エヴァンジェリンの別荘にて、カギはいつものように修行していた。
んで、疲れたのでちょっと休憩と言って、適当な場所でくつろぐカギ。
「カギ先生」
「あぁん? どうしたぁ?」
そこへやってきてカギへと声をかけたのは夕映だった。
カギは夕映から声をかけられ、そちらに首だけを向けて返事を返す。
「結構前のことなんですが、ネギ先生との会話を聞いてしまいまして……」
「────えっ」
夕映がカギに声をかけた理由、それは結構前、ネギとカギとの会話を偶然聞いてしまったからだった。
転生者とは何か、カギは転生者なのか、言うネギの疑問を打ち明けた時の会話であり、夕映も転生者と言う言葉に疑問を持ち、それを確かめたくてカギに聞きに来たのである。
が、カギとしては予想外と言うか、夕映にも転生者だと言うことは知られたくなかったので、滅茶苦茶焦って青ざめた。
「カギ先生が”転生者”という話でしたけど、……本当なんですか?」
「…………本当さ」
「そうですか」
だから直球にカギへと質問する夕映。
御託もなく単純に、カギが転生者なのかどうか、どういう存在なのかが知りたかった。
カギは嘘を付けぬと観念して、はいと言うしかなかった。
あの時の会話を聞かれては、隠し通せるものではないからだ。
が、夕映はカギが認めたのを聞いて、一言返事を返せばそれ以上何も言ってこなかった。
「えっ? 感想それだけ?」
「はいです」
「なんか……、なんかあるだろ!? なんかさぁ!?」
「いえ……、特には……」
カギは夕映が何も言ってこないことを変だなと思って聞き返すが、夕映は本当にそれだけしかない様子。
いや、そんはずがないとカギは夕映を問い詰めようとするが、夕映は別に感想自体ないと言うだけ。
「おかしいだろ! 隠すなって! 本当はあるんだろ? なあなあ!」
「そう言われましても……、今更カギ先生の評価が変わる訳ではないですから……」
「そっそう……」
転生者だぞ!? 意味が分からん存在だぞ!? とカギは考え絶対に何か感じたはずだと、夕映へと声を荒げるが、夕映はやっぱり別にと言うだけ。
何せ今までずっとカギを見てきた夕映としては、転生者だろうがなんだろうが、カギはカギでしかないからだ。
カギが転生してきた人間だとして、カギの行いが変わる訳でもなく、カギの中身が変わることもないのだから。
そこまで言われてしまったカギは、マジかよ、みたいな顔をして引き下がる。
ただやはり、もっとこう、汚いとか卑怯だとかあってもよかったのではないか、と納得してない様子だった。
「そういえば転生者と言うのであれば、前世を覚えてるんですよね?」
「うん? あぁ、まあ、覚えてる範囲でなら……」
「生前はどんな人だったんです? 何をしていた人だったんです?」
が、夕映としてはそれ以上に気になることがあった。
それはカギの前世のことであった。転生という摩訶不思議なことが起こったのであれば、当然生まれ変わる前の記憶が残っているということ。
ならば、それを聞いてみようと夕映はカギにそれを尋ねた。
されど、カギは何やら言いにくそうな態度でそれを言う。
と言うか、カギは前世なんてもうどうでもよいタイプであり、死んだんだから覚えていてもあまり意味ねえな、と思っている人間だ。
別に寂しい前世を過ごしてきた訳ではないが、死んだら最後だと割り切ることができる人間がカギだったので、前世の詳細なんて印象が強かった出来事など以外は大体忘れてしまっていたのだ。
で、じゃあどうだったのですか? と夕映は聞く。
覚えている範囲でいいから教えてほしいな、と思ったのである。
「そうだなぁ……。死ぬ直前は40歳ぐらいだったかなあ? 派遣社員してたと思ったが……」
「なるほど……。えっ? 40歳だったんですか……?」
するとカギはおずおずと口を開いて、その内容を語りだす。
確か―、だった気がするー、と朧げな様子であり、詳細を覚えているような言い方ではなかった。
だが、夕映はカギが前世で40歳だったことに、かなり驚いた様子を見せた。
「なっなんだよ!? 文句あんのかよ!?」
「いえ……、ないですけど…………。そうは見えなかったものですから……」
「うるせーやい! 生前はもうちょっとしっかりしとったわい!!」
カギは夕映にそう言われて、なんだよ40歳の何がダメなんだとちょっと怒気を含んだ声を出すが、今までのカギの行動を思い返した夕映は、40歳でこんなムーブを……? と思う訳で。
なのでカギも夕映に本当に40歳? みたいに言われたのを聞いて、前世だったらちゃんとしてたと大きな声ではっきり言う。
前世で40歳だった時は、こんなアホ丸出しでスケベ丸出しみたいな馬鹿やってねーよ! と。
何せカギはこの世界を
それを考えればここに来た時のカギの行動は、アレと言うかカスと言うか……、幼稚であったのも事実だ。
「そ、そうですか……」
「嘘じゃないって! 信じてくれー!」
「まあ、精神は肉体に引っ張られると言いますし……、そうだったのでしょう」
「そういうこった!」
夕映はカギが興奮して叫んだのを聞いて、訝しんだ表情で後ろに下がった。
それを見ていたカギは、本当なんだー! と大声で訴えかけ、夕映は肉体と精神の関係性を説いてそう言う事もあるんだろう、と憶測を出し始めた。
で、カギも夕映の推論通りなはずだ! と元気に叫ぶ。
実際、多少なりとて影響がない訳ではないのだが、半分以上は転生を体感してしまったが故の万能感と、カギの気質によるものが大きいのだが。
「本当に調子がいいですね」
「絶好調だぜー!」
「そっちの意味じゃないです……」
「うっせ! わかっとるわい!!」
なんか自分が一つの説を提唱したら元気になって乗っかってきた、と夕映が呆れた顔を見せるが、カギはさらに調子に乗った態度を見せ出す。
なんというか、調子がいい、とはそうじゃないと夕映が本気で呆れてつっこめば、カギとて理解してるってギャグだよー! と大声を出した。
「いやでも、何か思うところあるだろ!? 普通にキモいおっさんだぞ!?」
「精神的にはそうなんでしょうけど……、見た目はネギ先生と同じですし……」
「まっ、まあ見た目だけならそうだが……」
が、そこでカギはそれでも夕映が何も感想を持たないはずがないと、再び声を荒げる。
ぶっちゃけ、見た目は子供頭脳はドスケベなおっさんで、キモさの塊みたいな存在なのを自分で理解しているからだ。
夕映もカギの今の言葉を精神面では肯定しつつも、見た目はネギと同じ美形イケメンな少年だし、とこぼす。
中身がアレなのは出会った時からわかっていたことだし、今更そんなこと言われても変わらないと、夕映は思うだけな訳で。
カギもおっさんだぞと言ったが、見た目はまあ、うん、そうだね、と返すしかなかった。
ネギと同じ、と言われりゃ確かに双子なんだから当然だよな、と思うのだ。
「それに最近そこまでじゃないですから」
「嬉しいことを言ってくれるぜぇ……」
また、夕映は最初こそ子供の姿でもちょっとアレだな、と思っていたところがあった訳だが、今はそれが鳴りを潜めて見なくなったのもわかっているので、そう言ってあげる。
そして、夕映からの言葉にカギは、またしても感極まって涙を流し始めてしまった。
「また泣いてるです」
「泣いてねぇよチクショー!!」
「はいはい」
夕映はカギが泣きだしたのを見て、毎回感激してるなあ、と思って指摘するが、やはりカギは認めようとせずつっぱねるだけだった。
もはやそんなカギの態度など慣れた様子の夕映は、わかってますよと言う仕草で微笑んでいた。
「あっ、カギ先生」
「まだ何かあるのかよ?」
「…………いえ、なんでもないです」
「ん? まあないなら別にいいけどよ?」
そこで夕映は別の質問をカギへとしようと声をかけた。
転生者云々は夕映的には本題ではなく、本題の質問は別にあったのである。
カギは夕映に声をかけられ、眼をこすって涙を拭きながら夕映の方を向き、質問があるのかと口に出す。
が、夕映はその質問をする前にやめてしまい、カギは一体何だったのかと疑問に思いながらも、特に気にしなかった。
「流石に直接本人に聞くのは……」
夕映が本当に聞きたかったこととは、体育祭数日前にカギが言っていた、自分への気持ちに対することだった。
カギが自分のことを何とも思っていないと叫んでいたのを聞いた夕映は、もしやカギが自分のことを好きなのではないか、と思ったのだ。
なので、カギから本当の気持ちを聞きだそうと思ったのだが、あのカギがそれを素直にいう訳がないと、ふと考えてやめたのである。
それにこういうことを直接本人に聞くのも、なんだかあまりよくないと思った夕映は、ならばどうやって聞き出そうかと模索するのだった。
…… …… ……
転生者のヴィガ・ササジマと彼に召喚されたライダー・アキレウスは、魔法世界で未だに暴れる転生者を駆逐する作業を行っていた。
「随分と減ったとはいえ、まだこんなにも転生者が暴れてんのか……」
「まだまだ荒れそうだな。これは」
墓守り人の宮殿での戦いが終わったと言うのに、なんかわからないが暴れる転生者が後を絶たない。
一応以前に比べて減ってはいるのだが、それでも未だに少なくないと言うのが現状だ。
何故ならもうほとんど原作が終わりかけており、それに対して不満を募らせた転生者が結構いるからだ。
やぶれかぶれ、自暴自棄、やけくそ、そんな感情に支配された転生者たちが、今更になって暴れ始めているのだ。
それに、
ササジマは少し疲れた顔を見せてそう言うと、ライダーも腕を組みながら、戦いは終わらないと語る。
「つっても、強い転生者なんぞ一握りだしなあ」
「英霊もどきにも強者と呼べるような相手もいないし、歯ごたえがないと言うか……、少々つまらんな」
「まあ、ガチで英霊並みの奴なんて、早々いねぇさ」
「それもそうか」
とは言え、暴れてる転生者のほぼ全ては能力頼りの癖して能力をあまり鍛えていない弱い奴らばかりだ。
単純に宮殿の戦いで強い奴らがいなくなったと思った弱い連中が、ここぞとばかりに暴れ出したのだとササジマは思った。
また、ライダーも転生者の中にいる英霊の特典を貰った相手のことを考え、英霊並みの実力者がいないことに残念な様子を見せる。
ただ、英霊並みと言うのは普通に考えて難しい。
何せ武の英霊は基本的に生前、幾度となく戦い腕を磨き技を研鑽し、戦場の空気に慣れた存在だ。
故に、英霊の能力だけを貰い多少鍛えただけでは、英霊などに到底及ぶはずがないのである。
それにサーヴァントを保有する転生者は、大抵がルールをはみ出すことを良しとしない者たちばかりだった。
と言うか、基本的にはみ出す連中はサーヴァントを召喚しても、制御できず最終的に自滅したりするので、大体そうなってしまうのである。
しかし、稀に召喚されたサーヴァントがマスターを廃人にしたり動け無くしたりすることで、自由を得て好き勝手する場合があったりもした。
そういう時はササジマとライダーのような転生者たちが、ここぞって討伐に乗り出して事なきを得ていたりする。
ササジマもそれを考えて話すと、ライダーも考えてみりゃ当然か、と肩をすくめた。
「さあ、行こう!」
「任せろ!」
そして、再び近くから爆発音が聞こえれば、煙が立ち上っているではないか。
ササジマは再び転生者が暴れ始めたと考え、ライダーと共にそっちの方へと走って行ったのだった。
…… …… ……
フェイトの従者となった転生者のランスローのこと剣と、同じくフェイトの従者の栞もまた、暴れる転生者を倒すために行動していた。
二人は今回フェイトや他の従者たちと別行動しており、とにかく二手に分かれて転生者を倒すことにしたのだ。
また、フェイトが正式に皇帝直属の部下となったことで、その従者たちもフェイトの部下として皇帝の傘下へと入った。
「宮殿での戦いで、だいぶ転生者を捕獲したはずだが……」
「未だにこれ程の人がいるなんて……」
「一体どこに隠れていたのか……。まあ、いつもどおり暴れているもののみを排除するだけですがね」
ランスローもまた、墓守り人の宮殿で大量の転生者が倒されたのを見ており、あれだけの数が減ったと言うのに、未だ魔法世界で暴れる転生者がいることに驚いていた。
当然栞も同じ気持ちであり、何故これ程の転生者が未だ存在しているのか、ランスローも疑問を感じた様子だった。
「ふーむ。基本的に最近目立って暴れている転生者は、さほど強くないようですね」
「そのようですけど……」
ただ、やはり今暴れている転生者は雑魚ぐらいしかいないので、ランスローも作業のように蹴散らすだけ。
栞もランスローの活躍ぶりを見て、そうなのかもしれない、とは思うものの、ランスローが強すぎるだけでは? と思ったりもしていた。
「でも、またあの時のような強い相手が現れたら……」
「まあ、その時はその時でしょう」
しかし、再び竜の騎士のような強敵が現れたら、今度こそわからないと栞は言う。
とは言え、ランスローはその時になったら考えると、フルフェイスヘルムの下で笑っていた。
まあ、竜の騎士クラスが出たら、ランスローは自ら囮となって栞を逃がし、犠牲になる気満々なのだが。
「なんだテメェは!? なんでそいつと一緒にいやがる!!」
「新手のようですね。私の後ろへ」
「はっ、はい!」
すると、再び転生者が現れ、ランスローを敵視しだした。
何せランスローの横には
ランスローは素早く栞の前へと立ちふさがり、宝具・
「テメェも転生者か? じゃあくたばっちま……ギャアァッ!?」
「おや?」
ランスローが転生者であることを見抜いた敵の転生者が、武器を構えようとしたその時だった。
突如としてその敵が爆発的な炎に飲み込まれ、吹き飛んで地面に転がって動かなくなったのである。
ランスローは急に爆発した敵の周囲を見れば、魔法使いのローブを身に着けた男がいるのを発見。
「おっ、申し訳ない。目に見えて襲われそうになっていたので、つい……」
「いえ、助かりました」
「ありがとうございます」
ローブの男はセミロングの黒髪を後ろで束ねて眼鏡をした美丈夫だった。
その男はランスローたちが襲われそうなのを見て、咄嗟に魔法をぶち込んだ様子だった。
ランスローも、後頭部に手を当てて姿勢を低くするローブの男へと、むしろ感謝を述べれば栞も同じく礼をする。
それで栞はそそくさと、初風が倒した転生者を牢獄の魔法球に詰め込んで、ランスローの横へと帰ってくる。
「僕の名は
「私の名はランスロー・レイク。今は剣と名乗っております。そしてこちらが栞殿です」
「どうも」
「なるほど……」
また、ローブの男は自ら自己紹介として名乗った。
その名は
丁寧に名乗られたからには名乗らぬのは無作法と言うもの、ランスローも当然名乗り返し、隣の栞のことも紹介しておく。
栞も小さくぺこりと頭を下げ、そんな二人を眺めながら、腕を組んで何やら納得する初風。
「カワオカ……、どこかで聞いたような……」
「ご存じで?」
すると、栞は川丘と聞いて、ふとどこかで聞いた響きだと思い、口元に手を添えて深く考え始めた。
初風は何か知ってるのかな、と言う様子でそれを尋ねる。
「そういえばあの時の決戦で、私たちと一緒に飛行船に乗り込んでいた人に、そんな名前の人がいました」
「おやおや? もしかして、その人はこんな顔してませんでしたか?」
「はっ! はい、そうです!」
「多分そいつは僕の弟ですよ」
「そうだったんですか」
そこで栞は思い出した。墓守り人の宮殿の決戦の時、避難組として別の飛行船に乗っていた、一人の男の子のことを。
その男の子が彼の友人らから、川丘君、と呼ばれていたことを。
それを話せば初風は胸ポケットから家族の写真を取り出し、その中に映る男の子のところに指を置けば、栞ははっきりと思い出して元気に肯定。
なるほどーと言う顔をしながら初風は、三郎は自分の弟だと話せば、栞は納得した様子を見せた。
「そうか……。夏休みの後半姿を見ないと思ったら……、なるほど……、そんなことになってたとは……」
初風はそこで指を顎を触れながら、夏休みの時のことを思い出していた。
8月の中旬からきっぱり姿を見せなかった三郎。普段ならお盆過ぎぐらいに実家に顔を見せるはずが、それすらなかった。
そのことを踏まえて初風は、まさか知らぬ間に
と言うのも、この初風は三郎とは違い
だから魔法使いになるための要素を特典に貰ったし、魔法の技術を鍛えてきた。
ただ、最終決戦前に魔法世界のゲートがいつ破壊されるかまでは記憶になく、気が付けばゲート全滅で魔法世界へ行けなくなっていたと言うことに。
で、仕方なく最後の最後、麻帆良に召喚魔が湧き出る夏休み最終日、実家の中で周囲に障壁結界を張り巡らせて、家族の安全を守護っていたりした。
「彼は一般人っぽかったんですけど、貴方はどうして?」
「僕? ああ、僕は魔法使いなんですよ。さっきも魔法、使ってましたでしょう?」
「えっ? あっ!」
故に、三郎が一般人らしき感じなのを察していた栞は、その兄がこの魔法世界に来ていることに疑問を感じ聞けば、初風は自らを魔法使いと名乗った。
それには栞も少し驚いた様子を見せ、ふむ、と初風は考えるそぶりを見せる。
何故栞が驚いたのかと言えば、三郎が一般人なのに兄を名乗る初風が魔法使いだったからだ。
魔法使いの家系ならば三郎も魔法使いになっていてもおかしくないのに、そうじゃなかったことに驚いたのだ。
「レイクさん……、いや、剣さんと呼ぶべきですか?」
「それでかまいませんよ」
「えーと……、その、栞さんでしたよね? 彼と二人で話をさせてほしいんですけど……」
初風はランスローへと話しかけながら、二人で話したいと栞に言った。
それはこれから転生者としての会話をしたいので、聞かれたくないだろうと言う気遣いだった。
「ああ、転生者のことでしたら、彼女も理解しておりますので大丈夫ですよ」
「そうですか、じゃあ……。つまり、剣さんも転生者ですよね?」
「そうです」
ランスローも初風の意図に気が付き、栞も転生者を知っているのでそう言った配慮は無用だと言えば、初風は話の内容に入る前に確認をした。
「僕も転生者なんですけど、家族には内緒にしてまして」
「内緒に?」
「ええ、そういうの知らない方が、いい場合ってあるでしょう?」
「確かにそうでしょうね」
そして、初風は自分の家族の内情を軽く話し出した。
そう、初風は転生者ということを、家族に黙っていたのだ。
初風の言葉にランスローも、人のつながりは何で切れるかわからないので、間違ってはいないと頷く。
と言うのも、ランスローも自分が転生者だと言うことは家族に伝えていない。
一応ちゃんと定期的に連絡したり仕送りしたりして、心配させまいとしているが、何をしてるかまではあえて伝えていなかったりする。
「まっ、うちの両親は勘づいてると思いますけど、言わないなら聞いてこないようですし」
「なるほど……、そのような事情が……」
とは言え、と初風は言葉を続ける。
初風の両親は自分の子供らが転生者と気が付き、それでもあえて知らない顔をしているのではないか、と言うことだった。
実際、両親も実は転生者であり、その子供らも全員転生者と言う家族だったりする。
それでも誰も自分が転生者だと名乗りを上げていないので、両親以外誰も気がついておらず、自分の家庭はそんなもんか程度にしか認識していなかった。
初風の話を聞いたランスローも、事情を聞いて静かに頷く。
「僕は魔法使いなんですけども、他の家族は一般人でして……、それで三郎がこっちに来てたことに驚いてるんですよ」
「一応巻き込まれたような感じではありましたね」
「ふーむ。ああ、そういえば、ああ……」
「どうしましたか?」
それで三郎が何やらこっちの方に来て、何やら最終決戦に居合わせていたことに、初風は内心驚きまくっていた。
だって自分以外の家族は一般人だと察している初風は、一般人なはずの三郎が魔法の事件に巻き込まれていたからだ。
しかも、行けたら行こうかなとは思っていた魔法世界崩壊阻止に、まさか一般人な弟がそこに行っているとは思ってなかった訳で。
その話を聞いていた栞が、三郎を見てきたことの感想を語った。
見た感じ戦闘能力はなさそうな普通の人であり、魔法を使ったところも見てないので、事件に巻き込まれてここまで来てしまったのかな、と思っていた。
すると初風は巻き込まれた、と言う言葉に、ふと思い当たる様子を見せる。
そういえば三郎のやつ、彼女ができたと自慢してきたな。んで、その彼女が……、ああ、そうか。
そうだ、そうだった、忘れてた。
三郎の彼女は
なるほど、彼女について行って魔法世界へと入って、そんなことになったのか。繋がったな。と初風は悟った。
なので、一応目の前の少女も
まあ、それに勝手に当てはめている訳ではなく、”原作にいた人”、程度の認識でしかなく、へえ、元気そう、と言う感想しかないのだが。
が、勝手に唸って考え出した初風に、栞はわからず声をかける。
「いえ、なんでも。自己解決したと言う感じですよ。お気になさらず」
「はあ……」
が、初風は自分の考えで完全に三郎のことを理解し、問題ないとだけ言うだけだ。
そんな風に言われた栞は何も言えなくなり、小さく返事を返すしかなかった。
「川丘殿は……」
「ああ、初風でいいですよ」
「初風殿は、どうしてこちらに?」
まあ、初風が魔法使いで一般人でないことは、ランスローも栞も理解した。
ただ、それはそれとして、何故魔法世界までやってきたのかを、ランスローは初風に聞く。
一応ゲートは復旧し、旧世界との行き来も普通にできるようになったとは言え、旧世界の人が特に理由もなく魔法世界に来るとは思えなかったからだ。
「僕、魔法使いなんで、従者探しをしておりまして」
「従者を……?」
「そうです」
ランスローの問いに、初風は簡潔に答える。初風は従者探しの旅をしているだけだった。
されど、ランスロー的には、従者が欲しくてここまで? と言う疑問しか浮かばない。
なので確認のためにそれを言葉にすると、初風はそれを肯定して頷いた。
ただ、魔法使いにとっての従者とは、一般的に彼女や恋人を指す言葉でもあり、つまり彼女にしたい女性でも探しているのか? とランスローも思ったりしていた。
「一応一人で戦えるんですけど、やはりもう一人いると楽かなーと思ってまして」
「まあ、それはそうでしょうね」
されど、初風にはそんな意図などなく、単純にペアで戦ってくれる人募集と言う様子だった。
まあ、ネトゲのペアプレイとかそんな感じで、協力して戦ってくれる人いないかなー、的な内容なのだ。
そんな初風の話に、ランスローも同意。
味方が一人いれば、心強く感じるのも間違っていないからだ。
自分も栞が一緒に来ていることには、一応心強く感じている部分もある、とランスローも思っているし。
「初対面の人に聞くのも無礼な話なのですけれども、誰か知人とか、いませんかね?」
「流石にフリーの方は……」
「そうですか。ありがとうございます」
ならば、とりあえず誰かいない? と初風はランスローへと聞けば、従者やってない人は知り合いにいない、と言っとく。
自分の知り合いは大体フェイトの従者であり、それ以外はあんまり知らないなあ、と思ったからだ。
それもそうか、と初風は考え、頭を下げて感謝をした。
「では、気を付けて。最近転生者の活動が、どうしてかまた活発になってますので……。まあ、僕も転生者なんで人のことなんか言えないんですけどね」
「はい、そちらも気を付けて、良い旅を」
「さようなら」
まあ、話も済んだだろうと思った初風は、再び旅に戻ることにし、二人へと別れを告げて去って行った。
ランスローも栞も別れの言葉を述べた後、歩き出した初風の背を眺めた後に、逆の方へと歩き出して新たな暴れる転生者を探すのだった。
…… …… ……
同じようにして魔法世界で暴れる転生者を倒す男が一人。
皇帝の部下の一人、龍一郎だ。
「何故これほど転生者が多いのかねえ」
すでに危険な転生者たちは倒れ伏せており、ため息を吐きながら愚痴る龍一郎。
「いや、別に転生者自体多いのが悪い訳じゃねぇ。暴れてる連中が多いのが迷惑ってだけだが……」
独り言をつぶやきながら、周囲を見渡しつつ転生者たちを牢獄の魔法球へと詰め込んでいく龍一郎。
全ての転生者が悪い訳ではないのを理解しているが、なんか無駄に多い暴れる転生者には嫌気がさした様子だった。
「まっ、暴れてる奴は目立つから、すぐわかるし楽っちゃ楽か」
ただ、探し出してまで倒す必要がないのはありがたい、と龍一郎は言う。
何せ暴れてる転生者は無駄に派手にやらかすので、それを見ればすぐわかるからだ。
そんなことを言いながら、再び別の戦場へと移動する龍一郎であった。
…… …… ……
また、魔法世界の街中の酒場で、転生者のナビスと現在彼女のサーヴァントとなったアーチャー・ロビンフッドが会話していた。
近くにはトレジャーハンターのクレイグ率いるチームがおり、ロビンは宮殿での決戦後に再び彼らと行動していたりした。
「アーチャー、私は麻帆良へ行きます」
「おや? 一体どういう風の吹き回しで?」
ナビスは突然旧世界の麻帆良へと行く気になり、ロビンはそれに対してただただ疑問しかでなかった。
暴れている転生者を倒すだけなら、むしろこの魔法世界内で全て解決するからだ。
「なんとなく……、ですかね? 観光みたいなものです」
「珍しいこともあるもんで……」
ナビスも墓守り人の宮殿での戦いで、過去をしっかり清算した。
おかげでだいぶ心に余裕ができたので、転生者退治以外もやりたいことをしてみようと思ったのだ。
いやはや、随分とマスターの行動が変わったみたいで、なによりなにより、とロビンは皮肉めいたことを言いつつ微笑む。
「まあ、向こうでの転生者の行動も、少しだけ気になったりもしていますが」
「なるほど。んじゃ、オレはどうすりゃいい?」
「あなたは自由にしていていいですよ。私は契約しただけの名ばかりなマスターですし」
「そりゃまあそうなんですけどね? 一応マスターとして個人的に尊重してますし?」
ただ、こちらの転生者の行動とあちらの転生者の行動が、どのぐらい違うのかもナビスは気になった。
なので、様子見も兼ねて麻帆良へ行こうかな、と思ったのも事実だ。
ならば、とロビンが自分の行動について聞けば、ナビスは別に縛ってないので勝手にすればよいと言う。
が、ロビンとて前マスターから託された今のマスターに不満はなく、そうであればついて行こうと思っていた。
「彼らと一緒に行かないのですか?」
「まあ、あいつらと一緒にいると気が楽っちゃ楽ですけどね? それはそれ、これはこれ」
ただ、ナビスはロビンがトレジャーハンターとして楽しく過ごしているのを知っているので、無理する必要はないと話す。
ロビンもクレイグらと行動してるのは悪くないが、マスターを優先するのは当然と肩をすくめて語る。
「マスターが何かやるって言うんなら、オレもついてくのは当然でしょ?」
「……わかりました。ありがとうございます」
なので、ロビンも麻帆良へついて行く、と宣言すれば、ナビスは静かに頭を下げて礼を言う。
そんなナビスにロビンは礼を言う必要ないっしょ、と思いながら、あえてそれを言わずに小さくため息をついた後、ふっと小さく笑った。
「まっ、一応ちょいと抜けさせてもらいますよと、挨拶ぐらいしてきますわ」
「そうですね。よろしくお願いします」
「あいよっ!」
ただまあ、一時的に抜けるにせよ彼らに迷惑がかかると考えたロビンは、ちゃんとクレイグたちを話しておこうと椅子を立つ。
ナビスもロビンの律義な態度に微笑みながら話しかければ、そのまま右手を挙げて立ち去り、クレイグたちが酒を飲んでる席へと移動していく。
その後ナビスとロビンは麻帆良へ入り、ナビスは麻帆良学園の臨時教師として、ロビンは学園の警備員として活動を始めるのだった。