素直になれない彼女《ヒロイン》の育てかた   作:アメリカンショコラ

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第二十五話

 

 

 

 謹慎が解け学校に登校中、オレは英雄だった。

 

「きゃー、あの人よ、あの人が草薙直宏!」

 

「すごい。すごいカッコいいじゃん!」

 

「見た見た、テレビ出てたよね。マスコミのあしらい方とかいかにも有名人って感じだったよね」

 

「孤高の天才って感じ」

 

 

 色眼鏡で見られる。特に女子。

 フリードマンにオレが草薙純一郎の贋作を作ったことがコレクターとある実業家との取引の際にバレたことを伝えられ、翌日オレとフリードマン……というかムーア財団と共に記者会見をした。と言っても殆どの質問の返答や弁明をフリードマンがしてくれたから問題はなかった。

 フリードマンの奴、自分達は遺産と言ったが世間が記者や世間が勝手に勘違いして遺作扱いしたとか、贋作だと見抜けない鑑定士なのが問題だとか平気な顔していうものだからマスコミ連中もあまりに勝手な物言いに文句を挟めず困惑してたぞ。どんだけ面の皮が厚いんだ。

 

 

 それで贋作の件や詐欺まがいの後ろ暗い系の話題はそれほど問題にはならなかったのだがーーー

 

 

「草薙くんってテレビで見た時よりカッコいいね!」

 

「トレンド一位になってたよね? 凄いよね〜!」

 

「なんか凄い絵を描いたんですよね、尊敬します!」

 

 

 何をどう凄いのかも分からん癖に話題性だけで囲んできやがって。これだからミーハーは……

 オレを囲んで話しかけてくる女子に苛立つ。けれど悪気のある感じではないので邪険に扱う訳にもいかず、居心地の悪いまま先に進んでいると……

 

 

「な〜お〜ひ〜ろ〜!!!」

 

「え、英梨々?」

 

 

 女子どもの輪を割ってきて突撃してきた英梨々に後ろから抱きつかれる。

 

 

「澤村先輩!?」

 

「澤村さん!?」

 

 

 豊ヶ崎の制服をきた女子生徒たちは英梨々の取った行動に驚き、困惑してた立ち尽くす。

 

 

「なんなのよあんた突然割ってきて!」

 

「そうよそうよ!」

 

 

 豊ヶ崎以外の他校生は英梨々に突っかかった。それに対して英梨々は振り返ってーーー

 

 

「直宏はね、あんた達みたいなミーハーが大っ嫌いなの。それに通行の邪魔だっていうのが分からないの? ちょっとは他人の迷惑考えなさいよ自己中さんたち」

 

「な!?」

 

「何様よあんた!」

 

「そっちこそ何様よ。あたしの恋人にちょっかいかけてないでさっさと自分達の学校に登校しなさいよ。しっしっ」

 

「お、おい英梨々……」

 

 

 恋人云々はこの場を切り上げる為にやってくれている事は分かるんだが……お前、オレが謹慎している間何があった? 崩れかけてたとはいえ、仮面優等生はどうしたんだよ。

 

 

「なんなのこいつ」

 

「もう、いこーよ……」

 

 

 他校生は英梨々に手で払われてこの場から立ち去る。本校生の方もーーー

 

 

「あなたたちも」

 

「は、はい!?」

 

「分かりましたああああ〜!」

 

 

 英梨々はにっこり笑顔を女子たちへ向けると逃げるように学校の方に散っていった。笑顔って元々威嚇の意味があるというが、まさしくそれだった。

 遠目で見られることはあっても近寄ってくる人間は居なくなった。

 

 

「助かった……けどいいのかよ?」

 

「いいのかって何が?」

 

「お前が今まで積み重ねてきたこと無駄になったぞ?」

 

「とっくにあんたが謹慎してる時から壊れてたわよ。でも不思議なことにね石巻さんとか里見さんとか結構多くの人がね何にも変わらなかった。気にしすぎてたのよ。勘違いする人は増えたけどね」

 

 

 オレが委員長に口止めするまでもなく、英梨々の本当の姿は広まっていったらしい。前までの高嶺の花感が薄れて告白されることが増えたと英梨々はため息を吐く。

 

 

「自称イケメン勘違い君をこっぴどく振った時なんか色んな女の子たちがあたしに感謝してくれたのよ? 今まで散々そいつに女の子達が泣かされてきたらしいからスッキリしたんだって」

 

「英梨々、英雄じゃん」

 

「それもこれも直宏のおかげ。直宏に出会ってから全部がいい方向に進んで本当に感謝してる」

 

「そんなことない。オレの方こそ英梨々に……」

 

「あたしが……なに?」

 

「いや、なんでもない」

 

「何よ、言ってよ水臭いわね」

 

 

 

 言えるわけねえよ恥ずかしくて。オレの方こそ英梨々に出会って良かったなんてさ。

 

 

「うす」

 

 

 英梨々と別れてクラスに入ると一斉に視線がこちらに向く。

 せっかく学園祭を経て一体感が生まれたってのに。これじゃ前と逆戻りだなとオレは自分の席に座る。

 

 

「おーい、直宏」

 

「なんだよ石上。ニュースで流れてる以上のことは何もーーー」

 

「いやそうじゃなくて打ち上げはどうする? 色々疲れてるだろうし後日に回すか?」

 

「………いやオレの一存でそんな事決められないだろ」

 

「クラスみんなの総意だから良いんだよ。直宏の都合にみんな合わせるってさ」

 

「………」

 

 

 

 オレは周りを見渡すと、皆んなが頷いていた。オレが逆戻りをしていると思ったのは勘違いだったらしい。

 

 

「いつ収まるかも分からんし、今日行くわ」

 

「だってさみんな! 直宏今日でいいって!」

 

 

 石上が言うとクラスの皆んなのざわめきは大きくなる。

 本当にオレの周りの世界ってのはオレが思うより優しいんだなと心の底から思うのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「今日からしばらくの間草薙がサークルに参加出来ないって」

 

「仕方ないわよ。外はマスコミに張られてるし、校内は有象無象達が視聴覚室についてくる可能性もあるし、ゲーム作りも佳境のサークルに迷惑かけたくないって直宏が言ったんだもの」

 

「音願の方も暫くホテルをハシゴして家の方には近づかないらしいわ。まあ当然よね」

 

「今一番ホットな草薙くんと人気女優の夏樹さんが一緒に住んでるなんて知られるなんてマスコミの格好の的だもんね」

 

 

 放課後視聴覚室では直宏を除いたサークルメンバーがミーティングが行われていた。

 

 

「収録の方はどうするの?」

 

「三日後にレコーディングスタジオ借りられたからそこで収録するよ。後はーーー」

 

「分かってる。今週中に全部描き上げるわ」

 

「そうか!」

 

「色々問題は起きたけど、冬コミに間に合いそうだね」

 

「そんな事言うとフラグが立ちそうで怖いわよね」

 

「……そういう不安を煽る事言わないでよ詩羽先輩………」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「らにら学校におけるふてきせつな営業よ!? わらしはただ癒しをお届けしたかっただけ! なのにあの教頭ときたらーーー」

 

「…………酒飲んだわけじゃねえよな?」

 

「当たり前だろ俺たち学生だぜ? 委員長のは雰囲気酔いだ」

 

 

 ……学園祭からもう一週間も経つというのに委員長の恨みは相当だな。

 オレ達は打ち上げ会場の焼肉食べ放題の店まで来ていた。打ち上げから一時間が経過して随分と盛り上がり出来上がっている。

 

 

 

「草薙くんちょっとこっち来て!」

 

「草薙君、こっちこっち!」

 

 

 遠くの席からオレを呼ぶ声が聞こえる。オレは立ち上がって確認すると女子だけのグループの席から、黒髪ショートの川西とくせっ毛茶髪ウェーブの上田が手招きしているようだ。

 

 

「どうした」

 

「とりあえずこっち座って聞きたいことあるから」

 

 

 上田が隣に座ってと言わんばかりに席の奥に寄り、取り敢えずオレは座る。

 

 

「草薙くんって澤村さんと付き合ってるの?」

 

「……どうした急に」

 

「だってこんな時でもないと聞けないしさー!」

 

「うんうん、テンション上がってないと聞けないよねー」

 

「いや付き合ってないが……」

 

「そうなの? なんか澤村さんが草薙君の彼女名乗ったって小耳に挟んだんだけど」

 

「ああそれか……」

 

 

 英梨々が女子に囲まれたオレを助ける為に彼女名乗って撃退してくれたことを話す。

 

「じゃあ草薙くん、澤村さんのことどう思ってるの?」

 

「オレが英梨々をどう思ってるって……」

 

 

 オレは冷静を装いつつも、心の中では動揺が走っていた。

 今まで考えないようにしていたことを不意に突かれて、咄嗟に友達だって答えが返せなかった。

 

 

「……草薙くん? どうしたの?」

 

「………肉、焦げてるぞ」

 

「やばっ!? 紗夜早く、トングトング!」

 

 

 

 オレは答えをはぐらかすように網を指差してその場から退散する。

 夜風に当たりたくて、店の外に出る。

 

 

「ホントどう思ってるんだろうなオレ……」

 

 

 ていうか仮にオレが英梨々に友達以上の感情持ってるとしてそれがなんだと言うんだ。好きなやつがいるやつを好きになるなんて、そんな必敗で(あだ)な事してどうするってんだよ。

 大体初恋もろくに終わらせてない拗らせ男がそう言う感情をあいつに向けるのは不義理というものだろう。

 

 

『ひろくん……! ひろくん……! お母さんが……ッ!? お母さんがああぁぁぁッッッ!!!』

 

 

 思い出すのは燃え盛る業火。別れの挨拶もないまま離れ離れになって、何度も送られてきた手紙を無視して返事をしなかった幼馴染で初恋の相手のことだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 英梨々side

 

 

 遅れに遅れたシナリオも脱稿し、作業が後ろにずれたにも関わらずあたしの方は予定通りに進んでいた。

 最近のあたしは自分で言うのもなんだが随分と調子がいい。自分が思い描く通りにイラストが描ける。かと言って説明できない感覚で動く訳じゃない。理論で導かれた結果を瞬時に反映出来るようになったことで、見かけ上感覚で描いているように見えるだけ。

 

 

 今週も後二日。原画十一枚をあたしは怒涛の勢いで描き上げた。

 そして色塗りも月曜の朝には終わった。

 柏木えりの最高傑作、絶対の自信を持ってそう言える。特にグランドルート七枚のスチルは誰にも負けない自負がある。

 それをデータ化する気力は今はなかった。けれどサークルのみんなに見せたいが為、ファイルに入れて鞄の中へ。

 

 

 直宏、喜んでくれるかな? あんたの教え子はこんなに成長して、こんなに凄いイラストを描けるようになったんだって思ってくれるかな? 神イラストレーターに、直宏が嫉妬してしまう芸術家に一歩でも近づけたかな?

 そしてゲームが完成して冬コミが終わったらあたしは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後の7枚は論外。その前の3枚……いや4枚、計11枚の描き直し、リテイクだ」

 

 

 

 

 一番認めて欲しい人にあたしの描いたイラストを否定されることになるなんて夢にも思わず、あたしの心が理解するのを拒否していた。

 直宏のあたしを見る目が随分と無機質で冷たい。それが本当に思ったことを言っていると確かに伝えていてーーー

 

 

 

 

 

 

 ーーーあたしの中の何かがぱりんとひび割れる。そんな音が、確かに、聞こえた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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