素直になれない彼女《ヒロイン》の育てかた   作:アメリカンショコラ

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第二十三話

 

 

 

 私は儀式を見ている。伯奇と方相の儀式。

 

 

「これより灘の儀式を執り行なわせていただきます」

 

 

 方相氏の声が響く。いつもと同じように落ち着き払い、威厳に溢れている。

 正面の御簾には当主時綱が横たわっている。最近は何が不安なのか度々父上は灘の儀をすることを方相氏に頼み込んでいた。

 

 

「なかきよの……」

 

 

 方相氏の唄が始まる。伯奇が意識を集中させ、御簾の向こうに横たわる当主時綱を静かに見つめている。

 淡い光が彼女に吸い寄せられる。それから黒い光が浮かび上がり、彼女の中に溶け込む。儀式は終了……そうなるはずだった。

 

 

「っ……ごふっ……けほっ……ごほっ……っ」

 

 

 吸い取った黒いものが彼女の口から溢れ出してしまう。周囲に動揺が走る。私は伯奇殿の元に駆け寄る。

 

 

「……何も心配はありませぬ。今宵の凶夢はちと強力だっただけのこと、灘の儀は全て無事終了致しました」

 

 

 皆がそれを信じた。私も表面上は納得し、人々の足音がなくなった後、私だけは踵を返して方相と伯奇殿の部屋に近づいた。信じていなかった。

 中村家の全員がいなくなった部屋の中、方相は怒りを、殺気を、伯奇殿に向けていた。

 

 

「伯奇……貴様。心を持ったな」

 

「こころ……」

 

 

 ポツリと呟く。

 雲のように、花のように舞う心。

 それが彼女の中に……?

 

 

「……」

 

「何を笑っているか」

 

「私は、笑っているのですか?」

 

「っ!? ええいっ! 今の貴様は使い物にならぬ!」

 

 

 方相が伯奇殿の顔を叩く。小さき身体の伯奇殿は簡単に倒れてしまう。

 

 

「っ」

 

 思わず、飛び出してしまいそうになるのを堪える。今はまだ駄目だ、真相を聞かなければ。

 

 

「貴様を幽閉する。夢惹きの力が戻らねば、心を持ったことを後悔することになるだろう」

 

 

 そう吐き捨て方相は去っていった。

 

 

 場面は変わり、月明かりのない夜道を走っていた。ゆらゆらと揺れる松明が見える。

 

 

「居たか?」

 

「こちらにはいない」

 

「もっとよく探せ。でなければ方相様に何されるか分からんぞ!」

 

 

 私は逃げる。伯奇殿を背負って。私は夜中伯奇殿を背負って屋敷から抜け出した。

 伯奇殿は拒否しなかった。それが何より嬉しい。だから私は頑張れる。

 

 

「もう、大丈夫です。私は大丈夫ですから降ろしてください」

 

「何が大丈夫なものか! 今のあなたは自分で立つことすらままらぬではないか!」

 

「それは……」

 

 

 父上の凶夢を吐き出したあの日、伯奇殿は方相に幽閉された。

 幽閉されたものの、伯奇以上に優秀な巫女はおらず、すぐに灘の儀式へ引き戻された。

 父上の凶夢それを浮かべ、引き寄せる。けれど夢惹きの巫女は吸収出来なかった。一粒たりとも。

 それは多分、心を持ったから。心を持った故に今まで飲み込んできた凶夢に苦しむ事になる。

 精神は身体も蝕む。日に日に伯奇殿の身体は衰弱していき、喋るのもやっと。

 このままではいけない。方相の元にいたままにしておけない。そう思って……

 

 

「いたぞっこっちだ!」

 

「逃すなッ!」

 

 

 私は慌てて駆け出すが多勢に無勢。すぐに追い詰められてしまう。一際巨大な老木を背に、追って達を睨む。

 

 

「……これは驚いた。伯奇がどうして心を持ったのか不思議でならなかったが、そうか。男……それも中村家の男とは」

 

 

 家臣達を掻き分け、方相が姿を現す。

 

「……」

 

「伯奇を返して頂こう」

 

「断る」

 

「くだらんな、殺せ」

 

 

 方相の家臣達が命令を受け、刀を抜刀し襲い掛かる。私は襲い掛かる武士を斬り伏せた。しかし……私の体に無数の弓矢が突き刺さっていた。

 

 

「っ!?」

 

 

 悲痛な叫びは私の背から。私は無数の矢を受けたまま方相の方は駆け抜ける。

 痛みはない、けれど身体から不気味な音が鳴った。

 

 

「やれ」

 

 

 第三射が方相の命で放たれる。

 

 

「………やめて!!」

 

「は、伯奇っ」

 

 

 弓矢が放たれる直前に彼女は地面を蹴った。私は伯奇を庇う。

 

 

「っ!? な、なぜ……!」

 

「何故……と言われましても……愛する女性を守るのは……当然でしょう……」

 

 

 瞼が重い。目が霞む。伯奇の顔がよく見えない。

 

 

「けれど……不甲斐ない……」

 

「っ……そんなことはありませぬ! 時綱様は……!」

 

「伯奇……は今笑っておられるか……?」

 

「はいっ……! 今私は笑っています……!」

 

「それは……良かった……それではもう人形などと間違えることも……ありませぬな……」

 

 

 嘘だ。伯奇は泣いているそれが分かる。けれど彼女は偽った。だから女の強さに敬意を払い騙されることにします。

 伯奇……私の愛する女性よ……

 

「……伯奇……生きて………」

 

 

 そこで私の意識は消えていく。その直前ーーー一面の桜色が目を覆ったのを最後に完全にこと切れた。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 学園祭三日目、最終日。朝のシフトを済ませ、昨日一昨日とあらかた出し物もやり尽くしあてもなく彷徨いながら午後3時。

 辿り着いたのは2-Gクラス。三日目もあって1日目と二日目と比べると客足は緩やかになっているようだった。

 まあこれなら並んでもいいか。列の一番後ろに並んで待つ。

 

 

「おかえりさないませご主人様!ーーー!?」

 

「おう、英梨々暇だから寄って……おい!」

 

 

 迎え入れてくれたのは英梨々だった。けれどオレの顔を見た瞬間、離れていってしまう。

 

 

「ごめんなさいご主人様。彼女に代わって私がご案内させていただきますね」

 

「ああ……」

 

 

 代わりのメイドがすぐに駆けつけ、席へ案内する。

 席は案内されてから商品が届くまでの間、英梨々は頑なにオレの席に近づくことがなかった。

 ………オレなんか英梨々に避けられてるのか? 何故?

 

 

 オレはしばらく届いたベリータルトを食べながら英梨々の姿を目で追う。

 ……似合ってるなメイド服。髪下ろしてるからかツインテールによる幼さがなりを潜め、大人びて見える。ジャージ姿の髪を整えていない時とは雲泥の差だ。

 英梨々が振り返り、目が合ってしまった。英梨々はすぐに顔を伏せてそそくさ裏方に引っ込んでいってしまう。

 ショックだ。そう思ってしまうことにオレは驚いた。

 

 

 それからしばらく2-Gでぼうっと店内を見ているとーーー

 

 

A blueberry tart,(ブルーベリータルトと)tea-flavou chiffon cake,(紅茶風味のシフォンケーキ、)and a cup of tea with milk,please.(それとミルクティーをお願いします)

 

「………」

 

 

 外国人女性客がメイドに英語で注文していた。

 黒髪短髪のメイドは愛想笑いをしている。聞き取れなかったんだろう。外人が話す外国語は早口呪文みたいに聞こえるからな、進学校なのに……とは思うまい。

 

 

I’d also like three pieces of apple pie(アップルパイをスリーピースと),strawberry mille-feuille(ストロベリーミルフィーユと) and custard pudding to go.(プリンをお持ち帰りで)

 

「は…はは…」

 

Oh, how long does the pudding keep?(あ、プリンはどのくらい日持ちします?)My friend’s home is a little far.(友達の家が遠いので)

 

「あ、あは、あはははは…じゃすたも〜めんとぉ!」

 

 

 いや、そこまでのサービスを学生喫茶にさせんなよと思ったがメイドはお待ちくださいと裏に引っ込む。

 そして今度は違うメイドが出てきた。英語が得意なやつか……?

 

 

As I said earlier(さっきも言ったけど), A blueberry tart,tea-flavou chiffon cake,and a cup of tea with milk,please.」

 

「……」

 

Later I’ll order cakes to go(後にケーキも注文します) . Please bring me my first order right away(最初に注文したの早く持ってきてください).」

 

「うぇいとぷり〜ず!」

 

Hey, hey! Wait!(ちょっと、ちょっと! 待ちなさい!)

 

 

 ダメだった。どうやら前のメイドに押し付けられただけらしい。今度も逃げ帰っていく。

 そして……

 

 

「ちょっと二人とも、押し出さないでよ!?」

 

How many times have I told you?(私に何回同じこと言わせる気なの?) A blueberry tart,tea-flavou chiffon cake,and a cup of tea with milk,please!」

 

 

 外国人は少しキレていた。

 後ろの二人に送り出された英梨々は外国人の前に立つ。頼むぞお前が最後の砦だ。

 

 

「………あ、あはは……」

 

 

 いやお前も分からないのかよ! いかにも話せそうな見た目してる癖に! イギリス人とのハーフ設定どこ行った!? 確かにお前と勉強の話をした事なかったけども! 偏見だとは分かってる。けれどそう心の中でツッコまざるを得ない。

 

 

Can you hear me?(私の声聞こえてる?) A blueberry tart,tea-flavou chiffon cake,and a cup of tea with milk,please!」

 

 

 語気が強い、キレかけてる証拠だ。

 英梨々はあたふたしている………仕方ないとオレは立ち上がった。

 

 

I’m very sorry(大変申し訳ございません) I will serve the cakes and drink right away(すぐにケーキと紅茶をお持ちいたします!)

 

「あ……」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 英梨々side

 

 

 うう……顔を合わせずらいよぉ……

 

 

 あたしは昨日のことを思うと直宏の顔を見れなかった。だから教室へ向かえたときに逃げてしまった。

 直宏があたしを見ている。それにソワソワして仕事に身が入らない。振り返ったときに目が合った時なんて危うく床につまづいて転ぶところだった。

 あたしは食器を下げに裏に戻る。

 

 

「澤村さ〜ん!」

 

「お願いがあるんだけど!」

 

 

 あたしと同じくホール担当の子達が切羽詰まったように駆け寄ってきた。

 

 

「どうしたの?」

 

「あっちのお客さんが何注文してるか分からないの!」

 

 

 あたしは指さされた先を見る。そこには外国人らしき女性が座っていた。

 

 

「澤村さんイギリス人とのハーフだし英語いけるでしょ?」

 

「お願い澤村さん、私たちじゃ荷が重たくて無理なの!」

 

 

 こっちだって無理よ! こちとら英語の成績赤ギリギリなのよ!? 

 

 

「ちょっと押さないで……!」

 

「How many times have I told you? A blueberry tart,tea-flavou chiffon cake,and a cup of tea with milk,please!」

 

 

 あたしは二人に背を押されて客の前に出ると、英語で何かを話した。

 ダメ全然何言ってるか分からない! けど怒ってるのは分かる。

 

 

 どうしよう、どうしよう!? 

 

 

 あたしはパニック状態になっているとぽんと肩を叩かれた。あたしが振り返る前に肩を叩いた人物が隣に立って………

 

 

「I’m very sorry I will serve the cakes and drink right away」

 

「あ……」

 

 

 対応してくれる。その正体は直宏だった。

 それがヒロインのピンチに駆けつけるヒーロのようで……ずるいなぁと思ってしまう。

 

 

「英梨々ブルーベリータルトと紅茶風味のシフォンケーキ、ミルクティーだ。持ってこれるな?」

 

「え、あ……分かった」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「残念だったわね表彰されなくて」

 

「委員長項垂れる程その場で悔しがってたからな」

 

 

 後夜祭。キャンプファイヤーの周りを多くの男女がフォークダンスで回っている

 直宏と英梨々もその中の一人だった。

 

 

 表彰式。一般客が入れる時間が終わり、放送で呼ばれたクラスと部活だけが体育館に集まる。全校生徒を集めるには狭すぎるからだ。

 

 

『最優秀賞は3-Aクラスです!』

 

 

「んなバカな!?」

 

 

 委員長である百合は結果を聞いてあり得ないと叫んだ後、両手両膝ついて項垂れる。

 

 

「まあ、稼ぎだけで優秀賞取れるわけじゃないからねぇ〜演劇とかお化け屋敷とかお金取らない出し物もいっぱいあるし」

 

「だとしても学年ごとの賞は取れなきゃおかしいでしょ!」

 

「んーまあそうだねー。お金云々除いても話題性バッチリあったし」

 

「……私、抗議行ってくる」

 

「やめとけって委員長みっともない」

 

 

 クラスで片付けをしていた中各賞を受賞したクラスや部活の中に2-Bはいなかった。百合はクラスみんなの引き止めも聞かずに教室から飛び出そうとする。

 

 

『それと2-Bクラスのクラス委員長は至急職員室に来てください。繰り返しますーーー」

 

「ちょうど良かったわ! 行ってくる!」

 

 

 十分後戻ってきた百合はクラスのみんなに告げた。

 

 

 

 

「クラス全員一週間の謹慎だもんなぁ」

 

「当たり前よ、あんなの途中で止められなかったことさえ不思議だったんだから」

 

「お陰で打ち上げが一週間後になった」

 

 

 そう残念そうな言葉だったが声は楽しそうだった。

 

 

「でも委員長を責めてる奴なんて一人もいなかった。それどころかみんな笑ってたんだぜ? 仕方ないかーって。あんまりクラスに目を向けてなかったがいい奴らだった」

 

「そうなんだ」

 

「オレは謹慎自体より蘭にその事伝えた時の反応が怖くてしかたない」

 

「そうね……夏樹先生厳しそうだし」

 

「昨日一緒に執事やってた山本が自分の彼女に対する言動がイケメンで……」

 

 

 今まで関わりをあまり持たなかったクラスメイトの話を直宏は英梨々に聞かせながら曲に合わせて踊る。

 

「それで……」

 

「直宏……クラスのこと話すのもいいけどこっちに集中してよ」

 

「あ、ああ……悪い」

 

 

 英梨々に話しかけているが英梨々の事はそっちのけで話す直宏を咎めるように、拗ねるように、そして甘えるように上目遣いで英梨々は見上げた。

 

 

「……まったくもう」

 

「だから悪いって」

 

「許さない」

 

「どうしたらいいんだよ……」

 

「だからーーー」

 

 

 フォークダンスも終盤、直宏と英梨々は向き合った。そしてーーー

 

 

 ちゅっ。

 

 

(………え?)

 

 

 英梨々が直宏の頬にキスをした。触れ合いも一瞬で直宏の顔から離れる英梨々。

 

 

「え……?」

 

「こ、これはあくまでお礼だから……さっき助けてくれたお礼……」

 

「あ、ああ………」

 

 

 そういった英梨々の顔は赤みを帯びていて、それがキャンプファイヤーの熱によるものなのか、キスしたことによる恥ずかしさからくる照れだったのか、それとも別の意味を含んでいるのか直宏には英梨々の真意は読み取れなかった。

 

 

ーーーーーー

 

 

「あなたならそんな根暗なヒロインを魅力的にする事が出来る」

 

「どうすればいいんですか?」

 

 

 私はキャンプファイヤー最中、屋上で加藤さんに瑠璃を輝かせる方法を教える。

 加藤さんは屋上を去っていった。これでもう………私の役割はおしまい。これで私のーーーも。そう思うとーーー

 

 

「ーーーお疲れ様でした」 

 

「ーーー音願さん? どうしてここに……というかよくバレなかったわね?」

 

「隠れるのは得意ですから」

 

 

 夏樹音願さん。この私を持ってしても心情を読み取りづらい、何を考えているのか分かりにくい不思議な女の子はどこに潜んでいたのだろうか。

 

 

「わざわざあちらではなくこっちに何をしに来たの?」

 

 

 フェンス越しから見下ろした先には澤村さんと草薙君がフォークダンスをしていた。音願さんは多分草薙君の事が好きだから邪魔しに行くとばかり思っていたのだけど。

 

 

「そんなのは泣いていた友達を慰めることに比べれば些細な事です」

 

「私は泣いてなんかーーー」

 

「ーーー泣いていました。倫也の家のお風呂で泣いてました」

 

「!?」

 

 

 いないと言い切る前に私しか知らないことを言い当てられて驚愕する。

 

 

「な、なんで……」

 

「わたしがそういう存在だからです。詩羽の記憶()がわたしに流れて来た……けれど今はそんなことどうでもよくて……」

 

「あーーー」

 

 

 私の疑念を遮るように頭を優しくぽんぽんと撫でられる。

 そこで私の中の何かが決壊して嗚咽の声が漏れてーーー

 

 

「………っ」

 

 

 決して包容力が無さそうなはずなのになんでも受け入れてくれる器が彼女にはあって……私はもう限界だった。

 私はみっともなく全てを曝け出すように大声で泣いたのだった。

 

 

「ごめんなさいみっともない姿を晒しちゃって」

 

「いえ、やっぱり詩羽を選んで間違いなかったと確信できたので気にしていません」

 

 

 数分後泣き止んだ私は音願さんに謝る。

 

 

「………どういう意味?」

 

「あなたがとっても純粋だったからです」

 

「私が純粋? 私は自分で言うのもなんだけどひねくれ者よ?」

 

「いいえ。詩羽は純粋ですよ。誰よりも大切な人を想っているし、それを遠回しに伝えようとするウブなところがある。

 そんなあなただからこそ願いを叶える権利がある」

 

「何を言ってーーー」

 

「詩羽。あなたのその想い、一度きりの奇跡に託してみる気はありませんか?」

 

 

 そういった彼女はこの世ならざる存在だと想ってしまうほど幻想的でーーー彼女の首にかけられた鈴が妖しく光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 パルフェで一番笑ったかもしれないシーン。


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