素直になれない彼女《ヒロイン》の育てかた   作:アメリカンショコラ

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第二十話

 

 

 

 

「それで一体どういうつもりなんだよ伊織?」

 

「どうやら僕たち『rouge en rouge』の冬コミ用新作ゲームの体験版プレイしてくれたみたいだね」

 

 

 舞台は探偵坂から近くの公園は移り、間を一つ空けて座る波島伊織と安芸。その安芸が『rouge en rouge』のホームページから『永遠と刹那のエヴァンジル』という作品情報ページに飛んで波島伊織に見せる。

 

 

「思ったんだがなんでゴスロリ?」

 

「それはお兄ちゃんが闇堕ちの雰囲気が出て良いからって……」

 

「つまりは波島兄の趣味か……引くわー」

 

「せっかく路線をシリアスに戻そうとしてるのに話の腰を折らないでくれるかな!?」

 

「一回ぶっ壊れたもんを無理に修正しようとする方がナンセンスだろ?」

 

 

 白のフリルの付いた黒のカチューシャに真っ黒な衣装は紛うことなきゴスロリだった。

 

 

 

「というか直宏。なんか雰囲気違くない? そんな空気を読まないタイプだっけ?」

 

「出会ったくらいの頃はそんな感じでしたよ? 私の絵に勝手に手を加えるくらい好き勝手にやる人でした」

 

「何その自分だけが昔の彼のことを知ってる発言は。むかつくわね」

 

「いふぁい、いふぁい。やへてふはさいさわむらへんぱいー」

 

 

 英梨々は旭川の頬を引っ張る。そんな意図無いだろうに、思い違いもいいところだった。

 

 

「で? 結局ウチと似たようなジャンルの作品をぶつけてきて何がしたいわけ?」

 

「本当はそうするつもりじゃなかったんだよ? でも出海がどうしても柏木先生と同じ舞台で勝負したいっていうから仕方なくね。

 おかげで伝奇作れるシナリオチームを丸ごと引き抜くことになっちゃったよ」

 

「なんで……どうしてだよ出海ちゃん! 君はただ好きな作品を昇華させるために同人をやってたんじゃないのか! 人気の為とか、金の為とかじゃなく、ただ同じ作品をッ、好きな人同士の友情を深める為に同人を始めたんじゃなかったのか!」

 

 

 

 安芸達が熱く語り合っている。シリアスに軌道修正したい組にオレはその場から追い出され、あはは……と愛想笑いをしていた旭川を連れ出して少し離れた場所で立ち止まる。

 

 

「波島妹はああ言ってたが旭川も同じ理由か? ていうかよく参加できたな、接点ないだろ『rouge en rouge』に」

 

「バランスを取るためですよ。描かないとは言え先輩に色々教えてもらっている澤村先輩と戦うんです、2人がかりでトントンといったところですからね。

 前に学校の校門近くで先輩を待ってる時に同じく安芸先輩を待っていた出海が声をかけてきたんです。そこでジャンルは違えど同じ絵を描くもの同士仲良くなりまして、それから芋づる式に」

 

 

 波島妹→波島兄→ 『rouge en rouge』と一本の線が繋がったわけか。

 

 

「色紙……くれましたよね? あんな宣戦布告を受けて対抗しないわけにはいかなかったんですよ!」

 

「あー、そういえばそんなの送ったわね。この作品では描写されてなかった(何故か頭から抜け落ちてた)けど」

 

「い、言ってはならない事を言いましたねッ!? 全然出番がないこと(存在を忘れられてるじゃないか)気にしてるのに!」

 

「ホント何を言ってるんだよ二人とも!? 危ない発言はやめてよ!?」

 

 

 他所では英梨々と波島妹が猫パンチでぽかぽか殴り合い(女の喧嘩)を始め、それを兄と安芸が止めに入っていた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「思わぬ強敵の出現だったな一昨日は」

 

「ふん、別に誰が相手でも関係ないわよ。あたしはただ作品に打ち込むだけ」

 

 

 昼休みの準備室で二人肩を並べて椅子に触って弁当をつつきながら話をする。

 

 

「安芸はどっちのシナリオにするんだろうな」

 

「あたしは前も言った通り初稿。だってメインヒロインは巡璃なんだから」

 

「メインのヒロインに隠れて実は真ヒロインがいるって作品もあるけどな」

 

「そうなのよね……それでついそのヒロインから攻略しちゃって他のルートに出てくる度にその子の想いとか葛藤とか思い出しちゃってプレイに身が入らなくなって……うう……ルートロックかけなさいよ○画あぁぁ………」

 

 

 英梨々はその子とやらを思い出して涙ぐみながらメーカーに文句のようで文句じゃない文句を吐き出していた。英梨々はメインを後に持ってくるタイプだったようだ。オレはオススメ攻略順を見てからプレイする派。

 

 

「そういえば文化祭の出し物英梨々のクラスは何するんだ?」

 

「メイド喫茶よ」

 

「メイド喫茶か……王道だな」

 

 

 オレは英梨々のメイド服姿を想像する。

 

 

『お帰りなさいませオレご主人様!』

 

 

 いや、そんな向かい入れる感じじゃなくて……

.

 

『ふんっ、おかえりご主人様。べ、別に帰ってくるの待ってたわけじゃないけど一応そう言っておいてあげる』

 

 

 そう、こんな感じ。限りなく英梨々に寄せたメイドの完成だ。メイドのあるべき言動じゃないけど。

 

 

「………変な想像したでしょ。残念だけどあたしは裏方よ、ミスコンもあるし」

 

「そうか、それは残念だ」

 

「ざ、残念なんだ……」

 

「そりゃそうだろ。英梨々絶対似合うし」

 

「ふ、ふーん……そんなに言うならホールに回してもらうかな

 

 

 英梨々が顔を赤らめながら消えいるように呟く。

 

 

「英梨々?」

 

「え、あ……そ、そっちの方は何するのよ?」

 

「………執事喫茶だ」

 

「執事喫茶」

 

 

 英梨々は顔を上げ、何かを考える。その数秒後何か変なことを考えたかのように顔を真っ赤にした。

 

 

「おい英梨々何か変なこと考えてるだろ」

 

「へ、変なことなんか考えてないわよ!」

 

「………ったく。一体どの乙女ゲームのキャラで妄想したんだか」

 

「だから考えてないってば!」

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「あ、直宏」

 

「よう音願、偶然だな」

 

 

 駅を出ると偶然鉢合わせる。

 

 

「サークルの方はどんな感じ?」

 

「先輩が一昨日もう一つのシナリオを安芸に渡してな。それでどっちを選ぶか悩んでて作業ストップしてる」

 

「そう」

 

「何で先輩は今になって違うシナリオを用意したんだろうな?」

 

 

 何故同じシナリオに組み込まず分けたのか。安芸に選択肢を与えてどちらが先輩にとって得になのか損をするのか。

 オレ達絵描きが絵を描く事で何かを伝えるのに対し、小説家は物語を通して何かを伝える。二つのシナリオの相違点はメインが巡璃か瑠璃か。瑠璃を選ぶことで何がどうなるのか……オレには全く検討がつかない。

 

 

「瑠璃とは一体誰なのか。それを理解すれば自ずと答えは出ますよ直宏」

 

「音願……? 何で瑠璃ルートの事を知って……もしかして氷堂と一緒に来たときに?」

 

「二つの台本(シナリオ)を用意したそうです。両方を録音して、どちらが選ばれても使えるように。二度手間やボツになる方が出来ると詩羽には随分謝られました」

 

「そうだったのか……」

 

 

 先輩が放送ブースに音願を連れ出したのはそのことを説明するためだったのか。

 

 

「直宏、少し寄り道しませんか?」

 

「いいが……どこ行くんだ?」

 

「直宏もよく知ってる場所ですよ」

 

 

 辿り着いたのは小さな神社だった。ぽつんと立つみすぼらしい様相をした社。

 

 

夢惹(ゆめひき)神社か……」

 

 

 

 人の想いに共鳴して桜が咲き、願いを叶えるという伝承がこの弓引市には伝わっている。千年前、夢を引き寄せ飲み込む巫女が命と引き換えに吐き出された夢を咲かないはずの老木達が吸収して花を咲かせたとされる場所がここの夢惹神社だ。

 

 

「こんなところに連れてきてどうするつもりだ?」

 

「直宏には伝えておかなければいけませんから」

 

「何?」

 

「もしかしたらの話です。わたしはーーー」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「で、直宏は何であたしを訪ねてきたわけ?」

 

「仕方ないだろ、あのままじゃ作業にならないって追い出されたんだから」

 

 

 水曜日の夕方、オレは安芸の家に呼び出された。どっちもシナリオが良すぎて選べないならまずどっちのルートもゲームに落とし込もうと加藤が提案し、それに乗った安芸が乗ったらしい。

 オレが家の中に入ると何故か『Icy taill』のメンバーもいて、氷堂以外のメンバーはパソコンの扱いに慣れている為ヘルプに入ってくれた。それで作業に入った訳だが……

 

 

「あの……少しいい?」

 

「何だ? 何かあったか?」

 

「ひゃッ!? く、草薙さん!?」

 

「いや、突然現れて驚いたみたいになられても……いるのは分かってただろ?」

 

「ご、ごめんなしゃいッ!? 何気なく呼んだら草薙さんだったから驚いちゃって…….」

 

 

 

 ドラムのランコこと森丘は挙動不審に手を右往左往させる。

 

 

「それでどうした?」

 

「うん……ここの文なんだけど……」

 

「どれ……ああここか。これはこうして……」

 

「うっひゃぁあぁぁぁぁッッッッッ!!!!!????」

 

 

 森丘がマウスを動かしカーソルを指定された場所に合わせる。オレはパソコン画面をしっかり見るために近づくと森丘が飛び上がった。

 

 

「落ち着け森丘!? 森丘蘭子!」

 

「ランコ!? 名前呼び捨て!? きゅ〜!」

 

「おい! 森丘! しっかりしろ!」

 

 

 そう叫んでひゅるひゅると身体が倒れ込む森丘。

 その後オレがいると森丘が作業に集中出来ないと追い出された。

 

 

「ーーーーーというわけだ」

 

「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

 

 

 オレは地べたに座って経緯を説明すると英梨々は含みのある伸びた声を出す。今の説明のどこに不満要素があったんだよ。

 オレはなんとなくバツが悪くなり、居た堪れなくなって目をキョロキョロ動かして英梨々を見ないようにすると………とあるものが目に入り、立ち上がってそれに近づく。

 

 

「何急に立ち上がって? 何が気になって………ひゃうわッ!?」

 

「『景と少女』……お前」

 

「い、いいいいいいいや!? こ、これは違うの!? 昔パパが買ってきて飾ったのをそのま…………って何してるの!?」

 

 

 オレは英梨々の言葉に耳を傾けず、クローゼットを開き、押し入れの段ボールの中を物色したり、果てはベットの下を覗いたりと部屋中を歩き回る。

 そしたらまあ出てくる出てくる。

 

 

 

「あ……ああ………ああ………」

 

 

 

 その様子に理解が追いつかず、呆然と言葉にならない声を上げる英梨々。

 『幸福チケット』『カーテンスコール』『夢色世界』『アリア烙印』……etc。

 その全てがオレの作品だった。

 

 

「英梨々……お前、(芸術家としての)オレが好きなの?」

 

「うああああああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!!!!」

 

 

 

 絶叫した。それはもう心の底から出た雄叫びを上げて英梨々は錯乱した。

 

 

 

「な、ななななななんてことしてくれるのよッ! こ、この鬼畜ッ! 悪魔ッ!」

 

 

 英梨々は涙目になりながらオレの胸をポカポカ叩いて訴えてくる。

 

 

「ちょ、やめろやめろ。ほらギャルゲーでもよくあるだろ? 友達が部屋に来たときに色々物色するやつ」

 

「それはヒロインが主人公の部屋に来たときにエッチなやつを探すイベントで、普通女の部屋で家探しはしないでしょうがッ! するとしてもあたしがいない時にしなさいよ!」

 

「いなかったらいいのか……目を盗んでやったら下着とか物色したって余地を与えるだろうが。オレはそうところは配慮する男だ」

 

「配慮出来るならそもそも家探しをするな!」

 

 

 英梨々はがるるとオレに唸りながら睨め付ける。

 

 

「ううっ……よりによって一番見られたくないやつに見られた……恵に見られた時に外しておけばこんなことには……」

 

「今更ながらオレに執着してた理由が分かったわ。オレのファンならそう言ってくれれば最初の対応も違ったというのに」

 

「言えるわけないでしょ……あたしは創造者に自分がファンだって認知されたくないのよ。変なフィルター掛かって接されたくないから」

 

 

 安芸とは逆だな。安芸は作者のツウィッターにリプライで感想を送るタイプ。それが励みにつながる場合もあれば逆にプレッシャーにもなりうる。

 英梨々は余計な事をして作者をマイナスな気持ちにさせない。けれど励みになる事はない。

 両者どっちにも良いところと悪いところがある。

 

 

「オレは友達の英梨々にファンの英梨々が加わっても何も変わらないぞ。英梨々は英梨々のままだ」

 

「直宏………」

 

 

 英梨々はオレの目を見る。

 

 

 

「………今更良い風に締めようとしても乙女の秘密を無理矢理暴いたデリカシーなし男の事実は消えないわよ」

 

 

「せっかく気を逸らしたのに蒸し返すのはやめてくれ……」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

「……何だよこれ」

 

 

 皆んなが徹夜して組み込んでくれたゲームをプレイして倫也は呟く。

 それはゲームにしなければ分からなかったこと。ただテキストを読むだけでは気づかない陥没に倫也は歯噛みする。

 

 

「伝えないと」

 

 

 詩羽にとってそれはとても残酷なこと。彼女にはお呼びもつかない第三の選択肢(・・・・・・)だった。

 決断の日……文化祭がもうすぐ始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 ???side

 

 

「………本当に偶然にしては出来過ぎてますね」

 

 

 既に日が暮れ、薄暗い闇の中で、声の主が大きな老木を見上げて呟いた。

 夢喰らう巫女の末裔は社に刻まれた文字を詠む。

 

 

「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな」

 

 

 すると一瞬、淡い光が老木を包んだがすぐさま弾けて消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「果たして千年の時を超えて再び花を咲かせるのでしょうか。それとも六年前のように一瞬の輝きの内に幻の如く消えてしまうのでしょうか」

 

 

 見上げた先の枯れ木の枝には蕾が付いていた(・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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