男子中等部の教室の中、今は昼休みに入っており誰もが自由に行動していた。
そんな時を見計らって、状助が三郎へと声をかける。
「なぁ三郎、前々から聞こうと思ってたんだけどよぉ」
「どうしたんだい? 急に改まって」
状助は以前、三郎と亜子が会話しているところに出くわして、色々と聞こえてきてしまった。
その一部の内容について三郎に聞きたいことがあったのだ。
「いやぁ、おめぇさ、もしかしてなんだがよぉ、……自分が転生者だってことを気にしてるのかなぁって思ってな?」
「……単刀直入だね」
何やら真面目な表情でやってきた状助に、三郎は訝しんだ様子を見せれば、状助がはっきりと質問をしてきた。
状助は三郎が”自分が転生者であること”について、とても悩んでいると思ったのだ。
そのことをストレートに聞かれた三郎は、驚いた様子を見せた後苦笑していた。
「……そうだね、結構気にしてる」
三郎は状助の問いに、静かに答え出した。
自分が転生者であることを、かなり意識してしまっており、謎の罪悪感を感じていると。
「そこまで重く受け止めることかよぉ。気にしすぎてもしょうがないぜ? 俺もちょっとずるいとは思ってるけどよぉ……」
「確かにそう言われればそうなんだけどさ……」
ただ、状助も同じ転生者として、気にしすぎは良くないと話す。
状助とてスタンドを二つも特典で選んだ男だ。俺もちょっとずるい、と言うが実際はベラボーにずるいの間違いだ。
それは本人も理解しており、他のスタンド使いの転生者からもずりぃだろ、と言われたのを思い出す。
そう状助に言われた三郎も、気にしすぎているのはわかっていると言う。
されども、どうして気にしすぎているのかを、おずおずと話し出した。
「…………俺もあの銀髪男と同じ存在だと思うと……」
「なっ、なにぃっ!? 何言ってんだおめぇはよぉ!? 同じじゃあねぇだろうが! おめぇとその野郎が同列なんて、絶対にありえねぇぜッ!」
「状助君?」
三郎がここまで”自分が転生者であること”を意識していたのは、あの銀髪イケメンオッドアイのこと神威の言葉のせいだった。
神威が三郎へと言った言葉”自分と同じこの世界の異物・危険分子”というのが、実は結構ショックだったのだ。
その言葉が呪いとなってしまっており、三郎の心に鋭い棘として深く食い込み、自分も奴と同じ転生者であり同じような存在なのだろうか、とずっと悩んでいた。
が、状助はその言葉を真っ向から否定して叫んだ。
そんな馬鹿げた話がある訳がないと。絶対に違うと。
まったく関係ない上に、三郎とあの銀髪は完全に別物であると、状助は心の奥底から訴えかけたのだ。
状助の叫びに三郎は驚きながら、状助の顔を見た。
「仮にそんな野郎と同じだったらよぉ、俺だって同じじゃあねぇか! 俺も転生者なんだからよ」
「…………そうだね、そうだったね」
また、状助はさらに言葉を続ける。
銀髪野郎と同じと言うことは、三郎だけでなく自分も仲間になるぞ言ったのだ。
何故なら、自分も転生者であり三郎と同じだからだ。
三郎はそれを言われた、ようやく自分が愚かなことを悩んでいたことに気が付いた。
銀髪の言葉に意識を奪われすぎていて、大切なことを見失っていたのだと。
「あの野郎に何を言われたかは知らねぇけどよ、三郎は三郎だろう? 俺のダチで勇敢で彼女のために体張れる、すげぇ奴だぜ」
「俺なんてそこまで大したことないけどなぁ……」
「おめぇが大したことなかったら、どれほどの人間が大したことない以下なんだよ……」
状助はまだまだ言葉を続けて並べる。
三郎は銀髪とは違って、ちゃんとしている男だと。銀髪はニコぽで強制的に惚れさせて悦に入っているだけのカスだったが、三郎はそうではないと。
だって三郎は、自分たちのような戦闘能力もないのに、彼女となった亜子のために体を張って頑張れる男なのだから。
そのためならば努力も惜しまないし、今だって三郎は”気”の扱いを毎日練習しているのも状助は知っている。
そんな自慢の友人なのが三郎ではないかと、状助ははっきり言ってやったのだ。
ただ、三郎は自分で全部解決したことはないし、惚れた女の子を身をもって庇うのは当然だと思っているので、言うほどじゃないと思っている。
されど、それを普通にできるのがむしろすごいことだと、状助は言うのである。
「もっと胸を張ってもいいと思うぜ? それに確実に言えることは、あの野郎と三郎は絶対に違うってこった」
「……ありがとう、状助君…………」
つまり、どう考えてもあのクソ銀髪野郎と三郎は別物だと言いたかったと、状助は笑っていた。
そんな状助の言葉に感激した三郎は、ちょっと涙目となりながらも、微笑んで礼を言う。
とは言え、三郎の悩みの根源はそこではなく、銀髪の言う通りの存在だとすれば、彼女である亜子を不幸にしてしまわないか、というところだった。
されど、同じ転生者の状助や覇王は、仲間や友人を不幸にするどころか助けているではないか。
それを考えれば、やはり銀髪の言葉は惑わせるだけのものでしかなかったのだと、三郎は悟ったのだ。
「やあ、二人とも何を話してたんだい?」
「三郎が自分が転生者だってことを気にしてるって思ってよ」
「そういう話かあ」
そんな時、覇王がやってきて僕も混ぜてよと話しかけてきたので、状助が三郎が悩んでいることを伝える。
覇王も転生者として一定の理解があるので、なるほど、と頷いて見せた。
「じゃあ、僕も仲間に入れてよ。同じ転生者だろ?」
「だってよ三郎?」
「…………そうだね。覇王君の考えも聞かせてほしいな」
「僕なんかそういうところは別に深く考えたことはないけどね」
だったら猶更話に咥えてほしいなあ、と覇王が言うと、状助も三郎にどうするかを聞き、三郎はならば覇王にも相談してみようと考えて、口を開いた。
覇王は三郎の悩みとやらのためになるかはわからないが、自分の考えを静かに語りだしたのだった。
…… …… ……
10月に入ってすぐの休日。
数多と焔は
一応二人ともエヴァンジェリンの許可を貰って教えており、決して独断で勝手に教えた訳ではない。
「いやぁ、確かにここは修行に最適な場所だなぁ」
「ふむ……」
数多はダイオラマ魔法球へと入るとその光景に目を奪われながら、全力で修行できそうな場所だと目を輝かせる。
その横で焔は魔法球内に充満する魔力を感じて、魔法世界にいるのと変わらない状態なのを両手を見ながら確認していた。
「すいません。助かりますエヴァンジェリンさん!」
「ありがとうございます」
「別に問題ないさ」
で、その所有者たるエヴァンジェリンへと数多と焔は近寄って、ペコっと頭を下げて礼を言う。
そりゃ所有者に無断で使うとか失礼極まりないと思っている訳で、当然のことをしているだけなのだが。
エヴァンジェリンはと言うと、そんな二人を眺めながらフフフと微笑んでいた。
と言うのも、数多の修行の場所を提供しようと考えたのはエヴァンジェリンであり、数多が皇帝の部下である龍一郎の後を継ぐのであれば、さらに腕を磨く必要があると考えていた。
それに今教えているネギやカギなどの相手もさせて、新しい風になってもらおうと言う企みもあったりする。
つまり両者にとってしっかりとWin-Winの関係となり、どちらも得しかないということだ。
「おっ、兄ちゃんよーやく来おったんか!」
「よー、コタロー! こんな場所があるってことを教えてくれて感謝するぜ」
「おう!」
と、そこへここを教えた張本人の一人である小太郎が現れ、元気に手を振ってきたので、数多も当然元気よく返事を返して手を振り返す。
「ほな、早速修行や!」
「いいぜ! とことんやってやるよ!」
で、呼んだ理由は当然修行なので、早速殴り合って修行しようぜ! と小太郎がバトルの誘いをすれば、当然数多もノリノリで受け、そのまま広い場所へ出て戦い出したのである。
「……切り替えが早いと言うか…………」
「まあ、好きに使ってくれてもかまわんさ」
そんな数多を見た焔はちょっと引いて呆れていた。
いや、さっきまで礼儀正しくしてただろ、なんで急にスイッチ切り替わって修行始めてんだよ、と。
しかし、エヴァンジェリンは修行のために許可を出したので、そのことについて気にすることはなかった。
「本当にすいません」
「別に気にしてないさ。それにここなら貴様も力が発揮できるだろう。兄の修行でも手伝ってやればいい」
「はい、ありがとうございます」
それでも焔は義兄の行動に対して頭を下げるも、そもそも前提として謝る必要がないとエヴァンジェリンは論する。
また、焔は魔法世界人であり”皇帝から与えられた指輪”だと旧世界で力を発揮できないのだが、この魔法球内であれば問題なく十全の力が出せるはずだとエヴァンジェリンが教え、数多の力になってやれと助言する。
焔もその言葉にありがたみを覚え、もう一度頭を下げて礼を言うと、数多と小太郎の修行する方へと歩いて行ったのだった。
そして同じ日の昼過ぎ、同じく別荘内にて、エヴァンジェリンはカギの修行を見ていた。
「さて、ぼーやは魔法世界に行って随分と腕を上げ来たようだし、この前のリベンジマッチでもしてみるか」
「ああーん? そんなことあったかぁ?」
「……アスナと戦っただろう? あの時と同じヤツだよ」
「あー! あったあった!!」
エヴァンジェリンはカギの修行がだいぶ進んできたのを見て、魔法世界へ行く前にやった試合でも再度してみるかと提案。
が、カギはそのことを忘れている様子でボケをかまし出したので、たまらずため息が出そうになるのを堪えて説明するエヴァンジェリン。
それを聞いたカギは思い抱いたのか、手を叩いて笑っていたのだった。
「アスナ」
「呼んだ?」
「もう一度ぼーやと戦ってみろ。ルールは以前と同じだ」
「いいけど?」
で、エヴァンジェリンは次にアスナを呼び寄せてカギと戦えと指示を出せば、アスナも気にしない様子で頷いた。
「魔法世界に行く前はボコボコにされ放題だったが、今度はそうはいかねぇぞ!!」
「忘れているが貴様は
「そんなハンデ乗り越えてみせらぁ!!!」
「……だったらやってみせろ」
「おっしゃーっ!!」
カギは前回、魔法無効化でボッコボコのギッタンギッタンにされたことも思い出し、二度目はないと叫ぶ。
が、カギの戦闘スタイルは
されど、カギはそんなハードル目じゃねえぜ! という様子で豪語しており、そう強気で言うのであればとエヴァンジェリンはそれ以上アドバイスも何も言わなかった。
そんなエヴァンジェリンなどスルーしてカギは、ガッツポーズを取りながらやる気十分という態度でアスナを見る。
「なら始めろ」
「じゃあ、遠慮せずに行くわね! ”咸卦法”っ!!
「”戦いの旋律”ッ! うおおりゃあぁぁぁッ!!」
エヴァンジェリンは早速合図を出せば、アスナは即座に咸卦法で自身を強化しながら、ハマノツルギをハリセン状態で取り出す。
カギも負けずと魔力強化で肉体を強化し、速攻を心掛けてアスナの懐へと潜り込んだ。
「っ! 前よりずっと疾いっ!」
「あったり前だろうがあっ!!」
一瞬で肉薄してきたカギにアスナは少し驚いて後退し、カギの拳を回避。
右パンチを避けられたカギだったが、これで終わりではないと、今度は左手を振り上げる。
「オラオラオラァッ!!! 魔法が通じねぇんなら、もう物理的にぶん殴って押し通すしかねぇだろうがッ!!」
「これしきのことッ!! ハアッ!!」
「ぐえっ!? 障壁で防御できねぇのズリいぜチクショウ!!」
カギは対アスナの作戦なんぞ、まったく思いついてない。
というか、魔法全部効かないアスナに、有効打が出せるとすれば、パワーでぶん殴るだけしかないと考えたのだ。
なので、拳のラッシュでオラオラして力押しを試みるカギだったが、アスナはそれを右へと避けてすれ違いざまにハマノツルギをカギへとぶつける。
カギは癖で障壁を使って防御したが、無効化されて顔面にハリセンを受けて吹っ飛び、文句を叫びながらも着地して態勢を立て直す。
「もう一発ッ!!」
「当たるかってんだ!!」
再びアスナはカギへと迫りハマノツルギを横なぎに振るうが、カギは来るのがわかるのであれば避けれると判断し、左に飛んでそれをかわした。
「そこッ!!」
「うおおっ!? なんでそんなに的確なんだよ!?」
が、アスナはそこから跳ねるようにして左へと飛び、カギへと再びハマノツルギを振り払ったのだ。
アスナの瞬間的な移動と攻撃に驚くカギだったが、その攻撃もなんとか後ろへ下がって回避。
ハリセン形態だと射程が少し短いことに救われた形だった。
「ハッ!!」
「あっぶねぇ!? マジでやべぇッ!!」
さらに振り切ったハマノツルギを、反対へと再度振り払うアスナ。
その出鱈目な行動にカギはひやっとしながらも、体を弓のようにそらして回避してみせた。
カギが少年体形で身長が少し小さかったからこそ救われた形だ。
「逃げ回ってちゃ勝てないわよッ!!」
「んなこったぁ言われなくてもわかっとるわいッ!! オララッ!!」
「────ッ!!」
そのままアスナは、今度はハマノツルギを振り下ろすが、カギはちょこまかと何とかギリギリで回避し続ける。
とは言え、カギは今まで全部回避に力を使い続けており、まったく反撃した来ないことをアスナが叫べば、カギはだったらと瞬時に再びアスナの懐へと潜り込み、拳を突き出した。
アスナはそれを一瞬の判断でハマノツルギで受けるが、威力は殺しきれずに後ろへと吹っ飛ばされてしまう。
「そおいッ!!」
「クッ!! ここでッ!!」
「貰ったぁッ!!」
カギは態勢を崩しているアスナへと猛攻を仕掛け、左拳でパンチをかますが、それを見越したアスナはハマノツルギをカギへと振るう。
されど、カギはそこで左手を引っ込めながら頭を下げ、ハマノツルギを回避し、今度は右手をアスナへ向けて突き出したのだ。
「あっ!? うっ!?」
「そいやーっ!!」
「杖を投げっ!? そんなものッ!!」
今のカギの攻撃は流石に防御できずアスナは腹部にカギの拳を受けるも、少し後方へと下がってダメージを最小限に抑える。
だが、その瞬間、カギは背中に背負っていた杖をアスナへ向けてぶん投げてきたのである。
ただ、その程度の攻撃なんぞアスナには通用せず、ハマノツルギを振り払って杖を弾き飛ばした。
「うりゃーっ!!」
「その程度のパンチなんてッ!! ハアァァッ!!」
「右がダメなら左でアッパーッ!!」
「見え見えよっ!」
その杖をはじいた瞬間を狙って、カギが右腕を伸ばして突撃してきた。
アスナはそれを見てすぐさまハマノツルギでカギの右手を防御するが、カギは次に左腕を空へと伸ばしてアスナの顎を狙ってきたのだ。
しかし、アスナはその攻撃をすでに見切っており、少しだけ後ろへと下がってカギの左手を簡単にかわす。
「”杖よ”ッ!!」
「え!? あっ!? ぐっ!?」
そこへカギが眼を光らせ、左の手のひらを広げて吹き飛ばされた杖を呼び戻したではないか。
すると杖はカギの左手へと飛んできて、アスナの背中を襲ったのである。
完全な不意打ちとして杖を背中に受けたアスナは、たまらずうめき声をあげて痛みに抗うが、カギはその瞬間を待っていた。
「そこだアッ!! ウオリャアァッ!!!」
「くぅっ!? うっ!?」
カギは腰を落として足で地面をしっかり踏みしめ魔力を乗せた右拳を、杖を受けて怯んだアスナに放ったのである。
流石のアスナも杖をぶつけられて態勢を崩した状態では回避も防御も間に合わず、腹部にそれを受けて吹き飛んでしまう。
「まさか杖を戻してぶつけてくるなんて……!」
「魔法は通じねぇけど、ただ杖がかっ飛んでくるだけなら防げねぇみてぇだな!!」
「考えたわね……。でも遠距離攻撃って禁止じゃ……?」
「あっ!? がっ……ガタガタうるせーッ!!」
されど、アスナは瞬時に立ち直り態勢を即座に立て直すと、再び迫りくるカギを迎え撃つ。
カギは魔法は通じないが杖を呼び寄せるだけなら通じることを見て、笑いながら杖でアスナを攻撃する。
アスナも今のカギの攻撃は予測できなかったと、ニヤリと笑って褒めたのだが、そういえばルールで飛び道具禁止だったのを思い出してそれを言い出したのだ。
カギも杖をぶん投げて戻したのは飛び道具扱いになるのでは、と思ったのか、慌てた様子を見せながら知らねえ! と逆切れして叫び出す。
とは言え、エヴァンジェリンは何も言わず見ているだけであり、アスナも自分の魔法無効化でカギがかなり不利なのを理解しているので、特にそれ以上何も言わなかった。
「だけどもう二度と通じないわよッ!!」
「なめんじゃねえッ!! うおおおおおッ!!!」
それに一度受けた攻撃ならば警戒すればいいだけなので、アスナは次はないと叫んでカギの杖とハマノツルギをぶつけ合う。
カギも杖でアスナとつばぜり合いながら、何度も何度も衝突し続けるのだった。
「15分だ。両者とも止まれ」
そして、エヴァンジェリンが時間を知らせて戦いを止めると、両者は少し離れて立ち止まった。
「もう15分か……」
「ふぅ……」
カギは随分白熱していた様子で時間が経つのが早く感じた様子だった。
アスナもカギ相手に結構全力でハマノツルギを振り回したので、ちょっと一息入れて呼吸を整えていた。
「武芸などまったく知らないド素人そのものな動きの癖に、強引に力押しできるとはな」
「そう褒めるなよ!
「…………はぁ……」
エヴァンジェリンはただ雑に拳や杖を振ってるだけで、あのメトゥーナトに剣術を教わったアスナと互角に殴り合えたのを見て、ちょっと驚いていた。
メトゥーナトとて我流剣術だが千年以上も振り続けた剣術であり、もはやそこまで行くと立派な流派に等しい。
だと言うのに、カギは魔力で強化した肉体でゴリゴリのごり押しだけで、対等に戦って見せた。
これはカギの特典の”ナギの能力”という部分が強く出ているとエヴァンジェリンは思ったが、なんだかなあ、という気持ちの方が強い。
なのでド素人と言ってるにも関わらず、褒められてると喜ぶカギを見て、頭が痛いとエヴァンジェリンは頭を押さえてため息を吐いている訳で。
「しかし、予想以上だったな。ただの魔力強化だけで、ここまでアスナに肉薄して耐えるとは」
「日々成長してんのさ!」
「……何故か釈然としないが」
それにアスナは剣術だけじゃなく、究極技法である咸卦法で強化している。
その強化された肉体からの剣術ははっきり言えば化け物のようなスピードであり、カギとてアスナが振るったハマノツルギを目視はできていない。
なのに勘だけで全部なんとかしているのがカギであり、やっぱりなんだかんだ言って出鱈目な特典効果で強くなっているってことだ。
エヴァンジェリンとて、カギがこれほどアスナと殴り合えるようになっているとは思っておらず、予想を超えていたと言葉にする。
そう褒められてるカギは、ちょっと天狗になってケラケラ笑う。
いやー、毎度毎度馬鹿みたいに修行してる訳だし、魔法世界で馬鹿みたいな転生者と殴り合ったし、強くなっちゃったわー! と。
が、エヴァンジェリンは納得いかねえ、と肩を落として顔に手を当てていた。
親父が出鱈目ならその能力貰った息子も出鱈目だろうが、なんというかふざけた存在だな、と改めて思ったのである。
「ちゃんと武術とか学べば、もっと伸びると思うけど?」
「いやー、そういうのは真面目にやると三日で飽きちまうから……」
「あっ、そう……」
で、アスナはちゃんとした体術があれば、これ以上の強さになるとカギに言うが、カギは武術を習う気が一切なかった。
あの功夫とか教えられても、”原作のネギ”のように毎日反復練習する気にならないだろ、というのがカギの意見だ。
功夫は日々毎日の積み重ねだ。されどカギはそういうのが面倒な男だった。
そりゃエヴァンジェリンの修行は、自分から頼んだしハードにしてくれと言ったので我慢している。
されど、それ以上日課増やすとしんどいし、多分長続きしないと考えて無理だとカギは言うのである。
そんな向上心があるんだかないんだかわからんカギに、アスナも呆れた声しか出せなかった。
もったいないなあ、と思ったが、戦闘スタイルはあのナギっぽいのでそれでもいいんだろう、と考えを投げ捨てていた。
「まあいい。次に行くぞ次に」
「は? 次? ネクスト?」
「だいぶ余裕そうだからな。連続でやってもらう」
「はあー!? 嘘だろ!? スパルタかよ!! スパルタだった!!」
エヴァンジェリンはこれで終わりではないと言えば、休みもなくかよとカギは叫ぶ。
とは言え、カギはなんかまだ全然元気だし問題ないだろ、とエヴァンジェリンは思っており、そんな修行で大丈夫か? 一番ハードなのを頼む、としたのはカギなので、カギは文句が言えないのだ。
「ネギ少年。ぼーやの相手をするんだ」
「兄さんの相手ですか?」
「今度はネギとかよ」
そして、カギの次の対戦相手は、弟のネギだ。
それをエヴァンジェリンが言うと、ネギは自分が? という顔を見せ、カギもネギが相手かぁ、と疲れた顔をする。
「遠距離攻撃禁止のルールだ。ネギ少年はそれ以外の行動は自由とする」
「はい。わかりました」
で、エヴァンジェリンはネギへと、戦いのルールを言い渡す。
ネギの場合基本戦術が魔法での遠距離攻撃なので、それを禁止とすると言うが、逆を言えばそれ以外の手段は多くないのでそれだけだ。
そのルールに不服はない様子のネギは、素直に従った。
「ネギになら魔法が通じるし、さっきより楽だろ」
「それフラグなのではないです?」
「うっせーよゆえ! 俺は魔法さえ通れば強いんだッ!!」
「そうですか……」
カギはネギが相手ならやりようはいくらでもあると考え、楽観視して笑い出した。
ぶっちゃけ魔法が通じないアスナとか、普通に相手にしにくい相手であり、マジで戦いたくないと思っているのがカギだ。
それを言えば夕映はそれ負ける人の言う台詞じゃ……、とつっこむが、カギは自信満々だと叫ぶだけだ。
なんというか大丈夫かな、と思った夕映だが、それ以上何か言うと文句が飛んできそうなので、あえて黙ることにした。
「では始めろ」
「早速行くぜぇッ!! ”雷神斧槍”ッ!! トリャーッ!!」
「”最果ての光壁”ッ!!」
そこでエヴァンジェリンの号令とともに、カギはすぐさま杖へと術具融合を行い、お得意の雷神斧槍を握りしめてカギへと突っ込んでいく。
カギはネギの弱点を知っており、それはネギの術具融合である最果ての光壁の精製に時間がかかることだ。
だが、カギの目論見はあっけなく崩れ去った。
ネギはその場でカギと同じ速度で、最果ての光壁を構築して見せたからだ。
「ほげっ!? 出が早くなってやがる!?」
「すぐに出せないのが明確な弱点だったからね。最初から遅延魔法として組み込んで手順を最適化しておいたんだ」
「はあーっ!? そんなのアリ!?」
ネギの速攻にカギは目玉が飛び出すほどに驚き叫ぶが、ネギとて自分の弱点を理解して克服する努力をしていたと語る。
すでに弱点が消えてしまったことをネギは嘆き、ありえねぇ!! と声を荒げるしかなかった。
「げげーっ! 俺の術具融合があっけなく砕け散った!?」
「隙だらけだよ兄さんッ!!」
「あっ!? やべっ! 障壁展開ッ!!」
そして、カギの雷神斧槍とネギの最果ての光壁が衝突すると、強度の違いで雷神斧槍が砕け散って魔力の光となって散った。
カギはあっ一撃で砕けたっ! と叫んだ瞬間に、ネギはすぐさまカギへと攻撃。
ネギの攻撃を見て慌てたカギは、咄嗟に魔力障壁を展開して最果ての光壁の突きを防御。
「ギャーッ!? 障壁破壊!? ちっ、チクショウ!!」
「もっと本気を出してよ兄さん!!」
「これでも真面目にやってる方だぜ!?」
「嘘ばっかり!!」
「なんでネギからの期待がそんなに重いんだよチクショー!!」
されど、最果ての光壁には常時障壁破壊の魔法が内包されており、カギの障壁は貫かれて粉々になった。
カギは焦燥しながら体をそらしてネギの攻撃を回避して距離を取るが、ネギはそのままのスピードでカギへと突っ込んでいく。
一撃でカギの術具融合が砕けたのを見たネギは、これ真剣にやってないな? と思ったのか檄を飛ばしてくるが、カギは真面目にやってるんだー! と大声を出して否定。
が、ネギはカギがこんなもんじゃないと思っており、嘘だと言い出したではないか。
ネギからの厚い信頼を聞いたカギは、どうしてそういう方向に信用されてんのかわからず困惑するだけ。
そりゃまあ、墓守り人の宮殿での戦いぶりを見れば、ネギとてカギがもっと強いと思うのも当然ではあるのだが。
「もっと精度と強度を上げて行くしかねぇ! ”超強化・雷神斧槍”ッ!! これでぇ!!」
しかし、しかしだ。このカギは跳ねっ返りが馬鹿みたいに強い。
このまま押し負けるとか許せねえと、根性と気合で雷神斧槍を強化し、ネギの攻撃を防御したのだ。
「やった! 砕けなかった!! こっからが本番だぁッ!!」
「くっ!? 今のでこんなに強化されるの!? しかも身体能力は兄さんの方が上っ!? だけどッ!!」
ネギの最果ての光壁が雷神斧槍と衝突し、雷神斧槍が砕けなかったのを見たカギは、たまらず喜びの声を上げ、反撃を開始。
逆にネギは受け止められた後に力負けし、後退を余儀なくされてしまう。
また、今ちょっといじっただけで術具融合の強度を上げてきたカギに、ネギは度肝を抜かれた様子で叫ぶ。
さらにカギの方が魔力強化のパワーが強く、単純な術具融合同士での殴り合ではネギが完全に不利になってしまったのだ。
逆転されてしまったネギだったが、ここで負けるほど弱くなどない。
機転を利かせた行動でカギの攻撃をかわし、得意の障壁で防御しながらカギと衝突し続けるのだった。
「15分だ。両者とも今の条件なら互角か」
そして、15分が経ち戦いが終わりを迎える。
エヴァンジェリンは両者の状態を見て、引き分けだと判断。
何せ二人は少し疲れた様子を見せながらも、お互い無傷だったからだ。
「兄さんもあの大量の武器が使えないので威力が下がっており、僕も得意の魔法や砲撃が使えないので手数が限られてしまってますから」
「ふむ、概ねそのとおりだな」
そこでネギは今の戦いを振り返り、どうしてそうなったかを分析。
分析した結果をエヴァンジェリンへと語れば、エヴァンジェリンも大体は同意と頷いて見せる。
何せカギは最大火力である
地味に杖に術具融合するよりも、宝具に術具融合した方が火力上昇率が桁違いなのだ。
また、ネギ自身も遠距離攻撃を禁止され、魔法攻撃や砲撃を全て失った状態で戦わされた。
はっきり言ってネギの攻撃方法の数々は大体がそれであり、近距離戦闘となると最果ての光壁を臨機応変に変形させつつ障壁で防御しながら戦うしかないのだ。
「それに僕の防御でも兄さんのあの武器を果たして防げるか。そればかりは未知数ですけど」
「確かにそうだが、あれを防げて初めて最強の防御と呼べるだろう。精進するべきだな」
「はい!」
それにあの
ただ、あの武器を完全に防げるようになれば、最強の防御として完成したも同然になるとエヴァンジェリンが語り、さらに上を目指すよう激励を送る。
ネギも最終的にそうなりたいと思っており、元気よく返事をした。
「ぼーやも
「そーかもなあ。あればかりに頼る戦法ばっかり編み出してきたが、使えない状況も考えて戦えた方がいいもんな」
「そういうことだ。戦略は幅が広い方がいい」
次にエヴァンジェリンはカギへと話しかけ、
カギとて今の戦術が全て
様々な戦い方ができた方が戦闘面で有利になるのは当然だと、エヴァンジェリンはカギへとアドバイスを送る。
一つの強さでゴリ押せるならそれに越したことはないのだが、それが通じない相手や状況になった時のことを考えての戦術だ。
「当面は
「それでいい」
だったらもっと修行してそれ以外の手数を増やすぜ! と気前のいいことを元気よく言い出すカギ。
本当にわかってんのかわかってないのかわからん、頭が空っぽな台詞だ。
まあ、本人がある程度理解をしているならいいか、とエヴァンジェリンは一言いうだけ。
「はあ……、調子がいい時はこうなんだがなぁ……」
されど、カギが調子こいてテンション上がってる状態だからこその態度だ。
やる気が落ちるとすぐにグータラしだすカギを知っているエヴァンジェリンは、なんというか現金な奴だな、とため息を吐く。
「どうだよゆえ!! 俺は強かっただろうが!!」
「はい、素直にすごかったです」
で、夕映に負けフラグと言われたのを根に持っていたカギは、夕映へ話しかけて豪語しだした。
夕映もまさかカギが根性と気合で何とかするとは思ってなかったので、少しだけ驚いた様子だった。
「俺はこのまま最強を目指すぜ!!」
「頑張ってください」
「ゆえに応援されちゃもっと頑張らなきゃいけねぇなぁ!!」
で、調子に乗り放題のカギは、だったら天辺取りに行くわと、馬鹿みたいな強気の発言を吐き出した。
ただまあ、このぐらいの調子の方がいいのかもしれないと思う夕映は、とりあえず応援しておくことに。
それで夕映にそう言われたカギは、夕映の言葉だからあなあ! とさらにやる気を燃やして修行に励むと宣言。
ちなみに、ネギのところにはのどかがやってきて、そっとタオルを渡したりとかしていたりした。
そういう小さい所に気を回してくれるのどかに、ネギは感謝するのだった。