素直になれない彼女《ヒロイン》の育てかた   作:アメリカンショコラ

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第十一話

 

 

 

「あーきはーばらー!!!」

 

 

 

 色々なオタク文化を学び、馴染み始めた関東圏に住む人には避けて通れない街『秋葉原』

 夏休みに遊び呆けていた学生は大量に積まれた宿題を見て肝を冷やし、今頃必死に机に齧り付いているか、諦めて現実逃避をしている八月三十一日の昼下がりにサークルの原稿は平気で遅らせても夏休みの宿題は早めに終わらせる人気イラストレーター、柏木えりこと澤村・スペンサー・英梨々と毎日ちょこちょこ進めて終わらせるタイプのオレ、草薙直宏の二人で秋葉原に来ていた。

 

 

 どうして澤村と二人でオタク達の聖地秋葉原に来ているかと言うと三日前までに遡る。

 

 

「そう言えば知ってる? 前あんたに貸したゲームのライターが書いた新作のラノベが来月出るって」

 

「ああ、全店舗ごとに特典小説が付くやつだろ?」

 

 

 筋トレが終わり、シャワーを浴びた後、オレの部屋に戻ってきた澤村がそんな事を言い出した。

 その事は勿論知っていた。貸してもらった作品からライターを調べて、その人が過去に書いたゲームもプレイして、ツウィッターもフォローもして常にアンテナを張っているからだ。

 

 

「それがどうかしたのか?」

 

「え、えーとね? あたし今度そのラノベのね? 予約をしに、秋葉原に行くんだけど……もしよかったらなんだけど、一緒に……行かない?」

 

 

 

 澤村は妙にモジモジしながらオレを誘ってきた。

 

 

「お前いつも通販でなんでも買ったりしてるんじゃなかったっけ?」

 

「そ、それは! ーーーそう! 他に予約してた奴を取りに行くついでよ! ついで!」

 

「そうなのか。なんか今思いついたような言い回しだったような気がしないでもないが………それは兎も角なんでオレと一緒に?」

 

「それは………直宏と………」

 

 

 歯切れが悪いし、もごもごして澤村の言葉が聞き取りずらい。モジモジ度もさらに上がってるし何が言いたいんだ?

 

 

「オレと………なんだよ?」

 

「だ、だから、それは………! ーーーーーーーーあ、あんたと遊びに行きたいからよ! ラノベの予約なんて程のいい方便だったのッ! 直宏のバカッ!」

 

 

 オレに詰められた澤村は抑圧に耐えきれないように本心を吐き出した。

 

 

「遊びに誘うくらい素直に言えよ」

 

「そ、そんなの無理………生まれてこの方一度だって自分から遊びに誘った事なんかないし……もし誘って断られたらって思うと耐えられない……それがあんたなら尚更……」

 

 

 急にキレたかと思えば次の瞬間には弱いところを見せる。そういう緩急は狡いんじゃないだろうか………

 

 

「遊びに誘う事なんかよりもっと図々しいお願いをしただろうに、六天場モールの時とか」

 

 

 サークルに誘った時とか六天場モール時とかもっと酷かったろ。お願いというより命令と言った方がその二つは正しいけど。

 

 

「その時とは状況も関係も全然違うじゃない………そのくらい分かりなさいよ…………バカ」

 

 

 言い分から察するに脅し脅されの関係を解消し、澤村の方はオレの事を友達と思っているという事でいいのか? 澤村がオレの事を好きってのは安芸がいる以上あり得ない事だし。

 

 

「いつ行くんだ?」

 

「えーと夏休みの最後の日」

 

「あー……その日は偶然にも空いてるし全部の書店回るのは無理とは言え一つは手に入れたいし……一緒に行くか? ラノベの予約」

 

 

 これ以上オレと澤村の関係を考えるのは何かドツボにハマりそうな気がしたので別に遊びに行く事くらい何でもないし、話の腰を折ったオレは今度はオレから澤村を誘う事で強引に断ち切った。

 

 

「しょ、しょうがないわね! 仕方ないからあたしもついて行ってあげる! ………えへへ」

 

「それじゃあ三日後秋葉原駅集合だな」

 

「待って、ちゃんと何々出口まで指定がないと絶対すれ違って迷子になるわよ」

 

 

 ラジオ会館という建物が前にある電気街口で十一時に待ち合わせの約束をするのだった。

 

 

 そして現在、澤村が改札口から往来の真ん中で叫んだ場面に戻る。

 

 

「その恥ずかしい真似は今すぐやめろ……」

 

「何を言ってるの直宏! これはある結末によってネットをざわつかせた伝説的ラノベのメインヒロインが発した超有名なセリフなのよ? 初めて秋葉原に来た者なら誰しも叫んでしまうのがオタクのサガ……つまりここにいるオタクは全員経験済みだから生暖かい目で見られる事はあっても冷めた目で見られる事はないのよ」

 

「オレとしてはその生暖かい目って奴を向けられるのも遠慮したいところなんだが……」

 

 

 ていうか澤村。お前長年オタクやってる割にはアキバに来たことないんだな。

 澤村の言う通りオレ達を見て苦笑する事はあっても冷ややかな視線を向けられる事は確かに無かった。この場にいる全員がそうした経験があるってのは流石に誇張しすぎだと思うが。

 

 

「だからそうあんたも言うのよ。あーきはーばらー、と」

 

「やめろやめろにじり寄ってくるな。オレは秋葉原何回か行ったことあるから言わなくていい、はい論破」

 

「何よノリ悪いわね………まあいいけど、それじゃあ行きましょうかアキバ巡りに」

 

 

 こうして秋葉原の探検が始まった。

 

 

「これがラジ館……建て替わったのは知ってたけどこんなにキレイになってたのね……」

 

「お前秋葉来たことないのに前のラジオ会館の事知らないだろ」

 

「見たことあるわよ、アニメやゲームで散々」

 

 

 まず初めはやはりというかラジオ会館の中を回ったり、

 

 

「なんだこの気圧されるようなオーラは……!」

 

 

「数あるとらのあなの中でも特に濃いふじょ……じゃなくてオタクが集まるとされるとらのあな○号店………まさに虎穴と言わんばかりの佇まいね………」

 

 

 

 建物から発する異様なオーラを恐れて虎児を得ることはせずにその場から逃げるように立ち去ったり、

 

 

「メロンブックス、この一線を踏み越えれば一面には肌色パラダイスが広がってると思うとあたし達が18歳になった時が楽しみだわ」

 

「お前の出した作品(分身)はとっくに仲間入りしてるけどな」

 

 

 そう言うの見られない年の癖にエロを描いてる特殊な経緯を持っている同人作家が言うとなんとも言えない気持ちになったりと、とにかく秋葉原の色んな場所を巡った。

 お昼跨いで現在14時半、遅めの昼食を取る事になった俺たちは澤村の熱い要望でラーメン屋に入る。

 

 

「アキバ来たら一回来てみたかったのよねーここ」

 

「調べたら結構な行列店なんだな。こんな時間だから空いてたけど」

 

 

 店員に注文し、待っている間にオレは書店で予約するついでに買っておいた美術雑誌を開く。

 

 

「そう言うの読むんだまだ」

 

「描かなくなっても最近の美術の傾向を知っておいて損はないからな。もしかしたら美大受けるかもしれないし、時事問題を解くみたいなもんだ」

 

「ふーん、なら東京藝大?」

 

「まず受けるならそこだろうな。そこに受かれば美術の教員免許取れるし」

 

「そうなんだ………あたしもそこ受けようかな」

 

「いいんじゃないか、お前ならまず落ちないだろうし」

 

 

 

 澤村なら実技で飛び抜けるだろうから、ちょっとの勉強だけでまず落ちることはないだろう。描けないオレには少し厳しい戦いになりそうだが、膨大な知識でカバーすれば何とかと言った感じか。

 

 

「美術教員になりたいんだ直宏って」

 

「勉強そこまで得意じゃないしな、オレの腕じゃ芸術家として食っていくのも厳しいし美術教師が妥当なところだろ」

 

「ふーん、直宏が教師になったらすごくモテそうよねー女の子達にちやほやされて人気者になるんじゃない?」

 

「何を勝手に変な想像して起きてもいない事で不機嫌になってるんだよ」

 

「別にぃぃー、不機嫌になんかなってませんー」

 

 

 いや、どう見ても不機嫌だろ。そう言うと面倒な事に発展しそうだったので口にせず、ラーメンが来るまで雑誌の方に目を落とす。

 最初は不機嫌だった澤村もラーメンが来てからは機嫌を良くしてスープまで平らげた。

 

 

「そこっ! それそれその調子ー! ああー……何やってるのよ直宏!」

 

「クレーンゲーム初めてなんだよ仕方ないだろ!」

 

 

 昼飯を食べた後、オレ達はゲーセンに寄っていた。

 ぬいぐるみならまだしもいきなりフィギュアはハードルが高すぎた。

 

 

「お、おま、太鼓叩くのうますぎだろ」

 

「ふふーん、オタクを、というかあたしを舐めないでよね。幼少期からこれと共に育ってきてるんだから♪

 

 たたたの達人では難しいの更に上のオニをフルコンボした澤村はドヤ顔で胸を張っていた。

 ちなみにオレはとっくに失敗していた。

 

 

 

「直宏の、ばかやろー!!」

 

「おい、パンチングマシーンをオレに見立てて殴るんじゃない。せめて安芸か霞ヶ丘先輩にしてくれ」

 

 

 どんだけオレのこと殴りたいんだ。名前を叫びながら勢いよく振りかぶって殴られると実際に殴られたみたいに想像してしまう。

 

 

「おい……本当に、これやるのか?」

 

「し、仕方ないでしょ。で……ゲーセンと言えばこれは外せないし」

 

「だが……」

 

 

 プリクラ機器を前にしてオレは入るのに躊躇する。澤村が言うには好きな作品の期間限定スタンプが取れるらしいのだが男のオレには彼女でもない女と一緒に撮るのはハードルが高すぎる。

 

 

「一人でも撮れるんだろ? 澤村だけでやってきてくれ……」

 

「何が悲しくて一人でプリクラ撮らなきゃならないのよ………それに見なさいこのキラキラしたギャルがデカデカと映ってる外観を。そんなリア充女子御用達のゲームに、オタクが一人で入っていけるなんて思っているの!? ………ほ、ほらつべこべ言ってないでさっさと入るわよ!」

 

「お、おい……!」

 

 

 

 澤村に腕を掴まれ、強引にプリクラの中に連れられる。

 

 

「もうちょっとこっちに寄せてよ。枠に入りきらないじゃない」

 

「一緒には入ったんだからオレが映る必要はないだろ?」

 

「ここまできてそんなこと言わないで早く!」

 

「分かった、分かったから引っ張るなッ!」

 

 

 服を引っ張って、身体が密着するくらいというか密着していた。

 そこまでされれば流石に考えないようにしていた事も考えてしまう。

 オレはプリクラを撮り終えるまで内心が出ないように必死に耐えた。

 

 

「ぶっ、な、なによ、この仏頂面は、あははははッッッ」

 

「そっちこそ、なんだよそのぎこちない笑み……!」

 

 

 外の取り出し口から出てきた写真には可愛らしいデコレーションの中に映る苦笑気味の笑顔と能面みたいな表情のオレ達の姿があった。

 

 

「あーおもしろかった! はい、これ! 半分あげるから、捨てるんじゃないわよ?」

 

「そう言うなよ。今すぐにでも現物ごと記憶を捨て去りたいってのに」

 

「だーめ! 写真データはあたしのスマホに入ってるから、もし捨てたのが分かったら大量に送りつけてやるんだから!」

 

「絶対に見つからないところに封印するか………」

 

 

 

 澤村から写真を受け取る。捨てても意味がないとオレは誰にも見つからないところに隠して記憶の奥底に封印するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

「今日は楽しかった」

 

「そりゃ良かった」

 

 

 オレは澤村を家まで送る事にし、今は探偵坂を二人で歩いている。

 

 

「直宏はどうだった? 楽しかった?」

 

「ああそうだな。久しぶりにくたくたになるまで友達と遊んで楽しかった」

 

「友達………か」

 

 

 

 

 

 

 そう言うと澤村は両手を背中に回し、ピョンと一歩前に出て立ち止まる。

 

 

 

 

 

 

 

「友達ならさ、あたしの事名前で呼んでよ」

 

「………どうした急に」

 

 

 オレも立ち止まってどうした急にそんなことを言ってきたのか聞き返す。

 

 

「あたし直宏の事名前で呼んでるのに呼んでくれないのずるいなーって思って。友達なのに」

 

「別に友達だからって全員名前で呼ぶわけじゃないだろ。それに名前で呼んでいらぬ誤解を受けるのはお前も嫌だろ?」 

 

「そう……だね。ごめんね直宏の事困らせちゃった。今のことは忘れていいから」

 

 

 顔が見えないからどんな表情をしているか分からなかったがオレには寂しそうにしている表情が何故かハッキリと分かった。

 オレはそんな顔をされるのに弱い。嫌でも思い出してしまうから。別れの日、去り際に見せたアイツにダブって見える。

 だからーーーー

 

 

 

 

 

「だがそんな迷惑とか知るか。オレは今からお前の事を英梨々と呼ぶ」

 

「………………ッ」

 

 

 

 澤村は……英梨々は思わず振り返っていた。

 

 

「友達だから朝の挨拶をする。一緒に昼飯だって誘う。お前が友達と廊下で話していてもすれ違ったら声を掛ける」

 

「それで周りに変な勘違いをされても構うものか。お前がそれで囃し立てられてオレを避けても、オレはお前を構い続ける。周りが呆れるくらい、当たり前の光景になるくらい一緒にいてやる!」

 

 

 

 英梨々は口をぽかんと開けて、気がつけば涙が頬を伝っていた。

 過去にそうした目に遭って友達と疎遠になっていた英梨々には効果てきめんだった。

 

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「あたし、過去のトラウマがフラッシュバックして絶対酷いこと言うよ?」

 

「本心じゃないと思い込む」

 

「直宏の方はそんな噂流されて嫌じゃない?」

 

「寧ろ光栄だな。こんな美少女と付き合ってるって思われるのは」

 

「バカ………でもありがと」

 

 

 

 英梨々はオレの胸に顔を預けてきた。

 

 

「ちょっとの間だけ……ちょっとだけだからこうさせて」

 

「ああ、幾らでも」

 

「う、ううっ……っ、うぁぁぁぁあッッッ!!!!」

 

 

 オレの胸の中で英梨々は号泣する。今まで抱え続けていたものを吐き出すように声を上げて泣いた。

 

 

 

 こうして高校二年の夏休み最後の日は決して忘れない思い出になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 

二人は友達です。




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