理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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二百十九話 長男は魔法使い

 

 

 亜子はこの危険な状況の中、一人で走って逃げていた。

 

 

「なっ、なんなんや……この状況……!?」

 

 

 今日はクリスマスの前日と言うこともあり、三郎とデートをしていた亜子だったが、今は一人しかいない。

その上急に空から怪物が大量に発生して襲い掛かってきており、混乱しそうになっていた。

 

 

「三郎さんがおらん時に、なしてこんなことに……!?」

 

 

 そして三郎が近くにいないのは、たまたまタイミング悪く三郎が飲み物を買いに走って行ったあとだからだ。

ベンチで亜子が一人で座って待っていた時に、こんな事件が発生してしまったので、亜子は一人で逃げているのである。

 

 

「あっ! 囲まれとるっ!?」

 

 

 だが、そこで亜子は三体ほどの召喚魔に囲まれ、ピンチになってしまった。

 

 

「アカン! どこか逃げな……、あっちや!!」

 

 

 とは言え、まだ逃げ道があると考えた亜子はすぐさま狭い路地裏へと入り込んで、なんとか召喚魔から逃げるのに成功する。

 

 

「ハァ……ハァ……、空も滅茶苦茶やし……、隠れながら三郎さんを探さな……」

 

 

 されど、ずっと逃げるために走りっぱなしの亜子は、息が切れてきて足が重くなってきていた。

それでもはぐれた三郎を探そうと考えるが、今は必死で逃げるしかなく、息も足も苦しい中、ひたすら走り続けた。

 

 

「みぃーつけた」

 

「────っ!? 誰や!?」

 

 

 そんな時、急に空から男の声が聞こえてきた。

亜子はビクッと体を震わせながら声の方へと顔を向ければ、橙色のローブを纏いフードをかぶった銀髪の男が宙に浮いていたのである。

 

 

「私は裏魔法使いの集い”月の裏”の魔法使いの幹部・伍海が一人、晴れの海・ズヴァータ」

 

「なっ、なんやそれ……」

 

 

 銀髪の男は聞かれてもいないのに、勝手に事項紹介をつらつら語りだした。

組織・月の裏の幹部であり、晴れの海の二つ名を持つ、ズヴァータであると。

 

 その男に亜子はとてつもない恐怖心を覚えながら、意味が分からないと言う様子で困惑する。

亜子が恐怖する理由の一つが学園祭で三郎と自分に襲い掛かってきた、あの銀髪イケメンオッドアイのこと神威と同じカラーリングだったからだ。

 

 そう、このズヴァータの見た目が、顔の形こそ神威には似ていないが、銀髪でオッドアイと言う部分が同じだったのである。

 

 

「悪い魔法使いの集まりみたいなもんだよ。私は君を奪いに来た」

 

「なして……!?」

 

 

 しかも、あの時の銀髪が言ってきたようなことを、ズヴァータも言い出した。

その言葉に亜子はさらに体を震わせながら、理由がわからないと男へと質問を投げる。

 

 

「愚問愚問。君のことが気に入っているからだよ、一方的にね」

 

「っ!?」

 

「全部知ってるんだ。えーっと、1988年11月21日生まれ、血液型はA型……、好きなものはかわいいバンソーコーと洗濯……、嫌いなものは血と喧嘩。保健委員に所属してて男子中等部サッカー部のマネージャーで…………、髪色と目の色にコンプレックスあり」

 

「……!?!?」

 

 

 ズヴァータは亜子のことを大変お気に入りの原(・)作(・)キ(・)ャ(・)ラ(・)として語り、亜子のプロフィールを淡々と口に出した。

亜子はその全てを言い当てられて、恐怖以上に気持ち悪さで吐き気が催してきたほどだった。

 

 

「そして、背中に大きな傷があることもね」

 

「なっ……なんなんや……、なんでウチのことそんなに知っとんねん……!?」

 

「一方的に君に好意を持ち、一方的に最初から知ってるんだよ」

 

 

 さらに一番知られたくない秘密まで知られていた亜子は、口を押えて涙目となりながらも、何故自分のことに詳しいのかと聞けば、原(・)作(・)で(・)知(・)っ(・)て(・)る(・)か(・)ら(・)という感じでズヴァータは話す。

 

 

「っ! 逃げなアカン!!」

 

「逃げるんだぁ? 頑張れ頑張れー!」

 

 

 この男はかなり危ない人だと理解した亜子は、すぐさま足を動かして逃走するが、ズヴァータは逃げる亜子を嘲笑いながら、ゆっくりと空を飛びながら追いかける。

 

 

「くっ……」

 

「召喚魔も追ってきたよ? 頑張って逃げないと脱がされちゃうよぉ?」

 

「うぅ…………」

 

 

 されど、亜子を追うのはズヴァータだけではない。

複数の召喚魔も亜子を見つけ、そちらへと脱げビームを撃ってきたのだ。

ズヴァータはそれを見てニヤニヤと亜子を煽り、早く脱げないかなーと思ったりしていた。

 

 逃げる亜子は必死に避けながら走ってはいるが、もはや疲れ切っており、なんとか避けるのが精いっぱいだった。

 

 

「はぁ。それでは私が直接脱がそうか。ほらっ! ”武装解除”ッ!!」

 

「やっ……!!?」

 

 

 しかし、亜子が思った以上に粘るので、もう面倒になったズヴァータは自分から武装解除を亜子へと放った。

嫌な予感がして後ろを振り向いた亜子は、その魔法が迫ってくるのを見て、限界ギリギリの足を動かしながら目を瞑った。

 

 だが、その瞬間に亜子が突如としてその場から消え去り、気が付けばその場にいた召喚魔が軽く吹き飛ばせていたのだ。

 

 

「なに? よけられた? そんなはずは……、ん?」

 

 

 ズヴァータは亜子にそんな力はないはずだと思い周囲を見渡せば、建物の屋根の上で一人の男子が亜子をお姫様だっこする姿を見つけたのである。

 

 

「三郎さん!!」

 

「探したよ亜子さん」

 

 

 それこそ三郎だった。三郎もまた、この滅茶苦茶な状況ではぐれてしまった亜子を探し、ここで見つけて助け出したのである。

あの召喚魔を吹き飛ばしたのも三郎であり、気の使い方を毎日地道に練習していた三郎は、思った以上に力をつけていたのだ。

 

 亜子は三郎に抱きしめられて安心した様子を見せれば、三郎も亜子が無事だったことにほっとした表情をする。

 

 

「こんな時に近くにいなくてごめんね」

 

「そんな! 助けてくれはったんやから、気にせーへん!」

 

「それでも、ごめん」

 

 

 また、三郎はタイミング悪く近くにいなかったことを亜子へと謝るが、亜子は必要ないよと声を大きくして言う。

それでも三郎は亜子を危険な目に遭わせてしまった事実は変わらないと思い、もう一度だけ謝る。

 

 

「なんだぁ? テメェ」

 

「あんたこそなんだよ?」

 

 

 ズヴァータは突然現れて亜子を抱きしめる三郎に、無茶苦茶イラだった声を出した。

あの子は自分のものにしようとしていたのに、なんか横から男が出てきてイチャつきだしたからだ。

 

 が、三郎も目の前の知らない野郎に、亜子を煽って追っかけまわしていたこの野郎に、本気で怒りを抱いていた。

 

 

「私は”月の裏”の幹部・伍海が一人、晴れの海・ズヴァータ。その子は私が貰って行くんだから邪魔しないでくれよ」

 

「ま(・)た(・)あ(・)い(・)つ(・)み(・)た(・)い(・)な(・)の(・)か(・)」

 

「また?」

 

 

 誰だと言われたのでまた名乗り上げたズヴァータは、亜子を自分が頂くと宣言。

されど、三郎としてはデジャヴを感じる言葉であり、なんでこんなのが複数いるんだよ、と呆れるレベルだった。

ぶっちゃけ銀髪野郎が複数いるなんて、迷惑極まりないと三郎は思う訳で。

 

 また、と言われたズヴァータは、自分以外にも亜子を狙っていた奴がいたのだと察して、ふーん、と思ったようだ。

 

 

「前にもいたんだよ。そうやって亜子さんにつけ狙うやつが」

 

「へえ? そうなんだ? 私には関係ないけど」

 

 

 三郎はズヴァータの反応に対して、お前みたいな奴がいたと迷惑そうにはっきり告げてやる。

が、ズヴァータは、まあいるだろうねと思っていたので、関係ないと切り捨てた。

 

 

「まあ? 彼女はそこそこ人気だったし? 狙われやすいのは事実だろうね」

 

「ふざけるな!」

 

「ふざけてるのはそっちだろ? 私の彼女から手を離してくれよ」

 

「っ!」

 

 

 そこでズヴァータは原(・)作(・)で(・)ま(・)あ(・)ま(・)あ(・)人(・)気(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)亜(・)子(・)な(・)ら(・)、狙われるんじゃない? と笑って言い放つ。

 

 ただ、三郎はそもそも原(・)作(・)を(・)知(・)ら(・)な(・)い(・)の(・)で(・)、ただただ不愉快な発言でしかない。

なのでかなりの怒りを感じて叫ぶ三郎だったが、むしろお前みたいなのがふざけていると、ズヴァータが逆切れみたいなことを言い出した。

 

 また、そのズヴァータの言葉が学園祭の時の銀髪と被った亜子は、三郎の腕の中でビクリと身震いさせて怯えてしまう。

 

 

「大丈夫だよ亜子さん」

 

「三郎さん……」

 

 

 三郎は亜子を安心させるように笑いかけて抱きしめる力を強めれば、亜子も三郎の顔を見て、再び安心した素振りを見せた。

 

 

「はぁ、いやだねぇ、君みたいなカス。殺しちゃおうか」

 

「やってみればいいだろ」

 

「ああ、やるよ!! ”魔法の射手・収束・炎の13矢”ッ!!」

 

 

 自分をダシにイチャつく三郎に、ズヴァータは殺意を覚えて殺すと宣言するが、三郎はだったらやれと強気の態度で挑発。

ズヴァータは言うならばと、魔法の射手を三郎へとすぐさまぶっ放したのだ。

 

 

「っ!? 早い!?」

 

 

 されど、その場にはすでに三郎の姿が消えており、魔法の射手は建物の屋根に突き刺さっただけであった。

流石に今の三郎の動きに、ズヴァータも少しだけ驚いた表情を見せる。

 

 

「その程度なら、当たらないぞ」

 

「ふうん? やるなぁ。イラつく」

 

 

 三郎は怒りでズヴァータへと睨みつけながら挑発し、ズヴァータは自分の魔法を軽くかわされたこととその挑発に、かなりカチンと来た。

 

 

「でも、彼女を抱えたまま、逃げ切れるかな?」

 

「ああ、逃げ切ってやるさ」

 

「調子に乗らない方がいいよ? ダメだった時すごいダサいから」

 

「俺なんてずっとダサいよ。だからそんなこと気になんてしない」

 

 

 ただ、三郎は亜子を抱えていると言うハンデがある。

その状態のまま、いつまでそうしていられるかとズヴァータが見下して言えば、三郎は問題ないと断言したではないか。

 

 馬鹿だなあ、そういう強気の発言は失敗した時大恥になるぞ、とズヴァータが嘲笑するも、三郎はすでに自分がそこまでの人間ではないと思っており、失敗なんて恐れてないと言うだけだ。

 

 何度でも自分だけじゃ彼女を守り切れなかった。

本当にいつもダサいのが自分だと、三郎はいつも思ってるからだ。

 

 

「行くよ? 亜子さん」

 

「うん……!」

 

 

 そして三郎は亜子へと移動することを告げて亜子の返事を聞けば、屋根から地面へと降り立って再び気で身体強化を施して走り出す。

 

 

「逃がさないよぉ! ”紅蓮蜂”ッ!!」

 

「追尾してくる蜂!?」

 

 

 逃げ出した三郎たちを追いながら、ズヴァータはニヤニヤといやらしく笑いながら、新たな魔法を三郎へと放つ。

それは炎の蜂を呼び出し、命中した瞬間に大爆発が発生する魔法だ。

 

 三郎はその魔法を見て焦るが今はただ逃げるしかないと。さらに速度を上げていく。

 

 

「三郎さん!!」

 

「大丈夫だよ、これでッ!!」

 

 

 亜子も少し後ろを見れば、真っ赤に燃える蜂が追ってきているのが見えた。

それを不安な様子で三郎に訴えかければ、三郎は走りながら亜子を抱えたまま器用に石を数個拾うと、追ってくる紅蓮蜂へとぶん投げたのだ。

 

 石が紅蓮蜂へと吸い込まれるかのように命中し、その瞬間、巨大な爆発が爆音と共に発生し、周囲を真っ赤に染め上げる。

 

 

「ひゃっ!?」

 

「なんて爆発!? あんなもんを街中で平気で使ってくるなんて!! それに亜子さんだって危ないだろ!?」

 

 

 その爆発に亜子は驚いて顔を俯き、三郎も街中だと言うのに無茶苦茶してくると戦慄する。

だが、それ以上に三郎は、あれが自分に命中したら亜子すら巻き込まれることを察して、さらなる怒りを募らせた。

 

 

「石を的確に紅蓮蜂へと当ててきた……? まあまた追加してやるだけだ。”紅蓮蜂”っ!!」

 

 

 ズヴァータはそれを知ってるのかどうでもいいのか、またしても同じ魔法を三郎へとしかける。

 

 

「もう一度っ!!」

 

 

 されど、一度防いだ魔法など三郎には通じず、再び石をぶつけられて紅蓮蜂は爆散していく。

 

 

「的確に操作していたのにまた命中? 戦闘能力がなさそうなわりには、よくやる」

 

 

 不規則に動かして簡単に当てられないようにしていた紅蓮蜂へと、再び石をぶつけてきた三郎に、ズヴァータは驚きつつもさらにムカついていく。

 

 

「うーん、どうするかなぁ。大魔法じゃ彼女も巻き込んじゃうし……」

 

 

 ズヴァータは三郎の始末をどうするかと、追いながら悩みだす。

大魔法だと、と考える割には、さっきの魔法の時点ですでに巻き込む可能性があったことを考慮していなかった。

 

 

「ああ、巻き込んでもいいか。治療すればいいんだから、大丈夫だな! よしっ!!」

 

 

 そして、亜子も巻き込んでも問題ないと、ピンポーンと頭から電球を出して喜ぶズヴァータ。

そもそも最初から無意識にそんな考えが存在しており、故に亜子の安全など最初から考慮していなかったのである。

 

 そもそも亜子は一般人であり魔力や気での防御すらできないので、大魔法なんて受ければひとたまりもないのだが、そんな考えすら思いつかない程にこの男は愚かであった。

 

 

「何をしてくるつもりだ……? 何か嫌な予感がする」

 

「三郎さん……」

 

「大丈夫だよ。亜子さんは俺が護るから」

 

「うん、ありがとな……」

 

 

 追跡しながら魔力を高めていくズヴァータの気配に、三郎は背中が冷えるような感覚を覚える。

亜子も三郎の不安な様子に不安に思うが、三郎は亜子へと笑みを見せて安心させようと強気の台詞を吐く。

そんな三郎に包まれた亜子は、頬を赤く染めてお礼を言い、少しだけ安心感を得るのだった。

 

 

「アルバス・アルゴス・アンゴルモア! 契約に従い我に従え炎の覇王! 来れ浄化の炎! 燃え盛る大剣! ほとばしれよソドムを焼きし火と硫黄! 罪ありし者を死と塵に!」

 

 

 だが、その直後、背後から呪文が聞こえてきた。

ズヴァータが新たな魔法を詠唱しだしたのだ。

 

 

「”燃える天空”ッ!!」

 

 

 ズヴァータが放った魔法は広範囲を焼き尽くす炎の魔法だ。

詠唱を終えて完成させた魔法を、平気で三郎と亜子へとぶつけてきたのだ。

 

 

「これはマズイ!!? 亜子さんごめん!!」

 

「っ!? 三郎さん!?」

 

 

 ちらりと背後を見てこれはマズイと考えた三郎は、自然と体が動いていた。

三郎は再び屋根へと飛び上がったかと思えば、亜子へと一言謝った後、そのまま思いっきり亜子を前へ投げ飛ばして、魔法の範囲から逃がそうとしたのだ。

 

 突然投げ出された亜子は驚き戸惑うが、その視界に入ってきたのは、三郎が炎の魔法に飲み込まれる瞬間だった。

 

 

「三郎さーんっ!!!」

 

 

 空中に放り出されたかのように飛んでいく亜子は、三郎が炎の爆発に巻き込まれたのを見てたまらず名前を絶叫した。

普通の人があんな爆発に巻き込まれたら、ひとたまりもないからだ。

 

 

「吹っ飛んだかな? まさか彼女を放り投げるなんてねぇ」

 

 

 ズヴァータは三郎が吹っ飛んだのを見て喜びながらも、亜子をかばうための行動にほんの少し驚いた様子だった。

 

 

「でも、そのままじゃ落ちちゃうね。私が受け止めてあげようか!」

 

「あ……っ!」

 

 

 だがまあ、そのままでは亜子が地面に墜落してしまうので、受け止めて連れ去ろうと考えるズヴァータ。

されど、亜子はズヴァータの方を見て、直進して落下してくる人影を見たのだ。

 

 

「それはあんたの役目じゃない」

 

「────ッ!? グアッ!?」

 

 

 それこそ燃える天空に巻き込まれた三郎だった。

服などが焼けこげて顔にもすすを付けながらも、気の最大防御でダメージを最小限に食い止めていたのだ。

 

 そして、亜子を捕まえようとするズヴァータへと落下の加速で蹴り潰し、踏み台にして亜子のもとへと飛び上がって行ったのである。

 

 

「三郎さん!!」

 

「急に離しちゃってごめんね。もう大丈夫だから」

 

 

 そのまま三郎は亜子を再び抱きかかえると、抱えられた亜子は三郎が無事だったことを大いに喜んだ。

また、三郎は亜子を投げてしまったことを謝り、しっかりと亜子の体を抱きしめた。

 

 

「その怪我……」

 

「ちょっと焦げたおかげで、いい男になっちゃったかな?」

 

「……三郎さんっ!」

 

 

 ただ、亜子は三郎の顔が少し焼けこげてるのを見て心配になったが、三郎はそれに対してキザったらしい台詞を吐いてニヤリと笑って見せたのだ。

実際は結構ダメージが大きくてヤバ目であり、やせ我慢して亜子を安心させようとしていたりするのだが。

そりゃ気で防御したとはいえ、炎の上位魔法を受けてピンピンしてる方がおかしいのだから当然だ。

 

 そんな三郎に亜子はしがみつき、やっぱり三郎は主人公だと思うのだった。

 

 

「ぐっ……、あの魔法を受けて元気だとは……、油断した……」

 

 

 蹴り落されたズヴァータは地面に叩きつけられており、体を両手で持ち上げて起き上がっている最中だった。

その表情はもはや怒り一色であり、完全にプッツンいってるヤバイものであった。

 

 

「ああもういい! どうでもいい!!! ぶっ殺してやる!!!!!」

 

 

 であれば、もう容赦の必要も何もない。亜子も欲しかったけど、別に他の子を奪えばいいだけだ。

ならもういらないと考えたズヴァータは、最大の魔力を放出しながら三郎の方を睨む。

 

 

「アルバス・アルゴス・アンゴルモア! 来れ深淵の闇! 燃え盛る大剣! 闇と影と憎悪と破壊! 復讐の大焔!」

 

 

 ズヴァータはやけくそになった状態で、大魔法の呪文を詠唱し始めたのだ。

なんという沸点の低さだろうか。まさに瞬間湯沸かし器のような男である。

 

 

「っ!? また亜子さんまで巻き込むつもりなのか!? ふざけるなっ!!」

 

「三郎さん!?」

 

 

 三郎は少し後ろを見てズヴァータの様子がおかしいことに気が付き、亜子も巻き込む気なのを察して再び怒りだす。

あれだけ欲しいとか奪うとかぬかしてた癖に、亜子の無事すらもいとわない行動に、ガチでキレたのである。

 

 亜子も三郎の怒りと焦りを見て、このままではマズイことだけは理解した様子だ。

とは言え、亜子はお姫様抱っこされているので、ズヴァータの姿を見ることができず、何が起こっているのかわからなかった。

 

 

「我を焼け彼を焼け! 其はただ焼き尽くす者!!」

 

 

 そうこうしているうちに、ズヴァータは再び追跡を再開しながら、詠唱を続けていく。

その形相は鬼のようなものであり、本気で亜子すらも吹き飛ばすつもりだ。

 

 

「クソッ! できるだけ遠くに逃げるしかない! しっかりつかまっててっ!!」

 

「うん!」

 

 

 こうなったらもう射程距離の外まで逃げるしかないと三郎は考え、亜子をしっかり抱きしめて、さらに気を用いて加速しながら屋根の上を移動する。

亜子も三郎の言葉を聞いて、三郎を信じながらその体にギュッと強くしがみつく。

 

 

「くたばれぇ! ”奈落の業火”ッ!!!」

 

 

 そこでついにズヴァータの詠唱が完成し、大爆発を誘発する魔法を三郎たちへと解き放った。

迫りくる炎の爆発から逃れようと必死にスピードを上げる三郎。だが、奈落の業火が迫る速度の方がやや早く、このままでは飲み込まれるのは時間の問題だった。

 

 三郎もこのままではマズイと考えて加速しているものの、もはや背後まで炎が迫り決断を余儀なくされ、もう一度自分を捨てて亜子を助けるしかないと考え行動しようとしたその時────。

 

 

 ────別の誰かが発動キーを高速で詠唱する声が聞こえてきたのだ。

 

 

「ワイルド・ワールド・ワイド・ワンダー」

 

「なに? 別の誰かの詠唱!? だけどこの声は……!?」

 

 

 三郎はその詠唱を聞いて自分が狙われているのかと思ったが、その声は自分が知っている声とそっくりだった。

どこで聞いた声かと悩む以上に、それは三郎がかなり聞いていた声だった。

 

 

「契約に従い我に従え氷の女王。疾く来れ静謐なる千年氷原王国。明けぬ夜吹きすさぶ冬の嵐。咲き乱れ舞い散れ永遠の白き薔薇園」

 

 

 その詠唱もまた、大魔法の呪文だった。

ふと三郎がその声の方がする空を見れば、ひとりのフードをかぶった男が、眺めの銀の棒状の杖を前に突き出して詠唱していたのだ。

 

 

「”千年氷華”ッ」

 

 

 そして、その詠唱が完成すると、強烈な冷気と巨大な氷が奈落の業火と衝突し、大爆発と共に打ち消したのだ。

 

 

「うわっ! クッ!!」

 

「三郎さん!!」

 

「大丈夫!! 亜子さんは!?」

 

「三郎さんが護ってくれたから、ウチは平気や!」

 

「よかった……」

 

 

 ただ、大魔法同士の衝突はとてつもない爆発と衝撃波を生みだす訳で、三郎はその衝撃で吹き飛びそうになる。

されど三郎は地面へと着地し、建物の陰へと隠れてそれをやり過ごしたのである。

 

 また、三郎は亜子の方を心配して声をかければ、亜子は三郎が護ってくれたおかげで大丈夫だったと微笑んで見せ、三郎はそれを見てほっと一息つくのだった。

 

 

「なにっ!? 氷の魔法で私の炎の魔法を相殺しただと!? 誰だ!?」

 

 

 ズヴァータもまさか自分の魔法が対消滅させられるなど思ってなかったため、かなり驚愕した表情となって、その魔法を使った相手を探し始める。

 

 

「久々に帰ってきたと思ったらなぁんかすごいことになってるし、弟は巻き込まれてるしで、ほんとヤんなっちゃいますねぇ」

 

 

 と、そこへ空からゆっくり降りてきて、疲れた様子で独り言を並べる男が一人、三郎の前へと着地する。

 

 

「兄貴!?」

 

「久々だなあ、サブ。あと彼女さんも初めまして、僕、初風って言うんです」

 

「ど、どうも……、和泉亜子です……」

 

「うんうん、亜子ちゃんね」

 

 

 三郎は目の前に現れた男が自分の兄だと言うことに気が付き驚くが、兄、初風はそんなこと気にせずいつもどおりの対応をし出す。

さらに初風は初めて見た三郎の彼女となった亜子へと静かに名乗れば、亜子は三郎の兄と言うことで少し緊張した様子で、名乗り返していた。

 

 ただ、初風は原(・)作(・)知(・)識(・)の(・)あ(・)る(・)転生者であり、亜子のことは情(・)報(・)と(・)し(・)て(・)頭に入っている。

それでも三郎の彼女となった亜子の対応が新鮮で、うんうん、初々しくて大変よろしい、とほっこりした様子だった。

 

 

「にしても、魔法世界行ったのに何の成果も得られませんでした」

 

「兄貴、そんなとこ行って何してたんだよ!? つーか色々聞きたいこと山ほどできたんだけどさ!?」

 

「うん、そうだねぇ、後で話そうか」

 

 

 で、初風はもう三郎が魔法世界に行ったことを知っているので、自分も言ってきたよとまるで旅行してきたかのように言い出す始末。

実際マジで旅行感覚で行ってるのだが、三郎としてはわりと危険な場所という認識であり、嘘だろ!? と思ったりもしていた。

 

 それだけではなく、兄がなんか知らないが大魔法使ってるしで、正直三郎の頭の中は混乱しまくっていて夢だとさえ思うほどだった。

完全に理解が追い付かない様子の三郎に初風は、安全な場所に移動したら全部話すよ、とにこやかに言うと静かにズヴァータの前へと出て立ちはだかる。

 

 

「邪魔をするなよっ!! ”炎帝召喚”ッ!! 燃え尽きてしまえッ!!」

 

「こんな街中でやることではないと思いますがね……」

 

 

 そこへ自分の魔法が防がれたことに完全にブチギレたズヴァータが、自分の背後に巨大な炎の魔人を出現させる。

初風はそんなもん街で使うなよ、とかなり呆れた声を出しながらも、すでに魔法を完成させていたのだ。

 

 

「”巨人撃つ戦神の雷槌”ッ!!」

 

「ぐっ!? 炎帝の頭を一撃で砕くだと!?」

 

「そういう特性付与した魔法なんですよこれ」

 

 

 その魔法は雷が凝縮されたハンマーであり、吸い込まれるかのように炎帝の頭へと命中すれば、炎帝の頭が一発で粉砕され消滅してしまったのである。

ズヴァータもまさか炎帝が一撃で砕かれるなどと思ってんかったため、驚愕して焦りを見せた。

 

 ただ、初風は巨人、巨神への特攻魔法だからそうなった、と淡々に説明するだけ。

特に気にした様子もなく、さも当然でしょう、という態度だった。

 

 

「ぐううっ!! ”燃え盛る炎の神剣”ッ!! これで炭にでもなれッ!!」

 

 

 ならば、とズヴァータは右腕に巨大な炎の剣を出現させ、初風へととびかかって大振りに振り払う。

 

 

「”陽満る輝きの天杖”っ」

 

「なっ!?」

 

 

 が、初風もすでに次の魔法を完成させ、右手に握る杖に光を圧縮した剣を作り出して握りしめ、その巨大な炎の剣を両断して破壊したのだ。

たった一振りで自分の魔法が打ち破られたことに、ズヴァータはただただ驚いた顔をするだけだ。

 

 

「はっきり言いますよ? 僕、君に対して本気で怒ってますので」

 

「ばっ、馬鹿な!? こんな野良魔法使いごときに!? 伍海を賜ったこの私がっ!?」

 

 

 初風は、正直かなり頭に来ていた。

弟とその彼女を魔法で巻き込んで吹き飛ばそうとしていた、この目の前のクソ野郎に本気でキレていた。

キレていても物腰が柔らかいだけで、内心はまるで絶対零度の如く冷え切っていたのだ。

 

 されどズヴァータは自分の魔法がどこにも所属していなそうな魔法使いに、後れを取っていることの方がショックが大きい様子だった。

月の裏の幹部として伍海の名を与えられるものは、誰もが羨ましがる存在であり、月の裏の中でもトップクラスの魔法使いなはずだったからだ。

つまり、プライドが完全にズタズタにされてしまったのだ。

 

 

「何そのすごいイタい称号。君たちの組織大丈夫ですか? すごいイタいですよ?」

 

「ふぅぅざぁぁぁけぇぇるうううなあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 が、初風は伍海だのなんだのと聞いて、うわっ、中二病かな? と思ってそう言ってやった。

そんなドン引き発言を挑発と受け取ったズヴァータは、完全に理性を失うぐらいキレて初風へと殴りかかってきたのである。

 

 

「ワイルド・ワールド・ワイド・ワンダー。契約に従い我に従え高殿の王。来れ巨神滅ぼす燃え立つ雷霆。盾をも砕き城壁をも焼き尽くしその者の護りを貫いて。百重千重と重なりて走れよ稲妻っ」

 

 

 まあ、だったらやっつけようと初風は考え、長い詠唱を地味に高速で詠唱してその魔法をズヴァータへと向けて解き放った。

 

 

「”障壁貫通付与・千の雷”っ!!」

 

 

 それこそ初風のアレンジが入った千の雷だ。

初風は魔法使いとしての特典の一つに、”一工夫加えて魔法に他の効果を付与することができる”というものを選んでいた。

だから詠唱に障壁貫通っぽいのを付与して、千の雷にそれを簡単に乗せて放つことができるのだ。

 

 ちなみに高速な詠唱速度は、初風自身が早口を練習した努力の成果だったりする。

 

 

「ガアアアアアァァァァァッ!?!?」

 

 

 障壁すら貫通する千の雷がズヴァータへと頭上から襲い掛かり、全身を膨大な雷の破壊力で焼かれ、ズヴァータは絶叫したあとその場に倒れて動かなくなった。

防御無視での大魔法とか誰も考慮なんてしてない訳で、対策もできずに直撃したのだからこうもなろう。

 

 

「あっ、しまった。ここ街中だった。大丈夫かなあ……」

 

 

 しかし、初風は千の雷を放ったことを、場所を見て後悔しだした。

何せこの場所はいつも戦っている荒野ではなく、麻帆良学園の都市内だったからだ。

で、よく見ると色々焦げたり溶けたりで、あっヤバ……、と内心冷や汗を流しまくっていた。

 

 

「兄貴……、そんなに強かったのかよ……。俺全然知らなかった……」

 

「教えてないしね。両親も妹たちも知らないよ」

 

「マジかぁ……」

 

 

 そんな兄の焦燥などわからない三郎は、知らなかったそんなの、と初風へと言うと、初風もそりゃ知らなくて当たり前とはっきり言ってやる。

と言うか、三郎と亜子がピンチじゃなきゃバラす気もなかった訳で、まあバレたから全部暴露してやろ、と思っているのが初風だった。

 

 また、家族全員には内緒だったよ、と言われた三郎は思いのほか衝撃を受けた様子だった。

まさか兄が、魔法使いであることを家族全員に秘密にしていたなんて、思いもよらなかったからだ。

 

 

「いやーでも、助かったよ兄貴! サンキュー!!」

 

「可愛い弟と義妹候補ちゃんのためだからねぇ。張り切り過ぎちゃってこのありさまだけど……」

 

 

 ただまあ、助けてくれた兄に対して、軽快に礼を言っておく三郎。

兄が魔法使いだったのは驚くことだが、助けてくれたんだから当然のことだと。

 

 とは言え、また助けられて一人で彼女を守れなかったな、と少ししんみりした気持ちも持つ三郎。

どれほど強くなれば、亜子を自分だけで守れるようになるのだろうかと、本気で考えていた。

 

 そこで初風は礼を言われ、別にいらないのに、という様子で語りだした。

家族である弟を助けるのは当たり前のことであり、いずれ家族になるだろう亜子を助けるのも当然だろう、と。

 

 しかし、その代償がこのありさま、と自分の魔法で軽く吹っ飛んだ街並みを見て肩を落とす初風。

住民が全員避難済みだったのが幸いだな、と思いながらも、どうしようこれ……、学園側になんて報告しよう、と頭を抱えて悩むしかなかった。

 

 

「えっ!? あの……その……」

 

「驚くことですか? サブの恋人ちゃんですよね? くっつくんですよね? だったらそうなりますよね?」

 

「あ……う……」

 

 

 そこで亜子は義妹と言う単語に大きく反応し、滅茶苦茶動揺して顔を真っ赤にしだした。

そりゃ恋人の兄から恋人と結婚すること前提みたいな言い方されちゃ、そうなっても仕方がない。

 

 が、初風は恋人なんだしいずれそうしたいんじゃないの? と真剣に言われれば、亜子はもう頭の中がショート寸前まで追い込まれて俯いてしまったのだった。

 

 

「兄貴! 亜子さんをからかわないでくれよ!」

 

「ごめんなさいね。弟が彼女連れてきてナイトやってるの見てて、ついね」

 

 

 真っ赤になってクラクラしだした亜子の両肩を抱えた三郎は、初風に文句を飛ばす。

まあ、初風としてはちゃんと恋人を守護ろうとしていた弟を見て、いずれそうなるだろうと思ったから言っただけ。

 

 

「とりあえず、安全な場所へ行こうか。そこで色々と話してあげるよ。あと治癒をしておこうか」

 

「マジで助かるよ兄貴」

 

 

 とまあ、ここはまだ危険だと判断した初風は、安全な場所に移動することを提案しながら、見た感じ何かで焼かれた様子の三郎へと治癒魔法をかける。

三郎も治癒されながらその礼を言って初風の提案を飲み、亜子を抱えて初風と共に移動するのであった。

 

 

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