさ、満たされなさを感じていた。

 

 

「何故だ? 何かが足りない……、何が足りない……?」

 

 

 何が足りないのか、千雨はわからず困惑する。

この部屋にあるもので、足りないものはないはずだ。満たされないはずがないのだ。

完璧な快適を再現したこの部屋に、必要なものは全部そろっているはずなのだから。

 

 

「あの意味不明なファンタジーからクーラーが効いた涼しい部屋に戻ってきて、ネットもできて快適なはずなのに、何故だ……?」

 

 

 なのに、何かが足りない。心の奥底から満たされない。

魔法世界とか言うイカれた世界から帰ってきて、ようやくこの部屋で腰を落ち着かせられると思ったのに、謎の渇望に悩む千雨。

 

 自分でも意味が分からない、この症状。

まさか、まさか、そんな馬鹿なことは万に一つもあり得ないことだが、あのイカれた世界に染まってしまったのだろうか。

千雨は悩みに悩んだ末に、何とかせねばと行動した。

 

 

「で……、俺に声をかけた……と」

 

「あ、あぁ」

 

 

 で、その行動とは千雨はいつも通り、法に連絡を取って相談に乗ってもらうことだった。

珍しく愚痴以外の相談だと思って聞いてみたら、なんか変なこと言い出した千雨に、法も少し理解が追い付かない様子だ。

 

 

「…………正直言おう。俺に解決できる問題ではない」

 

「……まあ、そうだよな」

 

 

 とは言え、法もそんなことわからん、とはっきり言う。

何かわからんが足りないって言われても、正直困る。と言うか、本当に唐突だな、と。

 

 当然だが、千雨も法に相談して解決できる問題ではなさそうなのは、重々承知だ。

でも、とりあえずは誰かに話を聞いてほしかったと言うのが本音だ。

 

 

「…………」

 

「どうした? 俺の顔に何かついているのか?」

 

「……いや、なんでもねえ」

 

「そうか? ならいいが……」

 

 

 そこで千雨は法の顔をじーっと見ると、両頬に何かの痕があった。

千雨にはその痕の意味はわからなかったが、これは法が全身アルター化した弊害であり、アルターの浸食による代償だ。

 

 が、法はそれを気にしてはいないので、何故かジロジロ人の顔を見る千雨へ疑問を持つが、千雨はそれに気がつきながら、あえて何も言わなかった。

 

 

「何かが足りないとか言ってたな」

 

「確かにそう言ったが……」

 

「カズヤの奴が、似たようなことを叫んでうるさくしていたのを思い出してな」

 

「あぁ……」

 

 

 すると法は、千雨が足りないと言ったことでカズヤのことを思い出し、それを話す。

カズヤは魔法世界と言う喧嘩上等な場所を知り、この麻帆良の喧嘩では物足りなくなってしまったらしい。

 

 それを聞いた千雨も、またあいつの悪い癖が出た、と思うだけで、呆れた態度の返事しか返せなかった。

 

 

「は? 待てよ。それじゃまるで一元と私が同類みたいじゃねえか!」

 

「そこまでは言ってないが……」

 

 

 と、そこで千雨は気が付いた。

それじゃ自分が言い出したことが、カズヤと同じで仲間のように聞こえると。

法は別にそういう意味で言った訳ではないので、また千雨の被害妄想が始まったな、と思うだけだった。

 

 

「だがまあ、どうにか黙らせようとしても、余計に悪化するだけで、どうにかしたものかと思っていたところだ」

 

「はぁ」

 

 

 法が何故こんな話をしたかと言うと、ぶっちゃけカズヤがクソウザイ。

あっちで暴れてぇだのつまんねぇだの騒がしくて、それを叱ると今度は喧嘩になる。

いや、法が我慢すればいいだけなのだが、法もカズヤに売られた喧嘩は必ず買うので、どっちもどっちなのだが。

 

 千雨もこの二人の喧嘩っぱやさを理解しているので、それを聞いてまた喧嘩してんのかよこいつら、とさらに呆れた声が出る。

悪化させてんのむしろお前じゃね? と突っ込みたくなったが、めんどくさくなりそうだからあえてやめておいた。

 

 

「すまないが、お前からカズヤに何か言ってやってくれ」

 

「は? なんで私が?」

 

「存外、お前の言葉なら言うことを聞くことが多い。頼む」

 

「ま……、まぁ、こっちもよく頼みをするし……、そんぐらいなら……」

 

 

 そこで法は、カズヤの相手を千雨にしてもらうことにした。

が、いきなりこっちに話を振られた千雨は、何故自分が? と思うだけ。

ただ、法は千雨の言う事ならカズヤもなんか聞くみたいなのを見ているので、それで頼んでいるところもあった。

 

 千雨としても法には愚痴りまくってたりするので、法からの頼みは断れないと思い、渋々ながら承諾。

なんで相談しに来たこっちが逆に相談受けてんだよ、と心の中で悪態付きながらも承る千雨は、随分とお人よしだ。

 

 

 と言うことで、しかたなーくカズヤに連絡を取り、会いに行く千雨。

 

 

「で? 俺んとこに説教しに来たってか?」

 

「別にそういうことじゃねえが……」

 

「同じだろ?」

 

 

 で、そこで態度デカく現れたのは、カズヤ。

こいつ法に絆されて説教しに来やがった、と言う認識で千雨を睨めば、説教まではやらんと千雨は言う。

が、叱りに来たのはかわらんと思うカズヤは、どっちもどっちだろ、と呆れた様子を見せた。

 

 

「そこまでうるさくしてるかねぇ? 確かに退屈で退屈でしかたねぇってのはそうだが」

 

「退屈か?」

 

「一度あっちの味を知っちまうと、こっちじゃ満足できねぇのさ」

 

 

 とは言え、カズヤも街中で騒ぐとか寮の中で大声で叫んでる訳じゃないので、そんなこと言われても困る、とは思っていた。

千雨は退屈、と言う言葉を聞いて、そんなに? と質問すれば、魔法世界が最高すぎたとカズヤは笑って言い出した。

 

 

「……お前、その腕と顔……」

 

「あぁ? これか?」

 

 

 そこで千雨は、法と同様にカズヤの顔と腕を見れば、何やら痕ができていた。

依然として右目は開いておらず、特に右腕は手首しか見せていないのに、なんかもうアレな状態で痛々しさがすごかった。

 

 カズヤはと言うと、千雨のつぶやきに、自分の右腕を見ながらも、別にって顔をするだけだ。

 

 

「気にすんな。これは俺がわかっててやったことだからよ」

 

「だが……」

 

「気にすんなっつってんだろ?」

 

 

 何故か千雨が気にした様子でチラチラ見るので、カズヤは小さく笑って心配するなとはっきり言った。

そもそもカズヤ自信がこの能力をデメリット込みで使っているので、最初から気にしてはいないのだ。

 

 されど、千雨は自分が誘ったせいでそうなったと思っているので、随分と気に病む様子を見せる。

そんな千雨に、カズヤはただ笑っていた。気にしすぎだろと。

 

 

「……わかった」

 

「んじゃ、今日は帰んな」

 

「そうする……」

 

「……おん? やけに素直じゃねぇか? 腹でも壊したか?」

 

 

 すると、千雨は急に大人しくなり、カズヤの言葉に素直に従った。

カズヤは叱られたくないので帰れと手を払ってしっしとすれば、それにも千雨は大人しく従った。

なんか急にしおらしくなった千雨を不思議に感じたカズヤは、調子でも悪いのかと聞いてみた。

 

 

「おい? なんだ? 変な奴だな……」

 

 

 が、千雨は何も言わずに静かに立ち去り、そのまま帰って行った。

普段の千雨じゃありえない行動に、カズヤはモヤつきながら妙だな、と思うだけであった。

 

────だが。

 

 

 

 気が付けばカズヤは、どこか知らない部屋のベッドに括り付けられていた。

手足を縛るものは物理的な物体ではなく、何やら光った謎の力であり、能力で分解ができなかった。

 

 

「って、なんだこりゃ!?」

 

 

 カズヤは自分の突然起こった状況に、意味が分からないと言う様子で大きく叫んだ。

 

 

「カズヤもか……」

 

「法もかよ!? どうなってやがんだこいつは!?」

 

 

 すると、隣のベッドに同じようにされた方がおり、法も気が付いたカズヤに声をかければ、カズヤは法も同じ状況なことに、かなり困惑した様子を見せた。

 

 

「私がそうしてもらった」

 

「長谷川!?」

 

「このアマテメェ!?」

 

 

 その部屋の扉が開けば、逆光の中で仁王立ちする千雨が現れたではないか。

二人は千雨の姿を見て、たまらず千雨を呼んだ。この状況の意味がわからなすぎたからだ。

 

 

「なるほどな。確かにこれは随分と深刻な状態だ。相談される訳だ」

 

「へえ、治癒系術の使い手だからって呼ばれたけど、なるほど、そういうことか」

 

「こりゃ酷い状態っすねぇ……」

 

 

 さらに、その後ろから三人の人影が登場し、カズヤと法を囲ってジロリと眺め出した。

その三人とは、エヴァンジェリン、覇王、状助だった。

 

 三人はカズヤと法の能力で変質した部分を見て、思い思いの言葉を述べながら、納得の様子を見せていた。

 

 

「なっ、何をしやがる!?」

 

「どうするつもりだ!?」

 

 

 急に四人に囲まれた二人は、何が起こるのか不安となって少し焦りだす。

まあ何か悪いことをされる訳ではないはずなのだが、何か妙な空気を感じてそんな風な様子なのだ。

 

 

「お前らの能力でおかしくなっちまったところを、どうにかしてもらおうと思ったんだよ」

 

「気にすんなってんだろ!?」

 

「いいや、気にする!」

 

 

 そんな二人へと、千雨が説明をする。

千雨は法とカズヤの能力で発生した代償を何とかしてもらおうと、エヴァンジェリンへ相談したのだ。

そこでエヴァンジェリンは珍しいと言うか初めて見る症例のため、とりあえず近くにいる者で治癒できる覇王を呼べば、そこに状助が付いてきた。

 

 また、アルカディア帝国にいるギガントも呼んだのだが、流石にすぐには来れないと答えが返ってきた。

ただ、来週には来る予定にしてあると言われたので、そこで個別に見てもらうことにしたのである。

 

 つまり、千雨は二人の状態を見て、結構気に病んでしまっていた訳で。

なので何とかならないかと相談し、魔法使いでない二人にエヴァンジェリンが催眠術を使って眠らせ、こっそり自分のダイオラマ魔法球内に拉致したのである。

 

 だからカズヤがそう言っても、千雨は自分の気持ちを一切曲げなかった。

 

 そもそも、千雨が何か満たされないと思った理由、それは二人が能力を使いすぎてぶっ倒れたのを見たために、心の奥で心配になっていたからだ。

カズヤはなんかもう腕がズタボロだし、法もかなりヤバい状態になっていた。

 

 自分が魔法世界に誘ったせいだと思った千雨は、それをなんとかしてやりたかったのだ。

 

 

「別に悪いようにはしないさ。治療するだけなんだからな」

 

「腕ちょんぎって新しく生やした方が早いんじゃないか?」

 

「俺の能力じゃちょん切った腕は生えてこねぇからよぉ……」

 

 

 エヴァンジェリンは二人の能力による弊害を見て、面白そうに笑って安心させるようなことを言い出す。

逆に覇王は二人の不安を煽るような物言いをし出した。ぶっちゃけチマチマ色々調べてやるのが面倒なだけだ。

最後に状助は覇王の言いぐさに、自分の能力じゃそんなことはできない、と苦笑した様子で言うだけだった。

 

 

「おい! ふざけんな!!」

 

「…………」

 

 

 カズヤはこの珍獣扱いに滅茶苦茶腹が立って暴れるも、両手両足の拘束が外れることはなく、無意味に体力を消耗するだけだった。

だがまあ、カズヤが本当にイラついてるのは、縛り付けられて身動きが取れないことの方なのだが。

 

 法はもはや観念したのか、無言になって千雨の方を見るだけであった。

 

 

「しかしまあ、これは初めて見る状態だな。楽しくなりそうだ」

 

「その変質した腕、巫力で治療できるか試しさせてもらうよ」

 

「それ、なおして戻せれば楽なんっすけどねぇ……」

 

 

 こんな症例見たことない、とエヴァンジェリンはテンションあげあげで、覇王も巫力での治療でどうなるかワクワクしており、状助一人だけ自分の能力でポンと治れば楽だよなあ、と考えていた。

 

 

「ちっ、チクショウ! 覚えてろよ!!」

 

「……まあ、治るのであれば、それに越したことはないが……」

 

「おい法!? ブルっちまってんのかよ!?」

 

 

 カズヤは何度ももがきあがくが脱出できず、負け犬の遠吠えを叫び出した。

逆に法はむしろ治してくれるなら、それでよくないか? と悟っており、そんな弱気な法へとカズヤが怒りを見せる。

 

 

「腕が痛くてしんどいのだろう? 治してもらった方がいいはずだ」

 

「知らねぇよ! 痛くたって関係ねぇ!!」

 

「意地を張るな」

 

「張ってねえ!!」

 

 

 法としてもカズヤの腕が深刻なんは理解しているので、治してもらえよと言うが、カズヤは意地になっていらねぇと大声で拒否。

意地っ張りなカズヤにやめとけと法は言うが、まったくもって言う事を聞かないのがカズヤだ。

 

 

「いいから! 黙って!! 治療されろ!!!」

 

「チッ」

 

「なんか、すまないな……」

 

 

 そこへズンズンと近づき、カズヤへと顔の前に指をさして、治せと圧をかけて命令する千雨。

こうなったカズヤには、お願いしますなんて言っても言う事聞かないのを理解しているので、強気の態度でビシッと言ったのである。

 

 カズヤも千雨にそこまで言われたのであれば、と釈然としない様子を見せて舌打ちしながらも、治療を受け入れた様子を見せる。

それを見た法は自分のことも含みながらも、千雨へと謝罪をするのであった。

 

 とは言え、簡単に治療できるはずもなく、少し良くなった程度にしかとどまってしまった。

向こう側の力と能力での変質は、一日二日じゃ原因を特定することなど不可能だからだ。

まあ、能力さえ制限すれば、ゆっくり治っていくだろう、と言う話ではあった。

 

 この二人がそれを我慢できるはずがないと言う大きな問題を除けば、だが……。

 

 

…… …… ……

 

 

 魔法世界から戻った初めての休日、アスナはアマネを連れてあやかの豪邸へとやってきていた。

あやかも魔法世界に長くいたため、久々に実家へ帰りたくなったので、そこにアスナがじゃあ自分も、と言って約束していたのである。

 

 また、アマネの髪型がポニーテールになっており、鈴型の髪留めにはアスナがしているのと同じ機能が施されていた。

 

 

「ここに来るのも本当に久しぶりねぇ」

 

 

 最近、まあ魔法世界での生活が長かったのもあり、この場所に懐かしさすら感じるアスナ。

小さい時から結構お邪魔してたと言うのに、なんだか何年も来てないような気すらしてくる。

 

 

「わあ、でっかいおうち! 誰のおうち?」

 

「私の親友(ライバル)のお家よ」

 

「お友達の? すごいね!」

 

「確かに、すごいと言われればそうね……」

 

 

 こんな広い敷地に建つ大きな建物に、アマネは少し興奮気味で大はしゃぎ。

そんなアマネの質問に、アスナはここがあの親友のハウスと答えれば、アマネはすごいすごいと褒めまくる。

 

 アマネの言葉を聞いたアスナは、ふとあやかの豪邸を眺めれば、確かに大きな家で豪勢だな、と改めて思う。

昔から通ってる上に本物の城も知ってるので、自分の感覚が麻痺ってたことをここで自覚して、苦笑していた。

 

 

「ようこそ、お待ちしておりましたわ」

 

「わぁ! すごい数の人!」

 

「まずは挨拶よ? おじゃまします」

 

「おじゃましまーす!」

 

 

 大きな正門をくぐれば、そこにはあやかと使用人たちがずらっとならび、迎え入れてくれた。

アマネはこんなに多くの人が並んでいるところを見るのが初めてなのか、やはり大はしゃぎ。

はしゃぐアマネへとアスナは、人の家に入るのならとお手本を見せれば、アマネも真似して元気に挨拶。

 

 

「その子が噂の……」

 

「隠し子じゃないわよ?」

 

「そんな噂ではありませんわよ? 一体誰がそんなことを……?」

 

「カギ先生が」

 

「まあ……、カギ先生は随分と変なことを知っていますのね……」

 

 

 あやかはアマネをじっと見て、クラスで噂の子だとつぶやけば、アスナは隠し子じゃないと冗談で言い放つ。

流石にそれは無理があると苦笑してあやかが言うと、アスナはカギが言ってきたとチクれば、あやかもカギは年齢の割に妙な言葉知ってるのね、と訝しんだ表情を見せる。

 

 元々の噂はアスナに雰囲気が似た少女が、何やらアスナの妹になったと言うぐらいだ。

で、それが本当だったので、あやかもまじまじと二人を見比べたりしていたのである。

 

 

「はじめまして! ぎんがアマネです! よろしくおねがいします!」

 

「こちらこそ、雪広あやかと申します。よろしくおねがいしますわ」

 

 

 そこでアマネはお行儀よくお辞儀をしながら、初めて会ったあやかへと元気に自己紹介。

当然あやかもそれを丁寧に返し、静かに美しくお辞儀をして見せる。

 

 

「本当にいい子ですわね。小さい時のあなたとは大違いですわよ?」

 

「うっ、うっさいわね……。そりゃまあ、あの時はやさぐれてたけども……」

 

「まったくもってその通りでしたわね!」

 

「いいんちょこそ、かなーりナマイキだったじゃない?」

 

「ホホホ、そうでしたかしら?」

 

 

 まだ小さいのにわりとしっかりしてるアマネにニコニコのあやかは、昔のアスナとアマネを比べてアスナをなじりだした。

アスナも確かにここに来た時は、随分とアレな奴だったと少し認めていたようで、あまり掘り返されたくない様子。

いやまあ、そりゃまあ、ナギはいなくなるしガトウが死にかけるしですさんでたし、あんまり表情も動かなかったし、しょうがないところあったけどさ、とも思うのだが。

 

 そんなアスナに、今更わかったの、と言う様子で笑うあやか。

売り言葉に買い言葉と言う感じでアスナが返せば、あやかは笑ってしらばくれはじめた。

 

 

 ただ、アスナとしては自分が魔法世界のお姫様だと言うことを、あやかが一度もいじってこないことに感謝していた。

確かに少しぐらいは話題に出してきたことはあったが、今のような物言いで攻めては来なかった。

それだけはアスナも本当に嬉しく思っている。

 

 

「けんかしちゃだめだよ!」

 

「あら、ごめんなさい」

 

「そうね、ごめんね」

 

 

 二人の応酬を見かねたアマネは、二人を小さく叱咤した。

お友達同士なんだから、険悪な雰囲気になっちゃやだよ、と。

いつものノリでやってたけど、流石に小さな子の前では控えるべきだったと、二人は反省してアマネちゃんへペコっと謝った。

 

 

「弟さんは?」

 

「今日は出かけてますわ」

 

「ふーん、寂しくないの?」

 

「そこまでベタベタしてたら流石に嫌われてしまいますわよ!」

 

「それもそうよね」

 

 

 そこでアスナは、ふとあやかの弟のことを尋ねれば、今日は休日なのもあって家にはいないとあやかが答えた。

アスナはあやかが弟大好きなのを知っているのでそれを聞けば、あやかとてそんなに四六時中くっ付いて回ってはいないと物申す。

 

 まあ、そりゃそうか、とアスナも納得。

なんだかんだ言ってあやかがネギとの距離感を絶妙に保っているのは、このあたりの影響がある模様。

 

 それに毎日毎時間くっつきっぱなしの姉とか、超ウザイでしょうとあやかも思っている訳で。

そのような愚行を犯し続けたら、弟から「姉様、すごくウザイです」なんて言われかねないし、言われた日には悲しみのあまり家出しかねないぐらいショックだろうと。

 

 

「そういえば……、少し距離を開けて歩いている、あの方は? 約束の時でも言ってましたけど」

 

「保護者と言うか、アマネちゃんのお兄さん的な……?」

 

「的な……? だいぶあいまいな表現をしますのね?」

 

 

 と、そこであやかはアマネの後ろを少し離れて歩く、黒づくめの男のことをアスナに尋ねた。

漆黒のスーツに赤シャツ。顔は黒いサングラスをした、肌も髪も病的に白い、一人の男性。

ランサーのカルナである。

 

 あやかは一応、もう一人男性を連れてきてよいかと、アスナから事前に聞かれており、許可を出していた。

言い方としては状助とは違うと考えて、一体誰なんだろうかと考えていたのだが、それがまさか黒いスーツの男だとは思ってなかった。

 

 アスナはあやかの問いに、うーんと腕を組んで悩むしぐさを見せた後に、それを答えた。

と言うのも、アマネが召喚したサーヴァントでインド出身の英雄らしいと説明しても、チンプンカンプンになると思いそんな感じの説明になってしまった訳で。

 

 なので、アスナのなんかふわふわした説明にあやかも少し疑問を感じながらも、まあ保護者であればいいか、と思った。

 

 

「カルナだよ! 私を守ってくれてるの!」

 

「あの方がカルナさんと言うのですね?」

 

「うん!」

 

 

 すると、アマネが後ろの黒い人のことを、自分で紹介。

あやかはあの人がカルナと言うことを初めて知り、聞き返せばアマネも元気に返事を返してきた。

 

 

「真っ黒でサングラスをしているので、SPの方かと思いましたわ」

 

「アマネちゃんの守護役なのは間違ってないわね」

 

 

 すごくビシッとした黒いスーツ姿で、しかも歩く姿に隙はなく。

何かの武術の心得があるような立ち振る舞いと、常に周囲を警戒しているその姿に、アスナかその父親代わりの人が雇ったボディーガードかと思ったとあやかは言う。

 

 実際は、墓守り人の宮殿で遠くからあやかも姿を見ている人物なのだが、金色の槍を振り回してる白髪の人とは思えないほどに、黒スーツが似合いすぎていたが故にわからなかったのである。

サングラスもしているので顔が半分隠れているのも、少しわかりづらい部分だ。

 

 まあ、あやかの言葉通りの意味ではあると、アスナも頷く。

マスターであるアマネを守護することこそがサーヴァントの役目だと、ランサーは常に思っていることだからだ。

 

 

 とりあえず三人はあやかの部屋へ行ってお茶をした後、目を輝かせながらキョロキョロするアマネのために、屋敷を案内することに。

 

 当然ランサーも三人について歩いてはいるが、部屋に入ることはなく、部屋のドアの横でまるで警備員のようにして立っていたりと、ボディーガードに板がついた様子だった。

 

 そのため三人から一定の距離を保ちつつ、ぴったりくっついて歩くランサーの姿は、屋敷のメイドたちの話題となっていたが。

 

 

「お家の中にプールまであるの? ほんとにすごい!」

 

「遊びたいなら、入ってみます?」

 

「いいの?」

 

「問題ありませんわ! お好きなだけどうぞ」

 

「わーい! ありがとう!」

 

「どういたしまして!」

 

 

 そこでアマネは室内プールがあることを聞いて、びっくりした様子で笑っていた。

ならばとあやかはアマネが遊びたそうにしているのを見て、少しかがんでそれをアマネへと聞けば、アマネは少し心細そうな表情で、その確認をした。

アマネはあまりわがままを言うのは良くないと思っており、少し怯えているのである。

 

 されど、あやかは笑顔で当然のように快く許可すれば、アマネの表情もぱあーっと明るくなって大はしゃぎで喜びながら、しっかりとお礼を述べる。

本当にうれしそうにニコニコするアマネに、あやかも貰ったお礼を返しながら、嬉しくなって一緒に笑っていた。

 

 

「幼いながらもちゃんと許可を取ったり、礼儀もできていて、誰かさんとは大違いですわね?」

 

「なによ……、私だってちゃんと許可取ってたでしょ?」

 

「ふふ、そうでしたわね」

 

 

 で、あやかは腰を上げてアスナへ視線を移せば、アマネを褒めつつアスナの文句っぽいことを、ふふんと笑いながら言い出す。

とは言え、アスナとてそこまで厚顔無恥ではないとはっきりと言えば、あやかもそれを思い出したかのようなことを言って、小さく笑っていた。

 

 そして、三人は水着に着替えてプールへと移動。

あやかはビキニに着替え、アスナとアマネはスクール水着に着替えて、プールサイドへと入っていく。

 

 ランサーは特に何もせず、プールから少し離れた位置から微動だにせず、アマネの方を見ているだけだ。

ただ、楽しそうにしているマスターの姿に、喜びを感じている様子だった。

 

 

「それにしても、かなり楽しそうにしますわね……、あの子」

 

「うーん……、なんていうか、孤児だったみたいなのよ……」

 

「そうでしたの……」

 

「だから、うちのパパが引き取って、私の妹みたいなことになったってワケ」

 

「なるほど……、そのような事情が……」

 

 

 アスナとあやかはとりあえず丸いテーブルを囲って座りながら、アマネの様子を眺めていた。

小さい子だけがプールに入っているのは危険だが、周囲にはメイドたちも待機しており、ランサーもアマネをしっかり見ているので、大きな危険はない様子だった。

 

 また、早速プールに入ってはしゃぐアマネの姿に、あやかも何かを感じたようでそれを言葉にすれば、アスナが簡単な説明を入れる。

 

 

 そもそも、アマネは孤児のような存在であり、ランサーが来るまでは小さい子一人で生活していた。

一応村の人達から助けてもらってはいたが、基本的に一人だった。

 

 ランサーが召喚されてからは、ランサーが兄のように接して寂しさを無くしてくれたが、完全なる世界にその力を利用されてしまった。

ただ、そんな経緯を全て話すのは難しいので、アスナは独り身だったとだけ言葉にしているのである。

 

 

 あやかもアスナの説明に、少し眉を下げて悲しげな顔を見せる。

あのような小さい子が、何かの事情があって寂しい目に遭っていたと言うのは、あやかとしても思うところがあったのである。

 

 そういう事情があったからこそ、メトゥーナトが親代わりとなり面倒を見ることにしたと、アスナは説明しきった。

アスナの説明を聞いて、あやかも事情を理解して小さく頷く。

 

 

「それにしても、あなたがお姉さん、ねぇ……」

 

「何よそんなにジロジロと見てきて……」

 

「いえ、あなたのような人にお姉さんが務まるのかどうか、と思っただけですわよ?」

 

「できてるわよ?」

 

 

 なるほど、と思ったあやかは、つまり今のアスナはアマネの姉ということか、と思ってアスナの顔をジト目でじーっと見ながらそれを口にする。

 

 なんか急に訝しむ視線を送ってきたあやかに、アスナは何が言いたいと言えば、アスナが姉とか何の冗談か、とあやかは肩をすくめて言い始めた。

 

 とは言われても、アスナとて別に変なことしてないし、アマネのことを大事にしているので、そこまで言われる筋合いはないと、そうはっきり宣言しとく。

 

 

「昔、あれだけガキだのなんだと言ってたくせに、よく言いますわね?」

 

「そりゃ、あんたがうるさかったからでしょ? あの子はいい子だもの」

 

 

 されど、あやかはアスナの小さいころを知っているので、本当か? 本当にそう? と怪しむだけ。

何せガキだなんだといちゃもんつけてきたのは、目の前のアスナなのだから。

 

 ただ、逆を言えば最初にあやかが突っかかってきたからこそ、そんな態度だったとアスナは言う。

で、アマネはそんなナマイキな子じゃなくて、とても素直で可愛らしいのだと、アスナは小さいころのあやかと比べて言い放つ。

 

 

「私だっていい子でしたわよ!」

 

「えっ? あれで?」

 

「あなたこそ……!」

 

 

 いい子、という言葉にあやかは反応し、財閥の娘として恥ずかしくない子だったと主張。

しかし、しかしだ。アスナから見ても編入初日からいちゃもんつけてきて、取っ組み合いまでやったあやかがそれを言えるのか? と本気で思う訳で。

 

 財閥の娘の姿か……? これが……、と言う醜態まみれなムーブかましといて、よー言えるなそんなこと、とアスナが言えば、そっちもやり返してきたからそうなったのではないか、とあやかも反論。

 

 

「あー、もう! やめやめ! 喧嘩するなら一つ勝負にしない?」

 

「そう来ましたわね? 久々にやると言うのなら、容赦しませんけども?」

 

「どんとこいよ!」

 

 

 と、両者が顔を近づけていがみ合いになったところで、アスナはハッとして、こういう場合はと、いつものルールを持ち出した。

喧嘩になったらまずは勝負。これで取っ組み合いにもならず、怪我もしない。昔から二人の間に存在する、お決まりのルールだ。

 

 あやかもアスナの提案を聞いてクールダウンし、ニヤリと笑って勝ちに行くと宣言すれば、勝つのはこちらだとアスナも笑ってそれに応える。

 

 

「ボードゲーム類をこちらに!」

 

「はい、お嬢様」

 

 

 そして、あやかは早々にメイドへとゲーム類をここへ持ってくるように指示を出せば、メイドはいつものが始まったと言う様子で、そそくさと用意のために移動し始める。

この光景は昔からよく見られたものであり、おっ、始まった! となるほどには、昔からいるメイドたちにとって見慣れた光景なのである。

 

 メイドたちがゲームを持ってくると、まずはカードゲーム、次に将棋、次にオセロと、次々にゲームを変えて勝負していくあやかとアスナ。

最後はチェスで勝負して、最終的に同点でこの勝負の終わりをつげた。

 

 

「私たち、プールサイドで何やってるんだか……」

 

「アマネさんが楽しく遊んでらっしゃるのですもの。邪魔はできませんわ」

 

「本当にそうね」

 

 

 ふとアスナは水着にまで着替えてプールへ来たのに、泳がずにこんなことをしている自分たちを冷静に見て、アホらしいなと思った。

 

 とは言え、水泳勝負をするのであれば、アマネの邪魔になるからよろしくないとあやかは言葉にする。

だが、それは理由の半分しかなく、もう半分は水泳だとアスナに勝つのは難しいのを理解しているので、フェアになる勝負を仕掛けただけだ。

 

 あやかの言葉を聞いたアスナも、アマネのはしゃぐ姿を見て柔らかい表情で微笑んでいた。

 

 

「それにしても、実家に帰ってきてようやく落ち着けた気分ですわね……」

 

「大変な目に遭わせちゃったわね……」

 

「もうその話は何度もしましたでしょう? 何度も言いませんわよ?」

 

「そうね、ごめん」

 

 

 そこであやかは、魔法世界からここへ帰ってきて、やっと気持ちが落ち着いたと話す。

何と言うか、あっちの世界で色々ありすぎて、結構頭の中で整理がつかなかった部分もあったからだ。

 

 当然アスナはそのことを自分が巻き込んでしまったと思っており、少ししょんぼりしてそれを言うが、あやかはこのやり取りを何度もしているので、もうしないとしっかり釘をさす。

アスナも引きずり過ぎたと反省し、小さく謝った。

 

 

「ねえねえ! お姉ちゃんたちも一緒に遊ぼうよ!」

 

「そうしましょうか」

 

「そうね」

 

 

 そんな時にアマネから、元気なお誘いの声がかかる。

あやかもアスナもアマネの言葉に従って、微笑みながらプールへと入っていくのだった。

 

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