突然麻帆良を襲った召喚魔の攻撃に、すぐさま行動をする魔法先生や魔法生徒たち、さらには在住の転生者たちもだ。
魔法先生は一般人の生徒らを守護りつつ避難を誘導したりし、魔法生徒らや転生者らはそれをサポートしたり各個で召喚魔の撃破を行っていた。
高畑も当然戦闘に出ており、空に浮いたキューブ状の物体へと最大の無音拳を放ったが、謎の魔法使い集団が発した障壁とキューブ状の周囲に展開された強力な障壁によって阻まれてしまう。
直接何度も叩く必要があると考えた高畑だったが、謎の魔法使い集団と召喚魔に囲まれ、身動きがとりづらい状況にされてしまった。
とりあえず召喚魔と謎の魔法使いを蹴散らしながら、キューブ状の物体へと近寄ろうと高畑は再び動き出す。
それ以外にも麻帆良に残っていたメトゥーナトの部下も召喚魔を減らそうと戦っており、その数に苦戦しながらも着々と撃破していった。
ただ、彼らはそれ以上にアスナの安否のために行動しているのだが、召喚魔の数が多くて中々近寄ることができずにいたのである。
当然転生者の豪もこの異常事態に、すぐさま氷竜・炎竜・風龍・雷龍を連れて出動した。
当然豪はファイナルフュージョンでジェネシックガオイガイガーとなり、巨大なキューブ状の物体の破壊を試みたが、”月の裏”の下っ端魔法使いたちが邪魔をしてきて先に進めないでいた。
何故か。それは魔法使いたちが”人間”だからだ。
ジェネシックガオガイガーのパワーで攻撃などすれば、人間である彼らは木の葉をむしるように千切れて死ぬだろう。
そのため豪は、魔法使いたちの
それはシンメトリカルドッキングを果たした超竜神と撃龍神も同じであり、人間である魔法使いを避けながら召喚魔を撃つしかなかった。
されど魔法使いたちは彼らをじわじわ攻撃し、ダメージを与え蓄積させていく。
完全にジリ貧となった彼らは、必死になって麻帆良の被害を食い止めることにするのだった。
…… …… ……
別の麻帆良の一角でも、召喚魔が迫り来て襲い掛かる。
そこには亜子を除く仲良し組の裕奈・アキラ・まき絵がおり、裕奈は魔法銃を使って召喚魔と戦闘しながら、二人を守っていた。
三人はクリスマス前日と言うことで外に出ていたのだ。
「ゆーな!」
「全っ然大丈夫! まだまだー!!」
アキラは必死に戦う裕奈を心配して叫べば、裕奈は数体の召喚魔を魔法銃で撃退しながら、元気をアピールしてニヤリと笑って見せた。
「一人で相手にするには数が多いよ!」
「そうは言ったって、私がやらなきゃみんなが危ないし!」
とは言え、召喚魔はどんどん街へと降りてきて、攻撃を仕掛けてくる。
まったく数が減る様子がない召喚魔に、まき絵も一人で戦う裕奈を心配するが、裕奈は今ここで戦える魔法使いは自分だけだと自らを奮い立て、孤軍奮闘する。
「アーティファクト起動してみたけど、なんとか当てれるぐらいだよ!?」
「十分すごいよ!」
また、まき絵は魔法世界でカギと仮契約した時に得たアーティファクトを起動して、裕奈の援護を行っていた。
まき絵のアーティファクトは複数の体操道具を呼び出すアーティファクトで、自在なリボン・粉砕する棍棒・爆弾のボール・切り裂く輪っか・束縛する縄を呼び出すことができる。
そのうちの粉砕する棍棒で近寄る召喚魔を殴りながら、爆弾のボールを遠くの召喚魔に投げつけて爆発させたりできた。
ただまあ、当てるのが精いっぱいなまき絵は、これだけじゃどうしようもないと、敵の数を見て弱気になる。
されど、裕奈は素人が普通に攻撃を当てれていることを称賛する。
召喚魔は動かない的ではなく空中を動き回るのだから、それに当てれる時点でかなりやれてることになるのだ。
「私も何かできればいいんだけど……」
「アキラはアーティファクトも何もないんだから、無理しなくていいんだよ!」
「私だってアーティファクトがあるだけで、役に立ってるかは別だしね!」
「そうだけど……」
ただ、何もないアキラは二人に守らているだけで、自分も何かできることはないかと周囲を見る。
そんなアキラに裕奈は普通の一般人だから気にせず守られていてと言い、まき絵も頑張ってはいるが思ったよりも効果が出てないとアキラを慰めるが、アキラはやはり自分だけ何もできないことに気分を落ち込ませる。
「アーティファクトかぁ……。私もあればなぁ!」
そこで裕奈はまき絵のアーティファクトを見て、少しほしいなと戦いながら思った。
母親夕子も銃型のアーティファクトを持っており、すごい便利そうだった。
あんなアーティファクトがあれば、もう少し戦いやすくなるはずだな、とふと頭に過ったのである。
「おやおやおやおや? おやおやおやおや?」
だが、そこへ一人の男が下りてきた。
緑色のフードをした茶色く長い髪を持つ男だった。
「だっ、誰!?」
「あの人も魔法使いなの!?」
「でもここの魔法使いじゃないよ!? 私、見たことないし!」
急に現れた男にアキラは警戒し、まき絵は見た目から魔法使いだと判断するが、裕奈は魔法使いだとしても麻帆良の人ではないと声に出す。
「ああ、僕は裏魔法使いの集い”月の裏”の魔法使いの幹部・伍海の一人、豊かの海・ドーラック」
すると、男は自ら紹介を始めた。
この男もまた”月の裏”の幹部の一人であり、ドーラックと言う。
態度こそ穏やかで物静かな感じを受けるが、内面は他と同様ドス黒いドブカスのような男だ。
「裏魔法使い!?」
「月の裏っ!?」
「なにそれ!?」
が、やはり彼女たちも急に変な情報を与えられても、何それ知らん……、となる。
アキラとまき絵は意味不明と言う困惑の表情をしており、裕奈は魔法使いとしてそんな情報なかったと驚く。
「秘密結社だよ。今回が初めての活動でね、この麻帆良を乗っ取るために行動してるんだ」
「麻帆良を!? なんで!?」
「君たちのような
「一体何の話!?」
「意味がわからない……」
「そんなよくわからないことで、こんなことをしたって訳!?」
ドーラックは知らなくて当然と語りかけ、自分たちの目的を正直に暴露した。
この麻帆良を乗っ取り、”
されど、麻帆良を乗っ取るだの原作キャラだの言われても、彼女たちにはチンプンカンプンだ。
ただ、この麻帆良の平和を脅かしに来たのはわかったので、裕奈は魔法銃を構えて威嚇する。
「まあ、大人しく捕まってほしいね。僕としては」
「大人しく捕まる訳ないじゃん!」
「そっ、そうだよ!」
「無茶苦茶だ!!」
魔法銃を向けられても平然とした態度のドーラックは、ニコニコしながら手間をかけさせないでねと言う。
が、そんなことはさせないと裕奈は叫び、まき絵とアキラは理解が追い付かずに混乱した様子で声を上げた。
「じゃ、ちょっと痛い目見てもらおうか」
三人が抵抗する意思を見せたのを見たドーラックは、じゃあ、と言えば自分の足元に巨大な魔法陣を展開。
そこから一体、黒一色の騎士を作り出して、その手に握る剣を構えさせた。
「真っ黒い騎士!?」
「何あれ……」
「操影術!? それとも魔素でできた傀儡ってやつ!?」
まき絵とアキラは突如として出現した騎士に困惑し、裕奈もその正体を驚きつつ考察する。
高音先輩が得意としている影の魔法か、魔素を集めて作り出された人形、傀儡系の魔法だろうかと。
「へえ? わかるんだ、えーっと……、明石裕奈ちゃんだっけ?」
「なんで私の名前を!?」
自分の魔法の正体を理解した裕奈に、なんでわかるんだろうかと疑問に思ったドーラックは、裕奈の名前を思い出しながら口に出す。
裕奈は急に自分の名前を知らない男から出てきたことにびっくりした様子を見せる。
そりゃ全く見知らぬ人間に自分の名前を呼ばれれば、驚き戸惑うのは当然だ。
「君たちのことはよく知ってる。で、君、バスケ部で胸も結構でかいよね? あとかなりのファザコンだよね? そういうのも全部知ってる」
「き、きもちわる!? 一方的に知らない人に個人情報知られてるのって、マジでヤな気分!!」
ドーラックは名前どころか裕奈のある程度のプロフィールを語りだした。
また、ドーラックはその中で裕奈は”原作”だと魔法に触れたのは夏の魔法世界の事件であり、魔法自体にはそこまで詳しくなかったはずだと考えた。
そう、ドーラックが疑問に思ったのは、その部分だったのだ。
ただ、裕奈としては自分の体形や趣向だのを言い当てられ、すごく気味の悪い気持ちを味わっていた。
それはまるでストーカーに出会ったような気持ち悪さであり、明るい裕奈すらも嫌悪で表情をゆがませるほどだった。
「まあ、頑張って抗って見せてよ」
「真っ黒い騎士がどんどん出てくる!?」
「これ、かなりマズイよゆーな!」
「わかってるけど、空もあんなだし、逃げ場がないって!!」
まあ、お話はこのぐらいかな、と切り上げたドーレックは、さらに黒い騎士を数体増やす。
その恐ろしい光景にまき絵はテンパり、アキラもこのままじゃ裕奈がマズイと声をかけるが、裕奈はこの状況が袋小路だと判断し戦うことを決断。
「じゃ、頑張ってくれたまえよ」
「来る!」
そして、ドーラックは手を前に出して黒い騎士へと裕奈を攻撃するように命じる。
裕奈はそれを見て魔法銃を構え、黒い騎士へと魔力弾を撃ちだした。
「うわっ!? 思ったよりも早くて強い!?」
「そりゃ、僕が魔法で生み出して操ってるんだからね? 中途半端なものじゃないよ?」
「くっ!」
されど、黒い騎士のスピードはかなり速く、魔法弾は簡単に回避されてしまい、裕奈はさらには簡単に接近を許してしまった。
黒い騎士の動きに驚きながら、裕奈はすぐさま回避行動を取って黒い騎士の剣をかわす。
ドーラックはそれをただただ面白いものを見るように眺めながら、口を開いて声を出すだけだ。
「こっ、このままじゃゆーなが!」
「だけど私じゃ助けに行けない……」
複数の黒い騎士に囲まれて剣で攻撃されている裕奈を見たまき絵とアキラは、どうにかしないとと思うものの、あの黒い騎士は召喚魔などとは次元が違う動きをしているので、打つ手がないと悔しがる。
「まき絵はアーティファクトでアキラを守ってて! ここは私一人で何とかして見せるから!!」
「でっ、でも!」
裕奈は必死に黒い騎士の剣を回避しつつ魔法銃で攻撃しながら、まき絵へと元気な声をかける。
それでもまき絵としては、裕奈がピンチなのを指をくわえて見ているだけの状況に、辛そうな声を出していた。
「うわ!? ぐう!?」
「ゆーな!!」
「だっ、大丈夫!?」
しかし、裕奈とて他人を気にかけているほどの余裕など、もはや存在しない。
黒い騎士の剣が裕奈へと襲い掛かるがそれを障壁で食い止めるも、別の騎士の蹴りが裕奈の脇腹に突き刺さり、吹き飛ばされてしまったのだ。
まき絵もアキラもたまらず裕奈に声をかけて心配する。
こんな無茶な状況じゃ、裕奈が持たないと思い不安になっているのだ。
「いたた……、でも大丈夫! へーきへーき! まだまだ!!」
「へえ、随分とタフだね。じゃあ、もう少し増やそうか」
「ゲッ!?」
だけど裕奈は素早く立ち上がり、二人を心配させまいと気丈に振る舞いながら再び攻撃を開始した。
裕奈がまだまだ余裕そうに見えたドーラックは、だったらと追加で黒い騎士を何体か増やす。
その黒い騎士は今度は剣ではなく弓を装備しており、それを見た裕奈は焦りの声を出して青ざめれば、弓の騎士はすぐさま裕奈へと矢を大量に放ってきたのだ。
「ぐっ!? あううぅ!?」
「ゆーな!!?」
「もうやめて!!」
矢を何とかかわそうと動く裕奈だったが、剣の騎士に斬りつけられた。
剣での斬撃こそ障壁で防御できた裕奈だったが、矢も裕奈を狙って飛んできており、数本の矢が裕奈の肩やふくらはぎ、右腕に突き刺さった。
とても痛ましい惨状に、まき絵は悲鳴のような声で裕奈を呼び、アキラはこの攻撃をやめるようにドーラックへと叫んだ。
「やめて? うんいいよ。君たちがここで裸で踊ってくれるならね」
「なっ!? そんなの無理だよ!?」
「できるワケないだろうそんなこと!?」
ドーレックはアキラの声に反応し、だったらと取引を持ち掛けだした。
しかし、それはとてつもなく酷く気持ちの悪い内容だった。
まき絵もアキラも流石にその要求を拒否し、怒った様子を見せる。
こんな冬の寒空の下で、そんなことができるはずがないからだ。
「ん? できないんだ? じゃあ、やめない」
拒否されたドーラックは、どうでもよいと言う様子で裕奈へと攻撃を続ける。
そもそも裕奈をボロボロにして倒した後、彼女たち全員拉致るつもりだから、どっちでもいいのだ。
「クッ!! まっ、まだまだ!!」
「ゆーな!!」
「大丈夫だから!! 心配しないで!!」
「でも……!」
だが、この程度で立ち止まっていられないと、裕奈は闘志を燃やして黒い騎士へと攻撃を再開。
アキラは無理をしている裕奈の姿に、ただただ名前を叫ぶことしかできなかった。
二人が心配している中、裕奈はそれでも笑顔を見せて、不安にさせまいと言う態度を見せる。
元気こそが最強だから、ここで元気な姿を見せずして、勝てるものも勝てないと思っているのだ。
が、やはりまき絵も裕奈の痛ましい姿に、苦心してしまう。
「じゃ、もう少し強めに行くかな」
「このーっ!!」
それなりにダメージが入っているはずなのに、未だに立ち上がって戦い続けている裕奈を見たドーラックは、黒い騎士たちの動きを強化し始めた。
スピードがさらに上がり攻撃の制度が増した黒い騎士の軍隊に、裕奈は声を張り上げて対抗する。
「こんなことでーっ!!」
裕奈は剣は自分で回避して、矢を障壁で防御することでダメージを最小限に抑えた。
さらに何度も魔法銃で魔力弾を撃ちだし、黒い騎士の顔面へと命中させていく。
もはや裕奈を突き動かしていたのは、友人たちを守護ることへの強い気持ちだった。
自分だけがこの黒い騎士と戦える。それなら友人たちを守り通さねばと、強い使命感を燃やしていたのだ。
「結構やるね。僕の漆黒騎士ソードアビスガードを八体、アローアビスガードを四体も倒したなんて、すごいね」
すさまじい裕奈の猛攻で、黒い騎士を合計十二体破壊されたドーラックは、裕奈の雄姿を素直に称賛して手を叩く。
また、この黒い騎士は漆黒騎士と言い、剣を持つソードアビスガード、弓を持つアローアビスガード、今は出してない盾を持つシールドアビスガードと槍を持つランスアビスガードと名付けられた漆黒騎士が存在する。
「まあ、だけどその程度じゃ無理かな?」
「あぐ……!? ああっ!?」
されど、いくら漆黒騎士を撃破したところで、自分が無事なら何も変わらないと嘲笑うドーラック。
再び破壊された分以上の漆黒騎士を作り出し、ソードアビスガードとアローアビスガードによる波状攻撃を裕奈へ仕掛けれる。
剣を避けて矢を障壁で防御する裕奈だが、この剣と矢の波状攻撃には回避も防御も間に合わず、再びダメージを受けて吹き飛ばされしまう。
「こんなの……酷すぎる!!」
「もうやめて! ゆーなが死んじゃう!!」
矢と剣で袋叩きにされる裕奈に、アキラもまき絵も涙を流して叫んでいた。
これ以上裕奈が怪我し続けたら、命が危ないと二人は思ったのだ。
「だから裸踊りすればやめてあげるって言ったよね? やるの? やらないの? やらないと死んじゃうかもね?」
「うううぅ……」
「そんな……」
ドーラックは、それならさっきの取引の要求に答えれば? としれっとした態度で言うだけ。
二人はそれを聞いて迷いながら、傷だらけだと言うのに再び立ち上がって戦う裕奈を見た。
「……わかった、やるよ。だからゆーなを助けて」
「アキラ!?」
裕奈が傷つきながら戦う姿に、アキラは覚悟を決めて要求に応えると言い放つ。
まき絵はアキラの判断に驚き、アキラの方へと顔を向けていた。
「やるんだ? いいよ? 早くやって見せてよ」
ドーラックは興味なさげに、やるならやれば? と言う。
ぶっちゃけ後でやらせようと思ったことが、今やらせられるだけだと思ってる。
それにそこまでするとは思ってなかったので、へえ、という気持ちの方が強い。
「……アキラ一人にそんな恥ずかしいことさせられないよ! 私だってやる!」
「まき絵!?」
「二人でやるの? 人数は指定してないけど、やるならどうぞ?」
アキラは自分だけが犠牲になろうとしていたので、まき絵も自分もと言い始めたことに驚いた。
されどドーラックは、君たちとは言ったが両方やれとは言わなかったと言い出し、まあやれば? とせかす。
「ダメだよ二人とも! そんなことしなくたって私は平気だから!!」
「だけど!」
だが、裕奈はそんな二人へとやめるように呼び掛ける。
こんな寒い中、そんな恥ずかしいことを二人にさせたくないのは当たり前だ。
とは言え、このままでは本当に裕奈が危ないのも事実であり、まき絵はそれ故に声を上げる。
「やるなら早めにするのをお勧めするよ」
そんな三人のやり取りを見て催促しながら、ドーラックはアビスガードの動きをさらに俊敏にしていく。
「いっづ!? あぐううぅっ!?」
ソードアビスガードの一体が裕奈へとタックルをかまし、裕奈はそれを障壁で防御して見せた直後、別の方向からもタックルが飛んできた。
それを食らった裕奈は壁へ衝突し、そこへ大量の矢が裕奈へと襲い掛かったのである。
裕奈は何とか障壁で防御するが、その隙をついた別のソードアビスガードが剣を突き立てて突進し、裕奈の左肩を貫いて壁に固定してしまったのだ。
「ぅぅ……、ぐうあぁぁっ!?」
さらに再び裕奈へと大量の矢が迫ってくるが、右手で裕奈は障壁を張って防御する。
その障壁の隙をついた複数のソードアビスガードが、拳で裕奈の体を何度も殴りだせば、裕奈は激痛に悲鳴を上げた。
「ううああああぁぁぁぁぁッ!!!」
しかし、攻撃はそこで終わることはない。
痛みでぐったりした裕奈へと大量の矢が再び襲い掛かり、それを腕や足、脇腹などに食らってしまったのだ。
もはや全身を貫かれた痛みで裕奈は、大声で悲鳴を上げることしかできなかった。
「ゆーな!?」
「やめてー!!」
「やるから! 今からやるからもうやめて!!」
「これ以上ゆーなを傷つけないで!!」
見ていられないほどに傷ついた裕奈を見て、アキラとまき絵も悲鳴を上げた。
大事な友人がどんどん目の前でズタボロにされていく様など、誰も見たくないものだろう。
そして、アキラとまき絵は要求を呑むからと大声を張り上げる。
もうこれ以上裕奈が攻撃されたら、本当に死んでしまうからだ。
「うん。見てるから早くしようね?」
「……ううぅ」
「ク……」
そんな二人に対して、興味なさげな態度で言葉を述べるドーラック。
痛めつけてもギリギリまで死なないように調整しているドーラックは、二人の態度を内面で嘲笑っているのだ。
ドーラックの内面など知らない二人は、上着に手をかけて脱ぎ始めていた。
まき絵は悲しそうに、アキラは悔しそうな顔をしながらも、裕奈のために体を張る。
こんな非道な男の前で服を脱ぎ、肌を晒すなんてイヤだろうに、それでも友のために自らを犠牲に出るのが彼女たちだった。
「ダメだよ二人とも……、そんなことしちゃダメだって……!」
剣が左肩に突き刺さって動けない裕奈は、服を脱ごうとする二人を見て、二人の行動を制止する。
自分のせいで二人が犠牲になることなんて絶対に許したくないし、こんな男の前で服を脱ぐなんてしてほしくないからだ。
自分のことなんて構わないでいい。気にしなくてもいいと思っているからだ。
「ゆーなが助かるなら、私はなんでもするよ」
「私だって……、ゆーなにこれ以上怪我してほしくない!」
「アキラ……、まき絵…………」
それでも、それでも三人は親友だ。親友が苦しんでいる時に、助け合うのは当然の行為だ。
故にアキラもまき絵も、裕奈のために恥ずかしいことでも頑張れると、胸を張って言うのだ。
そこには美しい友情があった。素晴らしい絆があった。
だからこそこのままではダメだと、そう強く思う裕奈。
二人を犠牲になんて絶対にしたくないし、できない。絶対にそんなことやらせたくない。
裕奈はそう思いながら二人の名前を呼び、やっぱり二人を守らなきゃ、と強く念じる。
だって、こんなにも自分のことを想ってくれてる二人なんだから。ここで諦めるなんて、ありえない。
それにまだ、自分の元気は死んでない。この程度で折れるんなら、魔法使いなんてやってない。
「ぐっ! まだ……まだぁ……!!」
左肩に刺さった剣を無理やり抜き取り、もう一度二つの足で地面を踏みしめ、魔法銃を構えて裕奈は不敵に笑った。
左肩からは赤い液体が地面へとポタポタと落ち、赤い水たまりを作る。
だが、それがなんだというのだ。
これしきの傷がどうしたというのか。二人を守れない心の痛みに比べれば、まったくもって大したことなんかない。
それに宮殿で戦い抜いたじゃないか。それに比べたら、これしきのこと!
裕奈は自らを奮い立たせ、立ち上がる。
母親から教えられた、元気こそ最強だと言うことを信じて。
「ゆーな!?」
「無理しないでっ!?」
「それはできないかな……! だって、二人を守りたいからねっ!!!」
ただ、アキラとまき絵はズタボロの裕奈を、本気で心配になって大声で叫ぶ。
これ以上戦ったら、本当に、本当に死んでしまいそうだからだ。
されど、二人の静止に対して無理と裕奈は叫ぶ。
負けない限り、倒れない限り、死なない限り、二人を守り抜くと決めたから。
「それに、私はまだ元気だよっ!! 元気こそ最強っ!!」
それに、自分の元気はまだ失われていない。
元気こそが最強であり、元気こそが最優先。母親から教えられた最強を、裕奈は貫き通す。
「すごいね? まだ戦う気なんだ? じゃあもう少し痛めつけようか」
「何度痛めつけられたって、私の元気はなくならないもんねーっ!!」
ドーラックは左肩を貫かれても、袋叩きにされても、全身に矢を受けても立ち上がってくる裕奈に、少し驚いた。
普通の中学生のガキなら、泣いて命乞いをするレベルの怪我だからだ。
でも、それなら命乞いしたくなるまで、傷だらけになってもらうだけだと、再び漆黒騎士たちへと指示を出す。
だが、裕奈はいくらでもかかって来いと、ニヤリと笑って挑発する。
この体は元気でできているんだから。この元気はどんなことをされたって、絶対に曲がらないのだと。
「はああぁぁぁぁぁぁッ!!!」
そして、裕奈は迫りくる複数の漆黒騎士へと、再び魔法銃で魔力弾をぶっ放して応戦する。
覚悟が決まった裕奈は、矢を障壁で防御しつつ致命傷だけを避けながら、カウンタ―でどんどん漆黒騎士を撃ち抜いて行く。
「うおおおりゃあああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
少しずつ、少しずつ小さな傷が増え続けるが、それでも裕奈の猛攻は止まらない。
むしろさっきよりも銃撃の制度が上がっており、一撃で漆黒騎士の頭を吹き飛ばして破壊し続けるほどだった。
「やるね? じゃあ、あっちの子たちを狙おうか」
「っ!? 二人とも!!」
「あっ」
「えっ!?」
裕奈の猛攻を見たドーラックは、裕奈を狙わずに後ろにいたアキラとまき絵をアローアビスガードで狙うことにした。
そうすれば必然的に裕奈が二人を庇い、ダメージを与えることができると考えたからだ。
そして、アローアビスガードの弓がアキラとまき絵へと狙いを定めると、裕奈は二人へと叫んでその射線へと飛び込んだのだ。
アキラとまき絵はそれをただ見ていることしかできなかった。
そこでアローアビスガードが弓を発射しようとした、その瞬間────。
「んっ?」
────その時、ドーラック頭上へと水の入った2Lのペットボトルが三つも落ちてきたのだ。
「なんだ? ペットボトルが三つ落ちてきた? どういう意図?」
ドーラックは咄嗟に二人を狙っていたアローアビスガードを使いペットボトルを撃ち落とさせれば、破裂して周囲に水がばらまかれた。
突然の出来事だったが自分を殺すにはチャチすぎる方法に、ドーラックは疑問を感じて首をかしげる。
「あれは!?」
だけど、ペットボトルと水、という言葉にアキラは反応した。
それはよく知っている人の癖に似ていたからだ。水の入ったペットボトルを持ち歩き、見えない力を操る人を知っているからだ。
「わっ!?」
「なっ、なに!?」
「これって!?」
すると漏れ出した水から見えない何かが飛び出して、裕奈とまき絵とアキラを水の中に引き込んだのである。
見えない力に引っ張られ、その感覚に裕奈とまき絵は驚愕と困惑を覚えた様子を見せるが、アキラはその力に覚えがあり、まさか、という表情をしたのだった。
「何が起こっている? 新手か?」
ドーラックも三人の様子を見て少し驚き、何が起こっているかを考察し始める。
これは明らかに第三者の介入があった状況だ。誰がどこで何をしているのかわからないが、とにかく四人目が増えたことを察したのだ。
しかし、異変はその力だけではない。
「────消えなさい」
ふと、少女の声がその場にただよった。
裕奈もまき絵もアキラも、その声に覚えがあった。
「ッ!? グウウウウアァァアァッ!?!?」
そして、その声が聞こえてきた瞬間、ドーラックが大きな悲鳴を上げて吹き飛んで壁にめり込んで動かなくなったのだ。
それだけではない。周囲のアビスガードも全て切り刻まれたかのように破壊され、消滅していったのだ。
「トリス!?」
「トリスちゃん!」
「トリス!」
「大丈夫じゃないでしょ? さっさと行きなさいな」
アキラもまき絵も裕奈も見えない力で水たまりに半分沈んだ状態で、その少女の背中を目撃してその名を呼ぶ。
その少女は両足に大きな具足を装備したトリスだった。
トリスはエヴァンジェリンと共に召喚魔を撲滅していたが、ふと裕奈たちが今日は三人で出かける約束をしていたことを思い出した。
裕奈たちはトリスにも声をかけたが、トリスはエヴァンジェリンと過ごそうと考えて断ったのだ。
なのでその約束を思い出したトリスは、裕奈たちが危ないと考えてここへ飛んできたのである。
「見えないけど、この能力って
「多分そうよ。あなたたちを助けるために水を撒いてこいって言われたのよ」
「そうだったんだ……、ありがとう」
その移動する道中に刃牙に声をかけられ、ペットボトルを三つ持って行ってくれと頼まれた。
刃牙はトリスを警戒して一度顔を見せたので、トリスも頼まれただけで全てを理解したのである。
つまり見えないこの力こそ、水と水の間を瞬間移動できるスタンド、クラッシュだったのだ。
クラッシュは2Lのペットボトル三つ分が広まった水たまりのおかげで巨大となって、三人を口に咥えて半分沈んでいたのである。
「助かるの!?」
「うん。もう大丈夫」
まき絵はよくわからないけど何故か水たまりに体が半分ほど沈んでいることに困惑しつつ、トリスが来たことで助かったのかな、とこぼす。
アキラはこの見えない力が水から水へと移動できるのを知っているので、まき絵にそうだよと微笑んで答えた。
「ゆーな。本当にすごい根性だったわね。あとは私に任せて行きなさい」
「わっ、私はまだまだやれるから!」
トリスは裕奈の死闘の後を見て、すごい子だと本気で思った。
普通の中学生だったら心が折れていてもおかしくない。魔法使いをやっていたにせよ、あれだけの傷を負ってまで、友人を守り抜こうと戦えるのは、称賛しかないと。
だから、いつもなら苗字で呼ぶところを、みんなから親しまれている愛称で裕奈を呼んで、自分が後はなんとかすると言ったのだ。
ただ、裕奈はまだ戦えると言う様子で、大きく叫ぶ。
心は折れていないのだから最後まで、最後まで戦い抜きたいと、そう思っていたのだ。
「無理はいけないわ。その出血じゃもうふらふらでもおかしくないのよ? ちゃんと退くことも大事よ?」
「────ごめん、ありがとう」
「謝罪も礼はいらないわよ? 友達でしょう?」
「っ! うん!!」
されど、トリスはそれを良しとしない。だって裕奈の怪我は本当に酷いものであり、出血だって結構している。
このまま放置すれば、いずれ倒れてもおかしくないぐらいの大怪我だ。
なので、無理せず退くことの大切さを説き、裕奈を退かせることにしたのである。
裕奈もトリスの言葉に、思わずちょっと涙を浮かべながら謝った後に礼を言うと、トリスはそんなもの友人には不要だと、顔を振り返って笑みを見せてウィンクして見せる。
トリスに正論を説かれた裕奈は、トリスに交代をすることを本当に申し訳なく思った。
本当ならば自分がなんとかしなきゃいけない場面だったのに、助けてもらってしまったからだ。
だからここを任せてしまうことをトリスに謝り、助けてくれたことへの礼を述べたのだ。
それにいつもなら苗字で呼ぶトリスが、初めて自分の名前を呼んでくれたことに、裕奈は心から喜びを感じていた。
あの少しチョロいけどツンツンしたトリスが、自分の名前を呼んでくれたからだ。友達だと言ってくれたからだ。
ウィンクして微笑むトリスを見た裕奈は、元気よく返事をした後、クラッシュと二人とともに水の中へと消えていったのである。
そして、水の中に消えていった三人を見届けたトリスは、顔からスッと表情が抜け落ち、壁にめり込んでいるドーラックへと冷徹な眼差しで視線を移す。
「グウウゥ……。不意打ちとは……」
「私は勝てばいいタイプだから、正々堂々とかどうでもいいのよ」
ドーラックは一瞬気を失っていたが、意識を取り戻してゆっくりと壁から出てきて、トリスを睨む。
されどトリスは涼しい顔でそれを受け流し、自分の持論を言い聞かせた。
「……それに、今私はすんごく機嫌が悪いのよ。学生やってる時にこーんな愚かの極みたいなことしでかしてくれた、誰かさんたちのせいで」
また、トリスはさらに自分の今の感情を、淡々と語りだす。
はっきり言ってしまうと、無茶苦茶腹が立っていると。大人しく学生していたかったのに、こんな事件に巻き込まれたことを恨んでいると。
「でもねぇ、それ以上に腹立たしいのは……、────ゆーなたちを傷つけたことよ」
だが、それ以上に怒りが燃えて煮え立つのは、裕奈たちのことだった。
表情が消えて無を見せるトリスの胸の中では、その怒りが燃え上がり全身を焼き尽くす。
トリスは彼女たちを本当に友人だと思って接してきた。その友人を傷つけるなど、許しがたいことだった。
転生して初めての友人を傷つけられたトリスは、転生して初めて、友人のために怒りを燃やしたのであった。