素直になれない彼女《ヒロイン》の育てかた   作:アメリカンショコラ

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第十五話

 

 

「ふぁぁぁ……おはよー直宏」

 

「なんだオレが起こす前に起きてくるとは珍しいな蘭」

 

 

 オレは朝ごはんの支度をしているとボサボサの髪にパジャマ姿の蘭が怠そうに眠い目を擦りながら台所にやってきた。

 

 

「ふぁ……今日はいい匂いがして目が覚めてしまったんだ」

 

「いつもいい匂いは漂わせているんだがな」

 

「勿論いつもおいしそうな匂いだが今日は一段と強烈だったからな」

 

「ふふ、よく気がついたな蘭」

 

 

 朝ごはんはご飯と味噌汁、目玉焼きウインナーといつも通りだが違う物が一つある。

 

 

「いつもなら昨日の夕飯の残り物で埋め尽くされる弁当だが、今日はこの弁当の為に仕上げた作り下ろしの弁当だ」

 

「な、なんと……衣が油で染みた揚げ物や妙に水分が抜けたパサパサの炒め物じゃない新品の弁当が食べられるとは……いったいどうしたと言うのだ直宏!」

 

 

 

 夏樹家特有の低気圧による怠さも吹き飛んで目を輝かせる蘭。これだけでも作った甲斐がある物だ。

 

 

「私今日は凄く頑張れる気がするぞ………ん? 直宏、弁当箱一つ多いぞ? 音願が頼んだのか?」

 

「いや、これは………」

 

 

 怠さが吹き飛んだせいか蘭はめざとく一つ多く用意されている弁当箱の事を指摘する。

 

 

「愛妻弁当ですね」

 

「うおっ!? お、音願? いつの間にそこに!?」

 

 

 

 突然寝巻きの音願が顔を出してスッとパワーワードを入れてくる。何で今日に限って朝の調子がいいんだ夏樹の二人は。

 

 

「直宏は恋人の金髪ツインテールさんの為に弁当を作って上げたのでしょう。しかしそれを悟られるのは恥ずかしいので蘭の分も用意する事でカモフラージュをしたそんなところでしょうか」

 

「金髪ツインテールって……澤村のことか? いつの間に二人はそんな仲になっていたのか…………そうならそうと言ってくれたらいいのに少し寂しいぞ」

 

「恋人じゃねえよ! 蘭も真に受けるんじゃない!」

 

「なら直宏の片思いですか? 恋人でないなら少しその愛は重いと思いますが」

 

「まず恋愛関係に繋げるのをやめろ………あいつには好きなやついるし、ただのご機嫌取りだ。………ほら朝食の準備の邪魔だ、とっとと出ていった出ていった」

 

 

 

 

 オレは二人に背中を向けさせて、キッチンから追い出した。

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「英梨々、約束通り誘いにきたぞ」

 

 

 オレは昼休み、G組までやってくる。英梨々はクラスメイトの二人と固まっていた。確か里見と石巻だったか。

 オレが声を掛けると英梨々は振り返る。クラス中の注目を浴びている気がした。新学期の朝の邂逅以来、なんだかんだ朝会う事もなければ廊下ですれ違う事もなかったので、英梨々に無謀にもアタックする男子の図が出来上がっていた。だから周囲は英梨々が人当たりが良く優しいと思っているからやんわりとオレを傷つけない言葉で断るものだと思っていた。

 

 

「約束……じゃないでしょ? 今、ここで誘ってよ」

 

「ああそうだったな。英梨々、オレと一緒に昼ごはんを食べないか?」

 

「…………うん」

 

 

 

 

 そう思っていたから英梨々がオレの誘いをOKした事で騒然となる。里見と石巻は英梨々のしおらしくもいじらしい誘われ待ちに思わず『かわいい……』と漏らしていた。

 周囲の好奇な視線の中には男子たちの嫉妬と羨望も混じっていて、やはりこいつは人気があるんだなミス豊ヶ崎伊達じゃないと再確認した。

 

 

 

「ほら英梨々行くぞ。石巻、里見。悪いけど英梨々の事借りていくな」

 

「う、うん」

 

「お、お幸せに………」

 

 

 二人はよく分からない事を言いつつ送り出してくれた。

 廊下を英梨々と一緒に歩いているところを後輩、同級生、先輩、先生達に見られながら屋上にたどり着く。

 

 

「げっ」

 

「げっ、とはいきなりな挨拶ね澤村さん」

 

「な、なんであんたがここにいんのよ!」

 

「なんでってお昼を食べる為に決まってるでしょう。ここは公共の場、あなた達専用のものじゃないのだから。それと心配しなくても食べ終わったらすぐいなくなるから安心して? 二人の逢瀬を邪魔する気はないの」

 

 

 屋上には先客がいた。ベンチでパンを食べていた霞ヶ丘先輩に英梨々は噛み付くが先輩は相手にしない。

 

 

「どうする? 他で食べるか? 視聴覚室とか」

 

「ここで食べるわ、だってこの女の為に行動を曲げるのは癪だもの!」

 

 

 英梨々はそう言って先輩が座っているベンチの隣のベンチに英梨々は座った。オレは二人の間を挟んで英梨々の隣に座る。

 そして廊下を歩いている時に渡しておいた赤色の弁当箱を開いた。オレもそれに倣い黒箱の弁当箱を開ける。

 

 

「美味しい……きんぴらごぼうの丁度いい甘辛さがご飯とマッチしてる。こっちの唐揚げは………! 冷めてるはずなのに衣がパリパリですっごくジューシーでおいしいわ! こっちも、こっちも………んぐっ!?」

 

「慌てて食べなくてもなくならないんだからちょっと落ち着け。ほらお茶」

 

「あ、ありがとう……ごくっ、ごくっ、はぁ……」

 

 

 オレはむせる英梨々に持ってきた水筒のコップにお茶を入れて手渡し、英梨々はそれを一気に飲み干し、コップを返した。

 

 

「ったく……」

 

「あ………」

 

 

 オレは返されたコップにお茶を再び注ぎ口につけると英梨々がコップを正確には自分の口をつけた部分を見ていた。

 

 

 

「お、おま今どき間接キスくらいで顔真っ赤にする奴があるか!」

 

「そ、そっちこそ顔真っ赤にして言われても説得力ないわよ!?」

 

「お前がそんな顔してなかったらそんななってなかったわ!」

 

 

 高校生にもなってたかが間接キスくらい気にしてるんじゃない! 

 

 

「………あなた達。ここに私がいる事忘れてない?」

 

「あ………」

 

 

 完全に忘れてた。先輩は足をカタカタ震わせて、苛立っているご様子だ。

 

 

「先輩………怒ってます?」

 

「そうね。いきなり不躾に入ってきたと思ったら横目で今どきラノベでもない様な青春カタルシスを見せつけられたのだもの。もしかして私への当てつけかしら。一人で屋上でぽつんと黙々とパンに齧り付く私への盛大な」

 

「すみません。少し声を抑えます」

 

「そうして頂戴。少なくとも私が食べ終わるまではね」

 

 

 

 向いていた横顔を正面に戻して先輩は紙袋の中からメロンパンを取り出して食事を再開した。

 

 

「俺たちも食べるの再開するか」

 

「そ、そうね………」

 

 

 オレ達が恥ずかしいやりとりをしていたのは先輩の介入で英梨々も自覚したらしい、気を取り直して弁当に箸を付ける。

 オレは鞄からもう一つ水筒を取り出し開けると、むわぁっと湯気が立ち昇った。

 

 

「直宏? その水筒は?」

 

「ん? ああ味噌汁だ。これをこうやって弁当の冷めたご飯を口に含んで」

 

 

 味噌汁を口に含むと固くなったご飯が解けて絶妙な調和が生まれる。お茶漬けには冷えたご飯というのは昔からの鉄板。味噌汁の塩味が効いてこれだけで何杯もご飯がいける。

 

 

「ごくっ……」

 

「英梨々もやるか味噌汁茶漬け、凄くうまいぞ」

 

 

 オレは注いだ味噌汁を差し出すと無言で受け取り、ご飯を口に含んで、オレが口をつけてない部分から味噌汁を流し込むと次の瞬間ーーーーーー

 

 

 

ーーーーーーほわぁっと緩み切った顔になって、残り少ないご飯が消えるまでオレに味噌汁を要求するのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

英梨々side

 

 

「ごめんね加藤さん。こんな散らかってる部屋に案内させちゃって」

 

「いいよ、急に押しかけてきちゃったのは私だし。こっちこそ作業の邪魔しちゃってごめんね」

 

「そんなのいいわよ。あたし達演出担当だし、それに人がいて集中力途切れるほど柔じゃないし」

 

「随分な自信だー」

 

 

 

 金曜日の朝に加藤さんがLEINでシステム面の事を色々教えてほしいと連絡が来たのでならあたしの部屋で作業する? と送ると澤村さんがいいっていうならと決まり、あたしの部屋で徹夜する事になった。

 それで部屋の電気をつけ、加藤さんを部屋に招き入れる。

 

 

「うわぁ、やっぱり広いねー。家に来た時から想像はしてたけど………あれ? これって………」

 

「加藤さん……? 何を見てーーー」

 

 

 加藤さんは部屋を見渡して感嘆する。そして一点、あるものを見つめていた。

 ニューヨークで開かれた個展でパパに買ってもらった作品の捺印に向けている。

 

 

「加藤さんそれは……ち、違くてーーーうぎゃっ」

 

 

 あたしは慌てて加藤さんを呼び止めようとしたら、落ちていた画用紙で足を滑らせてしまい、背中から頭をぶつけてしまう。

 

 

「〜〜〜〜〜いっつう!!?」

 

「だ、大丈夫!? 澤村さん!」

 

 

 あたしは後頭部を押さえて寝転んだまま必死に頭に耐えていた。

 加藤さんはそんなあたしを心配して声を掛けてくれる。

 

 

「痛みは引いた?」

 

「うんちょっとましになった」

 

「なら良かった」

 

 

 数分悶えて後に痛みは治まった。

 

 

「それであそこに飾ってあるあの事なんだけど……」

 

「あー、そういえばこんなのもあったわねー、ずっと前からあるものだし取り外すのもめんどくさいから放置してたけど!」

 

「それで押し通すつもりなんだ……」

 

 

 この子は何というか霞ヶ丘詩羽の様に見透かしたような言動をして煽ってこないけど聡い子だ。何も考えていないその場その場のノリで流されている様に見えてちゃんと考えて気も使える。それがあたしが数ヶ月過ごして得た加藤恵という人物像だった。

 

 

「この絵草薙くんが描いた絵なんだね。なんていうかキレイだよね」

 

「…………加藤さん。あなたこの絵を見て思った感想、もしかしてそれだけ?」

 

「え? そうだけど」

 

「………分かってない、この作品の事全然分かってないわよ加藤さん!」

 

「さ、澤村さん?」

 

「これはただ少女と景色の美しさを描いた作品じゃないの! いい加藤さん? この作品はーーー」

 

「……私、この展開、前に何処かで見たことあるよ? 経験した事あるよ? 絶対長くなるよね? その話。後やっぱり澤村さんこの絵の事知ってるんじゃーーー」

 

 

 

 あーあー一期2話の話(そんなこと)は知らないし、そんな都合の悪い事は聞いてない。

 そんなことより今はいかにこの作品が素晴らしいものか加藤さんに知らしめることの方が先決だ。

 ふふ、加藤さん夜は長いわ、今日は眠れるとは思わないでよね。あなたが言ったことなのよ? 徹夜も辞さないって。

 

 

 

 『(ひかり)と少女』

 

 

 それがあたしの部屋の壁に飾られている作品の名前。

 描いてあるものを説明すると、草原と海、その境界線には白波がたっている。草原の上を白い髪の白い服の少女が両手を広げて立っていて、少女の周りにはアンティークな椅子が一つと沢山の本が散らばっており、少女の見上げる空には人が映ったシャボン玉が飛んでいる……一見するとそう思ってしまう作品だ。

 しかしよく見てみると草原と海に境界線が仕切られていない。波たっているせいで別れている様に見えるだけで草原は実は碧の海だったのだ。けれど草原の様に草木が生えているそんな矛盾がこの絵にはある。

 電子の海……そんな言葉から発想を得て描いたのだと言う。 

 0と1の世界は海の上の草原という矛盾を成立させる。簡単に言えばゲームの世界。現実ならあり得ない光景もゲームの中なら存在するだろう。

 だから草原に立つ少女もまた現実には存在できない存在で、散らばった本のタイトルや開かれたページに抽出されている文から少女はAIなのだと推測できる。

 景という言葉には光という意味もあるが影という意味もある。だからあたしはこう考えた。

 シャボン玉に映る人々を現実に存在するものと捉え、少女は触っていない……つまり現実に干渉できず情報の海に一人ぽつんと立っている。そう考えるとこの絵は幻想的な光景に少女の孤独という影があると言える。

 その少女を当時のあたしと重ねたからこそ子どもながらにこの作品の事を気にいったのだと今ならそう思う。

 

 

 

「ーーーーーということなの、分かった? 加藤さん」

 

「うん、分かった。やっぱり澤村さんも立派なオタクなんだって事が」

 

「……あなたあたしの説明、ちゃんと聞いてた? 講釈聞いて出てきた台詞がオタクの面倒臭い部分(作品に関係ないこと)なんてあたし許さないわよ」

 

「あーもう、めんどくさいなぁ〜澤村さんはー。私そんな惚気を聞きに澤村さんちにきたわけじゃないんだってー!」

 

「言うに事欠いて惚気って何よ、惚気って! あたしはただこの作品の素晴らしさをーーーー」

 

「ああいいから、もういいから! いい加減作業始めさせてよ澤村さん〜!」

 

 

 

 加藤さんに心底めんどくさそうな顔をされた。いつもフラットで表情が出ない加藤さんなので本当に面倒くさいと思っている事がわかる。

 なんだか加藤さんとあたしの仲が進展したような、そんな夜のイベントだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 景と少女はある作品のパッケージ絵を参考にしました。




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