素直になれない彼女《ヒロイン》の育てかた   作:アメリカンショコラ

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第一話『運命の出会いはゴールデンウィーク明け』

 

 

 プロローグ

 

 

 ……どうしてこんな事になったのか。俺はそう嘆かずにいられなかった。

 

 

「澤村少し右にパースがズレてる。数ミリ歪んで見えるぞ」

 

「そ、そんなの分かってるわよ! ちょうど今描き直そうとしてたところだったんだからッ」

 

 

 全ての原因はコイツだ。目の前で椅子に座ってスケッチブックへ背景を描いている、金髪ツインテールで貧相な体の女があんな事をアイツに言わなければこんな事にはならなかった。

 

 

 話は数日前に遡る。

 豊ヶ崎学園の二年生になって一ヶ月が過ぎゴールデンウィーク明け。2ーA教室でつまらない授業を聞き、放課後は部活をする事なくクラスメイトの何人かの挨拶をそれを右腕を上げて返し、直帰する。そんな学校生活を毎日繰り返していたが今日は少し違った。

 

 

「草薙! 俺のサークルに入ってくれ!」

 

「………は?」

 

 

 教室を出たオレを待ち構えていたのはメガネを掛けた男だった。どう考えてもオタクな風貌で目立ちそうにない感じだがオレはこの男子を知っていた。クラスメイト達が話す内容はあまり興味が無いので基本聞き流しているが、それでも何度も話題に出る人物なら印象には残る。

 オタクにしてはアグレッシブルな男で図書室にラノベを置く為に先生に直談判したり、文化祭でアニメを上映したりと話題にはことかかないやつだ。

 

 

「英梨……澤村から聞いたお前って絵が上手いんだろ? 是非ともウチの現在進行中のギャルゲーの背景を担当して貰いたい!」

 

 

 いきなり何を言ってるんだ安芸。それに澤村……ああ澤村・スペンサー・英梨々の事か。

 澤村も有名人だ。去年の文化祭でミス豊ヶ崎に選ばれた外国人のハーフで、それを傘に着ない誰にでも人当たりがいい奴と聞いた事がある。そういえば美術部だったかあいつ。それなら俺の事を知っていても不思議じゃない。

 

 

「……断る。何でオレがそれに参加する必要がある? 澤村に頼めばいいだろ。それに背景なんてネットにフリーでそこら中転がってるしそれを使え。じゃあな」

 

「そ、それは困る! 草薙が参加してくれないと英梨々が入って……あ」

 

 

 オレはそう言って安芸の横を通り過ぎようとするが回り込まれた。

 なるほどなオレが安芸のサークルとやらに入る事が澤村をサークルに参加させる条件なんだな。つまりオレは澤村のダシって訳か……くだらねぇ。

 

 

「じゃあな」

 

 

 オレは今度こそ安芸の横を通り抜けた。

 

 

「草薙ー!! 俺は諦めないからなー!! 絶対にお前を俺のサークルに参加させて見せるから!」

 

 

 そんな寒気が走りそうな台詞を無視して俺は家に帰った。

 それからだ。安芸が毎日の様にしつこく勧誘してくる様になったのは。

 

 

「草薙ー! もし入ってくれたら毎日お菓子食べ放題だぞ」

 

「糖質はあまり摂らないようにしてるからいらん。だから俺は入らん」

 

 

 休み時間に毎回くるから落ち落ち寝てもいられない。

 

 

「草薙ウチのサークルは可愛い女の子がいっぱいいるぞーお得だぞー!」

 

「女を餌に使う奴なんかのところに入るのはごめんだな。だから帰れ」

 

「参加してくれるだけでいいんだ! 居てくれるだけでいいから!」

 

「ただ程高い買い物はない。却下」

 

 

 毎日毎日しつこいくらい勧誘してくる安芸。

 いつからかオレの安寧を奪った元凶である澤村に殺意にも似た何かを抱くようになってきた。

 

 

「草薙、頼むよこのとーり!!」

 

「一回だけだ。一回だけ見学してやる」

 

「やっぱ無理かー。でも諦めないまたく………へ?」

 

 

 土下座までしてきたコイツにオレはそう言っていた。それは別に何度もへこたれないコイツに感化されたと言うわけではない。

 コイツがそこまでして参加させたい澤村に興味が出てきて出た一言だった。それに文句の一つ二つ言いたくなったと言うのもある。

 

 

「参加してくれるのか?」

 

「あくまで見学だ。但し条件がある」

 

「条件?」

 

「その見学に澤村を連れて来い。そうしたら参加説得のチャンスをやる」

 

 

 そしてオレは明日の放課後にて見学する事になった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 英梨々side

 

 

 1年の頃、美術室で同じ1年の美術部の子達がこんな話をしてきた事を覚えている。

 

 

「そういえば澤村さん草薙純一郎って知ってる?」

 

「それは美術部員で知らない人はいないよー。世界的芸術家で日本人唯一プラティヌ・エポラール取った人だもん。雪華夢景色見たことあるけど凄かったわ」

 

 

 一つの絵画で億の値段がついた作品を作り上げた天才だ。画家の世界というのは安定が難しい職業なのにも関わらず一時期世間で美術ブームの火付け役となった雲の上の存在が一体どうしたというのだろうか?

 

 

「つい最近、なんか有名なコレクターから草薙純一郎の遺作が三枚発表されたんだって。雪華夢景色を含めた連作で春夏秋冬夢道中って作品三枚全部億で取引されたって」

 

「へぇ〜。そんな事があったんだ」

 

 

 部員の一人がコレクターと一緒に映る春夏秋冬夢道中をスマホで見せてくる。

 あたしはそれを見て……

 

 

「これ………本当に草薙純一郎が描いたの?」

 

「え? 本当にって署名も落款もあるし本物だと思うけど……鑑定士の人も本物だって認めてたし、それにこの繊細で力強いタッチは草薙純一郎にしか出せないでしょ」

 

「そ、そうよね? あたしの勘違いだったかも。ごめんね」

 

 

 確かにこれが草薙純一郎の描いた物ではないという具体的な理由は出なかった。ネット上に載せられた写真だからそう見えるだけで実物をこの目で見たわけでもないから、偽物に見えただけだと、この時はそう納得させた。

 

 

 こんな話から数ヶ月後、パパがコレクターが開くパーティに招待されたと聞いてあたしも連れ出され、草薙純一郎の遺作をこの目で見る機会に恵まれて、やはりと確信する。

 これは草薙純一郎の描いた絵画ではない。

 

 

「そう言えば草薙純一郎の息子がこの学校にいるらしいよ」

 

「へ? そうなの? 初耳だし、息子も絵は描いてるの?」

 

「気になって調べたんだけど何年か前に170万で描いた絵が転売されてたよ。今は市役所に寄付されたみたい」

 

「へぇ〜、今も描いてるなら何で美術部に入らないんだろうね?」

 

「ねー!」

 

 

 そんな会話を美術部で聞いたのだ。

 先輩達だったから話に入ることはしなかったけど、市役所に飾られている絵を見に行く事にした。

 

 

 

 市役所に来て目的の作品の前まで来た。作品名はサクラノ刻。作者の名前は草薙直宏……くさなぎなおひろ。

 やっぱりこの人があの絵を描いたんだ。そう確信した。出来ればこの人に直接問い質したい。何であの絵を草薙純一郎として出しているんですかって。でもそれは出来ない。何故ならあたしが直接尋ねたりして変な噂になるのが嫌だからだ。

 

 

 あたしはもどかしさを抱えたまま二年生になったある日。突然ギャルゲーを作ると幼馴染の倫也がそんな病ごとを言い出した。

 疎遠になって数年ぶりに話しかけてきたと思ったら素っ頓狂な事言い出す倫也に最初は断る。

 あたしはこう見えてサークル『egoistic Lilly』のイラストレーターで忙しいし、そんな事にかまけている暇がない。それにどうせすぐに頓挫するだろうと思ったし。

 やる気があるのは最初だけ、すぐに現実に直面して諦めるだろうと。

 しかし倫也は諦めなかった。胸がキュンキュンするメインヒロインなんて頭がイカれてる者に抜擢された加藤さんをやる気にさせ、霞ヶ丘詩羽も乗り気になったようだし。あたしだって……でも。

 本心では参加してもいいかなって思ったけど一度拒否した手前そう簡単には掌は返したくないと、それでふと言ってしまったのだ。

 

 

『草薙直宏をつれて来たら参加してあげる』って。

 

 

 そしたら倫也は二つ返事で了承した。

 そしてゴールデンウィークから一週間が経過した日の朝。下駄箱を開けた中に『放課後視聴覚室に草薙を連れてくる』と書かれたメモが入っていた。

 あたしは遂に来たかと帰りのホームルームが終わってすぐ、視聴覚室に向かって倫也達を待つのだった。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「ここがお前らが活動してるって言う視聴覚室か」

 

 

 放課後2-Aの教室を出て待っていた安芸と加藤恵というらしいイマイチ印象に残りづらい安芸のクラスメイトに案内され視聴覚室の前までやってきた。

 

 

「おつかれーでーす」

 

「お邪魔します」

 

「………」

 

 

 中に入ると澤村と読書していたのだろう、カチューシャをつけた黒髪ロングの人がこちらに目を向けてきた。てかこの人は……

 

 

「霞ヶ丘詩羽?」

 

「一応後輩なのだからさんをつけなさい……ってなんだか覚えがある台詞よね倫理君?」

 

「あの時は失礼しました! 申し訳ございません!!」

 

 

 安芸は深々と頭を下げる。

 やっぱりそうなのかこの人。学年一位の秀才であり、授業はいつも寝ていて先生に問題視されてる校内二第美女のうちの一人って噂の。

 

 

「それでかの有名な芸術家である草薙純一郎の息子を連れてきてなんのつもりなのかしら倫理君」

 

「オレの事知ってるんですか? 先輩」

 

 

 言ってはなんだが人に興味がなさそうな霞ヶ丘先輩がオレのことを知ってるなんて少し意外だ。

 

「貴方の名前はクラスメイトが話していたのを聞いてから知ったわ。けど一時期芸術界だけでなく世間一般に美術ブームを起こした火付け役について調べた事があったの。それで息子がいる事は知っていたわ。まさかこの学校にいるとは思わなかったけれど」

 

「え? そんな凄い人の息子だったの草薙って」

 

「何で連れてきた倫理君が知らないのよ……」

 

「英梨々に参加してもらう為に草薙を連れてきたから……上手いとは聞いてたけど……」

 

「倫理君はオタク以外の知識にも少しは目を向けるべきね」

 

 

 本当に澤村を参加させる為だけにオレを連れてきたんだなと分かる一連の流れだった。

 

「それで草薙君はどうしてここに?」

 

「オレに安芸が毎日拝み倒して頼むくらい凄い奴なのか興味が出たからここに来ました………なあさっきから黙ってないで何か言えよ澤村」

 

 

 迷惑を被った原因である澤村に近づいていく。

 

 

「な、何よ……」

 

「何よじゃないだろ。お前のせいでオレの平穏が崩れてんだよどう責任取ってくれる?」

 

「せ、責任!? どうしてあたしがあんたの責任取らなきゃなんないのよ!」

 

 

 人当たりのいい優等生って話だから語気を強めてそう言えば怯えて謝ってくるかと思えば、まさかの反撃。

 どうやら普段見せてるだろう優等生ヅラはフェイクでこっちが本当の性格って訳か。

 

 

「……お前が出したオレをサークルに参加させるって条件で安芸がしつこかったんだよ。あの鬱陶しさはなんなんだ」

 

「え、あたし、あんたを連れてくるのが条件って言ったんだけど……倫也あんた!」

 

「そ、そうだっけ? 悪い英梨々」

 

「悪い英梨々……じゃないわよ! あんたの勘違いのせいでこっちは凄まれてちびりそうになったのよ! この! この!」

 

「いたいいたい! ツインテールビンタはやめて痛くなさそうに見えて超痛いから!!」

 

 

 

 マジかよ………連れてくるだけで良かったのか。

 こんなくだらないすれ違いのせいでオレの安寧を失ったのかと思うと怒りよりもショックの方が大きかった。

 

 

「澤村さんがちびったのは兎も角どうして彼を連れてくるなんて条件を出したの?」

 

 

 そう言えばそれを聞いてなかった。ショックが大きすぎて項垂れていた体を起こす。

 

 

「ちびってはないわよ霞ヶ丘詩羽!! ………ちょっと草薙に聞きたいことがあっただけ!」

 

「聞きたいこと?」

 

 

 澤村の聞きたいこととは何だろう。

 ……嫌な予感がする。

 澤村の口からオレにとって不都合なことが飛び出すのではないかと不安になって……

 

 

「あんたのお父さんの遺作が最近発見されたじゃない? 春夏秋冬夢道中って奴」

 

 

 ほらやっぱり嫌な予感が的中した。

 

 

「そうみたいだなーもう半年以上前けど。親父のやつ息子に隠れてあんなの描いてたとは。そのお金一切通帳には入って無かったし、くそ羨ましいぜ。そのお金でさぞかし遊びほうけたんだろーなぁ」

 

「………あの作品を描いたのって草薙純一郎じゃなくてあ……もごっ!? んーー!!んー!!」

 

「さ、澤村さん!?」

 

 

 視聴覚室に入ってから初めて声を出したんじゃないだろうか、加藤が突然オレに口を手で抑えられてもがく澤村を見て声を上げる。

 

 

「ちょっと何を言い出す気だったのかなー。安芸、澤村に話があるから少し借りるなー」

 

「ああ……」

 

「んごー!? むぐっ! んーーーー!!!」

 

 

 安芸の返事も待たずに視聴覚室から澤村を連れ出す。

 周りに誰もいない事を確認してから澤村を抑えていた手を離した。

 

 

「いきなり何するのよあんた! 死ぬかと思ったわよ!! てかそう言う反応するって事はやっぱりあんたが!」

 

「………何でそうなる。オレはお前が有る事無い事言って周囲に勘違いされないようにしただけだ!」

 

「勘違いじゃないわよ! アレは草薙純一郎の描いた作品じゃない偽物よッ」

 

 

 澤村は春夏秋冬夢道中の雪華夢景色を除いた通称春夏秋(ふゆなし)の3作が偽物だと確信しているように話す。

 オレは聞き耳を立てていないか視聴覚室の扉を開き案の定聞き耳を立てていた安芸と霞ヶ丘先輩を追い払って再びドアを閉める。

 

 

「どうしてあの作品が偽物だと決めつける? 署名も落款印も全く同じ、その道のプロの鑑定士が本物だって認めた。それにアレは草薙純一郎の筆捌きその物で書かれた作品。息子のオレが言うんだから間違いない」

 

「署名と落款印はね。でもそれ以外は偽物、確かにアレは草薙純一郎の筆捌きその物だった。けどそれと同じ手法が使われた作品を市役所で見たのよ」

 

「市役所………?」

 

 

 そんな所に何かあったか? 本当に覚えがない。

 

 

「作品名『サクラノ刻』回り回って170万で転売されてその後、市役所に寄付されたの。勿論知らないとは言わないわよねその作者の『草薙直宏』」

 

「サクラノ刻……? って170万!? 6年くらい前に飯を買いに行って財布忘れたから即興で描いて爺さんに五千円で売りつけたやつがいつの間に!? あのジジイオレをガキと思って下に見過ぎだろくそ!」

 

 

 そんな値打ちのある作品になったのかあれ。それは金額そのものよりもシャークトレードかけてきたジジイに苛ついていた。

 

 

「6年前って小学生!? しかも五千円で売るなんて……そんなのラノベのモノクロイラスト一枚分の値段じゃない……というかご飯を買いに行くのに何で絵の具一式持ち歩いてたのよ……」

 

「外で描いてる途中に腹が減ったんだよ。よぼよぼのジジイでボロ雑巾みたいな身なりだからって同情するんじゃなかった……せめて一万で売るべきだったか……」

 

「あんた詐欺に遭わないように気をつけなさいよ……ってそんな事はどうでもいいのよッ! 話を戻すけどそのサクラノ刻という作品は草薙純一郎の様な力強いストロークで描かれていた! その関連性から息子のアンタが春夏秋の3部作を描き上げ、そこにどう説得したかは知らないけど父親に署名と落款をしてもらった後、草薙純一郎の作品としてコレクターに売りつけたのが真相!」

 

 

 オレとしてはそのまま何気なしにフェードアウトしてもらって構わなかったがそうはいかないらしい。全く……大した妄想だ。

 

 

「確かにサクラノ刻は草薙純一郎の手法が使われている。オレはアイツに技術を叩き込まれたからな似通うところも多々ある。遺憾な事だがな」

 

「という事は認めるのね……?」

 

「いや、似ていると言っただけだ。サクラノ刻は草薙純一郎が近年残した作品群と比べて稚拙過ぎる。とても春夏秋を描ききるレベルには至ってない」

 

「それは……6年も前の作品だからよ。今は技術も進歩してる筈だし……」

 

「どうしても納得しないというならお前にだけは見せるか」

 

 

 確かにそうだ。でも描けないんだよ。少なくともオレにはな。

 オレは納得しない澤村に決定的な根拠を提示する事にした。

 

 

「あんた………これ」

 

「何年か前に火事で大火傷してな。それ以降オレの利き腕は使い物にならなくなっちまった」

 

 

 澤村は裾を捲し上げたオレの真っ赤に膨らんだ腕を見て悲惨な表情を浮かべて呟く。

 

 

「これを見てもまだオレを疑うっていうなら知らん。言いふらすなんなり好きにしろ」

 

「それなら利き腕じゃない方を使えばいけるじゃない……なんてイラストレーターの端くれととしてそんな無責任な事は言えないわね……」

 

「イラストレーター? ってあれか二次元の女の萌え絵描くやつか」

 

「それあたし……というかオタク全般を敵に回すような発言はやめなさい! ぶっ殺すわよッ!!」

 

 

 澤村はオレに連行された時の10倍は怒っていた。仕方ないだろそういうイラストどころか漫画もあんま見ないのにオタクに対しての礼儀とか知る訳ないんだから。

 

 

「それで……納得したか? この利き手じゃあの作品を描けないって」

 

「認めるわ。少なくとも今はね」

 

「ずっと認めたままにしてくれると嬉しいのだがな」

 

「あんたはなんらかの方法で草薙純一郎の筆を再現した。だってあんた鑑定士が本物と言ったからとか利き腕じゃ描けないとか言ってるだけであの作品を本物だって台詞が自分の口からは一切出てきてないし」

 

「そうだったか? 細かい事一々覚えてないな」

 

「あくまで自分が描いたとは認めないつもり?」

 

「認めるも何もオレは描いてないし」

 

 

 いつまで経っても平行線。澤村はあれだけ言ってもあの作品をオレが描いた偽物だと信じて疑わないらしい。

 コイツが何を言おうと世間ではもうあの作品は草薙純一郎の遺作だ。本物とか偽物がどうとかそういう視点の話ではないのだ。

 

 

「そんなに意固地なるならこっちにも考えがあるわ」

 

「意固地なのはどっちだ……好きにしろよお前一人が偽物偽物と騒ぎ立てようがもう覆らんからな」

 

 

 春夏秋はもう草薙純一郎の作品だって世界中に広まってしまっている。たかが一人の訴えを誰が聞き入れるというのか。小娘の病ごとと一蹴されて終わりだろう。

 

 

「そうね。まずはあの作品を草薙純一郎の作品としたムーア財団に連絡して……」

 

「待て待て待て。そんなところに繋げて何をするつもりだ」

 

「問い合わせするだけでしょあの作品が本当に本物なのかって……慌てて止めるなんてもしかしてムーア財団とグルなんじゃないでしょうね………?」

 

「そんな高々一個人と組織がそんな関係になる訳ないだろ……そんな事してもまともに取り合う訳ないから止めただけだ」

 

 

 何故そこまで偽物だと暴く事に固執するんだコイツは。

 

 

「甚だ疑問なんだが何故あの作品群を偽物だとオレに認めさせたいんだよ。それをしてお前に何の得がある?」

 

「それは勿論! ………………アレ? そう言えば何でかしら?」

 

 

 澤村は自信満々に答えようとしたが出ずに首を傾げた。

 おいおいおいおい。今までしたやり取りは何だったんだよ時間の無駄じゃねぇか。

 

 

「……そ、そうよ! えーとあれ! どうしてそんな事をしたのか聞きたいの!」

 

「それを聞いてお前の何になるんだ?」

 

「それは……純粋な興味よ。草薙純一郎の筆を再現できる程の腕を持つ画家なら態々草薙純一郎作品として売り出すんじゃなくて本人として出せばいいでしょ? 草薙純一郎の作品にインスパイアされたとか言ってさ。

 でもその人は草薙純一郎と偽って出した。きっとのっぴきならない事情があったんでしょうね」

 

「バカバカしい。そんなお前が考えるような崇高な理由じゃなくてオレは単に金儲けとして……はっ!?」

 

「………やっぱりあんたなんじゃない!よくも騙してくれたわね!」

 

「オレは一般的に贋作師が作者を偽わるのはその方が有名税にあやかれて金になるからだって言いたかっただけだ」

 

「ーーーーーー嘘だッ!! 思いっきりオレって言ってたじゃない!!」

 

「証拠ないだろ。てか何今の嘘だってやつわざわざ歯を食いしばっていう必要あったか?」

 

「嘘だじゃなくてーーーー嘘だッ!! よ。ちゃんと再現しなさないよね。それと犯人が証拠はと探偵に投げる時は必ずそいつが犯人なのこれ常識だから覚えておきなさい」

 

 

 言い方一つで説教とは、オタクというのは偏見ではなく面倒臭いな。

 どこの世界の常識だよ。誰だって自分が犯人扱いされたらそう言うだろ。それにそういうのは普通探偵じゃなくて警察に言うもんじゃないか? 探偵なんてそうそう現実にいねぇよ。

 

 

「てかさっきのは冗談として本当に証拠ならあるわ」

 

「………なに?」

 

 

 澤村はそう言うとポッケからスマホを取り出し、何やら操作した後オレの目の前に突き出す。すると……

 

 

『そ、そうよ! えっーとあれ! どうしてそんな事をしたのか聞きたいの!』

 

『それを聞いてお前の何になるんだ?』

 

 

 何秒か前のやりとりが流れ出した。まさかコイツ録音してやがったのかいつの間に!

 そしてはっきりオレのところも録音されていた。

 

 

「いつの間に……そんな素振り見せて無かったのに」

 

「それはあんたが視聴覚室に来た瞬間から録音したからよ」

 

「そう言う事か……」

 

 

 安芸に連れ出された時点でオレは嵌められたって訳か。コイツ言動がポンコツそうな雰囲気なのに意外に抜け目がない。

 

 

「さてこの録音したやつどうしよっかなー。今からネットで全世界に公表でもしちゃおっかなぁ……」

 

「………」

 

 

 どうする? 澤村がオレの危機感を煽るような事を言っているが、別に焦ってはいなかった。

 多分問題はない。ただ万が一はある。後々は兎も角今は少し時期が悪い(・・・・・)

 仕方ない……か。

 

 

「何が望みだ?」

 

「話が早いわね。アンタ倫也のサークルに入りなさい」

 

 

 めちゃくちゃ無茶な要求をされれば全世界に今のが拡散されたとしても要求を蹴るつもりだったが。澤村が言ったことはなんて事のないものだった。

 

「そんな事でいいのか? それともそれは序の口で後々無茶な事を言うつもりか? それならオレは全世界に流されても拒否するぞ」

 

「あたしってそんな悪女に見える? それにそんな事ってサークルの活動ってのは意外に大変なのよ。特にゲーム制作はね」

 

 

 ああ見える。オレにはお前の姿が悪魔に見えるよ。

 

 

「それと本当はどうやって草薙純一郎の技術をどうやって再現したのかとか三億も稼いだお金を何に使ったのとか聞きたいけどそう言うのは何があっても言ってくれない気がしたから辞めたのよね。

 他に何かして欲しいかと言われても思いつかなかったからふと思いついた事を言っただけ」

 

「なるほどな。そう言う事なら了解した……しかしオレは絵は描けんぞ? それでもいいのか?」

 

「まだそう言うこというのね……強情なやつ。ゲーム制作には絵だけじゃ無くて色んな工程があるわ……そこの詳しいところは倫也に聞きなさい! あいつアレでもサークル代表らしいから」

 

「強情なのはお互い様だ。それじゃあこれからよろしく頼む澤村」

 

「それもそうね。こっちこそよろしく草薙」

 

 

 こうしてオレの何もかもが初めてで分からないサークル活動が始まった。

 

 

 

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