超が必死にインターネットでの炎上を食い止めてはいたが、準決勝などの試合で再びぶり返してきていた。
それをなんとか食い止めようと、超はノートパソコンのキーボードを乱れ打っており、その横でエリックも、どの機材でも録画や撮影が出来ないことを確認した後、このインターネットで流れる画像がどこで録画されているかを割り出していた。
「さっきの試合で、またしても炎上したネ……」
「そればかりは諦めるしかなかろう! それよりも、この映像はどこで録画していのだろうか?」
「かなり近くで撮影してるネ。どこだろうカ……」
このインターネットで流されている試合の映像は、リングのかなり近くで撮影されたものだった。
いや、むしろリング内ではないかと思われるほどの近さだったのだ。
エリックはもしやと思い、司会の握るマイクを見た。
するとエリックは納得したようだった。
「超よ、司会のマイクを見るんだ! あれで録画しているに違いない!」
「何!? マイクに隠しカメラを搭載してるのカ!?」
「どうやらそのようだ。そしてそれを電波に乗せて映像を転送し、どこかで編集してインターネットに流しているようだ」
なんと司会が握るマイクに、カメラが搭載されていたようだ。
つまり、司会がこっそりと試合を録画していたことになる。
しかし、今さら司会のマイクを奪ってももう遅いだろう。
だから超はインターネットでの映像流出と掲示板での炎上を押さえる以外方法がなかったのである。
また、エリックはこれを抑える作業を、一人で行っているのかと超へ質問していた。
「そういえば超よ。この作業はお前だけがやっているのか?」
「さっきハカセにも手伝ってもらえるよう頼んだネ。そのおかげである程度余裕が出来たヨ!」
「そうかそうか、流石と言ったところだな。さて、ワシも手伝うとしよう」
超はさっき葉加瀬にこの作業の手伝いを頼んでいた。
そのおかげで、随分と作業に余裕が出来たのである。
そこでエリックもそれを手伝うことにしたようだ。
しかし、超はなにやらインターネット上で不審な行動を発見したのだ。
それは自分たち以外にも、火消しに回っているものの存在を感知したのである。
そのことに超は驚き、エリックへと声をかけたのだ。
「ドク、これを見てほしいネ。掲示板のみだが何者かが、我々と同じように火消しをしているヨ!?」
「何だと!? しかしそれは悪い話じゃないだろう。それに触れぬよう、こちらも火消しに回った方がいいだろう」
「そうネ。そうするヨ」
とりあえず知らぬ誰かが火消ししてくれているのなら、それでかまわないとエリックは言ったのだ。
また、超も今のエリックの意見に賛成し、自分たちが出来ることをやればよいと考えたようだ。
また、その火消しに回っているものは、すぐ近くに居たのだ。
それはなんと、あの千雨だったのである。
千雨は超とエリックのすぐ横で、同じようにノートパソコンを開き、手伝い程度ではあるが、インターネット上の掲示板での火消しをしていたのである。
と、いうのも千雨はカズヤと法の試合が派手と言うかアレすぎたので、まさかインターネットで噂になっていないか、調べたのだ。
すると案の定、話題となってそれが広がっていたのである。
だから、それをなんとかしようと、掲示板のみではあったが、それの火消しをしていたのだ。
「はあ、どこで映像が流出しているか知らねぇが、あのバカが暴れるから案の定炎上してるじゃねーか……」
そう一人愚痴ってノートパソコンを眺めつつ、ちまちまとキーボードを叩く千雨。
千雨はバカ二人の喧嘩の尻拭いをしているようだった。
また、千雨は隣に同じクラスメイトで天才の超がいることに気付いていなかった。
なぜなら超とエリックは、この大会に忍び込むために光学迷彩という名の認識阻害使っているからである。
さらに、全身黒ずくめに変装していたので、まさかこんな黒いヤツが自分のクラスメイトだとは、千雨は思はずも無かったのだ。
そのため、千雨は超のことがわからなかったのだ。
「チッ、あのバカの尻拭いをしてやるなんて、優しすぎるだろ私……」
本当にそのとおりである。
そんな愚痴を言いながらも、火消しをしている千雨も、別の誰かが同じように火消しをしているのに気がついたようだ。
まあ、それはすぐ隣にいる超たちでもあるのだが。
「ん? 私以外にも火消しをしているヤツがいるみたいだが……。まあいいか」
しかし、同じように火消しをしてくれるなら、ありがたいと千雨は考えたようだ。
そして、とりあえず同業者に感謝しつつ、千雨は火消しを行うのだった。
また、火消しをしている最中に、千雨はふと疑問に感じることがあった。
「しかし、魔法使いって単語が目立つな……。まああのバカ二人が謎能力持ってるし、魔法使いとか言うのも、案外近くにいるかもしれねーな」
そう、魔法使いという言葉がインターネット上の掲示板に溢れていた。
まるで魔法使いという存在を教えたいかのように、数多くそれが書き込まれていたのだ。
それを見た千雨も、そのことに不審に感じたのだ。
だが、バカ二人がアルター能力とかいう意味不明な力を持っているので、魔法使いも近くに居るかもしれないと、千雨は思ったのである。
いや、まさにその通りだから悲しいものだ。
そして、今の自分の言葉を考えて普通ではないと思った千雨は、またしても頭を抱えだしていた。
そのことで愚痴をこぼしながらも、千雨は火消しに回るのである。
…… …… ……
さて、まほら武道会もいよいよ決勝戦となった。
リングの方も修復が完了し、試合開始目前まで迫ってきたのだ。
また、リングの方へと、すでにアルビレオが待機していた。
そこへアスナが、堂々とやってきたのだ。
しかし、手に握る武器が先ほどの試合とは違うのようだ。
なんとハマノツルギではなく、刹那が使っていたデッキブラシだったのだ。
そして司会は最後の試合の挨拶を、今まで以上の声で叫んだのである。
「ついに、ついにこの時が訪れた!! 裏も表も含めた最強が、今決まろうとしております!!」
――――ついに来た。
ついにまほら武道会、最後の試合なのである。
ここまで数々の猛者たちが、試合にて血肉を削って争った。
その頂点が、今ここで決まろうとしているのだ。
また、最後の試合とあって、観客からの大歓声で会場は埋め尽くされていたのである。
そこで司会は、最後の選手紹介を始めたのだ。
「フードに隠れた素顔同様、謎めいた存在のこの男! 最後の最後で一体何が飛び出すのか! クウネル・サンダース選手!!」
そう紹介されたアルビレオは、ただそこにたたずむだけであった。
しかし、フードの影からは不適な笑みを見せており、余裕が伺え知れた。
「対するはハリセン一つで幾多の猛者を圧倒し、ここまで到達した美少女剣士! 可愛らしい見た目にだまされたら痛い目を見るぞ! 銀河明日菜選手!!」
その紹介の仕方に少し不満の表情を見せるアスナが、その場に立っていた。
最後の言葉は絶対にいらない、誰がだますか誰がと、アスナは思っていたのである。
「しかし明日菜選手。今回はあのハリセンではなく、デッキブラシを持参しています! 一体どんな意図があって、武器チェンジをしたのでしょうか!!」
司会は武器変更に、どのような意図があるのかと叫んでいた。
アスナが武器をハマノツルギではなく、あえてデッキブラシへと変更したのには大きな訳があった。
それは対戦相手である、あのアルビレオが大きな理由の一つだ。
アルビレオは本体が魔道書のような本であり、この会場に立っているのは幻影に過ぎない。
そんな幻影をハマノツルギで殴れば、一発KOどころか消滅してしまう。
それに、アルビレオが何かやらかそうとしているのを知っているので、あえて泳がせてみようという考えなのだ。
アルビレオもアスナの意図を察したようで、アスナの方を眺めながら、感謝の笑みを浮かべていた。
それに気づいたアスナも、何をするかはわからないが、とりあえず微笑んでそれを返すのだった。
そしてようやく、司会が解説を終えたようで、ついにこの大会最後の試合開始のゴングが鳴らされたのだ。
「レディ――――――……ッファイッ!!!」
試合開始の合図と同時にアスナは咸卦法を使い、デッキブラシを握りしめて構えを取った。
そこでアルビレオも、アーティファクト”イノチノシヘン”を使用したのである。
するとアルビレオの周りに、螺旋を描くように無数の本が並びだしたのだ。
「……本当ならネギ君と当たりたかったのですが、残念ながら、それはかないませんでしたね」
「それは私のせいじゃないからね」
本来ならアルビレオは、ネギと彼の記録と戦わせようと考えていた。
だが、それはかなわなかった。
なぜならネギは、タカミチとの戦いに敗れてしまったからである。
それにタカミチに勝てたとしても、アスナと当たれば結局ネギは勝てなかっただろうと、アルビレオは考えた。
だならそれを少しイヤミっぽく、アスナへと話し出したのだ。
「ええ、タカミチが負けてくれれば……。いえ、どの道アスナさんに当たってしまえば厳しいでしょう」
「まーね。ネギの魔法は私には効かないもの」
しかし、アスナはアルビレオのそんなイヤミも受け流し、当然負ける要素がないと言ってのけていた。
そりゃ魔法使いスタイルのネギが、魔法がまったく効かない自分に勝てる訳がないのだから当然だと、アスナは考えたのだ。
魔法使いの最大のメタ能力である、魔法無効化を持つアスナの前には、ネギはただの少年でしかないのである。
「まあいいでしょう。彼との約束は問題なく果たせますし……。それにネギ君と戦うのは、あくまで私のおせっかいでしたからね」
「はぁ……? どういうことよそれ…………?」
「フフ、それは見てからのお楽しみということで」
アルビレオは彼の遺言をネギへと伝えることが目的であり、彼との約束を果たすのに別にネギと戦う必要はないのである。
しかし、こういう場面での最高のシチュエーションとして、ネギと彼の記録を戦わせたかったのだ。
また、”彼との約束”という部分に、アスナは何か大きな引っ掛かりを感じたようで、どういうことなのかをアルビレオに質問していた。
その問いにアルビレオは答えず意地悪っぽく微笑むと、アーティファクトの本にしおりを挟み、それを抜き取ったのだ。
「これって……」
するとアルビレオは光に飲まれ、別の人物へと変化したのである。
それはタカミチの師匠である、あのガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグだったのだ。
そのガトウとなったアルビレオを見たアスナは、微妙な表情をしていた。久々のガトウの姿を見て嬉しい反面、中身がヘンタイだからである。
そして、なぜガトウの姿になったのかを、アスナはアルビレオに聞いたのだ。
なぜなら嫌がらせ目的だと少しだけ考察していたからである。
「……一体何の意図があってその姿に?」
「意味ならありますよ」
するとガトウとなったアルビレオは、咸卦法を用い、瞬時に空高く舞い上がった。
そこでタカミチが使った”豪殺居合い拳”と同じような技を、リング外の池へと数発飛ばしたのだ。
なんということだろうか。
その衝撃で池の水を爆発的に噴き上げ、リングを水煙で埋め尽くしたのである。
これこそがアルビレオのアーティファクト、”イノチノシヘン”の能力だ。
他者の身体能力と外見的特徴を再生するという、変身能力なのである。
ただし、自分以上の能力を持つものへの変身は、わずか数分程度しかできないだけでなく、自分より弱いものに変身する意味があまりないという弱点も抱えている。
そこでアルビレオは若い頃の詠春へと変身し、水煙の中からアスナの前へと姿を現した。
それを見たアスナは、そのアーティファクトで何をしようと言うのか考え、アルビレオに再び質問したのだ。
「それを使って何すんのよ……」
「焦らなくてもすぐにわかりますよ」
しかし、このアルビレオは人をじらすのが好きのようだ。
元々性格が悪いので、そうやって他者の反応を見たいのである。
だが、アスナはその程度のことなど慣れているので、しれっとした態度で、そのアルビレオを眺めていた。
そんなアルビレオは、さらに別の人物へと姿を変えた。
それはアスナの親代わりである、あのメトゥーナトだった。
「さて、アスナさん。私のアーティファクトが、他者の身体能力と外見的特長を再現することは知っていますね?」
「まあ、確かにそんな感じ程度には……」
アスナはアルビレオのアーティファクトの能力について、多少なりに知っていた。
アルビレオもそれを知っていると踏まえて、アスナへ質問したようだった。
だが、その後にアルビレオは、さらなる質問をアスナへと向けていた。
「なら私のアーティファクトの、もう一つの能力はご存知でしょうか?」
「へ? 知らないけど? と言うか本人が居る前でその姿になる? 普通……」
「そうですか。ならこの場を借りて説明しましょう」
そこへアルビレオはアスナへと、自分のアーティファクトのもう一つの力を知っているかを聞いたのである。
しかし、アスナはそれを知らなかったようで、NOと言葉にしていた。
また、その姿の本人がこの会場で見ているというのに、わざわざ変身するなんて考えられないと言葉をもらしたのだ。
だが、そのアスナの文句を、アルビレオはすまし顔でスルーし、横に流していたのである。
すると今度はあのジャック・ラカンの姿へと変身し、アルビレオは自分のアーティファクトの説明を始めていたのだ。
「この”半生の書”を作成した時点での特定人物の性格・記憶・感情全て含めての……、”全人格の完全再現”」
「その姿でその口調だと気持ち悪いわね……」
その説明を聞きながらも、アスナはアルビレオの今の姿と口調のギャップに苦しんでいた。
何せ筋肉マッチョで豪胆なジャック・ラカンの姿で、なんとまあ丁寧に説明しているのだから当然だ。
そのアルビレオのアーティファクト、イノチノシヘンのもう一つの能力は、先ほどの説明通り”全人格の完全再現”だ。
とは言え、これも再生時間はわずか10分というもので、一度使えばその”半生の書”も魔力を失い、ただの人生録へ成り下がるのである。
したがって、使用する本人ですらあまり使えないと言う程度の能力なのだ。
それでもその使い方が一つあるとすれば、その使い方をするだろう。
今の説明を聞きながら、アスナはとても微妙に気分を悪そうにしていた。
なぜならずっと嫌がらせのように、アルビレオはジャック・ラカンの姿で丁寧に説明し続けていたからだ。
丁寧語で親切に説明するジャック・ラカンなど、気持ち悪くない訳がないのだ。
仕方のないことである。
そんな気分を悪そうにするアスナに、アルビレオはその能力の使い方をようやく話したのである。
「まあ、使えるとすれば”動く遺言”として……、と言ったところでしょうか」
「……! ……遺言……」
アスナはアルビレオの遺言と言う言葉に反応した。
遺言とは死者が自分の知り合いなどへ残した言葉のことだ。
つまり、その遺言を残したのが誰なのか、アスナはある程度察することができたからだ。
そしてアルビレオは元の姿へと戻ると、水煙が晴れて視界が戻った。
「さて、アスナさんの質問に答えましょう。……私は10年前、彼からある頼みごとを承りました……」
そこでアルビレオは、アスナの先ほどの質問の答えを静かに語りだした。それをアスナは、何も言わずにただただ黙って聞いていたのだ。
「自分にもしものことがあった時、まだ見ぬ息子に何か言葉を残したい、と……」
そう言い終えるとアルビレオは、視線を会場のネギへと移した。
ネギはそれに気がつき、目を見開いて驚いていた。
今までの言葉をアルビレオは、ネギへ念話で伝えていたのだ。
アスナもアルビレオの説明を聞き、意図を察して落ち着かない様子だった。
今のアルビレオの言葉を聞いて、ネギは渾身の力で声を張り上げ、アルビレオへと質問したのだ。
それは、この大会のアルビレオの初戦闘を見て、すぐにでも聞き出したかった質問だった。
「クウネルさん! 6年前、あの雪の日のアレは……、クウネルさんなんですか!?」
そのネギの叫びの質問に、アルビレオは静かに念話で答えを返してたのだ。
そしてそれは、ネギの考えを否定しつつも、期待を持たせるには十分な答えであった。
『6年前、私は何もしていません……』
それを聞いたネギは、あの日の父の姿がアルビレオでなかったことに落胆と期待を同時に感じていた。
あの日の父の正体を知れなかったことに落胆しながらも、いまだに父はどこかで生きている可能性を感じて期待したのだ。
そして、アルビレオはその”
それを観客や司会、さらにアスナやネギも、その眩しさに目を手で覆うばかりだった。
そこで、その光が消え去ると白いハトと共に、もっともネギが会いたかった人物がその場に立っていたのだ。
「よう、お前が……、あれ? アスナじゃねーか!? ネギはどこだよ!?」
それはまさに、あのナギ・スプリングフィールドだった。
しかし、登場がしまらない終わりかたになってしまった。
いやはや目の前に居るのがネギだと思ったら、なんとアスナだったのだから仕方のないことである。
その目的のネギは、観客席から張り裂けんばかりの声を上げて、ナギを呼んでいたのだった。
「あっちかよ……。ったくアルのヤロー、いい加減なことばかりしやがって……」
するとナギはネギの方へと飛んで行き、観客席の柵ごしでネギをまじまじと見ていた。
そのネギはナギに会えたことに感動し、涙を流していたのである。
「と、父さん……」
「おいおいおい、情けねーなー、我が息子よ。男の癖に泣いてんじゃねーぞ」
「な、泣くなと言う方が無理ですよ!!」
そんな涙を流すネギに、ナギは泣くなと窘めていた。
しかしまあ、肉親との再会? なのだから少しぐらい涙を見せてもよいだろう。
そうやって涙するネギに対して、ナギは突然ネギの頬をつまんで伸ばし始めたのだ。
「結構俺に似ていてガキの割にはイケメンじゃねーかよ。でも随分とまあマジメそうな面してやがるぜ」
「ちょ、痛! 痛いっ!」
「ハハハ、だから泣くなって」
そしてネギからナギは手を離すと、辺りを見回し始めた。
何かネギ以外にも誰かを探すような、そんな行動だった。
それが見つからなかったようで、そこでナギはネギへとそれを質問したのだ。
「なあ、ネギ。お前の兄弟はどこに居るんだ? 確かカギだったか……」
「兄さんですか? ……兄さんはここには来ていません……」
「そうか……」
それはカギのことであった。
ナギはネギの兄弟となるカギを探していたのだ。
だが、カギはこの会場には来ていない。
だからネギは少し暗い表情で、それを答えるしかなかったのだ。
ただ、カギは空からこの会場を見ていた。
そう、覗くように見物していた。
そこでナギは空をふいに見上げると、カギを見つけだしたのである。
流石チート筆頭の存在であるナギといわざるを得ないだろう。
「まっ、気にすんな。あいつはお空で高みの見物決め込んでるみてーだからよ」
「え!? どこで兄さんがこの大会を見てるんですか!?」
「セコいやつだな。まったく誰に似たのやら」
そのナギの言葉に、ネギはカギがどこに居るのか慌てて見回していた。
それにしても、ナギの言うとおりカギは本当にセコいやつである。
なにせチケット代をケチるために、わざわざ空から大会を眺めているのだから。
そこでナギはカギの居る方向へと手を振ってやると、ネギもそれに気づきその空を見つめたのだ。
「おーおー、自分の居場所がバレて慌ててるぜ? アイツはお前と違って随分バカっぽいな」
「あ、それどこかで聞いた気が……」
カギを見つけたナギは、その姿を見てバカっぽいと意見を述べていた。
それを聞いたネギは、どこかで聞いたとデジャブを感じていた。
そんなのんきに会話するナギだが、一応大会の最中である。
場外ではカウントを取られるので、それが10秒に達せば失格となる。
しかし、ナギはちゃっかり10秒前に瞬間的にリングへと戻り、カウントを初期化していたのだ。
されど、それに気づいたのは司会を含めて数人程度であった。
この司会、実はとてもすごいやつなのかもしれない。
「まあ、時間もねーし、最後にアスナの相手でもしてやらねーとな」
そう言うとナギはアスナの方へと視線を移した。
そこには頭をうつむいて立っているアスナがいたのだ。
ただただ静かに、親子の会話が終わるのを待っていたのである。
そしてナギはネギへと視線を戻し、父親らしい笑みを浮かべた。
「父さん……」
「今回お前には何もしてやれねーみてーだな。だが、俺の戦い方ってやつを、少しぐらい見せてやるぜ」
「……はい!」
そう言うとナギは瞬間的にリングへと戻り、アスナと対峙したのである。
ここでようやくアスナはうつむいた顔を上げ、ナギの方をしっかりと見た。
そのアスナの表情は、嬉しいような悲しいような、そんな感情が入り混じったものであった。
そして、瞳には涙をため、今にも決壊して泣き出しそうになっていた。
「悪ぃな、アスナ、待たせちまったみてーでよ」
「別にいいのよ。……たとえ本物でなくても、感動の親子の再会を邪魔なんて出来ないもの……」
そこでそんな表情のアスナに、ナギは待たせたことを申し訳なさそうに謝罪した。
アスナもたとえアルビレオのアーティファクトの能力であっても、親子の会話の邪魔は出来ないと話したのだ。
そう、これはどの道本物のナギではなく、ナギの記録を元にして作られた幻でしかないのだ。
それでもナギの姿を見れたことを、アスナは嬉しくもせつなく思うのだ。
そう感傷に浸るアスナは、こぼれそうな涙を服の袖でぬぐい、しっかりとナギを見つめていた。
「そう言うなって。しかし、アスナも随分大きくなったなー。へえ、出るとこ出てきてるじゃねーか」
「……もう、いきなりその話? もっと他にはないの……?」
ナギもそれを知ってるようで、アスナへそう言うなと言葉にしたのだ。
さらにナギは、アスナの成長具合を眺め、意見を述べていた。
いやはや、それは知り合いでなければ、セクハラ発言と取れるようなものであった。
だがアスナは、それに対して怒ることはなかったが、むしろ他に言うことがあるだろうと、ナギへと不満を述べていた。
「うん? そうだなー。どうやらおしめはとれたみてーだな」
「……だから最初からそんなのしてないって言ったわよね?」
そこで昔、ナギはアスナへとかけた言葉を思い出した。
そして、その旨趣の言葉を、もう一度アスナへと言ったのだ。
アスナもそれを懐かしく思いながらも、昔もそれは否定したとナギへと文句を口にする。
そしてナギは、時間が迫ってきていることを察し、アルビレオが用意したまほら武道会の決勝戦を始めようと発言したのだ。
「そうだったか? まあいいさ。時間もねーし、まほら武道会の決勝戦、いっちょやるか!」
「そう簡単にはやられないわよ……?」
「そいつは楽しみだぜ!」
その会話が終了すると、両者はすでに衝突していた。
観客のほとんどが、今の二人の動きを捉えきれず、驚きの表情をするほどだった。
アスナはその至近距離からデッキブラシを使い、突きを繰り出す。
それをナギは体をそらすだけで回避し、拳をアスナへと叩きつける。
だが、アスナも同じく体をそらしてそれを回避し、再びナギへデッキブラシを振り上げるのだ。
「ほー、あの小さかったアスナも、よくここまで成長したもんだ」
「そうよ……。私は成長したのよ……? だから……」
ナギは今のアスナの動きにとても関心していた。
まさかあんなに小さかったお姫様が、ここまで動けるようになるとは考えてもみなかったからだ。
アスナもナギと攻防を繰り広げながら、頬に一滴の雫を流していた。
そして、アスナはあえてそれ以上、言葉にしなかった。
なぜなら、今のナギにこれ以上言葉にしても、意味がないからである。
本当なら話したいことが山ほどある。
体もそうだが、色々と成長したこと。
もう足手まといにならないほど強くなったこと。
またあの時と同じように、もう一度みんなと一緒に旅がしたいという思いも。
何から話していいかわからないぐらい、ナギに伝えたいことがアスナにはあった。だが、今のナギは本物ではない。
だから、今度本物のナギにあった時に、この言葉は全て残しておこう。
そうアスナは考え、小さな涙を流すのだった。
また、そんなアスナの気持ちを知ってか知らずか、ナギは攻める速度を速めていった。
そこでナギはアスナから少し離れ、無詠唱の魔法の射手を数発繰り出すと、それをアスナへと目がけ打ち込む。
アスナはそれを無効化し、再びナギへ近づき、デッキブラシを横に振り払う。
だが、そのデッキブラシをナギは掴み、上空へとアスナもろとも投げつけたのだ。
そして、瞬間的な速さでナギは上空へと舞い上がり、アスナの背後へと回ったのだ。
「やっぱり強い、ナギは強い……」
「お褒めに預かり光栄だぜ、お姫様!」
ああ、なんて強さなんだろう。
アスナはナギとの戦いで、それを実感していた。
そのアスナの言葉に、ナギは少し皮肉が混じった台詞をこぼし、ニヤリと笑う。
アスナはそのナギの声を聞いた瞬間に、ナギが居る背後の方へと向けなおした直後、ナギは魔力で上乗せした蹴りをアスナへと放ったのだ。
だが、それをデッキブラシでいなし、そのままそれを振り下ろしたのである。
「おーおー、ほんとあのアスナかよ!? ここまで出来るなんて予想以上だぜ」
「お褒めに預かり光栄よ、サウザンドマスターさん?」
「へっ、さっきの仕返しって訳かよ!」
ナギはアスナの今の動きに、少し驚いていた。
まさか今の攻撃を防ぐとは思っていなかったようである。
そこでアスナは、先ほどナギが口にした皮肉を真似して、ナギへと返した。
それを聞いたナギは、先ほどの仕返しだとわかり、再びニヤリと笑ったのである。
しかしまあ、なんともすさまじい攻防戦が、会場の上空で行われていた。
それを必死に、一瞬でも見逃すまいと、ネギは瞬きを我慢してまで眺めていたのだ。
さらに、その二人の試合のレベルの高さに、心から驚いていたようだった。
その試合は、まさに決勝戦にふさわしい戦いだった。
そこで時間を考え、ナギは決着をつけるべく、今出来る限りの最大の攻撃をアスナへ向けて放つ。
また、それをアスナも迎え撃つため、同じく技を使ったのである。
「避けないで受けるつもりか! おもしれぇー!!」
「当たり前でしょ……!」
その直後に起こった技と技のぶつかり合い。
とてつもない技同士の衝突で、天空は光に包まれた。
その衝撃は地上にも降り注ぎ、波となった空気が大地を揺らほどであった。
その光がやむと、アスナはナギの拳を受け、そのリングへと落下していた。
それを追ってナギも、地上へと向かって突撃したのである。
そこでアスナは地表手前で虚空瞬動を使い、向かってくるナギへと突貫。
そのアスナの行動に、ナギは嬉しそうに唇を片側へ吊り上げ、拳を振るうのだ。
そんなナギの表情を見て、アスナも強気で微笑み返していた。
そして二人は空中で衝突し、デッキブラシと拳がぶつかり合い、爆発的な轟音と衝撃波を起こしたのである。
誰もがその光景に言葉を失っていた。なんという戦いだろうか。
もはや言葉にすることすら出来ないほどの、激烈な死闘だったからである。
しかし、その試合も終わりを告げようとしていた。
そこでリングの床に寝転がっていたのは、やはりアスナであった。
ナギとの競り合いに、アスナは押し負けてしまったのである。
また、それを見た司会は、すでにカウントを取り始めていた。
「なんつーか、随分おてんばになっちまったじゃねーか。まったく、あのお姫様をこうしちまったのは、やっぱメトなのか?」
「そうよ……。それだけじゃない……、ナギも含めた紅き翼の人たち全員かな……」
「まるで俺らがアスナをこうさせたような言い方だなー、おい」
ナギはアスナを見下ろしながら、会話をしていた。
その表情は嬉しそうだったが、あのアスナがこんなに強くなったことに、少し困惑していたようだ。
まあ、確かに強くなる要素はあったので、驚くほどではなかったようだが。
また、アスナはナギの質問に、メトゥーナトだけではなく、紅き翼全員が、自分を強くさせたと答えたのだ。
それを聞いたナギは、自分たちのせいでアスナがこうなったのかと考え、少し悩むそぶりを見せていた。
「それであってる……。あってるよ……」
「……そうか。色々とあったみてーだな……」
だが、ナギの今の言葉をアスナは否定せず、むしろ肯定したのだ。
そのアスナの表情は涙で濡れており、それを隠すかのように、顔を逸らしてうつむいていた。
それを聞いたナギも、自分がいなくなった後に、何か色々あったのだろうと、ある程度察したようだった。
そして司会がカウントを数え終わると、ナギはアスナの手を引いて、立たせたのである。
また、アルビレオの優勝が決定したのを聞いた観客は、盛大な歓声と共に、拍手喝采を浴びせていた。
「父さん!」
そこで、ネギが我慢できずに走ってきたようだった。
急いで走ってきたようで、ネギは息を切らしながら、ナギへと近寄っていった。
「よう、ネギ。どうだった、俺の強さは?」
「はい、僕が思っていたとおり、強くて無鉄砲な父さんでした」
「そ、そうか……、まあ、そいつはよかった」
ナギは、今の戦いでの自分の強さを、駆けつけたネギへと質問していた。
そこでネギは自分が色々な人から聞いた部分と、自分の憧れていた部分の両方の答えを、ナギへと明かしていたのだ。
それを聞いたナギは、多少その答えに不満があるものの、とりあえず満足そうな笑みをこぼし、うなずいていた。
だがナギは、そんなことを吹き込んだヤツは誰だと、心の奥底で叫んでいたのである。
そしてナギは、自分が幻影としてこうしているのなら、本体はすでに死んだのだろうと考え、それをネギへと話したのである。
「……ここでこうやって、お前と話してるってことは、俺は死んだっつーことだな……」
「え……」
「悪ぃな、お前にも何もしてやれなくて」
それを聞いたネギは、少し固まってしまっていた。
そして、父親として何もしてやれてないだろうと考えたナギは、そこでネギに謝っていたのだ。
それはまさに、ネギが6年前に言われた言葉と、同じようなものだったのだ。
「こんなこと言えた義理じゃねえが……、元気に育ちな。じゃあな」
「ま、待って父さん!!」
しかし、それを聞いたネギは、ナギへ待ったをかけた。
なぜなら6年前、同じような言葉を、ナギから聞かされたからである。
だから、そのナギが死んだという言葉をネギが訂正したのだ。
「父さんは死んでない! 生きてるんです! 6年前の雪の日、父さんは僕を助けてくれました!」
「……何?」
それを聞いたナギは、ならばアルビレオはどうしてこのようなことをしているのかを考えた。
だが、幻影の自分がそれを考えても、無意味だと悟ったようで、その考えを投げ捨てたようだ。
「なら、なぜアルはこのようなことを……。まっ、
と、そこへアスナが立ち上がり、ナギへと声をかけに来て。
その表情は先ほどよりはましだったが、いまだに涙が止まらずにいたのだ。
そしてナギは、そのアスナの表情を見て、困ったような笑みを浮かべていた。
「ナギ……」
あんなに表情の変化が乏しかったアスナが、涙を流すまでになっていた。
それをナギは喜んでいたのだ。
しかし、少女の涙はやはり見たくないので、困っていたのも事実である。
そこでナギは、アスナをあやすように、ゆっくりと頭に手を乗せてなでたのだ。
「アスナ、お前ほんと変わったな。こんなに泣けるようになるなんてよ……」
「ん……」
なんと懐かしいことか。
ナギに頭を撫でられるのはいつぶりだろうか。
アスナはそう考えながら、ナギに頭を撫でられ気持ちよさそうにしていた。
そしてナギに撫でられたアスナは、泣くのを止めてナギの表情を見つめていた。
もう一度心に刻むように。また会えるまで、忘れぬように。
そこで再びナギは、ネギへと視線を送り語り掛けていた。
「ネギ、お前が今までどう生きてきて、お前に何があったのか……」
ネギがどうやって生きてきたのか、幻の自分が知るはずもない。
また、その苦労もわかってやれない。
そして、どうして生きてそばに居てやれなかったのか。
そういった後悔の意味も含めた言葉だった。
「俺のその後に何があったのか……。幻に過ぎない今の俺にはわからない……。けどな」
そして、今の自分は何をしているのか。どうしてネギの側にいないのか。
それも幻である自分にはわからないと、ナギは静かにネギへと語っているのだ。
しかし、そういうのは自分の性に合わないと、ナギはニヒルに笑い、その雰囲気を台無しにする台詞を飛ばすのだった。
「この若くして英雄ともなった偉大かつ超クールな天才&最強無敵のお父様に憧れる気持ちはわかるが……」
「流石に超クールはないわー……」
「少しぐらい盛ってもいいじゃねーか! ……と、まあ、俺の跡を追うのはそこそこにしてやめておけよ」
なんとまあ、とてつもない自画自賛。
それを気にすることなく、むしろ誇らしげに話すナギだった。
しかし、そこへアスナはすかさずツッコミを入れていた。
確かに英雄で偉大なのは間違ってはいない。天才で最強無敵なのもあってるだろう。
だが超クールはない。断じてないと、アスナはそれを指摘したのだ。
そこでナギも、少しぐらいの誇張は許せと叫んでいた。
そしてネギへ、自分の真似ばかりするのはほどほどにしろと窘めたのだ。
「……はい。僕は僕で自分の道を行きます」
「それでいーんだよ、それで。お前は、そのままの自分でいな」
そのナギの言葉に、元気よく返事をしたネギは、自分は自分道を進むことをナギへと強く宣言したのだ。
そしてナギも今のネギの言葉に満足し、父親らしい笑みをしながらそれでよいと言葉にしていた。
そこで時間が切れたようで、ナギは光に包まれ消えていったのである。
「はあ……ヘンタイに戻ったみたいね……」
「そんなに残念そうな顔をされると、私としても大変ショックなんですけどね」
「ウソおっしゃい……」
その光が消え、アーティファクトの効果が切れたことで、そこにアルビレオが姿を現した。
それを見たアスナは、心底がっかりした表情で、戻ってしまったことを嘆いていた。
また、そのアスナの言葉を聞いたアルビレオは、いつもの笑みで心に傷がついたと言い出したのだ。
だがアスナはそんなはずがないと、アルビレオの言葉を切り捨てていた。
「父さん……」
そこで父の姿を思い出しながら、むせび泣くネギが居た。
それを木乃香や刹那や、応援しに来たクラスの人たちも、優しい眼で眺めていた。
また、アスナはネギへと近寄り、その手をネギの肩へと乗せていたのだ。
当然アスナもナギが消えてしまったのが悲しく思っていた。
だがアスナは、もう涙は流さない。今度は自分がネギの涙をぬぐってやる番なのだから。
そう思いながらアスナは、ネギの肩をあやすように優しく叩いていたのである。
こうしてまほら武道会決勝戦は、アルビレオの優勝で幕を閉じたのであった。
流石に魔法無効化あっても最強の英雄には届かないかな
何せあのジャック・ラカンよりも勝っていますから