麻帆良の地上で召喚魔と戦う女性と男性の姿があった。
転生者のナビスとそのサーヴァントである
「どうやらだいぶ召喚魔も減ってきているようですね」
「一時はどうなるかと思いましたけど、やっとゴールが見えてきたって感じですか」
ナビスは召喚魔の減りが早くなり、数が少なくなってきていることに安堵の表情を見せ、ロビンもこの戦いの終わりが見えてきたのを察して疲れた表情を見せ始めていた。
「っ! 人が落ちてきます!」
「おお? 本当だ!? どうなってんだ?」
だが、そんな時に上空から、何者から落下してきたのだ。
ナビスはそれを見つけて指をさせば、ロビンも発見して驚いた様子を見せた。
「おっと! 危ない危ない」
「助かります、アーチャー」
「まっ、地面に衝突して潰れたトマトになった人間なんざ、見たくありませんからね」
そして、もうすぐ麻帆良の地表へとぶつかりそうになるその人物を、ロビンが咄嗟に移動して拾い上げて見せたのだ。
見知らぬ空からの来訪者を救ったロビンへと、ナビスは礼を述べるが、ロビンは気にした様子も見せずにニヤリと笑うだけだった。
「おんや? だいぶズタボロにやられてんなあ。成人男性のようだが……」
「とりあえず応急処置をします。そこに寝かせてください」
「はいよっと!」
ロビンは抱えた人物を見て、かなり傷だらけではあるものの、成人している男性だと分析。
全身何か鋭利なものに斬られた痕があり、特に右胸から右肩にかけての傷は貫通して抉られたような状態だった。
ナビスは傷だらけというのであればと、ロビンへ男性を近くのベンチに寝かすよう指示を出し、そこで治癒の魔法を使ってあげたのだ。
「っ……う……?」
「大丈夫ですか? 痛いところはありますか?」
「俺は……、一体……」
応急的な治癒魔法ではあったものの、全身の傷はほとんど癒えてなくなっていた。
ただ、右肩の傷も表面こそまだ完全に癒えてはいないが、中はしっかりくっつき、命を脅かすようなこともなくなった様子だ。
傷がだいぶなくなったことで男性は意識を取り戻し、それに気が付いたナビスは声をかければ男性も声を発して反応を見せた。
「ここは……?」
「麻帆良学園です。貴方は空から落ちてきましたが、何があったか覚えていますか?」
「……空から……? いや……、覚えていない」
また、男性は自分がいる場所が麻帆良であることもわかっていない様子だった。
なのでナビスがこの場所とここに来た経緯をそれをそっと教えるが、男性は頭を押さえてまったく記憶にないと言うだけだった。
「俺が覚えているのは、黒い影のようなものに捕まる前ぐらいからだ」
「……そうですか」
男性は自分が覚えていることを静かに語った。
何か、漆黒の影のような存在が自分に襲い掛かってきて、それに捕まった時が覚えている最後の記憶だと。
しかし、ナビスはその話で推測できることは少なく、何かに襲われて空から落ちてきたのだろうか、と言うぐらいしかわからなかった。
「ここが麻帆良学園だとして、俺は何故こんな場所に……?」
「わかりませんが、とりあえず他の魔法使いにも見てもらいましょう」
「ああ……、すまない。助かる」
さらに男性は麻帆良へ来た経緯もわからないので、自分が何でどうやってここへ来たのかもわからず混乱した態度を見せる。
とは言え、ナビスとてそれすらもわからないので、記憶障害の可能性もあるとして他の魔法使いにも治癒などをしてもらった方がいいと提案。
男性はその提案を飲み、静かに礼を述べた。
「しっかし、謎だなあ。その黒い影とやらも、空から落ちてきた理由も」
「上空で戦っている人たちなら何か知っているかもしれません。その人たちに話を聞いてからでも遅くはないでしょう」
「確かにそうだな」
ロビンも男性の話だけではまったくもってわからないと肩をすくめてお手上げという態度をし、それなら他の人から情報を貰った方がよいとナビスは言う。
そのナビスの言葉にロビンも納得し、腕を組んで頷く。
──────この上空から落下してきた男性こそ、ダークフォグに憑りつかれていた人間だ。
ダークフォグがエヴァンジェリンへと乗り移る際に肉体を上空で投げ捨てられ、この地上へと落下してきたのである。
また、本来ならば魂を砕かれ死ぬはずではあったが、ダークフォグは納得いく肉体を見つけるための仮の肉体として扱っていたためか、一時的に魂を消滅させていただけで済ましており、そのおかげでなんとか死ぬことがなかったと言うことだった。
ただ、そのまま地表に衝突していれば死んでいたので、間違いなく運がいい男と言えるだろう。
いや、ダークフォグに憑りつかれたのだから運が悪いのかもしれないが。
「とりあえず召喚魔も減ってきていますし、撃退しながら避難させましょう」
「お任せあれ!」
とりあえず傷が癒えてもあまり動けない様子の男性を避難させるために、ナビスとロビンは動き出す。
数が減ってきている召喚魔を蹴散らしながら、避難場所へと移動していくのだった。
…… …… ……
キルの本体である一つ目ピエロは転移を駆使して逃げていた。
「予想外だ……。覇王などと言う存在があれほどまでに強いなどと……」
覇王の強さは想像を遥かに超えるものだった。
「
だから全力で逃げるのだ。自分の飼い主である存在に、覇王の情報を渡すために。
転移を駆使すれば見つからずに逃げれるはずだと、何度もクールタイムが終わった瞬間に転移を繰り返す。
「
「はっ!? なっ!? ギャッ!?」
だが、転移を終えたその直後、
そのまま吸い込まれるかのようにしてキルは、
「もういいぞ」
覇王はもぐもぐしている
ある程度時間が経ったので覇王の巫力は
とは言え、
「はお!? 死んでしもーとるんやない!?」
「死んでるよ? でも生き返すから大丈夫さ」
「大丈夫なん……?」
「大丈夫さ。ほらね」
そこには木乃香もおり、小さい一つ目の魔族らしき人物が死んでしまったのを見て、驚いて覇王へと告げるが、覇王はいつも通りの行動でしかないため今生き返らせると微笑んで言うだけだ。
で、木乃香が心配そうな顔で見つめてきている間に覇王は、さっさとキルの本体を蘇生したのである。
「ひっ!? ひいぃ!? 何故!? 何故ボクの居場所がわかった!?」
「占ったんだよ。木乃香にも占ってもらって精度を上げて、お前がここに転移してくるのを待ってたんだ」
「あぁぁ……、ばっ、馬鹿な……」
生き返ったキルはガサガサとゴキブリのように這って覇王から距離を取り、怯えながら自分の場所がわかるはずがないと叫ぶ。
しかし、覇王はシャーマンであり占いもできる。
それに木乃香も占いを得意としており、その占いの結果からキルの転移先を割り出して先回りしていたのである。
それを聞いたキルは完全に恐怖に飲まれて震えるだけであった。
「ぐっ!? 特典が働かない!? どうなってるんだ!?」
「お前の特典は
「うそだ!? そんなことがあるはずが!?」
「本当さ。だから特典が使えないんだろ?」
「あああああああ!!!!!」
さらにキルは転移で逃げようとするがまったく発動しなくなっており、それにも困惑して焦った。
覇王はそんなキルへと律義に特典を奪ったことを教えてやれば、さらに慌てふためいて混乱するキル。
されど、覇王の言ったことは本当なので、だからこそ転移などの特典が作動しなかった訳であり、覇王からそれを言われて完全に理解したキルは、頭を抱えてうずくまって叫ぶことしかできなかったのだった。
また、人間以外の存在、つまり魔族とかになった転生者が特典を抜かれた場合、種族を変更されることはない。
特典の影響によって、すでにそういう種族で生まれてきたからだ。
神が言うには本来能力を発揮するのが5歳だが、種族が人間以外だと発揮前の特典の影響でそういう種族に生まれる可能性もあるのだ。
そして、人間以外の種族が特典を失った場合は、その持っていた能力もだが種族として突出した部分も失い、能力が大幅に下がって人間に近いレベルまで落ちる。
それは寿命とて同じであり、魔族として生まれた存在は大幅に寿命を失うことになり、数千年も生きていた魔族であれば、特典を奪われればその場で急激に老化する可能性もある。
とは言え、魔族の年齢が人間の年齢に照らし合わさった状態となるだけなので、寿命が長い魔族は百年程度であればまだ若いままとなるだろうが、その後の老化は人間としての年齢で進行していくことになるだろう。
故に、キルの本体は特典を失い、能力と魔族と言う種族としての力を大幅に失うことになった訳だが、魔族としてまだ若かったが故に老化することはなく、この先人間の年齢として寿命を全うすることになると思われる。
ただまあ、特典が失われると言うのは、本来神が想定している挙動ではないので、実際にやらなければどうなるかはわからないが。
「はお、どういうことなん?」
「木乃香には以前話したよね? 僕が転生者であり、神から力を貰ったって」
「覚えとるよ!」
「その貰った力を
「なるほどなー」
そばで聞いていた木乃香は覇王の言葉の意味がわからなかったのでそれを聞けば、覇王は律義に答えてあげる。
覇王は木乃香に自分が転生者であり、能力を神から貰って転生してきたことをすでに話していた。
で、その特典とやらを奪う方法があってそれを使って奪ったと簡潔に言えば、木乃香はちゃんと理解して頷く。
「さて、色々聞きたいことがあるし、捕まってもらおうか?」
「…………ヒヒッ、ケケケケッ……、こんなことをしても無駄なのに……」
「無駄?」
それに覇王は目の前のキルを逃がす気はない。
どうしてこんなことをしたかなどの情報を、きっちり吐いてもらわなければならないからだ。
されど、そこで急に狂ったように笑い出したキルは、無駄だと言い始めた。
覇王は急にどうした? という様子でキルを睨みつける。
「そうさ! お前らはボクの主である”神”が消し去るんだ! もうどうすることもできない!! 数年後、必ず神が降臨し、この地上を無にするんだ!!」
「…………へえ?」
するとキルは、お前たちは全員”神”とやらに滅ぼされると叫びながら豪語し始めたではないか。
終いには地上を無にするとまで言ってのけ、この世界に残された時間は少ないと宣言したのだ。
覇王はその情報が本当かどうかはわからないが、随分と大きな存在が出てきたなと言う風に笑う。
神とやらがどんな存在なのかわからないが、とにかく世界を滅ぼすとまで出したのだから、本当のことであればそれなりの力を持つ者なのだろうと思ったのだ。
それにそんなものが存在するのであれば、野放しにはできないと警戒心を持った。
「その時契約した我らだけは生き残り、この世界に残り続けることを約束されたんだぁ! 今から恐れろ! 怯えろ! 神の降臨するその日まで!!」
「そうかい? じゃあ、…………その神の情報を吐いてもらおうか」
さらには神に選ばれた存在、つまり自分たちのような神との契約者だけがこの世界で生き続ける”権利”を得るのだと、キルははっきり告げた。
なら、その情報を詳しく教えてもらおうと、覇王はキルへ近寄って行く。
「はははっ! ボクはもう死ぬしかないよ! だってもう来てるからね! ボクたち以外の”神との契約者”が! 生き返らせたのに残念だったね!!」
だが、キルは笑いながら自分はもう死ぬと言い出した。
何故なら、自分ともう一人以外の”神との契約者”が、自分を殺しにすぐそばまで来ていることを察知したからだ。
「アハハハアハハハハッ!! さようなら諸君。ボクは一足先にあの世に行って待ってるよ! 君たちが魂だけとなりやってくるのをねぇ!!」
狂ったように笑いながら捨て台詞を吐き散らかしながら、キルは突如として影の中に溶けて消えた。
「消えた……? いや、何者かが転移させたのか?」
「はお! あれ!」
「あれは鳥か? 鳥が転移させたとでもいうのか?」
キルが消えたのを見た覇王はそれを何者かの転移だと察すれば、木乃香が何かを見つけて指をさす。
その先には麻帆良の建物の上でうごめく鳥の羽をもつ何かがいたのだ。
「いや、違う! 鳥なんかではない……!」
また、それは鳥ではなく、別の何かだった。
何故なら翼になっているのは両腕だけで、あとは人間の体だったからだ。
「ふむ、ダークフォグもやられたか。まあ、そんなものか」
翼を持つ男は麻帆良の建物の上で一人つぶやきながら、翼の腕を人の腕へと戻してキルの本体を掴む。
「お前、何者だ」
「私は神と契約せし転生者の一人、”信徒・黒点”。名をガーズと言う」
「信徒?」
「そう、神に選ばれた存在が与えられる称号だ」
覇王はその男へと質問すると、男は自分の正体を静かに語った。
その男は転生者であり不死身の肉体を持ったものであり、神とやらと契約した”信徒”であると。
そして、その名をガーズと名乗り、自らを神に選ばれた存在だと豪語した。
全身黒の衣装を見に纏い、黒い頭巾で頭を覆い隠した男だった。
「そいつは信徒ではなかったと言うのか?」
「そうだ、こいつは神の小間使いだ。契約者ではあるが、信徒ではない」
ただ、覇王はその説明に疑問を感じた。ガーズとやらが右腕で掴んでいるキルの本体も”神との契約者”なはず。
であれば、そいつもまた”信徒”を名乗っていいはずだが、あの時は”神の契約者”としか名乗っていなかった。
ガーズはその問いにも答え、キルは神に仕えているだけの存在であり、信徒たりえないと話す。
「ボクを殺しに来たんだろう!? 殺せ! 早くこのボクを殺せ!!!」
「特典を失い自暴自棄になったか? だが、死なない方が苦しいこともある。特典を失った喪失感を長く味わうのだな」
「ううう──────ッ!!!!」
そんなガーズの腕に掴まれたキルは、じたばたと動いて殺せと叫ぶが、ガーズはキルを自らの手で殺す気などないと笑う。
先ほどからずっとこっそり見ていたがこのキルは特典を無くした様子であり、特典を失ったからこそ死にたいと言っているのだと察したガーズは、そのまま生かして生き地獄を味わってもらった方がよいと思ったのである。
キルはガーズが殺してくれなかったことにショックを受け、今後死ぬチャンスがあるかどうかすら怪しいことを察して完全に絶望してしまった。
「その”信徒”とやらは、何故麻帆良を襲った? そいつの話じゃ数年後、神がこの世界を消すんだろ?」
「…………一言で言い表すならば、試金石だ」
「試金石……?」
そこで覇王は絶望したキルの先ほどの言葉を思い出し、その疑問をガーズにぶつける。
ガーズの腕に掴まれているキルは信徒ではないらしいが、ガーズは確かに別の存在の名を口にした。
そいつが信徒だとすれば神とやらが地上を消し去るのを知っているはずだが、地上が消えれば麻帆良も消えるので、襲う意味なんてないのもわかっているはずなのだ。
なのに、麻帆良を襲って来たのであれば、何か理由があるのではないか、と考えたのである。
その問いにガーズは少し考えた後、正直に答えた。
こいつらがこの麻帆良を襲ったのは、試すためであると。
別に大きな理由などなく、単純にこの麻帆良を支配してみたかったのだろうと。
が、覇王はその答えを聞いて、神とやらが麻帆良の戦力が知りたかったと言うことがすぐにわかった。
「こいつらは契約していた神の口車に乗り、麻帆良を襲う計画を立てて実行したにすぎん。それに協力していた転生者たちも、神が世界を消そうとしていることなど知らぬ」
「……それを話してよかったのか?」
「口止めはされていないから問題などなかろうよ。それにこの程度の情報など大したことではないのでな」
「確かにそうか」
さらに自分たちの情報を語り続けるガーズという男。
襲撃者の首魁は神に麻帆良を襲うように誑かされ、やっただけなのだろうと。
そして、組織の構成員たる転生者たちは、何も知らされてなく騙されていたのだろうと。
覇王はガーズがよくしゃべるもんでそれは機密とかそういうのではないのかと聞けば、ガーズは特に行動を制限されてはいない上に、この程度の情報など情報ですらないと肩をすくめて言う。
この襲撃が麻帆良の戦力を知るためだと言うのは、簡単に思い浮かぶことだと覇王も考え、ガーズの言葉に納得した。
「だから計画は随分と練られていたみたいだけど、行動が雑すぎたってことか。こんな作戦で成功するはずがなかっただろうしね」
「それはダークフォグというやつのミスだ。だが、どうであれ失敗に終わっただろう」
「ふうん」
大体理解した覇王は、つまりはこの計画が成功する必要のないものだったのだろうと考え、そう言ってやる。
確かに準備期間はそれなりにあったように見えるが、襲い方が雑すぎたと。ただ、初手で黒の
されど、ガーズは覇王にそれを言われても苦笑するだけだ。
計画したのは自分ではないし、自分は別にこの計画に加担していた訳でもない。はっきり言ってどうでもいいのだ。
覇王はガーズが今の態度で計画に加担していなかったことを理解し、つまらなそうな声を出す。
「……それで、お前はどうするつもりだ?」
「私はただの監視よ。このまま帰るだけだ」
「逃げれると思うのか?」
「強がるな。今のお前たちでは少々しんどかろう」
「…………」
しかし、ガーズがここへ来たと言うことは、何かしらの行動を起こすためではないかと覇王は睨み、それを問う。
ガーズは素直にその問いに答え、何もしないで去ると言うだけだった。
とは言え、覇王はこのガーズをここで逃がしたくはない。ここで倒しておかなければマズイ存在なのは一目瞭然だからだ。
巫力がなくとも魔力がだいぶ消費してしまっていても、あのガーズと言う存在は放っておは置けないのだ。
ただ、アレとやり合うのであれば、この麻帆良が危ないことも覇王は理解している。
そのためこの場で戦うのは得策ではないと言う気持ちもあり、どう出てくるか、とガーズの出方を伺っていた。
ガーズとしても別にここで戦う気などない。
何せガーズは別に戦いに来た訳ではなく、神の契約者たるキル、そして同じく”信徒”であるダークフォグのことを監視に来ただけだ。
また、敗北したこの二人を回収に動いただけにすぎず、ダークフォグは回収不可能と判断して放置することにしたのである。
それにガーズも覇王たちの消耗具合はわかっており、それをつついてやれば、覇王も静かにガーズを睨むだけであった。
「お互い、ここはあえて引く方がよいのではないか? わかっているはずであろう?」
「……残念ながら、それしかないようだね」
「フフフ、それでいい。では、さらば」
故に、ガーズは自分は何もせず去るのだから、そちらも何もしてくるなと提案。
覇王も自分の消耗具合以外にも木乃香の状態を考えて、今はそれしかないと判断してガーズを退かせることにした。
ガーズは覇王の物分かりの良さを笑い別れを告げれば、さっさとキルを連れて転移していったのだった。
「……完全に気配が消えた。長距離転移か」
覇王はガーズの強烈な気配が完全に消え去ったのを察知し、ガーズはもうこの麻帆良にはいないことを理解して少々安堵する。
あのままガーズとやらと戦闘に入れば、麻帆良がさらに破壊されかねないと考えていた。
それに横には木乃香もおり、巫力を消耗した木乃香では荷が重いだろうとも考え、大きな衝突がなくてよかったと安堵したのだ。
されど、あのガーズとキルの本体を逃がしたのは大きいのも事実。
とは言え、情報はある程度得ることができたし、何かとてつもないことが裏で起こっていることだけは察することができたので、とりあえずはまあ良しということにしたのだった。
「はお、あれは一体なんだったんや!?」
「……わからない。神との契約者、信徒と言っていたが」
「そっちだけやなくて、あの腕が変化した翼とかもや」
木乃香はガーズが消えたのを見て、驚いた様子で覇王へと質問を投げれば、覇王もその質問には答えられないと言うしかなかった。
初めて聞く単語の連続に、覇王も情報を整理しなければならないと思っているからだ。
が、木乃香が聞きたいのはそれだけではなく、あのガーズなる存在が鳥の翼から人の腕に変化したのことも疑問も聞きたかったのだ。
「それならわかる。そういう不死身の生命体なんだ」
「生命体……?」
「この地球上のありとあらゆる生物に変化し、肉片一つすらも動物へと姿形を変えることができる存在」
その木乃香の疑問に、覇王はそれならわかるとしっかり答えた。
あの翼への変化、不死身と言う言葉、そして、ヤツの顔。そこから導き出される応えは一つ。
この地上のありとあらゆる生物・植物の能力を兼ね備えた究極の生命体。
「────
その名は
この世界の生命体の頂点。この世界の生物の能力を全て持ち合わせ、手などを別の動物へと変化させることすら可能な不死身の怪物。
覇王が表情を険しくしてその名を出せば、木乃香も只ならぬものを感じて無言となり、覇王の横顔を見ることだけしかできなかった。
その後覇王に学園側から事後処理などの会議があるから集まってくれと連絡が来たので、覇王は今の情報を持って木乃香を連れ、集合場所まで移動したのだった。
…… …… ……
数多は召喚魔と戦いに明け暮れていた。
「お? 召喚魔も見なくなったか?」
が、周囲の召喚魔を完全に倒しきった数多は周りを見れば、もう召喚魔がいないことに戦いが終わったことを理解した。
「ふぅぅ、終わったみてえだなぁ」
空を見ればキューブ状の物体も消えており、これでやっと全てが終わったと安堵してため息を吐く。
「まったく、ひでぇ一日の始まりだったぜ……」
昼前から始まったこの戦いを考え、疲れを見せる数多。
別に戦いで疲れた訳ではないが、こんな時期に戦闘になったと言う面で疲れを見せていた。
「おっ? 圏外から復活してる? もしもし?」
すると携帯から着信音が鳴り響いた。
あのキューブ状の物体が出現して数分後に電波が消えてしまったが、それが消えたので電波が復活したのだ。
その発信元は義妹の焔であり、数多の様子を確認するために掛けてきたのである。
数多はすぐさま電話に出て、とりあえず自分の無事と戦いが終わったことを説明するのだった。
…… …… ……
転生者のアルスも召喚魔を蹴散らしまくり、そのの姿が消えたのに気が付いた。
「おっ? 終わったか? はぁぁ……、終わったかぁ……」
これでようやく戦いが終わったことを理解し、大きくため息をついて座り込むアルス。
「空のアレもガオガイガーがやってくれたみてぇだな。いやーありがたいありがたい」
そのまま空を見上げれば、キューブ状の物体が砕かれ大気圏で燃え尽きる様が流星としてなって、無数に空を駆け巡っていた。
流星の発生地点の中心から漆黒のロボが下りてきており、アルスはジェネシックガオガイガーのおかげだと理解して感謝する。
「おっ、学園側からの連絡か?」
そこへ携帯の着信音が鳴り、アルスは学園側が自分たちへの連絡だとすぐに察して電話に出る。
「今から集合かよ……。家族が来る前に休みたいんだけどなぁ……。まあしょうがねぇ……」
その内容は当然集合であり、戦闘後の会議を行うことはすぐにわかった。
アルスはこの後家族が麻帆良へ来てくれる約束があり、その前に今の戦いの疲れを取りたかったと愚痴った。
「時間は……、まあ何とかなるか? まあ、さっさと終わらせ貰うしかねぇか……」
ただ愚痴ってもやることは変わらないので、家族が来る前に会議が終わればいいなと思いながら、集合場所に移動し始めるのだった。
…… …… ……
トリスは戦いが終わったのを察して、裕奈たちが避難している寮へと戻ってきた。
「やっと終わったわよ。今回の騒動」
「おかえり! 大丈夫だった!?」
「大丈夫よ。問題ないわ」
すでにこっちの寮での戦いも終わっており、全員エントランスで待機していた。
そこへトリスがやってきて裕奈へと話しかければ、裕奈は心配した様子でトリスの無事を確認しに来る。
トリスはそんな裕奈へとノーダメージだと笑って答えた。
「あっ、学園側から集合の号令が来てる! 行ってこなきゃ!」
「私も行った方がいいのかしら……?」
「戦闘したんだし説明とかした方がいいと思うよ!」
「そう。面倒ねえ……」
そして、キューブ状の物体がなくなったことで再び携帯が使えるようになり、学園の方から裕奈へと連絡が来た。
と、そこへ戦闘を行ったトリスも説明義務があるのではないかと考え、出向くべきかと裕奈へ聞けば、裕奈もその方がいいと話した。
トリスは面倒だなあ、と思ってため息を吐きそうになるが、裕奈がそういうのであればとそちらへ出向くことに。
「じゃあ、僕も行きます」
「ふむ、ワシも行こうか」
「そうですね。お願いします!」
で、当然それは初風もであり、ここの防衛を手伝ってくれたゼクトもそうすることにした。
裕奈は防衛に協力してくれた二人へと、頭を下げて頼んだ。
「…………ん?」
「どうしたの?」
「……いえ、なんでもないわ」
と、そこでトリスはゼクトの姿を見て、数秒間硬直した。
トリスもまた”原作知識のある転生者”なのでゼクトを知っており、死んでいるはずのゼクトがこの場に現れたことに驚いてフリーズしてしまったのだ。
そこへ裕奈がトリスへ声をかければ、トリスは再起動してしれっとした態度で何もと言った。
「…………僕も魔法でちょっと街を焼いちゃったんで……、色々と説明しないといけないんで……」
「あらら……。でもしょうがないよ! こんな状況だったんだしさ!」
「そう言ってくれるだけでもありがたいですよ」
と、そこで初風は自分の放った千の雷で街を吹っ飛ばしたことを白状し、それに対しての説明もやらなきゃならんとつぶやく。
裕奈は肩を落として説明する初風へと慰めの言葉を送ってあげれば、初風もその気遣いに嬉しく思いながらも申し訳なさそうに苦笑していた。
「えっ? 初兄街焼いたの? やらかしすぎじゃない?」
「そう言ってやらないで。俺が変な奴に絡まれたせいでもあるからさ」
「えっ!? そうだったんだ……、ごめん初兄」
「別に気にしてないよ? 言われてもしょうがないことやらかしたしねぇ」
その話を聞いていた妹の四華は初風のやらかしに笑っていたが、三郎は自分たちを守護るための行動だったのでいじらないでくれと言えば、四華も言い過ぎたとシュンとして謝った。
されど、初風もやりすぎたのは事実だと重く受け止めており、気にしていない様子だった。
ただ初風の妹で長女の二葉は、魔法だのを全く知らない一般人な転生者なので、兄や弟や妹が何を話しているかさっぱりわからず会話に入れなかった。
「と、言うワケでみんなごめんね! 行ってくるから!」
「うん。ありがとうゆーな!」
「守ってくれてありがとー!!」
「いいんだよ! 当然のことなんだし!」
まあ、集合がかかっているので裕奈は友達に挨拶をして、指定された集合場所へと行くことに。
アキラとまき絵は自分たちを守ってくれた裕奈に元気よくもう一度礼を言えば、裕奈もニコリと笑いながら気にしないでと言うだけだった。
「トリスもありがとう!」
「ほんと助かったよ!!」
「私も別に気にしてないから」
次にまき絵とアキラはトリスにも元気に礼を言えば、トリスも裕奈と同じように別にと言うだけ。
ただまあ、トリスも友人たちを助けられたことを嬉しく思い、ふと小さく笑っていた。
「あの、ホンマにありがとうございました……!」
「いえいえ、礼には及びませんよ」
また、亜子も初風へと助けてくれたお礼を言い、初風もその様子を見て微笑んでいた。
「じゃ、いこっか!」
「案内お願いね」
「頼むよ」
「任せるぞ」
そして裕奈は戦闘して関係者となった人たちを先導しながら、集合場所へと移動して行くのだった。