素直になれない彼女《ヒロイン》の育てかた   作:アメリカンショコラ

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第二十七話

 

 

 英梨々side

 

 

「う……うぅん……」

 

 

 あたしは目を覚ます。いつの間にかベットで寝ていたようで、布団から上半身を出して半覚醒状態で時計を見た。

 7時50分……12月〇〇日月曜日………月曜日!?

 あたしは必死に昨日の事を思い出す。

 

 

「あたし直宏に電話かけて、そこで力尽きて……何も用件言ってない! それに確認とってからだったからデータ化もしてない!? は、早くスキャナーで取り込んで倫也に送らなきゃ……!」

 

「ふぎゅっ!?」

 

 

 あたしは慌ててベットから降りる時、何かを踏んづける。人が呻くような音に反応して下を見ると……その正体は頭を踏んづけられて悶える倫也だった。

 

 

「お医者様はなんて言ってたの?」

 

「ただの過労による疲れだってさ。熱も一時的なものだって」

 

「そう……身体を鍛えたお陰かしらね、倒れるのが絵を完成させる前じゃなくてよかったわ」

 

「そうだな……」

 

 

 倫也が言うには、返事がなかったあたしを心配して家まで駆けつけて倒れるわたしをベットに運んで医者を呼んだらしい。それから直宏が倫也を呼んでスキャナーでパソコンに取り込んだのでなんとかゲームはプレス工場の納期までには完成出来ると倫也は言った。

 よかったぁ……みんなの苦労が水の泡にならずに済んで本当によかったぁ………

 戦犯にならずに済むとあたしは心の底から安堵する。

 

 

「その……直宏は?」

 

「草薙なら用事が出来たって英梨々におかゆを作った後に帰っちまったよ」

 

「何か言ってた? あたしの絵に対して」

 

「いや……ただ一言俺にデータ化を頼むって」

 

「そっか……」

 

「感想くらいあっていいよな。英梨々に苦労を強いておいてデータ化頼むって他に何か伝言ないのかよ」

 

「いいの……それが何よりの答えなんだから」

 

 

 倫也は不満げだったけど、あたしはその答えで十分だった。

 

 

「おかゆ食べるか?」

 

「うん、食べる」

 

 

 直宏が作ったおかゆは美味しくて、涙が出そうになるくらい熱かった。

 

 

「あたしね、倫也に謝らなくちゃならないことがあるの」

 

「なんだよ藪から棒に」

 

 

 おかゆを食べた後、なんとなくリトラブを倫也と二人でプレイしていた。コントローラーは倫也で、あたしはその横でプレイ画面を見る。

 幼馴染のセルビスルートの中盤ラスト、主人公がセルビスにクリスマスプレゼントを渡すシーンで倫也の手が止まる。

 

 

「八年前、倫くんのこと裏切ってごめんね」

 

「………ッ、今更すぎるよ……」

 

「そう、だよね。ほんと、なんであたしすぐに謝らなかったんだろう……そうしたらーーー」

 

 

 あたし達はあの時のまま、疎遠になる事なくずっと仲良しでいられた。倫也を傷つけたくないなんて最もらしい言い訳考えてないで、一緒に傷つき合えば今頃あたし達はーーー

 

 

「あたし、十年前から倫也のこと好きだった。倫也はどう? ……十年前、あたしの事好きだった?」

 

「……ッ」

 

 

 テレビ画面のどのプレゼントを選ぶかの選択肢のカーソルが一瞬指輪に移動する。けれど倫也が選んだのはブローチだった。

 

 

「そっか……」

 

 

 指輪を選ぶとセルビスがプロポーズをしてくれる。それはもう決定的な愛の告白。でもそうならなかったことが何よりの答え。

 

 

「あたし直宏のことが好き、大好き。でも直宏はあたしが倫也の事を好きだって思ってる。だから倫也、あたしにキッカケをください。あたしの初恋に区切りをつけたいです」

 

「うん……」

 

 

 酷い事をさせるなんて言い訳はしない。あたしがしたいこと、倫也に言う最後の我儘、あたしのエゴに倫也は頷いた。

 

 

「あたし倫也の事が好きです。付き合って下さい」

 

「ーーー他に好きな人がいる奴なんかとは付き合えない。俺はオタクで処女厨なんだ、俺を好きでいてくれないヒロインを選べない」

 

「ーーーありがとう」

 

 

 

 走馬灯のように昔の事が駆け巡る。けれどそれをあたしは振り払って倫也が振ってくれたことに最大の感謝を込めて頭を下げた。涙は出てこなかった。

 

 

 冬コミが始まり、冬休みも空けて一ヶ月。直宏と顔を合わせることは無かった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 コミックマーケット〇〇三日目、サークル『bressing software』の面々は壁配置で準備をしていた。

 壁に英梨々の描いたゲーム内のイベントCGを印刷したポスターを貼り、幾つもの段ボールの中から机における分だけ置く。そうして準備が完了する。

 既にツウィッターではサークルメンバーの美少女達に対する呟きで持ちきりだった。

 

 

「まさか音願までがくるとは思わなかったけど」

 

「直宏がここのところ土蔵にこもって出てきませんからね、その代わりです」

 

 

 言えば直宏はスマホの電源を切り、土蔵にも内側から鍵をかけて完全に外界を遮断しているらしい。サークル活動にも参加せず、殆どの時間を蔵で過ごしていた。そのお陰で食事が出来合いの惣菜やチャーハンばかりだと音願は表情には出ていないが嘆いているようだった。

 

 

「それに声優月宮しずく、初の晴れ舞台でもありますから見届けようかと」

 

「体験版出した時点でとっくに月宮しずくがあの葛乃姫こころの別名義だって特定されちゃったけどね〜」

 

「葛乃姫こころとは声質を変えたつもりでしたが特定厨とは恐ろしい者です。だからこそこんなこてこての変装をする羽目になりました」

 

 

 体験版を出して、プレイした内の一人がこれ葛乃姫こころじゃねと呟かれ、それが拡散されてからはお祭り騒ぎだった。今年の冬の参加者にはオタクとは全く関係ない葛乃姫こころのファンも紛れていた。

 音願は黒のサングラスにマスク、黒のウィッグまで付けてバレないようにしている。そんな逆に注目が集まるだろうという格好もこのコミックマーケットにおいてはそんな目立つ格好ではない。そこかしこでアニメやゲームのキャラの格好をしたコスプレイヤーや売り子に目がいくからだった。

 それならそのままでもいいだろうとなるかもしれないが葛乃姫こころだけを目当てにしたファンがいる為そうはいかなかった。

 

 

「それにしても……」

 

 

 詩羽は椅子に座ったまま首を回して振り返り、英梨々の描いたポスターをうっとりとした表情で見上げる。前に放課後に見たイラストも確かに良かったが、今の絵柄の方が詩羽にはしっくり来ていた。詩羽が柏木えりのイラストを見た時の最初の衝撃。その作風の超強化正当進化の今の方が詩羽は好きだ。

 そんな詩羽が見つめる先のイラストを描いた英梨々はというとーーー

 

 

「久しぶり、一月ぶりね旭川さな、波島出海」

 

「澤村せんぱ……柏木えり先生」

 

 

 シャッター前サークル『rouge en rouge』のスペース横の非常口扉で原画、グラフィッカーコンビの二人と対峙していた。

 それから3人は何も言わず、されど以心伝心しているかのように互いのROMを交換する。

 

 

「どうですか? 出来の方は」

 

「プレイしたら分かるわ」

 

「凄い自信があるようですね」

 

「そっちは?」

 

「ええそれはもう完璧ですよ? 体験版とは比べものにならないくらいには」

 

「あたしだって体験版のCGのままとは思わないことね。もしかしたらそっちのこころ折っちゃうかも」

 

「ふふ……」

 

「あはは……」

 

 

 英梨々と出海がバチバチの中、まるで自分は関係していないかのようにキョロキョロと『bressing software』のブースを中心に目を光らせていた。

 

 

「澤村先輩、直宏先輩はどうしました? 席を外しているようですが」

 

「今日は来てないわ」

 

「そうですか……来るなら挨拶しに行きたかったのですが」

 

 

 さなは残念そうに言う。絵師としての宣戦布告もそうだが英梨々はさなにもう一つの宣戦布告をしに『rouge en rouge』に訪れたことを思い出してさなの前に出て、耳打ちする。

 

 

「あたし、負けないから。画家としても、恋にしても(もう一つの方にしても)。勝負よさな(・・)

 

「……! そう言うことなら。喜んでお受けします英梨々(・・・)先輩」

 

 

 それは互いに敵対するライバルでありながら同じ方向に向き合う戦友の側面がある相手を互いに認め合っていることの証左だった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 ぶるっ。う、なんだか寒気が。やっぱ暖房ないからいくら着込んでも寒いのは寒いな。コーヒー買いに行くか。

 オレは蔵を出て近くの自販機でコーヒを買う。

 もうすぐ今年も終わる。なんとかあの日までにはやり遂げ無ければならないが一向に目処が立っていない。

 不可能を可能にするにはまだまだ足りない。けれど少しずつ、少しずつだが希望は見えてきた。

 英梨々は成し遂げたのだ、ならばオレも成し遂げなければならない。

 それが押し付けた者の責任。後は他人には強情でちっぽけかもしれないプライドって奴だ。

 

 

 直宏が居なくなった蔵の中は無数の紙屑がそこら中に散らばっていた。

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 ???side

 

 

 

「久しぶりだなこっちに戻ってくるの」

 

 

 丘の上で私は呟く。見下ろした街の風景はあの頃と全く変わっていない。懐かしい風景と共に色々な思い出が蘇る。

 

 

「あなたは私との再会を望んでないかもしれないけど、それでも私は戻ると決めたから」

 

 

 戻りたいと言った時、お父さんは渋い顔をしたけれど許してくれた。今日は契約した賃貸の下見をするための一時的な帰郷だけど、もうすぐ手続きは完了してこの町に住める。

 手紙のやりとりが断絶して6年、私は彼に嫌われたんじゃないかと思って、いくら引越しで遠くなったと言えど、会いに行こうと思えば会えたのに確かめるのが怖くて、今の今まで会いに行けなかった。

 けれど私は彼に会いたいという衝動は抑えきれなかった。お父さんが言うには彼は豊ヶ崎学園という進学校に通っているらしい。彼と進学校、慣れない響きだ。彼は世捨て人的な雰囲気があるから。そういうところが彼の父親にそっくりで、けどそう言うとむくれるんだろうなと想像した私はクスッと笑みを浮かべる。

 

 

「おーい!」

 

「お父さん」

 

「こんなところにいたのか。不動産屋との話し合いは終わったからもう帰るぞ」

 

「うん」

 

 

 

 それだけ言うとお父さんは丘を下っていく。私はそれについていき、弓引駅に入る前に一瞬振り返ってーーー

 

 

 

「ただいま、ひろくん(・・・・)

 

 

 

 

 

 

 






 昨日は総合日間100位、週間その他原作では40位に入っていました。


 オリジナルや今の流行り、根強い人気のある原作の二次創作が多い中まさか一瞬でも入れるとは……読者の皆様ありがとうございます。

 
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