理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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九十八話 決着

 最後の仕上げとして鬼神を起動させたビフォア。

これで儀式が完了すれば、世界に強制認識魔法が広がるのである。

 

 これはまずい、非常にまずい。

このままでは、ビフォアの野望が達成されてしまう。

 

 

「フハハハハハハハッ! 貴様らは敗北するのだ! 今ッ! この瞬間でッ!」

 

「転移魔法を使って、直接鬼神を広場に出現させるなんて……」

 

「やられたネ……」

 

 

 もうすぐ野望がかなう。

ビフォアはそう思い、非常に愉快に笑っていた。

そして、超たちに、もうお前たちの負けだと、勝ち誇った様子で叫んだのだ。

 

 もう終わりだ。俺の勝ちだ。

お前たちはここで完全に敗北し、自分にひれ伏すのだ。

そういいたそうな表情で、ネギと超を見下ろしていたのだ。

 

 ――――――転移魔法。

まさかそれを使って鬼神を直接広場へと移動させるなど、そうネギはしてやられたという顔でつぶやいていた。

 

 もはやボロボロの体では、いまさら鬼神を倒しに行くことも不可能だ。

さらに、目の前のビフォアにすら勝ち目がほとんどない。

もうどうしようもない状況だが、それでも勝利を諦めず、体を立たせようとネギは必死にあがいていた。

 

 超もネギと同じ気持ちで、ビフォアを睨んでいた。

超も魔法の直撃で、全身を激痛に蝕まれていた。

それでも諦めるわけにはいかないと、右手で左腕を押さえながら、きしむ体を立ち上がらせようと踏ん張っていたのである。

 

 

「さぁ、儀式を完成させよう! ――――――やれ!!」

 

「ヒヒャッハッハッハッ! 今もうすぐすでに!!!」

 

 

 そして、ビフォアは白衣の男へと、儀式を完成させるよう命令を下す。

ニタニタといやらしい笑いをしながら、ビフォアはついに野望が達成されると思い、絶好調な様子だった。

 

 白衣の男は儀式はすでに完成していると、イカレた笑いを発していた。

もはや間に合わない。超とネギに焦りと緊張が走った。

 

 

「や、やめてください!!」

 

「クッ……!」

 

「ハハハッ! 思い知るがいい!!!」

 

 

 ネギは力いっぱい儀式の中止を訴え叫んだ。

超はもうダメかと、歯を食いしばっていた。

 

 そんな二人を見下しながら、思い知れと嘲笑うビフォア。

ああ、もうダメか。ダメなのか。このまま麻帆良はビフォアに支配されてしまうのか。

 

 

「何をしている!? 発動はどうしたァァッ!!?」

 

「……ヒッ……ヒヒッ……」

 

 

 ビフォアが白衣の男へと命じて数秒がたった。

しかし、シーンと静まり返ったまま、何も起こらなかった。

 

 本来ならば、魔方陣から光の柱が天へと伸び、強制認識魔法が発動するはずだった。

 

 どうしたと言うのだ、早くしろ。

ビフォアは苛立ちを募らせた声で叫んでいた。

 

 そんなビフォアの叫びに反応したのか、白衣の男が変な声を出し始めたのだ。

 

 

「ヒッヒヒッヒヒヒッ……ヒッヒッヒッヒッハッハッハッハッハッ!!!!」

 

「何を笑ってる!!?」

 

 

 いや、変な声ではなかった。変な笑いだった。

突如として白衣の男が、訳もわからず笑い出したのだ。

 

 その白衣の男の姿に、流石のビフォアも驚いた様子だった。

一体何がおかしくて笑って居るのか。ビフォアは再び怒りがこみ上げた様子で大きな声で怒鳴ったのだ。

 

 

「ヒヒヒハハハ! 儀式は発動しねェぜェ! 何者かが世界樹の魔力で強力な結界を麻帆良中に張りやがッた!! こんなことが出来るやつァ天才だぜェ!! ヒヒヒヒハハハハハッ!!!」

 

「なっ!? ば、馬鹿な!?」

 

 

 白衣の男は笑いながら、何がおかしかったのか話し出した。

それはなんと、誰かが世界樹の魔力を使い、麻帆良をつつむように結界を張ったというものだったのだ。

 

 いやはや、こんなことが出来るやつが居るとは、白衣の男はそう思った。

そして、それが面白おかしく楽しくて仕方がなかったのだ。

 

 その言葉に驚いたのはビフォアだ。

麻帆良のコンピュータは未だ復旧されてないはずだ。

結界が復活するはずがないのである。

 

 さらに、魔力を使って結界を張る人物なんぞ、ビフォアは知りえなかった。

一体何が起こっているのかと、混乱し始めていたのだ。

 

 

「そうか、間に合ったんだ!」

 

「そうみたいネ!」

 

「何だとぉ!?」

 

 

 だが、その結界の説明に反応したのはビフォアだけではなかった。

ネギはパーッと明るい表情となり、間に合ったと言葉にした。

 

 超も同じく安心した様子で、よかったよかったと表情を緩ませる。

ビフォアは二人の反応にさらに驚きの声を上げ、どういうことだと考えたのだ。

 

 

 また、超のアジトでもその結界を感知していた。

そのことをエリックに報告する葉加瀬も、ほっとした様子を見せていた。

 

 

「ブレイン博士! 学園結界とは違う結界が、麻帆良全体に張り巡らされています!!」

 

「むっ、どうやら成功したようだな!」

 

「そのようですね!」

 

「一体どういうことだ!?」

 

 

 学園が普段使っている結界とは違う結界が、この麻帆良全体に張り巡らされている。

エリックは葉加瀬の報告を聞いて、成功したようだと表情を緩ませていた。

葉加瀬も同じく、自然と笑みがこぼれていた。

 

 ただ、その横の千雨には、またもやなんだかわからなかった。

それゆえ二人の会話についていけず、頭にクエッションマークを浮かばせポカンとしていたのだった。

 

 しかし、この結界を張ったのは何者なのだろうか。

彼らが言うならば、超たちの仲間と言うことになるだろう。さて、誰だろうか。

 

 

 

 麻帆良に巨大な樹が、光り輝きながら堂々と生えていた。

それは世界樹だ。

 

 その燦々と輝く世界樹の天辺に、一人の男が立っていた。

白髪の男だ。老人と見るには少し若いが、中年と言うほど若くもない。

そんな男が、片手に分厚い本を開きながら、世界樹の頂上でたたずんでいたのだ。

 

 

「――――――ふぅ……」

 

 

 その男こそ、人間形態のギガントだった。

ギガントは小さく息を吐き、安心した表情をしていた。

 

 大きな仕事を終えた後のような、そんな表情だった。

と言うのも、このギガントが麻帆良全体に結界を張った張本人だった。

 

 ――――――スナイパーが倒されたが故に、ギガントは無事だった。

この事態の報告を受け、新しい結界を用意するために下準備を行っていたのだ。

 

 それは彼のアーティファクトである総勢200のオートマトンを、麻帆良と他の町の境目に設置し結界の触媒にすることだった。

その次に世界樹の溢れる魔力を使い、巨大な結界を麻帆良に張り巡らせたのだ。

 

 

「彼らがいなければワシらも時間転移させられておったとはな。中々の敵だったと言えるだろうか……」

 

 

 しかし、ネギたちが未来に飛ばされ帰ってこなければ、ギガントもスナイパーの餌食となっていた。

そう考えればこの騒動を起こしたビフォアは、強敵と言える存在だとギガントは一人つぶやいた。

 

 ここで闇夜へと視線を向け、ネギたちが戦っている方向を見渡したのち、そっと開いていた本を閉じる。

 

 

「後は任せたぞ、メトゥーナト……」

 

 

 そして、最後に同僚の名を呼んだ。

彼こそがこの計画での最大の切り札。

ビフォアを倒せる唯一の存在。

 

 だからこそ、ギガントは全てをメトゥーナトに託したのだった。

 

 

 

 ギガントが結界を作り出し、ビフォアが慌て始めた直後、そこに異変が起こった。

いや、異変というよりも、新たな影がその場に現れたのだ。

 

 

「お前の計画はここで終わりだ、ビフォアとやら」

 

「ば、馬鹿なぁ!? 何故貴様がここに居る!!?」

 

 

 そう、それはあのメトゥーナトだ。

銀の仮面で顔を覆い、マントを変化させた黒い蝙蝠のような翼を広げ、飛行船の上を浮いていたのだ。

 

 メトゥーナトはスナイパーの攻撃を防いだ後、この瞬間のためだけに身を隠していた。

 

 なぜこの瞬間まで隠れていたのか。

それはビフォアが”計画を完遂させる時こそ、大きく隙を見せる時”だと考えたからだ。

 

 それは元々超やネギの考えた作戦だった。

そして、超の計画の何もかもが、ビフォアの作戦を阻止させるのにギリギリだったのは、この一瞬のためだったのである。

 

 また、ギガントも同じく姿をくらましながら、半日の時間をかけて結界の準備を行なっていたという訳だった。

 

 ビフォアはメトゥーナトの登場に、非常に驚いた。

一体なぜこいつがここに居るのか、まったくわからなかった。

メトゥーナトはスナイパーにより敗北したと思っていたからだ。

 

 だが、現実は違った。

メトゥーナトはスナイパーの攻撃から見事生還したのだ。

 

 しかし、なぜビフォアはメトゥーナトが倒されたと思っていたのだろうか。

それは難しいことではなかった。

 

 スナイパーが倒されたことは、通信で超やネギたちはわかっていた。

また、ビフォアの通信手段を超が封じたていた。

ただ、全ての通信手段を塞いだ訳ではなかった。

 

 あえて多少なりとビフォアへ情報が行くように、仕向けていたのである。

そこで超は、スナイパーが倒された時に、嘘の情報をビフォアへ漏らしていた。

スナイパーがうまくやったと、誤報を送ったのだ。

 

 ビフォアはそれにまんまと引っかかった。

あのスナイパーが非常に強力なビフォアの切り札だった。

そのスナイパーが敗北するはずがない、その先入観が仇となったのである。

 

 

「来史渡さん!!」

 

「真打の登場ネ」

 

「何だとォォォォ!!?」

 

 

 ついに真打の登場だ。

ネギも超も明るい表情で、メトゥーナトの方を向いていた。

 

 そして、ビフォアはメトゥーナトの姿にすさまじいほどに驚いていた。

倒したと思っていた。消えたと思っていた。

その男が目の前に居るのだ。

 

 まるで死人が蘇った姿を見ているほどに、ビフォアは仰天していたのだ。

 

 ビフォアにとってメトゥーナトは、天敵といえる存在だった。

ビフォアがこの過去へやってきて、色々と入念に調べたことの一つに、転生者とは異なる”イレギュラー”の存在があった。

 

 というのも、ビフォアの特典は”原作キャラより有利に立ち回れる”ともう一つ、ようやくここでバラしてしまうが、”転生者の攻撃は命中しない”というものだからだ。

 

 この二つは原作キャラと転生者へとメタに突き刺さる特典であり、両者がビフォアを相手にした場合勝ち目がないというものだ。

 

 ビフォアが仲間を集めていたのも、その特典によるものが大きかった。

ビフォアは確かにある程度鍛え、魔法などを習得した。

それはこの計画を考えた時に必要だと思ったからだ。

 

 とは言え、それだけでは足りなかった。

はっきり言えばビフォアの特典は防御よりであり、攻撃力が皆無だったのだ。

そのために仲間を集い、その足りない攻撃力を補おうと考えたのである。

 

 また、この特典の力のせいで、カギも覇王ですらもビフォアに太刀打ちすることが出来なかった。

 

 確かにカギや覇王ならばビフォアに負けることはないだろう。

そう、負けることはないが、勝つことも出来ないのだ。

 

 それ故覇王では傷一つ与えることはできないし、カギも悔しい思いをしていたのである。

 

 さらに、それは転生者の特典の効果にも影響がある、つまり転生者が扱うもの全てに適応される。

 

 そのため転生者の特典で呼び出されたサーヴァントの攻撃も、転生者の攻撃と見なされてしまうと言うことだ。

それで覇王はバーサーカーにも、ビフォアを倒すよう言わなかったのである。

 

 そして、ギガントもまた”元転生者特典”なので、そのルールが適応されてしまうと言う訳だった。

 

 それにビフォアは単純に特典だけに頼っている転生者ではない。

ある程度実力を鍛え、戦えるようにしてきたものだ。

 

 それだけではなく、ビフォアは狡猾だ。

戦う時は戦うが、それ以外は逃げに徹し、決して無駄な戦いはしない男だ。

 

 卑怯者と言えばそれまでだが、それも戦術のうち。

ビフォアの位置が特定できなければ、戦うことすらも不可能だったのである。

 

 それとは別に、ビフォアの戦闘能力が未知数という部分もあった。

そう言った理由から、覇王はマタムネにもビフォアに戦うことをさせられなかった。

ただ、マタムネは”原作にはいない”が覇王の特典の影響を受けた存在であり、対等に戦える”可能性がある”程度しかないのも、一つの理由にあった。

 

 しかし、メトゥーナトは違う。

メトゥーナトは原作にも登場せず、転生者ですらない。その影響も受けてない。

完全にイレギュラーな存在なのだ。

 

 だからこそ、ビフォアの能力はメトゥーナトに効果がなく、天敵たる存在だったのだ。

 

 

「お前は私が倒されたと思っていたようだが、そうではなかったというワケだ」

 

「し、しくじったのか! あのジョンが!?」

 

「そういうことだ!!!」

 

 

 そう、つまりビフォアは超の計画にまんまと乗せられてしまっていたのだ。

 

 全てはこの時のために。

全てはビフォアを確実に倒すために。

メトゥーナトは自分がここにいるならば、そういうことだとビフォアへ告げた。

 

 ビフォアはそこで、あのスナイパーのジョンが敗北したことを理解し、衝撃を受けていた。

まさか、あのジョンが敗れるなど、思いもよらなかったのだ。

 

 ビフォアが真に信用していたのは、そのスナイパーのジョンだ。

基本的にビフォアは他人を信じていないし、他人をいつも下に見ている。

 

 それでもスナイパーのジョンには絶大な信頼を寄せていた。

金だけのつながりだったが、逆にそれが信用できると思ったのだ。

そのジョンが負けた。その報告はビフォアにとってショックだった。

 

 

「ぐ、ググググッ……! だぁがここで負けては今までの苦労が水泡になってしまう!! ぶっ倒してくれる!!」

 

「試してみるがいい……!」

 

 

 ああ、それでもビフォアは諦めたくない。

ここで負けてしまえば、今までの苦労が無駄になるからだ。

ここで負ける訳には行かなくなったのは、逆にビフォアとなってしまったのだ。

超とネギは、見事にビフォアと逆転したということだ。

 

 そこで、怒りと焦りに彩られたビフォアの叫びを、涼しく受け流すメトゥーナト。

もはや余裕の態度、余裕の表情だ。いや、表情は仮面の奥で、他人から見ることは出来いが。

 

 

「皇帝陛下より賜りし宝具、今ここで使うことをお許しいただきたい……」

 

 

 メトゥーナトはふと、懐から一枚のカードを取り出し、皇帝へ許しを請うような言葉を述べた。

そのカードは本来ならば、皇帝のために使われるものだ。

 

 だからメトゥーナトは皇帝の任務以外での使用だからこそ、その言葉を述べずに入られなかったのだ。

 

 

「―――――― いでよ(アデアット)

 

「アーティファクトだと!? ふん、その程度で驚くと思うなァアァ!!!」

 

 

 そして、それはまさしくパクティオーカードだった。

メトゥーナトが呪文を一言唱えると、そのカードからアーティファクトが出現した。

 

 目の前に現れたのは神々しい黄金に輝く、美しい模様と装飾の剣だった。

これこそが、メトゥーナトが皇帝陛下から賜りし、最大の恩恵だ。

 

 それを見たビフォアは、その程度でビビるとでも思ったのかと叫んでいた。

たかがアーティファクトの剣一本握っただけで、俺に勝てると思うなと、そうビフォアは考えながらメトゥーナトへと突撃していったのだ。

 

 だが、その判断が失敗だったことを、すぐに後悔することになる。

 

 

「――――――フッ」

 

 

 メトゥーナトはその剣を握りると、一秒も満たない速さで、すでにビフォアの後ろへと移動していた。

 

 ネギも超も、そしてビフォアも、一体何があったのかわからなかった。

誰もわからないほどの速度で、既にメトゥーナトはビフォアを黄金の剣で切り裂いていたのだ。

 

 

「なっ……うっ……?」

 

 

 しかし、ビフォアに目立った外傷はなかった。

一体何が、どうなったのか。ビフォアは驚きを見せつつ、自分の体が無事かどうかを、手探りで確認した。

 

 すると何もなかった。

切り裂かれたはずの傷すらなく、何事もなかったのである。

 

 

「お前は、もう終わりだ」

 

「な、何を言ってやがる!? なんともねぇじゃねぇか!? あぁ?」

 

「それがお前の本性か」

 

 

 そして、メトゥーナトは静かにアーティファクトをカードへと戻し、振り向かずにビフォアへと一言つぶやいた。

――――――終わりだ、と。

 

 その言葉にビフォアは突然怒り出した。

何が終わりだというのか。こちらは無傷、なんともない。くだらない嘘は止めろ。

まさに先ほどとはうってかわって、汚らしい言葉遣いでメトゥーナトを責め立てたのだ。

 

 それこそがビフォアの本性。

今まである程度丁寧な言葉と姿勢を見せていたのは仮面であり、実際はチンピラのような性格だったのである。

 

 この一撃は確かなものだった。

とは言え、ビフォアはピンピンしている。

 

 一体何が起こったのだろうか。

ただ、その一撃を見たカギが、ヴィマーナから飛び出しビフォア目掛け突撃してきたのだ。

 

 

「脅かしやがって! こけおどしが通用するとでも思って……!」

 

「――――――なら試してみるかァ? ”雷神斧槍”! くたばれェや!!」

 

「当たる訳がな……、グギャァ!?」

 

 

 カギの接近に気がつかず、背を向けたままのメトゥーナトへ、ビフォアは襲い掛かろうとした。

 

 体はまったくなんともない。

馬鹿にしているのかと怒りをあらわにし、メトゥーナトを背後から攻撃しようとしたのだ。

 

 そこへカギが現れ、得意の魔法で攻撃した。

ビフォアは特典のおかげで転生者の攻撃は無効化できる、当たらないと高を括り、ちょいと首をかしげ回避しようとしたのだ。

 

 だが、そのカギの攻撃はビフォアの右肩当たりに命中し、ダメージを与えたのである。

 

 実際今の攻撃、ビフォアが本気で回避すれば避けれた可能性があった。

しかし、ビフォアは特典を過信し、当たらないだろうと考えた。

それでカギの攻撃が命中してしまったのだ。

 

 そして、今のカギの攻撃により、体を覆っていた装甲は大破、無数の火花を散らしていた。

頭部を覆っていたフルフェイスの兜も砕け散り、情け無く苦しむビフォアの表情が見えるようになったのだ。

 

 

「な、何故だぁ……!?」

 

「私のアーティファクト”宇宙割つ刃”は……、いかなるものをも切断することが出来るのだ……」

 

「なんだとぉぉオォ!?」

 

 

 何故カギの攻撃が命中したのだろうか。

ビフォアの特典があれば、カギの攻撃など命中しないはずだ。

ビフォアは何故だ、どうしてだ、そんな考えがビフォアの頭に渦巻き、混乱すらし始めていたのだ。

 

 理解不能、理解不能。

ビフォアは全身から冷や汗が出始め、かなり焦ってきていた。

 

 メトゥーナトは焦りと恐怖へと表情を変えたビフォアへ、自分のアーティファクトの能力を静かに語りだした。

それはなんと、いかなるものをも切断するというものだった。

 

 いかなるもの、森羅万象全てを切り裂くことが可能な剣。

水を斬れば流れは止まり、炎を斬ればその一部を消火する。

風を切れば二つに裂かれ消滅し、空間すらも断裂できる。

 

 ――――――魂を斬ればその魂をも分断し、消滅させることが可能な剣。

 

 それが、メトゥーナトが皇帝陛下から下賜されし宝具。

皇帝陛下への忠誠と信頼の証。最高の恩恵、”宇宙割つ刃”。

この世に存在するものならば、任意的に切り裂くことが出来る、最高の名剣だったのである。

 

 その説明にビフォアはさらに驚いて声をあげた。

馬鹿な、そんなチートあるはずがない。

ビフォアはそう思った。しかなかった。

 

 もはや自分のアドバンテージを奪われ、醜く歪む表情は恐怖一色。

今の斬撃で、すべては終わったのだ。

 

 

「お前の”神の力(とくてん)”が存在する魂の一部、それを断ち切った。お前にはもう、神の力(とくてん)は存在しない」

 

「ば、馬鹿な!? そんな馬鹿なアァ!!?」

 

 

 そう、全てを任意で斬る剣ならば、”魂の一部である特典”のみを切ることも可能だ。

ビフォアへ一度与えた斬撃で、メトゥーナトは”特典”のみを切り裂き破壊したのである。

 

 そして、この力でメトゥーナトは、幾多の転生者を無力化してきたのだ。

 

 特典が消された。

その言葉はビフォアの今の人生で最大の衝撃を与えた。

 

 転生者たるビフォアも、特典に自信があった。

特典があれば無敵だと思っていた。

 

 その自信の象徴たる特典が消滅したのだ。

まさに心臓が止まる勢いで驚くのも当然だった。

 

 

「さっきのお返し!! ハァ!!」

 

「ガァ!?」

 

 

 さらに、畳み掛けるようにアスナが現れ、強く握り締めていたハマノツルギをビフォアへ向かってフルスィング!

吸い込まれるようにビフォアへハマノツルギが命中。

 

 その衝撃にてビフォアのパワードスーツは砕けた音を発し、破片をばら撒きながら、ビフォアはゴロゴロと飛行船の上を転がった。

 

 

「神鳴流奥義! ”雷鳴剣”!!」

 

「ギニャァァ!!?」

 

 

 そこへ刹那の追い討ちが待っていた。

夜の闇をかき消し、周りが明るく照らされるほどの雷のエネルギーが、斬撃と共にビフォアを襲った。

 

 感電しながら切り裂かれたビフォアは、もはやボロボロ。

だが、ビフォアへの攻撃はまだまだ続くのだ。

 

 

「”雷の斧”!!」

 

「ギャァァッ!!」

 

 

 なんとネギの雷の斧を、ビフォアへと放ったのだ。

ここに来てようやくネギが、雷の斧を使ったのである。

 

 範囲は狭いもののその鋭く輝く雷は、ビフォアへと突き刺さった。

この一撃は想像以上のダメージだったようで、ビフォアを守り覆っていた鎧が、全て破壊されてしまったのである。

 

 これでもうビフォアを守るものは何一つ無くなった。

そんな無防備となった裸の王様へと、トドメをさすべく最後の一撃を超が放った。

 

 

「コレで終わりダ! ――――――”ディバインバスター”!!」

 

「だから何故その魔法をオオグガアアア!!!?」

 

 

 桃色の魔力がビームとなりて、くたばりぞこないのビフォアを捉えた。

ピンクの光に飲まれながら、ビフォアは超がどうしてこの魔法を使えるのかと叫んだ。

 

 最後の最後まで、ビフォアは超がこの魔法を使える理由を知ることはなかった。

そして、光が消えた後には、もはやダメージで動けないビフォアだけが寂しく残されていたのだった。

 

 

「あぐぐゥゥ……、貴様ァ! 俺を、俺を助けろ早くウウゥゥッ!!!」

 

「ヒッヒャッハッ! 私は戦闘向けの特典なんてなァィ! ョって、戦闘など出来なィのさァ!!」

 

「て、テメェェェ―――――!!?」

 

 

 完全にボロボロ、動くことさえままならぬビフォアは、後ろで高笑いしている白衣の男へ助けを求めた。

 

 しかし、白衣の男は戦闘など不可能。

それは白衣の男自身がしっかりと理解していることだ。

 

 なので白衣の男は笑いながら、戦いは不可能だと言葉にするだけ。

ビフォアはそんな白衣の男に怒りの叫びをあげていた。

 

 

「終わりネ、ビフォア!」

 

「ぐ……、クッ……、ソ……。俺の野望が、計画が……、水の……泡……」

 

 

 もはや終わりだ。お前の野望もこれまでだ。

超はそう叫びながら、ビフォアへと人差し指を指していた。

 

 もはや絶望、ビフォアの目の前が真っ暗になった。

特典を失った転生者など、ただの人だ。

 

 確かにビフォアは自分を鍛え上げた。

だが、半分は特典の力だ。この集団を一人で相手にすることなど不可能だろう。

ビフォアは力尽きたのか、ゆっくりと飛行船の上に倒れふせ、動かなくなっていた。

 

 

「あなたはどうするんです……?」

 

「あァ、私は降参するよ。戦闘なんて野蛮な行為はしたくなィんでね」

 

 

 ネギはビフォアが倒れたのを確認し、すぐに白衣の男へと質問した。

白衣の男が抵抗するならば、戦う必要があるからだ。

 

 しかし、白衣の男はヘラヘラしながら、降参の意思を見せる。

元々白衣の男は戦闘など出来ない。そういう特典を持ち合せていなかった。

 

 それに戦いは野蛮だと、白衣の男は思っていた。

なので白衣の男は両手を上げて、降参降参と笑いながら言葉にしていた。

 

 

「ァッ、後、ロボらの機能も停止させよゥ。もはャ必要なィからねェ~」

 

「案外素直だネ……。ダガ拘束はさせてもらうヨ」

 

「どゥぞォ好きにィ、私は研究がしたかっただけだしねェ」

 

 

 さらに白衣の男は現在戦闘中のロボ軍団の機能も、停止させると言い出した。

そして、右腕につけていた時計のつまみを回し、ロボの機能を停止させたのである。

 

 地上にいたロボたちは戦闘をやめ、石像のように完全に動かなくなり、上空にいたロボたちも静かに地上へと降り立ち、その機能をひっそりと停止させたのだった。

 

 それでも信用は出来ないので、とりあえず拘束はさせてもらう。

超はそう言うと杖を白衣の男へ向け、バインドと呼ばれる魔法を使った。

 

 すると桃色の輪が白衣の男を縛り上げ、完全に動けなくしたのだ。

 

 ただ、白衣の男は拘束も気にする様子を見せなかった。

白衣の男はただ単に研究がしたかっただけであり、そのためにビフォアの仲間になったと言っても過言ではなかったらしい。

 

 この白衣の男は黄金率などの特典を持ってなかった。資金難だったのだ。

研究がしたくても金も土地もなかった彼は、ビフォアの呼びかけに応じただけだったのだ。

 

 

「これで麻帆良は救われたんですね……」

 

「そうね」

 

 

 戦いは終わった。これで麻帆良は救われた。

ネギはそう思い安心し、夜空を眺めていた。

また、その横でアスナが一仕事したという顔で、ネギの言葉を肯定したのだ。

 

 

「そ、そ、そんなことは……、それだけはァッ! 認めねぇぞオォァァァァッ!!!」

 

「何!?」

 

「ビフォア!?」

 

 

 だが、ビフォアはまだ諦めてはいなかった。

往生際が悪い男だ。醜くゆがんだ表情で、自分の野望に必死にしがみつこうとしていた。

 

 このまま終わってたまるか。

こっちは何年もかけて準備をしてきた。ある程度修行もした。

それが全て無駄になる、水泡に帰す。そんなことは許されない。認めない。

 

 ビフォアは心の奥底から叫び、最後の悪あがきをするように、安心しきったネギへと特攻を仕掛けたのだ。

 

 ――――――ビフォアは未来で誕生した転生者だ。

原作はとっくに終了し、原作で語られたような荒れ具合もさほどない世界だった。

 

 それでもビフォアは自分が未来に生まれたことを知った時、すさまじく荒れた。

これでは原作に介入できない。自分の思い通りにならない。

 

 せっかく原作キャラを圧倒できる特典と他の転生者を無視出来る特典を得たのに、これではすべてが無駄になる。

ビフォアはそう考えて悔しがった。転生神すらも恨んだ。

 

 しかし、そこに唯一の原作キャラである超を目撃した。

幼い姿だったが、間違えなく超だった。

 

 そこでビフォアは思いついた。

超はカシオペアを開発する可能性がある。

それを盗んで過去へと渡り、自分の思い通りの世界にしてしまおう。

そう思った。

 

 ただ、超がカシオペアを作ることは一つの賭けでもあった。

転生神は言った。この世界は”原作”とはまったく異なると。

完全にずれが生じてきていると。

 

 それは転生者が他にも多く存在したのが原因だろう、と。

だから超が"原作通り”カシオペアを作り、過去へ戻ろうとするかはわからなかった。

 

 ――――――ビフォアは賭けた、カシオペアに。

 

 さらにビフォアは自分を鍛えた。

特典が防御よりで、攻撃が出来なかったから。

少しでも他の転生者を倒せるよう、強くなっておく必要があったからだ。

魔法を一から覚え、体を鍛え、ビフォアは野望を夢見て力を蓄えた。

 

 それは運命だったのか、超はカシオペアを開発し、ビフォアは賭けに勝ったのだ。

それもまたエリックと言う転生者の影響だったが、カシオペアがあれば問題ないとビフォアは思った。

 

 だが、そのビフォアの野望を潰すために力を発揮したのも、やはりエリックだったのである。

これこそまさに皮肉なのだろうか、運命のいたずらだったのか、ビフォアは最後の最後に敗北したのだった。

 

 そう、ビフォアは過去を思い出し、今までの苦労を報いらんと、最後の悪あがきをしようとしたのだ。

完全にヤケだ。もうこうなっては勝ち目などない。

 

 それでもビフォアはしがみつく。

自分の野望に、過去の自分に。

 

 

「ガアアアアアッ!!!」

 

「おとなしく……、――――――するネ!!」

 

「ギガッガッ……」

 

 

 しかし、超が回り込み、ネギの前に立ちふさがる。

そして、狂ったように叫び、突撃するビフォアへと、駄々っ子を黙らせるかのように、拳を一撃お見舞いしたのだ。

 

 その拳はビフォアの顔面に深く突き刺さり、数メートル吹き飛んだ。

全ての過去が砕ける音を聞きながら、ビフォアは空中をひねりながらぶっ飛ばされていく。

 

 そして、飛行船の上を転がり仰向けに倒れこみ、ピクリとも動かなくなっていた。

そこにもはや先ほどの強者の面はなく、醜い野望とともに砕け散った一人の男だけが、虚しく倒れていただけだった。

 

 

「気を失ったみたいですね」

 

「最後の悪あがきカ、この男らしい末路ネ」

 

「ふむ、完全に動けぬよう、さらに縛り上げておくことにしよう」

 

 

 ビフォアは今の超の拳を受け、完全に伸びてしまった。

ネギはビフォアが気を失ったことを確認し、再び安心した様子を見せていた。

 

 超もネギの横へやってきて、往生際の悪い男だと、呆れた表情をする。

悪ならば退場する時は潔く退場してほしいものだ、そう言いたげだ。

それは”原作”と変わらない、超の持論だった。

 

 また、ビフォアの最後の暴走を見たメトゥーナトは、ビフォアをさらに縛って動きを封じ込めることにした。

これにて一件落着といったところだろう。

 

 

…… …… ……

 

 

転生者名:ビフォア・タナン

種族:人間

性別:男

原作知識:あり

前世:30代平サラリーマン

能力:転生者と原作キャラへの絶対的有利

特典:転生者の攻撃は自分に絶対命中しない

   原作キャラより絶対に有利に立ち回れる

 

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