好きな女の淹れた珈琲がうまい
これが飲めるか飲めないかで、彼の
ここはアルカディア帝国、中央浮遊大陸の中央に位置する帝都アルカドゥス。
さらにその中央にある要塞のような巨城、これがアルカディア城、そしてその玉座の間。
玉座の間とは言っても、皇帝の趣味によりヨーロピアンな雰囲気でありながら、質素で家庭的な部屋となっている。
皇帝は豪華なものが苦手なのだ。
皇帝の玉座は、立派だがやはり質素なウッディーチェアーでそのすぐの目の前にある、仕事用デスクも同じく木でできている。
今、ここには皇帝陛下以外に、複数の人物がいるようだ。
何かの液体をすする音がしているが、いったい何だというのか。
皇帝が好物の緑茶をすすって、飲んでいるのだろうか?
いや違うようだ、皇帝は不機嫌な顔をしてある人物を睨みつけているからだ。
その不機嫌な顔をした皇帝は、流石に我慢できなくなったのか、口から文句を吐く。
「おめぇさぁ……。
皇帝が吐き捨てたの文句の後なのだが、まったくそれに対する返答はなく数秒が過ぎる。
しかし、いまだに液体をすする音だけは聞こえてくる。
「アホだな、もはやアホとしか言いようがねぇ? クレイジー! どうしたらここまでアホになれんの? 同じこと何度言わせんの?アホだから記憶しないわけ?」
返答が無かったことに、皇帝はさらに不機嫌を増しどういう趣旨なのか、よくわからない罵倒を飛ばしている。
「はぁ~、やっぱ、おめぇのあの発言は”フラグ”だったんか……。流石にここまでしてくるたぁー、思っても見なかったぜ。もう、流石に慣れてきたけどよぉ~……」
もはや皇帝は怒ってはいないようだが、完全に呆れ返ってしまっている様子で腕を組み、足をクロスさせた状態で机の上に乗せるという、不良みたいな態度を取り、いい加減にしろ、という眼差しをその人物に向けていた。
…… …… ……
その”フラグ”というのは、現在から数年前に遡ることになる。
今、その数年前の魔法世界の上空をすばやく飛ぶ、ひとつの人影が存在した。
白髪で色白の肌、着飾る気を感じないブレザーらしき服装で、まるで機械か人形のような表情だが、決して顔の形は悪くない。
むしろ、100人居れば99人はイケメンと称すだろう少年。
その正体は”フェイト・アーウェルンクス”という人物。
この時はまだ、その名を名乗っては居なかったが、いずれ名乗ることになる。
真の名は、アーウェルンクスシリーズの
”
完全なる世界の救済とは、魔法世界の人々を”
厳密に言えば違うのだが、簡単に言えばそうなのである。
そんな完全なる世界の幹部クラスというのが、このフェイトである。
完全なる世界のボスである”
だが、今の彼は、この任務に疑問を感じていた。
むしろ
と、その時体に異変を感じたのだ。
調整の不調か、
彼は今、どこにいるのだろうか。空の上だ、つまりそれは落下を意味していた。
…… …… ……
フェイトは気がついたとき、何者かの民家のベッドの上だった。
と、そこへ、この家の住人だろう姉妹と思わしき少女が二人、扉を開けた場所に立っているではないか。
二人とも質素なワンピースを着ており、村娘を強調させていた。
どちらもリボンの付け方とウェーブのかかった髪型も同じで、頭の先から後頭部に、回り込むようにリボンを付けており、どちらも美少女と言える顔立ちだった。
違いがあるとすれば、姉らしき娘のほうが顔も少し大人びていて、腰まで髪を伸ばしており、妹らしき少女は肩までしかなくすこし幼い感じであり、リボンも少女のほうが大きめで、娘よりもすこし短いものを付けていた。
少女は人見知りのようで、娘の腰のあたりに引っ付いて、隠れるように彼を見ていた。
フェイトには、その少女の行動がよくわからない様子であったがそこへ娘が、彼に安否を尋ねてきた。
フェイトはその質問には答えずに、この場所を娘に尋ねると、ヘラス帝国の外れの小さな村という答えが返ってきた。
質問で質問を返すあたり、きっとテストでは0点をとるに違いない。
調子が悪いなら調子が戻るまでいてもよいと娘に言われたが、彼はその好意を断り、立ち去ろうとした。
が、やはり問題があるようで、娘に体を支えてもらう羽目になってしまった。
その後ろで、さらに椅子の裏に隠れながらこちらを見ている少女の行動に、フェイトはやはりなぜ隠れているのかわからない様子で、少女をチラリと見た。
そんなことを考えていたフェイトは、娘に強制的にベッドへと戻されてしまった。
何があったかを尋ねられたフェイトだが、覚えていないと答えた。
それを聞くと娘は、彼に腕にを差し出すことをお願いし、フェイトは疑問に感じながら、その右腕を差し出した。
すると、娘は何も気にすることなく、そっと右手の甲にキスをした。
その行動に、彼はやはり疑問を覚えたのだが、その直後、娘は先ほどの質問とは別の疑問があるようなことを口に出していた。
彼は少し不審に思ったのか、何か? と質問すると、娘は謝罪を混ぜつつ、なんでもないと答え話をはぐらかすように、どの飲み物がほしいか尋ねた。
すると、フェイトは遠慮なく即座に珈琲を頼んだ。
――――旨い、その一言だった。
フェイトはこの珈琲に、惜しみない賞賛を送ったのだ。
娘は嬉しそうな、いや実際嬉しいのだろう、笑顔でよかったと答えた。
フェイトは動けるようになると家の外へ出た。
山に囲まれた美しい草原で、なんと平和なことだろうか。
姉妹はそよ風が吹く中、仲良く洗濯物を干していた。
彼女たちが彼を見つけると、娘は笑顔で手を振り珈琲があることを教え少女はやはり不安なのか、ぴったりと娘の陰に隠れていた。
フェイトはそこにある珈琲を飲み、やはり旨いとつぶやいたのだが、そこに奇妙な気配を感じたのだ。
いったい何の気配かと、そちらに目を向けると、
彼女たちからはほど遠く、多分見えないであろう場所ではあったが、確かに立っていた。
橙色の髪をオールバックにし、赤茶けたコートを着込む目つきが悪い男だった。
しかし、一瞬目を離すと、そこには誰も居なくなっていた。
フェイトは多少疑問に感じたが、珈琲を口にするとどうでもよくなっていた。
不調から三日、ようやく元気を取り戻したフェイトは、また尋ねることを約束し、別れの挨拶をして飛び立とうとしていた。
そこへ娘は別の約束を取り付けた。
珈琲を入れて待っているので、また立ち寄ってほしいということだった。
彼女らは杖を持たずして飛び立った不思議な彼を見送りつつ、一日10杯も珈琲を飲んだ彼に対して、珈琲好きの称号を与えたのであった。
…… …… ……
数日が立っただろうか、空も暗くなってきたそのころ、彼女たちの村に異変が起きていた。
なんということだろうか、大きな火の手があがり、村に炎が燃え広がっていたのだ。
きっとこの時、ガルムの第二の相棒ならこう言ったはずだ”町が燃えてる……”と。あの美しい草原も、今では炎に包まれ、見るも無残な光景となっていた。
フェイトがそれに気づき駆けつけ、この前珈琲を淹れてくれた娘の姿を見つけた時には、すでにその娘が腹部にひどい怪我を負っていた後だった。
フェイトは娘に息があることを確認した時、近くで娘の妹の少女が倒れているのにも気がついた。
と、そこで娘もフェイトがそばに居ることに気がつき、一言つぶやいた。
「ス……スミマ……セン……。今日は……珈琲は……ちょっ……と……」
「いや……」
フェイトは息も絶え絶えな娘に、そう答えることしかできなかったかはわからないが、彼はそれだけしか答えなかった。
するとそこに、第三者が現れた、フェイトがもっとも知っている人物。
”セクンドゥム”……、フェイトと同じく造物主によって”救済”のために作られたフェイトの兄のような存在。
”
それは”原作後半”に”
これにかかれば魔法世界の人々は、”
だが、現実的に言えば、それを受けた人々は、”
セクンドゥムが、致命傷を負った娘の”救済”を実行に移すため、その呪文を無慈悲に唱え始めた。
「コード・オブ・ザ・ライフメi」
しかし、全て唱えきれずに、寸断されることになった。
いったい何が起きたのか、フェイトはその瞬間を見てわかっていた。
詠唱が寸断される瞬間に『させねぇよ』という男性と思わしき声を、しっかりとフェイトは聞いていた。
あの平和だった時に、あの家の外で、あの美しかった草原で、目撃したはずの男がそこにいた。
造物主に最強の設定を与えられた、最強のはずのセクンドゥムの顔面に、その男の拳が鋭く突き刺さり、その彼の顔は醜くゆんでいた。
「ギッ!?」
セクンドゥムは何が起こったのかわからなかった。
一瞬、いやそれ以上の速さで、セクンドゥムは殴り飛ばされていたからだ。
造物主に作られた彼らには、最強クラスの障壁が存在する。
どんな火力であっても、彼らにはダメージを与えられないほどの障壁だ。
だが、そんな障壁すら紙のようにぶち破り、彼は顔面に拳を受けていた。
「――――貴様、何者だ!?」
セクンドゥムは数メートル吹っ飛ばされたあと、受身を取り瞬時に身構えた。
この男は奇襲だったとはいえ、最強格の自分を殴り飛ばしたのだから、只者ではないということには違いは無かったからだ。
しかし、そんなセクンドゥムなど気にもせず、後悔とやるせない感情を表すような、悔しさと怒りに満ちた表情をしたその男は、そのまま、致命傷を負っている娘のそばへと近づいていた。
男は娘の状態を確認すると、フェイトをチラリと見て、何を思ったのかこう言った。
「おめぇ、おもしれぇな」
フェイトはこの言葉に、一種のデジャブを感じていた。
かの紅き翼のリーダー、最強の英雄にもフレンドリーな態度で『以後よろしくな』などと言われていたからだ。
「貴様、私を無視するとはいい度胸だな……よほど死にたいと見える!」
何が癪に障ったのやら、という表情で、怒りをあらわにするセクンドゥムを眺め本当に興味すらなく、つまらなそうな視線を向けこう言った。
「
それを言い終えた瞬間、もはや瞬間と呼んでいいのかとさえ思える神速の速さで、その男は気がつけば、セクンドゥムの背後の数メートル先へと回り込んでいた。
セクンドゥムは戦慄し、視線を自分の後ろへと向けると男が背後に居ること以外に、別のことに気がついた。
――――無いのだ。
背中に転移し、操っていた鍵状の杖が。
それこそが”
これが無ければ
そして、それがすでに男の手に握られており、遊び飽きた玩具を見る目で、品定めをするかのように眺めていた。
「っ何……!?」
「……
ポツリ、そう男が言うと、あろうことか
流石にそれにはセクンドゥムもそうだが、フェイトも驚いていた。
あろう事か、造物主から与えられた恩恵を、こうも簡単に砕かれたのだから当然だ。
そしてセクンドゥムは、とっさにその男のほうへと向きなおし、激昂した。
「貴様! それが何かわかってやっているのか!?」
完全に頭に血が上ったセクンドゥムは叫びつつ、もはや男を殺す勢いで襲い掛かろうとした。
しかし、またしてもそこに男の姿は、その場所にはなかった。
そう、その男はすでにセクンドゥムの真横の右側に立っていたのだ。
対峙する形で、セクンドゥムが居ないほうの腕を、ズボンのポケットに突っ込んだままの姿勢で。
「よぉく知ってるぜ、完成した
ほとんど聞こえないような、小さな声で男がそうつぶやくとなんと、男の左側に居たセクンドゥムの両腕が肩から吹き飛び上半身と下半身がなき分かれしていたのだ。
「がああああああ!??」
セクンドゥムは、もはや何が起こったのかさえも認知できずに、盛大な苦悶の声を上げるのに精一杯だった。
フェイトは再度、目をむいて驚いていた。
見えなかったのだ、その切り裂かれた瞬間が。
片腕は常にズボンのポケットの中だというのに、いったい何をしたというのか。
――――ポケットに手を入れたままの戦闘態勢に無音拳という技があり、このようなスタイルを取る。
しかし、射程が前方である無音拳だと、完全に左側に居たセクンドゥムは、射程には入っておらず、その技ではないことが伺えた。
「中ボスだと思ったら、ただのザコだった」
大して期待などしてなかったのだろうが、それでももう少しぐらい耐えてくれるとばかり思っていたという様子で、男は失望が混じった表情をしつつそう言い放つ。
そして、頭と上半身のみとなったセクンドゥムを遊び終えた玩具を見るような目で見下ろすと、次はフェイトに視線を送り彼にセクンドゥムの明暗を委ねた。
「
しかし、造物主が作り出したセクンドゥムは、この程度ではくたばらない。
”原作”だと首だけとなっても、ずいぶんとうるさく叫んでいた。
当然のように、元気でありながら怒りに満ちた声をセクンドゥムがあげていた。
「テルティウム! 何をしている!! 呆けていないで早々にその男を殺すのだ!」
もはや自分では、本当の意味でも手も足も出ないので、フェイトに男を殺すことを命じた。
しかし、フェイトは自分の兄であるはずの彼を、何の感情もなく見下ろしていた。
そして、その男呼ばわりされていた男は、セクンドゥムが自分のことを知らない事実を不思議に思いつつ、自分が何者かわからない彼に、正体を教えようと考えた。
「お前、俺がわかんねぇのか? アホなのか? お前らの宿敵である、この俺がまったくわからねぇのか?……しかたねぇから、教えてやるよ、冥土の土産だ」
しかし、セクンドゥムは命令にまったく反応しないフェイトに、怒りを向けるのに必死なのか、男の声が聞こえていないようだった。
「おい! 聞こえていないのか!? ええいっ、私の命令に従え! その男を殺すのだ!!」
もはや、呪いを吐くように殺せと連呼する哀れなセクンドゥムに、フェイトはゆっくり近づいた。
「テルティウム!? 貴様、なぜ何もしないのだ!? 我らの計画を忘れたか!? 全ての魂たちのために、我らの計画しか道はないのだぞ!!?」
それはまるで命乞いのような叫びだった。だが、フェイトはそんなことはお構いなしで、一言残した。
「わかっている」
そして、フェイトもはや完全に興味をなくした視線を向けながら、セクンドゥムにトドメを刺した。
「ならばなぜぴっ」
セクンドゥムは強力な力で、体ごとねじ伏せられ、消滅していった。
だが、その消滅の瞬間に、男は本当に冥土の土産として、自分の正体をポツリと話した。
「完全なる世界の宿敵、アルカディア帝国皇帝。――――ライトニング・サンダリアス・アルカドゥスだ、覚え無くてもいいぜ」
最後までそれを聞けたかはわからないが、セクンドゥムは完全に消滅していた。
魔法世界の人々を”幸せな夢”に送るために、何人もの人々を消し去ってきた彼は、今この場で、この世界から消滅したのだ。
気がつけば先ほどの少女が致命傷を負った娘に泣きつき声をかけており、娘も苦しそうにしながらも少女を心配させまいと、気丈にも大丈夫と言っていた。
セクンドゥムが消滅したのを確認すると、その男、ライトニングは彼女らのそばに歩み寄った。
しかし、そこで何をするわけでもなく、ライトニングはフェイトのほうを向いて尋ねた。
「――――おめぇ、この娘を助けたいか?」
ライトニングは、なぜかフェイトに娘を助けたいか質問した。
自分は人形だと考えているフェイトではあるが、娘を助けたいと思った。
なぜ、そう思ったかはわからなかったが、ただ、そうしたいと思ったのだ。
だからライトニングに、こう言うだけだ。
「できることなら……」
娘の傷は致命傷だ。最高級魔法薬ぐらいでなければ、治療できそうにない。
その上に、そんなものはここには無いのだから、もはや治療は絶望的だった。
だがライトニングは、口を吊り上げて余裕の笑みを浮かべていた。
「やっぱおめぇ、おもしれーわ! いいぜ、おめぇの頼み、最大の敬意を以って行うとしよう」
できるわけがない、と普通なら考えるだろう。
だが、フェイトはなぜか、治療できるのではないかと思っていた。
そして、ライトニングは少女に少しの間、下がっておくように説明し少女がそれを承諾して、三歩ほど下がった瞬間、両腕を大きく開き顔の高さまでかかげる姿勢で、魔法始動キーを省略し、その魔法の詠唱を始めた。
「灰の中から蘇りし黄金に輝く火の鳥、不死鳥よ、かのものに、その一粒の伝説を、分け与えたまえ」
それは奇跡、すさまじい魔力と精霊の力が、ライトニングへと引き込まれるのをフェイトは感じていた。
大魔法レベルでありながら、魔方陣すらでない謎に満ちた奇妙な魔法。
ライトニングは詠唱を終えると、最後に魔法名を言って、魔法を完成させた。
「――――”不死鳥の羽根”」
すると掲げた両腕の中心から、ひとつの羽根が舞い降りた。
それは、やさしく、強く燃える炎の羽根であり、ひらひらと娘の元へと落ちていった。
その羽根が娘に触れたとたん、娘はまばゆい炎に包まれ赤く光った。少女はそれを見て焦るが、炎がゆっくりと消えていった。
炎が完全に消えた後には、致命傷であったはずの傷がもはや跡形も無く、娘は上半身をゆっくり起こし、泣きつく少女をやさしく抱きしめていた。
それを見て、安堵したのかはわからないが、フェイトは疑問を打ち明ける。
「その魔法、いったい……」
その質問に、得意顔でライトニングは答えた。
「俺んとこの最上級回復魔法。どんな致命傷でも、たとえ体が欠損していたとしても、完全な形でしかも瞬時に治療できる、完全瞬間治療魔法さ。いや、
なんてことない、という余裕の表情。
半蘇生魔法と答えた”不死鳥の羽根”と言った魔法は、もはや数人がかりで行われる、儀式魔法と呼ばれる大魔法に匹敵した。
しかし、そんなことはどうでもよさげに、ライトニングは彼女たちをほほえましく眺めていた。 そして、彼女たちに今後どするかを、ライトニングは尋ねた。
「お二人はどうするよ? ギリギリだったが、何とか助けて匿うことができた村人も数人居るし、そうだな……」
考え事をするかのようにライトニングは腕を組み、数秒視線をはずしこれしかないかと思ったのか、彼女たちをもう一度見て口を開いた。
「我がアルカディア帝国は、あなたたちに対し最大の敬意を持って接します故……。……らしくねぇな、どうだ? 俺の国にこねぇか?」
最初はカッコつけたかったのか、最後は微妙にしまらない言い方になってしまったが、ライトニングは自らの帝国に彼女たちが来るように呼びかけたのだ。
その姿を見てフェイトは、こう言って立ち去っていった。
「あの珈琲を……、また、飲めるかな」
…… …… ……
そして現在、接客用に用意された、皇帝玉座の間の中で、もっとも豪華に見えるソファーに座り、珈琲を飲むこの白髪の少年。
もはや何食わぬ顔で、旨いを連呼しながら珈琲を何杯もおかわりしているフェイトに、馬鹿馬鹿しいと言った顔をした皇帝が、挑発的に言葉を発する。
「おめぇー、まさかうちの珈琲を大量に飲んで、俺の国を転覆させようって算段じゃねぇーだろうなぁ? ドンだけ飲んでんだよ、ドン引きだぜ。この帝国の場所が場所だけに、頻繁にこれねぇからって、飲み溜めでもしてるわけ? 今、おめぇの体の何割珈琲よ?」
フェイトは敵の本拠地であるアルカディア帝国の、まさに腹の中と呼べる城の、さらにそのラスボスがいる玉座の間で、堂々と珈琲を飲みあさっていた。
しかし、どうしてこうなったかというと、こういう経緯があった。
あの時、皇帝が救った姉妹は二手に分かれた。
娘は皇帝について行くことにし、少女はフェイトのほうについて行った。
実際は、とりあえず皇帝が二人の身元を預かったのだが、あろう事かフェイトのやつは、娘の珈琲ほしさに、堂々とアルカディア城にやってきやがったのだ。
フェイトは娘がこのアルカディア城にいることなど、すでにわかっていた。
だから、正式なルートでなければ強力な障壁が邪魔して、蚊一匹すらも進入できないこのアルカディア帝国に、偽造パスポートを作ってまで珈琲を飲みに進入してきたのだ。
……この出来事は、皇帝が長年の人生で味わった中でも最上位に入るぐらい呆れ返ったほどのことだった。
その時、少女がフェイトについて行くことを表明し彼女の本当の名前は”ルーナ”というのだが
今では彼の従者として”
娘のほうは、種族が持つ特殊な力を命の恩人である皇帝に役立てるべく、秘書をやっているようだ。
彼女らの亜人種族は、肌接触にて深部記憶まで読み取るほどの強力な読心力の持ち主であり、フェイトの手の甲にキスをしたときに、その能力を発揮していたのだ。
そのおかげでいろいろと狙われる要因があったので、皇帝は彼女らの村長とひっそり交渉し本来は、あの事件の数日後ほどに、帝国に招き入れる準備までされていたのだ。
しかし、その計画もむなしく、人間たちに襲われ村は炎上し、多くのものを救えなかったために皇帝はあの時、その無念さをかみ締めていたというわけだった。
それでも、あの事件で皇帝がなんとか救った少数の人々にも帝国の土地と平穏を与え住まわせたのだ。
と、ここで疑問に思うだろう、なぜ姉に引っ付いて離れなかった栞が姉の下を離れて、フェイトの従者をやっているかということに。
単純な話、フェイトという人物を見極めたいという部分があるからだ。
大切な姉が多少なりに気に入った相手だ、変な虫であったら困るのだ。
だから、彼の品定めこそが彼女にとっての、基本的な目的なのだ。
……それ以外にも、皇帝の質問で姉を助けたいと言ってくれた事も理由にあったりもするのだが。
そして現在”これこそ、まさに愛だな、そうだ”そう自らを納得させて平常心を保たせている皇帝がそこに居た。
だが、ただでは転びたくないので、このフェイトをどうやってからかってやろうと考えていた。
「しかし、”
「……何、気にすることは無い。あなたの口癖だったはずだよ、ライトニング皇帝」
もはやフレンドリー、旧知の仲ではないかと疑うほどの光景。
玉座の間の衛兵たちの胃に穴が開かないか、とても心配になるレベルだ。
と、そこで第三者が声を出す。
「私は、別にかまいませんよ?」
フェイトのために珈琲を用意していた栞の姉が、ニコリと笑ってそう言った。
村では質素だが清潔感あふれるワンピースを着込んでいた彼女だが、現在は仕事上、レディーススーツを身にまとっているようだ。
そのすぐ横にその妹の栞が、やっぱり引っ付いていた。
「あ、あれぇ? 俺が悪いの? ねぇ? どういうことなの? ここ、俺の帝国で、こいつ一応敵なんですけどーッ?!」
いったいどうしてこうなった、皇帝は片手を顔に当て、真上を向いて嘆いていた。
このままでは、我が帝国の珈琲豆の在庫が切れてしまう。
……取引先の”転生者”でありながら、農作業を得意とする通称いなかっぺに、とりあえず、珈琲豆をいつもの10倍ほどに、取引を吊り上げてもらうかを考えた。
そんなことを考えている間に、フェイトはさらに珈琲をおかわりしている。
その横では珈琲を用意しつつ、妹と楽しそうに会話する娘の姿があった。
「ま、いいか、しゃーねぇやっちゃ」
だが、この光景に、皇帝は満足した様子で眺めていた。
たまにはこういうのも悪くない、そう考えながら。
しかし、フェイトへの報復は忘れてはいなかった。
直球こそが最大火力だ、皇帝は言葉のミサイルをフェイトへと放つ。
「おい、
皇帝はそう言うと、両手を娘の方へ向け、どうなの?という表情で返答を待つ。
珈琲を飲む音が止まり、数秒がたったとき、フェイトは答えた。
「……僕は彼女が淹れる、旨い珈琲に惹かれているだけだよ。それと、”No3”などという呼び方はしないでほしいね」
「あぁ? そりゃすまんね、今は
皇帝の謝罪の言葉を聞くと、フェイトは珈琲を口に含み、それを再開する。
皇帝はおもしれぇと思いつつ、さてお次はどう出てやるかそう考えながら、次の攻撃に移るべく作戦を練りだす。
そこにいい案ができたので早速それを実行へと移すべく、娘の方をチラリとみて、その彼女に質問した。
「なあ、あいつんこと、どう思うよ? 知り合いとかじゃなく、異性としてだぜ?」
皇帝の次の攻撃は、ミサイルではなく、今度は中継を挟んだレーザー報復装置だった。
その質問に、娘は指を頬にあて、うーん、と少しばかし考えて、笑顔でその答えと言う名のレーザーを投下する。
「フェイトさんのような、紳士的な方は、素敵だと思いますよ」
皇帝はクツクツと笑い出し始めていた。
その自分の姉の発言に、かなり驚いていたのは妹の栞だった。
フェイトは、無言で珈琲を飲むことだけに集中していた。
皇帝は内心ほくそ笑む、反応が思ったとおりだったからだ。
もう、勝利の鍵はそろったも同然だ。
すると、読心力など使ってないというのに、それだけで意図を察して小さく頷く。
そして、コロニーレーザー級の口撃を、娘はフェイトに微笑みながら言い放つ。
「でも、見た目が少し少年すぎますね。私の好みは、もう少し背の高く、スラっと伸びた人ですから」
それもそのはず、あのフェイトが口に含んだ珈琲を、無表情のまま噴出したからだ。
きたねぇ、と思いつつ腹を抱えて笑い転げる大人気ない皇帝の近くで、クスクスとその状況を見て笑う娘がおり、その横で必死で笑いをこらえている栞もいた。
それは、とんでもなくシュールな光景だったからしかたないことだろう。
この発言、フェイトにとっては聞き捨てならぬ言葉であった。
数秒間完全に停止していたフェイトが再起動したようで、娘の方ではなく、皇帝の方を向いて、自ら放った爆弾で出口を閉じる。
「……見た目程度、年齢詐欺薬でなんとでもなるよ」
皇帝はもう、息すらできないほど笑っており、ひーひーと息を荒いでいた。
なんてこった、このフェイト少年はあろうことか、神風特攻をかまして自爆したのだ。
クソまじめに”
笑いで息を苦しそうにする皇帝の横で、娘は多少頬を紅く染め、まんざらではない様子で困ったような笑顔を見せていた。
……彼女は読心力が使えるが故に、心が読みにくいフェイトに惹かれるのは当然の結果であった。
まあ、”原作”でもフェイト少年は、結構モテモテなのではあるが。
それを気に食わない様子で、強く姉に抱きつく栞、彼女は自分の姉が取られると思ったのだ。
しまった、何を言っているんだ、そうフェイトは思ったが、時すでに遅し。
完全に包囲された罠の上で道化をさせられてしまった。
だから、捨て台詞を吐くしかなかったのだ。
「……何を勘違いしているかは知らないが、さっきも言ったと思うけど、この旨い珈琲に惹かれているに過ぎない。それと、僕は人形だ、そのようなものは望んでいない」
嘘をつくな、という言葉を喉までに留め、それも自爆だからね、と考え、笑いの苦しみからようやく解放された皇帝は、勝利という名の美酒に酔いしれていた。
この完全な皇帝の流れに、フェイトも流石にこの状況はまずいと判断し、撤退を決断する。
「栞さん、そろそろ行くよ」
「は、はい、フェイト様」
「珈琲、ありがとう。またよろしく頼むよ……」
フェイトの命令を聞き姉のそばから離れ、彼の後ろを追う栞の姿はまさしく小動物であった。
娘は出入り口の扉へ向かう彼らに、小さく頭を下げて挨拶している。
同じく栞も、こちらを振り向きペコリと頭を下げて挨拶し、フェイトの後ろへ行く。
それを皇帝はやれやれ、といった表情でそれを見送っている。
しかし、玉座の間の出入り口付近で、フェイトは何を思ったのか立ち止まり、首と視線だけを皇帝に向け、交渉を始めた。
「……そういえば、ずっと言い忘れていたけど、実は
皇帝は一瞬、何を言っているのかわからねぇが、という所謂”ポルナレフ状態”となって数秒間ポカンとした後、ニヤリと口元をゆがめ誇り高く、高らかこう宣言した。
「そいつは、俺らの性分だろう? じゃんじゃんつれて来いよ、我が帝国は敬意を以って、面倒を見させてもらうぜ」
口約束とはいえ、交渉はいともたやすく成立された。
”予想通り”と考えつつ、フェイトは「なら次からは任せるよ」と皇帝へと言葉を向け、従者の栞をつれて玉座の間を、ゆっくりと出て行った。
フェイトは前々から”
造物主への忠誠心が設定されておらず、その造物主に思うように動いてみよ、と言われていたので、自分なりの”救済”を模索し始めたのだった。
そして皇帝は、フェイトらを次回から”客人”としてもてなすようにと、部下たちへと指示を出す。
それを末端まで広めるようにも指示を出し、仕事をするべく皇帝も歩き出す。
「いやぁ~最高に面白かった! さてとよ、今日もまた、訳ありの亜人と交渉だ、頼んだぜ?」
「仰せのままに、皇帝陛下様」
皇帝と娘も、玉座の間を後にした。
残されたのは、胃をキリキリさせ、腹を押さえている衛兵たちの姿だったが、その月の衛兵たちの給料には、すこしだけ色がついていた。
…… …… ……
転生者名:通称いなかっぺ
種族:人間
性別:男性
原作知識:なし
前世:とてもこだわりが強い農家
能力:DA○H村も驚きの超絶な農作業能力と動物使役
特典:牧場物語の主人公の能力、オマケで最大値の全道具(武器ではないため)
Fateのスキルの動物会話Cランク、オマケで牝牛、鶏、羊が数頭、馬が一頭
フェイト君の本命ちゃん助けるのって見たことなかったのでつい