事後報告などの会議のために女子中等部の学校へと、魔法先生、魔法生徒や警備を担当している転生者たちが集まってきていた。
その学園長室へつながる廊下を裕奈が歩いていると、必死に駆けつける父の姿があった。
「ゆーな!」
「おとーさん!」
明石教授は裕奈のもとへと走りながら大声で叫べば、裕奈もそれに気が付いて振り向いて父を呼んだ。
「よかった……、本当に無事でよかった……」
「おとーさん……?」
すると明石教授は裕奈へと抱き着き、心の奥底から安堵した様子を見せた。
教授は裕奈が先ほどの騒動でどのような目に遭ったのかをトリスから聞いており、寿命が縮むほどに心配したのだ。
そこへ服が血まみれの裕奈が現れたので、本当に危険だったことを理解して駆け寄ってきたのである。
突然父親に抱き着かれた裕奈は、少しびっくりしながら父を呼ぶ。
「ゆーなが友人たちと一緒に襲われて、それで怪我をしたと聞いた時は肝が冷えたよ」
「……おとーさん」
明石教授はそっと両手を裕奈の肩に乗せたまま少し離れて、涙ぐみながら裕奈の顔をじっと見て自分の心境を語りだした。
教授の態度を見た裕奈は、これほどまでに父を心配させてしまったことを少し申し訳なく思い、しおらしい声を出す。
「……でも、ほら! もう大丈夫だから!!」
「ゆーな……!」
そこで裕奈は父親の不安を払拭しようと、離れてガッツポーズをして元気さをアピール。
そんな健気な裕奈に明石教授は感涙しかけながら、その様子を眺めていた。
「色んなことを言おうと思ったけど……、ゆーなの元気な笑顔を見たら忘れちゃったな」
「……ありがとう、あと、心配かけてごめんね、おとーさん……!」
「無事だったからそれだけでいいんだよ」
「……うん!」
明石教授は大怪我をした裕奈に会うまでは、無茶をするなとか孤軍奮闘でよく耐えたとか、色々言いたいことを考えていた。
だが、いざ裕奈の明るい表情を見てしまうと、そんなことなんて吹っ飛んでしまうほどに、強い安心感を覚えて優しく微笑んだ。
何せ明石教授は10年前に、自分の妻の夕子が危険な任務に当たった時があったのを覚えているからだ。
アルスがチームを組んでいたおかげで任務から無事に戻ってきたが、その任務で夕子はメガロメセンブリアのエージェントと魔法使いを引退し、表の職業と主婦に専念することになった。
そんな経緯があるため、もし裕奈に何かあれば、と明石教授としても気が気ではなかったのだ。
裕奈も自分の父親が本気で心配してくれたことを嬉しく思い少しだけ涙を浮かべながら、心配してくれたことに対しての礼と、心配させてしまったことに対しての謝罪を口にする。
その裕奈へと明石教授はそっと頭に手を添えて優しくなでながら、にこやかな表情を見せた。
裕奈は父親の暖かい手と優しさに、ちょっとだけ涙を流して笑っていたのだった。
「ゆーな! 大丈夫だったのか!?」
「アルスさんも! 大丈夫だよ! ほら!」
と、そこへアルスも急いで走ってきて裕奈の状態を確認するように叫べば、裕奈は飛び跳ねて無事をアピールして見せた。
「…………すまなかった……。お前たちが危ないとわかってたら、すぐにでも駆けつけたってのに……」
「えっ!? そっ、そんな!?」
すると、アルスは裕奈へと頭を下げ、真剣な表情で謝りだしたではないか。
アルスも裕奈が友人たちと出かけ先で戦闘していることはわかっていた。それでも召喚魔ぐらいなら大丈夫だろうと思ってしまい、裕奈の危機に気が付かなかった。
それをかなり悔やんだ様子で頭を下げるアルスに、裕奈はかなり驚いた。
確かに助けが来なければ本気で危なかったけれども、アルスが謝ることなんて何一つないのもわかっているからだ。
「別に気にしなくていいって! 急にこんなことになっちゃったワケだし……! それにアルスさんだって持ち場があったんだしさー!」
「……そうだな。よくやったぞゆーな」
「えへへ……」
だからいつものような調子で裕奈はアルスへと語り掛ける。
そもそもこんな日にあんなことが起こるなんて誰が予想できただろうか。
それにアルスとて自分が守護らなければならない場所があり、離れることなんてできなかったはずだ。
故に、アルスが謝る必要なんてないよ、と笑顔で裕奈が言えば、アルスもようやくいつもの調子を取り戻し、ガシガシと裕奈の頭を撫でて健闘を称えた。
裕奈もアルスに褒められて、笑いながら褒められたことを喜んだ。
明石教授も二人のやり取りを静かに微笑んで眺めていた。
「ふっ……まったく、とんでもねーお転婆だなぁゆーなは!!」
「そりゃそーだよ! 元気こそ最強だもんね!」
「羨ましいねぇ、その若さが」
また、一人で友人たちを庇い傷ついてでも戦い続けた裕奈に、アルスは笑ってからかうようなことを言うと、裕奈も当然と元気な笑顔を見せる。
そんな裕奈をアルスは眩しいものを見るように目を細め、無茶ができるっていいなぁ、と思ったりした。
「おっ? すまないね二人とも。そろそろ会議が始まるみたいだ」
「やっとか……。はー、めんどくせぇ……」
「ほら、早く行こ!」
「へいへい」
そこで学園長室での会議が始まる時間となり、扉が開いたのを見た明石教授はアルスと裕奈へそれを言うと、大きなため息を吐くアルスを裕奈が引っ張るようにして部屋へと入って行った。
「あなたがゆーなを治療してくれた方ですね?」
「はい、そうです。あなたは……?」
「ゆーなの父親です」
「なるほど。そうでしたか」
しかし、明石教授はすぐに部屋へと入らず、そこへ入ろうとしてきた初風へと声をかけた。
初風は
明石教授も自分が誰かを答え、初風は
「娘を治療してくれてありがとうございます」
「いえー、別に大したことはしてませんよ」
「あの子は大切な一人娘ですからね。だからとても感謝しています」
「そうですか。僕としても助けられてよかったと思っていますよ」
明石教授が初風に声をかけたのは、ただ単に裕奈のことで礼をがしたかったからだ。
が、教授から頭を下げて礼をされた初風としては、女の子の怪我を治してあげるのなんて当たり前だと思っているので、気にしてないと言う様子で小さく頭を下げる。
とは言え、明石教授にしてみれば裕奈はかわいいかわいい一人娘。
その娘を助けてくれた相手にはしっかり礼をしなければと、教授としても思っていたのだ。
事情を聞いた初風は、小さく頷き納得の様子を見せて礼を受け取る。
「ですが僕としても治癒のためとはいえ、彼女の肌を見てしまって……、申し訳ないです」
「それは仕方のないことでしょう? むしろ傷が残らないように治癒してくれたことの方が大切ですから」
「そう言っていただけるとありがたいですね」
ただ、初風としてはその治療の時に裕奈の肌を見たことを、少し気にした態度を見せてむしろ明石教授へと頭を下げた。
初風としては若い女性の肌を知らない男の人が見るなんてあまりよくないと思っており、結構慎重な態度を見せていた。
されど、明石教授としては怪我したままの方が危なかったと考えており、そのことよりも傷を治してくれた感謝の方が大きかった。
なので不問と言うような態度を見せる教授に対して、初風はもう一度頭を下げた。
「では、我々も学園長室へと入りましょうか」
「そうですね」
話し合いも終わったことだし、学園長室へと向かう二人。
そのあと初風は自分がやらかしを説明したり、敵の正体や計画や第二波の有無、今後の麻帆良防衛などを話し合ったりしながら、意見の出し合いを行うのだった。
…… …… ……
会議の内容は今回襲って来た敵、月の裏と言う組織のことや、その裏に何がいるのかということが本題だった。
まだ捕らえた月の裏の魔法使いからは情報を引き出していないので何とも言えないが、少なくとも月の裏の魔法使いたちは、この麻帆良を乗っ取ることを目標としていたと言うのだけは誰もが理解した。
が、覇王が持ってきた情報、神と名乗る存在やそれの下にいる部下のような存在”信徒”。
それらの情報を考えると月の裏と言う組織はその神とやらにそそのかされ、踊らされただけのようにも聞こえてきた。
実際は、信徒を名乗ったガーズと言う男は、彼らのことを試金石と呼んだ。
つまり、麻帆良の戦力を測るために捨て駒にされたのだと推測できる内容だった。
それを踏まえて今後の対応や、今回の被害などの状況を話し合いながら、今回の襲撃を生かしていこうということになった。
また、月の裏の魔法使いたちから情報を引き出し次第で、もう一度会議を開いて話し合う事となったのだった。
…… …… ……
騒動も終結し数時間に及ぶ事後の会議もようやく終了した。
誰もが少し疲れた表情をしながら学園長室から退室し、各自の予定へと戻って行った。
「あのー……。改めて怪我を治してくれてありがとうございました!」
「いえいえ、当然のことをしたまでですよ」
そこで裕奈は再び初風へと話しかけ、もう一度頭を下げてお礼を言う。
初風としては再三礼を言われるようなことはしてないと思っており、やはりにこやかに気にしないでほしいと言う様子を見せるだけだ。
「それで、ちょっと質問がありまして……」
「答えられることならいいですよ」
「えっとですね……、初風さんはどうやって強くなったんですか?」
ただ、裕奈としてはそれは会話を切りだすためにすぎず、本題は別にあった。
裕奈は初風がどうやって強さを手に入れたのか知りたかったのだ。
安全地帯の寮の中で、少し亜子の身に何が起こったのかを聞いた裕奈は、初風の戦いぶりを知った。
当然三郎もそこで説明してくれ、上位の大呪文を複数使用したことを聞いて、このような質問をしているのである。
「ふーむ……、そうですねぇ。僕の場合、先生がよかったんですよ。ほら、そこの彼が僕の先生なんですけど」
「ん?」
初風は裕奈の問いに素直に答えてくれた。
自分が強くなれたのは先生、つまり師匠が良かったからだと。そして、すぐ近くにいる子供のような人が、自分の魔法の先生であると紹介。
近くにいたゼクトは初風が右手で自分のことを指し示されたのを察し、初風の方へと顔を向けた。
「えっ!? 魔法の先生……、つまり師匠って感じですか!?」
「そうなりますね。それで先生の名前はゼクトと言うのですが、彼のおかげでここまで魔法を知れたのが大きかったんですよ」
裕奈は小さい子供が初風の魔法の師匠であることを知り、驚いた様子を見せた。
が、自分のクラスの担任であるネギやカギも小さくてもすごい魔法使いなのを思い出し、そう言う事もあるんだなあ、と納得。
また、初風は師匠の名を教えながら、彼のおかげで魔法を知れたからこそ今があると語る。
実際、出会ってなければ魔法使いにすらなれていなかったと思っているので、本当に巡り合えてよかったと思っているのだ。
「なにせ彼こそ
「えーっ!? ネギ君やカギ君のお父さんの!?!」
「うむ」
さらには自分の師匠が、かの英雄であるナギの魔法の師匠でもあることを裕奈へと初風が豪語すると、裕奈は大変驚き本当に!? という表情を見せた。
それを横で聞いていたゼクトも、小さく一度頷いてそれを肯定。
「あっ!? そういえば魔法世界でラカンさんって人が見せてくれた過去の映像に出てきてた人!?」
「ん? 知ってるんですか?」
「はい! その映像の中でネギ君やカギ君のお父さんからお師匠って呼ばれてた人かなーって思いまして!」
「なんじゃ、あの筋肉ダルマのやつ、ワシのことも見せとったのか」
すると裕奈は魔法世界でのことを思い出し、映像内でナギがお師匠と呼んでいた人と目の前のゼクトと言う人が同じ人なのに気が付く。
初風はおや? という様子で聞けば、裕奈はそのことを元気に語った。
というのも、初風は
で、その話を聞いたゼクトは自分のことを無断で教えたのかと、ラカンへと少し文句を言っていた。
「ですから…………そのー……。私のことを強くしてください!!」
「弟子にしてほしいと言うことかのう?」
「はい!! すごく厚かましいと自分でも思ってますけど……、どうしても強くなりたくなったんです!!」
そこで裕奈はゼクトへと近寄って大きく頭を下げ、弟子入りを頼み込んだ。
ゼクトは弟子入りの志願かと聞けば、裕奈は大きな声で肯定してもっと強くなりたいと宣言したのである。
「私、今回の事件で友達を守り切れなくて……、それでもっと強くならなきゃって思って……!」
「なるほど」
裕奈はまき絵とアキラを危険にさらしてしまったことをかなり悔やみ、今の実力ではダメだと思った。
それを強く訴える裕奈を見て、事情を理解したゼクトは小さく頷く。
「しかしのう、確かこっちにはあのエヴァンジェリンもおったはずじゃが? そっちに頼んでもよかったのではないか?」
「確かにそうかもしれませんけど……」
「ならば、教えを乞うならそっちでもいいと思うのじゃが?」
「それでも、今ここで決意して出会ったのはお二人なんで! だから……、どうかお願いします!!」
されど、ゼクトはこの麻帆良にエヴァンジェリンがいることを知っており、教えを乞うのであればあちらでもよいのではと進言。
裕奈もそれを言われて少し悩む様子を見せる。
ゼクトはそっちでよくないか? ともう一度言うと、裕奈はそれでも目の前にいるゼクトがよいと叫び、頭を大きく下げて大声で頼み込んだ。
「いいじゃないですか先生。鍛えて差し上げても」
「ふーむ。まあ、初風のやつももう一人前みたいな顔しとるし、ワシも暇だしの」
そこへ初風が裕奈の助けとしてゼクトへと声をかけて説得の言葉を並べれば、ゼクトもまあいいか、と軽いノリで承諾しだした。
「いいじゃろう。そこまで頼むのであれば、ワシが鍛えてやろう」
「! 本当ですか!!? ありがとうございます!!!」
それをゼクトは裕奈に宣言すれば、裕奈は頭をガバッと勢いよく上げて、大きく喜んだのちにもう一度頭を下げて元気なお礼を叫んだ。
「よかったですねぇ」
「はっ、はい!!」
そんな裕奈を見ていた初風はニコニコしながら労えば、裕奈は飛び上がりそうなほど喜んで嬉しそうに返事を返したのだった。
…… …… ……
アルスは会議を終えるとすぐさま駅へと移動し、家族の到着を待った。
「おっ! 来たか! 寒い中ごくろうさん!」
「久しぶりね、あなた」
「パパ―! お久しぶりー!」
そこへやってきたのはアルスとなった妻ドネットと娘のアネットだ。
アルスはすぐさま駆け寄りここまでの旅路を労い、ドネットは久々の旦那の顔を見て微笑んでいた。
娘のアネットも久々の父の顔を見てご満悦であり、ニコニコしながらアルスのもとへと駆け寄ってきた。
「ああ、久しぶり! 会いたかったぞー!」
「キャハハっ!」
近寄ってきたアネットをアルスは笑顔で両手で抱き上げて、クルクルと回転すれば、アネットは笑い声をあげて喜んだ。
「何かあったようだけど、大丈夫だったの?」
「まあ、何とかなったさ。ちょいと焦ったけどな!」
そこへドネットは、今日の昼頃に麻帆良で騒動があったことを聞けば、アルスは今はもう問題ないと告げる。
「なになに? 何があったの?」
「麻帆良学園襲撃イベントだよー。まあ、避難するだけの行事だったし、数時間で終わっちゃったけどなー」
「そうなんだー。私も参加したかったなー」
アネットはドネットの話を横から聞いて、アルスへとキョトンとした顔で質問する。
アルスは敵が襲撃してきたなんて娘へ正直に話す訳にもいかないので、学園で一般人へと説明したことと同じことを説明。
するとアネットはいいなーいいなー! と目を輝かせて笑っていた。
「アネットが面白いって思うようなものじゃなかったから、そんなにがっかりしなくていいんだよー!」
「そうなの?」
「そうだよ!」
が、アルスはただ避難するだけなので、きっとアネットは面白くないよと言うと、再びキョトンとした表情のまま首を傾げたアネットは、本当に? と聞いてくる。
そんな可愛らしいアネットの動きにアルスは悶えそうになりつつ、小さく頷いて肯定。
「んじゃ、寒いし適当な店へ行ってあったまろうかね」
「大丈夫? 疲れてないかしら?」
「家族の顔をみりゃ、疲れなんて吹っ飛んじまったよ!」
「それならいいんだけど……」
で、駅前で話してても体が冷えると思ったアルスは、とりあえず喫茶店あたりに入ろうとと二人に提案。
ただ、ドネットは昼間の襲撃でアルスが疲れてないか少し心配すると、アルスは二人の姿を見て元気になったとマッスルポーズをしながらニッと笑って見せた。
が、結構規模が大きい襲撃だと聞いていたドネットは、無理してないかやはり心配してしまう。
まあ、アルスは疲労なんぞ気にせずに、家族を連れて麻帆良を歩き出した。
本当に久々に家族と並んで歩くアルスは、とてつもなく喜び心の中で小躍りしているほどだった。
「町がなんかすごい飾り付けされてるね!」
「クリスマスの時期だからなあ。みんなお祭り気分なんだ」
「そうだったー!」
そこでアネットは麻帆良の街並みを見て、電球や装飾が施されていることに気が付く。
アルスは時期が時期だから飾り付けしてると言うと、アネットは今日の夜がクリスマス・イブなのを思い出して笑っていた。
「アネットにもプレゼントを用意してあるぞー!」
「ほんと! ありがとーパパー!」
「よしよし! 今夜はごちそうもあるからなー!」
「わーい! やったー!」
当然アルスはアネットへクリスマスプレゼントを用意してある。
クリスマスカードもだ。クリスマス休暇は無理だったが。
アネットはプレゼントと聞いて大はしゃぎしながらも、アルスへと元気よく礼を言えば、アルスはニコニコするアネットの頭を撫でながら今日の夕飯のことを教えた。
クリスマスなんだからそりゃ豪勢なご飯が出るよと聞いたアネットは、ピョンピョンと飛び跳ねて大喜び。
そんなアネットを微笑ましく眺めているドネットとアルスは、アネットへ手を差し出してそっと手をつないでいたのだった。
…… …… ……
一応律義に騒動後の会議に出たトリスは、くたくたな様子で麻帆良を歩いていた。
今日の夜はクリスマス・イブなのでクラスの友人たちから誘われたトリスは、女子寮へと足を運ぶために移動していたのだ。
「はぁ……、やっと色々終わったわねぇ」
戦闘もそうだが会議でも色々と質問を受け、完全に疲れた様子でトボトボと歩くトリス。
「あっ! トリスじゃん! ヤッホー!」
「奇遇だねー」
「どうしたの? なんか疲れてるけど?」
「どうしたのって、イベントがあったじゃない」
と、そこへチアリーディング部の三人である桜子と美砂と円が来て、トリスへと話しかけてきた。
なんかヘトヘトな様子のトリスを見て円が何かあったのかを聞いてきたが、トリスは昼間に騒動があったことをイベントとして話した。
「そんなのあったの!?」
「どういうこと!?」
「なにー? 何かあったのー?」
しかし三人はまったくもって意味がわかってない様子で、もう一度トリスへと何があったのかを聞いてきたではないか。
「あっ、麻帆良にいなかったのねあなたたち」
「そりゃ、こんな日なんだから都会に出て遊ばなきゃねー!」
「そうそう!」
「ってまたカラオケばっかりだったじゃん!」
そんな三人の態度を見たトリスは、ハッとして思い出した。
彼女たちはクリスマスの時期と言うことで、都会へと遊びに出かけており、トリスも一度誘われたけど断っていたのだ。
が、三人は都会に出てもいつものようにカラオケ三昧だった様子。
クリスマスだから遊びに行かなきゃとハイテンションではしゃぐ美砂に同意する桜子と、いつも通りじゃんってつっこみを入れる円だった。
「それならよかった。あなたたち本当に運がいいわね」
「それってどういうこと!?」
「ほんとに何があったの!?」
「気になるー!」
「気にしなくていいのよ。何事もなかったんだから」
まあ、三人があんな襲撃に出くわさなくてよかったとトリスはほっとした様子を見せながら、三人へと話す。
されど、トリスが言ったことがよくわからない美砂と円と桜子は、何があったのかをトリスへと問いかけるが、トリスは微笑みながら肩をすくめるだけだった。
そのままトリスは三人と女子寮へと向かいながら、何があったのかを聞かれ続けるのであった。
…… …… ……
数多もまた事後報告などのための会議に出席し、トボトボと麻帆良女子中等部から出てきて歩いていた。
「あーしんどかった……。マジで勘弁してほしかったぜ」
別に戦うこと自体は嫌いじゃないし修行にもなると思っている数多。
とは言え雑魚ばかりぶん殴ってても意味がないな、と思うのも事実。
それに麻帆良が滅茶苦茶になるのも勘弁してほしいと本気で思っている訳で、自然と愚痴が勝手にこぼれてしまっていた。
「兄さん! 大丈夫か!?」
「よっ! 俺は大丈夫だけど、そっちこそ大丈夫だったか?」
「子供先生が巨大な障壁で護ってくれていたからな。問題なかったぞ」
「ほー、そいつはすげぇなぁ」
そこへ駆けつけた義妹となった焔。
大変な状況だったのは窓を見ればわかるし、むしろ何もできない歯がゆさを感じながら部屋で待機していたので、戦っていたであろう義兄の数多のもとへやってきたのだ。
数多としては戦っていた自分以上に、守護られていた焔の方が心配だった。
それを聞けばネギが学生寮全体に障壁を張って守ってくれたので問題なかったと告げ、数多はそれに対して驚きながら感心していた。
「だいぶ遅くなったみたいだが、会議とかがあったのか?」
「まーなー。とりあえず事後報告や情報整理なんかはある程度終わったよ」
「それはお疲れ様だな」
「おう!」
昼過ぎに始まった会議だったが、終わった頃にはもう夕方前ほどの時間となってしまっていた。
焔がそれを尋ねれば、数多も適当な返事で肯定し、色々と聞かれたり話したりしたと言う。
それで疲れた顔をする数多へと焔は労うと、数多も元気な声で返事を返した。
「そういや俺なんか相手してていいのか? そっちは女子でパーティするんだろ?」
「時間までに戻ればいいだけだ」
そこでふと、数多は焔が今この場にいてよいのかと、疑問に思った。
何せ今夜はクリスマス・イブ。当然3-Aあたりは今夜にでもパーティを開くだろう。それを察して聞いてみれば、時間があるから大丈夫だと返ってきた。
「それに、義理とは言え兄妹なんだ。少しぐらいは一緒にいるぐらいいいじゃないか」
「そりゃそうだな!」
また、こんな日ぐらいは義兄と過ごす時間があってもいいだろう、と焔は微笑んで数多へと伝えると、数多もニッと笑って頷いた。
「そっちはあんまり腹膨れるのは困るだろうから、適当にフラついてちょいとだけ食い歩きでもするか!」
「それは嬉しいが……、疲れてないのか?」
「なあに、気にする程じゃねえさ」
「そうか。それならいいんだが」
ただまあ、パーティが控えているのであれば、時間的に考えても飲食を控えるべきと数多は考え、腹に溜まらない程度に売店で適当なものを買って食おうと提案。
されど、歩きながらと言うところを聞いて、焔としては数多が戦闘で疲れてないか気にするが、数多としては別にって言う様子だった。
焔は元気な様子の数多を見て、無理してなければいいけれど、と思うのだ。
その後二人は少し暗くなるぐらいまで麻帆良の街を、会話してぶらぶらと歩きながら散策するのであった。