トリスは休日明けの放課後に、裕奈を通して魔法世界に入ったメンバーを集めてもらった。
貴重な時間を割いてくれて申し訳ないけれども、彼女たちにどうしても謝りたかった。
別にトリスは許されたい訳ではない。これはケジメなのだ。
この3-Aに入るためには、どうしても彼女たちに対して謝らなければならないと思ったのだ。
確かに、行き場のなかった自分はアーチャーとか言うやつが持ってきた、契約的なものを受けて完全なる世界に入った。
おかげで生活は保証されたが、精神的苦痛を味わう羽目になった。
トリスは今世において、心を落ち着かせられるような生活ができなかった。
それでもアーチャーとの契約のために、ゲートポートや新オスティアを襲ったのは事実。
どんな理由があれど、彼女たちを悠々と攻撃したことには変わりはない。
だから誠心誠意、ごめんなさいと頭を下げたトリス。
しかし、それを見た彼女たちは、うーん、と悩む様子を見せた。
と言うか、別に彼女が自分たちに直接攻撃してきた訳でもなく。
むしろ同じ転生者のアルスとしか戦ってないので、はっきり言って彼女たちとしてはトリスが敵だったと言う印象が薄い。
確かにゲートポートが吹っ飛んだ時に襲ってきたのであれば、多少被害を受けたのだろうとは考える。
されども、あの転移を用意した訳でもないし、状助の治癒の邪魔をしていた訳でもなく、やはりアルスとタイマン勝負してただけ。
なので、彼女たちからの印象としては、墓守り人の宮殿前に知らぬ間に味方になった娘、と言う方が強い。
唯一、裕奈は総督府で会話しており、アルスが自分をボコした、と言っていたのを覚えていたので、なるほどー、と納得した様子を見せていた。
まあ、つまり自称アーチャーのように、自分たちをビビらせるようなこともしてないので、敵だった時の印象がほとんどないのだ。
なので、別に謝られても困ると言うか……、むしろ許す許さない以前に、あまり気にしたことなくない? と言う話になった。
それ故か彼女たちの寛大な心にトリスは感謝し、少し涙を浮かべていた。
そんなトリスへと裕奈が近寄りトリスの手を取って、じゃあ、これからよろしくね、と眩しい笑顔を見せてくれたのである。
トリスは裕奈の暖かさに、涙腺が決壊して今世初の大泣きを披露。
周りの子たちからも、暖かい視線を送られながら、よろしくと何度も言うトリスを再び快く歓迎してくれたのだった。
…… …… ……
そして、前日の休日に戻って、ここは麻帆良の一角。
覇王は木乃香と待ち合わせをしていた。
「久しぶりやね、はお!」
「そうかなあ? 結構会ってる気がするけど」
「そーやった?」
そこへ木乃香がとても明るい笑顔で現れ、覇王の横へと移動して挨拶すれば、覇王もいつも通りのにこやかな表情で木乃香を出迎えた。
「ねえ、木乃香? そんなにくっつかれると歩きづらいんだけど」
「えー? 別にええやん!」
「まあ、いいけどさぁ……」
「なら、問題あらへんね!」
「はぁ……、まあしょうがないか」
それでとりあえずは移動を始めた覇王だったが、木乃香が滅茶苦茶甘えてきており、左腕にしがみついて離れる様子がなかったのである。
めっちゃ歩きづらいなあ、と覇王は思ったが、木乃香の眩しい笑顔の前に屈してしまい、まあいいかと投げ捨てた。
修行以外の部分では弟子にクソ甘な覇王である。
「なー、はお。はおは将来どないするん?」
「唐突な話だね? どうするって言われてもねぇ……」
そんな時、急に木乃香が話を振ってきた。
覇王はなんか突然だな、と思ったが、どうしよっかなーと悩むしぐさを見せる。
と言うか、このままマジで木乃香とくっ付くのなら、関西呪術協会の長か木乃香が長になってサポートする側になるか、自分の家を継ぐかぐらいしかもう選択がない。
これはもう完全に詰みである。
「まあ、まずはシャーマンキングになることから始めるよ」
「いつも言ーとるやつやね? どうやってなるん?」
「この世界のどこかに存在するはずの海の底に沈んだムー大陸を探し出して、そこにある王の社へ辿り着ければ、なれると思ってる」
「魔法世界以外にも、そないな場所があるんやね?」
「あくまでまだ予想だよ」
まあ、そんな現実的なことよりも、覇王としてはまずやらねばならぬことがある。
それこそシャーマンキング、星の王になることだ。
これだけは決定事項であり、覆されることがない予定の一つ。
”シャーマンキング”と同じ過程で星の王になれるのであれば、ムー大陸に眠る10のプラントを経由する儀式を行い、王の社にある椅子へと座り、グレートスピリッツを呼び覚まして死の眠りにつく。
この過程を行うことで、シャーマンキングになれるはずだと覇王は考察していた。
何故なら覇王はすでに、シャーマンキング・星の王に会っているからだ。
そう、この世界で死んで、この世界にて自分を転生させた
だからこそ、どんな方法であれ確実にシャーマンキングになる方法があると、覇王は考えている。
例えムー大陸でなれなくとも、絶対になれる方法が存在しているのであれば、それを見つけてなるだけだと覇王は思うのである。
木乃香も何度も聞かされたことだが、そもそもシャーマンキングになるにはどうすればいいのか知らなかった。
なのでそれを覇王に聞けば、また突拍子もない答えが返ってきたではないか。
海の底に沈んだとされるムー大陸を探し出すとか、なんだか話が変わってきたぞ。
冒険家系にジョブチェンジし始めたと思った木乃香だったが、覇王はまだ多分あるよ程度の話だと言う。
「でも、魔法世界の文献をあさったりして、だいぶ目星はついてるんだ」
「調べとったんやね」
「そりゃそうさ。闇雲に探してちゃ、見つかるのがいつになるかわからないしね」
「確かにそーやなー」
ただ、グレートスピリッツが存在することは間違いないと思っている覇王は、魔法世界へ行った時に色々調べて回っていた。
そこでしっかりと確証を得て話していると木乃香に告げれば、はしゃぐように納得した様子を見せる。
「とは言っても、旅に出るとしても少なくとも高校卒業してからかな?」
「じゃあ、ウチもそれまでに、もっともーっと強ーなっとく!」
「うんうん、その意気だ。期待してるよ」
「えへへー」
また、星の王になる方法を探す旅をするのであれば、高校卒業してからがちょうどいいかな、と覇王は話す。
中学卒業だけじゃなあ、まあ実家継ぐとかなら無関係だけどなあ、と思いつつも、そのぐらいでいいや、と覇王は思っていた訳で。
そもそも、シャーマンファイトやらずにシャーマンキングになれるんなら、急ぐこともないか、と言う結論に達した。
ただまあ、シャーマンキングになる時に肉体から魂を解き放ち、グレートスピリッツ内へと入りこみシャーマンキング専用のコミューンへと至る。つまり”死ぬ”ことになるのだが。
でも肉体に分霊でもぶち込んで、その肉体で今世の残りの生活を行えばいいか、と楽観的な覇王。
どうせ地球中にあまねく魂、無数に吹く地球の風になる訳だから、肉体を持ったそれを一つ置くってことで問題ないな、と思っていたりする。
何せシャーマンキングにさえなれば、不可能などないのだから。
木乃香もワクワクした様子でその話を聞き、高校卒業までにはさらにシャーマンとしての腕を磨くと、目標を打ち立てた。
つまり、覇王の旅についていく気満々ということである。
覇王もそれを理解しながらも、木乃香を連れて行く気でいるので、ぶっちゃけ思想相愛だ。
故に、旅に出るまでにはもっと強くなっててくれよ、と、覇王は笑顔で木乃香の頭を撫でて促す。
撫でられた木乃香は、ただただニコニコと笑って覇王の体に密着するのであった。
…… …… ……
休日、実にいい響きの言葉だ。
同じくそんな休日にカギは、エヴァンジェリンの”別荘”へと来ていた。
「いやあ、平和になったねぇ」
が、何もせずにただただゴロゴロして、戦いが終わったことを噛みしめていただけだった。
「なんかもう何もかも問題なさそうで、やる気がなくなっちゃうなあー」
なんかもう全部解決したっぽいなあ、と思ったカギは、やる気が超絶的にダウンしてこんな姿を見せているのだ。
「この馬鹿者!!」
「ドゲーッ!?」
そこへエヴァンジェリンが現れてカギの横腹を蹴り飛ばせば、カギは悲鳴を上げながら空高く吹っ飛んだ。
「まっ、
「何を腑抜けてるんだ? 修行はもういいのか?」
「いやー、もう全部終わったっぽいし。別にいいかなーって」
突然蹴られたことに腹を立てたカギがエヴァンジェリンへと文句を吐くと、エヴァンジェリンはマジお前何しに来たんだ? と言う表情でそれを言う。
が、カギは完全にやる気を失っており、もういいよなあ? とか言い出す始末。
「はあ……、やれやれ……。本当に貴様はおめでたい構造の頭をしているんだな」
「なんだとぉ……? そうだけど?」
「はあ…………」
この腑抜けっぷりにエヴァンジェリンも思わずため息。
本当に能天気と言うか、頭が空っぽと言うか、とエヴァンジェリンが言えば、カギは怒ったような声を出した後、それを肯定。
その平和ボケっぷりに呆れ果てて、またしてもため息が出ちゃうエヴァンジェリン。
「はっきり言ってやる。これで平和になったなどと言う幻想は捨てろ」
「ワッツ!? ホワイ!? どういうこっちゃね!?」
と言うことで、エヴァンジェリンはちょいとカギに現実を教えてやることにした。
確かに完全なる世界との戦いは終わったが、それで全部丸く収まったと思うのは大きな間違いだと。
それを聞いたカギは、飛び上がって驚き、いや、そんな馬鹿なことがあるかよ!? と言う様子で慌て出したのである。
「考えてもみろ。転生者とやらは、まだまだ存在してるし増えてるんだぞ? これがどういう意味かわかるだろう?」
「たっ……確かに…………」
そもそも、敵が奴らだけじゃないだろと、エヴァンジェリンははっきり言う。
この世界にはまだまだ転生者が増え続けるようだし、アレな転生者だって増えるんじゃないのか? と。
つまり、頭のネジが外れた転生者が、ここを襲ってくる可能性もあるんだぞ、とカギに教えてやったのだ。
で、カギもそのことを完全に失念していたので、ショックを受けた様子を見せる。
言われてみればそうである。そもそも強くなろうとしたのは、ニコぽ使うクソ銀髪野郎を倒すためだったと、ここでカギは原点を振り返った。
「と言うことで、今回は私が直々に相手をしてやる」
「えっ? だって俺は契約のせいで
じゃあ、修行しようか相手になるぞと、エヴァンジェリンが言い出した。
だが、カギはエヴァンジェリンとの契約で自分が戦えないことを思い出す。
「そんなもの、とっくの昔に解除済みだが?」
「はぁ────!? なんでだよ!? 意味わからねぇ!!!?」
「とりあえず様子見をしていたんだよ。昔の貴様は何をするかわからなかったからな」
「そんなに……、信用なかった……?」
が、んなもんすでにないよ、とエヴァンジェリンは笑って言えば、どういうことだよそれ! と驚き戸惑うカギ。
ぶっちゃけ昔のカギはエヴァンジェリンにとっては危険人物そのもの。
なんか心変わりがあったのはわかったが、何をするか、何を企んでるのかが不透明だった。
だからある程度カギの人間性を見極めた後に、こっそり解除してどうなるかをじっくりと観察していた訳で。
そのため自分で修行を付けず、ずっと闇の人造霊を使って修行させたのだ。
カギはその言葉に大きな衝撃を受けて、固まってしまった。
しかしまあ、そりゃ初対面であれだけやらかしてるんだから、信用なんぞ地に落ちてるどころかマイナスなのは当然だろう。
「まあ、そう言うことだ。さて、かかってくるのか? 来ないのか?」
「そりゃ、答えは一つだぜッ!!」
そこで直接戦闘指導してやるんだから、とエヴァンジェリンがカギを挑発すれば、カギもやっとやる気を出して戦う構えを見せる。
そして、両者は衝突し、カギの新たな修行が始まったのだった。
で、結論から言えば、カギはズタボロに敗北した。
エヴァンジェリンはそりゃクソ強い訳で。まあ、
「クックソ! 油断した……!! チャチャゼロ使ってくるとは思ってなかった……。チクショウ……」
「ナサケネーナ!」
「この程度の奇襲で倒れるなら、まだまだ甘いということだな」
「そのとおりでございます……」
カギは武器を次々に変えてごり押し戦法が基本戦術。その武器チェンジのわずかな時間こそが弱点だ。
そこへ術具融合で強化したチャチャゼロに斬りこませれば、武器を失いジリ貧に。
そのあと普通に力負けしてエヴァンジェリンに負けたと言う訳だった。
「これからも励めよ?」
「はい……、身の程を知りました。もっと精進いたしますぜ……」
お前の戦法じゃまだまだ穴があるぞと教えてやったエヴァンジェリンは、この程度で満足するなよと釘をさす。
この戦いでカギもまだまだ自分が未熟者だと理解し、凹みながらもっと頑張ろうと、修行に励むことにしたのだった。
…… …… ……
そして、再び張り切って修行に力を入れるようになったカギは、頑張りまくって疲れたので、ちょいと休むことにした。
そこへ現れたのは弟のネギであった。
「ねえ兄さん」
「なんだぁ?」
「この前から思ってたんだけど、”転生者”って?」
「────っ!!」
ネギは前から少し疑問に思っていたことを、カギに聞きたかった。
それこそ”転生者”という言葉の意味だった。あの時はカギの病気だと思ってスルーしたが、ふと他の人も使っていたことを思い出し、気になったのである。
で、それを聞いたカギは、絶句した表情を見せたのだ。
「それにずっと疑問だったんだけど、あの時金ぴかな人が使ってた武器を見たけど、兄さんも同じ武器使えたよね? どうしてなの?」
「それは……!?」
それ以外にも前々から気になっていたことが、ネギにはあった。
カギが使っているクソ強い武器、
この謎の武器はカギだけでなく、新オスティアや総督府で全身黄金鎧の男も使用していたことを思い出し、なんでだろうな、と本気で疑問に思っていたのだ。
その問いにカギは、ちょっと狼狽えた様子を見せて悩みだした。
これを話すと言うことは、自分が
「…………話すと少し長くなるぜ?」
「うん、いいよ」
だが、もはやここまで質問されてしまえば、しらばくれるのも不可能と判断したカギは、じゃあ話すよとネギに言う。
思いのほかネギは聡明であり、ここで黙っててもいずれ真実に辿り着くかもしれんと、カギが思ったからだ。
ネギも真剣な表情で、カギの話を聞くことにした。
「転生者っつーのは、他の世界の魂がこの世界に送られた際に、死に際までの記憶を残しながら、能力を二つ貰って生まれてくる奴のことを指す、と思うたぶん」
「……つまり、生まれ変わりってこと?」
「まあ、そうっちゃそう」
転生者とは、とカギがそれを説明し始める。
特典と言う力を二つ貰って、この世界に前世の記憶を持ったまま生まれてくる存在だと。
その説明にネギもそういうことがあるんだな、と思いながらカギに確認すれば、そうだよとカギも返す。
「兄さんの脳内設定じゃなくて、本当にそんなことがあるってこと?」
「本当だ。マジなんだ。っつーか俺がこんなに真面目に話してるのに疑うなんて酷くない? そこまで俺って中二病だったっけ?」
「うん」
「即肯定かよおおおお…………」
が、これカギがいつも考えてる俺の考えた最強設定とかじゃないよね? とネギが言うと、これ本当嘘じゃないよ、とカギははっきり答える。
しかし、こんなに真剣に説明したのに、まだ信じられてないことにカギがショックを受け、俺、そんなに信用できんの? と聞く。
するとネギは当然のように即答し、さらなるショックがカギを襲ったのだった。
「んで、俺が貰った能力の一つが、これってこと」
「……そんなことが…………」
まあつまり、その二つ選べる特典の内の一つがこれなんだ、とカギが
「つまり、あの金ぴか超絶痛野郎は、これに近い能力貰って、同じこれが使えたって訳よ?」
「なるほど……」
そういう訳があり、あの金ぴか野郎も自分の特典と似たようなもんを貰ったからこれが使えるのだろうと、ネギへと説明するカギ。
ネギもしっかり納得したらしく、それ以上の質問をしてくることはなかった。
「ってことは、兄さんも”転生者”なんだよね?」
「えっ!? ああ……、そうさ……」
つまり、兄であるカギも”転生者”ということになるのだろうとネギが聞くと、カギは驚いた後静かに肯定した。
実はカギとしてもあんまり知られたくなかったことだが、しゃべってしまったのだから仕方がない。
もはやごまかすこともせずに、それを受け入れることにしたのである。
「道理で昔からちょっと変わってるなあって思ってたんだ」
「なあネギ。さっきからなんか当たり強くない? すごい酷いこと連続で並べてない?」
「そう言われても……、事実だし……」
「んなこたー全部わかってんだよぉ!!」
が、ネギはなるほどーと思いながら、カギがどうしてそういう人なのかの謎が解けたと言う様子を見せた。
しかし、なんか酷い言い草なのでカギがそれをつっこむが、ネギとて事実しか話していないと言う。
まさに事実陳列罪。だが、罪があるとするならばカギの方であり、ネギに罪はない。
故に、カギも知ってるわと大声で叫んだ。
「でもまあ、確かに少し変だけど、そんな兄さんでよかった……かなあ……?」
「なんでそこで疑問形!?」
とは言え、ネギとしても転生者とは言え変な兄程度にしか思ってなかったので、それ以上はない。
ないが、こんな兄で本当に良かった! と素直に喜べない様子を見せる。
カギもそこはよかった! と言い切ってくれよと内心愚痴りつつ、その理由をネギに聞く。
「だって兄さん、小さいころとか『俺は最強だあ!! 最強になれるんだ!!!』って言いながら森に入ってボロボロになったり、冬の湖に入って凍りそうになってたし……」
「えっ!? そんなことやってたかなあ!? ねえ!? 本当にやってたかなあ!?」
「忘れちゃったの? ネカネお姉ちゃんが頭を悩ませてたの、今でも覚えてるよ?」
「ぐえーっ!? なんで急にまたクソみてぇな黒歴史が湧いてきてんの!?」
何故そこで疑問形に? 答えは簡単だ。
自分よりもほんの少し先に生まれた兄であるカギが、なんかやたらにアホみたいな行動ばかりしていたからだ。
最強になる特典を選んだ! もうすぐ手に入るぞ!! と当時思っていたカギは、特典に頼らねえ強さも欲しいぜー! と思って色々やっていた。
森に入って鹿を見つけては殴りかかって敗北し、寒さを克服するぜ! と言って冬の湖に突っ込んでなんか氷のオブジェになりかけたり。
スタンもカギのクソガキぶりに、ナギ以上のクソ問題児だと言うほどの行動で、ネカネが一々ぶっ倒れそうになったのも数えきれないほど。
で、カギはんなことすっかり忘れており、なかったと言ってくれ! と言う様子を見せるが、事実なので受け入れてくれとネギは言う。
またしても突然過去の自分に背中を刺されたカギは、過去とはひび割れた地面からミミズのようにはい出てくる……、と絶望顔を披露していた。
この時のカギはもうすぐあと一年ぐらいで特典が得られると言うことで滅茶苦茶興奮しており、謎の万能感に浸っていたのである。
「兄さんが変なことしすぎてお姉ちゃんの心労が心配だったから、せめて僕ぐらいは大人しくしとこうって思ったぐらいだよ?」
「えっ……!? う……嘘だろ……」
そんなお姉ちゃんを見ていたネギは、流石になあ……、と大人しくなってしまう謎のバタフライエフェクトが発生。
だがカギはそんなことなど知らずに、我が道を行く馬鹿行動を連発し続けた経緯があった。
カギもそれをはっきりネギから言われ、嘘だろ……過去の俺ってなんでこんな愚かだったんだ……、と過去の自分を恨んだ。
「あの時僕はピンチになれば父さんが助けに来てくれるって思ってたけど、兄さんがやらかしても助けに来ないから、そんなものなのかな、って思ったし……」
「マジかよー…………。なんか、夢を壊してしまってすまんな……」
「でも、今ならあの言葉はお姉ちゃんの気づかいだってわかってるから、別にいいんだ」
「そっ、そうか……」
また、ネギは父親のナギは誰の危機にも助けに来てくれるすごい人と、ネカネから聞かされており、ピンチになれば来てくれると本気で信じていた時期があった。
その時自分じゃなくてお兄ちゃんにも? とネカネに聞いており、そうかもしれないわね、とネカネも話していた。
されど、その幻想はあっけなく駆逐された。
カギがアホ行動して何度も何度もピンチになってんのに、ナギが現れなかったからだ。
可哀そうにそんなの見せられたネギは、来ないんだ……、と思い、とてつもなく悲しんだことがあった。
それで、遠くに行っちゃったんだからすぐには駆けつけられないよね、とネギは自分を納得させ、カギのアホ行動をずっと見てきた。
そんな悲しい話を聞いたカギも、マジで申し訳ない、と土下座して謝った。マジで本当に最低だぞ。
とは言え、あの時は父親ナギは死んだと言われていたので、自分を悲しませまいとしたネカネお姉ちゃんのや優しさだったのだと、今は思うネギ。
それに何があったかはわからないが父親も戻ってきたし、まあいいかあ、とカギの全てを許してくれたのである。
そういう経緯で許されたカギは、もうただただ俺って最高のクソバカだな、と反省するしかできなかった。
「そのあと何かを境に微妙に大人しくなったけど、今度はなんかずっと一人でニヤニヤしてたし……」
「もう俺のライフはゼロだぞ!? 心を抉るのやめてくれー!!!」
「だって、全部事実だし……」
が、ネギが思うところはそれだけではなかった。
カギが5歳を超えたあたりから、なんか一人でニヤニヤしだしたのをネギは見ていたのだ。
なんで一人で何もない所で笑ってるんだろう、とネギはいつも疑問に思っていたが、もしや先ほど説明された”能力”が関係してるのかな? と今は薄々気が付いてきていたりする。
そして、またしても酷い事実を突きつけられたカギは、頭を押さえて苦しみだした。
そりゃこんなクソみたいな黒歴史を実の弟から話されたら、生き地獄を味わっているようなものだろう。
……とまあ、ここまでボロクソに言われているカギだが、実は一つだけネギに勝っている部分があった。
それは風呂だ。ネギは”原作通り”風呂嫌いであり、カギが「くせー!」と言って毎回風呂にぶち込んでいたりする。
このカギ、流石に臭いのは勘弁願いたい少年であり、風呂に入らないネギを見かねて風呂に投げ込むことにした経緯がある。
この麻帆良に来てからも、たびたび「お前臭い体で生徒の前に出んの?」と説得して風呂に入れていたりするので、なんというか自分に影響がありそうなことは、流石に見逃さなかったらしい。
それに”原作通り”ネギは元々一人で寝るのが苦手な甘えん坊体質なところがある。
ギガントが面倒を見るようになってからは、彼が傍にいたりしたので寂しさはなかったが、家でだと離れた場所にある学校に通っていて休みにしか会えなかった姉のネカネより、当然カギの方がいる訳で。
で、知らぬ間にカギにくっついて寝ている癖があったネギ。
当然カギはくっ付かれて超ウゼェと思うはずだが、カギは一度寝たら起きない体質だった上に毎回寝坊するので、まったく気にしていないどころか気が付いてすらいなかったりする。
変なところで相性が良かったらしい。
「すまぬ……、なんか……、すまぬ……」
「兄さんがいつも変なのはもう慣れっこだから大丈夫だよ!」
「慣れないでお願い!!」
色々とネギから暴露されまくったカギは、いたたまれなくなりながらもネギへと謝罪を繰り返す。
だが、ネギはもうカギが奇行子なのを知っているので、気にすることなんてなくなってしまっていた。
されど、こんなのに慣れられても困ると、カギは叫んだ。当たり前である。
「つまりね、兄さんが”転生者”だったにせよ、今更僕からの兄さんへの見る目やら対応は変わらないってこと」
「ネギ…………。その見る目って奇人変人を見る目じゃね?」
「そっ、そこまでじゃないけど……」
まあ、ネギが言いたいこととは、カギが転生者だって知ってもいつも通りだよ、と言いたいのだ。
だって、それを今更知ったところで何かが変わる訳じゃない。昔からカギはカギ、自分の双子で変な兄、それだけだからだ。
しかしだ、カギはネギの言葉に感動しかけた直後に、その見る目とやらが気になった。
もしや先ほどの話と統合すると、完全におかしな人として見てるってコト!? と思った訳で。
ただ、ネギも流石に変人としては見てない、と自信なさげに言う。
今はだいぶ落ち着いたカギならまあ……、と思うけれども、昔のカギは完全に変人だったからだ。
「いやまあ……、色々すまなかった……」
それを聞いたカギは、頭を深々と下げて涙した。
こんなクソみたいな兄貴を見捨てないでくれてありがとう、と。
兄として見てくれてありがとう、と。
「兄さん、泣いてるの? 夕映さんたちが泣き虫だって言ってたの冗談だと思ってたんだけど、まさか本当に?」
「あっ……あいつらぁ…………!!!」
罪悪感と喜びから涙したカギを見たネギは、夕映たちが話していたことを思い出して、それを言った。
夕映たちはネギにも、カギが泣き虫で涙もろいことを話していたのだ。
カギは夕映たちがそれをバラしたことを知り、なんてこと言いやがる……、と涙しながら器用に怒りだした。
「涙もろかったんだね、兄さんって。なんだか意外だなあ」
「ちげーし!! これは泣いてる訳じゃねーし!!!」
「そう言うことにしておくよ! お兄ちゃん!」
ネギはカギの新たな一面を見れて、喜んだ様子だった。
それにあの変人なムーブしまくっていたカギが、涙もろかったことにちょっと驚いた。
いや、確かに少し思い出しただけで、そういえば結構泣いてたな、とはなったが。
が、カギは涙を否定して叫び出した。
いつもいつも涙もろいとか泣いてるとか言われると、常に否定してきたのがこのカギ。
今回も当然のように否定し、泣いてないやいと言い出したのである。
ネギもカギが感情をむき出しにして否定してるのを見て、ならそれでいいや、と思った。
昔は何を考えてるのかわからなかった兄が、こうして全部暴露して人間らしさを見せてきたことに、ネギはとても嬉しい気持ちを感じたから。
そのわからなかった部分も暴露のおかげで、だいぶ理解できてきた。
だからネギは、かつて幼かったころの呼び方でカギを呼んで笑ったのであった。