正月過ぎの冬休みの最中、エヴァンジェリンの”別荘”の中に、二人の男女がふらりと現れた。
「へぇ、ここがエヴァンジェリンの別荘ってやつか」
「ほう、よくできておるのう」
それこそナギとアリカだった。
ナギはダイオラマ魔法球、別荘と言うこの場所に少し興味を持った様子で周囲を伺い、アリカも魔法球の完成度の高さに感心を覚えた様子だった。
「親父!? お袋!? 何故ここに!?」
「来ちゃ悪ぃってのかよ? ちゃんとここの主には許可取ったしよ」
「いやまあ別にそうじゃねーけどよぉ……」
予想外な二人の登場にカギは目玉が飛び出すほどの勢いで驚きながら飛び上がった。
そんなオーバーに驚くカギを見て、呆れた様子のナギ。一応エヴァンジェリンに言付けて入ってきたってのに、なんで驚かれなきゃならんのかと。
ただまあ、まさか
「父さんに母さん? どうしたんですか?」
「なあに、息子どもの修行現場ってやつを見学しに来たのさ!」
「日ごろから息子たちが何をしているか、知りたいと思ったのでな」
「そうでしたか」
ネギも両親の登場に気が付いてどうしてここへと聞くと、ナギもアリカも息子たちの普段の行動を見に来たと笑って言うではないか。
その言葉にネギは、確かにあまりそういうところを見せてなかったと思い、納得の仕草を見せた。
「仕事っつーか、魔法世界のために活動を始めたら、また中々会えねぇからな。その前にちょいと息子二人の顔を思う存分見ておこうと思ってな」
「殊勝なこってぇ」
「兄さんはすぐそうやって悪ぶるよね」
「っせーな! 俺はワルなんだよ!!」
と言うのも、ナギとアリカは魔法世界のための宇宙開発事業のために、魔法世界と旧世界の両方の各地を飛び回っている。
故に、普段息子たちに会いに来ることができないので、この休暇に息子たちのことを見て行こうと思ったのだ。
が、あんだけ放置しといて面白いことを言うなー、という態度で悪態付くカギ。別に気にしてねーから、というのがカギの意見だ。
されど、ネギはそんなカギに素直じゃないねとつっこむと、カギは照れ隠しみたいに怒ったようにネギへと叫ぶ。
「二人とも元気そうで何よりじゃな」
「んじゃ、元気なガキどもの相手になってやるか!」
ネギとカギのやり取りをアリカは微笑みながら眺め、ナギはそれなら自分と戦おうかとニヤリと笑って突如言い出した。
「は? バトんの!?」
「修行してんだろ? だったらてめぇらの父親の実力をとくと見せてやろうかと思ってよ!」
「父さんの実力を……!」
なんか急に戦うと言い出した父親に、何言ってんだって顔で問うと、当然父親として自分の力をガキどもに見せてやらないと、と言い出した。
ネギはナギの今の言葉に、驚きながらも喜びを感じていた。憧れていた父親のナギ、その実力を自分の手で確かめられるからだ。それこそネギの念願の一つでもあった。
「主が本気で暴れると地形が変わるのだから、多少は手加減するのじゃぞ……?」
「うるせぇよ! 言われなくともわーってるって!」
ただ、ナギがガチでやりだしたらこの魔法球内が滅茶苦茶になりかねないので、そこをしっかり釘を刺すアリカ。
アリカにそれを忠告されたナギはわかってると不貞腐れた様子で言う。ちょっと模擬戦するだけでこの場所を破壊したい訳ではない、というのは一応頭にあるようだ。
「で? どっちから先にかかってくる? 両方同時でもいいぜ? その方が面白そうだしな!!」
「親父ぃ……、ナメすぎだぜ? 俺とネギが二人で掛かったら、いくら親父でもボコボコのギッタンギッタンになっちまうわ!」
「えっ!? 二人で父さんを!?」
「ハッハッハッ! 言うじゃねーか! んじゃ、本当にそうなるか試してみろ!」
そこで戦うならどっちだ? 二人がかりでも問題ない、と強気の態度で挑発するナギ。絶対的な自信があるからこその宣言だ。
カギはナメられている思い、ネギと二人なら親父でも問題なく倒せると逆に挑発し返せば、ネギは急に自分が巻き込まれたのを聞いてカギを見て驚く。
強気の態度なカギに、ナギはむしろ満足気に笑いながら、だったらそれでいい、一緒にかかってこいと自信満々に告げた。
「調子こけんのも今のうちだぜッ!! 行くぜネギ!!」
「う、うん! わかったよ兄さん!!」
だが、カギとて二人で戦えばナギを倒せると考えて、ネギへと合図を送りながら構えれば、ネギもカギの言葉に賛成しながら同じように構えを取った。
「”雷神斧槍”ッ!! ぶっ潰してやらぁッ!!」
「”最果ての光壁”ランスモード! 行きます!!」
そして、二人は即座に杖を媒介に術具融合を作り出し、一斉にナギへと迫ったのだ。
「ほう? それがてめぇらの自慢の武装か! いいぜぇ! 面白れぇ!!」
「余裕かましてんじゃねーぜッ!!」
されど、ナギはそれをサッとかわして宙へと飛び上がりながら、二人の術具融合を眺めてニッと笑う。
カギはナギのそのナメた態度を見て、追うようにして空へと飛び上がりながらさらに文句を叫び、攻撃のスピードを加速させていく。
当然ネギもナギを追うようにして宙へと舞い、空中で三人は何度も激しく衝突していく。
「二人は随分と正反対なようじゃな……。しかし、カギの血の気の多さはナギ譲りなのか……? ネギは理論派のようじゃが……、ギガントが面倒見てくれていたせいか? 元々そう言う性格なのか?」
三人の戦う姿を眺めながら、二人の息子の性格を分析するアリカ。
カギは割とナギに似ている部分が多いと感じ、ネギは理知的な行動が目立つことに気が付く。
そこでふと、ネギの面倒を肯定の部下であるギガントがしてくれていたことを思い出した。
ネギの今の性格はそれのおかげなのか、それとも元からそういう気質なのか、とアリカは悩む。
何せカギもネギも産んだ後、この10年間一度も顔を見ていなかったのだ。
二人の性格がどうしてそうなったのか、アリカもわからないのである。
「ギエーッ!? ぶん殴られただけでこのダメージ!? 意味が分からねぇ!?」
「おいおい! どうしたどうした!? その程度じゃ俺は倒せねぇぜ!!」
「ちっ! チクショー!! ザケンナコッラーッ!!」
そういう風に悩むアリカなど気にせず、空中では三人が何度も激突して衝撃波を生み出し続ける。
ナギが超速度でカギの顔面をぶん殴れば、カギは吹き飛びながらたった一撃でこれほどの威力を……? と驚く。
障壁も砕くわ術具融合を防ぐわで、なんというかぶっ壊れてんなこの親父、と心の中で悪態をつく。
そんなカギにさらに挑発して攻撃を催促するナギに、カギは態勢を取り直して再び攻撃を再開。
「父さんッ!!」
「いい攻撃だ! だが、それじゃ俺は貫けねぇなッ!」
「最果ての光壁を殴って止めるなんて!?」
「残念だったなッ!!」
「ぐあっ!?」
さらにネギも同時に攻撃。最果ての光壁をナギへと突き出すが、ナギはそれを拳一つで受け止めたのである。
流石のネギも自慢の武装をこうも簡単に防がれたことにショックを受けて驚き、ナギはその隙をついてネギを蹴り飛ばして吹き飛ばす。
「なんだこの理不尽さは!? おかしいだろ!?」
「流石はラカンさんと互角かそれ以上と言われていた父さん……。恐ろしい強さだ」
「ネギはあいつんとこでも修行したんだってな? どおりでなんか無茶苦茶かてぇと思ったぜ!!」
「修行していた……、と言うのはそうですが……」
二人がかりでさえ押し切れずむしろ押されている現状に、カギはバグかよこいつ、と困惑する。
確かにやたら強いのは知っていたが、全盛期レベルのナギの強さを実感し、冗談みたいなパワーに圧倒されるばかりだった。
当然ネギも父親の実力に度肝を抜かれ、あのラカンと殴り合った人間だと言うことを思い出して戦慄。
ナギはラカンと言う名前を聞いて、ネギがラカンのところで修行していたのを聞いたことを思い出す。
と言うのも、ネギの防御はカギとは比較にならない程に頑丈だ。ナギの渾身の攻撃でも、はじき飛ばすだけでダメージは入っていない。
あのラカンが修行を付けたからこんなに硬いのだとナギは考えたのだ。
で、ナギはそれを言えば、ネギはまあそうだけど……、と濁した感じで言いづらそうに小さく口に出す。
と言うのも、確かにラカンのところで修行したが、ラカンに稽古をつけてもらったとかではなく、ひたすら自分の術を開発していただけだったからだ。
「カギも随分俺みてぇな戦い方するな! そっくりすぎてちょっとキモいぜ!!」
「グエーッ!? 俺の心にクリティカルヒット!!」
「そこまでショック受けることかよ!?」
さらにナギはカギの戦闘方法が自分にかなり似ていることに気が付き、それを言い放った。
魔力で肉体を強化してぶん殴ったり大魔法でぶちのめすスタイル、パワーでごり押しする戦法こそ自分に似ているとナギは思ったからだ。
が、カギにとってそれは当たり前のことでもある。何せカギは転生特典に”ナギの能力”を貰っていたからだ。
故に、ナギと近くなるのは至極当然であり、それを特典元の本人から言われたのだから、精神的ダメージと衝撃は大きい。
なのでカギは苦しの声を大きく叫び、己の黒歴史に狂い悶える。
ただ、ナギはカギの転生特典やらなど知らないので、自分と同じスタイルと言うのがショックだったように聞こえ、酷くねえか? と逆にショックを受けたのだった。
「こうなったらヤケクソだ!! 一矢報いてやるぜ!! コンチクショー!!」
「自棄になったらむしろ勝てないよ!?」
「ヘッ! やってもらおうじゃねぇか!!」
「やってやらぁーッ!!!」
されど、ナギの攻撃は激しさを増すばかり。このままでは手も足も出ずにボコボコのギッタンギッタンにされるのは自分たちだと焦燥するカギ。
そんなカギにネギは、破れかぶれになったとしても
しかし、ナギはカギの言葉に反応し、さらに加速して攻撃してくるではないか。
ナギの滅茶苦茶な猛攻にカギもたじたじになりながらも、それでも魔力を強く練り上げ、雷神斧槍をナギへとぶつけた。
「ナギのやつ、息子たちとじゃれあえて楽しそうにしおって。まったく羨ましいかぎりじゃな……」
空中でハチャメチャなバトルを繰り広げる父親と息子二人を、ただただ羨ましいと眺めるアリカ。
あのようなコミュニケーションは男どもの領分であり、自分はできないと思うからだ。自分にはできない方法での親子同士の交流だからだ。
ああやって楽しそうに、本当に本当に嬉しそうにするナギを見て、自分も息子二人と交流したいとアリカは思う。
「あっ、アリカ。やっほ」
「アスナではないか」
そんな少し寂しそうにしているアリカへとアスナが近寄ってきて軽い挨拶をすれば、アリカもアスナに気が付いてそちらの方を見た。
「ナギは……、二人と
「うむ」
アスナはアリカがここにいてナギがいないのを見て、ふと周囲を見渡せば空で息子らを相手にするナギの姿が見えた。
滅茶苦茶楽しそうにするナギと、苦戦して辛そうにしながらもなんだかんだ言ってさわやかな様子の二人に、アスナは楽しんでるなあ、と言う感想が浮かぶ。
アリカもアスナの言葉に、本当にそうと言う感じで肯定。
「そういえば主ともゆっくり話せんかったな。どうじゃ? 生活の方は? 元気でやっておるのか?」
「私は元気でやってるよ? そっちこそ忙しそうだけど大丈夫?」
「こちらも問題ない。この多忙の先に魔法世界の安寧があるのじゃからな」
「それならよかった」
と、そこでアリカはアスナともあまり話せてないことを思い出し、アスナへと色々と話しを振ると、アスナも微笑みながら受け答えしつつ、アリカのことを尋ねる。
アリカは今、スピードワゴン財団の支援を受けながらナギや皇帝の分身とともに宇宙開発のための根回しを行っている。
そのためかなり忙しい毎日を送っており、こうしてゆっくりしていられる時間は少ないのだが、それでも魔法世界のための活動であり体調にも気を使っているので大丈夫だと言った。
それを聞いたアスナはアリカの言葉を信じ、安堵した様子を見せる。
「しかし、あのアスナがこれほどに大きくなるとはのう。感慨深い」
「ふふ、まあね!」
そして、アリカは小さかったあのアスナがこんなに成長したことに対して、大きな喜びを感じてそれを話すと、アスナもニコっと笑ってクルりと一回転して成長した姿をアピール。
「そう言えば、メトゥーナト……、こっちでは来史渡だったか。彼のことを父と呼ぶようになったそうじゃな?」
「うん、そうだよ。私のことを親身になってくれた人だから、そう呼びたくなったの」
と、そこでふと思い出したかのように、アリカがアスナがあの皇帝の騎士を父と呼ぶことにしたのを話せば、アスナは肯定しながらその理由を静かに語った。
「なるほど。あやつに主を預けたのは正解だったようじゃな」
「だから私、パパにはすごく感謝してるよ」
「そうか」
アリカはメトゥーナトにアスナを託してよかったと、心の奥底から思った。
あの堅物みたいな騎士がアスナのことを親身になって面倒を見てくれていたのだから、一族として、血縁者として、気に掛けた者として感謝しかない。
感謝しているのはアスナも同じだ。
メトゥーナトが本当の父親のように接してくれたことが、何よりも嬉しかったのは間違いない。
だからアスナはそのことを話しながら優しい笑みを見せ、アリカもアスナの笑顔を見て自然と柔らかな表情をした。
「友人も多いようであるし、もう心配は無用じゃな」
「そのとおり! もう大丈夫! これからは私、みんなと歩いていけるから!」
また、今のアスナはそれ以外にも友人に恵まれ、明るい性格になった。
もう自分が心配する期間は終わったと、アリカは小さく笑んで話した。
アスナはアリカの言葉に、安心してほしいと元気に言う。
もうみんなから心配されるようなことはないよ、友達と、仲間と一緒に頑張っていけるから、にこやかに宣言したのだ。
「しかし、あやつら無茶苦茶しおる……。注意しておいたと言うのに……」
「まっ、まあ、元気でいいんじゃない……?」
と、そこでもう一度ナギたちの方へと視線を戻せば、熱くなって白熱した戦いとなっており、周囲を巻き込んで破壊しながらぶつかり合うナギと息子らの姿が見えた。
暴れるにせよ手加減しろと言った傍からこれかあ、とアリカは頭を押さえて呆れており、アスナも庇護するようなことを言いつつも苦笑していた。
そんな感じで別荘内で過ごした一同だったが、あとで別荘が滅茶苦茶になっていることをエヴァンジェリンから文句を言われて叱られまくったりするのだった。
…… …… ……
ここはゼクトが住むボロ屋敷内に設置された、ゼクトが保有するダイオラマ魔法球の内部。
ゼクトの弟子となった裕奈が修行をするためにやってきたが、もう一人友人を連れてきた。
「へえ、こんなところにも修行の場なんてあったのね」
「おや、あなたは確か……」
「ゆーなの友人のトリスよ」
「そうでしたか。僕は川丘初風と言います」
「ふうん。よろしく」
友人はトリスだった。トリスはなんかもうすでに裕奈の友人の一人となっており、わりと戦闘においての相談に乗ったりするようになっていた。
と、魔法球内に既にいた初風は、トリスを見てあの時の……、と思い出しながら声をかければ、そういえば裕奈を治療してくれたことに礼を言ったが自分からは名乗ってなかったのを思い出したトリスは、そこで自分の名を名乗った。
初風も名乗られたからには名乗らないのは無作法だと思い名乗り返すと、トリスはふうん、と言う様子でよろしくと言った。
「友人を連れてきたのか?」
「はい! トリスもすんごく強いし、ちょっと模擬戦してもらったりしたいかなって思いまして!」
「そういう理由で連れてこられたの? まあいいけど」
ゼクトはトリスを見てそれを裕奈に聞くと、裕奈は元気に連れてきた理由を説明。
裕奈はトリスが強いことを知っているので、戦いの指南とかしてくれると嬉しいなって思ったのである。
トリスはここに来るまで理由を教えていられなかったので、そうなんだ、と思いながらも特に気にした様子はなかった。
「模擬戦するにしても、私は何をすればいい訳?」
「えーっと、とりあえずちょっと手加減して戦ってほしいかなって」
「そう。まあそこらへんはこっちが勝手に調整してもいいのね?」
「お願い!」
が、急に模擬戦と言われてもどうすればいいのかわからないトリスはそれを裕奈へと問う。
すると裕奈はトリスの強さと自分の強さを測って、トリスに手加減しながら軽く戦ってほしいと要望を出せば、手加減のレベルは自分が戦いを通じて変えればいいと考えて聞き返す。
その通りと言う感じで裕奈は両手を合わせ、強く頼むしぐさを見せた。
「じゃあ、早速やりましょうか? 構えなさいな」
「ありがとう! じゃあ、
ということで、早速トリスは模擬戦の準備に取り掛かり、戦う姿勢を見せる。
とは言え、足の具足は装備せず、普通の靴で戦うことにした。模擬戦なのだから凶器は使わない方がいいかな、と思った故の判断だ。
また、トリスが戦闘態勢になったのを見た裕奈は礼を言いつつ、自分も準備のためにアーティファクトを起動。
銃のアーティファクト、七色の銃を握りしめてトリスへと向けた。
「あら? アーティファクト? 誰と仮契約したの?」
「そこの初風さんとだよ!」
「そう。ふーん? なるほどね?」
トリスは裕奈のアーティファクトを見て、おや? と思った。
というのも、アーティファクトは仮契約や本契約で得る魔道具であり、誰かと契約しなければならないからだ。
なので、誰が契約者だろうか、と疑問に思うのも当然だった。
そんなトリスに裕奈は特に隠すこともなく普通に答えた。
そこにいる年上の男性である初風が契約主、つまり
するとトリスは何かを察して訝しみ、ジトっとした目で初風を見た。
「なっ、なんですかその目は……。やましいことはしてはいませんよ」
「そうなの? ふーん?」
初風はトリスに怪しい視線を向けられたのを察して、
年下の女子中学生相手に、犯罪まがいな方法を取るはずがない、取る訳がないと。
何せトリスは”原作知識”があり、仮契約と言えばキスだと思っているところがあるからだ。
本人はエヴァンジェリンとそれとは別の方法で仮契約したと言うのに、中々酷い女である。
ちなみにトリスが仮契約で得たアーティファクトは、身体能力や体調などの数値をデータ化して詳細に見ることができる、ペンギン型のアーティファクトだったりする。
戦闘には全く使えないので戦いに使わないが、日々の体調管理に役立つので地味に重宝している。
「まあ、──────行くわよ?」
「っ!!!」
と、そんなことは置いておいてと、トリスは裕奈へと再び向き直して構えれば、その場から姿を消したのだ。
裕奈は驚きながら消えたトリスを追うようにして周囲を警戒するが、見えざる速度で動くトリスを見つけることができなかった。
「今ので本当ならもう負けてるわよ? 頑張りなさい!」
「早ッ!?」
が、次の瞬間、裕奈のすぐ目の前にトリスが現れ、クスクスと笑うではないか。
そしてその後トリスは再び姿を消しながら裕奈を煽る言葉を放つ。
それを裕奈はただただ驚愕しながら聞くことしかできなかった。
「見えたっ! このっ! ”魔力禁止弾”ッ!!」
「この状態でもその程度なら回避可能よ? 強力な効果の攻撃もあたらなければどうということはないのよ!」
「くっ!!」
トリスはこれじゃ模擬戦にすらならないと判断し、あえて速度を落として裕奈に見えるように動くことにした。
裕奈はそれを察してトリスの行動を目視すると、そこへ七色の銃を向けて魔力弾を発射。
一定時間受けた相手の体内の魔力を封じて消失させる弾丸だ。
誘導すら可能なこの魔力弾すらも、トリスには命中しない。
速度を落としていても回避は容易であり、壁や地面を使って弾丸をうまく回避。
こうも簡単に自分の攻撃を防がれてしまった裕奈は、悔しそうな表情を見せた。
「ほらほら! 私に当たられるようにならない限り、私に勝つことは不可能よ!!」
「速すぎッ! 当てられるのこれ!?」
「さぁね? あのアルスとか言う男でさえも、高速移動中の私には魔法を当てることなんかできなかったわよ?」
「じゃあ当てられないじゃん!!」
「動いてる時はそりゃそうね? 頑張って当てて見なさい!」
「このーッ!!」
超スピードで裕奈の弾丸を回避しながら、トリスはペラペラ語り掛けまくる。
攻撃が当たらなければ勝ち目はないと、当てて見なさいと自信満々に告げるのだ。
が、裕奈としてはもはやスパルタ訓練めいた状況であり、見える程度に落としているはずの速度のトリスすらも、攻撃を命中させられないでいた。
それもそのはず、無詠唱で魔法を放てるアルスですら、この状態のトリスには攻撃を当てることはできなかった。
トリスはその事実を裕奈へ告げれば、裕奈はそれは無理と叫んで困った。アルスができないのであれば、自分にできるとは思えないからだ。
だが、それでもトリスはアルスに負け、未だにその一敗をかなーり悔やみ、少しばかし恨みがましく思っていたりする。
それはそれとして、そこでトリスは当てれる方法みたいなもののヒントを、ちょいと裕奈へ教えてやる。
動いてる時に当てれないのであれば、止まった時に当てればよい。動きを止めればよいと。
裕奈もそれを聞いてそれに気が付くが、さて自分の攻撃で果たしてトリスの動きを止められるのか、と不安が残る。
されど、そうしなければトリスに攻撃を当てることができないのであれば、やってみるしかないと考え、がむしゃらに七色の銃と魔法銃をトリスへ向けて、弾丸を発射しまくるのだ。
「あの娘、かなりのやりてのようじゃのう」
「ですねぇ。僕はかなり相性悪い相手ですね。敵対したくないですよ」
「じゃろうなあ」
ゼクトはトリスの戦いぶりを見て、結構強いことに気が付いた。
なるほど、言うだけある。裕奈が強いと話すだけある。紅き翼にいたとしても遜色ない実力だと、ゼクトもトリスを評価した。
横で同じく裕奈とトリスの戦闘を観察していた初風も、トリスのスピードとパワーには驚きを隠せない。
流石強い特典を貰っただけあるなあ、と思う初風は、自分は完全な魔法使いスタイルなので、戦ったら不利で辛いなあ、と思う。
それはゼクトも気が付いており、静かに初風の言葉を肯定する。
そして、裕奈とトリスの初めての模擬戦は、トリスが余裕をもって攻撃を回避し続けて勝利。
裕奈はかなり悔しそうにしていたが、それでも次につながるようにと色々考えてトリスの対策を立てていく。
そんな裕奈にトリスは小さく笑いながら、友人の成長を見守るのだった。