明らかに不利なネギ
さて、この第六試合はあのネギとタカミチの戦いである。
”原作”ならばネギは中国拳法を習得していた。
だがここのネギはそれを習得していない。
つまり、完全な魔法使いスタイルなのである。
そんなネギが、どうタカミチと戦うのか、それは本人しかわからないことだった。
――――――とうとうまほら武道会第六試合が始まった。
子供先生ネギに対するは学園広域生徒指導員、通称デスメガネ、高畑・T・タカミチである。
ネギは今回の大会に杖を持って来ており、それを握り締めてタカミチへと挑むようだ。
そこで、両者とも規定の位置につき、開始の合図を待つのみであった。アスナたちも静かにそれを眺めていた。
「さあやろうか、ネギ君」
タカミチがそう言うと、両腕を上着のポケットへと入れていた。
この一見ふざけたかのような構えこそ、タカミチの戦闘態勢なのである。
また、タカミチから放たれるプレッシャーにネギは少し圧せらるも、当たって砕けろ、砕ける前に砕け、その精神でそのプレッシャーを跳ね除けたのだ。
そして誰もがこの試合を息を呑み見守る中、ついに火蓋は切られた。
ネギはまず”戦いの歌”と”風楯”を使用。
このネギは殴り合いや”瞬動”などを行うことが出来ない。ではどうするか。
防御しながら魔法の射手で攻撃しかないのだ。
つまり、攻撃技は全て無詠唱の魔法の射手のみで戦う以外ないのである。
だが、相手のタカミチも中距離での戦闘を得意とする。ということは、詠唱も無くただ拳を打つだけで攻撃できるのだ。
したがって、タカミチのほうが圧倒的に有利となる。
するとタカミチの無音拳、ここでは”居合い拳”と呼ばれているものが、ネギに向かって飛んできたのだ。
これは音も無くポケットから飛び出す、拳からの拳圧による遠距離攻撃である。
この攻撃は目に見えぬほどの拳の打ち込みであり、見切らなければ何が起こって居るかもわからないほどの攻撃なのだ。
だが、ネギはそれを防御で耐えていた。なんという堅牢さか。
このネギが目指すものは、近距離戦闘も出来る魔法拳士ではない。
遠距離戦闘に特化した魔法使いなのである。
しかし、完成された魔法使いは、距離を関係なく戦うことが出来る移動砲台となることも可能となる。
つまり、今のネギが目指すものは、その移動砲台だ。
また、この居合い拳を無傷で耐えたネギに、タカミチは驚いていた。
「やるね、ネギ君。この攻撃を無傷で防ぐなんてね」
「出来るかは賭けでした。でも成功する自信もありました」
ネギは魔力の操作の基礎の基礎から叩き込まてきた。
それは魔法に使用する魔力量を増やすことによる、魔法の強化も出来るということだ。
だからネギは普段よりも多くの魔力を”風楯”に使用することで、その障壁の強度を高め、防御力を上げたのだ。
だが、防御だけではタカミチは倒せない。
さあ、どうするネギよ。
「だけど守っているだけじゃ僕には勝てないよ?」
「わかってます。だから僕も攻めに行きます!」
するとネギはいったんしゃがみ、杖を床につき一秒だけ待ったかと思えば、その次の瞬間、高速でタカミチへと接近。
これは瞬動ではない。ただの”戦いの歌”により魔力での身体強化を利用した移動でしかない。
つまるところ、今のネギでは瞬動が使えるタカミチを、捕えるのは難しいということだ。
しかしネギは、そのタカミチの移動を追いながら、遅延魔法による無詠唱での魔法の射手を溜め続けていた。
その間にもタカミチの居合い拳が次々にネギへと突き刺さる。
「それじゃ僕には追いつけないよ、どうするんだい? ネギ君」
「はい、それもわかってます」
ネギはタカミチの居合い拳を防御し、魔法の射手を撃ちつつ、タカミチを追うしかなかった。
されど、魔法の射手もタカミチの操る居合い拳の拳圧によりはじかれ、命中することはない。
これではただの鬼ごっこでしかないのである。
いや、そもそもあのネギが、闇雲にこのような真似をするだろうか。
そんなはずがないだろう、何か意図があるはずだ。
そう何度もネギがタカミチを追跡していると、タカミチが最初にネギのいた場所へと移動したのだ。
その瞬間ネギは、魔力を使いトラップを起動したのである。
「”重く沈む万有の檻”!」
「――――これは!?」
ネギがトラップとして使用した魔法は重力魔法であった。
その魔法にとらわれたタカミチは、数十倍という重力の力により、足が床に沈み身動きが取れなくなった。
そう、ネギは闇雲にタカミチを追いながら、単純に魔法の射手を飛ばしていたのではなかった。
この自分の仕掛けたトラップを引っ掛けるために、タカミチを巧みに誘導していたのだ。
あの時、最初しゃがんだ時に、ネギはこの魔法を設置したのである。
はっきり言えばこれも大博打であった。
なぜなら設置がバレれば意味もないし、タカミチがトラップに引っかかる可能性も高くはないからだ。
だが、ネギは運と実力をもって、そのチャンスを物にしたのだ。
しかし、ネギはなぜ重力魔法を覚えたのだろうか。
それは難しいことではない。あのアルビレオに重力魔法を教えてもらったのである。
このネギが見た魔法で最も印象が強かったもの、それは師匠であるギガントが用いた引力の魔法だった。
つまり、ネギが重力の魔法を覚えたいと思うのもまた、必然だったのである。
「まさか重力魔法での束縛とはね」
その罠にはまったタカミチも、まさかネギが重力魔法を使用してくるとは思っていなかった。
なにせタカミチが知る中で重力魔法が得意なものは、あのアルビレオぐらいしかいないからだ。
また、ネギがすでにアルビレオに出会っていることを、タカミチは知らなかったのだ。
この絶好の機会を逃すことは許されない。
だからネギは溜め込んだ雷の魔法の射手11発を近距離でタカミチへと放ったのだ。
「魔法の射手! ”集束、雷の11矢”!!」
その雷の魔法の射手がタカミチへと命中すると、タカミチは吹き飛ばされ池の方へと飛んでいった。
だが、この程度でタカミチが倒れるはずがない。
そうネギは考え、次の攻撃の準備へと移りつつ、吹き飛ばされたタカミチの方を見れば、なんと池の上を歩き、平気な顔をするタカミチが居たのだ。
とは言え、実際タカミチは今の魔法でそこそこダメージを受けていた。
ただ、平気そうに見えるだけなのである。
「今のには驚かされたよ、流石ネギ君だ」
「やっぱり、今ので勝てるほど甘くはないですか……」
平気そうなタカミチを見たネギも、この結果をわかっていた。
だからこそ攻撃態勢を解かないのだ。
そこでタカミチはそろそろ本気を出そうと考えたようだ。
なにせ自慢の無音拳、いやここでは居合い拳ではネギに思うようにダメージを与えられないからだ。
だからこそ、男と男の勝負として本気を出すことにしたようだ。
「ネギ君、僕は今日、嬉しいことばかりだよ」
と、その前にタカミチはネギへと微笑みながらネギへと語りかけていた。
流石は自分が憧れたナギの息子だ、これほど嬉しいことはないと。
ネギを少年ではなく男として認め本気を出そうと、静かにネギへと話したのだ。
そこで、タカミチは左手に魔力を、右手に気を集中させたのだ。
「”合成”!」
タカミチがそう言うと、気と魔力が両手の中で混ざり合う。
するとすさまじい衝撃がタカミチを中心に放たれたのである。
本来、気と魔力は反発しあうものだが、これを合成することによりとてつもない力を得ることが出来るのだ。
――――――これが、咸卦法というものである。
しかし、しかしネギは知っている。この力を知っている。何せアスナが平気でよく使っていた、あの技術なのだから、知らないはずがなかったのだ。
ほんの少しだけしかアスナの咸卦法を見たことがないネギだが、あの技術のすさまじさを近くで感じていた。
だからこそ恐ろしい、これからが本番だと、ネギは考えていた。
そこでタカミチは、ネギへ一言忠告を入れた。
「一撃目はサービスだ、避けろネギ君」
そのタカミチの言葉の直後、すさまじい轟音と共に大砲のような一撃が、床を揺らした。
それが命中した場所にはまるで砲弾が着弾したかのような、巨大なくぼみが出来ているではないか。
なんという威力だろうか。これこそが”豪殺居合い拳”というものだ。
その一撃に流石のネギも戦慄し、少し怯えた表情をしていた。
今の一撃、自分の風楯をもってしても防げそうにないからである。
と、その光景を見ていたアスナは、ずっと細い目でタカミチを見ていた。
そこへやってきたのは、メトゥーナトであった。
「どうやらタカミチのやつ、少し本気を出すようだな」
「まったく、大人気ないわねえ」
メトゥーナトはアスナへ話しかけ、聞いたアスナも、試合を見ながら言葉を返す。
ちょっと小さい子をいじめすぎでない? と二人は思ったようだ。
また、刹那や小太郎はこのネギの試合に夢中で、回りを気にしている余裕がないようだった。
そんな中、微妙にしかめ面をしたアスナだけが、メトゥーナトの存在に気がつき話しているようだ。
「さて、どうするのやら。高速回避が出来ない少年には、あの状態のタカミチはつらいだろう」
「砕け散るしかないんじゃない? この状況をひっくり返す力がネギにあるなら、それはそれですごいことなんだけど」
なんせあの豪殺居合い拳、とんでもない威力なのだ。
あれが避けれなければ厳しいとメトゥーナトは判断していた。
またアスナも砕け散って当たり前、これで逆転できるのなら、とんでもないやつだろうと考えていた。
そうアスナとメトゥーナトが会話している間に、ネギは防御をしつつなんとか豪殺居合い拳をいなしていた。
ギリギリでネギが豪殺居合い拳を回避できているのは、タカミチが観客席に気を使い、斜め下へとそれを放っていたからだ。
「守りきれない……!」
この状況にネギは焦っていた。
この威力の居合い拳を防ぎきれないからだ。
ギリギリで何とか直撃だけを回避し、余波を障壁で防いではいるが厳しい状況だ。
そこでタカミチはネギのほぼ真上へと飛び、直撃ルートの豪殺居合い拳を出そうとする。
それを見たネギはマズイと考え、最大の防御”風花・風障壁”にてそれを防御。
しかし、防いだのはいいがネギはタカミチを見失ってしまい、その隙にタカミチはすでに、ネギの背後へと回っていたのだ。
「風障壁は優れた対物理防御魔法だが、効果は一瞬。連続での使用は不可能という弱点がある」
律儀にタカミチはネギが今使った障壁の説明を述べていた。
だが、ネギはその言葉を聞いて振り向く暇などなかった。
そこへ豪殺居合い拳が襲い掛かろうとしていたからである。
そこでネギはとっさに魔法を使った。
それはなんと”火を灯れ”であった。
それをタカミチの顔へと使うと、不意に入った強い光で一瞬タカミチは目をくらまされ、そのおかげでタカミチが今放った豪殺居合い拳はネギに直撃せず、かすっただけにとどまったのである。
「まさか、そんな手で今のを避けられるなんてね……」
「防御や攻撃だけが魔法じゃない!」
火を灯れは簡単に使える魔法である。
故に無詠唱も簡単に出来るのだ。
されど、これを無詠唱で唱えようという魔法使いは誰もいない。
なぜならライターを使った方が、効率が良いからだ。
その固定観念を利用した戦法であった。
とは言え、今の状況は一時的に難を逃れたにすぎない。
今の手がもう二度とタカミチには通用しないのを、ネギはわかっていた。
だから次の手に移ることにしたのだ。
「この距離なら…………”足引く枷”!」
「――――むっ!?」
するとネギは次に、周囲の重力を少しだけ重くする魔法を使ったのだ。
弱い重力魔法だが、今のネギが使える無詠唱での重力魔法はこれが精一杯なのである。
しかし、先ほどのトラップの数分の一程度の重力の増加でしかないが、タカミチは一瞬動きが鈍くなった。
突然の重力上昇に、あのタカミチも反応が遅れたようだ。
そこへネギは、今まで再び溜め込んでおいた魔法の射手をタカミチへと放つ。
「魔法の射手! ”集束、雷の22矢”!!」
「クッ!?」
今度は先ほどの倍の魔法の射手だ。
それを再び近距離でタカミチに命中させたのだ。
この攻撃に流石のタカミチも、苦悶の表情と共に苦痛の声を漏らしていた。
「やられたよ…………。だけどね」
「っ!? しまっ――――――」
――――――だが、ああ、だがしかし。
ネギが魔法を撃った一瞬の隙を、タカミチは見逃さなかった。
その一瞬の隙を狙った豪殺居合い拳が、ネギへと直撃したのだ。
なんということだ、まさかのカウンターとは。
ネギも今のは予想できなかったため、一瞬混乱したようだ。
また、風楯こそ張ってはいたが、この直撃には耐えることが出来なかったのだ。
そこでさらに、そこへもう一撃、床とネギを挟むように豪殺居合い拳が放たれた。
その一撃により、ネギは完全に動かなくなってしまったのである。
「今のは効いたよ、はっきり言って危なかったかな……?」
今の魔法の射手はかなり効いたようで、タカミチも少しだがふらついていたが、最後の最後に立っていたのはタカミチだった。
司会はネギの状態を見てタカミチの勝利と判断しようとしていた。
そんな司会を無視し、タカミチはネギの方を見ていた。
それは、こんなもので終わってしまうのかと言う、期待と失望の目であった。
「だけど、これで終わりなのかい……? ネギ君……」
ネギはタカミチの顔を見ながら、その言葉を聞いていた。
諦めるのか、君の想いはその程度なのかと。
されど、このネギは父の強さを求めていた訳ではない。
人々の役に立つため、立派な人になるために、魔法を求めていた。
だがそれとは別に、父の諦めないという強い意志を求めていたのだ。
だからこそ、ここで諦める訳にはいかないだろう。
ただ、ネギはそこでさらに考えた。
この戦いにおいて、そこまで無理をする必要があるのかと。
ネギは師であるギガントから、無理をしないように言われていた。
無理とは自らを壊しかねない恐ろしいものだと教わってきた。
妥協しろと言うわけではない。
諦めないことと無理をすることは、似ているようでまったく違う意味だ。
自分の父であるナギは、きっと絶対に出来るという確信のもと、諦めずに戦ってきたはずなのだ。
いや、無理した場面があるならば、それは絶対に退くことの出来ない場面だったのだろうと、そうネギは考えた。
そこで、ここで無理をしてまで、タカミチにさらに食らいつく意味があるのかを考えた。
勝ちたい。タカミチに勝ちたい。
勝ちたいと言う気持ちは確かにある。すごく強く、負けたくないと思っている。
それにまだ出してない手はある。
一番教えられてきた、治癒の魔法は一度も使ってない。
使えばまた立ち上がれる。再び戦うことはできる。
しかし、そこでこの試合で治癒を使うのは、卑怯だと思った。
相手は回復なしで挑んでいるのに、こちらがそれを使うのかと。
そこまで意地汚く戦ってでも、勝ちたいのかと。
そうじゃないはずだ。
これは
本当に勝たなければいけない場面ではない。
そうだったら、どんな手を使ってでも勝ちに行く。
けど、今はその場面じゃない。
それはタカミチも条件は同じなはずだ。
しかも、タカミチはここで真の本気は出さないだろう。
本人もそう言っていたし、これがタカミチの全力ではないことを、ネギはうすうす気づいていた。
だからこそ、ここで無理してタカミチに挑む必要がないと、悔しくもネギは悟ったのだ。
「……
「……ネギ君……」
ネギはタカミチに挑み続けることと、今後のことを天秤にかけて負けを認めた。
確かにもう少し、もう少しだけ戦えば、今の魔法のダメージが抜け切っていないタカミチを、倒せたかもしれない。
そう考えながらも、ネギはあえて負けを認めた。
負けを認めることはとても難しいことだ。
しかし、それでもネギは認めたのだ。
だが、
そうだ、今はまだ勝てない。しかし、いずれは追い抜くぐらいにはなりたい、そうネギは考え始めていた。
それは諦めではない。
諦めで負けを認めたのではない。
次こそは勝つという意思にもとで、あえて敗北を選んだのだ。
ネギは戦いを好まない少年だ。それでも少年なのだ。
それ故、敗北を笑って許せるような人間ではないのである。
だからこそ、戦いを好まないながらも、もう少しだけ力がほしいと思ったのだ。
自分の生徒を守れるぐらい力が、タカミチに負けない力が、ほしいとそこで思ったのである。
だが、この結果にタカミチは少しがっかりしていた。
あのナギの息子なら、ここで粘ってくれると考えていたからだ。
そう信じていたからだ。
しかし、ネギは自ら敗北を選んだ。
それをとても悲しく思い、そして本当に少しだが落胆の色が見て取れたのだった。
…… …… ……
そして試合は終わった。
ネギは救護室へと移動しており、アスナだけがやって来ていた。
あの小太郎や試合を見物していた他の生徒たちは、刹那や木乃香に呼び止められ、ここへは来ていなかったようだ。
アスナは敗北したネギを、励ましに来たようであった。
だが、励ましに来た割に、第一声はやはりアスナらしかった。
「やっぱ砕け散ったのね。粉々にされちゃったかしら?」
「あ、アスナさん……?」
だが、その普段どおりのアスナの対応が、今のネギにはありがたかった。
別に慰めの言葉がほしい訳ではない。
ただ、この悔しさを打ち明けたかったのだ。
「……僕は、負けてしまいました……」
「仕方ないじゃない。負けて当たり前でしょ?」
ネギは敗北したことを悔しく思い、顔を下に向けていた。
そしてアスナからは、その表情が見えないようにしていたのだ。
ただ、アスナは今のネギが、とても悔しく感じていることに気がついていた。
故に、少しだけ言葉を選んで、そのネギへと優しく語りかけたのだ。
「だけど悔しいなら、無理しないで泣けばいいんじゃない?」
「あ……」
アスナはそう言うと、姿勢を低くしてネギを抱きしめていた。
ネギは教師で魔法使いだが、10歳である。我慢することはない、お前は今泣いていい、泣いていいんだ。
アスナはそうネギへと言ったのだ。
するとネギも感情を抑えられなくなり、アスナの胸の中で静かに泣いていた。
敗北を認めた、諦めずに次は勝つと決めた。それでもやはり悔しかったのだ。
もうすぐだったと思った、あと一歩で勝てると思った。
だが、ネギは最後の一手が届かなかった。だからとても悔しかったのだ。
そこでアスナはネギを抱きしめながら、ネギの頭を撫でてやっていた。
本当に泣く子をあやすように、撫でていたのだ。
大きな声ではなく、静かであったがネギは涙をとめどなく流した。
そして、一分は過ぎただろうか。
ようやくネギは落ち着いたようで、アスナの体から離れてその彼女の顔を見上げていた。
「どう? 少しは落ち着いた?」
「……はい、ありがとうございます。いえ、むしろ申し訳ありません、こんな見苦しいところをお見せして……」
「気にしないのよ。私はあんたよりずーっと年上なんだから、このぐらいどうってことないわ」
ネギは今の号泣が気恥ずかしいのか、照れた表情で礼と謝罪をし、アスナも受け入れて気にしないと言っていた。
なんせ100歳超えたお姉ちゃんなのだから、一応遠い遠い親戚の関係なのだから、このぐらい当然だとアスナは思っているのだ。
ただ、アスナから見たネギは、孫というよりもやはり弟のようなものだった。
そして元気になったネギを見て、アスナはある決意を固めていた。
「ネギ、私があんたの仇を取ってあげるわ」
「え……? アスナさんが!?」
「ちょっと高畑先生を、懲らしめよーと思うのよ」
アスナはなんとネギの仇をとるために、タカミチをぶっ飛ばすと言い出したのだ。
流石にネギも、今の言葉に驚いていた。
あのタカミチを倒すというのだから当然だった。
しかし、アスナは本気だった。
それは表情にも見て取れていた。
そのアスナの表情を見たネギは、そのことはそれ以上何も言わなかった。
しかし、アスナの対戦相手は、あの刹那だ。楽に勝てる相手ではないだろう。
それはアスナもよくわかっていた。
「でもまずは刹那さんを倒さないとならないのよね、楽には勝たせてくれそうにないわ」
「そうですね。とても手ごわいかと」
神鳴流の剣士であり、バーサーカーと覇王に鍛え上げられたあの刹那。
はっきり言えば五分五分だとアスナは考えていた。
されどアスナも決して弱くはない。皇帝直属の部下であり、あの紅き翼の一員だったメトゥーナトに、鍛え上げてもらってきたからだ。
相手が刹那であろうとも、絶対に勝つ。
そうだ、ここで負ける訳にはいかない。そうアスナは本気で意志を固めたのだ。
「だけど、刹那さんと戦うのは、ちょっと楽しみだったりもするんだけどね」
「どうしてですか?」
「だって強いじゃない。それに他の剣士と戦うのって、めったにないことだもの」
アスナはメトゥーナトとはよく模擬戦をしてきたが、他の剣士と戦う機会はなかった。
それゆえアスナは、詠春と同じ神鳴流の剣士である刹那との戦いを、少し楽しみにしているのだ。
強者こそが正義と言うほどに、あの刹那との戦闘を待ちわびていた。
「アスナさんって結構戦い好きなんですね」
「別に好きじゃないし、普段はやらないけどね。でもこういう機会だからこそよ」
アスナ普段なら特に戦おうという気はない。
突然バトルしようぜなど言ったら、完全なバトルジャンキーみたいだからだ。
ただ、こういった大会ならば、話は別である。
何せ戦いの場なのだから、本気でぶつかり合えると考えていたのだ。
そこで、ネギは観客席へと戻ることにしたようだ。
「そういうものなんですか。じゃあとりあえず戻りましょうか」
「そうね。次の試合はこのかが出るし、応援してあげないとね」
「はい!」
そしてネギは次の試合を見物すべく、観客席へと戻っていった。
またアスナは途中でネギと別れ、木乃香を応援しに、木乃香が準備しているであろう更衣室へと移動移動して行った。
さて、次の試合もまた荒れそうである。何せあの木乃香の試合なのだ。
きっとまたしても嵐のような、すさまじい戦いになるだろう。
なんとまあ、波乱な武道会はまだまだ終わる気配がないのだった。
テンプレ97:ネギ、敗北