クリスマスに襲撃してきた月の裏の構成員らに尋問したところ、誰もが麻帆良を乗っ取れると言う甘言に騙されていたことがわかった。
幹部の頂点であったダークフォグすらも”神”と名乗る存在にそそのかされ、麻帆良を乗っ取れるかもしれないと考えて計画していたようだ。
また、ダークフォグに憑りつかれて利用されていた男性は、麻帆良学園に保護されたあと、養生のためにアルカディア帝国へと出向いて行った。
そして、尋問の末に情報がある程度揃ったところで、2003年が終わり2004年へと移り変わった年明けの数日後、アルカディアの皇帝ライトニング、その分身が麻帆良へと姿を現わした。
それこそクリスマスの時期の襲撃で得た情報を整理するためだ。
部下のメトゥーナト、紅き翼のナギ、アルビレオ、オスティアの女王アリカ、それに覇王やフェイト、エヴァンジェリンを集め、アルビレオの隠れ家である図書館島の地下にて話し合いを行うことにした。
しかもその周囲に強力な結界で覆い尽くし、外から情報が漏れないようにするほどの警戒を行いながら。
「しっかしまぁ、てめぇが仲間になってるなんて驚いたぜ」
「皇帝との利害の一致の結果だよ。あなたと仲間になったつもりはない」
「はっ! そう言うことにしといてやるよ」
ナギはフェイトが皇帝の部下になったことを聞いて、そのフェイトへと話しかけた。
確か過去数回ぐらいだが、今のフェイトの顔を見ている。何度か戦ったりした後、栞やその姉たちの焼けた村で見たぐらいだが。
で、そんな何度か戦った相手が仲間になってるってのは、流石にナギもびっくりな訳で。
そんなナギの言葉にフェイトは、別にお前の仲間ではなく皇帝の部下になっただけ、と言う感じなことをしれっとした態度で言うばかり。
まあ、なんか微妙に素直じゃないフェイトに、ナギはニッと笑ってまあいいかあ、と言うだけだった。
「遠くからはるばるようこそ。アルカディアの皇帝」
「おう、邪魔するぜ」
と、そこへ主賓となるアルカディアの皇帝、ライトニングが静かに現れる。
ここの主であるアルビレオが皇帝へとにこやかに挨拶すれば、皇帝はニヤリと笑って片手を振りながら近づいてきた。
「前置きは不要だろう? 早速本題に入るぞ」
全員が円を作るように立っており、そこへ皇帝が入ってくれば、皇帝はすぐさま話し合いを開始する。
「敵の”月の裏”は試金石にされた、とガーズとやらが言ったんだな?」
「はい、そのとおりです」
まず皇帝は覇王へと話しかけ、確認を取る。それはガーズとやらが言っていた、試金石と言う言葉だ。
つまりダークフォグとか言う存在と月の裏と言う組織は、麻帆良の戦力を測るために使われたに過ぎないのだろうと。
「そして、神と言う存在をほのめかされた、ということだったな?」
「ガーズと名乗った者が言うには、そう言う事のようです。また、神、それと契約した”信徒”というのがいるようです」
「神、それに信徒ねえ……」
さらには「神」と呼ばれたものの存在。これもキルやガーズなるものの証言から確認されたものであると。
そして、神とやらと契約した存在「信徒」なるものの存在。ダークフォグやガーズがそれに当てはまるのだと。
覇王はそのことを皇帝へと話すと、皇帝は腕を組んで何かを考える仕草をした。
「…………確かに、俺のこの”眼”がよくなってから、何者かに見られている感覚がよくあった。そいつが”神”の力の可能性が高え」
「それでこのような結界を……」
「そんなとこだ」
皇帝は「眼」がよい。普通では見えないものが「視えた」。
その眼がよく視えるようになった時、何やら監視されているかのような視線を感じた。それが一体何なのか昔はわからなかったが、今ならわかる。
それこそが「神」と呼ばれる存在が、自分たちを監視するために施している力なのだと。
故に、この話し合いの場を隠すために、強力な結界を皇帝が張り巡らせた。
それをアルビレオが言うと、皇帝は肯定する。密談するには必要なことだったと。
「俺は帝国ですでに独自に調査していた。そんでダークフォグとか言う奴への拷問で得た情報とすり合わせ、かなりの情報を得ることができたぜ」
「随分と早いな?」
「相変わらず行動がお早いですね」
さらに皇帝はすでに調査を行い、色々な情報を掴んでいただけでなく、それにダークフォグを拷問し、情報を吐かせていた。
エヴァンジェリンとアルビレオは皇帝の情報入手の速さに少し驚きながらも、皇帝ならそんなものかと思った。
「”信徒”は合計四人だそうだ。一人は今回捕獲したダークフォグ。もう一人は覇王の前に姿を見せたガーズ。残りの二人はまだ調べてる最中だが、どうやら魔法世界で転生者を扇動している存在が神との契約者の一人のようだ」
皇帝は手に入れた情報を開示。
信徒と呼ばれる存在が今回倒した一人以外にも、あと三人いることを話す。
一人は覇王の前に姿を現わしたガーズと名乗った存在、
あとの二人はまだ調査中で正体不明だが、そのうちの一人は魔法世界で転生者が暴れ回っている元凶で、何やら転生者たちを惑わしていると言う。
「んで、ダークフォグを捕らえられたおかげで”神”とやらの存在もだいぶわかってきたぜ」
「そこまですでにわかっておるのか」
「しかし神にも複数種類があると思うけど、どんな神なのか?」
「神ってのは、一体何者なんだ? 自称”神”なのか? それともマジもんの神様なのか?」
「一気に質問してくるなって! まっ、結論から言うと、本物であり偽物の神だ」
さらにはキルとガーズが語った”神”の情報も皇帝は握っていた。その話にアリカは皇帝の情報収集の速さに感心。
フェイトは神って色々いるけどどんなの? と聞き、ナギは神って本物か? と聞くと、皇帝は腕を組んでどちらでもありどちらでもないと意味ありげな回答をした。
「つまり一体どういうこった……?」
「謎かけでもしたいのかい?」
「もっとわかりやすく説明しろ」
皇帝の答えの意味がまったくもってよくわからなかったナギとフェイトは、つまり何が言いたい? と聞き返し、エヴァンジェリンも変な言い方するなと文句をつける。
「神っつっても色々いるが、この神は元々星の王だった存在だ」
「星の王……!」
「そう、つまり星の王だった存在が下天し、神と名乗っているってこった」
神、それは色々な形で存在する。この麻帆良にも聖歌の持霊としてシャマシュ神がいたりする訳で。
で、彼らが言った神と言うのは、つまり一度星の王、シャーマンキングへと至った存在だと肯定は説明する。
星の王、シャーマンキングと聞いて大きく反応したのは覇王だ。
星の王であるシャーマンキングは覇王の目標である。その星の王が今回の首謀者と聞いて、まさかここに来て元星の王が出てくるとは、と驚きを隠せない様子でいた。
皇帝もその元星の王が地上へと降り、神として今回の事件を引き起こそうとしていると語る。
「なるほど……、星の王が下天して、この世界をどうにかしようとしている、という訳か…………」
「そうだ。だが、どうにもそれだけじゃなさそうでな?」
「どういうことでしょうか?」
本来、星の王はグレートスピリッツへと留まり、新たに現れる星の王に資格があるかを裁定する。
それをやめてまで地上へと降りると言うのは、覇王としても驚くべき展開ではあったが、”この世界の星の王は転生者”だと言うことを考えれば、ありえなくはないと思った。
が、皇帝はその元星の王以外にも別の力が働いていると考えていた。この謎の監視の力はそのものの力ではなさそうだったからだ。
覇王はそう言う皇帝に、それについて質問を投げた。
「下天した神にはもう一人背後に何者かがいるということだ。そして、それもまた”神”の可能性がある」
「神が二柱も存在している、と言うことでしょうか?」
「まあ、状況的にそうなっちまうってわけだな」
皇帝は話をつづけた。下天したと言うその元星の王、それ以外にもそれに協力する存在がおり、それもまた「神」であると。
神、元星の王ともう一柱の神、つまり二つの神が敵であるのかと覇王が言えば、皇帝はそのとおりだと言うではないか。
「で、その背後にいる神ってやつ、……俺の予想だが、──────お前を転生させた張本人かもしれねぇぜ?」
「僕たちの世界にいた”転生神”っ!?」
そして、皇帝はその背後に存在するもう一柱の神の、恐るべき正体を語った。
それこそ覇王が前に生きていた世界に存在した、覇王をこの世界に転生させた神。そう────転生神だと、そうはっきり告げたのだ。
覇王はまさか、と思って大きく驚いた。
あの神は自分がまだこの世界に来る前の前世の世界の神であり、この世界の神ではない。
この世界には存在するはずのない神だからだ。
だが、周囲はその転生神と言う存在を知らないので、ん? という顔をするだけだ。
「これはあくまで予想だが、世界を消し去るほどの権能を保有しているのであれば、そんぐらいの存在だと考えられる」
「…………しかしそれならなぜ、今更僕たちの世界にいた転生神がそのようなことを……」
「さあな? 証拠隠滅とか、向こうの世界で何か不都合があったとか、ただ単に気まぐれなのか、そればかりはわからねぇ」
何故、そんな別世界の神の話を皇帝がしたかと言うと、覇王の話によれば神は世界を消すと言うではないか。
世界を消すほどの力を持つ神であり、この世界の神がそれを行う必要性がないのであれば、別の世界の神ではないか、と思うのは当然のこと。
さらに世界を消すほどの力を持つ神、であれば、転生・魂を司る神ほどの権能を持つのであれば、その力があれば世界を消し去ることができるかもしれない、という考察だ。
であれば、疑問が残る。
覇王はその疑問を口にする。それこそその「転生神」とやらが、どうやってこの世界に来たのか、何の目的でこの世界にやってきたのか、ということだ。
皇帝とてそればかりはわからない。神の思考などわかるはずもないのだから。
どうやってこの世界へと渡ってきたのかさえも、どうなのかさっぱりだ。
「神は一体何を考えているのでしょうね」
「わかりゃ苦労はしねぇなぁ」
アルビレオはいつも通りの笑みを見せながらそう言った。神は何を考えて世界を消そうとしているのか、それによって何が神にとってのメリットなのか、と。
当然、皇帝もわからない。故に肩をすくめて苦笑するだけだった。
「んで、キルとか言う奴は神が数年後にこの世界を消し去ると宣言したんだな?」
「はい、そう言っていました」
「と言うことはだ。時間の猶予は思ったよりも少ねえってことになる訳だな」
また、皇帝は覇王がキルから聞いた言葉を確認すると、覇王はすぐさま肯定した。
皇帝はつまり数年しか時間の猶予がないことを理解し、さてどうしてやるかと悩む仕草を見せる。
「とりあえず”神”の居場所はアルカディア帝国が総出で探し出す。そして戦力を集めて倒す」
「まずはそれでよいかと」
それで皇帝は自分の戦力を使い、神とやらが潜伏している可能性がある場所をしらみつぶしに探しまくって、見つけ次第戦力を整えた潰すと宣言。
話をずっと黙って聞いていた部下のメトゥーナトも皇帝の作戦に概ね同意し、小さく頷いていた。
「俺たちはどうすりゃいい?」
「お前たちはお前たちのすべきことをしてくれると嬉しいぜ。これもまた未来に必要なことだからな」
「そうじゃな」
ならば、自分たちは? とナギが質問すると、皇帝は今まで通りでよいと言った。
今、ナギたちはスピードワゴン財団と共に宇宙開発のことについて、色々なお偉いさんがたに話を通したりしているからだ。
これもまた魔法世界の維持に必要なことであり、未来に向けての重要な行動だ。故に、アリカも小さく頷き同意する。
「覇王やエヴァンジェリンは別にいつも通りで構わねぇ。ただ、何かありゃ呼ぶかもしれねぇからそのつもりで頼む」
「わかりました」
「ならばそうする」
また、別の二人も普段通りでよいと皇帝は指示する。麻帆良が襲われた関係上、この二人には引き続き麻帆良の防衛を任せたいからだ。
覇王もエヴァンジェリンも皇帝の指示に素直に従い返事をした。ただまあ、いつも通り生活しろと言われただけなので、特に何か気にするようなことはなかった。
「僕は調査に出た方がいいのかい?」
「あー、今はまだいい。何かあれば頼むかもしれねぇ」
「わかったよ。そのつもりでいるよ」
「ああ、頼む」
で、何も言われなかったフェイトが皇帝に質問すれば、皇帝は今すぐフェイトを動かす気はないと言う。
されど、いつでも動けるようにしておいてくれと皇帝が言えば、理解して頷くフェイト。
そんなフェイトへ、よろしくとニッと笑って皇帝は頼んだ。
「私はどうすればよいのでしょう?」
「お前はここで隠居してんじゃねえのか? まあ、何かありゃ呼ぶかもしれねぇな」
「あまり呼ばれたくはないのですが……、状況を考えれば仕方ありませんか」
で、もう一人呼ばれなかったアルビレオは皇帝へと聞くと、ここで隠居してんだから別にと皇帝は答える。
それでも貴重な戦力なので呼ぶ可能性もあるぞと言っておくと、何もなければいいですねぇ、とアルビレオは苦笑した。
「わたしはどうすればよろしいでしょうか?」
「おめぇもここでいつも通りだ。任せたぜ」
「ハッ」
最後に皇帝の部下であるメトゥーナトは新たな任務が与えられるかどうかを皇帝へ質問するが、皇帝は麻帆良防衛のためにここに残ることを指示。
それにメトゥーナトはアスナやアマネの護衛でもあるので、ここに残る以外の選択は今はまだない訳で。
そう指示を受けたメトゥーナトは膝を折って敬礼。
「話し合いは大体終わったところでよ、言いたいことがあったんだが」
「どうした?」
と、そこでナギが不意に話を切り出した。
皇帝は何か気になることでもあったのか? と言う態度で聞き返す。
「お師匠のことだよ! 何も聞いてねえぞ!! この前出会って死ぬほど驚いちまったぜ!! 幽霊でも出たかと思ってよー!!!」
「ああ、ゼクトのことか! いやーそうだった言い忘れてた!」
「そういえばそうでしたね」
「確かに教えてなかったな……」
が、ナギが言いたかったこと、それは文句だ。
クリスマスに麻帆良へ来てたまたまゼクトの顔を見て、ナギは初めてゼクトが生きていることを知った。
むしろ最初は死人が出てきたとさえ思い、驚いて飛び跳ねたほどだったとナギは叫ぶ。
そんなナギの声に皇帝は、言い忘れてたと笑い、アルビレオも微笑みならそうだったと相槌を打つ。
当然メトゥーナトもそのことを今思い出したようなことを言い出す始末。
フェイトもその話を聞いて、あの少年風の人物が生きていたことに少し驚いた。
で、その元凶だと思われる皇帝をちらりと見れば、知らんぷりして口笛を吹ているではないか。
こいつそういうことする、と思ったフェイトは無言と無表情ながら内心呆れていた。
「テメェらふざけんなよ!! そーゆーことは言っておくもんだろうがッ!!!」
「おーわりぃわりぃ!」
「すいませんでした。つい、うっかり」
「皇帝陛下がすでに教えているものとばかりに……、悪いことをしたな」
マジふざけんなよ、とマジ切れ文句を飛ばすナギに、皇帝もアルビレオもしれっとした態度で謝るだけだ。
ただ、メトゥーナトは皇帝がそのことを伝えてると思っていたようで、申し訳なさそうな様子を見せる。
その後もずっとぐちぐちとナギは愚痴りまくって文句たらたら言いながら、アリカになだめてもらっていた。
いやはや、まあ生きてたからいいじゃん、と思う皇帝とアルビレオだが、エヴァンジェリンやメトゥーナトは皇帝たちの態度に呆れた表情を見せるのだった。
まあ、こうしてとりあえず今後の方針などが決まり、皇帝はすぐさま行動を開始するのであった。
…… …… ……
──────魔法世界の北側に存在する謎の拠点。
黄金に輝くエジプシャンな宮殿内部で、すでに一つの戦いが始まっていた。
「テメェが転生者を裏で煽ってた野郎か!」
「巧妙に隠れながらやっていたが、ついに見つかってしまったか」
その宮殿内で戦いを繰り広げる一人は皇帝の部下の一人である熱海龍一郎。
そして、それに対峙して殴り合っている青肌でムキムキの男。この男こそが魔法世界で転生者が暴れている原因だった。
「そう、そのとおりだ。我はザインディード。神の契約者・信徒が一人、神々の山のザインディード」
「へっ、そうかよ!」
その男こそが「神」の契約者たる信徒、名をザインディードと名乗った。
ザインディードは魔法世界に存在する不満を持つ転生者たちをこの宮殿へと招き入れ、巧みな話術を使って魔法世界で暴れるように扇動していたのだ。
その原因を見つけ出した皇帝がすぐさま龍一郎へと原因の討伐を指示を出し、ここで戦っていると言う訳だった。
「見つかってしまったのであれば仕方あるまい。貴様を消して再び姿をくらますだけよ!!」
「やぁーってみな!! できるもんならなッ!!」
ザインディードはこの宮殿を見つからないように魔法結界などで覆って隠しており、隠れながら転生者たちを呼び込んで煽っていた。
が、皇帝に見つかり部下を送られたので、もう戦うしかないと覚悟を決め、ザインディードは龍一郎と殴り合いをしているのだった。
数時間にも及ぶ殴り合いにて、ザインディードは龍一郎の奥義を受けてダウン。
体のあちこちが炎に包まれ、メラメラと真っ赤に燃えてすでに動けなくなっていた。
「ぬう……、消えぬ炎…………。全身の気と魔力を燃やし尽くされてもなお消えぬ…………」
「”人間”じゃねえんなら、えげつねぇ戦い方したって気にならねぇからな」
「ぐっ…………、こんなバカな……。信徒たるこの我が…………」
されど、ザインディードは龍一郎の拳の炎に焼かれれば、その炎は消えずに体を焼き続けるではないか。
何を燃料にして炎が燃えているのかをザインディードは理解し、その燃料すらも空になってもなお燃え続ける炎に苦痛を感じながら、目の前に立つ龍一郎を睨む。
龍一郎の炎は選んだ対象のみを燃やすことが可能な炎だ。
それで相手の気や魔力、生命力などを炎の燃料にしてやり、消えぬ炎にしていた。
ただ、ここまでなりふり構わない戦法を使ったのは、ザインディードが人間ではなかったからだ。
ザインディード、その正体はランプの精霊。こすると出てくるアレと同じような存在だ。
半分実体がなく死なない体を持つ存在であるが故に、龍一郎は正攻法とは言えぬような炎の使い方でザインディードを打ち倒した。
もはや動けない程のダメージを受けたザインディードは、自分が敗北するなど思ってなかったと後悔を口に出すだけだ。
「テメェには捕まってもらうぜ。色々情報を吐いてもらわなきゃならねぇしな」
「そうは…………、いかんッ!!」
「む!? 何をしでかそうとしてやがる!!?」
「我はランプの精霊。このランプが命の楔ッ!! これが砕け散れば我は四散し消滅するッ!!」
「まさかテメェ!!?」
龍一郎はザインディードを”牢獄”へとぶち込もうと近づくと、ザインディードは情報を引き出されてはならないと考え、今ある全てに力を使って体を動かし始めたのだ。
なんとザインディードは自らの楔であるランプを拳で砕こうと、拳を振り上げたのである。
龍一郎はザインディードが自ら命を捨てようとしているのを見て、止めに入った。
「我は神の契約者なり!! 神に不利となるならば、永く生きたこの命とて惜しくはないッ!!!」
「させるかよぉッ!!」
「遅いッ!! 砕けろォッ!!!!」
が、ザインディードが拳を振り下ろす方が一手早かった。
そのまま叩きつけられた拳によって、ザインディードの命を繋ぎとめていたランプは砕け散り、粉々に四散してしまったのだ。
ザインディードは神の契約者として、神への絶対的な忠誠心を持っていた。
何故そこまで神に拘ったのかは不明だが、魔法世界で転生者を扇動させたのも神からの指示だった。
そう、魔法世界に存在する脅威を測るため、野良の転生者どもを利用していたのだ。
「チッ!?」
「さらばだ。アルカディアの皇帝の犬よ。神がこの世界を消し去った時に、また会おう──────」
龍一郎はしくじったことに舌打ちした。本来ならばこいつを捕まえて情報を吐かせる予定だったが、それが狂ってしまったからだ。
そして、ザインディードは要のランプを失い、別れの台詞と共にまるで煙が空に昇っていくかのようにして消滅していった。
「まさか永遠の命を持つものが、自ら命を絶つとはな…………」
隆一郎は見誤った。不死身の命を持つザインディードが、自ら死を望むことを予測できなかった。
何故なら、死なない命を望んで得たと言うのに、それを捨てる行為を行うなど普通は考えられないからだ。
いや、生命や精神が摩耗して疲れ切っているのであれば、死を望むかもしれない。
だが、そうでないのであれば、不死身の命を捨てようなどと、普通は思わないはずだからだ。
「だが、これで魔法世界の転生者どもも大人しくなるはずだ……」
情報を吐かせることは不可能となってしまったが、ザインディードが倒れたこと自体は悪いことではない。
魔法世界の転生者を扇動していた存在が消えたので、これ以上転生者が煽られて暴れまくることも減るはずだと、龍一郎はプラス思考を行い皇帝へと報告するために戻るのだった。