麻帆良の空の上で、超は月の裏の幹部であるジーストと衝突していた。
「おのれぇ!」
「当たらないヨ!」
ジーストは影の槍を束ねて超へと放つが、超は時間操作によってそれらを全て回避する。
「ぐううぅぅ! 腹立たしい! 腹立たしい!!」
「冷静さを欠くといいことないネ!」
「舐めるなぁッ!!」
ジーストは四方八方から影の槍を超を囲うようにして放つが、それすらも時間操作で回避されてしまう。
まったくもって自分の攻撃が命中しないジーストは、苛立ちを募らせ続ける。
が、逆に超は冷静そのものであり、微笑みながら戦闘する余裕がある。
時間跳躍を使った死角からの魔力砲撃で、じわじわとジーストを追い詰めていく。
「ぐうあぁっ!? こんなバカな!? 何故押されている!? 月の裏のNo2であるこの私がっ!?」
時間跳躍、砲撃、時間跳躍、追尾魔力弾、交互に飛んでくる超の攻撃に、ダメージを蓄積していくジースト。
完全にジリ貧状態であり、しかも自分の攻撃は全く持って命中させることができない。完全にジーストは負けており、すでに追い詰められていた。
この状況にジーストのプライドすらもズタズタだ。
月の裏の幹部、伍海・雨の海を賜り月の裏のNo2として君臨したジーストは、超一人によって簡単に負けかけているのだから。
まさかこんな小娘一人に、こうも簡単にやられそうになっているなど、許しがたい現実だった。
「お前がNo2と言うのであれば、その程度の組織だったと言うことネ」
「ふざけるなぁぁぁッ!!!」
だが、それが現実だ。現実を受け入れざるを得ないほどに、超の時間操作での攻防がチート級に強いのだ。
そして、超はと言えば、ジーストがNo2だと聞いて、じゃあレベルが低いんだナ、と言ってやれば、ジーストは逆上して超へと襲い掛かる。
「がはあぁぁあぁ!?」
されど、超には
襲い掛かってきた瞬間に自分だけの時間を戻してジーストの真横へ転移すれば、そのまま科学力で強化したパンチを突き出す。
そのパンチは、まるで引き寄せられたかのようにジーストの顔面に突き刺さり、ジーストは大きな悲鳴を上げて吹き飛ばされ、麻帆良の地面にめり込み沈む。
「終わりネ!」
「馬鹿なアアァァ……ッ!!」
そこへもう一発、超はとどめとばかりにデバイスの杖で魔力砲撃を叩き込めば、ジーストはそれに直撃し、叫び声をあげた後に動かなくなったのだった。
「…………あとは」
超はジーストが気絶したのを確認すると、次に向かう方向、ジェネシックガオガイガーが戦っている姿を見た。
未だにジェネシックガオガイガーは月の裏の魔法使いに張り付かれ、身動きが取れない状態だ。
まずは月の裏の魔法使いを蹴散らして、ジェネシックガオガイガーを自由にするため、そちらへと飛んでいくのだった。
…… …… ……
「
「バーサーカーさん!?」
そこでバーサーカーは刹那へと、上空のキューブ状の物体の方へ行くように大声で指示を出すが、刹那は躊躇った様子でバーサーカーの方を向く。
「アレを何とかしねぇ限り敵が増え続けるっつーんなら、それが一番手っ取り早いッ!」
「……わかりまいた。ここをお願いします」
「大船に乗ったつもりで任せておきなッ!」
バーサーカーも空のキューブ状の物体を何とかするのであれば、自分以上に翼で空が飛べる刹那が適任だと考えて刹那にそれを任せようと話す。
刹那もバーサーカーの意図を理解し、ふっと小さく笑ってこの場を任せせることにした。
そして、バーサーカーが親指を立ててニッと笑ったのを見た刹那は、そのまま白い翼を伸ばして上空へと飛び去った。
「邪魔をするなーッ!!」
刹那は上空へと飛翔しながら迫りくる召喚魔の群れを切り捨てながら、キューブ状の物体を目指すのだった。
…… …… ……
数多も同じく麻帆良の地上で召喚魔を殴る蹴るして倒しまくっていた。
「ウオオオラアアァァッ!!」
数多は炎を纏った拳と脚で召喚魔を打ち倒し、炎で燃えて塵すら残さない。
かれこれ戦い出してから、ずっとこの状態を続けており、もはや倒した召喚魔の数など数えきれないほどだった。
「倒しても倒してもキリがねぇなあこりゃ……」
だと言うのに、全く召喚魔の数が減らないことに、少し疲れを見せる数多。
「やっぱり空のアレか? あれを破壊しなきゃ止まらねえってか?」
空を見上げれば巨大なキューブ状の物体は未だに存在し、その周囲の魔法陣からは召喚魔がまだまだ出現し続けている。
あれがなくならなければ召喚魔が減らないのだろうと数多は考え、さて自分はどうするべきかと少し考える。
「だが、数人が上に行ってる見てえだし、俺は下で防衛戦をするのがいいみてえだな!」
ただ、上空で戦うには数多としては少し不利だ。
それに虚空瞬動で飛んでいくこともできるが、自分以外がキューブ状の物体を何とかしようと空へ向かっていくのが見えたので、上はそっちに負かせようと考えた。
「いくらでもかかってこいッ! 全部まとめて燃やし尽くしてやるぜッ!!」
なら、今自分ができること、それは地上の召喚魔を焼き尽くして滅ぼし、麻帆良の街の安全を守護ることだ。
そう考えた数多は再び気合を入れなおし、心を燃やして奮闘へと走るのだった。
…… …… ……
覇王はと言うと、未だにキルとのすさまじい攻防を繰り広げていた。
「フフフフフッ!」
「ふんっ」
転移からの不意打ちを行うキルであったが、覇王はそれをあっけなく防ぎむしろ反撃してくる始末。
はっきり言ってキルは覇王のこの反応速度に、ただただ恐れ慄くだけだ。流石は覇王、と言ったところだろう。
「これでもかって程に恐ろしい。数本のファントムレイザーも命中したのは一度きり、本当に恐ろしい」
「だったらそのままやられてしまえよ」
「そうもいかないんだよ、残念ながらねぇ」
さらに言えば不可視の刃ファントムレイザーを空間に配置しているが、最初に刺さった一本以外、覇王に命中することはなかった。
それがまた恐ろしい。見えていないはずの刃が通じない時点で、覇王には見えているのではないかと錯覚させられてしまうのだから。
が、覇王には見えていない。見えていないが、心眼(偽)がある。
これによって虫の知らせ的な予感で危機察知することが可能であり、このスキルによって見えない刃に触れなかったのだ。
怖い怖いとさっきからうるさいキルへと、覇王はめんどくさそうに敗北しろと言ってやる。
そうすれば少なくともこれ以上の恐怖を味わうことがなどなくなるのだから。
しかし、キルとて敗北を認めるわけにはいかない。
覇王を倒して月の裏に献上しなければならないからだ。覇王を倒すことこそが自らに課せられた使命だからだ。
「しかも、影の槍も命中しない。本当に嫌になる」
「嫌になったのならさっさと負けてくれないか?」
「残念ながら、そうはいかないのさ」
また、キルは術具融合で”影の死神”を纏っている。これによって影に溶け込み、影から無数の影の槍を出現させることが可能だ。
だと言うのに、覇王にはそれすら通用しない。
覇王は影の槍を最小の行動で回避したり、長刀に付与した術具融合”神殺し”で反撃して斬り裂いてくる。
この卓越した回避と剣術によって影の槍は覇王に届くことはなく、むしろこれほどやっているのにも関わらず、キルは覇王に後れを取っているのが現状だ。
巫力もなく
もはやキルにはほぼ勝ち目がない現状なのだが、キルはそれでも諦めるわけにはいかなかった。
「フッ!」
「そこかッ!」
「くっ!?」
そこで再び空間転移で奇襲をかけるキルであったが、覇王はそれを首を動かしただけで簡単にかわし、神殺しを斜め上に振り上げてキルの体に傷を作って見せたのだ。
「転移での攻撃すらあっさり防がれ反撃される。君は本当に人間なのかい?」
「多分ね」
ただ雑に転移して奇襲している訳ではなく、行動を見ながら絶好のタイミングで行っているはずなのに、覇王にはそれすら通じない。
キルは覇王を人として認めたくなくなってきたが、覇王とて地獄で何百年と修行した猛者だ。
この程度で破られるほどの修行など、覇王はしてきてはいない。
「なあ、お前、その転移は一度使うとすぐには使えないだろ?」
「…………」
「それに一度の転移に選べる対象は一つだけ。人形を転移してる時は人形にしか作用させることしかできない。そうだろ?」
そこで覇王はキルの特典の一つ、空間転移の弱点を静かに語りだした。
この世界に二度転生した覇王は”相手の特典を見る特典”を貰っているが、キルは”転生者”ではなく”特典のおまけ”故にその効力を発揮することができていない。
それでもこうも何度も見せられれば、その一つや二つぐらい理解できると言うものだ。
そして、その弱点こそが、転移の直後はすぐに転移が使えないと言う事だった。
何度もノータイムで転移できるのであれば、自分の攻撃を食らう前に転移して避けるし、転移しまくって牽制やら攪乱やらも可能なはずだからだ。
さらに、もう一つの弱点も覇王は見抜いていた。
それは空間転移が可能な対象が必ず一つに限られていると言うことだ。
目の前のキルの人形であれば、それだけが転移の対象となり、他を同時に転移することが不可能と言うことだ。
一応持っている武器や纏った術具融合などは対象の一部として扱われているようで、同時に転移できているが、それ以外は転移できないのである。
「フッフッフッ、バレちゃあしょうがない。その通りだよ」
「連続で転移ができるなら、こんな隙を見て攻撃してくるはずがないだろうからね」
「中々の観察眼だ。素晴らしい」
キルは覇王のご高説を聞き、肩をすくめてそれを認めた。
覇王も何故気が付いたか理由を語れば、キルは嫌になるよと言う様子で覇王を褒めながら鋭く睨む。
「だけど、それだけだッ!」
「そうかな?」
「────ッ!?」
されど、それがわかったからと言ってどうなる! キルは強い気迫をもって再び覇王の真横へと転移して、影の槍と共に大鎌を振り降ろす。
だが、覇王はニヤリと笑って神殺しを斜めに振り下ろせば、大鎌をはじき返し影の槍を切り裂いて、逆にキルへとダメージを与えて見せたのだ。
「ぐっ…………」
「どうした? この僕の命を奪うんだろ? 早くやってみなよ」
「……調子に乗らない方がいい。この程度の攻撃では、このボクは止められない」
キルは体にX字に斬られた痕を付けられ、よろりと交代して覇王を睨む。
転移からの影の槍と大鎌の同時攻撃は確実に入るはずだった。なのに覇王はたった一振りの攻撃のみでそれらを防御し、むしろこちらを攻撃してダメージを与えてきた。
恐ろしい。恐ろしすぎる。
これでなお制限を与えた状態での強さ。人間ではなく化け物ではないか、そうキルは思い始めていた。
覇王はと言うと、涼し気な顔で余裕の態度を見せながらキルへと、先ほどはなんて言ったかな? 確か命を奪うとか言ってたな? じゃあ見せてくれよそれを、と、覇王は皮肉を飛ばすだけだ。
キルもここまでコケにされたならば、もはや許さないと言う態度を見せるが────。
「じゃあ、これならどうだい? 秘剣────”燕返し”ッ!」
「っ!?」
覇王はさらに追撃として燕返しを放てば、キルへと完全に重なった三つの斬撃が襲い掛かった。
キルは回避不能な攻撃の直撃を受け、両腕と胴体を切り裂かれて後方へと吹っ飛んだのである。
「…………フフフッ、恐ろしい……。一撃でこれか……」
「流石に生物ではないから死ぬ訳ではないか」
本来であれば、今の一撃でもはや勝負はついたようなものだった。
されどキルは人形であり生命体ではない。斬られた部分もくっ付けさえすれば直すことが可能な能力もある。
故に、キルは影の魔法で両腕を巻き付けて持ち上げながら覇王を見る。
本当に恐ろしい。この体が人形でなかったのなら、この時点で勝敗は決していただろうからだ。
両腕を失い胴体も大きく切り開かれたキルが未だに元気に動くのを覇王は見て、流石は生命体ではないだけはあると感心した様子を見せる。
やはり本体を倒さなければならないか、そう考えていた覇王の前で、キルが最後の手札を見せようと動き出した。
「もはや今の一撃でボロボロだ……。ああ、ならば、君を倒す最後の秘策を使おうじゃないか」
「やってみなよ」
魔界のマグマと同じ成分の血液を流しながら、覇王へと最後の宣告を告げるキル。
そんなキルをつまらなそうな目で見ながら、つまり次の手は”あの技で来る”ことを察した覇王は、ゆっくりと神殺しを構える。
「ああっ! やってあげよう! フッフッフッ、ハッハッハッハッ!!」
「……やはりその手で来るってことか」
キルは影の魔法で抱えていた両腕を空に投げれば、その場で両腕が回転し始め、炎の弾へと変わっていく。
魔界のマグマと同じ成分の血液を燃やし、膨大な炎を生み出す最終手段だ。もはや、もはややぶれかぶれの態度のキルは、ただただ大きな声で笑うだけ。
覇王もそれが来るのは理解していたので驚くことはなかったが、両腕二つを犠牲にすることに少しだけ驚いた。
”ダイの大冒険”にてキルバーンが使用したこの技は、片腕だけで使用したからだ。片腕だけでもその威力は非常に高いからだ。
「”原作”じゃあ腕一本分だったけど、全身全てで使えばどうなるかな? もう頭の中は空っぽだし、気にすることなどもはや何もないッ!!」
しかし、キルは犠牲にするのは両腕だけではないと、両腕を自分へとぶつけ、キルの人形自身も燃え始めた。
そう、キルは人形すらも全て燃やし尽くし、目の前の覇王を滅ぼそうと自爆覚悟で攻撃する気だった。
それに本来頭の中に隠されていた”黒の
「さぁ、共に燃え尽きようか!! ”バーニングクリメイション”ッ!!」
「この覇王を甘く見るなよ」
全身を燃やし自らを火の弾と化し、炎の渦を作り出すキルは、その技の名を解き放つ。
バーニングクリメイション。ダイの大冒険にてキルバーンが勇者アバンに放った、奥の手の大技だ。
もはや麻帆良の一部を焼き尽くすほどの爆炎が天井を焦がすかのように渦巻いて燃え上がる。
が、覇王はそれでも臆することなく、冷静に炎を睨んでいた。何せ炎なら見慣れている。
炎の源の大精霊、
「契約に従い我に従え氷の女王。来たれ、とこしえのやみ、”えいえんのひょうが”」
「広範囲凍結魔法だとッ!? アアアァァッ!?」
そこで覇王は周囲に巨大な結界を構築して街の防御を固めれば、発動キーをすでに唱え終えて”この世界の魔法”の詠唱を始めた。
その魔法はエヴァンジェリンが
覇王の詠唱と共に周囲が凍結して行き、火だるまのキルへと襲い掛かり炎もろとも氷の中へと閉じ込めたのである。
魔界のマグマを内包する人形ではあるものの、完全凍結の大魔法による凍結には抗えなかったようだった。
「全てのものを妙なる氷牢に閉じよ、”こおるせかい”」
「────」
そして、覇王はその詠唱を全て唱え終えると、巨大な氷へと閉じ込められたキルの人形の周囲の空間ごと、その氷塊の内部に封じ込めてしまう。
キルの人形はこの魔法によって、内部に存在する魔界のマグマと同じ成分の血液ごと氷漬けとなり、その動きを停止させられてしまったのだ。
「人形は凍結した。魔界のマグマと同じ成分の血液とやらで氷は溶けるだろうけれど、その前に本体を見つけるだけだ」
凍結して動かなくなったキルの人形を見た覇王は、次にこれを操っていた一つ目ピエロの本体を探すことにしたのだった。
…… …… ……
カギは
巨大なキューブ状の物体がもうすぐ目の前と言うところまで来ており、間近で見るとキューブ状の物体が地上で見る以上に巨大であり、麻帆良の建物の大きさよりも巨大な物体であることが伺え知れた。
「うおおおおおらああぁぁぁぁッ!!」
カギは邪魔な召喚魔を
「一気に登ってきたが……、召喚魔は少しずつ減ってきているみてぇだな」
また、周囲と下を見渡せば、召喚魔の数が少しだが減っているのにカギは気が付いた。
召喚魔の召喚は未だに続いてはいるが、魔法先生、魔法生徒、そして転生者などの力で、だいぶ数を減らすことに成功していたのである。
「っ!」
が、そこへ月の裏の魔法使いどもがカギへと襲い掛かってきた。
カギは咄嗟に魔法を詠唱し、雷の暴風で魔法使いどもを吹き飛ばす。
「邪魔だぜぇクソ雑魚どもッ! オリャアッ!!!」
さらに襲い掛かってくる魔法使いどもには、燃える天空をぶち込んで吹き飛ばし、月の裏の魔法使いの連中を再起不能へと追いやっていく。
「あの変な四角い奴を叩き壊しゃ、大体が解決するぜ! 行くぞオラァッ!!」
そして、ついにカギはキューブ状の物体の目と鼻の先にまでやってきた。
これさえなくなればと思ったカギは、
「なっ!? この魔法はッ!?」
突如として凍てつく漆黒の竜巻がカギを襲ったのである。
また、カギはその魔法をもっとも得意としている人物を知っており、まさか、という様子で周囲を見れば、そこには金髪を靡かせた少女が一人、宙に浮かんで片手をこちらに向けていたのである。
「
「……ぐっ、私を……、再起不能にしろ…………」
「はあぁ!? 何言ってんだ!? 修行なんてしてる場合じゃねぇだろ!?」
それこそカギの師匠となったエヴァンジェリンだった。
されど、何やら漆黒の闇を纏っており、色も真っ白い肌ではなく紫がかった状態だった。
カギは今の攻撃がエヴァンジェリンのものだと察して叫ぶが、エヴァンジェリンは自分を攻撃しろと苦しそうな表情で言うだけ。
説明が短すぎて状況が飲み込めないカギは、何が一体どうなってんだと混乱した様子を見せた。
「違う……、グググ……ッ、とりあえず……、動けない程度に痛めつけろッ!」
「うおおっ!? 何が何だかわから…………、────いや……あれは!?」
エヴァンジェリンはかなり辛そうな、苦痛を感じているかのような表情をしており、左手で額を抑えながらカギへと自分をズタボロのボロ雑巾にしろと命じる。
されど、その言葉とは裏腹にカギへと向けた右手からは、再び闇の吹雪を放ってカギへと攻撃してきたのだ。
カギはエヴァンジェリンの魔法を回避しながら理解が追い付かないと言う顔をするが、よくエヴァンジェリンの顔を見ると、妙なものがあることに気が付いた。
「みっ、ミストバーン!? つまり乗っ取られてるってことかよ!? 嘘だろ冗談だって言ってくれーっ!?」
「冗談ジャネーンダッ!!」
「チャチャゼロ!?」
それはエヴァンジェリンの額に本来ならば存在しない、漆黒の角のような物体がカギの目に入ってきたのだ。
カギはそれの正体を知っていた。
ダイの大冒険で凍れる時の秘法で本来なら動かぬバーンの肉体に憑りつき動かしていた暗黒闘気の生命体。
つまり、今のエヴァンジェリンはミストバーンに肉体を乗っ取られており、敵となってしまったと言うことをカギは理解し焦燥。
そこへチャチャゼロがカギの前へと現れて、冗談や夢ではないと現実へと引き戻す。
「トリアエズ御主人ヲ攻撃シテ動キヲ止メロッ!!」
「チクショウーッ!? マジでやっていいんだなぁ!? どうなっても知らねぇぞぉッ!! ”
「ぐううう…………」
チャチャゼロもこの状況がとてつもなくヤバイことを理解し、だからこそ主人であるエヴァンジェリンを攻撃しろとカギへと指示する。
かなり躊躇した様子を見せるカギだったが、こうなってしまってはどうしようもないこともわかっているので、困惑しながらも
そのまま数本の宝具を射出しエヴァンジェリンへと攻撃し、エヴァンジェリンもそれにカスって軽くダメージを受けた様子を見せた。
されど、その程度のダメージではエヴァンジェリンは倒せない。
簡単に傷は再生し、再びカギへと攻撃を仕掛けてきたのである。
「ちっ、チクショー! 別にぶっ殺す訳じゃねぇのに、どうしても手心が加わっちまうッ!!」
「手加減ナンテシテモ御主人ハ倒セネーゾ!!」
「チャチャゼロの……言う通り…………だ……、いいから…………、やれ……ッ!」
「それができねーからかきたくもねぇ汗をかいてるんだぜぇ!!」
はっきり言ってカギはエヴァンジェリンを本気で攻撃することに戸惑っている。
最初、一番初めに出会った時は本気で攻撃して従わせようとしたこともあったが、今はそんな気持ちなど一欠けらも存在しない。
あんな出会いだったと言うのに寛大な態度で修行を付けてくれたし、かなり世話になったのがエヴァンジェリンだ。
カギはエヴァンジェリンに深く感謝している。おかげで銀髪は倒せたし、特典も鍛えられて滅茶苦茶強くなった。魔法世界の戦いを乗り切れたのも、そのおかげだと思っている。
故に、エヴァンジェリンに絆された今のカギでは、修行で戦うのであればまだしも、本気の殺し合いなどしたくないのだ。
それが例え殺す気のない攻撃であったとしても、本気で急所を狙いに行くことなどできないと、辛そうに言葉にしていた。
しかし、そんな生ぬるい攻撃ではエヴァンジェリンを止めることなど無理だと、チャチャゼロもはっきり進言。
生み出されてこのかた、エヴァンジェリンをずっと見てきたチャチャゼロだからこそ、チャチな攻撃じゃ倒せないと言うのだ。
当然操られているエヴァンジェリンも、必死に操られまいと抗いながらカギへと命じる。
それでもカギは額に汗をかき、そんなのできっこないと叫ぶのであった。
”ぬう……! 意識を完全に乗っ取れぬ……!”
”そう簡単に好き勝手されてたまるか……! 完全に支配などさせん!”
”ええぇぇい! 忌々しい!”
また、エヴァンジェリンも自分の内でダークフォグと争い乗っ取られまいと抗っていた。肉体こそだいぶ支配されてしまったが精神の方はまだ無事だ。
魂を砕き完全に乗っ取るには至っていないダークフォグは、必死にエヴァンジェリンの精神の中心へと進むが、膨大な魔力に阻まれて中々進めずにいたのだ。
ダークフォグは”ミスト”よりは長く生きておらず、乗っ取る力が未熟だった。
おかげでエヴァンジェリンの精神や魂は無事であり、ダークフォグの支配に抵抗してそれらを守護しているのが現状だ。
それを補佐するために二つ目の特典に”精神や魂を破壊せずとも肉体を支配できる”というのを選んだ。
よって、この特典のおかげでエヴァンジェリンの肉体自体は、ある程度操ることが可能なのである。
ただ、それでも抵抗されるのは、単純に強者相手への乗っ取り経験がなかったのが原因だ。
特典は鍛えなければ最大限の力を発揮できないので、未熟さが目立つのだ。
なので魂や精神さえギリギリ乗っ取られなければ何とかカギに手心が加えられるはずだと、エヴァンジェリンはずっと苦痛に苛まれながらもダークフォグの支配に抵抗し続けていたのだ。
「チャチャゼロ! とりあえず俺の頭の上にでも乗っとけッ!」
「御主人ヲ頼ム……」
「わーってるよッ!!」
カギはとりあえずチャチャゼロに指示を出して、チャチャゼロの安全の確保を行う。
静かにカギの頭の上にたれチャチャゼロ化して乗っかれば、普段は出さないような神妙な声でエヴァンジェリンのことをカギへと託してきた。
カギはいつものような軽い返事をしたものの、表情は真剣そのものであり、本当にエヴァンジェリンを倒さねばならぬと覚悟を決め始めたのである。
「っても、マジでヤベーな……。アレに操られてるってことは、100%以上の力を無理やり使えるってコトでもある訳で……。
ただ、カギの懸念はそれだけではない。
ミストバーンが乗っ取っていると言うことは、つまり支配した人物の肉体の損傷や苦痛などを無視して戦うことが可能なのだ。
と言うことは、100%以上の力で戦闘が可能と言うことであり、そんな状態のエヴァンジェリンとガチで戦ったとして、果たして自分一人で勝てるかどうか、ということだった。
「遊んで……いる…………、場合ではないッ!! ”氷槍弾雨”ッ!!」
「ぎげげーっ!?」
なんとか必死にダークフォグの支配に抗っているエヴァンジェリンだったが、再び動き出して大量の氷の槍をカギへと向けて放ってきた。
カギは慌てて杖へと乗ってヴィマーナから飛び立ち回避に専念。だが、終わることのない氷の槍の雨は容赦なくカギに牙をむき、このままではマズイとカギが思ったが。
「”無極而太極斬”ッ!!」
「うおおっ!? アスナか! 助かったぜッ!!」
そこへ魔力無効化現象を飛ばす技が飛んできて、カギを襲っていた氷の槍が全て溶けるように消滅。
ふとカギが舌の方を見れば、ハマノツルギを担いだアスナが必死に跳躍でこちらに飛んできているのが見えた。
「一体何が起こってるのよ!?」
「
「なんですって!?」
そしてアスナはヴィマーナへと脚をつけてカギに状況を聞けば、エヴァンジェリンが額にある黒い角みたいなのに支配されてると言ってきたではないか。
あのエヴァンジェリンが乗っ取られてしまったのを聞いて、アスナはたまらずでかい声を出す。
アスナとてエヴァンジェリンの強さはよく知っている。
普段からエヴァちゃんエヴァちゃんと呼んでいるアスナだが、実力は当然知ってしており、この状況がとてつもなく危険だと言うことを完全に理解した。
「私が動け……なくなるま…………で痛めつけろ……! グッ! 早……くしろッ!!」
「しょうがないわねぇ! もう!」
アスナが現れたことで、エヴァンジェリンはアスナにも自分を攻撃しろと告げれば、アスナはハマノツルギを握りなおして力を籠め、やるしかないと覚悟を決める。
「私がエヴァちゃんの魔法を防ぐから、カギは攻撃してッ!!」
「わかったよ! ああ! クソーッ!! こんな形で
そこでアスナはエヴァンジェリンの魔法を自分が受けて無効化し、カギが魔法と
カギもそれに賛同するが、カギとしてはこの状況こそ悪夢そのものであり、戦うにしてもこんなシチュエーションじゃなければと嘆いていた。
「チックショォ────ッ!! ”
そして、アスナがハマノツルギを握り前へ出たのを見たカギは、
「”闇の吹雪”ッ!!」
「ハアアァァァッ!!」
それを見たエヴァンジェリンは闇の吹雪をカギへと放つが、カギの射線へとアスナが入ってハマノツルギを振り払って闇の吹雪を消し去る。
「ぐうぅぅ……、リク・ラク・ラ・ラック・ライラック、契約に従い我に従え氷の女王……!」
「この呪文のパターンってまさか!? ヤバイぜこりゃッ!!」
「これってエヴァちゃんの得意な……!? あっ!? それはマズイ!!」
この程度の魔法ではあの二人を相手にするのは厳しいと判断したダークフォグは、エヴァンジェリンの持つ魔法で非常に強力なものを選択して使うことにした。
カギはエヴァンジェリンの詠唱を聞いて最悪の展開を予想し、再び
アスナもこの戦法は知っており、このままにしてはマズイと判断し、エヴァンジェリンへと飛び掛かった。
「咲き乱れ舞い散れ永遠の白き薔薇園! ”千年氷華”……”解放・固定”、”掌握”!ッ!!」
「
「させないッ!!」
だが、エヴァンジェリンは射出された宝具を回避しながら詠唱を続け、アスナの攻撃も合気道の動きでいなせば、その魔法を完成させて右手に固定し握りつぶした。
「”
「しまったッ!?」
「一手遅かったかクソーッ!!」
これぞエヴァンジェリンが得意としている
周囲を凍結フィールドへと変え、その内部であれば上位呪文以下の氷系呪文ならば無詠唱で撃ち放題となり、しかも技後硬直すらないぶっ壊れ形態だ。
氷の女王形態となったエヴァンジェリンの真下から、まるで氷の薔薇が蔓や茎をのばすかのようにして地上から螺旋状を描くように生えてきて、天辺で薔薇の花が咲いたかのように広域凍結フィールドを形成。
当然地上の建物などは氷漬けとなっており、こうなることがわかっていたからこそ、エヴァンジェリンは闇の魔法を封じて戦っていたのだ。
それが完成してしまったのを見たアスナとカギは、この戦いが先ほど以上の苛烈で厳しいものになったのを確信したのである。
ただ、アスナとしては足場ができたことだけは、地味にありがたいと思っていたりもする。
虚空瞬動での空中移動しながらの戦いは、なんだかんだ言って結構大変だったからだ。
「”闇の吹雪×20”ッ!!」
「ハアアァァァァッ!!」
当然のように闇の吹雪を20本分束ねてブッパしてくる操られたエヴァンジェリン。
されど、アスナもハマノツルギでその全てを叩き斬って防ぎきる。
「”雷神斧槍”ッ!! ウオオラァァッ!!」
「”冥府の氷柱”ッ!」
「のおわっ!?」
カギも
が、そこでエヴァンジェリンは氷の柱を召喚する魔法をカギへとぶち込めば、カギはそれを雷神斧槍で防ぎつつ吹き飛ばされてしまう。
「”無極而太極斬”ッ!!」
カギを助けるためにアスナは魔法無効化を遠距離で放てる技を、氷の柱へぶつけて砕き消失させるが、その隙をついたエヴァンジェリンがアスナへの懐へと迫ってきていた。
「────ッ!?」
「アスナッ!!?」
エヴァンジェリンは右腕の爪を伸ばして手刀のようにし、アスナの胸に目掛けて抜き手を放ってきたのだ。
それに気が付いたアスナだったがこの距離と速度では完全に回避しきれないと考え、ダメージ覚悟の回避行動を取り、それを見ていたカギもたまらずアスナの名前を叫ぶ。
「グッ…………」
「エヴァちゃん!」
しかし、エヴァンジェリンの右手がアスナの体に命中する前に止まり、左手で右手を抑え始めた。
そう、エヴァンジェリンは未だにダークフォグの支配に抵抗しており、何とか二人を傷つけずに自分を無効化してもらおうと頑張っていたのだ。
その姿を見たアスナはエヴァンジェリンの名前を叫ぶ。
こうなってしまっていても、自分たちの味方でいてくれているエヴァンジェリンに感謝したからだ。
「私を……止めろ……。私を……止めろォ…………ッ!!」
「わかってるわ。何とかしてあげるから待ってて!」
「マジで許さねえぞこの寄生虫野郎がよぉッ!!」
されど、状況がよくなったと言う訳ではない。
エヴァンジェリンは未だにダークフォグの支配から抜け出せず、抵抗し続けているだけだ。
動かなくするだけでいい。
自分の身動きが取れなくなれば、このダークフォグとか言う奴は肉体から離れていく可能性があるからだ。
そうでなかったとしても、あのメトゥーナトが帰ってくれさえすればどうにでもなる。
メトゥーナトのアーティファクトならば、自分を傷つけることなくダークフォグだけを攻撃できるからだ。
故に、自分の体をバラバラに引き裂いてでも、自分を止めてほしいと二人に懇願する。
アスナもエヴァンジェリンがこんなことをしたくないのをわかっているので、絶対に止めると宣言すれば、カギもエヴァンジェリンを操るミストバーンらしき存在に怒りの言葉をぶつけるのだった。