理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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二百五話 答え

 

 墓守り人の宮殿での決戦を経て、新オスティアの式典から数日後。

 

 ここはアルカディア帝国の中央に存在するアルカディア城。

アルカディア帝国の首都、アルカドゥスを一望できるテラスにて、夜景を眺めている少年が一人。

 

 

「…………」

 

 

 それはフェイトだった。

フェイトは戦いが終わった後、いつも通りこの帝国の城に身を寄せて、戦闘での疲れを癒していた。

 

 

「これが……、あの皇帝が護ってきた場所。護り続けたい世界……」

 

 

 フェイトは何かを確かめるかのように、光り輝く夜の都市を眺めながら、その光景に思いふける。

景色こそが、アルカディアの皇帝が守護してきた美しき光景。

そして、この世界そのものを守護してきた、皇帝の強い意志。

 

 

「僕の護りたい場所……、護り続けたい世界は……」

 

 

 そこでフェイトは、自分が護りたいものを深く考えた。されど、そんなものは最初から分かっている。

従者たちも当然大事だが、一番大事にしている女性(ひと)こそが、フェイトが護りたい世界であり場所だ。

 

 

「ここにいたんですね?」

 

「ああ」

 

 

 そこへ現れてゆっくりと近寄ってくる女性、栞の姉だ。

フェイトは首と視線だけを彼女へ移して、小さく返事を返す。

 

 

「……お疲れさまでした」

 

「……そちらも大変だったようだね」

 

「いえ、私は特は別に……」

 

 

 栞の姉もフェイトの隣へ来て、外の景色を眺めながら、宮殿での戦いが終わったことを労った。

フェイトとしては、むしろ別の敵に巻き込まれた栞の姉の方が危なかったのではないかと話すが、彼女自身が戦った訳ではないので、そうではないと言葉にする。

 

 

「いい場所だね、ここは」

 

「はい。私のイチオシですから」

 

 

 この夜景の美しさに改めて心を揺さぶられたフェイトが、それを一望できるこの場所を褒めれば、栞の姉が自分で紹介した場所だからと、微笑んでいた。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 そのあと、数分間、二人は静かに夜の街を眺めていた。

まるでいつもよりも時の進みがゆっくりに感じらるような、そんな二人だけの時間だった。

 

 

「……決戦の前に、必ず返事を返すと言ったよね?」

 

「はい」

 

「今、この場で約束を果たそう」

 

「……はい。お願いします」

 

 

 ふと、フェイトは以前に同じ場所で、栞の姉から告白されたことを話し出した。

その告白の返事を保留にしていたフェイトだったが、今ここで返事を返すことにしたのだ。

魔法世界消失の危機が去り、一区切りついたからだ。

 

 

「……今回の戦いで、僕は自分の気持ちを改めて思い知らされた」

 

 

 そしてフェイトは宮殿での戦いで、さらに栞の姉への気持ちが高まったことに気が付いた。

 

 

「どう取り繕っても、この気持ちだけはどうしても抑えきれない」

 

 

 その気持ちはとめどなくあふれ出ており、もう隠すこともこれ以上放置することもできない。

フェイトは栞の姉と対面すると、彼女の両手を、自分の両手で握りしめる。

 

 

「…………僕は、……君を愛している。二度と、この手を離したくない程に」

 

 

 だからこそ、フェイトははっきりと、栞の姉へと自分の気持ちを伝えた。

本当はこの言葉を、彼女から告白された時に伝えたかった。されど、魔法世界の問題が終わるまでは、言えなかったのだ。

ようやく伝えられた、そう思うと自然と笑みがこぼれていく。

 

 

「……私も、二度目になりますけど……、あなたを愛してます。この気持ちに変わりはありません」

 

 

 栞の姉も以前告白したけれど、ここでフェイトにそう言われ、もう一度しっかりと自分の気持ちを告げる。

 

 

「……ありがとう」

 

「私からも、……ありがとうございます」

 

 

 待たせてしまったのにそう言われたフェイトは、静かに礼を言う。

その礼にむしろ自分の方がと、返事を返す栞の姉。

 

 そのあと、二人はゆっくりと抱き合い、お互いの体温を確かめ合う。

そして、静かに顔を近づけて、そっと口づけを交わした。

 

 それを見ているものは、夜空の星々と二つの月以外はいなかった。

 

 

…… …… ……

 

 

 だが、皇帝の目はごまかせなかった。

 

 

「……で、真面目な話、どこまでいっちゃった?」

 

「………………」

 

 

 皇帝の執務室で、フェイトはいつも通りソファーに座って、愛しい彼女を待っていた。

そこには当然皇帝がいるわけで、皇帝の姿か? これが、と言うようなウザがらみを披露しだしたのである。

 

 コイツなんで知ってんだ? と言う訝しんだ目で皇帝を睨むフェイト。

皇帝とて覗き見なんて流石に趣味の悪いことはしてないが、何となくフェイトの態度を見て、そう勘ぐっただけだった。

 

 

「もしかして全部やっちまったか!? マジかよ!? むしろ遅いとさえ思ってたんだぜ?」

 

「…………」

 

 

 こいつら告白したんだ! と言う雰囲気を感じた皇帝は、それだけで終わったの? ないよなあ? とフェイトにからみまくる。

 

 されどフェイトは黙ったままだ。

と言うか、本当にそうだったとして、皇帝に報告する義務はないのだから知らぬ顔をするのも当然だ。

 

 

「なーなーおせーてくれよ! おせーてくれよお!! やっぱりもうベッドインしちまったのか!?」

 

「………………」

 

 

 超ウザイ皇帝を無視して、ひたすらに栞の姉を待つフェイト。

と言うか本当にいつもいつもこれなの、本当に勘弁してほしいと思っている。

皇帝はニヤニヤ笑いながら、最後まで行ったのかを何度も聞きだそうとフェイトを問い詰めだした。

 

 

「……あなたは、本体ではないね?」

 

「なんだよ、バレてんのか」

 

「すぐにわかったよ」

 

 

 が、フェイトは目の前の皇帝が、本体ではないことを見破る。

皇帝はありゃ? と言う様子で悪戯が失敗したガキのような表情を見せた。

 

 そう、皇帝は他にやりたいことがあり、国には分身を残して出てっていたのだ。

他にもナギとアリカやスピードワゴン財団と共に、宇宙開発に対する各所への説得などをする分身もいたりする。

それにちゃんと資金援助も行っていたりもしている。

 

 

「分身には教えられねぇってか? まぁ、いいけどよ。本人じゃねーしな」

 

「……分身でも下品だ」

 

「本体が下品だからな! 下品で失礼!!」

 

 

 まあ本体じゃないし、本体が戻ってきたら探ればいいし、と言うあっけらかんな態度の皇帝。

とは言え、この皇帝の分身すら本当にアレだな、とフェイトが言うと、本体がそうだから分身もそうなる訳、と愉快に笑う。

 

 

「で、真面目な話、式はいつやるんだ?」

 

「………………」

 

「だってお前らもう12年だぜ? さっさとしちまえって!」

 

 

 が、次に皇帝が言ってきたことは、なんと結婚はいつ? だった。

急にそんなことを言われても、と言う様子で困り果てるフェイトに、皇帝は畳みかける。

 

 

「早く決めといてくれよな? 準備があるんだからよ!」

 

「あなたにはあまり関係のない話では……?」

 

「大ありだろ!? 何年つきあってんだよ俺とおめぇもよぉ! それにおめぇの彼女は俺の秘書だぜ? 無関係は無理だろ?」

 

「……」

 

 

 結婚して式やるなら準備時間があるから、さっさと教えると言い出した皇帝。

フェイトは皇帝には無関係だ、と言うと、そりゃ無理な話だろ、と皇帝は言い出した。

今、栞の姉は皇帝の秘書であり、無関係と切り捨てることは不可能。

フェイトはそれを聞いて、無言になった。

 

 

「別に国を挙げて盛大にやるなんて言わねぇよ! でもちゃんとしっかり祝ってやりてぇんだよ俺だってよ!」

 

 

 とは言え、皇帝もこればかりは茶化しで言ってる訳ではない。

祝い事になるんだから、やるなら盛大に祝ってやりたい、と言うのが皇帝の本音だ。

 

 とは言え、フェイトの実年齢は12歳。

あと数年は待ってほしいなどと、フェイトは思っているが……。

 

 

()()のめでてぇ席だぜ? そんぐれぇ惜しまねぇ」

 

「……ありがとう」

 

 

 それに自分の秘書と友人の式になるのなら、皇帝とて頑張らねばならぬ、と笑いながら言った。

まさかそういう風に思っていたとはとなったフェイトも、思わず礼を述べてしまうほどだった。

 

 

「クックックッ! おめぇから礼を言われるとはなぁ。明日は雨か雪かぁ?」

 

「……常に、一言多いね」

 

「失礼失礼! そういう奴なんでね! 本体がな!!」

 

 

 が、そこで感動させてくれるような皇帝ではない。

フェイトは皇帝の冗談に再びあきれ果てつっこみを入れれば、皇帝は本体が悪いと悪びれない。

 

 

「す、すみません! 遅くなりました!」

 

「あー! いいよいいよ! 気にしてねぇから!」

 

 

 そんなくだらない会話をしていると、ようやくフェイトお待ちかねの栞の姉が入ってきた。

遅れたことを皇帝へと謝罪する栞の姉に、皇帝は別にとニコニコしながら返事を返す。

 

 また、栞の姉が遅れたのは、やはり昨日のキスのせいで寝付けなかったとか、朝起きて昨日のことが夢じゃなかったのを再確認して再び気恥ずかしくなってしまって、ベッドの上でゴロゴロしていたとか、そんな理由だ。

 

 

「じゃ、あとはごゆっくり!」

 

「えっ!? 皇帝陛下!? どちらへ!?」

 

「ちとふらっとね?」

 

「わ、私もご一緒しますよ!?」

 

「重要な用事じゃねぇから! いいっていいって!」

 

 

 すると、皇帝はお邪魔だと思い、さっさと自分の執務室から出て行こうと歩き出した。

これから仕事なのでは? と思った栞の姉が行先を聞くと、皇帝はニヤニヤしながら近くへとしか言わなかった。

 

 とは言え、栞の姉も仕事なので皇帝へついて行こうとするが、皇帝はそれを断わり、さっさか退出してしまったのだった。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 そこに残された二人は皇帝が立ち去った扉の方を見ていたが、ふと顔を向ければ二人の視線が交差する。

 

 

「……では、いつも通りのを用意します」

 

「頼むよ」

 

 

 ハッとした栞の姉は、そそくさとフェイトのために珈琲の準備を始め、フェイトもそれを静かに待つことにした。

 

 

「…………旨い」

 

「ふふ……、いつもありがとうございます」

 

「それはこっちの台詞だよ」

 

 

 そして、いつものように栞の姉の珈琲を堪能するフェイト。

フェイトの傍に立つ栞の姉は、毎回本当にうまそうにするフェイトに、感謝の言葉を述べる。

 

 だが、それはフェイトも同じだ。

毎回こうやって珈琲を淹れてくれる彼女に、感謝してもしきれない気持ちがあるのだから。

 

 

「一緒にどうだい?」

 

「えっ? ですが今は……」

 

「今は皇帝はいない。少し自由にしてもいいのではないかな?」

 

「……わかりました」

 

 

 フェイトはそれならと、一緒にお茶をすることを提案。

ただ、栞の姉は今仕事に来たばかりで、つまり仕事中。

だから断ろうとするものの、フェイトに説得されてしまい、席につこうと移動する。

 

 

「そっちじゃなくて、僕の隣へ」

 

「はっ、はい」

 

 

 が、フェイトは対面で座ろうとする栞の姉を、自分と同じソファーへ座るよう誘導。

急にそう言われた栞の姉だったが、そう言うのであればと、おずおずとフェイトの隣に座った。

 

 

「フェイトさんは、これからどうなさるのですか?」

 

「皇帝が部下として欲してくれているようでね。彼の部下と言うのは少し癪だけど、悪い待遇ではないと思うから頼もうと思ってる」

 

「そうですか。じゃあ、私とあまり変わりないですね」

 

「君は皇帝の秘書だったね」

 

「はい!」

 

 

 そこで栞の姉は、フェイトの今後についての話題を切りだす。

フェイトは何やら皇帝から誘われており、まんざらではない態度を見せる。

とは言え、あの皇帝の部下かぁ……、と言う気持ちが少なからずあるが、それ以外は悪くないはずだと思った。

 

 それなら、自分と同じだと栞の姉が言えば、フェイトも先ほども皇帝が言っていた彼女の役職を思い出した。

 

 

「なら、これからは共に皇帝と部下として、励んでいくことになるかな?」

 

「そうなりますね」

 

「なら、お互い頑張って行こうか」

 

「はい、一緒に頑張りましょう!」

 

 

 と言うことは、これからは同じ職場の仲間になるということだ。

それに気が付いたフェイトは、ならば共に皇帝の下でやっていこうと話し、お互いに笑い合う。

 

 

「…………ようやく、こうしていられる。君の珈琲をゆっくり味わえる」

 

「私も、やっとフェイトさんがのんびりできるようになったみたいで、よかったです」

 

「本当にそう思うよ」

 

 

 そして、激しい戦いが終わり、一息つけるとフェイトが珈琲を片手に語れば、栞の姉もフェイトが久々に休まるのを見て、ニコニコと笑っていた。

 

 

「……ずっと、僕に珈琲を淹れてほしい。毎日、毎朝、毎晩でも、いつだって君の珈琲を所望している」

 

「それじゃあ、今までと変わらないんじゃないですか?」

 

「そんなに、貰っていた……?」

 

「気づかなかったんですか? いつだって、飲んでましたよ?」

 

「……意識していなかった」

 

 

 すると、急にフェイトが結婚しよ……みたいな告白めいたことを言い出した。

が、しかし、それいつもやってません? と栞の姉に言われてしまい、えっ? となるフェイト。

 

 無意識に珈琲飲みまくっていたフェイトは、すでにそれが当たり前になってしまっており、気にしたことがなかった。

それを今はっきりと栞の姉に言われて、そうだったのか……、とフェイトは自覚した。

 

 

「そんなに私の淹れる珈琲を気に入ってくれて、……嬉しいです」

 

「これ以上のものはないからね。むしろこの珈琲が飲めることが、僕にとっての幸運であり、幸福だよ」

 

「そっ、そこまで……!?」

 

「そこまで、だよ」

 

 

 ただ、それほどまでに自分の珈琲を渇望してくれていることに、素直に喜ぶ栞の姉。

最初、あの村でごちそうしてから、ずっとだからこそ感慨深いものもある。

 

 それはフェイトにとって、最高で至福の時。自分の人生において、欠かすことのない存在。

愛する女性が淹れてくれた珈琲を毎日飲める。これほどの幸福など存在しないのだと。

 

 はっきりとフェイトはそう告げれば、流石にそこまでとは思ってなかった栞の姉は驚くが、フェイトは間違ってないとキリっとした態度で言葉にした。

 

 

「そう。だから……、今まで通り、よろしくお願いするよ」

 

「……はい!」

 

 

 無意識に毎回彼女の珈琲を飲みまくっていたと言うのであれば、今後ともよろしく、と微笑むフェイト。

これから同じ皇帝の下で働くものとしても、自分の愛する人としても、一緒にやって行こうと言う意味だ。

栞の姉もそれを理解しており、とびきりの笑顔をフェイトへと向けて、元気よく返事をするのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 アルカディア帝国にいた皇帝は、分身だった。

つまり本体は別の場所にいると言うことだ。

 

 では、本体は一体どこにいるのだろうか。

皇帝本体は、特定の場所にはおらず、世界中を巡る旅に出ていた。

 

 そう、造物主(ライフメイカー)、ヨルダを連れて────。

 

 

 まずは魔法世界を共に見て回り、色々な場所を見て、聞いて、知ることにした。

都会だろうが過疎地だろうが、紛争地帯だろうが安定した土地だろうが、その全てを見て回った。

また、皇帝は自分たちがよくした地域も見て回り、小さいだろうけど世界が変わってきていると話した。

 

 皇帝は知ってるだろうが、と言いながらも各地を解説しながら、そして苦しむ人々を手助けながら旅をした。

ヨルダと何度も意見し合い、この世界のことを考えながら、じっくりと歩いて回った。

 

 

 魔法世界を周り終えれば、今度は旧世界をゆっくり回ろうと皇帝は言った。

この世界は広い。色んなものがある。平和も争いも富も貧困も、ありとあらゆるものがあると。

 

 

 その旅の中で皇帝は、全ての人が平等になることは無理だが、全ての人が人として暮らせるようになるのは、難しいができるかもしれないと話した。

そして、まずは魔法世界をそうしていくと宣言し、徐々にその領域を拡大していくことを約束した。

 

 さらに数年後には魔法が旧世界にもゆっくりと浸透し、徐々に生活が豊かになっていくだろうと。

そうすれば、今よりも良い世界へと変わっていくはずだと、皇帝は考えていたのであった。

 

 

 ヨルダも共鳴りを失い、人々の負の感情を読み取れなくなり、さらには人の負の感情、人の怨嗟で汚染されていた状態から抜け出した今、少し丸くなってきていた。

負の感情によって切迫していた精神に余裕ができ、思考にもそれが影響されてきたのだ。

 

 余裕が増えると言うことは、視野が広がり選択が増えると言うことだ。

そんなヨルダは皇帝の話を聞いて、己の理想と現実の間にある妥協点を見つけながら、世界の最善を模索していった。

 

 

 だが、やはり転生者の対策も未だ必要とした。

まだまだ転生者の数は多く、危険な転生者も少なからずいるからだ。

故に、これからもやるべきことはやらねばと、皇帝は改めて気を引き締めるのだった。

 

 

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