理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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修行により数段パワーアップしたカギ


六十八話 カギと銀髪、再び

 この銀髪イケメンオッドアイの姿をした転生者、天銀神威は麻帆良祭で何をしていたのだろうか。

それは考えればすぐに思いつくことだった。

 

 そう、この神威は3-Aが出展するお化け屋敷へと、何度も足を運んでいたのだ。

それも二日間連続で、何度も何度も通いつめたのである。

 

 その目的は当然3-Aのクラスメイトを自分のものとし、最終的には手篭めにすることだ。

だから神威はまほら武道会など目もくれずずっとお化け屋敷で遊んでいた。

 

 そして、そこで笑顔を振りまき、数回にわたってニコぽを使用していたのである。

当然そうなれば、3-Aのクラスメイトの大半は、この神威のものとなるだろう。

 

 しかし、それを阻止しようと動くものが居た。

それがあのパパラッチである朝倉和美だった。

 

 和美は神威の醜い本性と能力を知っており、神威が微笑めば惚れるという謎の現象を理解していたのである。

 

 また、この和美の嫌いなものは巨悪だ。

この神威が巨悪かはわからないが、ハッキリ言えば嫌悪するに値する存在なのは事実であった。

そう言った理由から、この神威がお化け屋敷へとやって来たのを目撃したのを期に、それを何とかしようと奮闘していたのだ。

 

 だが、それはあまりうまくいかなかった。

と言うのも微笑みかけるだけで惚れるのを、止めるすべが和美にはないからだ。

 

 確かにある程度は阻止出来たものの、クラスメイトの大半はあの神威の虜になってしまったのである。

そして和美は、あの神威に惚れるクラスメイトたちを、ただただ見て居ることしか出来なかったのだ。

 

 だからもう我慢できず、神威を追跡し非道の数々をクラスメイトに教え、目を覚ましてもらおうとしていたのだ。

 

 

…… …… ……

 

 

 カギと神威は麻帆良の一角で対峙し、その二人を月夜が照らし、銀と赤を強く目立たせていた。

夜風は冷たく二人を包むが、それ以上に冷たい殺気が辺りに充満し、周囲の気温がさらに下がったかのような錯覚を覚える。

 

 そう、あの時カギは神威に敗北した。

されど、今回は修行を積み、前回の数倍以上カギは強くなっていた。

 

 そんなことなど露とも知らず、神威は余裕の態度を崩さずにカギを見下していたのである。

 

 

「醜い片割れ、私の邪魔をしないでほしいね」

 

「ハッ、邪魔してねーよ。テメーが俺の道をふさいでるだけさ」

 

 

 神威は亜子をもうすぐ手篭めに出来そうだと思っていた。

それを防いだカギを心底邪魔だと感じていたのだ。

 

 カギは邪魔だと言う神威に対し、自分の道をふさいでるのはお前だと言ってのける。

それは自分の従者である夕映と、もっと友好を深めるための邪魔をするなと言う意味も含むのであった。

 

 

「ハハハハハ、面白いことを言うね。この前のように、いや、それ以上に悲惨な目に遭ってもらおうかね」

 

「やってみろよ。逆にテメーがそれ以上の悲惨な状態になる番だぜ……!」

 

 

 両者ともにらみ合い、もはやすぐにでも戦いが始まろうとしていた。

カギは殺気立ちながら戦闘態勢となり、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から愛用の杖を取り出し、しっかりと左手で握り締めていた。

 

 さらにカギは”戦いの旋律”による身体魔力強化を行い、隙を見て神威を殴り飛ばそうとしていたのである。

 

 それを見た神威も腕を握り構えを取り、いつでも攻撃出来る姿勢となっていたのだ。

 

 

 そんな二人から退避し、三郎は亜子を抱きかかえ物陰に隠れていた。

そこへ他の人物がやって来てたのである。それはやはり和美であった。

 

 和美も神威を見失いカギと手分けして探していたので、ようやく神威の居場所を探し出し、この場所へと駆けつけたのだ。

 

 また、その和美の護衛として、マタムネも参上していた。

加えてカモミールも和美の肩の上に登り、その場でカギを見守っていたのである。

 

 

「あ、アンタは? それと和泉!?」

 

「俺は川丘三郎と言います。それと亜子さんなら、あの子供の先生が眠らせたみたいです」

 

「カギ君が? それよりもアンタ、その怪我大丈夫!?」

 

 

 和美は三郎と会うのが初めてだったらしく、誰なのだろうかと思った。

ただ、それ以上に亜子が気を失っていることに、大層驚いていた。

そこで和美の疑問に三郎は自己紹介と共にカギが亜子を、眠らせてくれたと答えたのだ。

 

 それを聞いた和美は、あのカギに気の利いたことが出来たのかと少し関心していたようだ。

しかし、そこで和美は、三郎の右太ももと左肩の血痕を見て、驚きの悲鳴を上げていた。

 

 

「傷はもう心配ありません。子供の先生がよい薬をくれましたから」

 

「それならいいけど……」

 

 

 三郎はすでにどちらの怪我も治療済みで、傷はふさがって居る状態だった。

それでも怪我した部分はおびただしい血で汚れ、はたから見れば怪我をしているように見えたようである。

 

 加えて時刻も夕方であり、薄暗い状態だったのだ。

だから和美は三郎が怪我をしていると錯覚したようだった。

 

 

「あ、そうだ。私は朝倉和美よ。和泉のクラスメイトね」

 

「亜子さんの知り合いでしたか」

 

 

 そこで和美は自己紹介を忘れていたと思い、三郎へとそれを行った。

さらに和美は気持ちが落ち着いたようで、彼が噂の亜子の彼氏であることを思い出し、普段の笑みを見せていた。

 

 また三郎は和美の紹介を聞き、亜子の知り合いとわかり心から安心したようである。その安堵する三郎の横で、マタムネが和美へと話しかけたのだ。

それは危険の知らせであった。

 

 

「和美さん、オコジョ妖精、どうやら二人が激突するようです。もう少し離れた方がよろしいかと」

 

「ここでも危ないの!?」

 

「冗談だろ!? 20メートルは離れてるんだぜ!?」

 

 

 それを聞いた和美は、そこそこ距離のあるこの場所でさえ危険なのかと思っていた。

和美らが居る場所は、カギと銀髪から20メートルほど離れていたのだ。

 

 この距離はカギが張った人払いの結界の射程距離でもあった。

しかしその距離でも安全圏には足りぬと、マタムネは忠告していたのだ。

 

 だから和美はマタムネから、この場所でも危険だと聞いて大層驚いていたのだ。

その和美の肩の上で、カモミールも飛び跳ねて驚いていた。

 

 なぜなら、それはまさしく、壮絶な争いになると言うことを表していたからだ。

 

 

「はい、かなり危険かと。とりあえずあちらへ移動しましょうか」

 

 

 だからマタムネが示した場所へと、和美は移動をすることにしたのである。

そこで三郎はオコジョがしゃべっていることに驚き、目をパチクリさせていたのだった。

 

 

「オコジョがしゃべってるけど、腹話術か何か?」

 

「あ、ヤベ! この兄さん一般人だった……!」

 

 

 カモミールは自分の失態に気づき、焦りの表情を見せていた。

この三郎、スタンドやシャーマンのことは知っていても、魔法使いのことをあまり知らないのである。

 

 いや、魔法があるようなことは状助から聞いているが、まさかオコジョが人語を話すとは思っていなかったのだ。

とは言え、そんなことに驚いて居る暇など無く、和美は三郎へ、急いで離れるように話したのだ。

 

 

「後で説明するからさ! 今はここを離れたほうがいいって!」

 

「……? どうして?」

 

 

 だが、三郎にマタムネを見る力は無い。

故に、マタムネの説明が理解出来ないのである。

 

 そのため、なぜこの場からさらに離れなければならないのか、わかっていないのだ。

それに気がついた和美は、とりあえず三郎にも移動するように持ちかけたのだ。

 

 

「そっか、アンタにはマタっちが見えないんだ。とりあえず私についてきて!」

 

「マタ? まあ、そう言うのであれば、そうします」

 

 

 そしてすぐさまマタムネの案内を受け、和美がそっちの方へと走っていた。

カモミールも和美の肩に捕まり、同時にその場から離れていったのである。

 

 さらに三郎も気を失っている亜子を抱きかかえ、和美の後を追っていった。

 

 

 しかし、どうしてマタムネは、カギと共闘しなかったのだろうか。

ここでマタムネがカギと共に神威と戦えば、戦局は有利になっただろう。

 

 だがそれには理由があった。

あの銀髪たる神威が抜け目ない男だと、マタムネは考えていたからだ。

 

 カギとの戦いの最中に和美の方にやって来て、人質やニコぽを使う可能性を考慮したのだ。

なのでマタムネは、加勢よりも和美たちの護衛についたのである。

 

 

 

 この場から離れた和美たちをよそに、いまだにカギと神威は向かい合い、互いに牽制しあっていた。

じりじりと互いの隙をうかがい、どちらが先に動くかを待ってる状況だった。

 

 そんな二人を照らすように、一つの花火が打ちあがっていた。

それが天に鮮やかな火の花を咲かせ、夜空を明るく染めたのだ。

 

 その花火を合図に神威とカギの拳が衝突し、爆発的なエネルギーを噴出させていたのである。

 

 

「地にはいつくばって消えてもらう!!」

 

「私の目の前から消えうせてもらうよ、醜い片割れ!」

 

 

 その爆発の勢いを利用し、両者は距離を取り離れていた。

カギは勢いのまま下がりつつ、着地寸前で王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を起動し、宝具を大量に出現させれば、超絶な宝具を解き放ち、束となって神威へと突き進んでいったのだ。

 

 しかし、それを神威はいともたやすく回避し、カギの懐へともぐりこみ、技を使ったのである。

 

 

「”神の鉄槌”!!」

 

 

 神威が放った神の鉄槌は膨大な気を拳に固め、ハンマーのように相手を殴り飛ばす技である。

それを神威はカギへと振り下ろし、そのまま潰してやろうと考えたのだ。

 

 だがカギはその程度の攻撃など当たらなくなっていた。

カギは神の鉄槌をいともたやすく避け、魔力で強化した右腕で神威の腹部を殴り飛ばしたのである。

 

 

「な、にぃ!?」

 

「テメー、なめんなっつったろ?」

 

 

 さらにカギは王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から一本の剣を取り出し、それを神威に向けて振るったのだ。

その鋭い斬撃はすさまじい魔力を宿しており、命中すれば神威ですら、ただではすまない攻撃であった。

 

 神威はそれを直感的に避け、カギへとさらなる技を繰り出したのだ。

 

 

「チッ”神狼(しんろう)咆哮(ほうこう)”!!」

 

 

 神狼の咆哮は、拳から拡散する気の衝撃波を放つ技だ。

それは広範囲に渡り衝撃を与えるため、至近距離に居たカギはそれを受けざるを得ない状況となってしまい、その技を見たカギは最大障壁でそれを防御し、なんとか防ぐことに成功したのだ。

 

 

「その程度の技、俺にはもう通用しねぇ!!」

 

 

 それは大きな隙となり、神威はカギの背後へと周り込んでいた。

カギはそれに気づくと、すぐさま後ろを振り向き、右拳を神威へと打ちつけたが、神威はそこで更なる技を使っていたのだ。

 

 

「ハハハハハ! 言うようになったね、”神蛇(しんじゃ)毒牙(どくが)”!!!」

 

 

 神蛇の毒牙は、手刀に気を纏わせ螺旋を描くように鋭く突く技である。

その攻撃もカギは防御で対処しようと障壁を張っていた。

 

 しかし、その技は障壁すらも砕き貫通し、カギへと迫ってきていたのだ。

それを見たカギは、流石に驚きの声を漏らし、どう回避するかを考えていた。

 

 

「何!?」

 

「ハハハハハ! 串刺しになってしまえよ!」

 

 

 そしてカギへ、その神蛇の毒牙が襲い掛かり、腹部へと突き刺さったのだ。

神威はカギが自分の技を受け串刺しになったのを見て、ほくそ笑みながら笑っていた。

 

 なんということだろうか、カギはこの技でしとめられてしまったのだ。

 

 

「ハハハハハ! 残念だったね、醜い片割れ」

 

 

 カギは神威の右腕に腹部を貫かれ、ぶら下がった状態となっていた。

 

 と、そこでなんとカギが突然溶け出し、消滅したのである。

 

 それを見た神威は、一瞬仰天して背後を振る向いたのだ。

するとそこにはカギがおり、すでに拳に魔力を乗せて殴る体勢となっていたのである。

 

 

「パープリンだなテメーは! ”幻影”だよアホンダラ!」

 

「何……だと……!? 馬鹿な……!?」

 

 

 その振り上げた拳は神威の涼しげな顔に直撃し、その美形を歪ませたのだ。

さらにカギは神威の顔面に拳を突き刺したまま、突き進んで速度を上げていた。

 

 神威は何とか顔面の拳を抜こうと、必死にもがくものの、そのカギの突進力に気おされ、なかなか抜けれずにいたのだった。

 

 そのままカギは突進しながら魔法の詠唱を唱えており、その魔法が発動し神威へと襲い掛かったのだ。

 

 

「近距離でよく味わいな! ”千の雷”!!」

 

「ガッ!!!?」

 

 

 千の雷をほぼゼロ距離で受け、その勢いで吹き飛ばされた神威は、建物に激突して大量の土煙を吹き荒らしていた。

 

 またカギはその程度でくたばらないだろうと考え、すでに次の攻撃へと移っており、雷の斧を掌握し左手の杖と合体させたのである。

 

 

「これがテキトーに開発した俺の必殺!! ”雷神斧槍(らいじんふそう)”だぜ!!」

 

 

 その魔法の形は雷の力で出来たハルバードであった。

さらにその魔法は、あのエヴァンジェリンが開発した”術具融合”の魔法だったのだ。

 

 そう、カギはついにこの魔法を会得できたのである。

とは言え、これでもエヴァンジェリンからすれば、まだまだ甘いレベルなのだが。

 

 カギは虚空瞬動により空中で加速し、その雷神斧槍を神威が居るであろう土煙立ち込める倒壊した建物へと突き立てたのだ。

 

 

「醜い片割れ……。君ごときが私に向かってこんな……」

 

 

 神威は顔を傷つけられ、かなり怒りを感じていた。

このイケメンたる自分の顔に、泥を塗られたからだ。

 

 そして、その神威の怒気により、土煙は吹き飛びカギの目の前に神威が現れたのだ。

 

 

「…………君は必ず殺してやる、この醜い片割れが……!!」

 

 

 その怒りにより神威は爆発的な気を体から放出し、おぞましいほどのプレッシャーを放ち始めた。

また、美形と呼ばれた表情はなりを潜め、もはや醜く歪んだ憎悪の表情となっていた。

 

 しかしこの怒りようは、ただ顔を傷つけられただけではなかった。

完全に格下としか見ていなかったカギに、傷つけられたと言うことが許せなかったのだ。

 

 そうだ、この神威はカギから攻撃を受けたことで、そのプライドを汚された気分だったのである。

 

 そんな怒りをあらわにする神威へと、カギはそのまま一直線に、雷神斧槍を神威へと突き立てながら突き進んでいったのだ。

 

 

「それはこっちの台詞だクソヤローが!!」

 

「……”賢神(けんじん)聖槍(せいそう)”」

 

 

 そこで神威は新たな技を繰り出して、巨大な気で出来た槍を右腕に出現させたのだ。

 

 そしてそれをカギの雷神斧槍と衝突させると、一瞬にして辺りの物体は光に飲まれ、破壊されつくされたのである。

だがその光の中で、両者は衝突を繰り返していたのだった。

 

 

「テメー、俺の従者に手を出しやがって! すぐ死ね! 今死ね! この俺の目の前から、この麻帆良から消えうせろオォッ!!」

 

「消え去るのは君なんだよ、醜い片割れ……」

 

 

 気の槍と魔法の槍の壮絶な衝突。

一撃衝突するだけで莫大な衝撃が発生し、周りの瓦礫を吹き飛ばしていた。

 

 それが何度も行われ、すでに周りには何も無くなっていたのである。

と言うかこれ、完全に破壊活動となっていた。

さらに両者とも槍でつばぜり合い、力比べを始めたのだ。

 

 

「くたばりやがれ!」

 

「それは君だよ……」

 

 

 そのつばぜり合いの間に神威は左腕に膨大な気をかき集め、その力を溜め始めた。

それを見たカギは直感的に危険を察知し、すぐさま後退したのである。

 

 しかし、神威はカギを逃がさんと、右手に持つ賢神の聖槍を突き立てながら、カギとの射程を保っていたのだ。

そこで神威が溜めた左腕の気を、カギの方へと打ち放ったのである。

 

 

「”戦神(せんじん)の怒り”!!!」

 

 

 神威が放った技は、戦神の怒りと言うものだった。

それは単なる気の塊を、相手にぶつけるだけの砲撃だった。

 

 されどその砲撃は宇宙戦艦の主砲のような、巨大な極太レーザー砲のような、壮絶な砲撃だったのだ。

さらにその膨大な量の気の砲撃は地響きを立てながら、カギを飲み込まんと襲い掛かったのだ。

 

 

「何!? グアッ!!?」

 

 

 なんということだろうか。

その極太の気のレーザー砲にカギはのまれ、光の中に消えていったのだ。

 

 もはや悲鳴を上げる間もなく、カギは光に飲み込まれてその場から見えなくなってしまった。

それを見た神威は溜飲が下がったのか、普段の落ち着いた表情に戻っていた。

 

 

「所詮は醜い片割れ、この程度だったってことさ。さて、亜子さんはどこへ……?」

 

 

 これで戦いは終わったと感じた神威は、辺りを見回し、亜子と三郎を探そうと試みて歩き始めたのである。

しかし、戦いは終わってなどいなかった。

神威は完全に、カギのことを甘く見すぎていたのだ。

 

 

「……何勝手に終わらせてんだ?」

 

「なん!? ガアアアアア!?」

 

 

 なんとカギはいまだ健在で、神威の顔面へと再び拳を突き刺していたのだ。

ところどころ傷を作ってはいるが、ほとんどが軽傷だったのである。

 

 これは一体どういうことなのだろうか。

あの時カギは確かに神威の技に飲み込まれたはずだった。

 

 だが、カギは神威の攻撃を防ぐべく、別の手をすでに使っていたのだ。

それは神威との戦いの前から、すでに用意されたものであった。

 

 その答えはカギの着ていたローブの下に存在した。

カギはローブの下に、あの黄金の鎧を装備していたのである。

 

 さらに術具融合はO.S(オーバーソウル)を基礎に開発された術式だ。

その技術を使った雷神斧槍は、甲縛式O.S(オーバーソウル)には届かないものの、ある程度の防御力を有していた。

 

 そのため雷神斧槍を使い戦神の怒りを防御したことで、その防御力によりダメージを抑えることが出来たのである。

 

 つまり、その二つの要因により無傷とは言わないものの、神威の放った戦神の怒りからのダメージをある程度抑えることが出来たのだ。

 

 

「ハッ! 形勢逆転ってやつだなぁ!! ねえどんな気持ち!? 今どんな気持ち!?」

 

「こ、このクソカス……!!!」

 

 

 そして神威に突き刺さった拳から、白き雷が打ち出された。

その雷撃を受けた神威は、数メートル吹き飛び地面に転がったのである。

さらにカギは雷神斧槍を神威へと投擲し、それが神威へと突き刺さったのだった。

 

 

「アグッ!! グアアアアアッ!?」

 

「突くのは好きみてぇだが、突かれるのは嫌いだったかなぁ!? ”術式解除、雷斧招来(らいふしょうらい)”!!」

 

 

 そこで術具融合として杖と合体させていた”雷の斧”を開放し、神威へと命中させたのだ。

すさまじいカギの多段攻撃に、あの神威とて耐えられるものでもなく、その一撃で天にも届くほどの悲鳴を上げ、苦痛に耐えていた。

 

 

「ギッイガアアアアアアアッ!!?」

 

「醜いのはどっちか、思い知ったかクソッたれ!!」

 

 

 カギは神威の悲鳴を聞いて、そう罵倒の叫びを上げていた。

そして神威は完全に力尽きたのか、その場に倒れこみ動かなくなったのである。

 

 とは言え、カギはその動かなくなった神威を見ても、いまだに戦闘態勢を解こうとしなかった。

 

 この神威はあのジャック・ラカンの能力を特典として選んだ転生者だ。

ジャック・ラカンはとてもしぶとく、そう簡単にはくたばらない。

 

 実際カギはその事実をいまだに知らないのだが、カギが持つナギの特典としての勘が、まだ動く可能性を感じさせていたのである。

 

 だが、修行したカギにここまでボコられて居るのを見ると、本当に修行していたのか疑わしく感じる部分もあった。

と言うのもこの神威、技の開発ばかりに力を注いできたのである。

 

 

 かっこいい技名を考えては、その技を開発する。

そのサイクルをずっと繰り返してきたのが神威だった。

 

 まあ、そこでさらっと開発できてしまうのも、あのジャック・ラカンの特典(のうりょく)ゆえと言えよう。

さらに言えば神威はイケメンで体も巨体ではなく、多少筋肉はついているものの、細身で優男のような体系だった。

 

 そう言った部分がジャック・ラカンとの能力と微妙にかみ合わず、100%の力を出し切れていなかったのだった。

 

 そのため神威はジャック・ラカンほどの能力を得られず、中途半端な存在に成り下がっていたのである。

 

 されど、カギは違う。

カギは大人の体となり、ナギの能力をかっちりかみ合った状態で修行を繰り返してきた。

つまりカギは神威の何十倍もの効率で、強くなってきたことになるのだ。

 

 それに神威はカギのことを完全に見下していた。

かなり慢心があったとも言えるだろう。そのような精神で相手していたため、神威はカギに足元をすくわれた形となってしまったのだ。

だからこそカギは神威を圧倒し、ここまで出来るようになったと言えるのであった。

 

 

「まだ終わってねぇだろ、テメー……」

 

「……フフ、フフフフフ……」

 

 

 カギがそこでそう言うと、神威は倒れたまま笑い出していた。

そして、そのまま立ち上がり、カギの方を不気味な笑みを浮かべ、眺め始めたのだった。

 

 

「醜い片割れ、笑えるね……」

 

「何が笑えんだよ!」

 

 

 そこで笑えるとほざく神威に、カギは苛立ちの言葉を発していた。

そのカギの言葉を聞き、神威はさらに醜悪な笑みを見せ、その答えをゆっくりと解説していったのだ。

 

 

「だって君が私を倒したとしても、私が命を落とさない限り、ニコぽは解けないのだよ?」

 

「あぁ? んだっつーんだよ!!」

 

「わからないやつだね」

 

 

 神威が言うことは簡単だった。

自分を倒したところで、死なない限りはニコぽの呪いは解除されないということである。

 

 ただ、そんな遠回しな言い方じゃカギはわからないのか、それともわかりたくなかったのか、それを何だと聞き返していたのだ。

 

 そんなカギを見て、神威はあきれた表情で肩をすくめ、さらに核心をカギへと話したのである。

 

 

「それは永遠に君の従者は、私のものだということだよ」

 

「な、何!?」

 

 

 そう、つまり自分を倒したところで、カギの従者は君の元へは戻らないと、そう神威は言い放ったのだ。

 

 その答えにカギは目を見開き驚き、その直後体全体が震え始めていた。

さらにすさまじい殺気がカギからあふれ出し、今にも殴り殺そうと言うほどの視線を神威へと向けたのである。

 

 

「いや、笑わせてもらった。そして君がこれほど強くなるとはね……」

 

「……だったらぁ…………、笑えねぇように永眠させてやるってんだよ……」

 

 

 しかし神威は、そのカギを見てもなんともなんとも思わないのか、冷めた視線をカギへと送り、笑いながらにカギが強くなったことを皮肉まじりに語っていた。

 

 当然それは馬鹿にしているものであり、決して認めた訳ではない。

そしてそう話す神威に、カギは命をも奪うと断言したのである。

 

 

「ハハハ、今日はもう勘弁かな。私はこれから約束があるのでね」

 

「あんだとテメー!! 逃げんのかよ!!!」

 

 

 さらに神威は戦うことを放棄し、逃げる手に出たのだ。

それは神威が約束を取り付けているからだと、カギへとしゃべったのである。

 

 激高するカギは神威を逃がす気などなく、逃げるなと怒気を含んだ叫びをあげていたのだ。

 

 

「そう、逃げるんだよ。私は無意味な争いはしない主義でね」

 

「何だと!? 無意味だとぉぉ!?」

 

 

 その怒りに燃えるカギを見て、無意味な戦いをしない主義だと神威は言ってのけたのだ。

その無意味な戦いとは今の状態であり、それを無意味と言われたカギは、さらに怒りの炎を燃焼させるのだった。

 

 そんなカギなどどうでもよさそうにし、淡々と無意味なことだと神威はカギへ挑発的に話す。

心底カギを見下し馬鹿にしないと気が済まないのだ。

 

 

「そう、無意味。だって私は君を倒しても、何の得もないのだからね」

 

「こっちにゃテメーを倒す理由は山ほどあるんだよ!!」

 

「そうかい? まあ、頑張ってくれたまえよ」

 

 

 神威にはカギを倒す必要性が無い。

それは当然のことだ。どうせ戦って勝っても、何かが変わるわけではないからだ。

 

 だが、カギには神威を倒す理由がある。夕映の洗脳を解くことや、過去の敗北の屈辱を晴らすことも理由にあげられるのだ。

 

 そこでもはや、戦いなどどうでもよくなった神威は、黒く歪んだ微笑みでカギへと皮肉として応援の言葉を送ったのである。

 

 

「それでは、アディオス!」

 

「おい、テメー待て!! クッソォゥッ!」

 

 

 そして神威は影の転移魔法(ゲート)を使い、この場から脱出していった。

 

 それを見たカギは、そんなことも出来るのかと驚きながらも、神威を逃がしたことを悔しく思うのだった。

 

 また、カギは悔しさから、膝を突いて地面に拳を突き立てていた。

すると地面は壮大に砕け、大地を割ったのである。

 

 その様子を何とか遠くで見ていた和美や、カギの魔法で眠りについている亜子を抱きかかえた三郎が、カギの近くへと寄って来たのだ。

 

 

「カギ君、大丈夫……?」

 

「子供先生……」

 

「兄貴……」

 

 

 神威を取り逃がしたカギに和美と三郎が声をかけていた。

カモミールもその怒りを地面にぶつけるカギを見て、心苦しそうであった。

加えてマタムネも、目を瞑りながら何かを考えて居るようだった。

 

 

「チクショウ……! チクショウッ!! あの野郎を潰す絶好のチャンスだったっつーのによーッ!!!」

 

 

 しかしカギには二人の声が届いていないようだった。

その後悔の念で歯を強く噛み、何度も地面に拳を叩き込んでいた。

その打ち付ける拳は皮膚の皮が破れ、真っ赤に染めていたのである。

 

 

「俺はあん時から! 全然成長してねーじゃねーかッ!!」

 

 

 そしてカギは叫んでいた。

あの敗北した時と、まったく成長していないと。

またしても銀髪に敗北したのだと、そう感じていた。

 

 確かに神威を圧倒出来た。

されど、最終的には神威を逃がし、結果的に負けてしまったのである。

その敗北感にカギは、打ちひしがれていたのだ。

 

 

「クッ……。ヤツはどこに行った……。誰と約束したんだ……」

 

 

 カギは悔しさで苦しみつつ、あの神威が次にどこへ向かったのかを考え始めていた。

 

 あの神威は約束があると行って逃げていった。

つまり、誰かと会う約束のことだと、カギはそれを推測したのだ。

 

 そこへ再び和美が、その深く思考するカギへと、声をかけたのである。

 

 

「……カギ君、その手大丈夫なの?」

 

「なんだ朝倉か……。手なら問題ねぇよ。後で簡単に治せる……」

 

 

 和美はカギが地面に打ちつけ怪我をした手を、心配そうに見ていたのだ。

その和美の心配する声に、カギは後で治せると言って心配させまいとしていた。

 

 だが、和美の声を聞いたカギは、ふと何かがひらめいたようだ。

確か朝倉はパパラッチでクラスの事情に詳しいはずだと、それをカギは思い出したのである。

それを確認するべく、カギは和美へと話かけたのである。

 

 

「そうだ朝倉! 誰かクラスメイトで、この時間に約束してるとか言っていたヤツは知らねーか!?」

 

「え!? 急にそんなこと言われても……。ちょっと待って! 今思い出すから!!」

 

「兄貴、何か思いついたんだな!?」

 

 

 そうカギに言われた和美は、今日のクラスメイトの予定を思い出していた。

カモミールも、カギが何か名案を浮かばせたと思い、それを叫ぶ。

 

 この時間に誰かと約束していると話していた人は誰だったか。

それを必死に思い出そうと、和美は腕を組んでうなっていた。そしてそれを思い出したようで、カギへとそれを教えたのだ。

 

 

「た、確かこの時間帯なら、噴水公園で誰かと待ち合わせするって、大河内が話してた気がしたよ」

 

「おい、その待ち合わせてんのが銀髪だっつーんなら、アイツも……」

 

「ま、間違えねーぜ……。あの銀髪は何人はべらせてぇんだ!?」

 

 

 それを聞いたカギは、神威の次の居所がわかり喜びそうになった。

しかし、それはつまり大河内アキラがあの銀髪の手に堕ちたことに他ならなかった。

 

 だからカギは、それを素直に喜べず、むしろさらに悔やむ気持ちが強くなっていたのだった。

カモミールもそれで間違えないと考えたが、神威が何人手篭めにすれば気が済むのかと考えていた。

 

 

「そ、そうだね……。でもカギ君が助けてくれるんでしょ!?」

 

「……ハッ! あったぼーよ! 生徒の悩みを解決するのも、教師の役目だ!」

 

「今の兄貴ならぜってーにできらぁー!」

 

 

 だが和美は悔いの気持ちで暗くなるカギを、奮い立たせようとその言葉を発していた。

カギがやらずして誰がやると、そう叫んでいたのだ。

 

 その和美の言葉を聞いたカギは、こんなところでいじけていては意味がないと考え、教師としてみんなを救うと豪語したのだ。

 

 その横でカモミールも、今の戦闘力のカギならば神威を倒せると確信していたようである。

 

 

「俺からも頼みます。それに俺もあいつを絶対に許せません……」

 

「おう、任せとけって! ぜってーあの銀髪のイケメン面を歪まして、頭ハゲ散らかしてやるぜ!」

 

 

 そこで三郎も、カギに神威を倒すことを頼んでいた。

あの銀髪は絶対に許さないと、心に怒りを燃やしていたのだ。

 

 それは自分への仕打ちでのことではない。

亜子を泣かせ、弄ぼうとしたことに、怒りを感じていたのである。

 

 また、カギも三郎の分まで神威に報いを受けてもらうと、三郎へと宣言していた。

 

 

「なら俺は行くぜ。いそがねーと、色々やばそうな状況っぽいしな」

 

「うん、ヤバイよ……。うちのクラスの大半が、あの銀髪に惚れちゃってる状況だよ……」

 

「マジかよ……」

 

「ウソだろー!?」

 

 

 カギがヤバそうな状況だと言ったところで、和美が本当にヤバイと話し出した。

銀髪のやつはすでにクラスの大半を手篭めにし、本当に危険な状況なのだとカギへと説明したのだ。

 

 その和美の今の話を聞いたカギは、本気で今の状況がとてつもなく危険だと言うことを確認したのだ。

そして顔を青く染め、早く何とかせねばと思ったのである。

 

 カモミールも今の話で飛び跳ねながら驚き、このままではヤバイと危機感を持ったようだ。

 

 

「ならば小生も、カギさんの助太刀をさせていただきましょう」

 

「む、ネコ。お前も戦うってのか?」

 

 

 自体は一刻も争う状況となっていたことで、カギも焦りを感じていた。

そんな焦るカギに、マタムネは静かに口を開いた。

 

 それはカギと共闘するという旨趣の言葉だったのだ。

とは言えカギは、このマタムネを見て、微妙に頼れるか心配そうにしていたのである。

 

 

「この小生では不服と申すか?」

 

「いや、まあ、少しそう思うけど。どうするか……」

 

 

 そのネコとしての自分の姿を見て多少不安がるカギに、マタムネは不服なのかと聞いていた。

 

 そこでカギは、少し正直にそう思うと言っていた。

ただ、確かに戦力は多いほうがいい。このネコの強さがどれほどかはわからないが、名乗り上げるからにはある程度動けるんだろうとは、カギも考えたようだった。

 

 

「いや、やっぱ来なくていい。あいつとの決着はおれ自身がつけてぇ……」

 

「その意気込みやよし。しかし、自体は一刻を争うのですよ?」

 

 

 だがカギはマタムネの助太刀を拒んだのだ。

あの神威との決着は、自分の手でつけたいと考えたからだ。

 

 また、そのカギの答えにマタムネはその意思はすばらしいものだと関心したが、逆にこの状況はすばやく解決必要があるため、そんなことをしている暇はあるのかと、カギへと話したのだ。

 

 

「わかってるよ。だけどあのヤローは何をするかわからん。だから朝倉についてるなら、そうしていてくれるとありがてぇ」

 

「そうですか。そう申すなら、何も言いますまい……」

 

 

 そうマタムネから言われたカギも、そのことは重々理解していた。

大切なクラスメイトがあんな銀髪に手篭めにされたままなど、夢見が悪すぎるからだ。

そんな風に考えながらも、カギはそれとは別の理由もあると、マタムネにそれを説明した。

 

 それは和美や亜子が、もしものことだが再び狙われた時、守ってほしいというものだった。

そのカギの申し出を聞いたマタムネは、納得したようで頷き、もはや言葉は不要だと述べていた。

 

 

「カモ、お前もここに残れ」

 

「な、何でだよ兄貴!!? 俺っちはどこまでも兄貴についていくぜ!!?」

 

 

 そこでカギはカモミールもこの場に残ることを提案していた。

しかしカモミールは、カギについていく気が満々だったようだ。

それを聞いたカモミールは、ついて行くと叫んでいたのだ。

 

 

「駄目だ、この先の戦いがどうなるかわからねぇ……。ここで残ってくれた方が俺もやりやすい……」

 

「た、確かに俺っちがついていっても、足手まといにしかならねぇ……」

 

 

 カギは再び神威と合間見えたとき、どんな戦闘になるかわからなかった。

だから被害が出ぬように、カモミールを置いていきたかったのだ。

 

 そのカギの言葉にカモミールも、自分がついていっても邪魔になるだけだと思ったようだ。

 

 

「わかったぜ兄貴! 俺っちもここに残って、兄貴の勝利を祈ってるぜ!!」

 

「悪ーなカモ、んじゃ頼んだぜ!」

 

 

 そしてカモミールはここに残ることを決断し、カギの勝利を祈ることにしたようだ。

そんなカモミールにカギは、少し申し訳なさそうな表情で謝り、強い気持ちで頼んだと言っていた。

 

 

「んじゃまあ行って来るぜ。明日になったらみんな元に戻ってるはずだからよ!」

 

 

 そしてカギは、そこの二人と二匹に戦いに出ると言っていた。

明日になればクラスメイトは悪夢から解放され、日常に戻っているはずだと、そう断言したのである。

 

 

「うん、期待してるよカギ君!」

 

「よろしくお願いします」

 

「和美さんのことは任されよ」

 

「兄貴、絶対に勝ってくれよ!!」

 

 

 そんなカギの言葉を聞いた二人と二匹は、互い互いにカギを応援していた。

和美はカギに期待を寄せ、三郎は先ほど頼んだことを再びお願いしていたのだ。

 

 さらにマタムネは、和美は守るので安心して行って来いと、そう言う意味の言葉をカギへと送っていた。

それらの言葉を聞いたカギは、その場から杖で飛び立ち、目的の噴水公園へと急いだのだ。

 

 その飛び去るカギの背中を、二人と二匹はその姿が消えるまで、ずっと眺めていたのだった。

 

 




戦いに勝ったが勝負に負けた
銀髪は、無駄な争いを、好まない

麻帆良二日目の夜はまだまだ続く……
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