冬休みということで自分の拠点で色々と開発やら研究やらしていた超だったが、突如として麻帆良を召喚魔が襲ったのをモニター越しで見て、危機的状況だと考えて外へと飛び出して来た。
「この状況、一体どういうことネ……」
空には巨大なキューブ状の魔力の塊である物体と、空を埋め尽くさんとする程の大量の召喚魔。
鬼神兵の姿や見知らぬ魔法使いの姿もちらほらあり、この麻帆良が襲撃されていることは一目でわかる光景だった。
拠点内でも葉加瀬やエリックらが分析を行っており、召喚魔がキューブ状の魔力塊の魔力を利用して召喚され続けるシステムを組まれていると言う情報が出た。
されど、超が困惑するのはそう言う事ではない。
何故、今更この麻帆良が攻められているのか、ということだ。
「とは言え、ドクが慌てた様子はいつものコト。それに、未来に何かあったとは言てなかたと言うことハ……」
それに未来人であるエリックが何も反応せずに麻帆良が突然襲撃された。
エリックはそのことにかなり慌てふためいて、叫びながら色々対処を始めたのだが。
超はそのことを踏まえ、この襲撃は一時的なものであり未来に影響を及ぼすようなことではないのだと、すぐさま理解した。
「……獅子帝は動けないようだネ。なら援護しに行くカ」
とは言え、それは
この状況が長く続けば多かれ少なかれ影響が出てきて、それが未来にも影響が出始めると言うことも考えられるからだ。
さらに上空ではジェネシックガオガイガーが
すぐさまジェネシックガオガイガーの援護に向かおうとした超であったが。
「ふむ? 何故お前が未だここにいる?」
「敵カ?」
そこへ当然妨害しにやってくるものがいる。月の裏に所属する魔法使いだ。
青色のローブを纏ってフードを深くかぶった男が、超の前へと現れたのである。
ただ、その魔法使いは超を見て、少し驚いた態度を見せた。それは
超は見知らぬ魔法使いが登場したのを見て、邪魔しに来たとすぐにわかった。
「我は裏魔法使いの集い”月の裏”幹部・伍海が一人、雨の海のジースト。なにゆえお前がここにいる?」
「
魔法使いは律義に名乗り、その疑問を超へとぶつける。
その魔法使いの名は幹部、雨の海を冠するジーストと言う。
そんなジーストの質問を聞いて、学園祭で敵だったビフォアが言っていた
ビフォアが行った世界へ魔法を公開する儀式、
「まあいい。別にそうじゃなかったにせよ、お前は脅威ではない」
「随分と下に見られているようだガ……。流石にそれは舐めすぎではないカネ?」
「それは今すぐわかる。この我の力を見ればなッ!!」
ジーストは何か勝手に自問自答して解決している超を見て、問いに答える気がないと判断してどうでもよいと切り捨てた。
科学的な武装を施した程度の超など、月の裏の幹部の魔法使いである自分に及ぶはずがないと見下しているからだ。
されど、超は見下されたのを聞いて、敵対者を簡単に下に見て慢心するなんて馬鹿のすることだと言ってやる。
とは言えジーストは自分に絶対な自信があるようで、超へと得意の魔法を行使し始めたのだ。
「影の魔法カ……?」
「このまま串刺しにしてくれるッ!!」
ジーストの得意魔法、それは影を操る魔法だ。
高音やカゲタロウのように影の槍を無数に操り串刺しにする魔法。
それを見た超はすぐさま回避行動へと移り、ジーストは百を超える影の槍を超へと向けて発射した。
「────ッ!? なにっ!? グウウオォォッ!?」
──────だが、次の瞬間、殴り飛ばされていたのはジーストの方だった。
「あまり舐めない方がいいヨ? こうやって簡単に足元をすくわれるからネ」
「……時間操作、────カシオペアか……!」
超には科学の力での武装と
この二つの力は並みの魔法使いなど木っ端にするほどの力を持つ。その力で超はすでに拳を前へと突き出した形で、ジーストを睨んでいたのである。
ジーストもそれを失念していたと言う様子で、吹き飛ばされながら小さく舌打ちをして超を睨み返す。
「それに、どうせお前はここで負けることが確定しているネ。何故なら、お前たちの騒動の結果は未来において存在してないからダ」
「ふっ、ほざくなっ!!」
さらに超はジーストへと、貴様らの敗北は必至であり決まったことだとはっきり言ってやる。
未来においてこの連中が麻帆良を乗っ取れたと言う事実が、未だ浮かび上がってきていないからだ。
ビフォアの時のようにはっきりとした形で表れていないのであれば、失敗に終わり何も残せなかったということだからだ。
が、ジーストはその言葉に怒りを露にし、超へと再び無数の影の槍を飛ばす。
「ちいぃ! 時間操作攻撃、厄介な!!」
されど、超にはカシオペアによる時間操作がある。
自らの時間を戻す、または時間を疑似的に停止することだってできる。
これにより察知不可能な攻撃と完全回避行動を可能にする。
突如として超が姿を消せば、桃色の魔力砲撃が死角から飛んでくる。
超の攻撃をジーストは影の魔法で防御しつつ振り向くが、再び超は姿を消し、背後から攻撃を仕掛けてきた。
これはマズイと考えたジーストは、咄嗟に影の槍で全身を包み込んで防御しつつ、超から距離を取ったのである。
ジーストはこの状況に、甘く見ていたことを痛感させられた。
大量の魔法での質量攻撃であれば押し切れると考えていたが、その見通しの甘さが浮き彫りになった瞬間だった。
「それとなんだこの魔法は……? 何故こいつがこれを使える?」
しかも、超は時間操作だけではない。
この世界の魔法ではない別の魔法を操っていることに、ジーストは気が付いた。
そして、よく見れば超の左腕付近に一本の杖が浮かんでいるのを目撃したのである。
「恩人からの贈り物のおかげでネッ!!」
「ぐううぅぅ!! 月の裏のNo2であるこの我が、こんな小娘風情にっ!!」
超はジーストの問いに適当に説明してやりつつ、再び姿を消してジーストの真横へと移動し、肘打ちをぶち込む。
それをジーストは障壁と影の魔法で防御して防ぎながらも、超の実力に焦りを感じ始めた様子を見せた。
「お前に負ける気はないヨ! ここで大人しく敗北するネ!!」
「調子に乗るなよッ!!」
超とてこいつらを許す気はない。
せっかく平和になった麻帆良を再び戦場に変えた目の前の連中に、超は結構頭に来ていたからだ。
どうせお前らは負けて消える存在なのだから、潔く負けてくれと超は叫べば、ジーストはこの程度で負ける訳がないと、強気の態度で影の魔法を支配するのだった。
…… …… ……
三郎と亜子は三郎の兄である初風に守護られつつ、安全な場所を探して移動していた。
「ここら辺が安全地帯のようだねぇ」
「マジで助かるぜ、兄貴」
「あっ、ありがとうございます」
「お安い御用さ」
そして、ようやく安全と思われる場所を見つけると、そこへと入っていく。
そこはどこかの学生寮であり、少なくとも中等部のものではない様子であった。
とりあえず一息つけると言う様子で初風が言葉を述べれば、三郎と亜子はここまでの道のりで守護してくれたことに礼を言う。
ただまあ、初風としては弟とその彼女を助けるのは当たり前だと思っており、気にしないでいいよ、という様子で微笑んでいた。
「あれはゆーなたち!」
「それと鮫島先輩か?」
だが、その建物内のホールにて柱を背にして座る裕奈と、それを囲うようにしゃがんで裕奈を心配するアキラとまき絵の姿があった。
亜子が仲良しの三人を見つけると、三郎もその横で立ちながら裕奈を見る
「おや? 友人ですか?」
「はい!」
「だね」
二人の態度を見た初風はあの四人のことを二人に聞くと、亜子と三郎はこの場で四人に会えたことを喜ぶようにして肯定する。
「みんな大丈夫やった!?」
「私とアキラは大丈夫だけど……」
「ゆーなが私たちのために……」
亜子は早速安否を確認のために裕奈たちのところへ行くとまき絵とアキラは特に怪我もなさそうだったが、二人が心配そうな様子で言う裕奈の方を見ると、全身包帯まみれの姿となっており、いたるところで血がにじんでいたのである。
また、治療のために服は脱がされており、上半身には上着だけをかぶせた状態であり、下半身もデニムの長ズボンだったので脱がされ、アキラの上着が腰に巻かれていた。
「ゆーな!? どないしたん!?」
「へへ……、名誉の負傷ってやつ!」
「言ーてる場合やあらへん!」
すごく痛々しい姿に変わり果てた裕奈を見た亜子は、たまらずしゃがんで裕奈に詰め寄るが、裕奈は亜子を心配させないように笑ってみせた。
が、こんなに酷い怪我なのに冗談なんか通じないと、亜子は叫んで心配する。
「そっちこそ大丈夫だった? それに私こんなに血まみれだよ?」
「そんなことなんか気にしてられへんって!」
「こっちもだいじょーぶ……! いてて……」
「ちょっ!? ゆーな!? 何もせんでええ! 安静にしててええねん!」
だが、逆に裕奈は亜子を心配してきた。
亜子もこっちに来るときに、外にいる召喚魔や知らない魔法使いに襲われなかったのかと思ったからだ。
それだけでなく、亜子は血が苦手で見ただけで気絶してしまうのも知っていたのもあった。
されど亜子は、もはやそんなことを言ってる場合じゃないと、裕奈を気に掛ける。
顔以外は全身包帯姿で、特に左肩に巻かれた包帯は真っ赤に染まっていたからだ。
そんな亜子をやはり安心させようと裕奈はニコニコしながらガッツポーズをとるが、傷に響いていたがってしまう。
もはやそんな裕奈を見て亜子は慌てて何もしなくてよいと言った。
「ゆーながこないな怪我するやなんて……、一体何があったん?」
「えっとね……、突然変な人が襲ってきて……」
「ゆーなが私たちを守るために戦ってくれて……、それで…………」
「そっ、そないなことが…………」
そこで亜子は何故裕奈にこんな傷ができたのかを尋ねれば、まき絵とアキラがゆっくりと説明を始めた。
なんか変な魔法使いが出てきて黒い騎士を大量に呼び出して、自分たちを守るために必死で戦ってくれていた裕奈のことを攻撃してリンチしたのだと。
亜子は変な魔法使いと言う単語にピンときて、もしかしてさっき出会ったあの変な人の仲間なのかな、と察した。
ただ、それ以上に裕奈への仕打ちに酷く心を痛め、裕奈の方を見て表情を曇らせる。
「ウチも同じように変な人に襲われてな……」
「本当に!?」
「大丈夫だった!?」
亜子も自分もその変な人の仲間っぽいのに襲われてここまで来たと説明すると、まき絵もアキラも亜子も同じような人に襲われたと聞いて驚き。亜子の安否を気遣う。
「うん。三郎さんとそのお兄さんが助けてくれはったから大丈夫や」
「よかったー!」
「うん、本当によかった……」
そんな二人を心配させまいと、助けられて大丈夫だったと微笑んで語れば、まき絵とアキラも安心した様子を見せた。
で、そこでふと、まき絵とアキラは三郎の兄と聞いて、お兄さんなんていたんだ、と言う疑問が浮かび上がり、周囲を見渡し始めた
「いやー、ははは……。トリスの言う通り、血を流しすぎちゃったかな……? なんだか頭がぼんやりしてきたかも……」
「ゆーな!?」
「ホンマに大丈夫なん!?」
「大丈夫なのゆーな!?」
だが、その時、裕奈が怪我による症状を訴えだしたのだ。
裕奈は出血が多く、特に貫かれた左肩の傷からの出血が酷くかったので、視界がぼやけてきたと言い出したのである。
アキラも亜子もまき絵もそれを聞いて、このままじゃ裕奈が危険だと驚き戸惑う。
「大丈夫だよ……、このぐらいなんてこと……!」
「無理して立たなくてもいいって!」
「う……うん」
それでも裕奈はみんなを心配させたくないので、無理をしてでも立ち上がろうと力を籠めるが、まき絵はすぐさまそれを静止してやめるように言うと、裕奈は再び静かに座り込んだ。
「アカン! 応急手当だけやと足りてへんのかも!」
「どうしよう
「どっ、どうしようって言われてもなぁ……」
裕奈の怪我の状態などを見た亜子は、今の手当てでは限度があるのだと声を大きくした。
アキラもそれはあると考え年上の刃牙に相談するが、刃牙とて医者ではないので困り果ててしまっていたのである。
「さっきカギ君を呼んだから、すぐ来て何とかしてくれるかも!」
「確かカギ君やったら傷を癒す薬みたいなのを持っとったはずや!」
「じゃあ、カギ君次第ってことか……」
そこでまき絵は先ほどカギと念話で話をしており、カギが急いで駆けつけてくれるはずだと言う。
亜子はカギが三郎の傷を癒したのを見ていたのを思い出したので、それがあれば裕奈もきれいさっぱり治ると声を大きくして言えば、アキラもカギがすぐに来てくれるのなら、と歯がゆさを噛みしめた。
「あのー……、大丈夫、ではなさそうですね」
「お前は……?」
「僕の名は川丘初風、三郎の兄です」
「三郎の兄!? 兄がいたのかお前!?」
「はい。俺の兄貴です」
と、そこへゆっくりとやってきて、声をかける初風。
ふと見知らぬ男が現れたのを見た刃牙は一瞬警戒して尋ねると、初風はゆったりと自己紹介を行った。
兄、と聞いて刃牙は驚き三郎に本当かどうかを聞けば、マジで兄貴であると返ってきたのだ。
「あの人が川丘君のお兄さん!?」
「確かにちょっと似てるかも……?」
そこにさっき話に聞いていた亜子の彼氏の兄が出てきたことにまき絵は少し驚き、アキラは近くにいる三郎と見比べて、顔がそっくりだと思い口に出す。
「君が裕奈さんですか?」
「……はっ、はい」
初風は静かに裕奈の前へやってきてしゃがみ裕奈の視線に合わせて名前を聞くと、裕奈も苦しそうにしながら素直に答える。
まあ、初風は
それに知らない人から名前を知られてるなんて怖いだろう、というのもあるし、別に原作キャラだからと言って、そういうことを気にしたことは一度もない。
彼女が怪我をしていると聞いたので、何とかしようと思っただけだ。
「包帯の上からでも酷い怪我だと一目でわかりますね……」
そこで初風は裕奈の怪我している部分に巻いてある包帯の状態を見て、これは本当に酷いと思った。
しっかり包帯が巻いてあるのに血がにじんでおり、非常に痛々しい姿だったからだ。
「僕、魔法使いなんですけど、こっそり治癒魔法を使ってあげましょうか?」
「えっ!? そうなんですか!? そんなことができるんですか!?」
「はい、そうなんです。できちゃうんです」
なんだかんだ言って苦しそうにする裕奈を見た初風はマズイと思い、治癒魔法を施すことをこっそり申し出る。
裕奈は三郎が一般人だったのを知っているので、その兄が治癒魔法を使えることに少し驚き尋ねれば、使えるよと言って初風はにこりと笑った。
「そうだそうだ。魔法使いだって言うこと、隠さなきゃいけないんですよね? ちょっとしんどいでしょうけど、僕と物陰に来てもらえませんかね?」
ただ、魔法使いということや魔法は一般人に知られてはいけないのを思い出した初風は、治癒魔法を使うのであれば一緒に移動してほしいと申し出る。
周囲には一般人っぽい裕奈の友人がいるからだ。
まあ、初風は
それにさっきのまき絵とアキラと亜子の会話で、裕奈が自分が倒した敵の仲間のような奴と戦って負傷したのを聞いており、裕奈が一般人ではないことを察して、こうして話してきていた。
「いやまあ、急に年上の男と二人きりになるのが嫌だとか、噂になったら嫌だとか、そういうことがあるのでしたら、無理強いはしませんけど」
「いっ、いえ! 別にそんなことは気にしないです! 治癒してくれるのは本当にありがたいですから!」
ただ、女の子が男の人と二人きりで物陰に移動するのはちょっと体裁がよろしくないだろうし、無理は言わないよと初風は言うが、裕奈はそこまで気にしないし友人たちも変な勘ぐりはしない……かも、と考え、治癒してほしいと伝えた。
「それに、ここにいる友達は全員魔法のこと知ってますんで、気にしなくても大丈夫ですから」
「そうですか。じゃあ、治癒をしても大丈夫ですか?」
「はい……、お願いします」
また、友人達も魔法世界に行っているので、そう言った心配はないと裕奈が話せば、初風はなるほど、
それを聞かれた裕奈は、小さく頭を下げて静かに治癒を頼んだ。
「兄貴、そんなにすごかったのか……」
「一人で旅するのって、かなりハードだからねぇ。ある程度のことは自分でできないと野垂れ死ぬ恐れすらあるもんでね」
「確かにそりゃそうか」
初風は魔法使いとして一人旅をすることが多かったので、一番頑張ったのは治癒魔法だった。
一人旅での怪我は致命傷であり、傷から細菌などが入って病気になることだってある。そういう不安要素を取り除くために、治癒魔法を習得したのが初風だった。
どんどん兄の知らない情報が出てくるのを聞く三郎は、ただただ兄貴の規格外さに驚くばかりだ。
そんな三郎へ初風は、一人で旅をするなら全部ひとりでできないと死ぬと言った。
そりゃ旅先で一人死んだら、三郎を含む家族が悲しむどころか困惑するだろ、と思っている訳で。
三郎も初風の考えを聞いて、うんうんと頷いて同意。
こっちの世界でも一人旅で山に入るだけでも結構危険なのに、魔法世界まで旅をしているんだから当たり前か、と。
「女の子ですからねえ、きれいさっぱり治してあげますよ」
「お、お願いします……」
再び裕奈の方を向きなおした初風は、じゃあ治癒魔法を使うよと優しく言えば、裕奈はもう一度ぺこりと頭を下げた。
「ちょっとごめんね。直接傷に魔力を送りますんで、少しだけ肌を見せてもらいますよ」
「はっ、はい……、大丈夫です」
ただ、怪我の具合やら治癒効果を見たいので、その部分を晒させてほしいと初風は言う。
裕奈は手当のために服を脱いでかぶせている状態だったので、ちょっとだけ恥ずかしそうにしながら傷が見える部分をめくって見せた。
そりゃ知人の兄とは言え知らない年上の男の人に肌を晒すのだから、恥ずかしいのも当然だろう。
「うーん、これは酷い。女の子相手にこんな酷いことよくできたもんだ。怒りを覚えるよ」
そして、初風は裕奈の体に巻いてあった包帯を優しくほどくと、剣や矢で傷つけられた酷い怪我が全身にあるのが目に入ってきたではないか。特に左肩の傷は酷く、今も出血が続いている状態だった。
まさかこんな、まだ15歳ぐらいの少女に対して、これほどの傷を負わせるなんて許せるものではないと思い、初風は穏やかな様子ながら内心かなりの憤りを感じた。
「では、”上位治癒”」
「あっ……」
初風はならばきっちり治してあげないと、と全身の魔力を練り上げ、ギュッと杖を握りしめて裕奈へと向け、治癒魔法を静かにかけた。
裕奈は治癒魔法を受けて初風の魔力が自分に流れてくるのを感じて、ピクッと体を震わせてちょっとびっくりとした様子を見せる。
「すごい……」
「みるみる傷が消えていく……」
「不思議な感覚……」
すると、ゆっくりだが確実に裕奈の傷が治っていくのが見えたではないか。
亜子もまき絵もアキラもそれを見て、魔法ってすごいんだなー、という気持ちが芽生えた。
「ふむ、傷跡もなく綺麗に治ってくれましたね。いやーよかったよかった」
「ありがとうございます……!」
「いえいえ、当然のことですよ」
最後に一番酷い左肩の傷が完全に癒えたのを見た初風は、傷跡にならずに済んでよかったと、微笑みながら喜んだ。
裕奈も怪我が完全に治ったのを自分の目で確認すると、大喜びで頭を下げて礼を言うが、初風はそれを気にしてないと言うだけだ。
「サンキュー兄貴」
「俺からも礼を言わせてくれ、感謝する」
「私からもありがとうございます!」
「本当にありがとう!」
「ありがとうございます!」
「気にしなくてもいいですよ。僕としてもこんなかわいい子を傷だらけにしておきたくなかったですし」
見守っていた仲間たちも裕奈の傷がなくなったのを見て、初風に礼を述べて頭を下げた。
が、初風としては裕奈のような子がこんな酷い怪我を負わされているのを見て、何もしないなんてありえないと思っただけだと笑って述べる。
「よかったねゆーな!」
「本当に良かったよ」
「ホンマにな!」
「いやー、本当に助かったー!」
裕奈の傷が癒えたのを見たまき絵とアキラと亜子は裕奈に抱き着き大いに喜び、裕奈も痛みから解放されて笑顔を見せた。
「あっ……、すいません! ちょっと、服を着てきます!」
「どうぞ、気を付けて行ってらっしゃい」
怪我がきれいさっぱり治った裕奈は、今の自分の格好を気にして、服を着なおしてくると初風へやみんなに伝える。
別に友人だけならその場でも問題ないが、流石に男の人が近くにいるとやりずらいのは当然だ。
初風もそれをわかっており、どうぞと言って後ろを向いて三郎へと近寄り、肩を組んで同じ方向へ振り向かせた。
「大丈夫か!?」
「裕奈さんが怪我したと聞いたのですけど!?」
「カギ君!」
「ゆえちゃんも!」
裕奈が物陰に移動したその時に、カギが杖に乗って建物へと飛んで入ってきて、無事かどうかを叫んで問う。
カギの杖の後ろには夕映もおり、裕奈が酷い怪我をしたと言う話を聞いていたので、心配となって大声でよびかけた。
二人の登場にアキラとまき絵が名前を呼び、待ってましたと言う様子で喜んだ。
「もう裕奈は大丈夫だよ! 川丘君のお兄さんにきっちり治してもらったから!」
「なにっ!? 兄!?」
ただ、裕奈の傷はもう治ったのでそれをまき絵がカギに言うと、カギはあの凡人めいた奴に兄がいたのかよ、と驚きの声を上げる。
とは言え、カギは三郎のことを魔法世界で顔を見た程度しか知らないので、魔法使いでも武術の達人でもない普通の男子生徒としか見ていなかった。
「はい、兄の初風です。よろしくお願いします」
「兄がいたなんてなぁ……、しかも魔法使いだってのか?」
「そうです。魔法使いです」
そこへ初風がやってきてカギたちへと挨拶をすると、カギはその兄が治したと言うことは魔法使いなのかと聞けば、初風はYESと答えた。
「お兄さんが魔法使いだったんですか?」
「いやー、俺も今さっき知ったばっかりで何が何だか……」
「そうだったんですか……」
で、夕映も三郎にそれを聞くと、三郎もよくわからないと言うだけだ。
そんな三郎の様子を見た夕映は、三郎が本当に何も知らなかったのだと理解し、魔法使いは魔法を隠蔽していることを思い出して少し納得。
夕映も魔法世界で三郎のことは見たぐらいで話したことはなかったので、普通の人で亜子さんの彼氏ぐらいしか情報がない。
三郎もさっき初風に助けてもらって魔法使いだと知らされたので、今もまだ頭の整理ができておらず、未だに混乱した状態だった。
「そうだね。あとで色々話そうかサブ」
「頼むよ兄貴」
混乱してる三郎へと初風が近寄り、これが終わったら全部話すと約束。
と言うか、これもう家族会議になるだろ、と思っており地味に覚悟を決めていたりする。
三郎も説明がないとわからんと言う様子であり、絶対だぞと言う態度で返事しておく。
「……この状況、妹たちは大丈夫かねぇ」
「ああー……、無事に避難できてればいいけど……」
「気が付けば携帯繋がらなくなってたんだよね。きっと空の上にあったアレのせいだろうけど」
「まあ、姉貴はアレでもしっかりしてるし、四華も逞しいし大丈夫だろ」
「そうだといいんだけどねぇ」
と、そこで初風はここにいない自分の家族、特に自分たちと同じく学生寮暮らししている妹二人のことを心配した。
初風はその名の通り川丘家初の子供であり長男、その次の子が長女で三郎の姉の二葉だ。
で、三郎には二卵性双生児の双子の妹がおり、それが四華と言う名前だった。
三郎もふと思い出して、避難できてれば大丈夫なはずだと言う。
当然初風は携帯で連絡をしたのだが前まではあった電波がなくなってしまっており、十中八九上空のキューブ状の物体が悪さをしていると指摘。
とは言え、それでもがさつな長女はアレでも危機管理はできる方だし、次女もタフなところもあるしで、そこを思い出して三郎は心配しすぎることもないと語れば、初風も無事ならいいなあ、とこぼしたのだった。
「……」
「どないしたん? 浮かない顔して……」
「えっ? 何でもない!」
「ならええけど……?」
そんな時、服を着直し終えて戻ってきた裕奈が、なんだか浮かない顔をして静かにしているではないか。
普段元気で騒がしい裕奈が静かなことに気がついた亜子は、心配しながら声をかけるが、裕奈は亜子の声に気が付いて、ニッと笑って気にしないでと言うだけだった。
それでも今の裕奈の表情が真剣なもので、何か悩みがあるのかな、と亜子は思ったりしていた。
「私、もっと強くならなきゃ……!」
裕奈が今落ち込んだように見えたのは、自分の実力に悩んでいたからだ。
自分の今の強さでは友達を助けきれなかった事実が結構ショックだった裕奈は、もっと頑張って強くなろうと決心したのだ。
「あっ。アキラ! 上着貸してくれてありがとー! 一応血がついてないか確認したけど、大丈夫だと思う!」
「少しぐらい大丈夫だよ。それに傷が治って本当によかった」
「本当に助かったよ!」
そのあと裕奈はアキラの方へ行き、借りていた上着を礼を言いながら返した。
アキラは別に汚れていても平気と言い、裕奈の傷が完全に治ったことを喜び笑顔を見せる。
裕奈もそれにつられて元気を取り戻し、ニッと笑って見せていた。
「ゆーな! 大丈夫だったのか!?」
「傷は治してもらったと聞きましたけど……」
そこへカギと夕映が裕奈のもとへ走ってきて、無事を確認する。
「二人とも来てくれたんだ! ありがとー! でももう大丈夫だよ!」
「いやー、マジでよかったー……! けっこー深刻そうだったから心配しちまったぜ」
「無事ならよかったです」
裕奈も、二人が自分を心配してここへ来たことを理解し、元気よく礼を言って返答すれば、カギも夕映も心の底からほっとしたと言う様子を見せたのだった。
「ゆーな! 大丈夫!?」
「トリス!」
と、そこへトリスが裕奈を心配してすっ飛んで入ってくれば、裕奈もトリスを歓迎するかのようにそっちへ走って出迎えた。
「大丈夫なの!? そんなに走ってきて!」
「もう大丈夫! 川丘君のお兄さんに治してもらったからね!」
「兄……?」
傷だらけなはずの裕奈が走ってきたのを見てトリスは驚くが、裕奈はそれについてハキハキと説明する。
すると、やはりトリスも兄と言う言葉が引っ掛かり、ふと裕奈の後ろの方へと視線を移した。
「はい、僕です。初風と言います」
「ふーん? あなたがゆーなを?」
「魔法で治療しました。綺麗に治ったので大丈夫だと思いますよ」
「そう……、ありがとう。ゆーなを治してくれて」
「いえいえ、当然のことですから」
そこへ初風が何度目かわからない挨拶をすると、トリスは訝しんだ目で初風を見た。
が、初風は気にしないで微笑みながら、何をしたのかを説明すると、トリスは警戒を解いてそのことへお礼を述べる。
あの時見た裕奈の傷は相当深く、結構危ない状態だったと思っていたからだ。
が、初風とて治癒できる手段があるのならば、怪我した女の子をほっとく訳がないと言う様子で笑うだけだ。
「よう、助かったぜ。お前のおかげでアキラたちをこっちに引き込めた」
「別に私は水撒いてきただけだから、気にしなくていいのよ」
「いや、水を撒いてくれなきゃアキラたちを逃がせなかったんだ。グラッツェ」
「はぁ……、まあいいけど」
するとトリスの方へと刃牙もやってきて、ペットボトルを持って行って水を撒いてくれたことに感謝した。
水がないとクラッシュが移動できないので、水を撒いてくれたからアキラたちを救出できたからだ。
が、トリスとて水を撒くだけの作業をしただけなので、特に何かしたと言う気にはなってない。
なので別に礼はいらないと言うが、刃牙は本当に助かったと頭を下げて感謝を伝えた。
それでもトリスは別に、という態度のままそこまで言うなら、とそのお礼を受け取った。
その二人のやり取りをアキラは、刃牙とトリスは仲が良いのだろうか? とふと思った様子で眺めていた。
「あっ! あの変な人はどうしたの!?」
「安心しなさい? あなたの分までボコボコにぶちのめしてあげたわ」
「ほんとに!? すごいなぁ……」
そこで裕奈は自分たちを襲ってきた魔法使いについてトリスに聞くと、トリスはギッタンギッタンにして倒してきたから安心してね、と笑って答えてくれた。
トリスの答えを聞いた裕奈は、あの黒い騎士を大量に呼び出して戦う魔法使いを倒したと聞いて、かなり驚いて声を上げた。
しかもトリスは怪我一つしていない感じで疲れている様子もない。
裕奈は総督府でトリスの戦いぶりを少しだけ見たことがあったので、この時点でかなりの実力者なのはわかっていたが、そこまで強かったのかと思った裕奈はトリスが本当に強いことを再確認し、やはり己の弱さを少し悔しく思った。
「私ってそんなにすごいのかしら……?」
「すごいよー! 全然すごいって!!」
「そ……、そう?」
ただ、トリスはすごいと言われてもまったく実感がなかった。
何故ならトリスは竜の騎士などの化け物と殴り合って、簡単に負けたりしていたからだ。
あんな化け物と戦った後だと、自分の実力に自信がなくなるのも仕方のないことだった。
されど、裕奈としてはめちゃくちゃすごいことであり、嬉しそうにトリスを褒めまくる。
が、トリスはそう言われてもやはり実感が湧かないので、ちょっと困惑気味に返事を返すだけだった。
「まあ、ここは魔法使いの人もいるみたいで安全そうだし、私はまた外で敵を殲滅してくるわね」
「じゃあ私も!」
そして、トリスは周囲を見てここなら安全だと思い、自分は再び戦場へと駆り出そうとするが、そこへ裕奈が付いて行くと声を上げた。
「ダメよ! あなたはさっきまで酷い怪我だったワケだし、友達のことも守ってあげないと。ね?」
「……そうだね。わかった! ここに残ってみんなを守るよ!」
しかし、トリスはさっきまで怪我していた裕奈を戦場に出す気はなく、ここに残ってアキラたちを守った方がいいと言えば、裕奈もちょっと考えた後納得して元気な返事を返す。
「みんなも大丈夫だったかしら?」
「うん! 大丈夫! ありがとう!」
「助けに来てくれてありがとう」
「いいのよ。別に」
そして、トリスは裕奈の後ろにいるさっき見た二人にも声をかければ、まき絵もアキラも無事だと言って礼を言ってきた。
とは言え、トリスとて友人を助けるのは当然だと思っており、二人の言葉に微笑むだけだ。
「ゆーなたちを助けてくれてありがとな」
「あら? あなたも巻き込まれたの?」
「ウチも知らない人に襲われてもーて……」
「災難だったわね……」
そこへ亜子もトリスへとお礼を言うと、トリスはここに亜子がいることに少し驚き、つまり外にいてここに避難してきたのだと予測してそう言葉にした。
トリスの言葉に亜子も簡潔に説明すれば、裕奈を襲ったアレ以外にもまだ敵がいるのか、と思ってげんなりしつつ、亜子の無事を喜びながら労った。
「でもまあ、ここなら安心だと思うわ。じゃ、またね」
「気を付けてなー!」
「無理はしないで!」
「ありがとうー!」
「頑張ってー!」
それを見たトリスはもう大丈夫だろうと思い、別れの言葉を言った後に建物の外へと出て行った。
亜子もアキラも裕奈もまき絵も、出ていくトリスの背中を眺めながら、元気よく声をかけ、トリスの身の安全を祈る。
また、裕奈はトリスがあの魔法使いに勝ったと言うのを思い出し、自分ももっと強くなりたいな、と強く願ったのだった。
「俺も外で戦ってくるぜ。ゆえはここで待ってな!」
「はい。カギ先生も気を付けて」
「あたぼーよ!」
トリスが出て行ったのを見ていたカギも、自分もまた戦いに出るぜと杖を握って外へと歩き出す。
そこでカギは夕映は残れとはっきり告げれば、夕映もカギと行っても足手まといになると考え、素直に従う。
夕映の励ましを聞いたカギは右手を挙げて数回振った後、そのまま杖に足を乗せて外へと飛んで行ったのだった。
「じゃあ、僕はここに残って警戒でもしようかな? サブもここで待機だろうしね」
「普段フラフラして家にいない兄貴がいつも以上に頼もしく見える……」
ならば、と初風はここに残って防衛することにした。
一応外には魔法先生らが防衛してくれているようだが、弟やその彼女と友人がいるので、守護った方がよさそうだと思ったのだ。
それに得意の大魔法ボンボン撃つと街がヤバイので、拠点防衛した方が被害が小さく済みそうだという考えもあった。
そう堂々とする初風を見た三郎は、いやー、昔からよく出かけてて姿を見せなかった兄貴がなんかえらく頼りになるな、と思いそれをふと口から出す。
「ねえ、それ普段はちゃらんぽらんで役に立ってないって言いたいのかい?」
「えっ、いやまぁ……はは……」
「いやまあ……、いつも旅に出て家にいないのも事実だからしょうがないけどね……」
だが、それはつまり普段から家におらず寮にもおらず、学校も単位を落とさない程度にサボり気味の不良だと言われてるのと同じでは? と初風は思って言葉を返す。
初風に何やら嫌味を返されたみたいな言い方をされた三郎だったが、笑ってごまかすしかなかった。
何せいつもの兄は本当にそんな感じであり、事実でしかないからだ。
初風もそんなことはわかっているので、ため息を吐いて自分の行いを少し反省。
従者探しの旅も中断して、少しは学業に専念した方がいいのかなあ、と頭を悩ませたのだった。