素直になれない彼女《ヒロイン》の育てかた   作:アメリカンショコラ

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第十三話

 

 

 午前6時45分。オレはいつもこの時間に目を覚ます。

 寝巻きからジャージに着替えて30分間ランニングに出かけ、帰ってきてから朝ごはんの準備をして蘭を起こすまでが朝のルーティーンだ。

 

 

「ふぅ。シャワー浴びるか」

 

 

 夏は過ぎたとは言えまだ九月、残暑が続きランニングでかいた汗を流す為に脱衣所に行く。

 中に入るとシャワーの流れる音が既に聞こえていた。

 蘭か。あいつがこんなに早く起きてるとは珍しい。オレはバスタオルで身体の汗を拭いて、持ってきた着替えを着てすぐさまこの場を出ようとシャツを脱いだ。するとーーーーーー

 

 

「…………………直宏?」

 

「お、音願(おとね)!? ど、どうしてここに?」

 

 

 

 風呂場のドアが開かれるとスレンダーで短い銀髪の少女がオレの名を呼んだ。

 

 

「どうしてってわたしは夏樹の人間。直宏の方こそシャワーを浴びている音は聞いていた筈なのに半裸になってるのは何故? もしかしてシャワーを浴びている無防備なわたしに襲い掛かろうとした? ……………やーん、直宏のえっち」

 

「しねぇよ! お前は長期撮影でアメリカ行って帰ってないと思ってたからてっきり蘭だと思って……」

 

「むっ、蘭だったら脱げるというのもおかしな話。前から怪しいとは思っていましたがやはり………これは今すぐ問い詰める必要がありそうです」

 

「詰め寄ってくんな! 今お前は全裸ということを自覚しろ! 恥じらいを持て!」

 

「あ、直宏………」

 

 

 オレは脱衣所から抜け出し、駆け足で二階に上がって自分の部屋に戻った。

 あいつ……変わってなかったな。って何を考えてるんだオレは。

 オレは5分後スッキリして朝食の準備に取り掛かった。

 

 

「お前、いつこっちに戻ってきたんだよ?」

 

「なんだ音願、直宏に昨日の夜に帰ってきたの連絡してなかったのか?」

 

 

 

 音願は今ドラマに引っ張りだこの子役『葛乃紀こころ』として活躍している人気女優。夏休みの最初から今までアメリカのロサンゼルスで映画の撮影をする為に長期で夏樹家を空けていた。

 学校に通わず、起きるのが撮影10時入りに合わせる事が多いので滅多に朝顔を合わせる事がない。

 

 

「じー…………」

 

「な、なんだよ」

 

「こっちをみてどうした?」

 

「二人の首にキスマークが付いていないか調査していました。どうやらここ一週間はそういう事はしていないようです」

 

「ぶふっうううううっっ!!!!」

 

 

 

 蘭は口に含んでいた麦茶を盛大に吹き出す。

 

 

「そ、そんなこと私と直宏がしている訳ないだろう!!」

 

「そうでしょうか。わたしが一ヶ月出張しているのをいいことにせーーーーーもごもごもごっ」

 

「いい加減にしないと正拳突きを喰らわせるぞ音願」

 

「んーーーーーー!? たふふぇふぇなふぉふぃほ!」

 

「自業自得だ」

 

 

 

 瞬間移動したかの様に音願の背後に回った蘭は口を手で塞ぐ。

 一度蘭の正拳突きを食らったことのある音願は必死にもがいてオレに助けを求めるが無視して食べるのを再開した。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

「ふーん、倫理君のイトコなんだ。この美智留さんって人」

 

「う、うす」

 

 

 

 放課後、サークル活動中。現在椅子に縛られた安芸の審問会が開かれていた。

 スクリプト作業中に隠れるようにメールを見ていた安芸とそれを見ていた加藤の会話から発展し、霞ヶ丘先輩による事情聴取が始まったのである。

 オレはそれを他人事の様に作業する……事はできず固唾を飲んで見守る。

 

 

「今、倫理君の部屋にいるの?」

 

「あいつ、家族と喧嘩して家出してきたみたいで……」

 

「そう、つまり今、倫理君は同い年のイトコと同じ部屋に住んでいる……と言うことね?」

 

 

 今、似たような状況であるオレにとって明日は我が身。

 イトコ……とは正確には違うが音願と一緒に暮らしていることは絶対にバレてはいけない。平常心平常心………

 

 

「ひ、一つ屋根の下、お風呂で鉢合わせ、あのラッキースケベイベントって実体験!?」

 

「ち、違う! …………あの時までは」

 

 

 

 そう言えば今作ってるゲームにもそういうシーンがあって話をした事があったな………と思い出した。ついでに今朝の出来事も思い出してしまい頭を左右に振ってその光景を振り払う。

 

 

「そう……これはまだまだ隠している事がありそうね。洗いざらい有る事無い事話してもらいましょうか」

 

「いや、ない事話したら駄目でしょ………」

 

 

 安芸の口からどんどん情報が出てくる。そのいとことは年齢誕生日血液型さえ同じな上に同じ場所で生まれたらしく、霞ヶ丘先輩はそのいとこを原初の幼馴染と呼び盛大に英梨々をイジっていた。パチモン幼馴染とまで言われ白い煙が出るほど放心状態に英梨々はなっている。

 

 

「霞ヶ丘先輩そろそろ安芸を拘束したままというのは辞めませんか? 英梨々もあんなのになってますし」

 

「………草薙………!」

 

「今日まで倫理君が虐められても我に関せずを貫いていたというのにどういった風の吹き回しかしら?」

 

 

 流石に同情してしまい、つい口に出してしまい後悔する。

 藪蛇突いて大蛇が出るとはこのことか。

 

 

「…………どうぞ続けて下さい」

 

「おい草薙オレを助けてくれるんじゃないのか!? 折角の感動を返せ………!」

 

 

 

 オレは弱い………自分の保身を考えると安芸を見捨てるのが正しいと判断してしまう。許してくれ、オレの心の弱さを。

 

 

 椅子に座って、せめて安芸の無事を祈っているとポケットの携帯が震えた。

 取り出して通知を見るとそこには音願から『晩御飯今日は何を作ってくれるの?』といういつもならなんてことのないが今は来てほしくないLEINの通知が来ていた。

 だがオレは安芸とは違う。ちゃんと中身を見られない範囲に皆がいることを確認し、素早く開いて文字を打っていると続けざまに音願から送信がくる。今度は画像付きで。オレは何気なしにクリックすると、

 

 

「ぶふっ!? ごぼっ、ごほっ! ごほッ!?」

 

 

 画像を見たオレは盛大に吹き出した。

 な、なんてもん送ってきやがる!?

 『わたし直宏が早く帰ってくるの待ってるからね』という文字とともに、YES /NO枕を抱えてベットの上に座っている下着姿の音願の画像が送られてきたのだ。

 どこでそんな胡乱なもん手に入れたアメリカ土産か? ちょっと見ない内にまた昔の音願に戻りやがった……

 

 

「草薙くん………それ、なに?」

 

 

 オレは加藤の声でハッと顔を上げると、加藤がいつの間にかオレに近づいてスマホを覗き込んでいる事に気が付いた。

 オレは慌ててスマホを隠そうとするが時すでに遅くーーーー

 

 

「加藤さん! 今すぐ直宏のスマホを抑えて!」

 

「え、あ、うん」

 

 

 いつの間にか復活していた英梨々が素早く指示を出し、オレはその指示を受けてから光の速さで動いた加藤にスマホを奪われる。

 そして加藤に渡され、LEINの内容を見た英梨々は憤慨してオレを問い詰めてきた。

 今度は英梨々による草薙直宏審問会が開かれる。

 

 

「この子……あんたの何? セフレ?」

 

「………ただのいとこです」

 

 

 

 めちゃくちゃ失礼な、けれどそう思っても仕方のない内容だがきちんと否定をする。

 

 

 

「………ただのいとこがこんな如何わしい写真を送り付ける訳ないでしょう!」

 

「あいつ、結構な期間アメリカで過ごして変な倫理観を植え付けられてるから………あれでも少しはマシになったんだぞ?」

 

 

 英梨々にさっきの画像をアップで突きつけられ、目を逸らして訳を話す。

 

 

「そんな話を信じられると思う? ………もう一度聞くわよこの子はあんたの何?」

 

「完全にいとこかと言われればちょっと違う……けど殆どそうだと言っていい」

 

「ちょっと違うのちょっとってのは何?」

 

「そ、それは………言えない」

 

 

 その事はめちゃくちゃ込み入った事情があって言うわけにはいかなかった。

 英梨々の目つきが更に鋭くなるがこれは絶対に譲れない。

 

 

「あのさ草薙くん」

 

 

 無言の状態が数分続く。

 オレと英梨々の膠着状態に割ってきたのは加藤だった。

 

 

「何だよ加藤」

 

「写真の子何処かで見たことあると思ったんだけど、ひょっとしてこの子だよね? 葛乃紀こころさん。今色んな映画やドラマに引っ張りだこで人気女優の」

 

「…………」

 

「何それ聞いてない」

 

 

 加藤がスマホに映る夏樹音願……芸名『葛乃紀こころ』を、画像検索の顔写真を見せつける。

 

 

「……………そうだ」

 

「………これは隠してる事がまだまだあるわね。洗いざらい吐いてもらうわよ」

 

 

 オレは安芸に助けを求めるがまだ先輩に解放されていないようで頼りにはなりそうになかった。これが安芸を見捨てた報いか……オレは今度こそ観念し言える限りのことを話すのだった。勿論脱衣所で鉢合わせをした場面は伏せて。

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「おかえりなさい直宏。どうしましたか随分お疲れのようですが」

 

 

「いったい誰のせいでこうなったと思ってるんだ……」

 

 

 駅に着くまで質問攻めにあって疲れていたオレをニワトリをモチーフにしたフード付きのパジャマを来て出迎える音願。せめて画像送るならその格好でやってくれたらいくらかマシだったというのに……

 

 

「……? よく分かりませんがそれはともかく直宏、わたし渾身のポーズを既読スルーは流石に傷つきました」

 

「あんなのに返事できる訳ないだろうが……この!」

 

「いふぁい、いふぁい。なふぉふぃほいふにはふせっふぉふへひ!」

 

 

 今日オレが感じた責め苦の一部でも与えるために音願の頬を引っ張る、

 こいつもちみたいに伸びるな。いじりがいがある。

 オレは数分間いじり続けた。

 

 

「うう……酷い直宏。わたしのことこんなに弄ぶなんて」

 

「どうせ演技だろそれ」

 

 

 オレの手から解放された音願は床に太ももをつけてよよよと手で顔を押さえて泣く素振りを見せる。オレはそれを指摘すると立ち上がった音願はいつも通りの無表情だった。

 

 

「酷いと思ったのは本当。けどそれが直宏のしたいことならどんなものだって受け入れるよ。だってそれがわたしの……あいたっ」

 

「オレのためとか言うな、お前は自分のために行動する。そう約束しただろ?」

 

「うん」

 

 

 オレは音願の頭を軽くぽんと叩いた後、優しく撫でる。

 

 

「わたし直宏に撫でられるの好き。もっとして欲しい」

 

「それは……自分の意思か?」

 

「そう」

 

「分かった。晩御飯の準備するから後少しだけな」

 

 

 

 オレは頬を弄った時間より長い間音願の頭を撫でた後、夕飯の準備に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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