素直になれない彼女《ヒロイン》の育てかた   作:アメリカンショコラ

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第二十一話

 

 

 

『なかきよの とおねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな』

 

 

 それは()。回文歌と呼ばれる和歌でも特に有名なものの一つ。

 

 

「どうした?」

 

「あ、はい…….」

 

 

 座敷で小さな巫女服の少女は男に声をかけられ、(うた)に気をとらわれていた事に気がついた。

 

 

「ぬぅ……」

 

 

 男は少女をじっと見つめる。少女はその顔を見て相手が誰でも自分がどんな存在かを思い出した。

 

 

「……まあよい、伯奇よ。私は時綱殿と話してくる。お前はそこで待っていろ」

 

「はい、方相様」

 

 

 そう、少女は伯奇。他人の悪夢を飲む事で厄を払い、占う。それが少女に課された役割だった。

 

 

「今回の儀は京に返り咲く足がかりとなる。心配は要らぬと思うが……分かっているな?」

 

「はい」

 

「では行ってくる」

 

 

 少女は方相氏……父上の背を黙って見送る。少女は座敷に取り残される。

 少女の周りには御簾が囲んでいる。少女は人目に触れられてはいけない。少女は人ではないから、伯奇だから。

 

 

「ぬぬ……里では四つの目を持つ毛むくじゃらの怪物などと言われていたが……この里にそのような化け物を入れるわけにはいかぬ。

 ええい、ままよ!」

 

 

 御簾の奥から意を決した声が聞こえる。そして御簾をめくり、人が入ってくる。

 子どもだ。腰に日本の刀を下げ、烏帽子を被った少年。

 

 

「っ!?」

 

 

 それが感情のない伯奇と中村時貞のファーストコンタクトだった。

 彼の死による感情のない筈の伯奇の嘆きが咲かないはずの桜を咲かせる『千年桜伝説』の伝承を残す事になる。その始まりの物語である。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

『只今より、第⚪︎⚪︎回豊ヶ崎学園文化祭を始めます!』

 

 

 スピーカーから流れる合図に生徒たちの大きな声が上がった。そして校門から生徒会の誘導で一般客もグラウンドに流れ込む。三日間開催される文化祭の1日目が幕を開けた。

 

 

「似合ってるよ草薙くん! カッコいい!」

 

「ほら、草薙君言ってみて」

 

「………お帰りなさいませお嬢様」

 

「きゃああぁぁぁ!!」

 

 

 オレはクラスの女子たちに取り囲まれ、そういう時黄色い声が上がる。

 

「これでクラス優秀店は頂いたも同然ね!」

 

「うん、最初は客引きをしてもらうか迷ったけどこっちにして正解!」

 

「前日に澤村さんのメイド服姿見た時は絶望的だと思ったけど、ウチのクラスも負けてない。いけるよみんな!」

 

 

 クラスの女子の盛り上がりは最高潮に達していた。しかし男子たちはそうでもなく各々好きな事をして待機している。正直オレもそっちに今すぐ行きたかった。

 

 

「ほら、お客きそうだぞお茶菓子の準備をしておいた方がいいんじゃないか?」

 

「ヤバっ……朝の時間帯の子はこっちきて! 打倒澤村さんGクラス! いくよみんな! えいえいおー!」

 

『おー!!』

 

 

 男子たちのやる気のない声をかき消すほど女子たちの掛け声はデカかった。朝の担当はここに残り、それ以外は学園祭を回りに教室を出て行く。

 やっとのことで女子たちから解放されたオレはほっと息を吐く。

 

 

「お疲れさん直宏」

 

「石上か……お前はオレの事労わないと思ってたぞ。直宏ばっかり女子に囲まれやがってって」

 

「流石にアレは同情しちまうって。可愛い子がお前に擦り寄るのは嫉妬するけど別にそうじゃないしな」

 

「…………それ絶対にここで言わない方がいいぞ」

 

 

 

 我がクラスの友人はこちらが清々しくなるほど正直な男だった。

 

 

「お帰りなさいませご主人様!」

 

 

 一方英梨々たちGクラスは大盛況だった。学園祭が開始して30分、既に列は廊下まで伸びており、急遽整理券を用意しなければいけなくなる程には混雑している。

 行列に並ぶ客の目当てはやはり澤村・スペンサー・英梨々。普段のツインテールを下ろしストレートになったことで清楚感の増した彼女のメイド姿を一目見ようと男子生徒や男性客が狭い廊下に押し寄せていた。

 

 

「お待ちのご主人様たちが多くいらっしゃるので、食事を済ませたものは速やかに退室してください!」

 

「こらそこ撮影禁止! 出した食事に手を付けないで居座るのはおやめください!」

 

 

 教室内はてんやわんやしている。メイド達は右往左往忙しなく動き回り、厨房スタッフはあまりにも矢継ぎ早にくる注文に発狂しそうな程頭がこんがらがっていた。

 

 

「ごめんなさいね澤村さん! 見通しが甘かった。まさかここまで繁盛するなんて思わなくて」

 

「ううん。あたしがホールに回して貰ったんだし平気だよ。それよりもそっちの方は大丈夫? 商品の在庫とか」

 

「そっちは早くも今日の分は飲み物以外は無くなりそう。けどそしたらだいぶ余裕が出来ると思う」

 

 

 厨房スタッフから商品を受け取る際に言葉を交わす。

 そんな気を使うやり取りをしながら英梨々は他のことを考えていた。

 

 

(これじゃあ直宏きてくれないよね。折角メイド服姿見てもらおうと張り切ってたのにこれじゃあ意味ないよ)

 

 

「澤村さん、三番テーブルのご主人様に運んで!」

 

「うん、分かった!」

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

「Gクラの状況はどうだった?」

 

「ヤバいよ百合ちゃん、すっごい大行列! ウチの2倍くらいあるよ!」

 

 

 戻ってきたクラスメイトはクラスを取りまとめる女子に偵察の報告をしていた。

 

 

「落ち着きなさい絵奈。流石にあそこまでの繁盛はGクラスも予想外だったでしょう。それにいくらあちらに多くお客様が並ぼうと商品には限りがあり、客を捌ける人数はウチとそう変わらない。だから売り上げにそこまでの差は出来ないわ」

 

「流石百合ちゃん的を射た発言! 冷静沈着クラスのリーダー!」

 

「ふっ、よしなさい絵奈。そう褒められると照れちゃうわ」

 

 

 お前ら何をやってるんだよ。キャラ濃すぎだろと接客をしながら耳にそんな声が入ってきて思わず心の中でツッコむ。

 

 

「その報告じゃ商品が切れるのも時間の問題でしょう。けれどこちらには商品が切れても次のフェイズがある。ふふっ。三日後の後夜祭前の表彰式が楽しみだわ……」

 

「あ、百合ちゃんの悪い顔! 勝機を確信した時に浮かべる表情! これは勝てる!」

 

 

 興味がないと思っていたクラスメイトもこんなにも濃い奴らの集まりだったんだなとオレは驚かされた。

 次のフェイズ。その言葉を聞いて肩が重くなる。今日は昼前までだから大丈夫だが明日は昼からだからそのフェイズをオレが実行しなければならない可能性がある。

 

 

「あのー直宏先輩注文いいですか」

 

「はい、注文は如何しましょうお嬢……旭川?」

 

 

 

 オレは呼び止められて注文を伺うとそのお客は旭川だった。

 

「来年ここ受けようと思ったので見学ついでにきちゃいました。本当は友達と一緒に来る筈だったのですが」

 

「……その友達って河内か?」

 

「はい、後で来たら集まる予定です」

 

 

 オレは旭川の友達の名前を出して、肯定されたことで苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

 

「直宏先輩、今日はいつ空きますか? もしよかったら私たちと一緒に……」

 

「いや、やめとく」

 

「……相変わらず夕実の事苦手なんですか?」

 

「あいつオレに敵意むき出しだからな。痛い思いしたくないし」

 

 

 会うたび会うたび噛みついてくるものだからすっかり河内に対して苦手意識を持っていた。

 

「草薙くーん! いつまで注文手間取ってるの! 早くこっちにきて四番テーブルのお嬢様に注文の品渡してきて!」

 

「ああ悪い! 委員長に呼ばれたから旭川注文をしてもらっていいか?」

 

「あ、はい。じゃあこのルフナミルクティーとミルクジェラートをお願いします」

 

「注文をお伺いしました。じゃあ旭川」

 

 

 オレは委員長の元に向かおうと背を向ける。

 

「あ、先輩!」

 

「なんだ?」

 

 

 すると旭川に呼ばれ振り返って返事をする。

 

「先輩その燕尾服似合ってます。かっこいいですよ」

 

「ああサンキュー」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 慌しい時間は過ぎ、昼からのメンツに交代し、制服に着替えた後、校舎を歩いていた。

 オレは今色んな教室を回ってはその中には入らず歩き回っている。

 その理由は安芸に霞ヶ丘先輩を見つけたら連絡くれとLEINを貰ったから。

 

 

「あ」

 

「おう、英梨々奇遇だな。今日は朝からだったのか?」

 

「うん今日はもうシフト終わった。そっちも?」

 

「ああ」

 

 

 向かいから来た英梨々と鉢合わせ、示し合わせたかのように二人で廊下を歩く。

 

 

「霞ヶ丘詩羽は見つかった?」

 

「いや全然。安芸の方からも捕まえた連絡は来てない」

 

「全く……なんで電話も繋がらないし、メールの返事もしないのよあの女。構ってちゃんもいいところじゃない」

 

「………一応人目が多いんだからそういう態度は取らない方がいいんじゃないか?」

 

「誰もあたし達のことなんか見てないわよ。みんな学園祭の熱に浮かれてるんだから」

 

 

 確かにいつもなら注目されるはずだったが皆気にした様子もなく通り過ぎていく。オレ達の声も喧騒が掻き消していた。

 暫くあてもなく二人で歩いているとポッケの携帯が震え、オレは取り出す。英梨々の方も同時に携帯を取り出した。ロック画面には通知が表示されていて

 

 

『詩羽先輩見つかった』

 

 

 そう短くメッセージが書かれていた。

 

 

「取り敢えず、どっかのクラスの食事処入るか? 腹減った」

 

「そうね。一先ずあたし達は用済みになったし」

 

 

 オレ達はパンフを見て近くの喫茶店に入ることにした。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

「今度こそ読んでくれた?」

 

「ええそれがディレクターとしての役割ですから」

 

「そう……それで倫理君はどっちを選んだの? 初稿? 第二稿?」

 

 

 屋上。ディレクターとシナリオライターが対峙していた。

 詩羽は少し間を開けた後答えを聞く。

 

 

(これで全てが決まる。倫也君(主人公)の選択が瑠璃に……私にチャンスは残されているのか……怖い。聞くのが怖い。けれど私は………)

 

 

 詩羽は倫也の答えをぎゅっと両手を握って待つ。

 詩羽にとって瑠璃は自分だった。瑠璃に自分を投影し、安芸倫也(主人公)に選んでもらうこと。それによって自分にもチャンスがあると、告白する勇気を貰いたかった。

 何をバカなと思うかもしれない。瑠璃は物語のキャラクターで詩羽を選んだ訳ではないというのに。それで自分が選ばれた気になるなんて詩羽自身おかしいと感じた事もある。

 けれどやっぱり瑠璃は自分なのだ。コミュ症で、好きな人へ素直に好意を示せない。そんな面倒くさい自分の代弁者が瑠璃だった。

 

 

沙由佳の時(一度目)は駄目だった。けれど瑠璃(今度)は、今度こそ選んでくれたら私は………)

 

 

 詩羽の決意に倫也はついに口を開いたーーー

 

 

「……どっちも選べない。リテイクだ。クソゲーだよ、これ」

 

 

 全くもって予想外。倫也が原稿用紙を突き出して出した答えは巡璃を選ぶ訳でも瑠璃を選ぶ訳でもない、詩羽にとって見当違いもいいところな答えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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