もう季節は秋から冬へと移り変わる今日この頃。
そんな日曜日の午後の街中で、五人の少女たちがワイワイと会話しながら歩いていた。
裕奈・まき絵・アキラ・亜子の仲良し組と、もう一人、新たに加わった転生者のトリスだ。
「来週は二日も彼氏に取られちゃうみたいだし、前祝ぐらい今日やっとかないとね! 後祝もしちゃうけど!」
「確か川丘君だよね? 優しい?」
「うん! いつも気ーつこーてくれはるもん」
「
四人は楽しく会話しながら、亜子の彼氏である三郎の話題で盛り上がっていた。
一人、トリスは話題について行けずに困った笑みを浮かべていたが。
裕奈は亜子が来週三郎とデートだと言うことを話せば、まき絵が亜子へと三郎のことをどうかと聞くと、亜子も微笑みながらいい人だよと答える。
その話を聞いたアキラも、魔法世界では三郎に助けられたことを思い出してそれを言う。
また何を隠そう、数日後には亜子の誕生日であり、その日は平日なので放課後に亜子は三郎と会う約束をしていて、その次の日の土曜日に本格的なお祝いをすることにしていたのだ。
つまり、その二日間、亜子は三郎に取られてしまうので、裕奈たちはこうして先にお祝いとして都会で買い物をしてたのである。
さらに今日は夕映の誕生日でもあり、彼女たちも午前中は夕映を祝ったりプレゼントを渡したりしていた。
そして、今はいつもの図書館探検隊やネギ、カギにお祝いされていたりする。
で、明日は真名の誕生日だったりもする。忙しい日程だが、真名はそういうのに興味がなさそうなのが救いだろうか。
まあ、3-Aのテンションを考えれば、普通に祝われるのは間違いないのだろうが。
「あー! 奴隷にされそうになったの、川丘君が全部引き受けたんだっけ? すごいよねー」
「本当にすごかったんだよ? 体張ってまで私たちを守ってくれたしね」
「頼り甲斐あるって、いいよねー!」
「ねー!」
「み、みんなしてー!」
裕奈は話で聞いた魔法世界でのアキラたちのことを思い出し、三郎の根性を褒めれば、アキラも自分たちを守ろうと必死になってくれたことを悠々と語る。
その話にまき絵はそんな風に逞しい人って憧れるねと言えば、裕奈もそうだねと返してニコニコしていた。
また、自分の彼氏のことで盛り上がる三人に、亜子はすごく照れ臭い様子を見せながら微笑む。
まあ、自分の彼氏をベタ褒めされているんだら、気恥ずかしくも誇らしくなるだろう。
しかし、トリスはこの手の話に入れずに、横で聞いてるだけであった。
と言うのも、今世ではそんな余裕などなかったし、前世でも友人はいてもそういう相手がいなかった上に、仕事と趣味を優先していたせいだ。
「でもさ、ほんと、亜子は幸せもんだよねー!」
「そうそう! あれだけ大切にしてくれる人なんて中々いないんじゃないかな?」
「ほ、ホンマにか……?」
そんな三郎の彼女になった亜子のことを祝福して笑うまき絵に、裕奈が彼が亜子のことをすごく大事にしていると語れば、亜子はどうなんだろう、とちょっと考えた。
「川丘君が亜子のこと、大切にしてるのは間違ってないと思うよ?」
「ちゃんと亜子のこと守ってくれそうな感じだし、いい人そうだったしね」
アキラは戸惑う亜子を見て、三郎が亜子を宝物のように接しているのを見ているので、それだけは絶対だと話す。
遠くからしか見ていなかった裕奈も、三郎が亜子のことを絶対に守ると言う感じだけは察していたのを亜子へと言葉にした。
「何よりよそ見しなさそうなのがいいよねー。すごい誠実そうだし」
「ほんとそれ! 亜子一筋なオーラすごい出してるよね!」
「ほっ、ホンマにそう思うん?」
「思うっていうかさー、行動からしてそんな感じじゃん?」
さらにまき絵は三郎のことを亜子にしか興味なさそうと笑って褒めれば、裕奈もうんうんと頷いて同意。
ただ、亜子は自分に自信がないので、本当かな、ぐらいにしか思えない。
そんな亜子へと裕奈は間違いないと思うけどなー、と言う様子で亜子を安心させる言葉を述べた。
ただ、トリスはやはり聞いているだけ。
一応トリスも三郎の顔は墓守り人の宮殿で見たことがあるが、それだけなので何の感想も出せないのである。
「そんなら、ええんやけど……」
「そうだよ! 亜子も自信を持って!」
「彼なら絶対に裏切らないって!」
「私もそう思うな!」
「そ、そうやね……!」
それでも亜子はだったらいいな、ぐらいにしか思えず、自信なさげな様子を見せる。
三郎がどうのこうのではなく、亜子は自分に魅力がないと思っているので、ついつい卑下してしまうのだ。
自分よりも魅力的な人がいっぱいいると思っているから、自分はやはり釣り合ってないのではないかと考えてしまい、だから自分以上の人が三郎の前に現れたら、と不安なのだ。
それに普通の人から客観的に見れば、三郎はイケメンで成績優秀かつ運動神経抜群で、しかも料理も得意だ。
こんなハイスペックイケメンなんだから、そりゃ三郎に見合うだけの女の人が別に現れたら……、と思ってしまうのも無理はない。
亜子も付き合い始めの頃は本当に恐縮してしまっていたほど。
されど、裕奈もまき絵もアキラも絶対大丈夫だよと笑いながら亜子を励ませば、亜子もそうかも、と少しだけ自信を持とうと思った。
また、亜子も三郎から秘密を打ち明けてもらったこともあり、ここでようやく多少自信がついてきたのである。
て言うか、他から見れば明らかに溺愛されてるとしか見えない訳で、なんでそんな自信ないのだろう、と友人らから思われてたりするのだが。
トリスはと言うと、四人の会話を静かに聞くだけしかできない歯がゆさで、ちょっと悲しくなってきていた。
いやまあ、こういう恋バナってのはあんまり興味ないんだけど、一人だけ話題に入れないのは流石に寂しいというものだ。
そんな感じで五人は街を見て回り、時間を忘れてショッピングを楽しんだ。
「おおっ? もうこんな時間じゃん!」
「本当だ! じゃあそろそろ帰ろっか?」
「そうだね」
「もう暗くなってきてるものね」
気が付けばもうだいぶ時間が経っており、すでにあたりは暗くなりつつあった。
裕奈は日が傾いたことに気が付き時間を見れば、もう夕方になっていたではないか。
電車に乗って帰るのにも時間がかかるので、今日はこれで切り上げようとまき絵が言えば、アキラとトリスも同意して頷く。
「あっ、そやった! ウチ、忘れてたことがあったんやった!」
「なになにー?」
「どうしたのかしら?」
「大したことやないねん」
そこで亜子がもう少しやることがあると声を上げれば、まき絵とトリスは一体何だろうと質問を投げるが、亜子は両手を振って気にしないでと言うだけだった。
「せやから、みんなは先に帰ってて」
「一緒に行くよ?」
「ホンマに大した用やないんやって。一人で大丈夫や!」
「まあ、亜子がそう言うなら……」
なので一人で問題ないからと、四人を先に帰らせる亜子。
とは言え、暗くなってきた都会に一人と言うのは物騒だと思ったアキラが心配するが、それでも亜子は一人で平気と笑って断る。
ここまで頑なに断ってきたのを見たアキラも、しょうがないと折れた様子だった。
「そんじゃ、まったねー!」
「あまり遅くなるようなら連絡してねー!」
「気を付けて行きなよ!」
「もう暗くなってきてるから、注意しなさいよ?」
「うん! 気ーつける! 今日はホンマにありがとうな! またなー!」
それならここでさようならと、裕奈もまき絵もアキラもトリスも手を振って亜子へと別れの一言を述べれば、亜子も今日のことを三人へと感謝して手を振ってお別れした。
「よし! ほな行こか!」
そして亜子は一人だけ残り、気合を入れて目当ての店へを探して歩く。
そのあと店へと入って色々と見て回り、どうしようか、どれがいいか、十二分に悩んだ末に、一つの商品を購入して店を出た。
「来週が楽しみやなー。三郎さん、気に入ってくれるはるとええんやけど」
良いものが買えたことに亜子はほくほくした気分でニコニコしながら帰り道を歩く。
すでにあたりが暗くなって街明かりが灯った道を通りながら、気が早いけど来週のデートのことを想像して、つい笑顔がこぼれてしまう様子だった。
「あれ? 三郎さん?」
そんな時にふと顔を上げれば、なんと三郎の姿が見えたではないか。
こんな偶然があるのかな、と思った亜子は、そそくさとそっちの方へと歩みを進める。
「さっ……!! えっ?」
だが、三郎は一人ではなかった。どういう訳か、隣に見知らぬ女の子が一緒にいたのである。
亜子はそれを見て驚き、声をかけるのをやめて、三郎とその女の子の様子を見ることに。
「だっ、誰やろ……? あの人……」
三郎の隣にいる女の子は長い黒髪の綺麗で可愛らしい子であった。
背は三郎より低くく身長差は頭ひとつ分ぐらいあり、背丈は亜子と同じぐらいの子だった。
初めて見るその子に亜子は疑問を感じるが、それ以上にすごく気になることがあった。
それは三郎の表情が自分と一緒にいる時よりも、ずっと自然なものだったことだ。
自分が見たことないような三郎の表情を見た亜子は、隣の知らない子との仲の良さにさらに驚き戸惑った。
「あっ…………」
さらに三郎は隣の子にすごく気安い態度で接しており、隣の子も同様な素振りだった。
背中を叩いたり、肩に腕を乗せたり、そんなやり取りしながら笑い合ったり、怒り合ったり。
亜子は自分にはされたことのない三郎の仕草を見て、言葉を失ってしまったのだ。
「………………」
もう三郎のその姿を見たくなくて、亜子はその場を走り去った。
あんな三郎の仕草や態度を見たことがない亜子は、あの子こそが本当の彼女の姿なのではないか、とふと頭に浮かんでしまい、強い衝撃と喪失感を受けてしまったのである。
…… …… ……
亜子はその後どうやって麻帆良まで帰ってきたか覚えてない程にうつろだった。
ふらふらとしながら歩いていたせいか、かなり時間が経っており、明かりは街灯と建物の窓からの光のみで、あたりはすでに闇に染まっていた。
そして、駅から出た直後から、大降りの雨が急に降ってきた。
暗闇も雨も、まるで今の亜子の心境を表しているかのようで、人の姿もない道には、雨音以外に聞こえてくるものはなかった。
「…………」
傘など持ってない亜子は、当然雨に打たれる。
また、物陰に隠れる気力もないのか、荷物を両腕でギュッと抱きかかえ、雨に打たれながらふらふらと道を歩くだけ。
「……やっぱりウチ……、ダメなんかな…………」
雨に受けてずぶぬれになりながら俯く亜子は、三郎にフられるのではないかと思い、冷たい雨に濡れた頬に暖かい雫を流す。
亜子は三郎が裏切ったとか浮気したとか、そんなことを思って悲しんでいる訳ではない。
むしろ三郎が自分の恋人だったことが奇跡だと思っている亜子は、やっぱり自分は彼に相応しくなかったと言う自信のなさで、悲しんでいるだけなのだ。
「寒う……」
もう秋も終わり冬に入った時期の雨が、容赦なく亜子に降り注ぐ。
冷え切った水を含んだ服が体を冷やし、体がふるふると震え出した。
「ちょっと……、そこのあなた?」
「……ウチ?」
「そう! あなたよ!」
そこへ一人の女の子が傘を差しながら声をかけてきた。
亜子はゆっくりと顔を上げて返事を返せば、その女の子は声を大きくして肯定する。
「あっ……。この人はさっきの……」
そして、ふと亜子が女の子の顔を見れば、街で三郎の横にいた子だと言うことに気が付いた。
「こんな雨の中、傘ささないで! ずぶぬれじゃない! 風邪ひいちゃうよ!?」
「……いいんです。気にせんといてください…………」
その女の子は濡れた姿の亜子を見て、心配になって声をかけてきた。
されど、亜子としては何故か三郎の隣で仲良さそうにしていた子に、助けられる謂れはないと、拒絶の言葉と態度を見せる。
「そうもいかないっての! ほらっ! 私ん家すぐそこだから!」
「あっ! ちょっ!?」
だが、女の子は結構強引な性格で、もう見てられないと言う様子で亜子の手を引けば、自分の家へと走り出したではないか。
亜子はその子の強引な行動に驚き戸惑いながら、そのまま彼女の家へと連れ去られてしまったのだった。
「かーさん! お風呂使うよ!」
「おや? どうしたんだい?」
「この子、雨の中でずぶぬれになってて!」
「猫じゃないんだから……、って、あー。なるほどねぇ」
女の子は家へと亜子を連れて入って早々に、お風呂のことを母親へと叫んで伝えれば、のそのそと母親らしき人も玄関へと顔を出す。
母親はその子に理由を尋ねれば、亜子を前に出して説明すると、母親は呆れた声を出した後、何やら納得した様子を見せて頷く。
「そう言うことだから!」
「まっ、待ってください!? なんでウチのことを!?」
「そんなのはあと! まずお風呂行ってシャワー浴びて体温めてきなさい! 背丈は私とおんなじぐらいだから、服は大丈夫そうね」
と言うことで、と女の子はすぐさま亜子を風呂場へと連れ込もうとするが、亜子は理由がわからず困惑するばかりだ。
なんか知らない人から連れられて、急に家に上げられた上に風呂に入れられるなんて、驚くどころかちょっとした恐怖体験でもあるからだ。
が、女の子は理由なんかよりも先に亜子を風呂に入れて体を温める方が優先だと、強気の態度ではっきり言う。
また、亜子の身長を見て自分と大差ないことに、女の子はそれなら自分の服を貸せると安堵。
「で、でも!?」
「でもじゃないよ! 風邪ひいちゃうでしょうが! さっ、早く早く!」
「あの!?」
ただ、亜子としてもいきなりの出来事すぎて混乱しており、やっぱり断ろうと声を出すも、女の子の強い押しに負けてそのまま風呂場の脱衣所へ押し込まれてしまう。
もはや自分に選択権がないことを察した亜子は、女の子が扉を閉じて移動したのを確認すると、申し訳なく思いつつ濡れた服を脱いで風呂場へと入って行った。
「適当なパジャマここに置いとくから、とりあえずそれを着て! 脱いだ服は乾燥機に入れとくからすぐ乾くと思うけど」
「あっ、ありがとうございます……」
「いいっていいって!」
亜子がシャワーを浴び始めたところで脱衣所の扉が開き、さっきの女の子が亜子へと声をかけてきた。
女の子は自分の服を貸してその間に亜子の服を乾かしておくと説明し、亜子はやはり困惑しつつもきちんとお礼を述べ、女の子はその礼に対して気にしないでと笑った。
「全く、あのバカなにやってんだか……」
そして、女の子は独り言を言いながら脱衣所の扉を閉め、携帯を取り出して誰かと連絡を取り始める。
「あの人……、三郎さんの隣におった人…………」
再び風呂場で一人になった亜子は、暖かいシャワーを浴びて冷えた体を温めつつ、今の子のことを考えた。
あの子は確かに今日、あの街で三郎の隣にいた子で間違いないはず。
「なしてウチのこと、こんなに面倒見てくれはるんやろ……」
また、どうしてそんな子が自分のことを親身になって気にかけてくれるのか、亜子はいくら考えても理解ができなかった。
全く接点がないし知り合いでもないのに、ここまでしてくれるのかなどわかるはずもない訳で。
いくら考えても答えは出ないまま、シャワーを浴び終えた亜子は借りたタオルで体をふいて、自分の下着を着た後に貸してくれた服を感謝しながら着ると、そのまま脱衣所を出る。
「サイズは大丈夫そうね? 下着までは濡れてなくてよかったわね」
「は、はい……」
「じゃ、まずは私の部屋へ行きましょ?」
「はい……」
そこには先ほどの女の子がお盆をもって立っており、亜子の服のサイズを確認して笑顔を見せる。
亜子は雨でずぶぬれになったが時期もあってか厚手の服だったので、下着まではびしょびしょにはなってなかったことを、女の子が気に掛けたのである。
女の子が笑いかけてきたことに、亜子は恐縮して縮こまってしまうが、その子は気にせず亜子の背中を押して自分の部屋へと誘導。
その子の部屋は二階にあり、二人で階段をのぼりながら、その部屋へと移動して入っていった。
「はい、あったまるよ?」
「ありがとうございます……」
部屋に入って座っていいよと言われた亜子は、おずおずと部屋のマットの上に座れば、女の子はすっとあったかい飲み物を亜子へと渡してニコりと笑う。
亜子はどうしてこんなに親切にしてくれるのだろうかと再び疑問に持つが、ここまでしてくれることに嬉しく思いながら、あったかい飲み物を受け取って一口だけ口に含む。
すると体の芯からぽかぽかとあったまっていくのを感じて、ほっとした様子を見せた。
その亜子の様子に女の子も安心したのか、自然に笑みをこぼす。
「これ、大切な荷物なんでしょ?」
「あ……」
「荷物はあまり濡れてなくてよかったじゃない!」
「…………そうですね」
そこへ女の子が、そっと亜子が持っていた荷物の袋を亜子へと渡せば、亜子は思い出したかのようにそれを受け取る。
荷物の袋は亜子が抱きかかえていたおかげか思ったより濡れておらず、あまり問題ない様子だった。
それを女の子が笑顔で伝えるが、亜子は逆に表情に陰りを見せる。
この袋の中身は、三郎へのお礼の品だったからだ。
学園祭でも魔法世界でも、体を張って守ってくれたことに対しての、ささやかな感謝の気持ちだった。
なのに、自分は三郎と目の前の女の子が並んで歩いているのを見て、逃げてしまった。
なのでもう、この荷物は不要じゃないかと思い、亜子は気持ちを沈ませたのである。
「元気ないけど大丈夫? 寒い?」
「あっ、いえ! 大丈夫です……!」
「そう? それならいいけど……?」
荷物が無事だったのに何故か気落ちした亜子を見て、女の子は心配になって声をかけるが、それに気づいた亜子は声を少し大きくして問題ないと言った。
亜子がそんな様子ではなさそうに見えた彼女だったが、本人がそういうのならと、首をかしげなら納得するそぶりを見せる。
「ふーん、それにしても結構可愛いじゃん」
「……ウチのことですか?」
「それ以外誰がいるの?」
そして、女の子はまじまじと亜子の顔を見て、ニコニコしながら容姿のことを褒め出した。
されど亜子は自分の容姿が地味だと思っており自信がないので、誰のことかと聞いてしまう。
が、当然彼女の前には亜子しかいないので、必然的に亜子のことと言うことになる訳で。
「えーと……」
「ああ、名前名乗ってなかったっけ? 私は
「二葉さん……。ウチは和泉亜子です」
「うん。亜子ちゃんね」
そこで亜子は目の前の女の子の名前を呼ぼうとしたが、名前を知らなかったことをここで思い出した。
女の子は亜子の戸惑った声に反応し、うっかりしてたと言う様子で自分の名前をにこやかに名乗った。彼女の名前は二葉と言う。
亜子も二葉へと自分の名前を教えると、二葉はそうかそうかと頷きながら、笑顔で亜子の名前を復唱。
「二葉さんこそ……、すごく綺麗で、スタイルもいいですし……」
「見た目は確かにそうねぇ。でも自分で言うのもなんだけど、中身が結構荒っぽいし、そうでもないって言うかー」
亜子は自分が褒められるような容姿ではなく、むしろそれならと二葉の容姿を褒め返す。
二葉は身長こそ亜子と同じぐらいだが、出ているところは出ている体つきで、すごく女性って感じだった。
されど、二葉は見た目はまあそうだねと認めるものの、中身がちょっとがさつでせわしないから、見た目ほどよくないよ、と笑って語った。
「その点、亜子ちゃんは肌も白いし、中身も可愛いしで、いいとこづくめじゃない?」
「…………そんなことありません」
「そう? 私にはそう見えるんだけどねぇ」
二葉は自分なんかよりも亜子の方がずっと女の子らしくてかわいいよ、と笑顔で言うが、亜子は自分の体に自信がないので、否定する。
何せみんなと少し薄い髪の色と目の色にコンプレックスがあり、背中には人には見せたくない大きな傷がある。
それで褒められるような姿ではないと亜子は思ってしまうのだ。
ただ、そんなことは二葉にはわからないので、謙遜のしすぎじゃないかなあ、と思うだけ。
「しっかしまあ、こんな子捕まえてくるなんて、目の付け所ぐらいは悪くなかったみたいだねぇ」
「……?」
と、そんな時に二葉は、ぽつりと小さな声で独り言をつぶやく。
亜子にはそれが聞き取れなかったのか、何を言ったんだろうか、と気になったが、特に聞こうと真では思わなかった。
「あっ、乾燥し終わったみたいね。ちょっと待っててね」
「は、はい」
そこで一階から二葉の母親の叫び声が聞こえてきて、二葉はそれが乾燥機の止まった合図だと理解し、亜子に失礼と言って部屋を出て一階へと降りて行った。
「ウチ……、そんなに綺麗やないねん……」
一人残された亜子は、二葉に褒められたことを思い返して、自分は言われるほどではないと、小さくこぼす。
自分の背中にはマイナスがあって、人とは少し違うから、と。常に地味で端っこが似合うと思っているから、褒められても素直に受け取れないのだ。
「ほら、着替えな」
「ありがとうございます……」
「いいっていいって!」
そんなくさくさとした亜子のところへと二葉が亜子の服を持って帰ってきた。
亜子は二葉から乾いた服を受け取りながら礼を言うと、二葉は気にするなと笑顔で言うだけだった。
「……あの」
「私がいたら着替えづらい? そりゃそうか。じゃあ、もう一回あったかい飲み物用意してくるね」
「すいません……」
「別に気にしないで!」
ただ、亜子は背中の傷を人に見られたくないので、二葉がいるところで着替えるのを躊躇してしまう。
自分がいたら邪魔だと察しが二葉は、だったら着替えてる間は部屋を出てるからと言って気を利かせてくれた。
それで二葉はお盆と空になったカップをもって立てば、亜子は申し訳なさそうに頭を下げると、やはり二葉は亜子を見てニコニコとしながらいいよいいよと言うだけだった。
そのまま二葉は部屋を出てドアを閉め、一階の台所へと入って新しい飲み物の準備を始めた。
だが、そんな時────。
「ただいま!」
「あら、珍しい、おか……、何を急いでるんだいあの子は?」
「はあ!? 今アイツ帰ってきた!? うそっ!? 早っ!? えっ!?」
玄関の扉が大きく開いたと思えば、男子の大きな挨拶が台所へと届いてきたのだ。
そのあと靴と雨合羽を脱いだような音が聞こえたかと思えば、廊下をドタドタ走る音にかわったのである。
母親はその男子が家に帰ってくることを珍しがりつつ、なんか慌てている様子に気が付いて少し驚く。
されど、二葉はそれ以上に驚き戸惑った。
確かにその男子には連絡したが、こんなに早く帰ってくるとは思ってもみなかったのだ。
「あっ!? ヤバ! このままじゃマズイ!!」
そして、その男子の行先は、自分の部屋だと理解した二葉は、大きく慌てて追いかけようと足を動かす。
何せ今自分の部屋にいるのは亜子で、着替え中なのだ。何も知らぬ男子がドアを開いたら、目も当てられない訳で。
「姉貴!! ソッコーで帰ってきたぞ!! どういうことなん……あっ……」
「えっ? ────あ」
しかし、二葉の焦りは現実のものとなり、二葉の部屋のドアは大きく開かれることになった。
そこで彼が見た光景は、二葉から借りた服を脱ぎ終わり、自分の服に着替えようとする途中の亜子の背中だったのだ。
両者とも一瞬視線が交差して時が止まったかのように固まれば、男子はマズイと焦ってすぐさまドアを閉めて背を向けた。
「コラァァー! このバカサブ!! 人の部屋勝手に開けてんじゃねーぞボケナスッ!!」
「いでっ!?」
自分の部屋のドアが開かれたのを察した二葉は、鬼のような形相でドタドタと階段を駆け上がり、勢いよく男子へと飛び蹴りをかまして吹っ飛ばした。
男子はそれを顔面に受けて吹っ飛び、床に転がって痛がりのたうち回る。
また、その男子こそ、あの三郎だったのである。
三郎は”気”を覇王から教えられ、以前以上に身体能力が上がっていた。
二葉は三郎の強化など知らないので、以前と同じぐらいに帰ってくるとばかり思っていたのだが、三郎は気を操って超スピードで実家に帰ってきたために、こんな悲劇が起きてしまったと言う訳。
そりゃ、お前の彼女が雨の中ずぶぬれで落ち込んでたぞ、と言われりゃ三郎も気が気ではなくなり飛んで帰ってくるのは当たり前な訳で。
「このバカ! ノックもしないで本当にこいつは!!」
「いでで! いでででで!! ギブ!!! ギブ!!!」
「ええい! 許さん!!」
「あいだだだ!!」
床に寝転ぶ三郎へと二葉は容赦なく追撃として四の地固めをキめて足を締め上げた。
滅茶苦茶に締めあがった足の激痛に、溜まらず悲鳴を上げて床を叩く三郎だったが、二葉は怒りのままにさらに強く締めていく。
「あー! ごめんごめん! まったくうちのバカサブが……。ってどうしちゃったの!?」
で、とりあえず二葉はすぐには立てないぐらいの激痛を三郎に与えた後、自分の部屋へと入りながら亜子へと謝罪するが、そこで見た亜子は蹲って泣いてしまっていたのだ。
「なっ、なんでもないんです……!」
「そんな訳ないでしょ!? こんなに泣いて! …………あー……。なるほど……」
亜子はポロポロと涙を流しながら心配させまいと言う声を出すが、二葉はその様子に只ならぬものを感じて駆け寄れば、その原因を理解した。
「その傷見られたの、ヤだったんだね? 見られたくなかったんだね?」
「それだけやないんです……! ウチ、酷い誤解して……!」
二葉は亜子の背中に大きな傷があるのを見て、それを三郎に見られたくなかったのだと気が付き、泣き崩れる亜子にそっと近寄って優しく声をかける。
だが、亜子が涙する理由はそれだけではなかった。
街で見かけた三郎と二葉の関係を察した亜子は、自分が愚かな勘違いをして勝手に傷ついていたことを知り、自分自身に強い嫌悪を感じて泣いていたのだ。
「いいよいいよ、よしよし。でも泣いてちゃ着替えられないよね? まずそっちからやろ?」
「はい……」
とめどなく涙を流す亜子を見かねた二葉は、静かに自分の胸を貸して静かに背中をさすってあげた。
ただ、泣いてばかりじゃ着替えはできないと説得しながら、子供をあやすようにゆっくりと着替えさせて整えさせたのだった。