この緊急事態に麻帆良のホテルの中で気が付いたフェイトは、すぐさま飛び出して状況の把握を務めはじめていた。
「これは一体何が起こっているというんだ……?」
空には巨大なキューブ状の魔力の塊と、空を覆いつすほどの召喚魔の軍隊。
フェイトもいきなりの状況に、困惑が隠しきれない様子だった。
「とりあえず、この召喚魔を減らさなくては……!」
まず外の状況を従者たちへと仮契約カードを通じて知らせ、対処の指示を出す。
とは言え、この旧世界では転生者のランスローを除く他の従者たちは戦うことができない。
純粋な魔法世界人である彼女たちは本来必要な器に入るのではなく、アルカディアの皇帝から渡された二つの指輪の効力で、器なしに旧世界へと来ているためだ。
なのでホテルへ残してきた従者と栞の姉の守護をランスローに任せるしかなかった。
その後地上に降り注いでくる召喚魔を減らし街の被害を食い止めることにしたフェイトは、すぐさま召喚魔を潰しにかかったのだった。
…… …… ……
そして、この状況で混乱を防ぐために、転生者のジョゼフも動き出した。
『こちらは麻帆良学園イベント実行委員会のものじゃ』
巨大な立体映像に映された老人が、街の人々へと呼びかける。
『今発生しているのは、冬休み、クリスマス前の大イベント。夏休み最後の日に行われたイベント、その続きのイベントじゃ』
学園祭、夏休みの最終日から続くイベントとして、この状況を発表。
だが、ニコニコとそれを言葉にしているジョゼフの内心は、まったくもって穏やかではない。
何せこの状況はもはや”原作”にはないイレギュラーな展開だからだ。
それを引き起こしているであろう存在が、”転生者”の可能性が大きいからだ。
『今回は戦いではなく逃亡がメインテーマじゃ。みな、火星人に攻撃されぬよう逃げ切るのじゃ』
だから、街の住民や学生たちには戦いをせず、避難訓練をさせることにした。
実際は訓練ではなく本当に避難させているのだが、混乱を避けるためにあえてそう言っているのである。
ただ、こういう状況になる可能性は、麻帆良学園側も最初から理解していたことだ。
ビフォアのように巧みに素性を隠し、身内の裏切りとして内側から攻撃されたのには想定外の事態として見舞われてしまったが、本来ならば外部からの襲撃に対してはある程度の対処マニュアルが存在しているのだ。
そう、この麻帆良を侵略するための存在への対策は、ある程度練られているのである。
また、そのアナウンスを聞きながら、すでに戦闘態勢へと入っていた少年が一人。
「そう言うことにするしかないだろうな」
「錬……」
「心配するな。迫りくる敵は俺が全て倒す」
それは転生者の錬だ。
錬はすでに宝雷刀に
その後ろで同じ転生者でありながら”特典”や”原作”の知識を持たぬ聖歌が、不安な様子で錬を見ていた。
ただ、彼女も特典として強力なシャーマンとしての力を内包してはいるので、錬が持つ
聖歌の前に立つ錬は彼女を安心させるように強気の言葉を放ち、天を見上げて静かに武神魚翅を構える。
「しかし、これほどの規模の攻撃となると……、随分と入念に計画されていたのだろう」
とは言え、空を見上げた錬は巨大なキューブ状の物体、さらには空を埋め尽くす召喚魔を目にし、突発的な行動ではないと予測。
「そんなことよりも、俺のデートの邪魔をしたことを後悔させてやるぞ……!」
だが、錬はそれ以上に聖歌とのデートが潰れたことの方が腹立たしかった。
クリスマス前日と言うことで、当たり前のように聖歌と過ごそうとしていたと言うのに、この状況になってしまった。
なので錬は、聖歌や周囲の人々を守護しながらも、怒りを召喚魔にぶつけて殲滅していくのだった。
…… …… ……
男子中等部への説明と指示を終えたアルスもまた、すでに建物の屋根の上で魔法を展開し、召喚魔を蹴散らしていた。
「召喚魔の攻撃に殺傷力はなさそうだな!!」
相手にする召喚魔は人間を殺そうと言う気はないようで、基本的に非殺傷能力で攻撃してきていた。
「ってもこの時期に脱げビームとか、普通に死ねるだろうが! 頭おかしいのかクソ!!」
ただ、やはりいつも通りの食らうと服が吹き飛ぶアレなので、この真冬の時期にやられたらひとたまりもないと、アルスは叫ぶ。
魔法使いであれば魔力とかでなんとかできるが、一般人は凍えてしまうだろ、と思うのは当然だ。
「ゆーなも友人たちを守るために戦っているみたいだし、教授の方も防衛で手が空きそうになさそうだ」
また、アルスは一人で戦闘しているが、別に一人で戦いたい訳ではない。
それでも裕奈は友人との出かけ先で戦闘を開始したようであり、その父親の教授の方も結界関係で色々やっているから外には出てこれない。
なので、やはりここは一人で頑張らねば、と気を引き締める。
「つーか俺は防衛戦ってあんまり得意じゃねぇんだが……、まっ、やってやるしかねぇか……!!」
しかし、このアルスは潜入捜査や突撃ばかりする任務を多くこなしてきたエージェントであり、防衛関係はあんまりしてこなかった。
なので先手必勝かつ初見殺しな攻撃は得意でも、防御は苦手と言うのが自分の欠点だと思っていたりする。
とは言え、結界系なども使いこなすため、思ったほどではないはずだが、性格上そうだとアルスは思っているのだ。
故に、がむしゃらに詠唱なしで雷の投擲を召喚魔にぶつけながら、数を減らしていくのだった。
…… …… ……
アスナは木乃香と分担で召喚魔を殲滅することにし、二手に分かれて行動していた。
「一般の人たちが混乱して慌ててるってことはないみたいでよかったけど……」
魔法使いたちの誘導に対して素直に従い、大きな混乱もなく一般人たちが避難しているのを見て、アスナはそこだけはほっとした様子を見せる。
「召喚魔の数が思ったよりも多い……!」
しかし、なんといってもキューブ状の魔力の塊の周囲に展開された魔法陣から、依然として召喚魔が召喚され続けているではないか。
故に、召喚魔がなかなか減らないのを見て、この冬場にも関わらずアスナも焦燥で頬に汗を伝わせる。
まあ、咸卦法を使っているので寒くはないからこそ、特になのだが。
「だけど! このぐらい、なんてことないんだからっ!」
もはや大量の召喚魔を消し去るしかないと、アスナは空へと飛び上がり、ハマノツルギを振るって召喚魔を叩き斬りまくる。
ハマノツルギの力で召喚魔を簡単に消し去ることが可能であり、それを超高速で移動しながら行い続けているのだ。
「ハアァァァァッ!!!」
さらには召喚魔の脱げビームを、魔法無効化とハマノツルギの力で防ぎ住民を守護。
そして咸卦法で強化した肉体でハマノツルギを振り回し、召喚魔を叩き斬りながら消し去りまくる。
もはや暴風と言えるようなアスナの動きで、周囲の召喚魔はだいぶ数を減らし、付近の住民は全員避難し終えた様子だった。
「まだこんなに数が……! それでも、全部片付けてやるわ!」
とは言え、まだまだ召喚魔は湧き続けており、空を見れば減らした以上の召喚魔が嫌でも目に入ってくる。
だったら、全部消し去るだけだと、アスナはさらに気合を入れてそこへと飛び込んでいこうとした、その時だった。
「っ! 魔法!? だけど魔法なら……! ────ッ!!」
突如として雷系魔法である雷の斧がアスナを襲った。
だが魔法ならば簡単に無効化できるアスナは、ハマノツルギで防ごうとするが、ふと嫌な予感がして咄嗟に横へ避けて回避したのである。
「避けた? どういうことだ? 魔法無効化で慢心してないのか? それとも勘が鋭いのか?」
「誰!?」
そこへ空から一人の白いフードをかぶった、空色の髪を持った男が現れた。
男はアスナが魔法を回避したことに驚愕し、ありえないと言う態度を見せる。
アスナは急に出現した男に驚きつつ、ハマノツルギを構えて警戒。
「俺は
「月の裏……?」
男はアスナの疑問に、静かに答え出した。
組織、月の裏。その構成員の幹部クラスの一人である、デイズと男は名乗った。
その月の裏と言う組織は、デイズが言うには”魔法使い系の転生者”が集まって組織された結社だと言う。
そして、その幹部は伍海と呼ばれ、名前通りなら幹部は彼を含めて五人おり、その一人一人に二つ名が与えられている様子だった。
ただ、まったく知らない謎の組織の名を聞いたアスナは、何それ? と言う顔でそれを口に出す。
「10年前に俺たちのようなものが組織した結社だ。この麻帆良を乗っ取るためのな」
「どうしてそんなことを!?」
「どうしてだろうな。思ったようにいかなかったからじゃないか?」
「ふざけないで!!」
デイズは月の裏と言う組織が10年前に結成されたことを語りだした。
その目的こそこの麻帆良学園を乗っ取り、自分たちの意のままに支配するということだったのだ。
10年間、そのために地下で準備してきた。
月の裏、という組織の名は、文字通り”月の裏”にて結界を作り出し、準備をしてきたところから付いた名前だった。
そう、月の裏に隠れていたがために、誰にも見つからずに秘密裏にここまでの大事をやれたのだ。
また、10年間構成員たちが全員コツコツと、あの青色に輝くキューブ状の物体に魔力を充填し、膨大な魔力の塊へと変えたのである。
だが、アスナとしては何故麻帆良を乗っ取ろうなんて企んだのかが、まったくわからなかった。
それを叫べばデイズ自身はまるで他人事のように、まあ仲間はそんな感じなんだろう、という感じで理由を語った。
そして、その理由は自分たちの思い通りにならなかったから、という酷いものであった。
いや、完全なる世界に属していた転生者も、そんな理由で暴れていたのだから、彼らにとってはそうなんだろう。
原作キャラと仲良くなれなかった、会えなかった、会える機会がなかった、自分が目立てなかった、そんな理由ばかりだ。
当然状助や三郎みたいにそうではない転生者も多くいるが、だったらもう好き勝手してやる、と思う転生者も多くいるのだ。
アスナはそんなくだらない理由で麻帆良を滅茶苦茶にしようとする彼らに、本気で怒りをあらわにした。
されど、デイズは気にした様子を見せず、すました顔で詠唱を終えると、その魔法をアスナへ向けて放つ。
「”雷の投擲”」
「────っ!!」
デイズはアスナへ雷の槍を飛ばす魔法を放つが、アスナはそれを見て咄嗟にかわした。
「また避けた? 何故だ? 魔法無効化してくるとばかり思ったが……」
アスナがどういう訳か、魔法をかわしていることに疑問を持つデイズ。
魔法無効化を持ち、対魔法に対しては絶対的な自信があるはずだと言うのに、どうして自分の魔法を避けるのか、理由がわからなかったからだ。
「…………何かある。私のことを知ってて、単純に魔法を撃ってくるはずがないもの……!」
が、アスナも最初こそ直感で回避したが、今は何かを確信して回避していた。
あのデイズと名乗った男は自分が魔法無効化することを知っていたのに、何故か魔法を使って攻撃してきたのだから、何かあると思ったのだ。
「ふむ、勘がいいガキは嫌いだよ。”雷の斧”ッ」
「くっ!」
それもアスナは後方へと飛び上がって回避し、冷や汗を流す。
何か、何かわからないが、とにかく
「それじゃこっちに攻撃が届かんだろう? ”魔法の射手・収束・光の401矢”ッ」
「っ!!」
「”白き雷”」
後方へ回避したアスナへと、デイズは挑発しながら光属性の魔法の射手を401発もアスナへ向けて放った。
アスナはそれを全部体をひねらせて回避したところで、デイズは直線に走る雷の魔法をアスナへ向けて放った。
「そこっ! ハアァァァッ!!!」
「そうくるだろうと思っていた」
それを寸前で回避したアスナはハマノツルギを構えながら、空に浮くデイズ目がけて一直線に突っ切った。
されど、デイズはその行動を予測したようなことを言いながら、その場に浮いたまま余裕の態度を見せるだけだ。
「何故かって? 俺がそういう風に誘導したからだ」
「っ!!? 障壁ッ!?」
デイズは最初からこうするつもりだった。
何せ
何重にも張り巡らされた障壁をいくつか砕いたアスナだったが、無効化できないのでデイズにハマノツルギが届かずに、デイズの目の前でハマノツルギが止まってしまったのだ。
アスナが感じた嫌な予感、それは
障壁によって攻撃を防がれたのを見て、その嫌な予感が的中していたことを悟りながらも、障壁に防御されたことに驚く。
ただ、涼しげな顔で冷静な態度を見せるデイズは、内心かなり焦っていた。
何重にも重ねた最大防御の障壁が、後一枚のところまで砕かれていたからだ。
かなり警戒して防御したと言うのに、ハマノツルギは最後の一枚でようやく止まったからだ。故に、実はかなり恐怖していたりする。
障壁破壊の術なども使わず、物理的な攻撃だけでこれほどの障壁を破壊してくるなんて考慮してなかったのだ。
「障壁で防がれたのは初めてか? ”武装解除”」
「あっ!? キャアッ!?」
アスナが止まったところへと、デイズは皮肉めいたことを言いながら武装解除を放つ。
まあ、ビビらされた応酬として、そんぐらい言っておきたかった訳だ。
するとアスナはそれを無効化できずに直撃。
ハマノツルギは吹き飛ばされ、服すらも光となって消え去ってしまい、たまらずアスナは悲鳴を上げた。
「”白き雷”ッ”雷の斧”ッ!」
「あぐう!?」
デイズは完成して保存していた遅延魔法を二つ発動させ、そのまま落下し始めたアスナへとぶつける。
当然無効化ができずに魔法をもろに食らい、魔法の痛みを初めて受けたアスナは、その苦痛に小さく声を上げる。
「とどめだ。”轟き渡る雷の神槍”ッ!」
「ああぁぁっ!!??」
そして最後にデイズは完成させた詠唱と共に、雷の投擲よりも上位の雷の槍を放つ魔法をアスナへ向けて放てば、その魔法はアスナの体を貫き、そのまま地面へと落下していったのだった。
「うっ……、麻痺呪文……? 動け……な……い……?」
「雷系の麻痺だ。数日は動けん」
麻帆良学園の地面に仰向けに倒れたままのアスナは、雷の槍が消え去ったのを見て体を動かそうとするが、体全身が麻痺して指一本すら動かせない状態となっていた。
そこへデイズが少し離れた場所に降り立てば、淡々と今のアスナの状態を説明する。
また、アスナは初めて魔法を自分の体に受けた感触に、みんなこんなダメージを受けて戦っていたのか、と実感した。
魔法無効化で守られたアスナは、今までどんな魔法をも無効化し、魔法ダメージを受けたことなど一度としてなかったからだ。
「さてさて、どうしてやるか。ふふふ……」
「っ」
そして、デイズは一糸まとわぬアスナを見て、ニヤニヤと笑いながら何やら思いにふける。
アスナはデイズを見て警戒するが、もはや身体は動かず武器もなく、何もできない状態だった。
「奴らにくれてやると遊びすぎて壊しかねんな。俺が倒したのだから、最初に俺が遊ぶ権利ぐらいあるだろう」
「なに……を……」
「ふうん? 今の言葉の意味がわからないって顔してるな? 思ったよりは純真なんだな。……楽しめそうだ」
デイズはこのまま連れ去って仲間に渡して借りでも作ろうかと考えたが、仲間は手加減しなそうだな、と思ってまずは自分が、と考えた。
そんなデイズの言葉の意味を察せなかったアスナは、何をしようとしているのかと口を開けば、デイズは今の意味がわからないのかと、さらに口の端を上に歪ませた。
まあ、つまり簡単に説明するとR-18的なエッチなことってやつだ。
が、そういうのに触れてこなかったアスナは、その言葉の深い意味まではわからなかった。
「ふっふっふっ……」
「あっ……や……」
だが、デイズの不気味で不快な笑い声といやらしい目つきを見たアスナは、たまらず小さく悲鳴を上げる。
怯えたアスナを見たデイズはニタニタしながらゆっくりと、一歩ずつ静かにじらすように、アスナへと近寄り始めた。
「ふっふっふっふっふっ」
「こな……いで……」
アスナに聞こえるように笑い声を出しながら、じっくり舐めるようにアスナの肢体を見て歩くデイズ。
そんなデイズに嫌悪と恐怖を覚えたアスナは、近寄るなとか細い声で威嚇するが、それはデイズを刺激してそそるだけの行為だった。
「フッフッフッフッフッ……」
「や……いや……」
ゆっくりと近づきながら笑い声がさらにいやらしくなったデイズに、アスナはもう小さく怯えることしかできなかった。
それに咸卦法が解けてしまったアスナは、冬空の寒さにも晒されており、そっちの方でも震えている訳で。
「フフフ……!」
「やめっ……て……っ」
あの男は気持ちが悪い笑いを浮かべてじっくりとこっちを見ながら、すぐそこまで迫ってきている。
動けないアスナはこれからのことを考えて青ざめ、涙を目に貯めていた。
こんなやつに体を触られてしまうのだろうか。どんなことをされるのだろうか。
もはや何もできないアスナは、言いようのない不安と戦うことしかできなかった。
「やだ……っ!」
一歩一歩、あの男が歩く足音がする。
もうそこまで近づいてきている。もうすぐ、もうすぐここへ来る。
アスナはそんな恐ろしさに苛まれながら、麻痺した体で小さく悲鳴を上げて拒絶することしかできない。
そんな状態でアスナの頭によぎることは、今の戦いでの己の迂闊さだった。
魔法無効化を使った戦いばかりしてきたために、それが癖になっていた自分の失態が招いた状況だと、アスナは考え後悔していた。
だから障壁のことを忘れていた。いつも障壁を意識して戦ったことがなかったからだ。
されどそれは当然のことだ。
生まれた時から持っていたこの能力で、昔からずっと戦い続けてきたのだから。
それで魔法無効化が通じない相手と、ここで初めて戦ったのだ。
障壁と言う防御を失念していたのは迂闊だったが、いつもならそんなもの素通りで殴り飛ばせていたのだから、忘れてしまっていても無理もない。
「…………っ」
アスナはそれを現実逃避ぎみに考えながら、一歩一歩と迫る男の近づく足音を聞く。
怯えながらもアスナは、だったら泣いてやるもんかと、涙を止めて男を睨んだ。
その時だった────。
ふわりと、何やら黒い布がアスナの目に入ってきた。
それがアスナの体を隠すように覆えば、見知った男子の声が聞こえてきたのだ。
「ドラァッ!!」
「────ッ!?」
それはやはり状助だった。
近寄るデイズへと、すでに状助が攻撃を仕掛けていたのだ。
デイズも突然の状助の出現に驚き、後方へと下がって攻撃を回避。
「クソッ! よけられたぜッ!」
「チッ、新手か……。邪魔な奴だな……」
状助は不意打ちのクレイジー・ダイヤモンドでの攻撃が回避されたのを心底悔しがった。
スタンド使いでしか見えないこの攻撃を、直感か何かで回避されてしまったからだ。かなりのチャンスだったのに、不意にしてしまったからだ。
また、アスナの上にかぶさった布は状助が着ていた学ランの上着だ。
状助は身長が高いので、すっぽりアスナの体を覆い隠すことが可能だったのである。
そして、ここで邪魔が入るとは思っていなかったデイズは、状助を睨みつけて苛立ちを隠さないでいた。
────ここへ状助が来たのは、三郎を探しに出てきたからだ。
三郎が避難場所にいないのを見て、これは危ないと思い出てきたのだ。
ただ、状助は三郎も心配だったがアスナも心配だった。
また変な奴に絡まれてないかどうか懸念していたら、案の定アスナが何者かに襲われていたではないか。
これはマズイと考えてアスナの助けに入ったのだ。
「状……助……?」
「大丈夫、じゃあねぇよな。動けねぇみてぇだしよぉ」
アスナは状助の声に反応しそちらを向ければ、大きな背中が目に映ってきた。
そのアスナの声を聞いた状助は顔をアスナへ向けながら、アスナの状態を言い当て、もう安心しなと言うような笑みを見せる。
状助は以前の失敗を反省し、すでにアスナが脱がされているのを遠くから見て、自分の上着をすでに脱いで行き、最初にかぶせることを選んだのだ。
さらに状助はアスナには笑みを見せていたが、内心腸が煮えくり返るほどの怒りを燃やしていた。
あのアスナがどういう訳か魔法らしき攻撃を受けて、あまつさえ裸にされて倒れされていたからだ。
こんな光景を見せられて、頭に来ない友人はいない。
「”雷の投擲”」
「チィ!? なおさせねぇっつーのかよ!?」
「苦労して動けなくしたんだ、当然だろう?」
「ふざけやがってッ!!!」
だが、そこへ邪魔するようにデイズが、状助とアスナの間に雷の投擲を何本か飛ばしてきた。
状助はそれを避けながら目の前の男を睨み、怒りの声を叫ぶ。
とは言え、デイズとてようやく動きを止められたアスナを回復されてはかなわないので、そうしているに過ぎない。
されど、その態度に状助はさらなる怒りを燃やし、デイズへと突撃していった。
「ふん、お前ごときに俺が負ける訳がないというのに。”雷の暴風”ッ!!」
「なっ!? ぐうあっ!?」
が、デイズは状助を見下し、瞬殺できると考え雷の暴風を状助へと放った。
状助は雷と竜巻の嵐に飲み込まれ、苦悶の声を出しながら吹き飛ばされてしまった。
「状助……っ!」
「終わったな。所詮その程……なに?」
アスナは吹っ飛んだ状助を見てたまらず声を上げて心配し、デイズは今の一撃で状助は再起不能か死亡しただろうと高をくくって嘲笑う。
「舐めてんじゃあねぇぞコラァッ!!」
「状助!」
しかし、この程度で倒れるほど、この状助は軟弱ではない。
状助は”気”を用いて防御しており、さらに気でスタンドも強化してスタンドの足で瞬動を使い、デイズへと肉薄したのだ。
ダメージこそ負って多少傷ついてはいたが、元気に再び敵へと迫る状助を見たアスナは、安堵の声を大きく上げた。
「ドラァッ!!」
「っ!? こいつ”気”を操れるのか!?」
そして、状助は気で強化したクレイジー・ダイヤモンドの拳で、デイズへと攻撃する。
デイズは見えない拳を警戒して後方へとさらに下がり、その攻撃の回避に専念しつつ、状助がスタンドらしき能力だけに頼らず、気と言う技術を使用していることに驚く。
「ドラララララララアァッ!!!」
「調子にッ!! ”白き雷”っ」
「うぐっ!?」
状助はデイズへと拳のラッシュを叩き込むが、デイズは見えない拳の射程を考えながら後ろに下がり、雷の魔法を状助へとぶつけた。
「”魔法の射手・雷の503矢”ッ!」
状助が白き雷で怯んだところへ、すかさずデイズは魔法の射手を503発ぶち込んだ。
「ドララララララララララアァァッ!!!」
「なにぃ!?」
だが、状助はクレイジー・ダイヤモンドのラッシュで、その魔法の射手全てを打ち砕く。
クレイジー・ダイヤモンドの”なおす”能力で、魔法の射手を戻して消滅させているのだ。
「ならばっ! ”雷の投擲”ッ!!」
「ドララララララアァァッ!!!」
「こいつ!?」
これでダメならとデイズは雷の投擲を何本も状助へと放つが、先ほどと同じようにクレイジー・ダイヤモンドの拳に砕かれ消滅してしまった。
魔法が状助の手前で消失したのを見たデイズは、大きく戸惑いながら驚いた。
「無効ではなく戻している訳だから、俺の”特典”が作用しないのか。面倒な……!!」
「ぶっ飛ばしてやっからよぉっ!!
「アーティファクトだと!? 今更ッ!!!」
そこでデイズは今の現象のメカニズムを理解し、悪態をつく。
この男、デイズが貰った特典は『無効化能力の貫通』と『膨大な魔力』だ。
一つ目の特典の力によって、アスナが持つ”魔法無効化”を無視して魔法攻撃を当てられたのである。
しかし、状助の方法は無効化ではない。
あくまでなおす能力の応用で、魔力と精霊の力、その二つに巻き戻しているに過ぎない。
状助はさらにアスナとの仮契約で得たアーティファクトを起動し、パイプタバコ型のストローを出現させる。
デイズはそんなものを出したところで意味がないと言う態度で、さらに魔法を詠唱する。
「舐めるなッ!! ”轟き渡る雷の神槍”ッ!!」
今度は雷の投擲よりも上位の魔装兵具である雷の槍を、デイズは状助へと解き放った。
「なに!? 俺の魔法が消えたッ!?」
「消えたんじゃあねぇ。シャボン玉が『奪った』んだぜぇ!!」
「なんだとぉぉ!? ”雷の斧”ッ!」
それに対して状助はアーティファクトからシャボン玉を大量に出現させ、そのシャボン玉で轟き渡る雷の神槍を防御。
なんと貫通力の高い雷の槍がシャボン玉に触れた途端に、消滅してしまったのだ。
デイズはその光景に度肝を抜かれ、困惑した様子で声を荒げれば、状助はこのアーティファクトの効果を、ちょいと説明してやる。
このシャボン玉はジョジョリオンの東方定助のスタンド、ソフト&ウェットと似たような効果であると。
状助の説明に驚くデイズだったが、すでに別の魔法を詠唱し終えており、再び雷の斧を状助へと放ったのだ。
「ガアッ!?」
されど、その雷の斧もシャボン玉に触れればたちまち消え去り、そこへ状助はクレイジー・ダイヤモンドの拳をデイズの顔面へと突き刺し、吹っ飛ばして麻帆良の建物へとめり込ませたのだ。
「ドラァ」
状助は人差し指をデイズへ向け、余裕の表情で決まったと言う台詞を吐く。
これが今の状助だ。気とスタンド、そしてアーティファクトによって、かなり強くたくましくなった姿だ。
その状助の雄姿を無言で見ていたアスナも、ここまで状助がやるとは思っておらず驚いた様子だった。
「障壁すらも……、なおして戻してきやがるとは……ッ!」
殴り飛ばされ壁にめり込んだデイズは、障壁で防御したのにも関わらず攻撃を受けたことに、油断したと言う態度で状助を睨む。
自分の魔法を戻して消すのならば、当然障壁も同じようにできることを、デイズも失念していたのである。
「大丈夫かよぉ? これで動けるはずだぜ?」
「あっ……、本当だ。
そこで状助はアーティファクトを使いアスナの麻痺を”奪い”、近寄ってクレイジー・ダイヤモンドで傷を癒してあげる。
アスナは状助にそう言われて上着を腕で抱えながら立ち上がり、飛んでったハマノツルギをカードへ戻し、もう一度ハマノツルギを呼び戻して冬の学生服へと着替えなおした。
「……ありがとう、状助。本当に助かったよ……、本当に……」
「おっおう……」
するとアスナは状助の前へと来て、上着を返しながら顔を俯いて小さく礼を言う。
あのままだったら、あの男に何をされていたかわからなかったから。助けに来てくれたのが本当に嬉しかったから。
顔を俯いているのはその時のことを思い出し、ちょっと泣いてしまったからだ。
本当なら抱き着いて泣きたい気持ちだったが、必死に我慢して強がっているのだ。
それに未だ敵は健在。敵の前でそんな醜態など晒したくはないのもある。
ただ、状助にはアスナの心情まではわからないので、礼を言われて照れ臭くしているだけだった。
「チィ……、アスナを回復させたか。しかもご丁寧に麻痺まで……」
せっかく倒して動けなくしたアスナが復活したのを見たデイズは、舌打ちして不機嫌さを見せる。
「ならばさらなる魔法で吹っ飛ばすだけだ!! ”拡散・白き雷”っ」
ならば、もうなりふり構わんと言う様子でデイズは、飛び上がって状助とアスナへと広範囲に分散した白き雷を散布。
「っ! 粉塵と雷で周囲がっ!?」
「こいつはマズイんじゃあねぇかぁ!?」
その広範囲の雷と煙で視界を奪われた二人は、焦りながらも周囲を警戒する。
「魔法の射手ッ!? 避けて!!」
「煙が晴れさえすりゃ何とかなるんだけどよぉ!」
「だったらっ! ハアァァァァッ!!!」
「うへー、剣圧で吹き飛ばしたんかよ……、グレート」
すると煙に紛れて魔法の射手が飛んできた。
とは言え放ったデイズも土煙の中までは見えないので、数で攻めてきているのが現状だ。
アスナが咄嗟に叫べば状助も声に反応してすぐさま回避。
されど、状助はこのまま回避し続けるのも難しいと考え、煙が消えればと大声で言うと、アスナは咸卦法で再び強化した身体能力を使ってハマノツルギを素早く振り回し、煙を薙ぎ払って吹き飛ばしたのだ。
状助もこれには度肝を抜かれ驚くばかりだった。
「状助!」
「うおおおぉぉッ!! ドラララララララララアァッ!!!」
視界が晴れたことで空から大量の魔法の射手が迫ってくるのを見たアスナは、叫んで状助を呼ぶ。
状助はアスナの叫びに反応し、クレイジー・ダイヤモンドを使って超高速ラッシュを放ち、魔法の射手を打ち消しまくった。
「契約に従い我に従え高殿の王ッ!」
「詠唱っ!? 今ままでのは時間稼ぎだったのね!?」
だが、今までのデイズの行動は、別の魔法を準備するための布石でしかない。
空から詠唱が聞こえたアスナは、それに気が付き危険だと判断する。
「来れ巨神を滅ぼす燃え立つ雷霆ッ!」
デイズは淡々と詠唱を唱えながら、二人の方を見下す。
まだ魔法の射手は飛び交っており、こっちに構ってられないはずだと、高をくくっていた。
「って、この呪文は!? 逃げて状助!!」
「まだ魔法が飛んできやがる!? もう時間がねぇ!」
「でも! 何とかして逃げないと!!」
また、この詠唱にアスナは聞き覚えがあった。
天から降り注ぎ広範囲に渡って大地を焦がす、雷系最大の魔法の呪文だからだ。
故にアスナは状助へと逃げるよう叫ぶが、状助は未だに飛んでくる魔法の射手に手を焼いている状態だった。
だから状助は時間がないと叫び、それ故アスナはそれでも逃げてほしいと大声を荒げる。
「だったらよぉ、本体をぶん殴って止めればいいんだぜっ!! クレイジー・ダイヤモンド!! ドラララララァッ!!」
「地面を砕いて壁を!? やるのね!! だったらやってやるわよ!!!」
そこで状助はクレイジー・ダイヤモンドで地面を砕いて壁を作り、さらにはシャボン玉の壁をも作り、襲いかかる幾多の魔法の射手を防御。
それを見たアスナは状助の言葉と行動を察して、叫びながら気合を入れて行動を開始する。
「見えねぇだろうが、この”腕”を使えッ!!」
「何となくわかるわ! やって!!」
「行くぜぇっ! ドラァッ!!!」
そして状助はクレイジー・ダイヤモンドの腕を組んで地面へと降ろし、それに足を乗せろとアスナへ指示を出せば、スタンドが見えないアスナはそれを察して足を乗せ、状助はスタンドに気を流してそのままアスナをデイズの方へと高く飛ばしたのだ。
また、飛び出す瞬間にアスナも咸卦法で強化した足で踏ん張り、いつも以上の加速でデイズへと突き進んでいく。
「百重千重と重なりて走れよ稲妻ッ!!」
だがそこで、デイズはその魔法の呪文を唱え終えれば、手を天に掲げて魔法の展開を始めたのだ。
「間に合ってッ!!!」
デイズへ迫るアスナは、超加速でデイズの目の前まで来ていたが、デイズは詠唱が完成したことで上げていた手を下げ、その呪文を解き放とうと魔法の名前を告げる。
「千の……なっ!?」
「はああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「ぐううあッ!?」
しかし、デイズは掲げた手を下げてその魔法を解き放とうとした瞬間、アスナが突撃してハマノツルギを峰を向けて疾風よりも素早く振り払い、デイズにそれを命中させたことで、なんとか間一髪、本当に紙一重で魔法が放たれるを阻止ができたのだ。
デイズは障壁で防御したはずなのに直撃を受けたことに驚きながら、苦悶の悲鳴を上げて後方へと軽く吹き飛びよろめく。
「これだけで終わりじゃないわよッ!! さっきのお返しッ!!!」
「グウウオオオッ!!?!?」
さらにもう一発! と今度はハマノツルギを天高く構えたアスナは、そのまま峰を向けながら刀身が見えない速度で振り下ろす。
デイズはもう一度障壁で防御を行ったのだが、なんと障壁が突如として消失していたのだ。
それはアスナの体にくっついてたシャボン玉が障壁へと触れ、先ほど同様その障壁を”奪って”消し去ったのである。
そのせいでハマノツルギが二度直撃したデイズは、大きな悲鳴を上げて苦痛に喘ぎ、地面へと落下。
「貰ったぜッ!! ドラララララララララァァァァッ!! ドラァァッッ!!!!」
「グッガガガアァアァァッ!?!?」
落下してきたデイズへと今度は状助がとびかかり、クレイジー・ダイヤモンドの拳でラッシュ。
見えざる無数の拳がデイズの全身に突き刺さり、デイズは痛みの叫びをあげながら、さらに吹っ飛んで麻帆良の建物にめり込んで気を失ったようだった。
「ふぅ……、なんとか間に合ってよかった」
「千の雷だったのかよ、グレート。撃たれてたらマジでヤバかったぜ」
その状助の横へと降り立ち、ほっと一息つくアスナ。
ギリギリ、本当にギリギリのタイミングだったが、敵の魔法を阻止出来てよかったと、安堵した様子だった。
状助もデイズが放とうとした魔法が、あの千の雷だと言うことに気が付き、ちょっと青ざめていた。
広範囲高破壊力の魔法なんてもん撃たれたら、どう防御しようとも結構危なかったからだ。
「でも、まだアレがあるわ。なんとかしないと……」
「マジでなんつーことしてくれてんだよぉ……。冬休み早々勘弁してくれよ……。あと今日はクリスマス前じゃあねーか! クソッ!!」
ただ、あのデイズと名乗った敵を倒しただけで戦いが終わる訳ではない。
空にはまだキューブ状の物体があり、召喚魔が湧き続けているのが実情だ。
それをどうにかしなければとアスナが空を睨むと、状助も冬休み入ってすぐ、しかもクリスマスにこんなトラブルが発生したことへ、悲しみと怒りを抱くのだった。