理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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二百十話 体育祭

 

 麻帆良学園の体育祭、開催まであと二日まで迫ってきた今日。

そこでは信じられないようなアナウンスが大々的に流れてきていた。

 

 

「なあ……、俺の聞き間違えだよなあ? 引き続き死者ゼロを目指しましょうって、俺の聞き間違いだよなぁ!?」

 

「えっ? 間違ってないと思うけど……」

 

「嘘だろ……? この体育祭ってどんな競技が待ってんだよ……」

 

 

 カギは耳を疑った。意味が分からなかったからだ。

体育祭で死者ゼロ目指すって、どんなアナウンスやねん、と。

 

 それをネギに聞けば、あってると言ってきた。

ネギの返答を聞いたカギは、この体育祭が地獄のような何かだと言うことを、すでに察し始めていた。

 

 

「で、ネギよ。唐突な質問なんだけどさあ」

 

「なに?」

 

「お前って好きな子とか……いたりしちゃう?」

 

「???? 本当に唐突だね? なんでそんなことを急に?」

 

 

 まあ、それはいいとして、とカギは突如としてネギに妙な質問を出した。それは好きな子がいるかどうか、だった。

何せそろそろ本命の子がネギにできて、それでワッチャワッチャする話になるからだ。

 

 とは言え、唐突で意味不明な質問に、ネギもチンプンカンプンな表情をするだけ。

一体何を聞いてきたかと思えば、と言う様子でカギの顔を見ていた。

 

 

「いやー、兄貴としてちょっと気になっただけさハハハッ!!」

 

「うーん……。そう言われても……」

 

 

 なんで聞いたのかと言えば、やはり()()()この時期、ネギの本命が決まっているからだ。

だが、そんなことを馬鹿正直に話す訳にもいかないので、兄として、とありきたりな言い訳を付けるカギ。

しかし、ネギは腕を組んで悩みだし、いないなあ、と言う顔をするだけだ。

 

 

「いっ、いないの!? なんで!?」

 

「なんでって言われても……」

 

「いやーいるでしょ!? いると言って!! 言え!!!」

 

「いっ、いないよー!!」

 

 

 ネギの好きな子なんていないよ、と言う様子に、カギは驚いて飛び上がりかけた。

されど、ネギも驚かれてもむしろ意味不明だし、しつこくカギに聞かれても、困った顔でいないモンはいないとしか言えない。

ぶっちゃけカギの意図がまったく読めないネギとしては、本当に意味が分からないのである。

 

 

「長谷川は!? 長谷川はどうだ!?」

 

「なんで千雨さん!?」

 

 

 ならばこれはどうだ、という様子のカギは、()()()本命だった千雨の名前を出してみるも、ネギはなんでその名前を? と言う様子しか見せない。

 

 と言うのも、()()()()ネギと千雨の接点が()()よりも少なかった。

一応魔法世界ではある程度一緒にいたのだが、ウェールズへ帰る前に話したりとか、闇の魔法を習得する時に背中を押すとか、そういうイベントもなかったので、特に惚れる理由がなかったりする。

 

 

「じゃあのどかはどうなんだよ!? パートナーだろ!!?」

 

「確かにそうなんだけど……」

 

 

 だったら、とカギは次にのどかの名を出す。

のどかはキスで得た仮契約のパートナー。意識ぐらいしてるだろ、と言うが、それもネギはうーん、と悩むだけ。

 

 まあ、確かにキスで仮契約したのは事実だが、ネギは寝込みを襲われただけにすぎず。寝て起きたら仮契約されてたので、その実感がまったくないのだ。

一応学園祭の時のデートで、のどかからキスされたりしていたが、それが惚れる材料になるかは別問題でもある訳で。

 

 それでもパートナーとしてすごく大切に思ってるけど、故にそれ以上はないと言う様子だった。

 

 

「マジでいねぇの!? 嘘だよな!?」

 

「なんでそんなに必死なのさ!?」

 

「なん……だと……」

 

 

 カギは今のところネギに、本命の子どころか好きな子一人いないことに、大きな衝撃を受けていた。

が、ネギとしてもやはりカギが驚く理由がわからず、なんで? と言う顔で逆に驚くだけだ。

もはやネギに好きな子がいないことを悟ったカギは、理解不能と言う顔で驚いた。いや驚きたいのはネギの方だろ。

 

 

「じゃあ逆に聞くけど、兄さんにはいるの?」

 

「いっ!? いいいいっ、いないわい!!」

 

 

 なら、逆にネギがカギへと、同じ質問をしてやる。

こっちが聞かれたんだから、そっちが聞かれる覚悟があるってことだよね? と。

 

 それに対してカギは、急に慌ててキョドりだした。

何と言うか、明らかにフリと言うか、突っ込んでくださいと言うようなムーブだ。

 

 

「なるほど、いるんだね?」

 

「ななななっなんでそうなるんだよー!? いねえってんだろー!?」

 

「えっ、いるって言ってるよねそれ?」

 

「言ってねーよ!!!!」

 

 

 ネギはカギの態度を見て、こりゃいるな、と瞬間的に理解。

それでもカギは認めない。認めたらバレると思っているからだ。バレたくないのだ。すでにバレバレで意味がないのにだ。

 

 なのに丸わかりな態度しかしないカギに、ネギはそれじゃもう教えてるようなもんじゃん、と言えば、NOとカギは意地になって叫ぶ。

 

 

「じゃあ、誰? やっぱりパートナーの夕映さん?」

 

「ちっ違! ちがちが! 違うわい!! んなはずある訳ないわい!!!」

 

 

 あー、そうかー、とネギは納得し、じゃあ誰だろうと思って、一番近そうな名前を出した。

それこそカギが最初に仮契約を行った夕映だ。まあ、夕映は仮契約ペーパーで仮契約してるので、チューしてないんだが。

 

 その名前を聞いたカギは、さらに挙動不審な態度を見せ始め、ガタガタ揺れ出した。

これじゃもう自分から言ってるようなものである。

 

 

「兄さんってさあ。なんでそうわかりやすいのかなあ……」

 

「ちげーってんだろー!!」

 

 

 ネギはカギの態度を見て、なるほどー、とさらに呆れながらに納得。

と言うか、さっきから自分で全部ばらしてるよね? 態度に出ちゃってるよ? とネギが言うと、カギは興奮した様子で叫んで否定。

 

 

「あっ、夕映さん!」

 

「えっ!!? マジで!!?」

 

 

 へー、そうかー、と思ったネギは、ちょっと悪戯してみるか、と夕映の名前を出して指をさした。

カギはそこに夕映がいるのかと思い、飛び上がって驚きながらそっちを見れば、そこには誰もいなかったのである。

 

 

「ほらやっぱり!」

 

「おまっ、おまっ!!」

 

 

 その態度でネギは、カギが夕映のことが気になっているのを完全に理解し、ほらみろ、と言う。

が、まさかネギにこんな悪戯されるとは思ってもみなかったカギは、口をパクパクさせて顔を赤くして怒り出した。

 

 

「俺は別にゆえのことなんて全然何とも思ってないんだからねッ!!!!」

 

 

 そして、カギは全力で否定する言葉を大声で叫んだ。

夕映のことなんて好きじゃないやい! とまさに小学生ムーブである。転生者の姿か? これが。

 

 

「あっ、夕映さん……」

 

「もう騙されんぞ!!」

 

 

 だが、そこでネギはふと気が付き、再び夕映の名を小さく呼ぶ。

そのネギの言葉に、カギは二度目はないぞと、スルーを決め込んだその時だった。

 

 

「カギ先生……?」

 

「えっ!!? マジで!!?」

 

 

 なんと、後ろから夕映の声が聞こえてきたではないか。

カギがそっちの方を向けば、夕映が立っており、どうしたんだろうと言う顔を見せていたのだ。

 

 

「いやっ!? あのっ!? そのなぁ!? 今のは言葉のあやってやつでなあっ!!??」

 

 

 この距離じゃ今の声聞こえただろ、と思ったカギは、慌てて弁明をしゃべりだした。

しかし、突然のこと過ぎて何を言ってるのかわかりづらいもので、本人も何を言っているのかわからないような状態だった。

 

 

「大丈夫です。私もカギ先生のこと、友人として魔法使い(マスター)として、あと先生とてしか見てないですから」

 

「があああああああああ!?!?!?!」

 

「では、また後でです」

 

 

 当然夕映も先ほどのカギの叫びをしっかり聞いており、その叫びの答えをカギへと伝えた。

まあ別にそういう対象にはなってないよ、と言うことをはっきり伝えたということだ。

 

 カギは夕映の言葉に、地獄に落ちた時の悲鳴のような声を喉の奥から吐き散らし、絶望の表情を見せてふらふらしだした。

夕映はそれに対して特に気にすることなく、すたすたと去って行ったのだった。

 

 

「に……兄さん…………」

 

「…………」

 

「なんか……、本当にごめん……」

 

「……よせやい…………」

 

 

 完全に口を開けたまま、その口から魂が出てるほどに燃え尽きたカギを見たネギは、流石に申し訳なくなって謝った。

まさか、まさかこんなことになるなんて、ネギも予想していなかった訳で。

 

 謝られたカギも、過ぎたことは仕方ない、と涙を流してネギを許した。

最初に質問したのは自分だし、しゃーねーよなあ……、日差しが沁みるぜ、と。

 

 

「カギ先生が、私のことを……?」

 

 

 とは言え、夕映はカギが言ったことが真逆の意味であることを、実は理解している。

何せいつもいつも素直じゃない答えばかり言うカギを見てきた夕映は、カギそんなことを素直に叫ぶ人間ではないのを見抜いているからだ。

 

 つまり、あんな風に叫んでいたと言うことは、逆にカギは自分のことが好きなのではないか、と夕映は思ったりしていた。

が、それでも今の夕映は先ほどの言葉通りにしか思ってないので、そうなんだ、程度の感想しかないのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 そして、体育祭開催日当日。

誰もがクラスのために必死に競技に参加し、競い合う。

 

 最初は短距離走や長距離走などの、普通の競技が目立っていた。

しかし、進むにつれてどんどん怪しくなっていく。

 

 

「死者ゼロ目指せ……、なるほど。理解(わか)っちまったぜぇ……。わかりたくなかったぜぇ……」

 

 

 カギはその競技を見て死者ゼロの意味を理解し、おかしいだろ、と嘆き始めた。

このカギは()()()()はあるが、流石に体育祭のプログラムまでは覚えていない。

なので、この状況に困惑し、頭を抱え始めているのだ。

 

 

「フリーランニングでなんでこんな狂ったことしてんだ……? これって幻想空間(ファンタズマゴリア)か……?」

 

 

 麻帆良学園の屋根の上を走ってゴールまでたどり着くと言う、学園横断パルクール大会と言うのが開かれていた。

それを目にしたカギは、目を疑って頭がおかしくなりかけた。

 

 いや、何も準備していない普通の屋根に上って、屋根と屋根の間を飛び越えて、ゴールを目指すのだから狂っている。

地味に好評なようで、この競技ができてから二年だと言うのに、参加人数は300人を超えているのだ。

 

 そりゃカギもめまいを起こす訳だ。

 

 

 それだけではない。

本格サバゲー大会では戦闘ヘリが飛び交い、ミサイルまでぶっぱしてくるとんでもない光景が目に入ってくる。

流石に実弾ではなく当たったらちょっと痛いぐらいの模擬弾だろうが、それでもヘリありのサバゲーとかヤバイ。

 

 だが、これがいつも通りだと真名は言う。

いつも魔法銃を使う裕奈も今回参加しており、つられて亜子も参加したが、過酷な環境に涙目だ。

地味にトリスも呼ばれたので来てみれば、なんかすごい光景で、これ魔法なしでやってんの? と真面目に思っていたりした。

 

 また、状助と覇王と三郎も参加してみたが、ヘリの攻撃に驚くばかりで何もできそうになかった。

状助は覇王に無敵の黒雛で何とかしてださいよー! と叫ぶが、覇王はO.S(オーバーソウル)抜きでこういうことするからいいんじゃないか、とただ笑っているだけ。

 

 当然三郎もそんなズルダメだろうと思っており、状助もスタンド使えればなぁチクショウ、と嘆きながら、ライフル片手に突撃して爆風に巻き込まれるのだった。

 

 

 それ以外にも巨大玉転がしで、建物ぐらいの大きさの玉を転がして競う恐ろしい競技もあったり。

 

 

 ある意味まともそうな格闘大会ウルティマホラが開催されていたり。

当然魔法世界で鍛えてきた古菲も当然参加し、大抵の相手を蹴散らしまくった。

 

 ただ、()()()()魔法世界の拳闘大会に出てない小太郎も出場しており、転生者だって存在するので古菲にとっても結構骨のある戦いができて喜び放題だった。

 

 だが、数多はこの大会に参加せず。

一応魔法世界の拳闘大会の片方で優勝したので、流石にな、と言う理由だった。

 

 

 そんな感じでカギが慄く競技の数々がどんどん流れ、ついに学園全体で行われるイベントの時間となったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 カギは次のイベントの内容がどんなのかを知るため、概要を調べた。

 

 

「えーっと、次のイベントは確か学園全体のイベントだったよな……。……なんじゃこりゃ!?」

 

 

 すると、信じがたい内容が目に飛び込んできたのである。

 

 

「教師突撃☆スーパー借り物競走!? イカれてんのか!? 誰だよこんなの考えた奴!? しかも毎回あんの!?」

 

 

 それはなんかタイトルからして怪しげな、おぞましいイベントだった。

信じられぬものを見た。説明をすらすら読んでいくとまさに悪夢のような内容であり、カギは本気で冗談を疑った。

 

 

「あるんだよこれが」

 

「あっ! お前は勝ち組のイケメン!!?」

 

「勝ち組じゃな……、否定できなくなって悲しい……」

 

 

 すると、すっとカギの横へと降り立つ金髪の男が一人。

それは墓守り人の宮殿で共に戦った、アルスだった。

 

 カギはアルスのことを、原作キャラと結婚して子供までもうけた奴と言う印象で、勝ち組扱いだ。

されどアルスはそうは思ってなかった。なかったのだが、幻灯のサーカスを受けなかったことで現実を突きつけられ、リア充であることが証明された。

なので、もう勝ち組じゃねーよ、なんて口が裂けても言えなくなったと、がっかりした様子でうなだれていた。

 

 

「前回は散々だったなぁ。なんか俺、集中的に狙われたし……。マジで泣きそうだった……」

 

「いっ……、一体、どんなことをされるってんだ……?」

 

 

 で、アルスはすでにこのイベントを体感しており、むしろそれで酷い目に遭っており、絶望の表情を見せる。

そんなアルスを見たカギは、どんどん不安になっていく。あのアルスがこんな顔をするなんて……と。

 

 

「無理難題な借り物を要求されて、それを持ってった団体が得点貰えるっつーやつ」

 

「ほげぇ!? 教師を何だと思ってんの!? 羊かヤギだと思われてんの!?」

 

「まあ、このイベントに関してはそうだな」

 

「なんで!? なんでそんな拷問みたいなイベントやってんの!?」

 

「こっちが知りてえ……」

 

 

 そして、イベントの内容は、教師の持ち物を借り物にして奪っていく争奪戦だと言う。

カギはその説明に目ん玉飛び出しそうになるぐらい驚き、家畜みてぇな扱いだなと慄けば、アルスもそうだよと肯定。

 

 冗談じゃねーぞなんだそれ、とカギは思うが、当然アルスもそう思っている様子だった。

 

 

「と言うことで、さっそく奪いに来たよ?」

 

「ゲェ────!?」

 

「一番手がお前なのかよ!? いきなりラスボス戦させんのやめろよ!?」

 

 

 そこへ気が付けば現れた、覇王。

イベントはすでに始まっていたようで、覇王が先手を打ってきたのである。

当然カギは覇王の強さを知ってるので驚き、アルスもラスボスがいきなり来るなよ、と焦りまくる。

 

 

「いやー、別にO.S(オーバーソウル)なしでやるし、大丈夫だろ?」

 

「なーんだ! なら問題ないかぁ!」

 

 

 とは言え、覇王とてこのような催しでO.S(オーバーソウル)を使うほど無粋ではない。

なので使わないよ、と笑って見せれば、カギはじゃあ余裕だとほざきだした。

 

 

「俺らだって魔法抜きだぞ? アホ言ってんな!!」

 

「え!? なんで!?」

 

「そりゃお前、一般人もいるんだぞ? 当たり前だろ?」

 

「あぎゃー!?」

 

 

 だが、アルスも自分たちの状況をはっきり言ってやれば、カギは飛び上がって驚く。

そりゃ一般人が大多数のイベントで魔法なんてポンポン使えるわけねーだろ、と言うのは当然であり。

 

 

「なあに、死なない程度に手加減してあげるよ」

 

「怖!? 剣はありなのかよ!? おかしいだろ!?」

 

「本物じゃないよ。安心してほしいね」

 

「じゃなくても普通に痛てーだろ!?」

 

 

 すると、覇王はすっと長刀を取り出して、戦闘態勢へと入っていく。

なんか武器を持ち出した覇王にカギは青ざめ、武器ありはずるいと言うと、覇王は刃はないから、と笑っていた。

ただ、そんなもんに殴られたら普通に痛くて死ぬだろ、とカギは当然のことを叫び、これはヤバイと焦りだす。

 

 

「じゃあ、カギ先生? まずは君の命を貰おうか?」

 

「お題が命なの!? 冗談だろ!? って言うかもうイケメンの野郎いねぇ!?」

 

 

 しかも覇王は命を貰うと言って笑いながら言い放つではないか。

カギは命はありえねえだろ!? と慌てながら仲間のはずのアルスを探すも、すでにアルスの姿はなかったのだ。

完全におとりにされたカギは、あーやべー! と思いながら、テンパりまくる。

 

 

「はははっ、冗談だよ。命の次に大事なものを貰うよ」

 

「なんだそりゃ!? んなもんねーよ!!」

 

「へえ……、じゃあ特典、貰おうか?」

 

「やめてくれー!!!」

 

 

 が、流石に命は覇王の冗談であり、命の次に大事なものだと言い出した。

そんなものなど持ってないとカギは叫ぶが、覇王は命の次に、つまり特典かな? と思ってそれを言い出すと、カギは覇王が特典を引き抜くことを思い出してガタガタと震え出した。

 

 まあ、特典を抜くにもO.S(オーバーソウル)が必要なのでこれも完全に冗談なのだが、カギは覇王がどうやって特典を抜いてるのか知らないので、怯えて逃げることしかできなかった。

 

 

「じゃあ、狩りるよ」

 

「絶対漢字違うだろ!? やめろー!!」

 

 

 それはそれとしてお題の代物を頂くと、覇王はカギへと襲い掛かる。

本当のお題はカギの杖だが、あえてカギをおちょくっているのがこの覇王。

 

 カギは覇王の冗談を真に受けて、魔力強化で必死に逃げる。

魔法は使えないが魔力強化は目に見えないんだからいいだろ、ともはややけくそだ。

まあ、覇王も気の強化で走って追ってるので、許されるかもしれない。

 

 

 されど、覇王の方が素早く動けるので、カギは後ろを見て悪魔が追ってくるかの如く絶望。

覇王はさっさと仕事を終わらせるべく、模擬刀をカギへと振り払う。

それを見たカギは、もうだめだと思った瞬間、救いの手が現れた。

 

 

「おや?」

 

「おっ、お前は!?」

 

 

 瞬間、金属音が鳴り響き、カギが後ろを見れば、なんと刹那がカギを庇い、刀で覇王の剣を防いでいたのだ。

 

 

「覇王さんの相手は私が」

 

「刹那!! 助かったぜぇ!!」

 

 

 刹那は覇王の剣を抑えながら、カギへ逃げるよう進言。

カギは刹那に感謝しながら全速力で逃亡し、覇王から距離を開ける。

 

 

「担任を守るのかい?」

 

「クラスの者以外に借りられるとペナルティになるので、当然です」

 

「じゃあ、久々にやろうか?」

 

「望むところです」

 

 

 覇王は刹那に剣を阻まれたのを見て、ふぅんと笑って邪魔をするのかと聞けば、刹那はルール上守護する必要があると告げる。

 

 自分たちのクラスの担任が、自分たちのクラス以外の人にものを借りられてしまうと、ペナルティとしてポイントがマイナスになるのだ。

だから、覇王がカギから借りられると自分たちが不利になるので、刹那はカギを庇うのだ。

 

 当然覇王はそのルールを知っている訳だが、そんなことより刹那と戦う方が面白そうだと思い始めた。

刹那も覇王と久々に戦えることを喜んでおり、二人が笑った次の瞬間、空気が爆発したかのような衝撃が、周囲を襲ったのである。

 

 どちらも瞬動を用いて超加速しながらつばぜり合い、剣と剣がぶつかる衝撃で、空気が揺れて衝撃波となっているのだ。

 

 そこへひょっこり現れた木乃香と、ひっそり現れた坂田金時(バーサーカー)が二人を応援しながら笑っていた。

木乃香はどっちも応援するか迷いながらも覇王を応援し、バーサーカーも同じく迷いながら、マスターである刹那の方を応援。

 

 気が付けば随分と騒ぎになっているが、両者とも刀を納めると言う選択はなく、どんどん過激なバトルへと突入していくのだった。

 

 

「なんか勝手に二人で盛り上がってくれて助かったぜぇ!」

 

 

 まあ、カギにとっちゃ覇王が刹那とバトってんのはむしろ僥倖。

さっさととんずらこいて、安全な場所に避難するぜー! と笑いながら走り回る。

 

 

「とりあえずネギを見つけて合流……、おるやん!」

 

 

 と、そこで味方が欲しくなったカギは、ネギを味方につけて協力し合おうと思ってキョロキョロすれば、すぐさまネギの姿を見つけることができた。

 

 

「ってなんかクラスの連中に追われてる……!? あー、クラス以外の奴に借りられるとペナルティか……」

 

 

 しかし、カギが見た光景は、なんか自分のクラスの教え子たちに追われまくっており、必死に逃げ惑うネギの姿だった。

そりゃ借り物なので自分の生徒からも貸してくれと言われる訳で。何でもかんでも奪われたら追剥にあったような姿にされてしまう訳で。

 

 

「待てよ? つーことは、全てが敵ってことかよ……!? 冗談だろ!?」

 

 

 そりゃネギもあれだけのクラスメイトに追われりゃ逃げるわ、とカギは納得したが、つまりそれは教師以外は全て敵と言うことだと、そこで理解して絶望した。

 

 ()()()()ネギが多くの生徒と仮契約を行ってもなければ、キスもしていないので、生徒たちから文句が出ていじられまくることがなかった。

さらに言えば、別に魔法世界のために奔走してもいないので、そういう文句も存在しない。いたって平和なはずなのだが……。

それでも関係なく追剥めいた行為に遭うのは必然なので、まあそういうイベントということだ。先生方は合掌。

 

 

「せんせ!」

 

「お前は確かあん時の……!?」

 

「あんとき? わかんないけど……」

 

 

 だが、そこへ幼い女の子が現れた。それはアマネだった。

カギも宮殿で見ており姿は覚えていたので思い出し、アスナの隠し子の……! と言葉に出そうになったが、ギリギリ飲み込んだ。

されど、アマネはあん時、と言われても、よくわからないと首をかしげる。

 

 

「これちょーだい!」

 

「ボタンを……? いやダメ!! あげたらペナルティ発生しちゃうもんに!!!」

 

 

 また、アマネが何故ここに来たのかと言えば、当然借り物競走のためだ。

それでお題にあるお目当ての上着のボタンを指さして、かわいくおねだりを始めたのである。

 

 カギはがああ!? と声が出そうになったのを堪えながら、やれぬと言い張った。

何せ渡してしまうとクラスのポイントが下がるからだ。それだけは阻止しなければ、クラスの生徒に恨まれまくると戦々恐々した訳で。

 

 

「だめ……?」

 

「ダメ! ダメったらダメ!!」

 

「そんなー……、くすん……」

 

「泣いてもダメなもんはダメだって!! 泣くなよー!!!」

 

 

 カギが断れば、アマネは首をかしげてさらにかわいくおねだり。

しかし、カギは挫けない。無理なものは無理だとはっきり告げれば、アマネはうるうると涙目になり、すすり泣き始めてしまったのだ。

 

 アマネが泣いちゃったのを見て、カギも滅茶苦茶罪悪感に苛まれ、胸に雷の投擲を百発刺されたような苦痛を感じるが、それでも耐えてNOを貫く。

 

 

「あっ! コラっ! カギ先生!! 何泣かしてんの!?」

 

「ちがっ!? これはお前らのためでもあって……!!」

 

 

 そこへお姉ちゃんになったアスナが登場し、アマネが泣いてるのを見てカギを責める。

とは言え、これも全てクラスのためであり、アスナのためにもなっている訳で。なのでカギも辛そうな表情を見せながらも、とにかく悪くないと言い張るしかなかった。

 

 

「ちっ、チクショー!! すまねぇー!!!」

 

「あっ、ちょっと!!」

 

 

 そして、この空気に耐えきれなくなったカギは、謝罪を叫んで逃走。

と言うか、もはやカギにはこの手しかなかったので仕方なし。

 

 アスナはカギが逃亡したのを見て、泣かせたのに逃げるな卑怯者ー! と思って声をかけたが、すでにカギの姿ははるか遠くだった。

 

 

「ざんねん。お友達から教えてもらった作戦、失敗しちゃった」

 

「えっ、そんなこと教えるお友達なんているの……」

 

 

 が、アマネは本当に泣いていた訳ではなく、かわいくおねだりが通じない場合の次の作戦を行っていただけだった。

 

 それはつまりウソ泣きして泣き落とすことだった。

それをクラスの友人に教えられたアマネは、カギで実践しただけにすぎなかったのである。

 

 それを横で聞いていたアスナは、もう少しお友達は選んだ方がいいよ、と言いそうになったが、あえて言葉にしなかった。

 

 

…… …… ……

 

 

 当然ネギも3-Aの子たちや、他の人達から追い立てられ、必死に逃げて物陰に隠れていた。

 

 

「ハァ……ハァ……。みなさん本当にパワフルだなぁ」

 

 

 3-Aの子たちもそうだが、全体的に麻帆良の人達はなんかすごいパワーがある。

それはここに来た時から、なんとなくネギも理解していた。

 

 

「でもこのままじゃ、いずれ捕まっちゃうし……、どうしよう」

 

 

 が、今はそのパワーが自分へと牙をむいてきている状態なのが今のネギ。

逃げないと全部持ってかれて全裸にされかねないと、焦りに焦っているのが現状だ。

 

 

「ネギ先生! こっちに!」

 

「のどかさん?」

 

 

 そこへ少し離れた路地裏の入り口で、のどかが手を振ってネギを呼ぶと、ネギも気が付いてそちらへと走って行く。

 

 

「こっちから逃げれます!」

 

「本当ですか? ありがとうございます!」

 

 

 のどかはネギを逃がすべく、この路地裏を利用してこっそり抜け出そうとしていたのである。

救いの女神のように現れたのどかに、ネギも少し感激して頭をペコっとさげた。

 

 

「でも、どうしてわかるんですか? 魔法もアーティファクトも使ってないのに……?」

 

「私、魔法世界でクレイグさんたちとトレジャーハンターやってましたから、経路確保とかできるようになったんです」

 

「そうだったんですか」

 

 

 そして、二人は麻帆良の複雑に入り組んだ路地裏を駆け巡り、誰にも見つからずに移動する。

ネギはのどかの魔法などを使わないこの手腕に、驚いた様子だ。

 

 と言うのも、のどかは魔法世界で遺跡探索をクレイグチームに入って何度もこなしてきた。

のどかがこっちへ帰る時に、こんな人材がいなくなっちゃうなんてと、彼らも涙を飲んだほどには、のどかは彼らのチームに欠かせない存在となっていたぐらいだ。

その技術が、今ここでその力をいかんなく発揮していたのである。

 

 

「このままいけば誰にも見つかりません! どんどん進みましょう!」

 

「はい!」

 

 

 なので、のどかは通路を調べ上げて人が来ないようなルートを見つけ出し、そこを通ることで人を避けることに成功。

誰にも見つからず、借り物させないように巧みにネギを誘導する。

 

 

「大丈夫ですか? 疲れてませんか?」

 

「僕は平気です。それよりのどかさんは?」

 

「私も迷宮とかでよく走ったので、随分とたくましくなってますから!」

 

「本当にすごいですね……!」

 

 

 また、ここまでずっと走りっぱなしだったのをのどかは気にしてネギを心配するが、むしろネギは逆にのどかを心配した。

元々本好きで引っ込み思案なのどかが、こんなに走ってて大丈夫なのだろうかと思ったのだ。

 

 されど、のどかはここでも魔法世界での経験が生きたと話す。

遺跡のトラップなどで何度も走ってきたので、だいぶ体力が付いたとのどかは嬉しそうに話せば、のどかの成長ぶりにネギも驚いた様子だった。

 

 

「とりあえずここで休みましょう。ここなら安全です」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「い、いいえ!」

 

 

 とは言え、ずっと走りっぱなしと言うのは不可能。

のどかは安全な場所へと入ったところで、休憩しようとネギを休ませる。

 

 ネギものどかの誘導のおかげで誰にも見つからずに済んだので、小さく頭を下げてお礼をするが、のどかは大したことなんてしていないと言う態度で両手を振るだけだった。

 

 

「本当にすごいです。魔法もなしでここまでのことを……」

 

 

 そこでネギはのどかの行動に、いたく感激していた。

感知魔法などもアーティファクトもなく、誰にも見つからないルートを見つけるなんて、中々できることじゃないと思ったからだ。

 

 

「以前、ネギ先生が私に話してくれましたよね? 魔法を使う使わない関係なく、人のために役立ちたいって……」

 

「覚えていてくれたんですね」

 

 

 そんなネギの言葉に、のどかはふとネギが学園祭で話してくれたことを語った。

それはネギが人の役に立つことを、魔法の有無に関係なくやっていきたいと言うことだった。

 

 その言葉はネギも覚えていたので、のどかがしっかり聞いてくれていたこを、少し嬉しく思った。

 

 

「私も、そのことを考えたんです。魔法だけでなく、魔法以外でも何かできないかって……」

 

 

 そう、だからのどかはネギが学園祭で言った言葉を、普通に実践しているだけだった。

別に魔法を使わなくたって、自分にもできることがあるはずだと、ずっとのどかも考えてきたから。

 

 

「だから私も自分でできることは、できるだけやれるようにしていこうと思いまして……」

 

「のどかさん……」

 

 

 そして、これからもそれをやっていこうと、のどかは思って決意した。

そんなのどかの言葉に、ネギも思わず声が出ない様子で、感動を覚えていた。

 

 

「……それに、ネギ先生が私のことを好きにならなくても、私はネギ先生のことが好きですし、何があっても役に立ちたいと思ってますから……」

 

「……ありがとうございます」

 

「いえ! これは自分が勝手にやってることなので!」

 

 

 また、何故ここまでしようと思ったのかを、のどかは語り始めた。

 

 のどかはネギが自分のことを異性として、今も気にしてくれてないことは知っていた。

それでもネギのために、何かをしたくて。何かできることはないかと探して。

異性として好きになってくれなくても、他に好きな人ができたとしても、好きな人には何かをしてあげたくて。

 

 だから、のどかはネギを助けたくて、手を差し伸べる。

好きになった人に何かをしてあげたいと言う、尊い気持ちのためだけに。

 

 そののどかの言葉に、たまらず礼を言うネギ。

ネギはのどかが自分のことを好きだと告白されたし、学園祭でもデートした。デートの最後に、軽くだが唇にキスをされたこともあった。

でも、のどかが自分のことを、こんなにも好きでいてくれていることを改めて知ったのだ。

 

 

 ただ、礼を言われてのどかはちょっと困ってしまった。

のどかは礼を言われたくてやってる訳じゃない。自分が好きでやっていることだから、特に何かを感じてほしい訳ではない。

 

 いや、確かに自分のことを好きになってくれたらなあ、とは思っている。

されど、それはそれとして、自分がそうしたいから行動しているにすぎないと、のどかは思っているのだ。

 

 

「ダメだなあ、僕。のどかさんの気持ちを知ってるのに、こんな中途半端にして……」

 

 

 これほどまでにのどかが自分を望んでくれているとネギは理解し、だからこそ、お友達でいようね、のままずるずる引きずっている自分に、少し嫌悪を感じてしまった。

まだNOともYESとも言ってない。こんなのどかをキープちゃんしてるなんて、英国紳士として恥ずべき事だと。

 

 

「それは違いますよ?」

 

「え?」

 

 

 しかし、のどかはネギの悩みに異を唱えた。

突然のどかに否定されたネギは、ちょっと驚いた顔を見せる。

 

 

「私がネギ先生が好きで、好きだからこうやってるんです。自分で進んでやってるだけなんです」

 

 

 そもそも前提が違うとのどかは言った。

ネギの気持ちなど関係なく、のどかが自分の気持ちに素直に従っているだけにすぎない。

ある意味押しつけがましい、と思われても仕方ない行為でもあると、のどかは思っている。

 

 

「だから別にネギ先生が、それに対して責任を感じたりしなくてもいいと思います」

 

「だけど、それじゃあ堅実とは言えないし……」

 

 

 なので、自分の行動に対して、悩む必要なんかないよ、とのどかは言った。

だが、ネギは思いのほか頑固で真面目人間。そう本人から言われても、最低野郎に違いはないと考えてしまう。

 

 

「確かにそうかもしれません。でも、そういう風に考えてくれるだけで、私は嬉しいんです」

 

「それでも僕は……」

 

 

 のどかも堅実でない、という言葉を否定するつもりはない。まだ告白の返事は貰ってないのだから。

それでも、ネギが自分のことでそうやって悩んでくれるだけで、十分だとのどかは笑顔で答えた。

 

 そもそも、まだ10歳のネギがここまで考えてくれていることに、のどかは驚く。

だから、ネギの年齢を考えても、堅実でないことを責める気はないのだ。

 

 それに対してネギは、やはり少し陰りのある表情で、それじゃダメだと思う。

のどかの誠実な気持ちに対して、真摯に受け止めなければならないと、思い始めたからだ。

 

 

「あっ! そろそろ移動しないと! 見つかっちゃいます!」

 

「えっ!? はっ、はい!」

 

 

 しかし、それを考える時間はもうなく、のどかがネギの手を引いて、再び走り出してしまったのだ。

ネギも突然のことで驚きながらも、のどかの手を掴んで走り出す。

 

 

「僕はどうしたらいいんだろう……」

 

 

 路地裏を走りながらも、ネギはのどかへの告白に対する答えに、どう向き合うかを悩み続けるのだった。

 

 

 そんな感じでカギもネギも制限時間まで必死に逃げ回り、後夜祭前には完全に疲れ果ててしまっていた。

逃げたアルスも裕奈とトリスに囲まれてお手上げ状態になったり、ジョゼフ・ジョーテス先生を巡って状助のクレイジー・ダイヤモンドと昭夫のレッド・ホット・チリ・ペッパーが衝突することになったり、色々なハプニングが起こったり。

 

 こうして賑やかと言うより騒がしい体育祭は、静かに幕を下ろしたのだった。

 

 




誤字報告ありがとうございます。


そしてこれ……原作最後の大イベントです……。

でもとりあえず、まだまだ続く予定です。
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